魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第八十五話 敵の敵は味方?

2097年1月1日

 

 2097年最初の日、元旦。四葉本家では、例年通り慶春会が催される。次期当主候補たちが全員揃う今回の慶春会。その次期当主候補たちが今回の主役であると、会場に集まった大人たちも察しているのだろう。少し落ち着かない様子の者が何人かいた。

 そんな主役である次期当主候補たちは一旦控えの間で待機しているのだが、俺はちょっと抜け駆けして既に会場へ入っている。真夜と共に入場する都合、と言うか真夜の我がままにより、達也たちと一緒に待機できなかったのだ。

 とかく、羽織袴を着飾った俺は真夜の横に鎮座しつつ、大人たちと同様に次期当主候補たちの入場を待つ。

 

 程なくして、慶春会は正式に開始。次期当主候補たちも侍従に引きつられ、続々と入場してくる。勝成や夕歌、文弥と亜夜子はそれぞれ親の隣、つまり分家当主たちの横に案内されていた。

 だが、司波兄妹は違う。司波兄妹の親は慶春会に参加していないのだから、ある意味当然かもしれない。ただ、案内された先が真夜の隣、俺の反対側となれば、当然と括るに余りある。

 分家当主たちはその当然と言い難い事態を目の辺りにし、にわかにざわつく。

 

「皆様、改めて。新年明けまして、おめでとうございます」

 

 そのざわつきを止めるのが、真夜の挨拶。私語を慎んだ皆は、その挨拶から一拍置いて唱和する。

 

「本日はめでたい新年に加え、後4()()、良い報せを伝える事ができます。私はこれを、大変喜ばしく思います」

 

 こうして皆の佇まいが整えられたところで、真夜は慶春会を進めていく。

 

「この度、新発田家ご長男の勝成さんが、堤琴鳴さんと婚約されました」

 

 慶事とされた4つ。その1つ目として伝えられたのは、勝成の婚約について。これも大人たちは察していたのだろう。意外感を覚える者はおらず、純粋にその慶事を祝っている。

 

「次に、皆様が最も関心を寄せていらっしゃる事を、発表させていただきます。……四葉家次期当主を、ここにいる深雪さんに任せたいと思います」

 

 慶事の2つ目。真夜から伝えられたそれは、残念ながら大人たち祝福ムードを奪い去った。止まったはずのざわつきが再発する。

 

「ご、ご当主様?無礼を承知でお聞きしたいのですが、次期当主は御身の嫡男ではないのですか?」

 

 ざわつく大人たちを代表するように、新発田家当主が疑問を投げかけた。その疑問はいの一番に貢辺りから出そうなものだが、当の貢は目を見開いたまま固まっていたようだ。

 

「そうね。その疑問を持たれるのも仕方ありません。正直に申し上げれば、十六夜を次期当主に据えたい気持ちはあります」

 

「では、何故?」

 

「その理由は、良い報せとしてお伝えしようとしていた内の1つにあります」

 

 真夜はそう言葉を挿み、少し勿体ぶって皆の注意を集めた。そうしてから彼女は口を開く。

 

「私の息子、四葉十六夜は、国家公認戦略級魔法師とする事がスポンサーとの協議で決まりました。まぁ、公表されるのはまだ後になるのだけど」

 

「戦略級魔法師!?」

 

 真夜からの報せにそう驚愕の声を上げたのは、いったい誰だったか。分家当主全員の声が重なったようにも聞こえたが、真相は闇に葬ろう。

 

「ま、まさか、十六夜様は戦略級魔法を作られたと?」

 

 大人たちの代表は、引き続き新発田家当主が務める。彼はにわかには信じられないと、明言しないまでも態度で示していた。

 

「デモンストレーションは慶春会の締めに予定しています」

 

 真夜は分家当主たちの疑心を受け止め、悠然と構える。その様子から、嘘ではないと信じる心が大人たちの間で伝播し、また歓喜も伝播していった。その歓喜は、一族から名誉ある国家公認戦略級魔法師を排出できた故か、はたまた忌避する達也に比肩する力を持つ者の誕生故か。

 

「十六夜様が国家公認に専念させるため、代わって四葉家次期当主を深雪様へお任せになられるのですね」

 

「深雪さんに十六夜の代わりをさせるようで悪いのだけど、そういう事になるわね」

 

「納得いたしました。口を挿み、失礼いたしました」

 

「いいえ。元より私が事前に説明をしなかったせいでしょう。お気になさる事はありませんわ」

 

 当主直系が次期当主にならなかった理由を理解したところで、新発田家当主は深々と頭を下げていた。真夜は彼を咎める事なく、自身に非があったとする。こうして、どちらが悪いという事がなくなり、いがみ合う事もなく、和やかにこの議題は終わった。

 

「深雪さんの次期当主就任、十六夜の国家公認戦略級魔法師内定。両者に関する挨拶はまた後程。この会はそんなお堅い事をする催しではありませんからね」

 

 真夜が2つの慶事を少しお茶目に締めれば、大人たちから笑い声が挙がる。和やかな空気が戻ってきた訳だが、貢だけは真剣な表情で俯いていた。無理はない。俺が次期当主に就任するだろう予想が外れ、達也が四葉中心にかなり近づくという望まぬ結果になったのだから。

 俺は貢の内心を推し量りつつ、心配になる。次に報せられるだろう慶事で、彼は正気を保っていられるだろうか。

 何しろ、次は予想が外れるとかいうレベルではないのだ。

 

「そして最後に。次期当主となった深雪さんの婚約者に、私の息子、司波達也さんを迎え入れる事にしました」

 

 そう。真夜から伝えられた最後の慶事は、予想なんてできるはずもないものだったのである。

 深雪の婚約者を発表するのはまだ予想できる。誰が達也を婚約者にすると思うだろうか。しかも、真夜の息子だった事にして。

 会場内は、激しくざわつく。大人たちどころか、勝成と夕歌もざわついている。亜夜子なんかは顔面蒼白になっており、文弥はそんな彼女を気遣って、ざわつくどころではなさそうだ。

 

「ご、ご当主様。司波達也が息子というのは、いったいどういう事でしょう」

 

 ざわつく中、質問できる程度にまで落ち着いたのは、夕歌の母、津久葉家当主だった。

 

「達也さんも、十六夜と同じであるという事です。ただ、達也さんは十六夜と違って、姉に代理母を任せ、そのまま姉に預けておりました。しかし、深雪さんの婚約者とするにあたり、息子として迎える事にしました」

 

 達也も、真夜があの事件前に保存しておいた卵子より産み出した子である。そんな事を、真夜は言い放った。当然、皆理解が追い付かず、静寂が訪れる。

 ただ、その静寂によって、文弥が亜夜子を気遣ってかけていた声が際立ってしまった。

 

「あら、亜夜子さん。ご気分が悪いのかしら」

 

「いえ……大丈夫です……」

 

 真夜の気遣いに亜夜子は気丈な返事をするが、誰がどう見ても大丈夫ではない。

 

「誰か、亜夜子さんを別室で休ませてあげて」

 

「私がご案内します」

 

「僕にも付き添わせてください」

 

 真夜、水波、文弥の3人が亜夜子を休ませる方向で動き出す。

 そんなアクシデントが起こったせいで、大人たちは達也についての質問をするタイミングを逃してしまった。

 大人たちの視線が達也に集まっている。その視線は、達也を軽視、いや、蔑視するモノだ。大人たちはほとんど、達也を忌避していた。ただし、貢だけは達也への蔑視より優先して、俺を睨んでいた。強く口を結んでいる彼の様子は、「嵌めたな」と言外で語っているようである。

 場は、酷く静まり返っていた。大人たちの悪感情だけが強く醸し出されており、口を開くのも憚られるような重圧を生み出している。

 

「達也様、深雪様。この度はおめでとうございます」

 

 そこで口を開くのが、真夜の従者たる葉山。分家当主にも負けない地位を持つ彼が、この空気を払拭しようと動き出す。特に払拭したかったのは、達也への蔑視らしい。俺の件は省き、司波兄妹へと彼は平伏する。

 

「ありがとうございます。ですが、顔を上げてください」

 

 達也は葉山の思惑に乗り、当たり障りない、何気ないやりとりを2・3応報させる。

 そうして葉山は、達也が乗ってきて、話しの流れとしてもおかしくないところで、空気を払拭するのに持って来いの話題を切り出した。

 

「そういえば達也様、覚えておいででしょうか?私めはこの慶春会の席で、新しい魔法をご披露いただけるお約束だったと記憶しております」

 

「新しい魔法?達也さん、それは完成しているの?」

 

 葉山が切り出した話題に達也が答えるより早く、真夜が興味を示した。

 

「……はい」

 

 達也は、少しためらった後に頷く。約束の詳細は、慶春会の席ではなく、慶春会の後で葉山にのみ披露するというモノだったのかもしれない。それを都合良く約束を改変され、あまつさえ当主に興味を示されてしまった。逃げ道がなくなってしまった達也は、不服を抑えているのか。

 

「なら、都合が良いですね。戦略級魔法の余興みたいになってしまいますが、その準備を流用してしまいましょう。達也さん、魔法披露の準備を。必要なものがあれば、侍従に言いつけてください」

 

「分かりました。では、準備のため、席を外させていただきます」

 

 真夜に促されてしまったので、達也は魔法を披露するための準備にとりかかる。空気の悪い場に留まりたくない気持ちもあったのか、達也は素直に従っていた。

 

 それで、達也がいなくなって多少空気が良くなった会場は、達也の準備が整うまで大人たちの談笑が響いていた。

 

〈皆様、お待たせいたしました〉

 

 談笑の後、慶春会参加者が集められたのは魔法の実験場。特に危険な魔法を試す場として四葉の里内にあるその設備は近未来的な形相を呈しており、試射スペースと観覧スペースの2つに分けられている。

 2つを行き来するための扉は酷く重厚な機械の扉であり、相互の視線を通すガラスは耐熱・耐衝撃コーティングがされている。

 そして、達也はマイク越しに試射スペースから観覧スペースの皆に語り掛けていた。マイクを使わなければ音すら通さない訳だ。

 

〈新魔法の名は『バリオン・ランス』。生物を対象にした致死性の魔法です〉

 

 達也のその説明と、試射スペースに用意された檻の中の猪。血なまぐさい試射になる事は一目瞭然だったが、誰もその場を辞そうとする者はいなかった。元より血なまぐさい事をしてきた一族というのもあるだろうし、ほとんどの者は達也の新魔法を見定めたいのだろう。

 

〈それでは、始めます〉

 

 達也は足元に置かれたケースからいつも使っているCADと同じ物、シルバーホーン・トライデントを取り出す。さらには、そのCADの銃口に杭のような物を銃剣のように取り付け、その先を猪へと向ける。それから、トリガーが引かれた。

 一瞬の後、猪が倒れ伏す。それ以外に派手な音はない。観覧している皆は何が起こったのか、理解が追い付いていなかった。そんな事を他所に、達也は後片付けを始めようとしている。さすがに解説の1つもないのは失礼なのではないだろうか。

 

「達也。すまないけど、何が起こったのか説明してくれ。俺じゃあ、ただ猪を沸騰させた事しか分からない」

 

〈……そうだな。……失礼しました、一応解説させていただきましょう〉

 

 俺が観覧スペースから呼び掛ければ、さすがに達也も渋々解説を始める。

 まぁ、俺は原作知識で知っているので、達也の解説をざっとまとめよう。

 

 『バリオン・ランス』は単純に言えば、取り付けられた杭、炭素性のそれをバリオン、原子以下まで『分解』し、高速で打ち出す魔法。バリオンは分子を擦り抜け、ただ撃ち抜いた対象の水分を沸騰させ、細胞を目玉焼きにする。いわば、見えない上に専用のバリアを張らなきゃ貫通される、直線状電子レンジである。

 本来、バリオンは放射線を伴うはずだが、それによって起こる不都合は全部『再成』でなかった事にするという荒業である。

 

 達也はこの魔法を『分解』が効かない相手を想定して作ったと、解説を締めくくった。

 『分解』が効かない相手、十三束鋼と模擬戦をする原作でのイベントは省いてしまったはずだ。だが、達也は元々そういう相手を仮想敵として、対抗策を考え続けていたようだ。

 原作から大きく外れなかった事に、俺は内心ほっとしていた。

 そんな俺の内心を他所に、四葉の侍従が試射スペースの片づけを始めている。

 

「あ、すみません。丁度良いので、猪の死体だけ残してもらえませんか。新たに的を用意するのも面倒ですし」

 

 俺のその侍従たちに頼み、猪の死体だけは残してもらう。『紅炎』で掃除できるだろうし、侍従たちが的を用意する手間も減るだろう。

 頼みは通り、侍従たちは檻だけ回収した。それに合わせて、達也は観覧スペースに移る。

 

「交代だ、十六夜」

 

「ああ。今度は達也もゆっくり観覧しててくれ。尤も、達也にはすでに見せてるけど」

 

「行使者に被害を及ぼすデメリットをどう改善したのか、そこを見させてもらう」

 

 達也にとってはつまらない試射になるかと思いきや、一応の見所はあるようだ。達也と俺はそんなやり取りでお互い笑みを漏らし、達也に代わるように俺は試射スペースに入る。

 そうして俺は、懐に忍ばせている小型保冷庫CADを取り出し、内容物である冷凍保存された雀を解凍する。それから、命のないその死体に、『付喪神』で仮初の命を与えた。

 

「……うん、問題なさそうだな」

 

 雀の『付喪神』と視覚を共有できているか確認し、俺は雀を置いて観覧スペースへと戻る。

 

「九校戦で使っていた、『付喪神』での照準代替か」

 

「そういう事」

 

 俺が試射せずに戻ってきた事を、達也は俺に説明させる暇もなく言い当てた。

 そう。九校戦のロアー・アンド・ガンナーで使った戦法、『付喪神』の視覚で魔法の照準を付けるあれだ。

 大人たちも俺のロアー・アンド・ガンナーは鑑賞していたようで、各々から感嘆の声が小さく聞こえてくる。俺から改めて説明する必要がなくて有り難い。

 

「ついでに、俺には目隠しをしておきましょう。これで、『付喪神』で照準が代替できるという証明になる。……では、始めましょう」

 

 念のためにハンカチで目隠しをしてから、俺は『紅炎』を行使する。

 第一に、空気を『付喪神』にする工程。雀の『付喪神』を介して支配下におけるので、俺が直接触れる必要もない。おかげで、超々距離でも問題なく行使できる。

 第二に、空気圧縮のキックスタートとして、収束系魔法で空気へ圧力をかける工程。たった一工程の単純な魔法であり、雀の『付喪神』で照準するとしても大丈夫だ。そもそも、照準を代替しているだけで、雀の方からではなく、俺のサイオンが消費されている。魔法には本来距離など関係ないという話だ。

 第三に、支配下の空気に圧縮を続けさせ、疑似的な断熱圧縮で際限なく温度を上げ、プラズマ化させる工程。プラズマ化した空気が支配下から離れるのに合わせ、新たに空気を支配下に置かなければいけない。が、集中力を使うようなモノでもなく、簡単な作業だ。

 最後に、プラズマ化した空気を解き放つ工程。ただ『付喪神』を解除すれば、圧縮から解放された空気が勝手に膨張するので、この工程が一番楽である。

 後は、膨張して吹き荒れる熱波に曝された猪が、骨も血も残さず灰になるのを眺めていれば良いだけだ。

 

「いかがだったでしょうか、皆様。これが俺の戦略級魔法、『紅炎(プロミネンス)』です。使っている理論は単純で、収束系魔法による疑似的な断熱圧縮です」

 

 俺はそう、空気の『付喪神』辺りを省き、ざっくばらんな解説だけに留めた。空気のプラズマ化については、見れば分かるので解説するまでもないだろう。

 

「今回はデモンストレーションという事で規模を小さくしましたが、理論上では大都市1つを焼却できる規模まで拡大が可能です。まぁ、規模に合わせてプラズマ塊も大きくしなくてはいけないため、相応の時間がかかってしまいますが。それに、照準器が使い捨てなのも欠点かな?」

 

 『付喪神』は五感全てを共有する都合上、『紅炎』でのダメージを俺が負わないようにするには、熱波が放たれた瞬間に照準器とした『付喪神』も解除しなければいけない。でも、鳥の死体なんていくらでも調達できる物だ。

 欠点とも言えない欠点を上げて笑いを演出しつつ、ショーでも終えたような俺は一礼する。そうすれば、誰からともなく拍手が送られた。

 

 こうして慶春会は、例年のように大団円を迎えたのだった。とある男1人除いては。

 

 

 

 慶春会が終わって1時間が経つ頃。俺は堅苦しい装いを脱ぎ捨て(ちゃんと侍従に畳んで渡している)、着慣れた私服で肩の荷を下ろしていた。

 次期当主の話が片付き、原作における四葉継承編でのイベントは覚えている限り回収している。後は、俺個人のイベント、雫との婚姻について、真夜との話し合いを待つばかりだ。真夜の言葉からすると、それは明日になりそうだが。その他起こり得るだろうイベントは、勝成さんたち四葉家次代たちが訪問してくるくらいだろう。

 そう予想を付けて置き、俺はそれまで自室でのんびり過ごしていた。そうすれば、自室の前に、人の気配を感じ取る。しかし、それは予想内の人物ではなく、されど予想できる人物だった。

 

「貢さん、鍵は開いていますよ」

 

 俺が扉越しにそう呼び掛ければ、貢は器用にも音を立てず、わずかに開けた扉の隙間にその身を潜らせる。余程、この会合を知られたくないようだ。

 きっちり扉の鍵まで後ろ手で締めてから、彼は俺と相対した。彼の眉間には、深い皴が刻まれている。

 

「どうして、四葉次期当主を辞退した。真夜さんの事を思うなら、君自身が次期当主となるべきだろう。あまつさえ、次期当主との婚姻も蹴るとは」

 

 貢が発したのは、純粋な疑問だった。

 彼は俺が次期当主になると勘違いしていたのもあるが、そっちの方が有益だと考えているようだ。

 

「確かに、真夜さんの権力を維持する事だけ考えれば、俺が次期当主となるのが良いでしょう。しかし、そうなると達也が敵に回る可能性が残る」

 

 原作遵守などと言って理解される訳もないので、俺は貢が最も理解できそうな観点を述べた。俺の選択は、達也を危険視しながら、なおかつ敵に回さないためのモノであると言い繕う。実際、そういう心算もなくはないので、嘘にはならない。

 

「あれの危険性が分かっているのなら、四葉から遠ざける理も分かっているだろう」

 

「貢さん。達也も人間であり、感情を全て失っている訳でもありません。四葉への不平不満を煽られる。もしくは、四葉打倒の理を説かれる。そういう万が一の可能性ではありますけど、達也が敵になり得るのです。それならば、達也自身を四葉の重役に置いてしまった方が、少なくとも殲滅される危険性は下がります」

 

 彼らの言い分は、俺でも汲み取れる。例えるなら、核兵器という強力だが環境汚染する兵器を、国土に置きたくない、という感じだろう。対して俺の意見は、危険であるからこそ厳重に管理すべきというモノだ。

 

「ではあれが、四葉の重役となりながら四葉解体を目論んだ場合、どうすると言うんだ」

 

「そこで、俺の地位です」

 

 四葉当主の意向に、分家は逆らえない。最も優秀な魔法師が四葉の当主になるだけあって、パワーバランスは当主の方に傾いてしまう。

 でも、俺だけは違うのだ。

 

「……国家公認戦略級魔法師。当主でもないのに、当主と同等の力を持つ、という事か」

 

「そうです」

 

 俺だけは、深雪と達也に拮抗できる。もちろん、単純な戦闘力では負けるが、四葉一族の求心力では勝てるだろう。国家公認戦略級魔法師にはそれだけの箔があるし、伊達に元次期当主候補たちと交流を深めていない。文弥と亜夜子は達也側につくかもしれないが、勝成と夕歌はこっち側についてくれるだろう。

 だがそもそも、そんな四葉内部を二分するような事態にはならない。

 

「それに、達也も深雪も、俺の意見は無視できない。国家公認という箔もそうですが、今までの親交がそうさせる」

 

 友人である俺の言葉に、司波兄妹は耳を傾けるはずだ。それが彼らの意に沿わないモノだとしても、重要な意見として聞き入れねばならない。

 

「は……。実に悪魔だな、君は」

 

「多くを敵に回さないよう、立ち回ってきた結果ですよ」

 

「誰にでも甘い誘惑をするのが、悪魔だと言うのだ」

 

 貢は皮肉と呆れを混ぜながらも、間違いなく感嘆していた。彼の眉間に刻まれた皴が、わずかに浅くなっている。

 

「あれへの対処は、もう君に任せるしかない。周りも君にならと期待しているし、私では対処できない」

 

「承りました。ですから、どうかご安心を」

 

「……そうか」

 

 俺の承諾を受けてから、貢は疲れたように一言だけ呟いた。俺への警戒を諦めたのか、彼は最後に苦笑を浮かべてから、入室時と同じように静かに退出する。

 俺は敵、ないし俺を嫌う者が減ったと、内心喜ぶのだった。




 閲覧、感謝します。

※投稿が遅れて申し訳ありません。何か止むにやまない事情があったとかではなく、純粋に5/8が第2日曜日だという事を忘れておりました。
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