魔法科高校の編輯人   作:霖霧露

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第九十五話 テロへの対処の進塁打

2097年2月9日

 

 まだ日の昇らぬ薄暗さが辺りを包む明朝。人影がごく少数の鎌倉駅、その一角にて、俺・達也・克人が集まっている。

 鎌倉の西丘陵部に潜むジードを捕縛すべく集まったこの三人だが、案の定、午前4時半に設定していた集合時間の10分前に集合を果たしていた。

 

「ふむ。四葉の従者が来ていないようだが」

 

 俺たち3人が集まったところで、克人がまだ来ていない1人を訝しむ。ジードが潜む場所を正確に把握しているだろうその1人、周妃だ。

 正確には俺の従者ではないが、おおまかに言えば合っているので訂正はしない。

 

「再度ジードの潜伏場所を探りに行ったようですが……」

 

 来ていない周妃が集合時間直前まで粘っている理由を口に出せば、周妃が遠くからこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

 

「遅れまして、申し訳ありません。そして、もう1つ謝罪を。ジードに逃げられていました。件の潜伏場所には、すでにジードの気配がありません」

 

 周妃らしからず何を焦っているのかと思えば、どうやらそんな悪い報せを持ってきてしまったようだ。これまた彼女らしからず、しょぼくれた俯き顔を晒していた。

 

「家の手勢が囲む前に逃げられていたか……。動きが早いな……」

 

 相手がジードとはいえ、四葉の包囲網を抜けられるとは想像しがたい。なので、俺は包囲網を敷く前から逃げられたモノとして考える。

 

「空振りになったか……。どうする、四葉」

 

「いえ、完全に空振りという訳ではないでしょう。潜伏していた場所に何か痕跡があるかもしれません。今後の動きが読める痕跡が」

 

 克人が主目的であるジードの捕縛ができない事を空振りと称したが、俺は得られるかもしれない痕跡を差し、進塁打になる可能性を提言した。

 

大人(ターレン)の言う通り、どうやら潜伏場所に攻め入った者への罠を置いていったようです。それが調査の足掛かりになるやも」

 

「痕跡はあり、か。ちなみに、その罠ってのはお得意の死霊術か?」

 

「ええ。ジードの術にかかった死体が数体、置かれています」

 

「そいつは朗報だ」

 

 罠が置かれている事、それも、その罠が死体を用いたモノである事を俺が喜べば、克人と達也から疑念の視線が注がれる。

 

「四葉の手の者に、死体から情報を抜き出せる者がいます。ジードが魔法を施した死体なら、ジードの情報が抜き出せるでしょう」

 

 疑念をそのままにすれば疑念を深めかねないので、俺は四葉の情報収集能力、その手札を1枚ばかり明かした。

 

「死体から情報を、か……」

 

「どうぞご内密にお願いしますね?克人さん」

 

「分かっている。稀有な魔法を持つ者が居ると広めれば、その者が狙われるだろう」

 

 俺は大事な四葉の手札だから内密にするよう願ったのだが、善人である克人はその魔法を持つ者の安全を慮って内密にすると約束する。

 内心、俺は真人間というか、善性の堅物という評価を克人へ抱いた。情報を内密にするという事だけなのに、内密にする理由1つでこうも人格の良し悪しがでるものか、と。

 

「死体から情報を抜くなら、死体を残さなければいけない訳だが。敵の魔法で動き続ける死体を、どうやって残すんだ。魔法の性質次第だと、塵も残さず消さないと動き続けるんじゃないか?」

 

 情報抽出と無力化、その2つを達成できる損傷具合について、達也は懸念した。

 確かに、達也なら『グラム・デモリッション』で魔法自体を無効化できるかもしれないが、俺と克人には魔法を無力化する術なんてない。俺たちのために、そして、自身の『グラム・デモリッション』が効かなかった時のために、その損傷具合を明確にしたいのだろう。

 

「……師族会議場襲撃の際は、爆弾が爆ぜただけで動かなくなったが。……周妃、ジードの魔法は、死体がある程度欠損した場合、もしくは特定部位を損失した場合、無効化されるんじゃないか?」

 

 記憶にある限り、ジードの死体を操る魔法は、死体の何処かに魔法的な刻印をする事で発動するモノだったはずだ。

 その何処かが何処なのか、試しに周妃に聞いてみた。

 

「……ジードが頻用していた魔法では、対象の心臓に刻印を施すモノだったかと」

 

「なるほど、心臓を潰せば良いんだな。情報ありがとう、周妃」

 

「いえ、詳細までは分からず、不甲斐ない限りです」

 

 詳細までは不明でも、魔法の起点さえ分かればそれで良い。俺は周妃を責める事もせずに誉めつつ、達也と克人に目配せした。明確となった損傷具合を各々了解し、頷いている。

 

「では、ガサ入れと行きましょうか」

 

 俺の号令を以って、皆が四葉の準備したオフロード車に乗り込んでいった。

 四葉お抱えの運転手が車を走らせる。目指すはジードが潜む鎌倉の西丘陵部、木々に隠されたセーフハウスである。

 

 

 

「お待ちしておりました、十六夜様」

 

「お疲れ様です。俺たち4人で仕掛けますので、皆さんはそのまま待機でお願いします」

 

「はっ!」

 

 包囲網の一か所を担っている四葉の手勢(運転手とやり取りしていたので本物)と言葉を交わし、立ち入りも立ち退きも制限されたその包囲網を跨ぐ。

 

 罠が張られているセーフハウスへ、俺は悠々と歩いて行く。最強の矛たる達也に最強の盾たる克人、おまけにトリックスターと言えるだろう周妃が居るのだから、戦力は盤石も良いところだ。

 俺以外も同じように考えているのか、気を抜いてはいないが、その歩みに躊躇は一切ない。

 そんな勝確面子で敵のセーフハウスを望んだ時、そのセーフハウスから煙が立ち上る。かと思いきや、すぐにセーフハウス全体へ火の手が回った。

 

「……傀儡(かいらい)以外の証拠を消しにかかったか。ま、そうするよな」

 

 俺はジードの思惑を察しつつ、予想範囲内ではあったので落胆はするも愕然はしない。

 克人が念のために張った障壁魔法越しに、燃え盛る家から待ち伏せしているだろう敵が出てくるのを待つ。

 しかし、敵は姿を現す前に、魔法を飛ばしてきた。火の玉が、真っすぐこちらへ飛んでくる。だが、当然と言えば当然だが、克人の障壁魔法を貫ける訳もない。

 貫けないのを理解してか、次は障壁魔法ギリギリのところに着弾させ、草木の延焼を狙ってくる。それも、すぐに水銀を依り代にした周妃の『付喪神』によって鎮火されるのだが。

 

「……傀儡(かいらい)にされているのはサイキッカーか?起動式の展開が視えない」

 

 達也は敵の魔法を『エレメンタル・サイト』で分析し、傀儡(かいらい)の素材となった者の素性を推し量った。

 どうにも、敵は純粋な魔法師ではないらしい。さっきから炎ばかりで芸がないと思ったが、どうやら分子振動系しか使えないサイキッカー、あるいはその系統を特化調整された魔法師のようだ。後者だった場合、その魔法師を横流しした組織があるかもしれないのが、頭の痛くなる話だ。

 多少有り難いのが、そうして頭を痛める前に、達也が待ちくたびれた事か。

 

「十文字先輩、5数えます。3数えたら障壁魔法を解除、5数え終えたら再展開をお願いします」

 

「了解した」

 

 克人の障壁魔法が強力すぎるためにこちらも攻撃を通せないので、達也は一旦魔法を解くタイミングを打ち合わせする。克人はとやかく言わず、2つ返事で達也の指示に従う。

 そうすれば、打ち合わせ通り、「1、2、3」と達也が数えた瞬間に克人が障壁魔法を解き、「4、5」と数えきる前に達也がトリガー。大黒柱でも『分解』したのか、達也が特化型CADの引き金を引くのに合わせ、セーフハウスが屋根に押し潰されるように倒壊する。克人が障壁魔法を再展開しているので、間違っても瓦礫や火の粉がこっちに襲い掛かる事はない。

 

「……死体探すのが面倒になりそうだな」

 

「その心配はない」

 

 決着と勘違いした俺が死体回収の手間が増えた事に愚痴を零すが、達也はその程度のミスなどしていなかったようだ。達也が見つめる先、燃え盛る瓦礫の山は一瞬で鎮火した。消火活動を進んで行ってくれたのは、瓦礫に押し潰されたはずの傀儡(かいらい)である。

 さすがに熱された床と燃える瓦礫の板挟みには耐えかねたようで、そこから這い出るように瓦礫を押し退けて姿を現す傀儡(かいらい)・計3体。耐火性の高いだろう彼らの服は所々焼け焦げ、引き裂かれている。

 

 そんな火の手から逃れた彼らだが、命からがら(すでに死体だが)の所に、達也による追撃の手が伸びる。

 

「十文字先輩、もう一度やります」

 

「ああ」

 

 また達也・克人の即興コンビネーションを決めれば、傀儡(かいらい)たちの胸に拳大の穴が開いた。

 

(簡単すぎて欠伸どころか苦笑が出るな……)

 

 自分は必要なかったんじゃないかという状況に、俺は思わず敵へ同情してしまう。

 一応危険がないかの最終確認として、俺が動かなくなった傀儡(かいらい)たちを間近で観察する。息の根が元よりないため、大丈夫か分かりづらい。

 

「ま、刻印された心臓がなくなってるんだから、大丈夫だろ。……達也!包囲網作ってくれてる方々に連絡を―――」

 

 動かなくなった傀儡(かいらい)たちから目を離した、その一瞬だった。

 横たえ、動く気配のなかった傀儡(かいらい)たちが、まるで逆再生でもするように立ち上がり、俺へと懐に潜ませたナイフを握って飛び掛かってくる。

 全員が虚を突かれていた。皆が驚きで一拍動きが遅れており、克人や周妃はもちろん、達也すら対処が間に合いそうにない。

 だから、誰も間に合わない。俺以外は。

 もちろん、俺も驚いていた。ただ、悲しきかな、俺は驚きで思考を失おうとも、条件反射で動けてしまう超人なのである。

 近接戦闘では無類の強さを誇る伐採系超人たる俺の反射神経は、相手の持つナイフをこれ幸いにと、その握る手ごと掴み、その手ごとナイフを振るう。

 そうすれば、手ごとナイフを握られた傀儡(かいらい)1体を残し、他2体はナイフを持つ手が切り落とされる。

 それから、驚きから思考が戻ってきた俺は切り落とした手からナイフを拝借した。後は、その自由に振るえるナイフで以って、傀儡(かいらい)たち全員の首を切り落とすだけである。

 さすがに動く死体と言えど、肉を動かす司令塔がその肉と切り離されれば、もう動く事はないだろう。

 移動系や加速系で動かしていたらその限りではないが、ジードの術はそれらではなかった。これでようやく、動く死体はただの死体として地に伏せる。

 

「ふぅ……、びっくりしたぁ。心臓がなくなっても、多少の間は動かせるんだな……」

 

「……動けずにすまなかったが、一言言わせてくれ。『びっくりした』はこっちの台詞だ、四葉。よくあの状態を無傷で切り抜けたな」

 

「……まぁ、鍛えてますから」

 

 俺が突然のピンチを切り抜けた事について、克人は感心やら困惑やら混じった微妙な面持ちを浮かべる。

 超人故の現状にはその感想も然もありなん。そして、超人という埒外であるために、俺は細かい説明を省いた酷く曖昧な返しをする事になった。超人として鍛えているのは本当なので、嘘ではない。

 もちろん、嘘ではないとはいえ、納得しきれるはずもない克人。だが、彼は特に詮索してこなかった。『四葉』の秘密主義に触れると思ったのか、はたまた『四葉十六夜』のバグった身体能力をいまさら深堀する気がなかったのか。

 とかく、克人は唸って黙る。その代わりに、口を開くのは達也だった。

 

「……十六夜」

 

 達也は、地に伏せる死体を注視し、俺へと言葉を投げかける。その様子は、言葉を慎重に選んでいるように、俺には見えた。

 

「ん?何か不都合あったか?」

 

「……首を切ってよかったのか?損傷は控える話だったろう。……忘れてないよな」

 

 どうやら、達也は俺がやらかした可能性を懸念していたらしい。

 四葉の手の者によって死体から情報を抜くから、できる限り損傷させないというのは事前に話し合った事。しかし、全員がどの程度損傷を抑えれば良いか具体的には知らない。その全員には、俺も含まれる。

 

「……綺麗に切り落としたから、大丈夫じゃない、かな?」

 

「……」

 

 そのため、首を切り落として良かったのか分からない俺は、ちょっと不安になって声が震えた。そんなリーダーの自信のなさがありありと表現されたこの場で、克人と達也は死体を前に少しの間立ち尽くすのだった。

 

 ちなみにその後、頭部さえ綺麗に残っていれば良いとの事で、皆で胸を撫で下ろす事になった。

 

◇◇◇

 

2097年2月10日

 

 昨日のセーフハウス襲撃から得られた情報が降りて来ず、また、周妃の情報網からも成果が得られない日曜日。

 闇雲に動くのも良くないだろうと、家で大人しくしていたその日。雫から、お呼びがかかった。

 

「こんにちは、十六夜さん」

 

「ああ、こんにちは。雫」

 

 北山の屋敷、その洋風の一室に招かれ、雫と対面の席に座る。彼女の喋りこそ普段通りだが、ご令嬢然としたワンピースと綺麗に腰を落ち着けた佇まいは、普段と乖離していた。

 それで、デートではなく、何か真面目な話をするのだろうと、俺は察する。念のため、オフィスカジュアルな装いで来て良かった。

 

「浴衣や普段のおしゃれも綺麗だけど、やっぱり令嬢として着飾っている雫も綺麗だね。パーティーでのドレスとも違って、華やかさと奥ゆかしさのバランスが取れているんじゃないかな」

 

 真面目な話だろうと察しても、本題を早速切り出すのは着飾っている恋人に失礼だろう。だから、俺は初手に雫の装いへ感想を述べておいた。

 

「ありがとう。十六夜さんも、いつもと違うかっこよさがある」

 

「ありがとう。デート時と同じように、気合を入れてきて良かったよ」

 

 雫は頬に朱を差しながらも、誉め言葉を狼狽える事なく受け止める。さらには、俺へと誉め言葉を返した。「いつもと違って」とは不都合な解釈をされない言葉選びをしない辺り、さすがはご令嬢である。

 お互いに褒め合い、その誉め言葉を噛みしめるための一拍を置く。その一拍を頃合いとして、控えていた侍女が紅茶の注がれたティーカップを差し出した。

 「ありがとうございます」と侍女へのお礼を言ってから、その紅茶で口を潤す。紅茶への造詣は浅い俺だが、その紅茶が伝えてくる確かな味わいと香りを楽しんだ。

 

「……そういえば、あのメイドさんは連れ歩かないんだね」

 

 自分の家の侍女が目に入ったからだろう。雫はそこから俺の家にいるメイド紛い(周妃)を連想し、話題に上げた。何故だか、その話題を上げた彼女の口は、尖っているように感じられた。

 

「……あいつについて、あまり説明してなかったな。最初に言っておくと、あいつはメイドではないんだよ」

 

「……メイド服着てたのに?」

 

「メイド服着て俺の家の家事を熟してるが、違う。あいつは、訳あって俺が匿ってるんだ。あいつは、元・国際指名手配犯の娘、みたいなものでね。その犯罪者との繋がりを疑われかねないから実家では匿えないし、かといって放置するには危険なんだ。良くて神輿、悪くて後釜になりかねない」

 

 俺がメイドを侍らせだしたと勘違いされたくないので、周妃の素性について、その概略は雫に明かす。周公瑾の娘と言ったところで、周公瑾を知らない彼女には通じないだろう。それに、彼女は四葉に嫁入りしていないがため、まだ十師族じゃない。まだ十師族でもない人間にこの一応機密扱いの情報を渡すのは避けたい。

 

「……そう、分かった」

 

 俺の語り口で事情は理解したが腑に落ちないと、雫はあからさまに視線の湿度を上げた。その心境に至った所以は、まぁ、だいたい推測できる。

 

「俺の傍に素性のはっきりしない女性がいるのは気分が悪いだろうが。……大丈夫。俺の正室は雫だ。他の誰でもない」

 

 雫の視線を和らげ、また、不安を解消するために、俺は一手を打つ。

 雫の下へと歩み、片膝を付き、彼女の手を取って口づけした。中世ヨーロッパで繰り広げられた紳士淑女の一幕のように。

 

「……嬉しい。……でも、『俺の妻は雫だけだ』くらいは言ってほしかった」

 

「……いや、まぁ、真由美さんの件があるからな。そこら辺を解消しないと、さ」

 

 甘くて蕩けそうになるのを堪えるためか、雫はそんな苦い冗談を差し挿んだ。あまりに苦かったため、俺は苦笑してしまう。

 それで満足したようで、雫は笑みを零しつつ、しっかり「冗談」と明言しくれた。

 苦みを交えつつも結局は和やかで甘い空間。そこに、第三者のノックが割って入る。

 

「失礼するよ。……ふむ、これは。バッドタイミングだったかな?」

 

 その第三者とは雫の父である潮だった。自分の家だと言うのにわざわざしっかりノックまでして入室したのだが、甘い空間に割って入った事を自覚した。顔はすごくにやけているが。

 

「問題ないですよ。雫との時間なら、いつでも整えますので」

 

「それはそれは。北山家の未来は安泰そうだ」

 

 甘い空間を邪魔されたとて、いつでもまた作るという気構えをした俺。そんな俺の娘を尊重する、娘との時間を大切にしてくれる態度に、潮は満足そうだった。

 

「さて。いつでも整えてくれると言うが、余分に邪魔する訳にも行くまい。すまないが、さっそく本題に入ろう」

 

 俺を屋敷に招いた本題を達成すべく、潮はさっさとソファーに腰かける。雫も本題がある事を聞かされていたようで、2人きりを邪魔された事に文句を言う事はない。

 

「率直に訊くが。十六夜君、北山家の方から助力する必要はあるかね。マスコミに口を利く程度はやってのけよう」

 

 潮はとても真剣に、十師族を手助けできる手札を提示した。

 彼にとって、今回のテロは他人事ではない。何しろ、テロリストであるジードは反魔法師運動を煽っている。娘が魔法師である彼は、娘が反魔法師運動の被害にあうかもしれない。

 

「お心だけ、有り難く頂戴いたします。ですが、少なくとも今のところは、その必要がないかと。十師族全体で、今回の事件に当たっています。テロリスト追跡は俺を含めた若手で行っていますが、テロ再発の防止は、それぞれ十師族当主が動いています。おそらくは、それぞれのコネクションでマスコミにも対処しているでしょう」

 

 表立って動くと発表したのが俺・克人・智一の3名だ。1人は十文字家当主であるが、他は四葉家と七草家それぞれの子息。さすがに家からの支援はあるだろうが、それを踏まえても大衆は心細く感じてしまう。

 だから、しっかり当主たちも裏で動いていると、潮には情報伝達した。下手に力がある北山家が動くのは、変にヘイトを集めかねない。十師族各家ならヘイトの対処など飽きる程してきただろうが、魔法師としての歴史がほとんどない北山家では、そうもいかないだろう。

 それに、そもそも北山家の当主・潮はただの実業家、会社を経営する1人の人間にすぎない。反魔法師運動という少なくない集団のヘイトに対処しきれるかは、正直不安だ。

 

「そうか……。そうだな。少し、気が急いていたよ。娘を嫁入り前に傷物になってしまうやもと、居ても立ってもいられなくてね。しかし、君がそう言ってくれるなら、私も安心して十六夜君に任せられる。何しろ、あの記者会見での宣言は心強かったからなぁ」

 

 ちゃんと十師族が動いていると知った潮は、まさに安心したように、ソファーの背もたれへ背中を預けていた。真剣な表情も解れ、俺のあの演説を茶化せるくらいには余裕を取り戻す。

 

「……いや、別に嫁に来てもらっても傷物にはしませんからね?」

 

「何っ、家の娘が抱けないと!?孫の顔は早めに見たいんだが!?」

 

「お父さん。さすがにそれは下世話が過ぎる」

 

 真面目な本題を終えた後は、娘・義父・娘婿がするような、ちょっと下世話でありながらユーモアにあふれた歓談の時間を送るのだった。




死体から情報を抜き出せる四葉の手の者:原作同様、東雲(しののめ)吉見(よしみ)という人物。四葉家の血縁であり、黒羽文弥たちの従姉妹(いとこ)である事も原作と変わりない。今回の捕縛において、十六夜・達也・克人というドリームチームの足手纏いになりかねなかったため、現場に出張ってきてはいない。

言葉を慎重に選ぶ達也:彼が本当に言葉にしたかった事は、実は十六夜がやらかした可能性についてではない。彼はその目で、とある真実を見てしまったのだ。

 閲覧、感謝します。

※本作に関する活動報告を更新しました。詳しくは以下↓のページをお読みください。
『拙作『魔法科高校の編輯人』のストックが第百話まで溜まった件について』

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