魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第九十一話 サボタージュ&カモフラージュ

2097年2月4日

 

 師族会議当日となる今日。

 今日に至るまで、特筆すべき事はなかった。強いて上げるなら、3つか。

 1つ目は、師族会議の会場が、箱根のとあるホテルである事。

 二の次で良いと周妃に言っておいたものだったが、どうやら調査できてしまったらしい。二十八家の複数が事前に手勢を配置したのが確認できたので割り出せた、というのが周妃の談である。カモフラージュのため、他の場所にも手勢を配置していたそうなのだが、自身の調査力を以てすれば本命を見抜くのは容易かったとも、周妃は付け加えていた。

 2つ目は、周妃の調査により、ジードはやはり師族会議を狙ってテロを起こす事が予測できた事。

 横須賀で戦力、というか自爆テロさせる傀儡(かいらい)を得て、それらを箱根へと運ぶ準備に取り掛かっていたとか。この情報を掴めた理由は単純で、その準備をさせる人員として、周公瑾がかつて亡命させた人間を使ったそうだ。それで、周妃の情報網にかかったらしい。さながら、相手にスパイが送り込めている状態なのだ。

 最後は、『今日に至るまで』というか、今日の出来事なのだが――

 

大人(ターレン)、本日はこのホテルでのご休養を予定しております。このホテルは、箱根でも指折りのホテルであり、なんと、温泉設備が充実しております」

 

 俺が周妃に連れられて、箱根に来ている事、だ。合わせて、本日第一高登校日のはずなのだが、無断欠席している。偏に、ジードに俺のテロ介入を悟らせぬためだ。事前に公休を取ってしまったら、テロに介入するつもりなのが露呈してしまうかもしれないが故に。

 ちなみに、ホテルの予約も周妃名義で行わせ、俺が今日箱根のホテルに泊まる事を読みづらくしている。周妃が俺の手下であるとジードがすでに知っていた場合は、読まれてしまうかもしれないが。読まれてテロ中止とならない事を、切に祈っておこう。

 

 とりあえず、今言いたい事は1つだ。

 

「……周妃、何処から宿泊費出した。高いだろ、ここ」

 

 ホテル予約を周妃へ完全に一任していたため、まさか高級ホテルを予約しているとは思っていなかった事についてである。

 

「ご安心ください。ポケットマネーでございます」

 

「……後で請求して良いからな」

 

 一応は手下だし、ホテル予約を一任したのは俺だ。その費用は俺が持つべきモノだろう。たとえ予約を取るホテルについて、確認もされなかったのだとしても。

 そんな俺の気疲れも意に介さず、周妃はただ微笑んでいる。何か、この宿泊費の立て替えも俺への貢献としていそうだ。

 

 そんな周妃のよく分からない忠誠心に溜息を吐きそうになった時だ。それを堰き止めるように、携帯端末が着信を伝えた。

 発信者は、四葉真夜である。

 

「もしもし、母さん?」

 

〈十六夜!無事なの!学校を無断欠席って、何があったの!〉

 

 特に意外感も持たず応じた通話は、予想通りである真夜の心配から始まった。

 そう。無断欠席が第一高から保護者である真夜に伝わったのだ。それで、真夜は俺の無断欠席を異常事態と捉え、師族会議直前だというのに、息子へ電話をかけているのである。

 

「心配かけてごめん、母さん。別に、何かあったって訳ではないんだ」

 

〈無断欠席をしておいて、「何もなかった」で押し通すつもりですか!母にはしっかり理由を答えなさい!貴方はまた、いったいどんな無理をしようというの!〉

 

 意外ではなかった通話と予想通りの心配だったが、真夜の取り乱し具合は想像以上だった。似たような独断専行が過去に何度かあった事から、今回も独断専行していると勘付いているのだろう。

 真夜を落ち着かせるために俺が独断専行した理由を明かしたいところだが、それはできないのである。

 

「母さん、悪いけど。今は、というか、盗聴される懸念がある通話(ここ)では言えないんだ」

 

 そう。ジードに聞かれるこの電子ネットワーク上のやり取りでは、明かす事ができない。せっかく無断欠席までして俺の行動を隠しているというのに、ここでジードに盗み聞きされたら台無しだ。

 

〈『ここ』、では……?……。十六夜、貴方―――〉

 

「新魔法の実験で無理をしたために倒れたんだ。それで、今の今まで寝込んでたんだよ。恥ずかしいじゃないか、他の十師族に追及されるかもしれない場で、息子が新魔法の実験で不甲斐なくも倒れたなんて話さ」

 

 真夜が独断専行の理由に当たりを付けたようだが、俺はその言葉を遮り、嘘の理由を語った。これも、ジードに俺の行動を隠すためだ。同時に、この流れなら真夜は嘘を見抜いてくれると踏んで、今は話したくなかった嘘を騙ったのである。これなら、真夜は俺が隠れている意図も読み解けるだろう。

 

〈―――……。分かりました、学校にはそのように伝えます。でも十六夜、前々から欲しかった本を買いに行くためだからって、学校をサボるのはいけない事ですからね〉

 

 やはり真夜は俺の嘘を見抜き、意図を読み解いている。だから、俺の嘘に付き合って、「欲しい本を買うための仮病」というもっとそれらしい嘘を重ね掛けしたのだ。これで、万が一ジードに盗聴されていたとしても、嘘を嘘と読み解く時間が必要となる。大事なテロ直前で、その時間を捻出している余裕はないだろう。

 

「お説教は後でいくらでも聞くよ」

 

〈……。くれぐれも、無理をしてはいけませんからね〉

 

「分かってるって。それじゃあ」

 

〈……ええ〉

 

 酷く煮え切らない様子で、真夜はこの通話を終えた。不満を募らせているのは明らかなので、後々に埋め合わせをしておこう。

 という事で、真夜への対応は一旦保留である。進めるべき話は別にあるのだ。

 

「さて。周妃、周辺の監視はどうやってる」

 

 ジードがやろうとしている傀儡を用いた自爆テロ、パペットテロなどと呼ばれるそれであるが、俺はそのテロを人的被害0で対応したい。

 しかし、そのテロに二十八家の手勢どころか、その当主たちも気付けなかった。十師族の当主たちですら、である。およそ尋常な手では兆候の感知もできない。

 

「ご心配なく。傀儡を用いたテロというのが分かっておりますので、傀儡探知の結界を周辺に張り巡らせています」

 

「……お前がそう言うんだから、そういう結界があるんだろうが。……用途が限定的すぎないか?」

 

 ジードの魔法を知っているから、他人では探知できないジードの傀儡を探知できるのだろうが。それ専用の魔法というのは、少し違和感がある。

 魔法師は万能を求められるもの。古式魔法師だってそうなのは変わらないし、長く生きていた周妃が、そんな使用用途の少ない魔法を作るとは思えない。

 

「失礼、正しくはソナーレーダーのように、人を探知する術です。この術については、パラサイトの特性、及び大人(ターレン)より勲功賜りました、『付喪神』を用いております」

 

「……詳細を訊いても良いか?それ」

 

「もちろん」

 

 『付喪神』をどう応用したらレーダーになるのか見当がつかなかった俺は、マナー違反を承知で、また、答えが返ってくる事を期待せずに訊ねた。だが、周妃は出し惜しむ事なく、その答えを返す。

 

「パラサイトはプシオンを感知する特性があり、プシオンは人間誰しも持っているモノです。ただ、遠く離れた対象のプシオンを感知するとなると、対象の精神がとても動いている状態、プシオンが過剰に漏れ出ている状態でないと感知できません」

 

 プシオンさえ感知できれば、対象の居場所が分かる。確かにこの部分はレーダーとして使えそうだが、周妃がすでに言っている通り、遠くの人間を感知するとなると、無条件にとはいかなくなる。

 では、周妃はその問題をどう解決したのか。

 

「ここで、遠く離れた対象のプシオンを感知するために、『付喪神』を使います」

 

「……小鳥とか小型の依り代を辺り一帯に潜伏させとくのか?」

 

「いいえ。それも1つの方法でしょうが、依り代を多く確保する事、依り代を複数操作する事が手間になるでしょう。なので、私は1つの、操作する必要もない物を依り代に選びました」

 

「それは?」

 

「我々も足を着けている、この地面です」

 

 周妃の答えを聞いて度肝を抜かれた気分だったが、同時に俺はとても感心させられた。

 

「なるほど、地面を広く依り代にする。そうすれば、その地面の上に居る対象のプシオンは感知できるか」

 

「その通りでございます、大人(ターレン)。ただ、薄く広く『付喪神』を行使しているため、すぐに『付喪神』がサイオン・プシオンを使い果たさないよう、常に行使者に接触し、エネルギー供給を行い続けなければなりませんが」

 

「それを踏まえても「さすが」としか言いようがないさ、周妃。そこまでの使い方は、俺じゃ思い付かなかった」

 

 その術はなんと例えれば良いのか。知らぬ間に地面に埋め込まれたセンサーか、誰も気付けない音波によるソナーか。とかく、行使者の技量を問われるが、広範囲に誰も気付けぬ探知機を仕掛けられる訳である。

 ここで恐ろしいのが、俺という魔法師かつパラサイト憑依者でも気付けない点だ。おそらく、サイオン・プシオンが『付喪神』を行使できる最低ラインで維持されているため、魔法師のサイオン感知及びパラサイトのプシオン感知に引っ掛からないのだろう。

 『付喪神』の応用とはいえ、それを思い付くに至った発想と、その発想を実現できる技量は末恐ろしい。俺の技量では到底真似できない。少なくとも、レーダー機能までは模倣できても、その隠密性は維持できない。

 

「お褒めいただき、恐悦至極」

 

 少し謙遜しているのか、周妃は俺からの賛辞を受け、恭しく一礼するに留めていた。これ程の術を明かしたのだから、何かしら俺に対価を要求できそうなものだが。あっちから強請ってこないし、気にしなくて良い、というのは楽観すぎか。こっちについても、後で埋め合わせをしておこう。

 

「……ん?ちょっと待て。人の居場所を探知できても、傀儡の居場所は特定できないんじゃないか?普通の人間と傀儡をどうやって区別している?」

 

「ジードの傀儡はほぼ死人状態であり、死者とも生者とも異なったプシオンを放っています。なので、術内部であれば区別は容易です」

 

「オーケー、俺が浅はかだった。そんな事もできずに自慢気に術を明かしたりはしないよな」

 

 舌を巻くとはまさにこの事かと、俺は周妃の万能さに苦笑を浮かべてしまう。

 

「じゃあ仕事を丸投げするようで悪いが、そのまま探知を続けておいてくれ。それと、探知にかかったらすぐに動けるように準備も、な」

 

「承知しております、大人(ターレン)

 

 俺は使い勝手の良い手下に仕事を投げ、ジードのテロが起きるまで、のんびり構えるのだった。

 

 だが、ジードのテロが起きる前に、思わぬイベントが俺に降りかかる。

 

 

 

 周妃が探知に専念しているのか、いつの間にか俺の周囲からいなくなっていたのだが。俺はあまり深く気にせず、ホテルの食堂で遅めの朝食を済ませる(家でも軽く食べたので2度目の朝食)。そうしてその食堂から出て、ホテルのロビーに差し掛かったところである。

 

「やぁ、十六夜君。君も来ていたのかね」

 

 何故か知らんが、周妃が九島烈を連れてきていた。

 

「……老師、なんだってこんなところに」

 

「いやぁ、君に頼まれていた九島家十師族脱退は済ませてな。仕事を終えて、暇になってしまった。ので、箱根観光でもしようかと思っていたんだが、そんなところに君の従者だという彼女と出くわしたのだ。聞けば、何か事件を嗅ぎ付けて現地に居ると言うではないか。それはもう、君に会いに行くしかあるまい?」

 

「……」

 

 俺がお願いした通り、周公瑾の件で七草の分も罪を背負い、十師族を脱退しただろう日本魔法師界の権威・九島烈。そんな名誉をかなぐり捨ててきたばかりのはずである老人が、嬉々とした語り口と元気な姿を見せ付けていた。

 何処からツッコめば良いのか、俺には全く分からない。とりあえず分かるのは、周妃が意図して烈を連れてきたという事だ。

 おそらく、探知『付喪神』、周妃本人は『太極図(タイチィトウ)』と名付けていたそれで、烈の居場所も探知していたのだろう。個人の特定までできるとは、最早言葉も出て来ない。

 まぁ、烈と以前接触した時に烈のプシオンを記憶したが故だろう。さすがに一切接触のない相手まで特定できたら恐怖しかない。

 

 とりあえず、周妃が烈を呼び寄せた方法は横におこう。今気にすべきは、周妃が烈を呼び寄せた、その理由である。

 

「周妃、俺たちだけじゃ手が足りないか」

 

「人的被害を0に抑えるというのであれば、老師は必要な戦力かと」

 

 周妃は明言こそしなかったが、やはりジードへの対処に手が足りないようだ。そこで、老師というジョーカーじみた戦力が遊んでいるのである。周妃としては、そのジョーカーを遊ばせておく手はなかったという事か。

 

「分かった、お前の判断を信じよう。……老師、お話があります」

 

「ここでは目立つ。場所を移そうではないか」

 

 真剣な話である事は、周妃に呼ばれた時点で烈も把握済み。ならば、ホテルのロビーで話す事ではないと、烈はすぐにホテルで貸し出しされている会議室を予約するのだった。

 

 

 

「……ふむ。ジード・ヘイグなるテロリストが師族会議を狙って仕掛けてくると」

 

「はい。携行ミサイルを日本へと持ち込んだ形跡があり、さらにはこの箱根へと運ぶ手筈である事を掴んでいます」

 

 高級ホテルの会議室にて。俺は情報の出所や細部をぼかしつつ、しかし重要な部分はしっかり開示していく。

 

「しかし、そうか……。あの周公瑾を手下としていた者か。厄介なものだ」

 

「ええ。厄介な相手ですから、今回で確実に仕留めたいと思っています。しかし、その所在までは掴めていないため、まずはテロを防ごうと」

 

「なるほど、了解だ。十六夜君、君に協力しよう。今しがた十師族を抜けてきたが、日本の守護者を止めたつもりはないのでね」

 

 前述の通り細部の不明な信頼のおけない情報であるのに拘らず、烈は俺への協力を申し出た。その様子は、孫の願いを聞き届けようとする、好々爺のそれにも見える。

 何にせよ、この戦力が得られたのは有り難い。

 

「敵の手の内は把握しているかね」

 

「ジードは死体操作の術を得意としているらしいです。おそらくは、携行ミサイルを死体に運ばせるかと」

 

「ふー……、パペットテロか。悍ましい輩だ」

 

「その死体を探知させる術を、俺の従者、周妃に張ってもらっています。術内に入れば、探知は容易だそうです」

 

 問われた事、ジードの手の内を明かしつつ、それへの対策も続けて明かした。話題に上げられた探知役の周妃は、烈へと恭しく一礼している。

 

「……随分と面白い子を内に引き込めたようだね、十六夜君。君がしっかり友達を増やせていると知れて、私も嬉しいよ」

 

 その名前と容姿で周妃が周公瑾の関係者だと見抜いているのだろう烈。しかし、そこから先は踏み入らず、何か、それ以外にしたい話があるようだ。

 

「真夜も君くらい協調性があれば良いのだが。……師族会議では弘一と大喧嘩しておったよ」

 

 どうやら、俺の協調性に繋げて、真夜の協調性、今回の師族会議における一騒動を語りたいようだ。

 

「……その、何があったんです?……さすがの母も、何かない限り大事な会議の場で荒れる事はないと思うのですが」

 

「弘一が揶揄ったのだ。君の婚約者候補に、家の娘は立候補できないかと」

 

「……」

 

 どうやら、弘一が仕掛けたらしい。

 真由美が俺に婚約者候補立候補についての打診をしてきた事から、弘一が真由美をそう唆していたのは読めていた。同時に、やはり弘一の口からも婚約者候補立候補について、真夜へ打診されるのも読めていた。それで真夜が冷静さを欠かないか心配だったのが、その心配は現実になったのである。

 

「いやぁもう何と言えば良いか。盗み聞きしてたのも忘れて大笑いしてしまいそうだったよ、あの真夜の荒れ様は」

 

「……その荒れ様で、七草の分も九島が罪を背負うというの、母は納得してくれたんでしょうか」

 

 烈が哄笑を響かせそうなくらい楽しげだが、笑い事ではない。俺は烈に頼んだ事がちゃんと完遂されたのか、不安になってきている。

 

「納得はさせられたが、まぁ大変だったとも。是が非でも七草を十師族落ちさせようとするのを、皆が宥めていたくらいだ。さすがの温子(あつこ)も、あの時ばかりは引いていたなぁ」

 

 烈が言う温子とは、おそらく十師族・六塚(むつづか)家現当主である六塚温子の事だろう。原作では、確か真夜に憧れており、いつも真夜寄りの意見を示す人物だったはずだ。

 そんな人物すら引かせる程荒れていたとは。頭が痛くなりそうだ。

 

「真夜も中々落ち着かんでな。君には悪いと思ったが、私が七草の分も罪を背負う事について、十六夜君との対談で決まったのだと言わせてもらったよ。それでようやく、『息子がそう判断したなら』と、引き下がってくれた訳だ」

 

「……十師族の皆様方に、変な印象与えてないと良いなぁ」

 

 烈の語る真夜の荒れ様を治めた顛末に、俺は思わず心の声を漏らした。

 師族会議直前で真夜が電話をかけてきた事から、俺が新魔法の実験で体調を崩したのは十師族に広まっている可能性がある。それを抜きにしても、俺が日本魔法師界の権威に意見し、あまつさえその権威を動かし、さらには息子の判断という事で四葉家当主も動かしているのだ。俺自身の話じゃなかったら、影で権力者を操るフィクサーの話に聞こえるだろう。

 一度も会話した事がない十師族現当主たちにそんな変な印象を与えているかもと、俺は憂鬱になる。一度会話した事がある一条剛毅と十文字和樹は、事前の印象でどうにか好印象を保てていると願おう。

 

「何、そう憂鬱になる事はないさ。現状に満足せずに新魔法の開発に取り組む向上心があり、一時の感情に囚われず合理的に全体利益を求める聡明さもあると、皆はしっかり理解しているようだったとも」

 

「やっぱり体調崩したって嘘も伝わってるのかぁ……」

 

 十師族内にて俺の評価がどうなったのか、烈は楽し気に俺へと聞かせた。それにより、十師族現当主たちから過大評価された事を知った俺は、酷く沈鬱した気分になる。

 今後十師族現当主と対面する事があるかどうかは分からないが、対面した時は無駄に秀才な男として扱われるのだろう。多くの面倒事に対処してきた大人たちとそうして対面するのは、全く以って面倒な事である。

 

「仕方ない。『四葉直系』の優秀さが示せたと、潔く諦めよう」

 

「そうだな、目立つのを避けるのは諦めた方が良い。君はその才能を隠し通せる程、非才な男ではないのだ。それに、これから十師族が察知していないテロに対処するんだろう?目立たないというのは、土台無理さ」

 

「……ご尤もで」

 

 面倒事が確約された事を色々と妥協して割り切ったのだが、烈の言う通り、そもそも目立つ行動を計画していたというのを省みさせられた。

 前世の小市民気質がこんな部分に残っていたかと、少し反省しておく。今までも散々目立ってきたし、これからも『四葉直系』が優秀であると宣伝するために目立つのだ。ここで無駄に目立つのを避けるのは、かつて目立ちたくないとぬかしていた原作主人公と同列である。

 

 そうして自身の立場を弁え、態度を改めた時だ。

 

大人(ターレン)、ご歓談中申し訳ありません。ご報告したい事がございます」

 

「失礼、老師。……何があった」

 

 いつの間にか退室していて、突然戻ってきた周妃。俺の従者である事を見せ付けるかの如く、頭を下げて会話に割り込む。

 俺は一応烈に許しを請い、彼が微笑んだのを見て、周妃に報告を促した。

 

「ジードのテロ決行日が明日である事を掴みました。どうやらジードは、師補十八家も会場入りしているタイミングを狙っているようです」

 

「……二十八家全てを相手取ろうとは。……それ程テロに自信があったという事か?」

 

 周妃がテロ決行日を突き止めたと、その旨を報告すれば、烈はその大胆不敵な決行日に、敵の思考へ考えを巡らす。ただ、少し勘違いをしているようだった。

 確かに、日本魔法師界の精鋭が揃う日を狙うのだ。対象を害する事が目的なら、余程そのテロを成功させる自信があるか、テロの成功率も計算できない馬鹿である。

 だが、ジードはそのどちらでもない。ジードは対象を直接的に害する事を目標としていないのだから。

 

「いいえ、老師。ジードはどうやら二十八家に直接的なダメージを与える事より、魔法師排斥運動を煽る事に重点を置いているようなのです」

 

「……ああ、そういう事か。このテロで一般人に被害を出そうものなら、被害を抑えられなかった魔法師が非難される。……全く、馬鹿馬鹿しい話だが、見事な策だ」

 

 烈はジードの思惑を知り、ジードの手腕を忌々しくも称賛した。

 日本の魔法師、少なくとも百家以上を相手とした場合、単純な暴力での打破は困難だ。だから、暴力ではなく、言論で打破しようという理である。烈も、その理を見抜き、納得しているようである。

 

「それで、『人的被害を0に抑える』、か。ふむふむ、これは実にやり甲斐のある仕事だな」

 

 ジードの用いた理を見抜いたのと打って変わり、烈は自身が俺の前に呼び寄せられた理由を思い出し、嬉々とした表情を浮かべた。

 敵の策を根底から覆す事に、烈は面白みを感じているようだ。敵の呆気にとられる顔でも頭に過ったか。

 

「俄然、やる気が湧いてきたよ。この老骨、粉骨砕身で敵の思惑を挫くとしよう」

 

「ありがとうございます。老師にそう言っていただけるのであれば、心強い限りです」

 

 何にせよ、烈はやる気を漲らせたのだ。予想外の援軍であったが、彼が味方なのは本当に心強かった。

 こうして、俺と周妃、そして烈の3人で以って、ジード・ヘイグに一泡吹かせると、強く決意するのだった。

 

「しかし、決行日は明日か。それまで暇だな。……そうだ、十六夜君!君の婚約者候補として公開された、北山雫という子について聞かせてくれないか!どういう馴れ初めなのか、とても気になっているんだ!」

 

 お年寄りの茶飲み話に付き合いながら。




『付喪神』の応用・『太極図(タイチィトウ)』:地面に薄く広く『付喪神』を行使する事によって、パラサイトのプシオン感知を広範囲に広げる術。個人まで特定するためには、その個人のプシオンを事前に記憶しておく必要があり、同時にプシオンを区別できる技量が必要となる。十六夜も行使できるが、周妃程の効果範囲・隠密性は維持できない。また、個人を特定する精度も周妃に劣る。

十六夜と周妃それぞれの『付喪神』技量:
…十六夜→依り代の操作に長けている。例えば、水の『付喪神』をそのまま流れる水として操作でき、水を氷に形態変化させる事もできる。また、動物を依り代とした場合、遺伝子に刻まれた本能的行動を呼び起こし、依り代に本能的行動をさせ続ける事でオート操作ができる。
…周妃→小手先の技術に長けている。プシオン・サイオンの供給量を自在に調節できる。また、動物を依り代とした場合、依り代全てで並列に思考し、依り代全てを同時にマニュアル操作できる。

十師族脱退して嬉々としてる九島烈:十師族という生涯を賭してやってきた誇りある仕事を退職して、今後どうしたものかと途方に暮れかけたところ、十六夜への支援・応援というやりがいのある仕事が舞い込んできた訳である。

四葉家の婚約に対する横やり:達也・深雪の婚約には、原作通りに一条剛毅から、深雪に将輝を宛がいたいという形で入っている。これまた原作通り、七草弘一がその一条の横やりを援護したのだが、原作のように真由美を達也に宛がおうという動きはなかった。代わりに、真由美を十六夜の宛がおうと動いたのである。

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