2097年2月5日
箱根のホテルで一夜を明かした俺は、烈と共に英気を養うかの如く朝食を済ませつつ(烈も俺と同じホテルを宿泊先に変えていた)、気負い過ぎないように身構え、時を待つ。
ちなみに、俺はまた第一高を仮病で欠席しているが、それはともかくである。
午前十時を過ぎた頃、その時が来る。
「
周妃からの報告を受け、俺と烈は無言で頷き合う。
さぁ、出陣だ。
自然な歩調を装いつつも、俺・周妃・烈は師族会議が行われるホテルに早足で向かう。
そうして、そのホテルを目前とした瞬間、周妃がスーツ姿の男性を指差した。誰を、いや、何を指差したのか。それは言葉にされるまでもない。
俺は指差された対象を視認し、その対象に向かって駆け出す。俺の急接近に気付いたか、その対象は俺へと振り返るが、何もさせはしない。俺は即座に対象を地面へと組み伏せた。
「危険物所持の容疑者、確保!」
俺はまるで私服警官のように振る舞う。そうしなければ、無駄に周囲の一般人を警戒させてしまう。本来ならばそんな処理も挿まずに消し飛ばしておきたかったが、そうもいかないのが現代法治国家というモノだ。
そして、やはりそういう隙を与えてしまったから、対象に動きがあった。動きと言っても、身動きは微塵もない。
俺が動きと銘打ったのは、超人の直感が察知した、自爆の気配だ。
俺は超人域の怪力で以って、成人男性を上空へとぶん投げた。望めるなら、自爆の被害を抑えられる程の上空へ。
成人男性が、上空にて腹から爆ぜる。無残にも肉片を散らし、爆風が街路樹を激しく揺らした。しかし、人的被害は爆風での転倒のみ。爆炎に曝された者はいない。
「皆!これは自爆テロだ!市民は速やかにこの一帯より退避せよ!まだテロリストは潜んでおるぞ!師補十八家の当主たちよ!市民の安全を確保せよ!」
「は、はっ!」
自爆に怯む事無く、烈は対処の手を打つ。非魔法師及び実戦レベルにない魔法師へ避難を呼びかけ、丁度師族会議が行われているホテルから出てきた師補十八家の当主たちには、それら市民を守るように命じた。
突然の事であったが、老師たる烈の言葉に、師補十八家の当主たちは是非も問わず従う。
テロリストの対処についてしか打ち合わせしていなかったが、そうした対処の手が打てるのは、さすがは老師と言ったところか。
「
周妃が慌てるように、確かに傀儡の5・6体は明らかな程俺へと向かってきている。しかし、市民を標的にした傀儡は、俺には恐怖で逃げ出す市民と区別がつかなかった。
だが、策はある。
「周妃、地面を貸せ!逃げてるのは俺がやる!向かってくるのは任せた!」
「かしこまりました!」
「私も手を貸そう!」
周妃に指示を出し、烈が周妃に協力。俺は、周妃が『付喪神』を解いた地面に、改めて俺が『付喪神』を行使する。
周妃程の広範囲を『付喪神』にはできないが、傀儡が集まっている現状なら俺の使役範囲でも大丈夫だろう。
その判断は正しかったようで、今、俺の『付喪神』によって全ての傀儡を探知する。
まずは、逃げるかの如く市民を狙っている傀儡だ。
「土葬してやる。感謝は結構だ」
俺は市民を狙う傀儡を余さず、地面へと呑ませた。一瞬で地中深くへと爆弾が埋められる。よって、地面が少し盛り上がるだけで、こちらも人的被害は皆無だ。
目を移す。向かってくる傀儡に撃ち漏らしがあれば対処しようとしたが、その必要はなかった。
周妃の方は狼を象ったような銀色の塊、おそらく水銀を依り代にした『付喪神』で傀儡から爆弾をえぐり取る。一見乱雑だが、爆弾を起動しないよう、器用にも発破機構を噛み砕いているようだ。
烈の方は雷を降らせ、1体は爆発させてしまうが、爆風も爆炎も収束系か加速系かの魔法で広がらないようにその場に収束させている。そして、2体目以降にも雷を降らせていたが、それらは爆発しなかった。そちらは周妃と同じように発破機構を壊しているらしい。繰り出される妙技の数々。『老師』の尊称は伊達ではない。
こうして俺の探知範囲では、傀儡を全て対処し終えた。
「周妃!残りの敵影は!」
「……0です。傀儡は1つたりとも残っていません」
地面の支配権を周妃に渡して探知させれば、少なくとも周妃の探知できる範囲には傀儡がないようだ。
「皆の者!人的被害は!」
「人的被害は軽微です、閣下。爆風に煽られたり逃走中に不意に躓いたりでの軽傷のみかと」
烈は師補十八家の当主たちに被害報告をさせ、彼らの代表となった1人から被害0を聞き届けた。烈は、満足げに頷く。
「……。皆、良く聞け!ここに居る四葉十六夜君が誰よりも早くテロの兆候を掴み、こうして私に進言までして、その対処へと乗り出してくれた!彼が動いてくれなければ、我々は多くの命を敵に奪われていた事だろう!」
一息おいて何を言い出すかと思いきや。烈は突然俺を担ぎ上げた、テロ対処の功績者として。
その公言を、遠巻きにいる逃げ遅れの市民が、避難に協力した師補十八家の当主たちが、緊急事態で駆け付けた警官たちが耳に入れる。
おまけに、何事かと会議を後回しにして様子を見に来た十師族現当主たちにも。当然、真夜もその1人である。
皆の視線が俺に集中したところで、烈はまだ担ぎ上げを続ける。
「十六夜君、日本魔法師を代表してお礼を言わせてくれ。ありがとう。君が真摯にも日本を思ってくれたがために、私たちはテロを乗り切る事ができた」
「……老師、まだ終わっていません。首謀者はまだ捕まっていない。……老師、そして十師族当主の皆様。お話したい事があります」
烈は俺を戦場の英雄でも扱うように囃し立てるが、俺はその囃し立てに乗っかりつつも、話を次へと移す。
十師族を巻き込んで、このテロ首謀者たるジードを処断する話へと。
と、すぐに移りたかったのだが、まだすべき事があった。
「す、すみませんが!事情聴取をさせていただけませんか!?」
警察への説明である。ようやく呆然状態から復帰した警察官が慌てて駆け寄り、申し訳なさそうに下手で任意の事情聴取を申し出てきた。
俺はその事情聴取を了承し、烈や十師族現当主たちに見守られながら、事情聴取を受ける。
明かした事情は実に大雑把だ。国外から火器が不審に持ち込まれているのを掴んでいた事、その火器がどうにも箱根に運ばれようとしている事。その火器でテロが起こされると予想し、事前に準備をしていた事。
以上3つが警察に明かした事情である。
そんな大雑把な開示ではあったが、俺が真摯に対応した事とテロの被害が皆無だった事で、事情聴取は1時間もかからずに終わる。
その間、被災通知は発信されなかったのか、原作だと来ていたはずの十師族子息たちは、この場に来ている様子がまるでなかったのだった。
「四葉、色々と言いたい事・聞きたい事はあるが。よくやった」
「噂で優秀なのは聞き及んでいましたが、まさかテロに対応できる程優秀だとは。さすが、四葉殿の直系ですね」
「いやはや、こんなに優秀な次代が育ってるとは。心強い反面、大人としては不甲斐ない気持ちになってしまうなぁ」
師族会議の会議室にて。俺と烈も混ざったその場では、十文字家当主となった十文字克人、六塚家当主である六塚温子、
「老師、お戻りになられましたか」
「私は十六夜君の付き添いだよ、拓巳。自分から抜けておいて、昨日の今日で戻ってくる程間抜けではない。だが、心配せんでも、十師族を抜けた程度で日本を見捨てたりはせんさ」
「それにしても、する事が若者との企みですか?烈閣下」
「はっはっはっ、企みとは言い方が悪いじゃないか。なぁに、年寄りらしく、若者の力になろうとしているだけだとも、
対し、七宝家当主である七宝拓巳と、
二木舞衣の方は、年甲斐もなく精力的に動いている烈に呆れているようだ。昨日の今日でイベントを2個も起こしているのだから、烈の行動が奔放なそれに映っているのかもしれない。もしかしたら、そんな烈の意外な奔放さが発揮されたのは、今回ばかりではない可能性もある。十師族現当主の中で烈と最も歳が近く、よって、この中では最も付き合いが長いのだし。そうして、もしかしたらこうして烈に笑って誤魔化されるのも、1度や2度ではないのかもしれない。
「えーと、皆さん。話を進めるべきなのでは?我々は、四葉子息の彼に集められた状況なのですし」
「そうだな。先程のテロもあった上で、重要な話があると四葉君が集めたのだ」
「賛成だ。私たちはテロ対応の功労者かつ、この集会の主催者の話を聞くべきだろう」
和気あいあいとした空気が流れる場で、その空気を断ち切ったのは意外にも五輪家当主である五輪
不思議にも、七草家当主である七草弘一と、四葉家当主である四葉真夜は発言しない。両方とも、状況を静観している。真夜は少し憂いるように目を伏せているが。弘一の方はサングラスのせいで、口が横一文字に強く結ばれている事しか見て取れない。
とかく、場の空気は俺の話を聞く流れになっているのだ。俺が望んでいる事でもあったし、ここは素直にその流れに従う。
「では、僭越ながらこの四葉十六夜、皆様にお伝えしたい事があります」
畏まった語りから始め、俺は改めて十師族当主たちの注目を集める。
「先程このホテルの目の前で起きました騒動は、この師族会議を狙った自爆テロです。俺はそのテロを事前に察知しており、そのテロに対応するべく、潜伏しておりました」
警察には大雑把にしかしなかった説明を彼らには詳細に報告するため、まずは先程の騒動がテロだった事をはっきり言葉にする。
「テロと言いますと、師族会議でも話題に出ましたね。横須賀港に入港した小型貨物船が、人間主義者のテロリストを密入国させた疑いがあるとか。……今回のテロは、そのテロリストによるモノでしょうか」
「『今回のテロを起こしたテロリストが、その小型貨物船で密入国してきた』という意味では合っています。しかし、『自爆テロの自爆役を密入国させた』という意味では間違いです」
舞衣が皆を代表して訊いてきた疑問に、俺は細かな訂正をする。
「自爆役は別ルートで密入国してきたと言うのか?」
「それも違います。自爆役は、貨物船で密入国してきたテロリストに操られた、罪のない一般市民です」
最初の訂正だけでは怪訝さがあったため、少し厳つい表情で追及した剛毅。その追求に返した俺の答えによって、剛毅は、十師族当主たちは目を見開く。真夜や弘一すらも、表情を険しくしている。
「パペット・テロだと!?それは事実なのか!」
「事実だ、剛毅。自爆テロ実行犯にその手の魔法が仕掛けられていたのを、私自身が確認した」
「閣下、そんなまさか……。くっ、ふざけた真似を……っ」
にわかには信じられないと言った様子の剛毅も、烈の証言により信じざるを得なくなる。そうして信じた剛毅は敵の下衆さに憤慨を抑えきれず、自らの膝に拳を打ち下ろしていた。
「敵は魔法師排斥運動を煽る事によって、各国の魔法師戦力減退を目的にしているようです。今回は、我々日本の魔法師を狙ってきているようですね」
「なるほど。では、今回のテロの黒幕が魔法師であると公表してしまえば、敵の思惑は前提から覆りますね」
パペット・テロを仕掛けてきた黒幕がいると皆が認知したところで、俺は黒幕の目的と狙いを明かす。そうすれば、報道陣へのコネクションがあり、情報戦における手札がある弘一は、即座に敵の一手を覆すメタカードを見出した。
そのままその対応策について話を進めてくれれば良いのだが、そうもいかないのがこの十師族当主という存在である。
「対応策を話し合う前に、情報の真偽を確かめておきたい。四葉殿すら掴めていなかった情報だ。直系とはいえ、何故君が知り得ている?それとも、四葉殿は我々に情報を隠したのか?」
元が痛いところを突いてきた。
そう。パペット・テロの黒幕がいるのは烈の証言もあって真実だが、黒幕の思惑と狙いについては、まだ裏付けが取れていない。俺は今からこの証言をしなくてはいけないのだが、面倒なのが、俺が真夜より多くの情報を持っていると皆が誤認しているところだ。
まず言ってしまうと、真夜は黒幕の思惑と狙いを知っていて、それを隠してしまっている。黒幕が四葉因縁の相手であるため、秘密裏に私刑するつもりだったのだろう。同時に、まさか四葉以外も狙ってくるとは予想できなかったのかもしれない。
何はともあれ、俺は真夜が隠し事をしていなかった事にしつつ、俺は真夜より多くの情報を持つに至るそれらしい理由を騙らねばならない訳だ。
でも、問題ない。実際、俺は真夜より多くの情報を持つに至った情報網が、己が手にあるのだから。
「そう不安がらずとも結構ですよ。
俺が真夜より多く情報を知り得るのは今回だけのように取り繕いつつ、俺は、俺の背後を指し示した。俺の背後に控えていた、ずっと会議場に居るのにも拘らず、気配を完全に消していたその人物、周妃を指し示したのだ。
周妃は俺が指し示し、皆の視線が集まったところで、ようやくその存在感を表して一礼する。
「……、彼女が、なんだと言うんだ」
周妃からただならぬ気配を感じているだろう剛毅が、そのただならぬ少女の正体を知るべく、俺へと回答を迫った。周妃は答えない。あくまで、俺の従者という姿勢を誇示する。
「母上、周公瑾については皆様に話されましたか?」
「……ええ。様々な騒乱を手引きした者として、すでに皆様へお伝えしてあります」
「そう。なら良かった」
前提情報が周知済みかを確認し、確認の応答としてここに来てから初めて真夜の発言を聞き終え、それから皆に向き直る。
昨日の会議中、七草家糾弾及び九島家十師族辞任を引き起こしただろう話題が再び上げられたためか、皆の表情は先程より引き締まっている。
「改めまして。彼女は周妃。様々な騒乱を手引きした者、周公瑾。その娘に当たる存在です」
「敵だった輩の娘だって!?そんな奴をどうして四葉直系が連れているんだ!」
俺が周妃の正体、その表層の、しかも極僅かでしかない真実を口にした。そうすれば、事の重大さを認識するくらいの経験値がありつつ、しかして動揺を押し殺せるまでには老練されていないだろう雷蔵が俺への警戒心を剥き出しにする。
「不安にさせてしまって申し訳ありません。ですが、前言の通り、不安がらずとも結構です。彼女には周公瑾の後釜となる事は叶わない、そんな事をする余裕はないのです」
「……根拠は、あるんでしょうかね」
雷蔵は乗り出しそうだった身をしっかり椅子に落ち着け、しかし、警戒心は解かずに耳を傾ける。
「俺の手元にあるのが理由の一つです。彼女が日本に不利益をもたらそうとした際、即座に俺が処分できます。同時に、そんな枷である俺から、周妃は逃げられない。周公瑾は亡命ブローカーも生業としておりましたし、とあるテロリストの手先でもありました。そんな男の子供である周妃は、多くの人間から命を狙われている。枷である俺を盾にしなければ、彼女は日向を歩くどころか、闇夜に紛れる事も不可能です」
「……四葉直系が枷であり、また、盾でもある、か。だから君に従わざるを得ないと」
俺の証言に一定の説得力があると認めた雷蔵は、まだ不安を完全に取り除けた訳ではなさそうだが、一旦警戒心を引っ込める。
他の十師族当主たちも似たようなモノで、周妃についての追及はそこで終わった。
「『とあるテロリスト』とは、もしや今回の奴と同一か」
「そうです。今回テロを仕掛けてきた黒幕であり、周公瑾の主。ジード・ヘイグです。彼女の父親がジードと繋がっていたからこそ、彼女はジードの情報を誰よりも早く、より多く掴む事ができました。少し情報の経路を具体的にしますと、周公瑾とジードが一部共有していた情報網から得たとの事です。周公瑾は娘を守るために情報網を継承しており、彼女はその情報網をジードが使用した形跡を見つけたらしいです」
剛毅が符合するワードで情報の出所を推測し、俺はこれ幸いにと、彼の推測を補足した。俺が一から十まで説明するより、その方が俺の言葉を真実として呑み込めるだろう。
そうして皆が俺の言葉を全て真実と仮定し、話は対応策へと戻る。
「テロリストが魔法師であると公開するのは、はたして良策でしょうか。自爆役に一般市民が使われていると知られれば、結局一般市民を巻き込んだ事に変わりなくなると思いますが……」
「自爆役もテロリストだった事にしてしまいますか?その方が面倒も少ないでしょう」
「ううむ……、しかし、虚偽の情報を公開するのは危険なのでは。現状では十六夜殿しか辿り着いていない情報ですが、時間をかければ国防軍が探り当てるかもしれません」
勇海が問題点を上げ、雷蔵が解決策を返すが、克人が懸念点に目を付けてしまう。知恵ある者らが集えば、こうも話は進まない。ただし、ただの知恵ある者たちであればに限る。
「我々も自爆役が魔法師なのか半信半疑という事にしてしまいましょう。実際、我々は自爆役が一般市民であるという事を十六夜君の発言でしか得られておらず、裏が取れていないのです。閣下が確認したのも、自爆役に魔法が掛けられていた事まででしょう」
「うむ、そうだな」
弘一はその策謀能力を発揮し、問題点と懸念点をその場しのぎの形でも解決する案を出した。烈は『確認したのはあくまで自爆役に魔法が掛けられていた事だけ』という部分に首肯し、弘一の案に破綻がない事を表す。
「その案に賛同しよう。軍が自爆役を一般市民と探り当てたところで、我々も裏が取れたという
元が弘一の案に賛成票を入れ、他もほとんど賛成であるという態度を取る。ただ、克人は眉をひそめて意見を控えており、真夜は沈黙を守り続けている。他は彼らの態度が気になったようだが、すでに賛成評が過半数を超えているため、異論も出ないようなので流された。
「テロリストへの対応はどういたしましょうか」
1つの議題が終わったところで、拓巳が次の議題を提示する。
その議題は、ジードをどうするかである。
「自爆テロは被害軽微でしたが、テロ行為を事前に察知できず、予防もできなかったのは面倒ですね。敵は魔法師排斥運動を煽ろうとしているのであれば、その部分を十師族、ひいては魔法師の怠慢として非難の材料に使うでしょう」
「無論、日本魔法師の敵である以上、叩くべきだ。パペット・テロなどという非人道的行為を平然とやってのける相手。野放しにしておくのは危険すぎる」
温子が現状と、そこから考えられる敵の手を予想していた。剛毅も同じく予想できていた上に、敵の危険性も考慮し、討伐する事を進言している。
「一条殿が言う通り、排除すべき相手であるのは間違いありません。ですが、私たち十師族当主自体が動く訳にもいきません。十師族が協力して動く事は緊急時のみにしか認められておらず、それ以外の時は、政府の了解が必要となります」
「そこで、俺の出番です」
舞衣が代表して改めてそのルールを皆に認知させた。そうして皆が行き詰まったところを見計らい、俺が口を挿む。
「ジード討伐は、俺の手で行います」
「無茶だ、四葉。如何にお前と言えど、潜伏している敵を討伐するのは容易ではないはずだ」
敵の討伐に名乗り出た俺に向けて、克人はこの任務の困難さを解いた。後輩である俺への心配が先行しているのか、この場に『四葉』が2人いるのに、俺を指して『四葉』と呼んでいる。まぁ、ここに居る誰もが俺を指しての呼称だと理解しているが。
「早期決着とはいかないでしょう。ですが、周妃の情報網と四葉家のバックアップ、それと協力者があれば、1カ月はかけずに仕留められるでしょう」
「むぅ……」
俺の実力を度々その目にしてきたのがあってか、克人は唸るだけに留め、押し黙ってしまう。誰よりも早く情報を掴んだ情報網と、日本最高戦力の四葉から受ける助力。その2つも加味すれば、克人の中でも俺の言葉は充分実現可能であると、判断が下ったのであろう。
「それで、その協力者というのは誰です?」
「申し訳ないのですが、まだ募っていません。十師族子息から募りたいと思っているのですが」
「当家からは達也を遣わします」
「将輝にその任を与えよう」
温子が興味本位で協力者の詳細を訊ねてきて、俺は不甲斐ない回答をした。それで、これから集めるつもりなのを明かせば、その瞬間に真夜と剛毅が即座に自分の子息を駆り出したのだ。
その流れに乗って、他も挙って子息を駆り出そうとするが、その前に待ったがかかる。
「四葉殿、一条殿、お待ちください。達也殿も将輝殿も、まだ高校生ではありませんか。そんな彼らをテロリスト捜索に当たらせるというのは、外聞が悪すぎはしないでしょうか」
舞衣がその体面の悪さを指摘した。確かに、子供に危険な仕事をさせるというのは、社会一般の通念としては外聞が悪い。何人かが『何を今更』と言いたげであり、舞衣もあくまでそういう非難の材料を与えたくないといったような様子であるが。
「ならば、当家の
「克人さんがその役を請け負ってくれるのであれば、俺はそれで良いと思います」
「ああ。……皆様にご異存なければ、私もその役を請け負いましょう」
国家の敵と手を組んでいたため、信用が地に落ちている弘一。そんな彼の案を、俺は間髪入れずに後押しし、克人も弘一の良心を信じる形で快諾する。
ただやはり、弘一の真意を測りかねている十師族当主たちのほとんどが、決断を渋っていた。
そこで、ダメ押しの援護が放たれる。
「よろしいのではございませんか?テロリストはまだ関東に潜んでいるでしょうし、その関東をテリトリーとする七草殿と十文字殿が指揮を執るのであれば、その点はお任せいたします。信用を取り戻すために実績を得たいという事でもあるでしょうし」
確執のある真夜からの援護。ちょっと棘があるが、彼女のその意見は他の者たちに決断させる決め手となる。第一、真夜の言う通り、七草がテロリスト追跡に乗り出す理があったのだ。信用挽回という意味と、テリトリーという点で。
十師族当主たちは魔法の射程距離という観点から、箱根でパペット・テロを起こした犯人が箱根ないしその周辺に潜んでいる事を説明されるまでもなく推察していた。故に、移動できるとしても関東圏内。その範囲をテリトリーとする七草・十文字に追跡を任せるのが、十師族当主たちが考える中で最適解なのである。
そこまで考えが至っている十師族当主たちは、異存なく弘一の案を可決した。が、異存以外に、少し変わった意見が添えられる。
「七草殿。名目上は私が責任者とさせていただきますが、実際の指揮権は智一殿にお渡しします。ただ、別動隊として、四葉家の十六夜殿と達也殿、一条家の将輝殿はこちらに預けてもらえないでしょうか」
「……ええ、構いませんよ。敵は我々の目から逃れた相手です。捜索の手は多数あった方が良いでしょう」
克人の告げた、俺・達也・将輝は預かるという意見。ともすればその3人を七草に預ける事へ忌避感を覚えていると取れてしまう意見だが、捜索の手を別けるという説明で、弘一も納得した。一瞬、何か勘繰っていたが。
「では、テロリスト追跡は十文字・七草・四葉・一条の子息らに任せるという事で。我々はその傍ら、テロの再発及び、模倣犯が現れぬよう、監視を徹底いたしましょう」
ここまでに決まった事を、十師族の取りまとめ役として舞衣が総括した。
「追跡・監視を行う前に、我々の立場を明確に主張しておくべきではないでしょうか。魔法協会を通じて、テロを非難する声明と、我々が実際に行う対処を、それと、大まかに敵の素性も公表するのは如何でしょう」
拓巳が行動を移す前の下準備について話を出せば、これも皆異存なく頷く。
それで、その下準備について皆が検討していく訳だが、ここで、沈黙を守っていた人物がとんでもない意見を投下する。
「それらの情報を公開する役を、今この中で最も社会的信用がある、十六夜君にさせるというのはどうだろうか」
ずっと笑みを携えて成り行きを見守っていた烈が、待っていましたとばかりに俺を担ぎ上げるのだった。
水銀を依り代にした『付喪神』:携帯しやすく、変幻自在な『付喪神』を目指した結果、周妃が生み出した新魔法。ただ、周妃の『付喪神』適性のせいで流体のままでは操作できず、一旦別の魔法で水銀の形を整える必要がある。代わりに、一度形を整えてしまえば、『付喪神』が解けない限り、形が維持される。今回は、狼の形に整えた事によって、『付喪神』によって生きた狼のような挙動ができるようになっている。ちなみに、周妃は『Fate』の『月霊髄液』は知らない。
※以下、追記捕捉。
六塚温子:十師族当主としては克人に次いで若いため、十六夜に対して後輩という認識を少なからず持っている。ただ、どちらかというと尊敬する四葉真夜、その息子という認識の方が強い。そのため、十六夜に対しては肯定的な態度を取りがちになってしまう。後、『これ程出来の良く、魔法不使用の病気もかかっていた過去もあったというなら、真夜さんが過保護になるのも仕方ない』と、十師族会議中に起こった十六夜の嫁論争(?)に理解を示している。
八代雷蔵:十師族当主としては3番目に若い事になる彼。ただ、十六夜に対しての認識は温子と違い、後輩ではなく甥っ子という認識に近い。なので、あまりにも出来が良すぎる甥に、驚愕を隠し切れない。それと、やはり十師族当主の中では経験が浅い方になるので、努めて冷静に振る舞おうとしているが、青さが出てしまう事は抑えきれない。
七宝拓巳:息子の琢磨から時折十六夜からアドバイスをもらったという話をされており、その優秀さは把握していた。後、『あの『四葉』だからな』と、色々理解を諦めてる節はある。十六夜についてより、九島の十師族脱退を憂慮している。九島復帰の可能性は低いだろうが、少なくとも今後九島家の助力を取り付けられないかと、気を揉んでいる。
二木舞衣:十六夜に対して、『十師族子息令嬢の中ではとりわけ優秀』かつ『四葉家の教育の賜物』という認識。必要以上の警戒も、さりとて油断もせず、十六夜を見定めようとしている。それと、烈が何か十六夜を使って良からぬ事を企ててないかと、懸念ないし不安を抱えている、『いい歳して若者をたぶらかしてないか』と。
五輪勇海:十六夜の事を『あの『四葉』の子息』として警戒ないし畏怖している。ただ、十六夜が利権争いには興味がなさそうな性格なのをわずかながら感じ取ったので、敵対しなければ敵対してこないだろうと思っている。なので、体勢的に言えば中立派に収まろうとしている。
三矢元:十六夜に対して、『十師族子息令嬢の1人』として、特別視はしていない。ただ、『優秀な人物』とは内心評価している。なので、同じ十師族の人間という対等な立場で以って、しっかり議論しようとしている。故に、理論的でないなら追及するし、理論的であれば協調姿勢を示す。
閲覧、感謝します。