魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第七十七話 幕間~教示と凶事~

2096年11月25日

 

 周公瑾、と言うか周妃を迎え入れて2週間が経とうとする今日。

 周妃は与えた一室に中華風な家具と、なんとも形容しがたい小物、仮に称するなら呪具(じゅぐ)を運び込んだ。周妃曰く、寝床兼、簡易な通信拠点としたらしい。とすると、あの仮称呪具が通信機器なのだが、用途は判然としない。

 

 そんな拠点整備の傍らに『付喪神』を教え、周妃は難なく習得していた。パラサイトが変容しているとはいえ、パラサイトはパラサイト。憑依する性質は失っていないのだから、習得は容易だ。

 ただし、「大人(ターレン)よりはるか先に仙人となった身でありましたが、このような発想はできませんでした。さすがは大人(ターレン)でございます」などと、周妃は感激していた。その感激具合に、何故だか泉美の姿が重なった。両者の名誉のために、気のせいという事にしている。

 

 そうして今日。俺も周妃も纏まった時間が取れたので、『付喪神』以外を教示しようと考えた。そのために、自宅の鍛錬場へ周妃を呼び寄せたのだが。

 

「……なんでメイド服?」

 

 周妃は由緒正しい、華美な装飾もなければスカートの丈も短くないメイド服を身に纏って、鍛錬場に姿を現したのだ。

 

大人(ターレン)の自宅に居る際は、この服装がご都合よろしいかと思いまして。殿方の家にただの少女が匿われていては、変な風聞が立ってしまいますからね?」

 

「……」

 

 確かに、ただの少女を傍に置くよりは、メイドを置いているとした方が邪推されない。だからって、気合の入ったメイド衣装で得意げに微笑まれていれば、異論の1つ2つは言いたくなる。

 どうせ言ったところで合理的な反論をされるのだろうと、結局は何も言わないのだが。

 

「……お前に今回教えたいのは、『超人』と、『魔物』についてだ」

 

「ふむ、超人と魔物ですか。何かの比喩ではなく、明確な対象を示した言葉のようですね」

 

 無駄口を吞み込んで話を進めれば、実に真面目な教義が開始される。

 

「ああ。よく見ていろ」

 

 俺は、いつだか壬生に示したよう、俺の身体能力を披露する。もちろん、魔法は使ってないし偽装していない。

 なのに、離れた位置にあったウッドメタルの柱へ、たった一歩の踏み込みで目の前に迫った。それから、構えていた刀を振るい、間合いにあった柱を両断する。刀に一切の刃毀れはない。

 

「……私が、魔法の発動を見抜けなかった?」

 

 周妃はその異常な光景が魔法によるモノと勘違いし、驚愕に目を剥いていた。まぁ、勘違いも無理ない光景ではある。

 パラサイトに憑依されたとしても、ここまで肉体が強化されはしない。

 

「サイオンは感じ取れなかったんだな?」

 

「はい。術式を構築している様子は、兆候さえ見受けられませんでした。ここまでの隠蔽技術とは……」

 

「周妃。まず言っておくが、俺はお世辞にも隠蔽が上手いとは言えない。何故なら、俺は魔法を学んだ時間が他人と比べ、絶対的に少ないからだ」

 

「ご病気を患っていた事につきましては、存じております」

 

 俺が事実の説明をするために口を開けば、周妃は俺の魔法隠蔽力という点に眉を顰めながらも、魔法を学ぶ時間の少なさと言う点には疑問を持たなかった。

 俺が魔法を使えない病気に罹っていた事を、周妃は知っていたのだ。まぁ、それはあくまで、俺が高校に上がるまで身分を隠されていた件に関わる、嘘の情報だ。でも、公表している情報でもないので、嘘の情報とは言え、知っているのはさすがの情報収集能力である。

 

「では、そんな青二才が、お前の知覚を欺けるか?」

 

「青二才だなんてとんでもない。貴方様は間違いなく、当代最強の魔法師……。っと、この手の世辞は聞き飽きておりますか」

 

 俺が胡散臭く賛辞してくる周妃を睨めば、即座にその賛辞を引っ込めてくれた。空気が読める奴で助かる。

 

「率直に申し上げれば、驚愕です。伊達に気が遠くなる年数、研鑽に励んでおりません。そんな私の知覚力を欺けるというのは、貴方様の才覚か、はたまた四葉の技術か」

 

「そうだ。お前を欺くなんて俺も、四葉の人間でさえ不可能だ」

 

 ようやく話が軌道に乗りそうなので、実際はどうか知らないが、周妃の知覚力を誰も欺く事ができないと補足した。

 それで、周妃は怪訝な表情をする。

 

「何を仰いますか。事実、私は貴方様に欺かれ……。……まさか、『超人』とはこの事ですか?」

 

 非常に話が早い事で、周妃は流から『超人』という話題へ繋がっているのを察した。この察しの良さには、俺も微笑みを禁じ得ない。

 

「そう、『超人』だ。魔法など必要としない、魔法演算領域に依らない、肉体の可能性を極めた者。それが、『超人』だ」

 

 俺は再度誇示するように、刀でウッドメタルの柱をゆっくり、まるでバターでも切るように刃を進めていった。

 魔法なしで行われるそんな異常現象に、周妃は息を呑む。

 

「そう、だったのですか……。今、腑に落ちた心持ちです」

 

「どういう事だ?」

 

「居たのですよ、貴方様のような事を仕出かす者たちが。魔法でないと説明しようがないのに、魔法を使ってない者たちが」

 

「……三国志の武将たちか」

 

 俺の解答に、周妃は頷く。

 やはり、『超人』は存在していた。周妃がその目にしてきたと言うなら、最早確証を得たようなものだ。

 そして、ある意味、歴史が証明される。人間ではできないような逸話を残している武将というのは、それこそ枚挙に暇がない。普通考えれば、盛られているその逸話。『超人』によるモノであれば実現し、根拠が生まれてしまう。

 

「一応確認だが、その武将たち以降、『超人』と疑わしい人物は居たか?」

 

「清の時代までは、ちらほらと居たように感じます。しかしそれ以降となりますと、はたと見かけなくなったようにも感じます」

 

「なるほど……」

 

 周妃の所感が正しければ、『超人』は数を減らしていったようである。もしくは隠れ潜んだか。あるいは両方か。

 

(両方と見て良いか。『超人』は良くも悪くも目立つ。隠れ潜むにしたって、数が減ってなきゃ隠れきれん。それに、『英雄派』ってのがあったみたいだしな)

 

 絶滅している、なんて楽観はせず、俺は最低限の心構えをした。そうして、一旦『超人』についてはおいておき、次に移る。

 

「次は『魔物』だ」

 

 俺は犬のぬいぐるみを床に置き、そのぬいぐるみと生命力の経路を繋いだ。そうすれば、そのぬいぐるみは俺の意のままに、まるで生きているかのように動き出す。

 今まで実戦では使ってこなかった『魔物』であるが、実は俺にも使えたのだ。いつだか試しにできないモノかとやってみた結果、その事が判明している。経路を繋ぐ感覚は『付喪神』に似ており、生命力を使う感じはリライト能力で漠然ながらも理解していたので、やってみれば何の事はなかったのである。

 

「……サイオンもプシオンも感じませんね。ただ、注意深く観察すると、それらと類似したエネルギーがあるような、そんな気がしてきます。これが、『魔物』という物なのですね?」

 

「ああ。生命力を分け与え、非生物に命を与える技術。と言っても、『付喪神』がある俺たちにとっては、全く以って無用な技術だ。生命力を払ってる点で燃費が悪いし、操作範囲は比べるべくもない程短い」

 

 相変わらず周妃の理解が早く、説明の手間が省ける。おかげで説明のし甲斐もない。何故なら正直、『魔物』は『付喪神』の下位互換だからだ。俺と周妃が使う事は滅多にないだろう。

 

「『俺たちにとっては』……。なるほど、他の者にとっては有用な技術であると。確かに、使用しているのが生命力であれば、人間誰しも持っているエネルギーですからね」

 

「その通りだ」

 

 俺が先を語るまでもなく、周妃はその先を読み取っていた。しかも、妖しく微笑んでいる事から、『魔物』を説明した意図も読み取っているのだろう。

 

「理解いたしました、大人(ターレン)。魔法に憧れながら適性がない者。ひいては『ゴーレム魔法』などの物質操作魔法を専門にしながら、しかし行き詰まってしまった魔法師。そんな者たちはこの技術、喉から手が出る程欲しいでしょう。ちらつかせれば、容易く取り込めてしまえる」

 

 そう。この技術は魔法師でない者も使えるし、当然、魔法の才が乏しい者も使える。『魔物』でできる事は、極めなければ『ゴーレム魔法』と大差ない。でも、欲しがる者は多くあるだろう技術なのだ。

 この技術を材料に、人を募る事も難しくはない。ならば、周妃の情報網を強化するのには、丁度良い材料だ。

 

「『超人』の方も合わせて、この技術を独占していた者たちがいる。『英雄派』や『聖女派』と名乗っていた集団だ。もう瓦解しているようだが、残党がまだ生き残ってるかもしれない。そいつらを警戒しつつ、慎重に用いてくれ」

 

「承りました。それら残党の方も調査、可能ならば取り込み、不可能ならば監視しておきましょう」

 

 話がつつがなく進み、異論を唱える事なく恭しく一礼する周妃。

 本当、優秀過ぎる駒を得たものだ。忠実な手駒かは、今後も見定めなければならないが。

 

「未来の知識との擦り合わせについては、どのようにいたしましょう」

 

「ああ、そっちの話もしておくか」

 

 今日は『超人』と『魔物』だけにするつもりだったが、思いの外スムーズであった。それ故に、擦り合わせの方について話し合っても問題ない、充分な余裕が残っている。

 周妃からも切り出された事だし、そっちの話しても良いだろう。

 

「当分は、ジード・ヘイグの動向を探ってくれ。そろそろ暴れ出すはずだ」

 

「道理でございますね。周公瑾がやられたとなれば、彼自身が出張ってくるしかない」

 

 周妃が言う通り、ヘイグは優秀な手駒を失った。となれば、本人が動くしかなく、実際に原作では動いている。

 随分と引っ掻き回してきた黒幕だが、彼は呆気なくやられる予定だ。まぁ、俺の目の前に居る便利な奴が居なくなったのだから、然もありなん。こいつが抜けた穴はさぞ大きいと見える。

 

「あまり深追いしなくて良い。表層でも探れれば、それで何を仕出かすかはおおよそ分かる」

 

「……未来の知識とは、随分厄介なものですね」

 

 未来を知っていれば、表層部分を見ただけで深層が分かってしまう。そんな未来の知識に対する脅威性に、周妃は肩を竦めていた。そんな物を持つ相手と対峙していたのかと。元主君はそんな相手とこれから対峙するのかと。周妃はそう、過去の己と未来の元主君を哀れんでいるようだ。

 

「使用期限がもう半年しかないがな。だから、油断できない。俺が知る未来より先も、予測しなくちゃいけない」

 

「通常、半年先すら知る事も能わないモノですよ?」

 

「ご尤もだ。だからこそ、このアドバンテージを無駄にしたくない」

 

 俺のような凡人が大立ち回りを披露するには、その未来の知識だけでは足りない。

 その事を周妃も承知しているようで、同意するように頷いている。

 

「余裕があればで構わないが、各国の戦略級魔法師についても調査しておいてくれ。今後、そいつらが動く可能性がある」

 

 原作では、確か新ソ連とイギリスの国家公認戦略級魔法師が動き始め、リーナが巻き込まれていたはずである。他の戦略級魔法師はどう出るか未知数だが、リーナ含めて3人も動けば他も動かざるを得なくなるだろう。続刊でどの程度物語に関与してきたか、今となってはもう知りようもないが。

 

「この周妃、必ずや大人(ターレン)のご期待に応えてみせましょう」

 

 周妃は実に誠実な言葉を吐いた。忠義心を示すような言葉が、よくもそんなにつらつらと出てくるものである。

 期待はしてないと言うか、信頼はしてないのだが。少なくとも表す態度には意欲が窺えるので、信用しておこう。

 そうして、俺は周妃との密談を終えるのだった。

 

 

 

「で、なんでまだのんびりしてるんだよ」

 

 一向に調査へ出向かない周妃に、俺はそう吐き捨てた。

 与えた一室が簡易拠点として整えたのは聞き及んでいる。だからもう調査を始めてもらおうと、今日話したのだ。

 なのに、周妃はまだ俺の家に居て、メイドとしての仕事を果たそうとしている。

 

「これは失礼しました。説明が足りていませんでしたね」

 

「説明?なんのだ」

 

「既に分身を動かして調査を始めております」

 

「分身?」

 

 俺は首を傾げてしまった。

 如何に永く生きている周妃とはいえ、フィクションのような分身が使えるとは思えない。原作でもそのような知識はない。とするなら、何かの暗喩のはずなのだ。だが、周妃からそうではないような意味が感じられる。

 

「この肉体以外も予備がいくつかありまして、現在それらを『付喪神』によって動かしています」

 

「……」

 

 周妃はなんでもないように言ってのけたが、俺はつい唖然としてしまった。

 こいつ、短期間で『付喪神』を使いこなしている。

 

「いや待て。どうやってサイオンとプシオンを送ってるんだ?お前はほとんどこの家に居て、予備の肉体とやらに『付喪神』を行使する暇はなかっただろう」

 

 操作範囲に限界がない『付喪神』だが、まずは『付喪神』の依り代と接触してサイオンとプシオンを分け与えなければならない。それに、その分け与えた分を使い切ってしまえば、『付喪神』は解けてしまう。解けないようにするには断続的な供給が必要であり、よって、依り代からは長時間離れられない。

 以上を鑑みれば、遠方にある依り代に『付喪神』を行使し、維持し続ける事は実質不可能だ。

 

「おや、貴方様も思い付いておりませんでしたか。その問題は、仲介が居れば解決されます。……どうぞこちらへ」

 

 『仲介』という説明だけでは足りないと判断してか、周妃は家の外へと促してきた。その判断は正しく、俺はまだ説明が足りていない。故に、付いて行くしかない。

 周妃の背に付いて行けば、彼女はそれ程移動せず、庭の一角で立ち止まった。

 その一角にはいつの間にか、小規模な鳩小屋が建てられていたのだ。

 

「……いつ建てた?何故建てた?」

 

 事前の告知もなく私有地が私用された事に、俺は頭が痛くなった。

 まさかこんな突飛もない事を周妃がしているとは、考えもしなかったのである。

 

「『付喪神』をご教示いただけてすぐに取り掛かっていましたよ?てっきりご存知のものかと……」

 

「……」

 

 周妃が俺の無知に呆気に取られていた。俺もまさか全然視界に入れないなんてあるのかと、その原因を顰め面で思考する。

 そうして思い当たる一因が、俺の出不精。登校日以外滅多に家から出ないため、庭の様子すら気にかけていなかったのだ。

 でも登校日には外に出る。そういう時に気付けなかった要因は、泉美の存在である。俺が登校日となれば、彼女も登校日だ。となれば自然、彼女が門前で待ち構えている。さらに、俺を視認した瞬間、彼女は割とうるさくなる。それにより、俺は玄関開けて即座に彼女へ気が取られるため、庭に気を避けなかったのだ。

 どういう偶然かと、俺の眉間に深い皴が刻まれる。

 

「まぁ良い。それより、何故建てたか答えろ」

 

 建てられてしまったのだから、今さら咎めたってどうしようもない。ならせめて、建てた意味は聞きたい。

 

「この小屋で飼育されている鳩全て、私の『付喪神』です。同時に、先程申し上げた仲介でもあります」

 

「……なるほど」

 

 周妃の答えで、俺の眉間に刻まれた皴が一気に解された。

 単純に、感心したのだ。『付喪神』の依り代が触れた物なら、本体が触れなくても『付喪神』を行使できる。

 実際、俺の『プロミネンス』もその仕組みを利用しているのだ。空気を『付喪神』の依り代にし、プラズマ化して制御を離れた端から、さらに制御下の空気に触れている未制御下の空気へ『付喪神』を行使していく。それにより、理論上際限なく『プロミネンス』の効果範囲を増加させられるのだ。

 また、俺から離れた超長距離で『紅炎』を行使できる理由でもある。

 周妃はこの、『付喪神』からプシオンとサイオンを委譲できる性質を利用している。

 

「鳩の『付喪神』で分身の『付喪神』に触れる事で、鳩から分身へエネルギーを供給してるのか」

 

「正解でございます」

 

 俺の理解は間違っていなかったようで、周妃は微笑み返した。

 本当、純粋に感心する。無限である操作範囲に反してエネルギー供給に問題がある『付喪神』。その問題を、周公瑾は仲介役の『付喪神』を用いる事で解決している。

 俺でも思い付かなかった解決法だ。伊達に気の遠くなる年月を生きていないという訳か。

 

「OKだ。そういう事なら、鳩小屋を許可する。事後承諾だが」

 

「寛大な措置、感謝いたします」

 

 意味があり、有用であるなら、その行為を止めるのは俺も損してしまう。数か所怒りたい部分はあるが、その数か所に目を瞑って余りある利益があると、俺は踏んだ。

 よって、お咎めなし。俺と周妃は無駄に上下関係を明確にする一幕をするのみで、特に諍いなくこのやり取りは終わり、とはならない。

 

「で、分身があるからってなんで本体が俺の家でのんびりしてるんだ」

 

 分身と共に本体も調査を行っていれば、それだけできる作業量は増える。なのに1人のんびりしているのは、1人分の作業量を不意にしているのと同じだ。

 

「エネルギーの供給源は私のみなのです。ならば、その供給源である私が、この供給基地から動く事はできますまい」

 

「……いや、もう1つ仲介役を増やせば良いだろ」

 

 尤もな弁論で一瞬騙されそうになったが、仲介役を用意できるのだから、供給源がどこに居ようと問題ない。

 自らが解決した問題を、周妃は訳も分からず掘り返している。

 

「失礼、他に大きな理由があります」

 

「他に?」

 

「体面上、私は亡命ブローカーを生業としていた周公瑾の娘です。一歩間違えば国際指名手配になっていた男の娘なのです。大人(ターレン)の庇護下でなければ、我が身は亡き者となっているでしょう」

 

「……」

 

 一理ある理由だが、俺は懐疑心を煽られた。

 だって、俺の庇護下でなかったとしても、周妃が捕まってやられるなんて想像もできないのだ。

 四葉から逃げ果せ、こうして出し抜いている奴である。どうすれば捕まえる事ができ、滅ぼす事ができるのか。

 

「まぁまぁ、大人(ターレン)。貴方様の世話をする従者が増えたと、気軽に捉えてくださいませ」

 

「……そっちが本命じゃないだろうな」

 

 俺の揶揄うためにメイドの振りをしたい、とかでない事を俺は祈るが、周妃は俺と目を合わせない。絶対揶揄うのが目的だ。

 俺はこいつを追い出す口実について頭を回すが、良き方法が浮かぶ前に、面倒な事となる。

 

「い、十六夜様……?その、明らかにメイドって感じの女性は……?」

 

「……まずったな」

 

 庭で周妃とのやり取りを、よりにもよって泉美に目撃されてしまった。

 今日は七草姉妹とお茶会の日で、泉美、それに真由美と香澄も訪問予定ではあったのだ。色々説明が面倒臭いからと、周妃と彼女らの接触を避けてきた。だが、泉美が予定よりも早く家に訪問したせいで、今までの努力は水泡に帰す。

 驚愕に震える泉美を目にし、俺は本格的に頭痛がしてきた。さて、どう説明したものか。

 

「初めまして、泉美様。私、十六夜様の身の回りを世話させていただく事になりました、周妃と申します」

 

 何を思ったのか、周妃はメイドらしい態度で泉美に挨拶した。こいつ、周りへメイドと認知させにかかっている。外堀から埋めていく気だ。

 

「め、メイド!?まさかあの幼馴染のメイドですか!?このタイミングでお姉さまの恋敵が……!」

 

 いつだか水波の事をそう語ったなと詮無い思考をしつつ、どう誤解を解いたもんかと、俺は頭を抱えた。

 

 この後、真由美と香澄も合流して、さらに面倒臭い状況となる。面倒臭さに耐えかねた俺は周公瑾の娘である周妃を俺が匿ったと、対外的な情報を打ち明けるのだった。




周妃の『魔物』技術提供計画:『魔物』技術が欲しい者へ提供するにあたり、その仕組みを解き明かす必要はあるだろう。ただし、その点においても、その『魔物』技術が欲しい古式魔法師を唆し、仕組み解明に協力させられると踏んでいるので、何の問題にもしていない。充分な協力者は確保でき、そう時間をかけずに『魔物』技術は解明されてしまうだろう。もしも、『聖女派』の子孫が紛れ込めば、さらに解明は加速し得るが……。

『付喪神』の応用・分身の術:死体、もしくは意思のない肉体を『付喪神』の依り代とする事で、行使者の自由に操作できる分身を生み出す。さらに、エネルギー供給役の『付喪神』も用意する事で、遠方でも分身の活動を可能にした一連の技術。周妃考案であり、分身と本体が同時行動する観点から並列思考が要求されるため、少なくとも同時行動は現状周妃にしかできない。一応、周妃も分身を適度に休ませての運用である。また、同時行動でなければ、十六夜も行使可能である。後、正式な魔法名はまだ決まっていない。

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