魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

72 / 179
第七十二話 第二次京都遠征、2日目・前編

2096年10月21日

 

 周公瑾捜索グループと下見グループの二手に別れ、いざ仕事を果たさんとする今日。

 皆それぞれの仕事に熱意を持ち、コンディションも万全だった。1人を除いては。

 

「……すみません。達也さん、十六夜さん」

 

 光宣が熱を出し、捜索に行けるような体調ではなくなってしまったのだ。

 ただ、それに関して責める者は居ない。体調というのは完全に調整できる程甘いモノではないと、ここに居る全員が知っているし、俺、達也、深雪、水波は光宣が体調を崩しやすい体質なのも知っている。

 不甲斐ないと悔やむ光宣に、皆は一様にしてゆっくり休むよう忠告した。

 そうして光宣1人をホテルに残す事になったのだが、協力を得ている手前かつ九島家の直系という重要人物なのもあって放置はできない。よって、光宣の警護と看病をする者として、水波もホテルに残される事となった。

 最終的に、周公瑾捜索グループから光宣と水波を抜いた、俺、達也、深雪、一条の4人行動だ。一見して、これだけでも過剰戦力である。

 という事で、問題なく仕事開始だ。

 とは、ならないのである。いや、ある意味仕事は開始されているのだが、予定にない事を俺が挿んだ。

 

「十六夜、寄りたい所と言うのは?」

 

「京都駅だ。勝手で悪いが、協力者をもう1人呼んでいてね。その人と京都駅で合流したいんだ」

 

 通常4人乗りのコミューター(無人自動運転タクシーのような物)より少し値が張る6人乗りのそれ。俺たちはそれに京都駅まで運ばれながら、俺が急遽挿んだ用事について、問ってきた達也に語る。

 

「俺の知っている人か?」

 

「ここに居る面子なら、知らないという事はないだろう。ま、会ってからのお楽しみさ」

 

 一条からも追及されるが、俺は詳しく語らず、サプライズにした。

 

 そうして京都駅に付き、構内で待つ事3分。もう1人の協力者、七草真由美がその姿を俺たちの前に現す。

 

「十六夜くん、予想以上に人が多いのだけど……」

 

 合流した真由美の第一声がそれだった。俺個人とだけの協力と思っていたのだろうか。俺以外に協力者が居ないとは、一言も言っていないのだが。

 

「真相究明及び容疑者捕捉に必要な人員を集めただけです。それに、全員事情を察してくれるでしょう」

 

「それは、そうなのだけど……」

 

 集められた人員は真由美視点からしても、四葉直系、国防軍特務士官、その妹、一条直系という、それぞれ色々と事情を抱えるメンバーだ。七草家の長女が出てきても、その事情を察する事のできる思慮深い面子である。

 

「七草先輩、お久しぶりです。このような場で会うとは思っていませんでした」

 

「……そうね。お久しぶり、達也くん。私も、まさか貴方がこの件で動いているとは、思っても見なかったわ」

 

 達也は真由美が頭痛に苛まれる前に、再会の挨拶へと場の空気を切り替えた。真由美も、その空気に合わせて佇まいを整えている。

 

「深雪さんもお久しぶりね。貴女も付いてきているのは少し意外感があるけど、同時に納得感もあるわ」

 

「そうですね、七草先輩。かなり無理を言って付いてきている自覚はあります」

 

 場の空気に沿って、真由美は深雪とも挨拶を交わした。お互い、苦笑交じりに微笑んでいる。

 

「そちらは、一条将輝くんね?初めてお会いする訳ではないけど、協力するのだから改めて。私が七草真由美です」

 

「お目にかかった事を覚えています。俺の方も改めて、一条将輝です。横浜事変の下手人、周公瑾を捕まえるため、共に力を合わせましょう」

 

「え?周公瑾さん?」

 

 真由美は流れで一条にも挨拶していたのだが、そこで一条が大事な部分を口から零した。

 いや、零したと言うのは語弊か。過ちとするなら、下手人が周公瑾であると伝えていなかった事。つまり、俺の方に過ちの責任がある。

 

「えーっと、失礼。詳しい話はコミューターの中で」

 

 どこに耳があるか分からない公共の場で明かす内容ではないと、せめてもの密室に俺は真由美を案内した。それから、真由美への情報共有を始める。

 

「まずですね、真由美さん。横浜事変の下手人が、あのレストランのオーナーだった周公瑾である事が判明しています」

 

「あ、あの人が……?」

 

 にわかには信じられないと、真由美はわずかに呆けていた。

 気持ちは分からなくない。レストランのオーナーがそんな大事件を手引きした大物だとは、結び付けづらいだろう。それが周公瑾の思惑なのかもしれないが。

 

「ちょっと待て、四葉。お前も周公瑾に会ってたのか」

 

「6月くらいにな。あの男がオーナーを務めている事になっていたレストランで食事をしたんだ。何と言うか、違和感は抱いていたが、確証は何もなかったからな。捕縛はもちろん、詮索もしなかったよ」

 

 一条の言葉にお前も騙されたのかという意図を覗き見、俺は多少ながら怪しんでいた事にした。あながち、こんなところで何やってんだと、違和感を抱いていたのは間違いではない故に。

 

「私は全然分からなかったけど……。十六夜くんはいつから違和感を抱いていたの?」

 

「初めて会った時も只者ではない雰囲気を感じ取っていたので、いつからと言われると、初めからになります。しかし、その違和感が顕著となったのは、2度目に会った時です」

 

「2度目?私と行った以降にも、あのレストランで食事したの?」

 

「ええ。九島閣下のお誘いで、です」

 

 真由美に問われて引き出された2度目の来店。その原因が烈の誘いであると聞いて、真由美や一条は眉間に皴を寄せた。対し、達也と深雪は納得したような面持ちである。

 

「違和感を説明しますと。真由美さん曰く七草家当主も知っていて、九島閣下も知っているレストランが、ただの料理店だとは思えなかったのです。おまけに、別に3つ星でもなんでもないレストランですから、あのレストランを利用する事に別の思惑がお2人にあるのではないかと、睨んでいました」

 

 原作知識抜きにすれば、名探偵の如く直感ではある。だが、俺にはそういう直感があるとしてきた実績がある。まぁ、原作知識でもたらされた実績だが、そうと気付ける者は居ない。

 実際、達也と深雪は俺の直感であると信じ、真面目に耳を傾けている。

 

「その後になりますが、あのお2人に大陸系の魔法師と接触し得る目的があったと、調べが付いています。そこから足掛かりに、周公瑾が横浜事変、その他諸々の容疑者であると特定できたのです」

 

 俺が色々と省いた説明をしたが、達也はその省いた部分、特に「大陸系の魔法師に接触し得る目的」に当たりを付けられたようだ。大陸系の魔法が用いられたパラサイドールの一件に関わっているのだから、然もありなん。

 

「え?う、うちの父がどうして大陸系の魔法師なんかと?」

 

「申し訳ありません。その事については四葉の仕事も関わってきますので、俺の口からは開示できません」

 

 達也に反して一件に関わっていなかった真由美は当たりどころか見当も付けられず、されど共謀者の肉親である彼女はそれを気にせずには居られなかった。

 でも、俺はそんな真由美を安心させる事ができない。あのパラサイドールについては、七草家を大人しくさせる材料にする事が真夜によって決定されているのだ。まだ大事に取ってある材料を、俺が勝手に明かす事はできない。

 よって、真由美は俺から真実を聞けず、弘一への不信感を募らせるように俯いた。俺は罪悪感を若干覚えたが、絆されず、その真実については固く口を閉ざす。

 

「それで、ですね。真由美さんの護衛をされていた、名倉三郎さん。あの方の死は周公瑾に関連している。もしかしたら、周公瑾の手で殺されているかもしれないと、真由美さんからされた協力の申し出を受け入れました。……事前に説明できず、申し訳ありません」

 

「……良いの、十六夜くんは悪くないわ。むしろ、今はっきりとあの狸親父が全て悪いと、私は分かりました」

 

 俺が真由美と協力する所以を、真由美本人と達也たちに説明しつつ、真由美へ頭を下げた。その俺の謝罪を真由美は聞き入れて不問に付し、同時に弘一への不信感を確固たるモノにしたのである。

 弘一については、悪いが擁護のしようがない。どう考えても自業自得だ。

 

「狸親父の悪事を暴くのは、とりあえず先送りにして。まず今回の容疑者を追い詰めましょう。十六夜くんに頼まれていた件、名倉さんが死亡当時に身に着けていた物の拝見は、どうにか許可を得られたわ」

 

「ありがとうございます。これでこちらの捜査も進みます」

 

 真由美はしっかり頼みを聞き届けてくれたようだ。十師族とはいえ、警察の領分に介入するのは手間だっただろう。真由美の手腕には素直に感心する。

 

「なるほど。周公瑾に殺された可能性があるなら、そこから手掛かりを掴めるかもしれないか。上手く行けば、相手の手の内を分析できるかもしれない」

 

「そういう事だ。じゃあ警察署に行こうか」

 

 達也がこの協力に理解を示し、皆からの異論も出なかったので、俺がコミューターを走り出させるのだった。

 

 

 

 警察署に着けば、すでに色々と話は付いているようで、案内の刑事に証拠保管室までスムーズに先導された。

 

「名倉氏が身に着けていた衣服です。CADの方は残念ながら……」

 

「家の父が取り上げた事は把握しております。……警察の方々が行う捜査を、肉親が邪魔してしまって申し訳ございません」

 

「いえ、CADはプライベートの塊ですので。非提出は市民の権利です」

 

 どうやら、名倉が使っていたCADは弘一が保管しているようだ。真由美は重要な証拠品を取り上げた父に対する不満を滲ませ、父の非協力的な行為について、代わりに頭を下げていた。

 刑事の方はその非協力を特に嫌悪しておらず、気にした素振りもない。

 真由美の方は分かりやすく嫌悪しているのだが、そんな親子不仲の要素たる一幕はひとまず置いておき、達也たちはテーブルに並べられた証拠品を観察する。

 

「すみません、刑事さん。この血痕は」

 

「全て被害者の血痕です」

 

 まず達也は衣服に付着している血液を気にかけたが、刑事から芳しい答えは帰ってこなかった。それもそうだろう。もし加害者の血痕でもあれば、わずかでも警察の捜査は進んでいるはずだ。現実は、死体が上がって数日経っても、進展なしである。

 

「被害者の死体は、腹部が背後より貫かれ、胸部の皮膚と筋肉が内側から弾け、心臓が破裂していたそうです」

 

 少しでも情報を提供しようと、その刑事は詳細な検視結果を伝えてきた。新聞やネットニュースには変死体とだけ報道されていた、その詳細だ。

 

「内側から破裂……?」

 

 一条がその部分を拾い上げる。一条にとって、気にせずにはいられない部分だろう。

 

「まるで『爆裂』だな」

 

「ああ。まさか、あの男が『爆裂』のような魔法を持ってるって言うのか……」

 

 そう。達也が述べた通り、『爆裂』の効果に酷似しているのだ。その事については、『爆裂』を得手とする一条も肯定していた。『爆裂』を誇りにしている一条は、酷似した魔法を犯罪の道具にされたものと解釈し、歯噛みしている。

 

「それは、どうなんだろうな。『爆裂』の真似を古式魔法師ができるとは思えない。『爆裂』は一条家の才覚と努力で以って成せる魔法だ。そうだろう?」

 

「もちろんだ。対象に直接作用させ、体内の水分を一瞬で気化させる『爆裂』。魔法力が問われるこの魔法は、一条家の人間でもない奴に易々と真似できるモノじゃない」

 

 俺が『爆裂』が他人に真似できるか疑問に思えば、一条は同調してくれた。

 使い手がわざわざ語ってくれたように、『爆裂』とは目に見える効果と発動の早さに反して、とても高度な魔法だ。如何に周公瑾が魔法師として優秀だとしても、『爆裂』の真似なんてできない。

 

「とすると、これは敵の攻撃によるモノではなく、名倉さんが敵を道連れにしようとした結果なんじゃないか?」

 

「そうだな。他人の体に直接干渉する魔法は難しい。だが、自身の体となれば別だ。例として上げられるのが、自己加速術式だな。自身の体に作用するあの魔法は、多くの現代魔法師が使えるポピュラーな魔法だ」

 

 この辺りの原作知識が抜け落ちている俺は、真面目に推理を展開した。割と細部はおざなりな推理だったが、達也が補足してくれたおかげで、かなり真実味を帯びる推理となる。

 

「……名倉さんが、命懸けの魔法を行使したって言うの?」

 

「この衣服の損壊からも、それが窺えます。内部が弾けたと言うには、損壊が胸部だけなんです。『爆裂』のような魔法なら、背部にも損壊があるはず」

 

 俺が名倉の神風特攻じみた攻撃である事を推測し、ショックと猜疑心で動揺している真由美に根拠を提示した。皆がその根拠を確認しようと、一様に衣服の損壊へ目を凝らす。

 

「……確かに、胸の方しか破けていないわね」

 

「……心臓を爆ぜさせて、何かを前方に飛ばしたのか?……先輩。名倉さんは、液体を武器とする魔法を得意としていたのではないですか?」

 

 真由美と達也もその根拠に信じ、達也はそこから1つの結論に近付いていた。

 

「えーと……、どうだったかしら。魔法を使っているのを見た事はないけど、初めて会った時に教えてくれたような……。……。そう、そうだわ!水を針にして相手に浴びせかける魔法が得意だって、名倉さんは言ってたのよ!」

 

 裏付けを得るために真由美へ訊ねれば、真由美はどうにか記憶を掘り起こし、達也はひそかに安堵するような息を漏らす。達也は結論の裏付けを得られたようだ。

 

「だとするなら、名倉さんは自身の血液を針にして放ったのではないでしょうか」

 

 それが、達也の結論だった。

 血液の集まる場所である心臓ならば、さぞ大量の針が作れるだろう。代わりに、行使者は死を免れない。決死にして不意打ちの一撃を、名倉は行使したのだ。

 

「そんな命懸けの攻撃をしてなお、周公瑾には届かなかったんだな……」

 

 周公瑾への畏怖と名倉への憐憫を、俺は口から零した。その意思は伝播し、この場の空気を重くする。

 やらかした事を自覚した俺は、すぐに別の話題を探した。丁度目に映ったのが、場の空気に染まらず、衣服の一部を注視する達也の姿である。

 

「達也、他に何かあったか?」

 

「……背後からの傷は相手の攻撃だろうから、その傷に魔法的な痕跡が残っていないかと思ったんだが」

 

「ああ、そうか。古式魔法師なら、魔法の触媒を用いたかもしれないから、触媒が付着しているのはあり得るな」

 

 達也が注視していたのは他の手掛かりを熱心に探していた故だった。

 俺もそれに乗っかり、腹部の傷に注視する。悲嘆していた真由美たちも同じくだ。

 

「ん―……。駄目ね」

 

「そうですね。エイドスが改変されたようなのは感じ取れますが、具体的にどう改変したのかは時間が経過しすぎてて、全く読み取れない」

 

「俺も、駄目ですね」

 

 真由美、一条、俺が解析を試みるも惨敗。深雪も難しい顔をするばかりだ。しかし、『エレメンタル・サイト』を持つ達也がまだ居る。

 

「達也はどうだ?」

 

「……名倉さんの実力、傷の付き方、わずかなエイドスの痕跡、おおよその加害者。それらの情報を総合して、使われた魔法については想像できた。この傷は、『幻獣』によるモノだろう」

 

「げんじゅう?」

 

 俺が一縷の望みを賭けて達也に振れば、やはり達也は使われた魔法を見抜いていた。それらしい言葉で想像のように取り繕っているが、本当は『エレメンタル・サイト』でその魔法が使われたエイドスを読み取ったのだろう。

 ただ、悲しい事に、誰もその『幻獣』なる魔法については知らなかった。無知を声にしたのは真由美だけだったが、深雪や俺も首を傾げているし、一条は顔が強張っている。

 

「……『幻獣』は『化成体』の一種だ」

 

 皆の様子を目にしてから、達也は諦念交じりに解説を始めた。

 要約すると、以下の通り。

 一般的な『化成体』は光波振動系などで幻影を作り、その幻影が接触した時に別の魔法で接触物に圧力を加える事によって、あたかも幻影が実体であるかのように見せかける技術である事。

 対して、『幻獣』は精神干渉系などで幻影を幻視させている事。

 一般的な『化成体』と『幻獣』の違いは、前者ははっきり幻影を見せなければいけないが、後者ははっきり見せる必要がない、という事。

 『幻獣』は精神干渉系を用いている観点から、相手の精神に恐怖心を植え付ける事によって、より効力が上がるという事。

 その恐怖心さえどうにか抑え込めれば、逆に効力が下がるという事。

 以上が達也より解説された事へ独自解釈である。

 

「証拠品を見させてもらって正解でした。これを知っているのと知っていないのとでは大きな差が出る。ありがとうございました、七草先輩」

 

「え、ええ……」

 

 達也はこの証拠品を拝見できる機会をくれた真由美への感謝で、『幻獣』の解説を締めた。真由美は達也の解説を理解しきれていなかったのか、少し曖昧な表情で感謝を受け止め切れていない。

 しかし、ここでこれ以上の情報は得られないと皆理解したのだろう。踵を返す達也に、皆が付いて行った。さっさと停めてある6人乗りのコミューターに乗車し、最初の予定通り嵐山へと走り出す。

 

「司波、さっきの『幻獣』についてだが。吉田が昨日襲われたという『傀儡式鬼(くぐつしき)』や四葉の『付喪神』とはまた違うのか?」

 

「幹比古辺りがそう呼んだのか。随分と耳慣れない呼び方だな」

 

 走るコミューターの中、一条が目的地に着くまでの話題として、達也にまた解説を求めた。達也はあまり上機嫌ではないが、その求めに応じて口を開く。

 

「『ゴーレム魔法』という呼び方の方が一般的だ。この呼び方なら、違いが分かるだろう?」

 

「一条さん、お兄様。口を挿んですみません。私は『ゴーレム魔法』について、その名称しか知らないも同然です。お兄様、よろしければそれがどういった魔法なのか、簡単にでも教えてもらえないでしょうか」

 

 達也がそんななげやり、というか相手の知識量を高く見積もった短い解説で終わろうとした。だが、その高く見積もられた一条が顔をしかめたのを、深雪は見逃さなかったのだ。それで、深雪は一条を思いやり、無知を演じている。

 達也は一条の顰め面を見逃していた(もしくは無視していた)が、深雪の気遣いには気付いたらしく、快くも解説を務める。

 正直、俺もほとんど無知なので助かった。

 そうして始まる達也の解説だが、また要約させてもらう。

 ゴーレム魔法は木材や石材などで作った人形を用いる事。

 その人形に、あらかじめ様々な人形の動かし方を組み込んでおいたサイオン独立情報体、いわゆる精霊を埋め込む事。

 人形の動かし方は、頭部・胴体・四肢などの相対位置を硬化魔法と同じ原理で固定し、その相対位置を収束系魔法で連続的に変えるという方法である事。

 独立情報体は木材や石材などの固体ならば、刻印型術式で固体に術式を刻印して埋め込み、液体ならば、魔法的な発信機を液体に溶かして埋め込む事。

 その魔法的な発信機は血液が極めて適している事。

 血液は全身を巡って生命維持に関わっているため、エイドスの情報密度が高く、それによってサイオン密度も高いから、魔法式の投射がしやすい事。

 

「……つまり、『化成体』や『幻獣』と『ゴーレム魔法』の違いは、実体があるかないかなのね?」

 

 解説が段々と難しくなってきたところで、真由美がそんな雑な理解を示した。これ以上続けられても、難しくて理解できないと判断したのだろう。恥ずかしながら、俺も真由美と同じ意見だ。

 

「……はい。逆にその3つの変わりない部分は、像を作り、動かしているという部分です。そのため、干渉領域で魔法の干渉力が上回れば消し去れます。何かしらで干渉力を強化していたら、その強化している何かしらを砕けば良い。それだけの話です」

 

 雑な理解を示されたためか、達也は雑な対処法を追加で解説していた。難しい解説をしてしまった事を反省しているのか、達也は不機嫌になってはいない。

 

「……『付喪神』との違いは?」

 

「……一条、それはマナー違反だと知って訊いているのか?」

 

「い、いや、悪い。単純に、『付喪神』に強い興味があっただけなんだ」

 

 自身も雑な理解しかしていない一条。彼はその事を悟らせないように話題を次に移そうとした。だが、他人の魔法について詮索するのはマナー違反だと、達也が睨んでいる。一条も珍しく気圧され、狼狽えていた。

 達也の睨みはきついだろうと、俺は少し恩情をかける事にする。

 

「達也、そう睨んでやるな。あの魔法はかなり異質だから、興味を持たれても仕方ないだろう?」

 

「……お前が良いなら良いんだ」

 

 達也は俺の制止を素直に受け止め、睨みを止めて眉間を揉んだ。自身らしくなかったと、後悔でもしているのか。

 とにかく、興味を持たれて何も解説しないのでは、興味を解消できないだろう。俺は『付喪神』の概要だけでも解説する。

 

「『付喪神』はだいたい『ゴーレム魔法』と一緒だ。人形に独立情報体を埋め込み、操っている。こんな風にな」

 

 実演で解説をぼかすために、俺は小型保冷庫CADを取り出し、雀の死骸を『付喪神』で飛ばせた。

 生前と同じように飛ぶ雀を見て、一条、それに真由美や深雪も、感嘆とした表情を覗かせている。

 

「違いは、独立情報体の汎用性かな?『ゴーレム魔法』だったら最初に組み込んだ動かし方しかできないせいで、動かす人形を選べないだろう。『付喪神』は臨機応変に動かし方を改変できるから、動かす人形も選ばない」

 

「臨機応変に改変?その場で魔法式を書き換えてるって事か?でもどうやって……」

 

「そこら辺は秘密だ。だがまぁ、俺だからってのが大きな要因かな」

 

 俺は自らの頭を人差し指でつついた。自身の頭脳と言うか、魔法演算領域の出来を自慢するその動作に一条は呆れながらも納得してくれたようで、見事に騙されてくれたのだ。

 この動作はミスリードではあるが、俺は嘘を吐いていない。俺自身がパラサイト憑依者であるから、『付喪神』は行使できる。頭をつついたのはただ自身を指し示しただけで、魔法演算領域なんて指し示していない。

 十師族・四葉としての恵まれた魔法演算領域があるから、『付喪神』を行使できている。そういう勘違いを一条はしてくれたのだろうが、俺は一言もそんな事は言っていない。

 当然だが、そのような勘違いを一条に差し向けたのは俺なので、訂正も更なる解説もしない。

 よって、この話題はそれで終了。

 コミューターは、1人の詐欺師と1人の詐欺被害者、その他3人を乗せて、嵐山へと走っていくのだった。




弘一への不信感を確固たるモノにした真由美:そろそろ堪忍袋の緒が切れる。

深雪も知ってるのに『ゴーレム魔法』にほぼ無知な十六夜:深雪は四葉家の次期当主候補として、自衛の観点からも多くの魔法を学習している。だが、深雪に比べてその学習期間がとても短い十六夜は、学習項目をかなり省かれている。『ゴーレム魔法』も省かれた項目の1つだ。

 閲覧、ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。