魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第九十七話 思わぬと言うか忘れてた収穫

2097年2月14日

 

 ジード捕縛をUSNA軍に邪魔されたのは一昨日の事。それからまた追跡は手詰まりとなっている。

 いちおう、同じ捜索グループの克人たちには定期報告会にて、その一昨日の顛末を大雑把に報告。座間基地付近でジード目撃情報が上がり、それを確かめに行ったが逃げられたと、嘘はない事実を共有した。定期報告会で目立った情報はそれだけ。克人・一条はもちろん、真由美経由で報告される七草の方も進展なし。

 皆がその進展のなさに、少なくない焦りを滲ませていた。一条なんかは授業をサボる事まで考えたようだが、『組織的に動いている七草も四葉も成果なしなのだから、個人で動いても望み薄だ』と諭しておいてある。

 

 そんな皆が焦っている日々の中。第一高では甘ったるい空気が、精神的にも物理的にも漂っていた。何故かと言うと、今日はバレンタインデーだからだ。

 前世からあまり関心のない行事ではあるが、去年のこの日、机に山の如くチョコを積まれたので、さすがの俺も今日という日を記憶していた。

 だが、相も変わらず俺は保健室登校なので、そのチョコの山を拝まずにいる。もしかしたら、婚約者候補が公表された事で、チョコを俺に渡す者は減ったかもしれない。

 そんな希望的観測をしていた俺に、斜め上の現実がやってくる。

 

「十六夜さん」

 

 昼休み。保健室に恒例の見舞いをしに来た雫。その腕には、何故だかいっぱいの花束が抱えられていた。

 

「……雫。なにそれ」

 

「クラスメイトと、あと他のクラスの子から、『お幸せに』って。何人か涙流してた。心から祝福する人と、悔しさを溢れさせた人でそれぞれ」

 

「……」

 

 どうにも、俺と雫の恋愛成就に喜んだ人たちと、俺の影ながらのファンだった人たちが、チョコの代わりに花を贈ってきたようだ。いや、意味が分からないが。

 

「おい、四葉!お前の机が献花台みたいになってるぞ。この花、どうするんだ!」

 

 ついでに、雫が抱えきれなかった分を森崎が持ってきた。どんな量が贈られているのか。後、献花台はさすがに不謹慎ではないか。こっちは絶賛体調不良という名目で保健室登校なのだから。

 

「……とりあえず、風紀委員会本部の前に」

 

「教室よりはましか。分かった、献花台もそっちに設けよう」

 

「……」

 

 本格的に不謹慎になってきたが、俺は言いたい事を全て呑み込むのだった。

 

 その後、誰の悪ふざけか知らないが、献花台(仮)に俺の写真が設置され、贈られる花束も増え、献花台通り越して告別式に見紛う様相を呈したという。

 

 ちなみに、チョコは気合が入った手作りの物を雫と真由美から貰った。

 

◇◇◇

 

2097年2月18日

 

 甘ったるい日が過ぎれば、日常は世間の苦みに浸っていく。

 魔法師排斥運動が活発になっている世間。ついに、2つの事件が起こった。

 1つは、15日の反魔法師団体によるデモ。

 魔法大学正門前で行われたそのデモは、大学に不法侵入しようとするデモ隊、国防上の機密情報も保存されているがために政府の方針で大学施設を警護せざるを得ない警官、両者のもみ合いとなった。

 当然と言えば当然だが、先に拳を上げたのはデモ隊の方だ。当人らはもちろん否認している。『警官に押され、倒れたのだ』と主張している。

 

(押される前に体当たりしている動画が公開されているのだから、どの口がって話だよな)

 

 ヒステリックになった集団が迷惑を起こすのは、いつの世も変わらない。

 とにかく、その事件は暴動となったところで警官が現行犯らの逮捕に乗り出し、お開きとなった。逮捕者は現在20名。特に暴力行使が激しかったのがその者たちというだけで、暴力行使者の総数はもっと多い。

 

 事件のもう1つは、16日の反魔法主義者による暴行事件。

 被害にあったのは国立魔法大学付属第二高校に通う生徒たち。最初は女子生徒が暴漢に襲われ、後から他の生徒が助けに入ったそうだ。それにより、負傷者多数。

 暴漢側がそれぞれ、口内裂傷、歯牙破折、不整脈、打撲。

 対して第二高生徒がそれぞれ、鼻骨骨折、鎖骨骨折、肋骨骨折、鼓膜破裂、内出血、脳震盪。

 これで暴漢側が被害者面しているのだから、思わず苦笑してしまう。補足すると、不整脈を起こした暴漢は、元から不整脈を起こしやすい持病持ちだ。もう高らかに笑って良いだろう。

 

(しかしまぁ、結局こういう事件が起きてしまったか……)

 

 俺は、原作よりは魔法師排斥運動が活発化しないと思っていた。それも1つの目的として、ジードによるパペット・テロを被害軽微で抑えたのだ。でもやはり、餌あらば食いつくのが、迷惑団体というやつなのかもしれない。

 

(報道機関は、明確に二分されたが。こっちは成果あり、かな)

 

 上記2つの事件を経て、報道機関各所が魔法師に対する意見をやっと取り上げ始めた。ただし、さすがに報道機関だけあって、ヒステリックに魔法師を非難する事はない。確かにちょっと穿った解釈を報道して悪印象を与えようとする所もあるが、逆に、肯定的に解釈してくれているコメンテーターやニュースリポーターの言葉も発信している。

 おそらくは、原作より魔法師肯定派が増えているのではないだろうか。肯定的に捉える材料として、俺の記者会見が取りざたされる事が増えてきたが。そろそろ、記者たちが俺へ突撃してくる事も覚悟しなくてはならないかもしれない。幸い、自宅周辺を張られたり、パパラッチのような悪質な取材をされたりはまだしていないが。

 

(とりわけ俺を持てはやして、魔法師を肯定的に報道してくれてたのは、カルチャー・ネット・コミュニケーションか?……原作だと、七宝が小和村に魔法師を擁護するよう頼んだ故だった気がするが。……この前の七宝の様子を見るに、原作同様動いたのか)

 

 俺や琢磨に接触していた女優・小和村真紀。その実、父親が報道機関、カルチャー・ネット・コミュニケーションの社長だという話。原作ではその縁に頼って琢磨が魔法師肯定派を増やそうとしていた。その様子が、現実でも窺える。

 

(さてさて、世間についての現状把握はこのくらいにして。捜索の方について、現状把握しておかないとな)

 

 世間へと向けていた思考を切り替え、自分の仕事へ。

 

(周妃の情報網を以ってしても、足取り掴めずとは。周公瑾に頼らない情報網も、ジードは持っていたって事だろうな。用心深い事だよ)

 

 情けない話、捜索は行き詰まり状態。闇に潜む手練手管は、伊達に周公瑾の元上司ではないという事か。

 

(……仕方ない。少し地味な調査をするか)

 

 四葉と周妃に任せて成果が乏しいならと、そろそろ任せきりというのも居心地が悪くなってきたのも合わせ、自分も少し動く事にする。

 では、どう動くか。ちょっと釣りをするのである。

 

「……え?十六夜も学校近辺の警戒に出るのかい?」

 

「ああ。あわよくば、相手が仕掛けてこないかなぁって」

 

 幹比古に俺も周辺警戒に参加できないかと、打診していた。彼はさり気なく第一高周辺を警戒する志願者たち(一部が第一高自警団とか自称している集団)の実質的統括者となっているので、彼への打診が筋と考えたからである。

 ちなみに、現在の風紀委員長は俺がジード捜索で、幹比古が自警団統括でそれぞれ忙しいため、森崎が代行してくれている。雫は自警団の方に参加している事を理由にして、風紀委員長代行を投げた。

 

「……最近の魔法師排斥運動は魔法科生徒を標的にしてるから、もしかしたら件のテロリストの手先が紛れているかもっていうのは分かるんだけど。……第一高の生徒を狙ってくるかなぁ。十六夜だけじゃなく、達也も司波さんもいる。それに、最近は一条君も周辺警戒に参加してるし、第一高を狙うのは、その、さすがにやらないんじゃ?」

 

 幹比古は第一高の戦力過多を指摘した。少し相手の知能が低いかもしれない事を懸念しているようだが。

 確かに、『四葉』3人とか、そこに攻め込むのは命知らずと言われても仕方がない。

 後、一条は暇にかまけて自警団に参加しているようだ。これで下手に見積もっても十師族子息4人。そういう見方だけだと、そこを狙うのは大穴単勝賭けもかくやと言ったところか。

 でも、実態は違う。

 

「十師族4人が常時周辺警戒してればそうだろうけど。でも、俺と達也は捜索のために周辺警戒には出張らない。深雪も周辺警戒には参加してないし、正直、深雪も無敵という訳ではないんだよ。一条さんの方も、彼は殺しても構わない相手には滅法強いが、そうじゃない相手には対応しきれない。彼の得意技は、殺傷力が高すぎるからね」

 

「そうか、相手は全員魔法師って訳でもない。なんなら、傷害も避けなきゃいけない非魔法師に一条さんを囲ませて、時間を稼いでいる内に他を攻められるのか」

 

「そういう事」

 

 幹比古も理解してくれた通り、相手は『Dead or Alive(生死問わず)』ではない。『Alive Only』どころか、ノーダメージが望まれる。そうなると、『爆裂』なんて殺傷力が高い魔法は使えず、一条の戦闘力は激減する。これは、深雪にも言える事だ。深雪も、相手を無傷で無力化する術に乏しい。

 俺と達也なら、無傷とは行かないまでも、代わりに魔法を使わずに敵を無力化する術を持っている。しかし、その両者は現在、ほとんど出向している状態だ。

 こうして状況を鑑みると、意外にも第一高は狙い目なのである。

 

「とりあえず、俺が周辺警戒に混ざるのは周知しなくて良い。あくまで釣りだからね。敵に警戒されないよう、表立っては混ざってない事にする。そういう事で了解してくれ」

 

「了解したよ。十六夜の力になれるなら、願ってもない事だ」

 

 俺が勝手に自警団に混ざる事を、その統括者にして責任者である幹比古から快諾を得た。

 後はひっそり、第一高生徒という餌に敵が釣られるのを待つだけだ。

 

 そんな、のんびり構えている矢先に事は起こる。

 

 

 

 放課後になって、周辺警戒のために校外を巡っていた。途中に第一高自警団へ参加していたレオやエリカを会い、『お前(アンタ)に見咎められる反魔法主義者が可哀想だ』と、何故か相手をコテンパンにする前提で相手を哀れんでいた。魔法は使わないし、殴るとしてもワンパンノックアウトするからコテンパンにはしないのだが。

 とかく、道中顔見知りとの邂逅を経て、遠目に生徒会として活動(この時期だと、卒業式の準備だろうか)をしている深雪・水波・泉美を望んだ時である。

 

「貴方たち、何をしているのですか!」

 

 泉美は遠く、俺の方とは別方向、十数人の男性によってできた人垣へと、甲高く叫んでいた。

 どうやら、その人垣の中心に、第一高女子生徒がいるようだ。どう解釈しても悪事の現場である。幸か不幸か、『第一高は狙い目』という推測がさっそく当たった訳だ。

 

 男性らは泉美、そして深雪の存在に気付くと、標的をそちらへ変更した。ただの第一高生徒より、十師族令嬢の方が優先されるらしい。魔法力の高さで言えば、どう考えても十師族令嬢の方が優先順位は下がりそうだが。魔法は使ってこないと高を括っているのだろう。あるいは、魔法を無力化できる術を持っているか。

 後者の可能性を見定めるため、俺は歩調を緩めながら状況を静観する。後者であるならば、誰かからその手の術を提供された存在。俺が本来釣り出したいジードの手先かもしれないのだ。

 

「罪深き邪法の使い手、その首魁の娘よ!悔い改めよ!」

 

 深雪たちを取り囲んだ男性らは、そんな芝居じみた台詞を彼女らにぶつけていた。とりあえず、反魔法師主義者は確定だ。

 男性らに完全に囲まれ、神がどうだの、魔法は悪魔の所業だのと、訳の分からない思想を怒鳴られる深雪たち。しかし、そんな凝り固まった思想の持ち主たちと議論するつもりは深雪にあるはずもなく、手を上げる事もない。ただ男性らに婦女監禁の現行犯であると警告し、それでも退かない彼らの中心で防犯ブザーを鳴らした。

 鳴らした時点で男性らが手を上げてくる、少なくとも防犯ブザーを奪い取ろうと手を出すのは読めていたのだろう。あらかじめ水波に障壁魔法を張らせていた。

 勝手に魔法を使った事へ非難の言葉を向ける男性ら。深雪は毅然と自衛だと述べる。

 ここまですれば、完全に手を出せなくなった事もあり、普通だったら引き下がるだろう。普通だったらそもそも婦女監禁なんてしないというのは置いておいて。

 男性らは、普通ではなかった。彼らは、魔法を無力化する術を持っていたのだ。

 

「罰を与えよ!」

 

 魔法無断使用と声高に罪をでっち上げていた男性ら。そのリーダー格と思しき1人が合図し、それに合わせ、リーダー格の背後に控えていた4人が右腕を突き出す。

 何をしているのか、傍からは不鮮明だった。その不鮮明さを、当事者である泉美の狼狽が鮮明にしてくれる。

 

「まさか、アンティナイト!?」

 

 4人の指にはめられた指輪の正体に気付いた泉美の声が、しっかりと俺の耳に届いた。同時に、それが本当にアンティナイトである事を、俺も感じ取ったサイオンノイズと、そんなノイズの中で障壁魔法を無理に維持して呻いている水波の姿で確信する。

 

(ビンゴだ)

 

 アンティナイトは軍需品。一般人では滅多にお目にかかれないし手に入れられない。ただ、俺は一度そのアンティナイトを持つ一般人と相対した事がある。反魔法師団体『ブランシュ』構成員、ジードが裏で操っていた者たちである。

 深雪たちを囲む男性らも『ブランシュ』と断定。しかも、アンティナイトまで回されているなら、少なからずジードが糸を引いている者たちだろう。

 俺はその男性らを捕まえるべく、そして深雪たちを助けるべく、動き出す。

 

「もしもしっ、警察ですか!第一高の生徒が男性複数人に囲まれてて、今にも暴行されそうで!はい、第一高周辺の、はい、防犯ブザーが鳴ってるところです!」

 

 俺はこれ見よがしに、男性らにも聞こえるように声を大きくして通報した。そうすれば思惑通り、深雪たちに振るわれそうになっていた男性らの手が止まり、その視線は俺に集中する。

 

「き、貴様は……!」

 

「どうやら四葉直系の顔くらいは知ってるみたいだね」

 

 こちらを睨むリーダー格の男。俺はさっきの慌てたような演技を引っぺがして、彼へと微笑んだ。ちゃんと知ってて偉いねと、嘲るように。

 

「っ!そいつを囲め!四葉の直系とはいえ、我々には邪を振り払う聖なる神具がある!」

 

 リーダー格からの指示が飛び、一瞬躊躇いながらも俺を囲む集団。その躊躇いは、深雪たちを解放する事の懸念か、あるいはあの『四葉』を敵に回す恐怖か。ま、どっちでも良い話だ。

 

「アンティナイトを神具とは。また随分とペテンが効いてるな」

 

「黙れ!この神具を以ってすれば、貴様らの悪魔の力は封じられる!」

 

「……ま、確かに魔法は封じられてるな」

 

 音のように錯覚させられ、感じ取っているサイオンノイズ。それは間違いなく俺を苦しめ、魔法は封じていた。再度記述するが、魔法は封じられていた。何を言いたいかは、まさしく言うまでもないだろう。

 

「ほら、君たちの宿敵は魔法が封じられた。で?こっからどうするんだ?警察の到着でも待って自首するかい?」

 

「何処までも減らず口を……!このガキはもう無力だ!掛かれ!」

 

「そっちから手を出してくれて助かるよ」

 

 正当防衛が成立したところで、俺の遠慮が消える。

 油断しているのか、真っ正面から殴りかかってきてくれた1人目。正々堂々来てくれた(?)お礼に、がら空きのボディへ拳をプレゼント。間違っても内臓破裂しないように加減したが、大の男を悶絶させるには充分な威力があった。

 背後から殴りかかってきている2人目。そっちを見るまでもなく屈んで躱せば、素人が力任せに拳を振るったせいでバランスを崩していた。なので、その隙を狙って、骨折はしない程度で脛を蹴り払う。そうすれば、その男は顔面から地面に倒れつつ、脛の痛みで蹲る事しかできなくなった。

 左右同時に来る3・4人目。丁度対角線上だったので、後ろに少し身を退きながら、彼らのパンチに手を添えて軌道を変える。そうすると、3・4人目が勝手にクロスカウンターして沈んだ。

 伸展した伸縮警棒を振るう5人目。警棒を握る手を無駄に高く上げていたので、その懐に飛び込んでその腕を掴み、一本背負いで投げつける。コンクリートの地面はさすがに痛いようで、苦悶の声を漏らし、立ち上がる気力を失くして伸びていた。

 

 5人の成人男性が伸されているこの状況。俺は敵の弱さに呆れ返っていた。もはや傍観するだけの深雪と水波は敵に哀れむような眼で見ている。泉美は俺を拝んでいる。

 

「ヤンキーの喧嘩以下だな。せめて通信空手を受講するくらいはしなよ。後、剣道初段に対して柔道三段と言われる程、リーチってのは重要だけど。最新の警棒持って浮かれてる輩には、柔道初段も必要ないよ」

 

 伸びている5人を見下(みくだ)し、相手の稚拙さを吐き捨てた。

 

「さて、君もその手の輩かな。烏合の衆を侍らせて、高価な道具を携えて、それで自分が強くなったと錯覚するような、そんな哀れな人なのかな」

 

「こんの、ガキゃああああああ!!」

 

 見下(みくだ)す対象をリーダー格の男に変えれば、面白いくらい怒りを露にしていた。

 その男は長さ50センチのスタンウィップを取り出す。そのスタンウィップにはニュースか何かで見た覚えがあり、記憶が確かなら、警察に卸されている物。まだ市場には出回っていないはずの最新式だった。

 しかし、装備が最新式とはいえ、軽い煽りで冷静さを欠くような相手では高が知れる。

 ただ我武者羅に振られる鞭が、近接戦闘に長けた伐採系超人たる俺に当たる訳がない。

 

「……やっぱりド素人だね。ただでさえウィップ、鞭なんてのは素人じゃ扱いづらい武器だ。ほら、ちゃんと狙ってちゃんと振るわないと、ただの自爆になってしまうよ?」

 

「いぎっ」

 

 躱すついでに敵が落としていた伸縮警棒を拾い、それで鞭を叩いて軌道を変える。そうすれば、リーダー格が振るう鞭はリーダー格自身を打ち据えた。突然の痛みに、リーダー格はスタンウィップを手放してしまう。

 

「自分で自分を叩くなんて、被虐趣味(マゾヒスト)なのかい?悪いけど、俺にはそういう趣味がないから、付き合っては上げられないよ?」

 

「……殺してやる!」

 

 すこし煽り過ぎたようで、リーダー格の男は完全に冷静さを失った。リーダー格はポケットに手を突っ込み、何かを取り出そうとしたのだ。

 超人である俺は、相手のポケットの膨らみ、握りこぶしの大きさから、何をポケットで手に取ったのかをすぐに理解した。

 だから、取り出す前に、相手の顎を拳で打ち抜く。脳震盪を起こして気絶し、地面に力なく倒れたリーダー格。その手からは、手のひらサイズの拳銃、これまた最新式の物が零れ落ちた。

 

「いくら相手が魔法師だろうと、魔法師排斥運動なんて大義名分があろうと、人殺しは拙いだろうに……。というか、普通に銃刀法違反だね」

 

 リーダー格までこの稚拙さで、俺は溜息を堪えきれなくなった。

 アンティナイトに伸縮警棒、最新式のスタンウィップに小型拳銃と来ていた。そんな高価な道具を回されていた故に、ジードの手先である可能性を高めていたのだが。この稚拙さでその可能性がプラマイゼロになりそうである。

 

 とかく、反魔法主義者の暴徒は全員倒した。気絶していない連中も、さすがにリーダー格の銃刀法違反に茫然自失といった様子だ。

 俺は、警戒を解こうとした。気絶したはずのリーダー格が、虚ろな表情で上体を持ち上げるまでは。

 

 リーダー格の男はまるで糸に吊られて操られるかの如く腕を突き出せば、そこに炎が燃え上がる。明らかに自然現象ではなさそうな、紫色の炎が。

 

「魔法!?非魔法師じゃなかったの!?」

 

 泉美が皆の驚愕を代弁してくれているが、俺はその驚愕に固まっている暇がない。

 その魔法がただ炎を起こす魔法でないと、炎の発生点からプシオンを感じ取った事で察していた。

 プシオンを核に持つSB(スピリチュアル・ビーイング)。それを使役する、SB魔法である。

 SB魔法で紫色の炎とくれば、ただ延焼を目的とした魔法とは思えない。ともすれば、呪いを起こすモノである事を危惧される。ならば紫炎が放たれる前に魔法を無力化しようと、そのSBに『付喪神』を行使した。こうすれば、SBの主導権を奪えるだろう。

 そんな単純な魔法でない事を、俺は直後に理解するのだが。

 

「っ!?魔法をキャンセルできない!?」

 

 SBの主導権は『付喪神』によって確かに俺の手へと渡った。だが、魔法をキャンセルできない。まるで、強制中断のプログラムがないシステムのように、最初に出された指示を頑なに実行しようとしている。

 

(現代のSB魔法というより、古式の精霊魔法なのか!呪い返しの対策は万全らしいな、クソッタレ!)

 

 かつてより精霊魔法でやり合ってきた古式魔法師が、精霊の主導権を奪う手法を知らない訳も、その手法への対策をしていない訳はなかった。

 つまりは、このSB魔法改め精霊魔法を仕掛けてきている術者は、俺がしているような精霊魔法への初歩的な返しなど対策している、手練れの古式魔法師という事だ。

 

(どうする、一時中断できないならそのまま実行させるか!?しかし、効能が全く分からないし、あまつさえ次の発動に対処できるかも分からない。精霊魔法って、領域干渉でどうにかなるもんか!?)

 

 精霊魔法を何とか実行保留させながらも、その対処を考えあぐねる。俺自身に、打つ手があるのか分からない。

 そこに、心強い助っ人が現れる。

 

「十六夜!何がどうなって精霊魔法が使われてて、君が呪い返しをしてるんだ!?」

 

 精霊魔法の家系、吉田幹比古が第一高自警団の統括者として、この異常事態に駆け付けた。しかし、あまりにも異常すぎて状況を呑み込めていない。

 

「経緯は後!その呪い返しとやらをしてるんだが魔法が止まらない!どうすれば良い!?」

 

「……!普通だったらもう発動させてしまってからの対処が良いんだけど、確かにこんな精霊魔法は見た事がない。大陸系、なのかな……。とりあえず、まず術者を気絶させて、呪い返し対策を止めさせた上で、呪い返しするしかない」

 

「術者が近くにいない場合は!?」

 

「遅延術式でないのなら呪具とか刻印とか、絶対に魔法発動の目印になる物があるはずだ。それを壊せば、呪い返し対策も止められる!」

 

 専門家というのはやはり心強く、幹比古は俺が求めた解決策をすぐに提示してくれた。

 では次の問題として、その魔法発動の目印になっている物を探さねばならないのだが、そこも心配ない。

 何故なら、心強い助っ人は、もう1人居る。

 

「だそうだ、達也!」

 

「ああ、分かった」

 

 ジード捜索で情報収集に動いていた達也が、ライダースーツ姿で駆け込み、特化型CADを構える。その銃口は精霊魔法の起点となっているリーダー格に向いており、幹比古はまさか殺すのかと瞠目しているが、そんな訳はない。

 達也がトリガーを引いた瞬間、『分解』されたのは、リーダー格の手に塗られていた顔料だった。ほぼ肌と同じ色の塗料で刻印されていたのである。

 

「幹比古、呪い返しを!」

 

「っ!ああ!悪いけど、十六夜の呪い返しも続けてて!」

 

 呪い返し対策がなくなったところで、専門家に呪い返しを依頼する。俺の『付喪神』ではやはり真似事のようなもので、指示実行の一時保留しかできない。

 幹比古は俺の依頼を受け、何か文字が刻まれた鉄扇を取り出す。それが幹比古のCAD(もはやCADと呼んで良いのか分からないが)なのだろう。その鉄扇の文字を、特定の順番で撫でていく。現代魔法で言うところの、魔法式の構築なのだろう。そうして構築に時間がかかるため、俺に一時保留を続けさせているという事か。

 

「……ふっ!」

 

 幹比古が式を構築し終えたようで、一拍気合を入れるように息を吐けば、俺や達也に風が吹くような錯覚を覚えさせる。錯覚の原因は幹比古から放たれたサイオン。突発的にその場にサイオンが吹き荒れたために、魔法師である俺と達也はそういう錯覚をしたのだ。

 そして、吹き荒れるのは一瞬で、その後は逆に静けさすら感じる。目の前の紫炎も、嘘のように治まっていた。SBも、もう俺では感じ取れない程に沈静化している。

 

「……はぁぁ。……まったく、助かったよ。幹比古さん、達也」

 

「どういたしまして」

 

「深雪を助けてくれてありがとう、十六夜。幹比古も」

 

 俺は異常事態への警戒を解けば、気疲れから来る疲労感に逆らえず、地面に尻もちをついてしまう。そんな俺に、幹比古と達也が手を差し出した。彼らも疲れたはずだが、俺は有り難くその手を借りる。

 

「全員、動くな!」

 

 ジャストタイミングと言うべきか、遅参と言うべきか。事態が収拾したところで、警官が自身らの役目を果たしに来た。

 途中で来ても正直邪魔だっただろうから、俺的にはジャストタイミングとしておこう。

 そんな警官の取り調べをさっさと済ませるため、俺と幹比古は両手を上げて無害アピールをする。

 ただ、達也だけが俯いていたままだった。その目は何かを見つめているという訳ではなく、思考に集中しているようである。

 

「……達也。……一応手を上げておいた方が良いぞ」

 

「……ああ」

 

 如何に『動くな』という警官の言葉に従っているといえ、無害アピールをしないのは多少なり印象に響く。もし相手の警官が魔法師に差別的だったら、とりわけそうなり得るだろう。

 だから、思考しているところに悪いとは思いつつ、達也にそう注意した。思考だけなら、手を上げながらでもできるだろう。

 

「……十六夜、後で話がある」

 

 思考し終えたのか、俺に倣って手を上げた達也の目は、しっかりと警官の方へ向けられている。何か収穫があったようで、俺へとそう呟いていた。

 俺はその達也の呟きに頷きつつ、警官が反魔法師主義者でない事を祈るのだった。

 

「あ、貴方は……!も、もしかして四葉十六夜様ですか!?」

 

 警官の輝く瞳を見る限り、大丈夫そうだった。

 

「あ、あの、サインください!」

 

「……事情聴取の後で構わなければ」




ライダースーツで駆け込んできた達也:ジード捜索が行き詰まっていたため、一旦ジードの足取りを沿ってみようと鎌倉に向かっていた。だが、常に深雪を視ている『エレメンタル・サイト』が僅かな違和感を伝えてきたため、深雪の危機を直感し、深雪を守るべく引き返した。そうして、十六夜と幹比古が精霊魔法へと対処している現場に丁度居合わせる事ができたのである。

十六夜にサインを求める警官:十六夜ファンクラブの輪が、着々と広がっている。

 閲覧、感謝します。

※筆者からのちょっとしたクリスマスプレゼントです。↓
魔法科高校の編輯人if~一雫~
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