島風ちゃんは考えるのをやめた   作:黒灰

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前話で”軍葬がある”というところで〆た訳なのですが、キャラクターが死んだのです。

お詫び申し上げますが、この作品は割とキャラクターが死ぬと思って下さい。
もとい、死んだと言うべきですか。

ともかく、前作『女提督は金剛だけを愛しすぎてる。』以来1年半以上詳細を棚上げにしていた”北伐艦隊の大敗”について。
海域との対応は”北海道北東沖”です。……実は偶然だったのですが。
そこでの損害が明らかになっていきます。


彼女の本当を私は知らない

 軍葬。

 それは何をひねる必要もなく、誰かが死んだということを意味する。

 そして舞鶴鎮守府でやる以上、提督が死んだわけでなければ、それは艦娘への死出の餞として捧げられるものとして相違ない。

 

 ……なんて考えてもみたけれど、とりあえず仲間が死んだらしいのだ。

 

 艦娘の損耗率はそれほど高くない。

 というのも常人なら死ぬところでも、意外と生きているから、生き延びられるからである。

 まず手足が付け根から豪快にもげたら……それでも死にはしない。流石に首がもげたならば話は別――――――――いや、下半身と上半身が泣き別れというのも即死だろうな――――――――だけれど、艦娘はおおよそ”手足がもげて出血ショックで死ぬ”という人間の泣き所から解放されていると言っても過言ではない。”改造”中に、軍医になんとなく詳しく聞いておいたのだ。

 そして鎮守府に来てから風に聞いた話によると、手首が飛んだくらいでは撤退の直接的理由にはならないらしい。つまるところ、それのみの問題であれば、十分に継戦能力を残せているうちに入るのだ。

 そういえば、指紋認証をやり直す―――――おそらく利き手を失ったときだろう―――――のが少し億劫だ……というのは喫煙所で一度話題に出ていた。

 

 ちなみに喫煙所は寮の近くには一箇所だ。これはどの寮にとっても同じである。そして寮は固めて四棟が建っている。

 そう、喫煙所はまさに艦種を越えた交流の場なのである、不可抗力的に。皆その一箇所に集まるから。

 私がここに来た当初、交流を求めたのもそれが理由になっていた。

 

 いや、それはどうでもいい。四肢欠損の話だった。

 手首はともかく、これが足首ならば話は別。

 一応、艤装によって浮力は確保されるらしい。私自身は未だ体験していないことだけれど、艤装という重量物を背負った状態でも、一応浮いてはいられるということなのだ。ただし、死んだらその限りではないとも。例えとして適切かどうかはともかく、艦娘は死ぬまでは艦船だけれど、死んだら重荷を背負った死体……ということになるのだろうか。だから、船で言うならば舵が壊れた状態ということになる。これでは戦闘は難しい。一人そうなれば、まず戦力は二人分、あるいは二.五~三人分ダウンするだろう。

 船で言うならば曳航、艦娘の場合は―――――いや、実際曳航ではあるのか――――浮いてはいる体を、引き摺り回される。

 

 なので、艦娘が死ぬ時はまず五体満足ではないだろう。

 これはおそらく、間違いないこと。

 

 いや、それか手足があっても臓器、血液の大部分を失っている。ほぼ即死のレベルだ。いくらショックに強いとは言っても、その耐性は無限じゃない。最低限の血液すらも失えば、人間と同じく死にゆく運命なのは変わりない。

 

 ともかく、そうなると遺体が回収されるかと言う問題も立ちはだかる。

 かなり厳しいだろう。

 

 艦娘の死というのは、油断での即死でもなければ、まず差し迫った戦況の中で起きることのはず。

 そんな中、自分で浮いていることも出来ない死体を引きずり回り、かつ戦場から逃げおおせるということが可能だとは思えない。当事者たちは……虚しく悲しいだろう。

 

 しかし却って言えば、私達はこれからの軍葬で遺体と対面することはないのだ。

 ……誰かが執念で以て戦友の屍を持ち帰った、なんてことがなければ。

 いや、そうであったとしても相当ひどい死体になっているのかも。葬儀屋がどれだけ取り繕っても、公には出せない、それほどに。

 よって今回、私は艦娘の死体を見なくて済むということになる。

 

 幸いにしてか不幸にもなのか、とにかく艦娘としては新兵もいいところの私は艦娘が目の前で死ぬのを、あるいはその遺体を目の当たりしたことがない。

 けれど、それは十中八九”まだ”というだけであり、”決して”ではない。

 

 いつか、私は艦娘が死ぬ様を見るのだろう。

 その艦娘は、己自身でもありうるということも忘れてはいけない。

 死は、そう遠くないところにある。逃げ切れるかどうかは、能力、努力、直感、そして運次第だろう。

 私には、何がある?そう思うと、死の気配を背筋に感じるようだった。

 ……そうか、考えなくてはいけない一方で、取り憑かれてはならない。

 私には、まだ難しい。

 でも、私は能天気でいるつもりはなかった。

 

 ここに来た”島風”は、皆死んだのだから。

 

 

 ●

 

 

 私と早霜先生が、荷物を背負って寮に戻ってくる。久々の我が家……もとい、仮住まいというか。

 私はそもそも新入りだから、この建物にいささかの懐かしさは感じても、”Sweet”を付けるほど愛着は感じていなかった。というか、別の寮と間違えそうになることもあった。それものはず、仕方無いことだろう。

 

 だってそれは真新しい―――――舞鶴鎮守府が発足されてから作られたものだから当然だ―――――三階建て、鉄筋コンクリート造、趣は……驚くことに一切なし。聞く話によれば、他の艦種の寮も間取りを変えた程度で同じ雰囲気らしい。外観もほぼ同じだし。

 多分、かなり無機質なマンション・アパート……と言ったところだと思う。そう、どこに”Sweet”をつければいいんだ、という話。

 まぁ私は実際のマンションをほぼ知らないのだけれど。家は一軒家で、しかも木造だったから。数少ない友達の家も戸建てで、せいぜい鉄骨造……だったろうと思う。

 

 人の気配はほとんどなくて―――――元から分かりにくいのもあるけれど――――――物音がほんの少しだけ聞こえてくる程度だった。その音の主は……順当に考えて、私達と遠征に行った面子だろう。他はもう全て葬儀に参列している、あるいは準備に回っているはずだ。そう思って私達が三階へ向かって階段を登っていくと、二階に差し掛かったあたりで、そのフロアでドアの開閉音が聞こえた。もう身支度を整えたんだろう。私達は三階へとそのまま上がっていくと、

 

「何してたのよグズ、急ぎなさいよ!」

 

 私達の柔軟な――――――これは本当に馬鹿らしいことだけれど、物理的な話である―――――背中にそんな言葉を突き刺してきた。そいつは……確か、霞という名前だったと思う。

 御生憎様だが、私は彼女と話すことはまるでない。同じ艦隊にいたにも関わらず、だ。

 でも鋭い視線を送ってきた一人だということは記憶している。それも倍になって増えたうちの片方。私の暴挙を休んでいた艦娘二人に教えて、寝起きから目つきを鋭くさせた張本人だ。性格が良いとか、悪いとかは分からない。でも彼女とは決して仲良くはなれないと分かった。

 

 早霜先生は彼女の方へ軽く振り向いて、

 

「分かっているわ。急ぎますから」

 

 私は……振り向かなかった。

 先生が一度足を止めた一方で、私はそのまま階段を登っていく。

 ……私のほうが階段から遠い部屋に住んでいるからだ。

 

「でも、霞。……あなた、泣いているの?」

 

 そんな言葉を背中越しに受けた。

 ……泣いていた、って?

 

 

 ●

 

 

 階段を登りきると、……ギリギリで気が狂いそうなほど白くはない――――――窓からの明るい日差しが入ってくることはないからだ、特に曇りなら尚更――――――――そんな廊下が広がっている。

 右手側は窓、左手側にドアが並んでいる。寮室の窓は東に向いている。朝日が差し込んでくると目覚ましに都合がいいからだ。これは私がこの寮室で気に入っていることの一つだった。問題は同居人だ。

 

 彼女は主力の一人であり、名は”夕雲”と言った。早霜先生にとっては数いる姉妹艦の一人であり、その長姉にあたる艦娘だ。

 

 私は友好な関係を築く努力をしていたはずなのだけれど、すぐにその努力は無に帰した。

 ……彼女は相当の嫌煙家だったみたいだから。

 そして早霜先生から”かつて居た島風”のことを聞いてようやく今理解できているけれど、主力ということはそれなりの古株ということでもあり、”いまいましい島風”二人の目撃者である。

 彼女が煙草の匂い、過去の”島風”との遺恨、そのどちらかを許してくれればよかったのだけれど……両方重なった結果、彼女との関係は凍てついたものになった。

 関係はもはや同居人ではなかった。そう呼ぶには破綻しすぎていたのだ。彼女と話をしたのは、私がこの寮室にやってきた時から、私が初めて喫煙所に行って帰ってくるまで。最後の言葉は確か、

 

『その臭い、最低』

 

 その後、私はどういう意味かを問い掛けたりして、関係の改善のため……丸一日は粘ったと思う。

 そして理由を理解すると同時に、なんとなく諦めてしまった。

 

 そんな……ともかく苦手な部屋のドアを開けた。

 ……部屋の空気が冷たい。温さが残っている、ということもない。向こうの部屋から少しは漏れ出すはずの、暖房の痕跡……それがなかった。

 とっくに葬儀に行ったのか。それこそ朝方から準備に行くとか……。

 

 ともかく部屋に入る。

 入ってすぐ、玄関というにはささやかな土間に立つ。半畳もない広さ。タイル敷でもなくて、本当に打ちっぱなしのコンクリート。びっくりするくらいに素っ気ない。

 そして右手には、申し訳程度の下駄箱。とは言え、二人がかりでもこの下駄箱を使い切ることは出来ないだろう。履かない靴をやたら無駄に買うくらいしなければ。

 

 靴を脱いでフローリングの床に上がる。すぐ左手にはトイレがあって、右にはそれほど使われない部屋風呂。ちなみに、毎日使うのはどうやら私だけらしい。

 

 というのも、私以外の艦娘に部屋風呂が使われないのにはれっきとした理由がある。

 艦娘の大体は、寮から少し離れた位置にある大浴場へと行くのだ。

 そこまで遠くもないし、それに無料のランドリーもそこに併設されている。汚れ物が出たらその場で洗って、乾燥させて、それから帰る。

 私も最初の数日……だかは行ったけれど、実に快適なところだった。環境は。

 ……そのうちランドリーにしか行かなくなった。

 そう言えば確か、遊技場まで併設されている有様だったか。……特に興味はないけれど。

 

 そんなタダで使えるスーパー銭湯―――――いや、実際は分からない。銭湯に色々くっついているから”スーパーな”と思うだけで――――――だから、大体の艦娘はそこを選択する。裸の付き合いとランドリーでの付き合いで交流を深めて、より一層絆を育むというわけだ。

 

 ……実に男らしいシステムだと思う。誰が考えたかは知らないけれど。

 しかしながら実際、艦娘はみんな勇ましい。男性的な部分が強いのかもしれない。

 愛らしい、美しい容姿をしているけれど、中身は結局軍人なのだ。頭に”女性”は付くけど。……私も含めて、艦娘としての個性も付与されるにはしても、だ。

 

 沿岸の臭い潮風に洗われた体を水で流したかったけれど、どうやらそういうわけにもいかないらしい。何分急ぎなのだ。惜しまれるが、風呂は抜きだ。

 

 そして廊下―――――と言うにはあまりに短い。けれどそれ以外適当な言葉がない――――――と部屋を隔てるドアを開ける。

 

 ドアを手前側に開けると、殺風景な部屋。白い壁紙、そして飾り気の一切ない東窓。

 概ね左右対称……だと思う。右側が私のスペースだ。左側が夕雲。風呂場・トイレを合わせて長方形の中にコンパクトに収めるためか、ドアは夕雲のスペース側だ。

 窓際、壁にピッチリと付けてあるデスクが二つ。座ると背中合わせになる形。

 その手前、ベッドが置いてある。枕側とデスクの端はピッタリとくっつけられている。

 更にその手前は壁……もといささやかなクローゼットである。私の場合、スペースが余って仕方ない。

 

 旅の荷物だった背嚢二つを降ろしてベッドに放り投げて、私は手早くクローゼットを開ける。

 

 その中で私物と言えるのは、寝間着が2着、非番の日用の普段着がほんの少し。

 小さなカラーボックス二つに入っている。

 そして、ハンガーで吊るされているのが今も着ているこの忌々しい制服の替え3着、そしてお目当ての……軍人としての制服である。

 黒と白、それぞれ冬服と夏服。両方が礼服に相当するものだ。……一応、喪章もあるはず。

 帽子はハンガーを吊るすパイプの上に段があって、そこにぽつんと二つ置いてある。

 

 ただ実のところ、これを着て葬儀に出るのは多分私だけだろう。他は”服として”ちゃんとしているからだ。そしてそれが艦娘の制服である以上、文句の付け所はデザインにしかない。喪章を付ければ大丈夫。

 その文句の付け所が山のように積み上がるのが……私、”島風型”の制服だったとさ。

 一応艦娘の全員が軍人としての制服を貸与されたままなのだけれど、これまでもこれからも出番はほぼないだろう。これのお世話になるのは私と……後は、誰かいただろうか?

 ああ、”雪風”はダメだろう。あの格好も多分制服という言い訳が通用しない。……だから目立っても視線の5割はそっちに行くはずだ。

 

 まず手袋を外した。そして髪からリボンを解いて、それから制服を脱ぐ。セーラーまがいの何か、スカートになってないスカート、如何なものかと思う下着……そして膝上まである赤白ストライプの靴下……全部ぽいぽいとベッドの上に脱ぎ捨てていく。……全裸になってしまった。分かってはいたけれど、普通の着替えをするはずなのになんで裸にならなくちゃいけないんだ。下着姿ですらない。一つ溜息を吐いてから、カラーボックスから普通の下着、上下とストッキングを取り出して着用。ここまで来てようやく普通の人間である。

 ハンガーで吊るしてある冬制服をパイプから外して、ベッドに投げ捨てた方の制服を隅にまとめつつ、一旦ベッドに寝かせる。そしてカッターシャツ、ネクタイ、スカート、ベルトをそこから外す。そしてシャツのボタンを留め、スカートを履いてベルトして、あまりに久々のネクタイを首に締める。……クローゼットの扉には鏡が付いているから、それでチェックするけど……格好はそんなによろしくない。普段からしないことが上手くなるはずもない。

 

 それからPコート型の上着を着て、喪章を見つけられたからそれを左腕に付けて帽子を被る……そうしようと思ったけれど、そこまできてやっと、髪を結わなければならないことに気付いた。

 

 その術を少し考えたけれど、やはり艦娘になってから使っているヘアゴムしかないだろう。

 でも自分で髪を結んだことほとんどなんてなかった。艦娘になって伸びてからは後ろで雑に纏めるだけだったから。それに小さい頃、髪を長くしていた時はお母さんにやってもらっていたし、小3で髪をバッサリ切ってショートカットしてからはずっとそれで通してきたのだ。軍に入ったらなおさら短くなって都合が良かったし……でも艦娘になって髪が伸びたのだから、練習しておくべきだったんだろう。ともかくなんとか調べてお団子にしなければ。

 

 携帯でネットからお団子に纏める方法を探し出したけど……ダメだ。全くピンと来ない。理解できない。それにピンが必要だったりで、それは私が持っていない。つまり不可能。

 

 だから力なくベッドに座り込んで帽子を右隣りに置いて、

 

「どうしよう……」

 

 肩を落として俯く。でも諦めちゃだめだ。そう思って顔を上げる。

 すると自然、夕雲のベッドとデスクが目に入る。

 

 ……おかしい。

 そこにあるべきものがない。

 

 確かに、私も夕雲も、私物はそんなにはなかった。

 でも夕雲はお香を持っていた。それも線香ではなくて……いや、線香ではあったのか。仏事に使うものではないってだけで。彼女は何種類かお香を持っていた。それと、それを燃やす皿……と言えばいいんだろうか。灰を受ける皿でもあったと思う。それと、ライターじゃなくてチャッカマン。

 

 私の煙草の臭いがそんなにも気に食わないのか、私が部屋に入るたび、あるいは私がいるところに帰ってくるなり、度々お香を燃やしていた。……どうせ煙なんだから、同じ穴の狢だと少しだけ思っていた。

 私は彼女が焚くお香の香りが好きだったり、嫌いだったり、あるいは何も思わなかったりした。

 つまり、私の苦手な香りを調べて、そればかりを燃やしてやるほど陰険ではなかったのだと思う。

 ただ単純に煙草の臭いが心底嫌いなだけで。

 

 ……その、お香の皿がないのだ。

 脇に置いてあったはずの、お香も、チャッカマンも。

 

 いや、片付けたのかもしれない。

 ……本当に?

 

 そこまで考えて、もしかして……と行き着き、私は血の気が引いた。

 

 死んだのは夕雲だ。

 

 それを否定するために、あるいは確認するために、私は彼女のデスクの前に立って中身を検めた。

 ……ない。いや、彼女は私物をあまり持ち込んでいなかった。でもデスクにお香がないなら、ここにあるはず。

 

 私は、開けるべきではないと思ったけれど、義務感に駆られてクローゼットを開いた。彼女のクローゼットは壁に埋め込まれていなくて、大きめの家具としてあった。それも壁にぴったりと付けられている。

 

 深呼吸をして、一気に開ける。

 

 

 

 ……何も、なかった。

 

「死んだ?……夕雲が」

 

 見知った誰かが、死んだ。

 例えそれが良い関係ではなかったとしても、確かに、知っている人が死んだのだ。

 

 私はフラフラとしながら、自分のベッドまで後ずさり、そして、座った。

 

 死んだ。

 死んでしまった。

 

 悲しくないわけではない。でも悲しむ理由は、ただ死を悼む感情によるものであって、惜しむということではないのだ。同室であったとしても、彼女に世話になった覚えといえば……追い出されなかったことくらい。それで十分だろう、と言えるほど私は達観できない。

 

 とにもかくにも、彼女が死んだ。それは間違いないらしい。

 でも……同居人だって言うのに、どんな顔をして出ればいいのか……?

 そんなことで惑ってしまうような、そんな関係だったのだ。

 私は彼女を、何も知らない。

 ついに為人を”煙草嫌い”以外に知ることは出来なかったという、そのことを惜しむこともないのだろう。

 私は彼女を、本当に何も知らない。

 

 

 呆然としていると、ドアをノックされた。3回。

 その音に思わず体が固まった。

 

「島風?……入るわよ」

 

 早霜先生の声だった。私はそれに、

 

「……どうぞ」

 

 そう言った。聞こえるかどうか怪しいな、と思っていたけど、食い気味にドアが開いた。

 じゃあ許可を取らなくても良かったんじゃ。

 ともかく、早霜先生は入ってきた。

 ……顔面蒼白で目が赤い。それに瞼も腫れている。

 いや、まさか、そんな、もしかして、と思って口を開こうとしたら、

 

「……秋雲が死んだわ」

 

 ――――――――二人も、死んだ?

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