ちょっと加筆です。
2019/04/03
通販の扱いについて考証し直しましたので加筆。
というわけで、私は40万を銀行口座から下姉ちゃんに送金することになった。私の誠意40万というのは下姉ちゃんにとって嬉しい誤算だったみたい。実のところ、そもそもギターと他の機材とかを合わせて100万を軽く超える予算をとっくに準備していたらしい。それが思わぬところで浮いたのである。だから迷わず、アンプとかも高級品を買った。ヘッドとキャビネット合わせて30万。それにイングヴェイ……様のエフェクター、それとマルチエフェクター、シグネチャー弦、ピック、シールドケーブル、その他諸々を揃えて予算を見事に使い切った。いやもう、清々しいくらい金を使ったものだと思う。下姉ちゃん曰く、”Play Loudの時なのです”だそうだけど、意味がわからない。
ちなみに通販だけど、送り先と受取人を”大湊警備府”にすると自動でセンター止になる。そして私の場合だけは受取人を”坂神紫苑”にするように言われている。
それらは軍のトラックが回収して持ってくる。
さて、ある日の夕方頃にズドーンと荷物が届いた。守衛さんがかなり面食らっていた。提督を除いて、警備府たった一人の人間のスタッフである。
とりあえず、私達が愛用する酒持ち込み用台車が役に立ってスムーズに荷物の運び込みは出来た。……まぁ、寮の部屋には流石に持っていけなかったけど。スペース的な問題で。それで食堂の演奏スペースに直行である。するとあら不思議、ただでさえバンド楽器で一角を占領している食堂は……なんだここ。本当になんなんだろう。音楽が聞けるお洒落なレストラン、ではまかり間違ってもあり得ない。喫茶店……にしちゃあやたら広い。ライブハウス……薄暗さがまるで足りない。謎の食堂、それが一番正しくてけれど意味がわからない。
演奏スペースには、マーシャルのスタックアンプが右手にズドンと鎮座、シンセサイザーとアンプを押しのけた。それでベースアンプとキーボードアンプが仲良く左手に並ぶ。そして中央のドラムセット。ギターアンプの威圧感に押されてて……結構いかついセットだと思うんだけど、なんだか萎縮しているようにすら見える。
それで厨房でせっせと夕食の準備がされていい匂い漂う中、電源コードの配線し直しが終わった。
すると、上姉ちゃんが一歩離れてステージらしきこの場所を眺めて、ぽつねんと、
「……これさ」
「うん」
私はなんとなくその右隣に立って相槌を打つ。
「どう見てもロックバンドだよね」
「絶対そうなるでしょ」
「なにか不満でも?」
腕を組んだ下姉ちゃんが更に並ぶ。どこから見てもご満悦にしか見えない。
そして上姉ちゃんは一度首を傾げると、
「……ザ・フーだよね?」
「アルカトラスです」
「ごめん私どっちも分かんない」
私がお手上げという感じで肩をすくめると、2人は異口同音、違うテンションで、
「はぁ!?」
「はぁ……」
上姉ちゃんは半ギレ、下姉ちゃんもテンションは低いけど半ギレ、結局どっちも半ギレだ。
「おい神通、ストラトでUKならピート・タウンゼントだろ」
「ストラトでUSAならイングヴェイ様です」
「やるかおい」
「望むところです」
今度はバンド名、ギタリスト……だよね、その名前を挙げた2人ですわバトル開始か、と思っていると、
「……おい那珂、この構成で日本のバンド挙げな」
「え?」
なんで私を巻き込むのか。
「どうしてそこで日本のバンドなんですか。アルカトラスでいいでしょう」
「那珂が分かんないだろ、どーせ」
「いやわかんないけど、実際」
この構成の日本のバンドなんていくらでもいると思うんだけど。
でも、パッと思いつくのとなると……
「じゃあ、POLYSICS?」
「どんなバンドですか」
「変なバンド」
「じゃあボツ」
じゃあ聞かないでよ。
「次」
「他には?」
まだ聞くんだ。
……でも意外と思いつかない。
いやこのバンドがあった。
「フジファブリック……」
「どんなバンドですか」
「あー名前は聞いたことあるかな。どんなんだっけ」
「ポップめなロック」
「ボツ」
「軟弱な」
文句が多い姉達だ。……まぁ、フジも初代ボーカル・ギターが亡くなってから4人体勢になっただけで、実のところ5人バンドだ。まぁ、それはいいか。私も嗜み程度に聞いているだけで、ホントの好みというわけではないし。
じゃあ、ちょっと路線が変わって、
「ねごと、とかは?」
「どんなバンドですか」
もうそれと文句しか言わないマシンになりつつある下姉ちゃん。私の意見を聞く気があるのかないのかさっぱりわからない。
ともかく上姉ちゃんは、
「……どんなバンドなのさ?なんか、ネーミングの時点でゆるふわって感じがするんだけど」
「ガールズバンド」
「ボツ」
「女々しい……」
特に下姉ちゃんは自分が生物学的になんなのか分かってるのだろうか……。
でも上姉ちゃんは釣れる要素が一つある。
「ブンサテの人が最近プロデュースしたんだって」
「ブンサテ?……ってことは……うん、編成に合わないじゃん。やっぱボツ」
好きと可能かどうかは別らしい。美味そうだけど食えない餌がしっかり分かっているというのは、なんだか、うん。
じゃあ、ちょっとキワモノだけど。
「神聖かまってちゃん」
「変なやつでしょ」
「ボツですね」
なんで名前だけで即答するかな。
「まぁ確かに変だけどボーカル・ギターが変なやつってだけで」
「おい、私は変か?」
「私が変だとでも?」
変人だよ、かなり極めつけの。……とは言えずに、私は言葉を引っ込める。
となると、もうボーカルはカウントせずに楽器隊が4人ってやつをピックアップするしかない。私も大概偏ってるから、提示できる選択肢は多くない。……うーん、コレは、どうなんだろう。
「なんか思いついた?」
私が頭を捻っていると、私が言おうか言うまいかを迷っていることに気付いて、上姉ちゃんが言葉を促してくる。
うん、まぁ、言うだけなら。
「筋肉少女帯」
「名前は知ってるなぁ。どんなんだっけ?」
「……変なバンドでしょう。変な名前ですし」
「うん、変なバンド。思いっきり病んでる感じ。実際はボーカルが楽器持ってないから、楽器隊の編成が合ってるってだけなんだけど。しかも昔の頃の編成だし。ギター、ベース、キーボード、ドラムだったのって」
「ふーん……」
上姉ちゃんはなんだか興味があるらしい。下姉ちゃんはほとんど興味を示してないけど。
「よし、聞いてみよう。ボーカルなら私がやれるし。五十鈴も呼んでこよっか」
「姉さんがそう言うなら……」
え?
なんで候補に残っちゃったの?
言っちゃあ悪いけど、なんであんなのが……。
●
それで、生の音声・物音がアウトだから携帯のショートメッセージで五十鈴さんを起こして呼び出し、それで寮の談話室で集合。
大きなテレビとホームシアターまで入っている、その上ソファが円形に並んでいて、はっきり言って豪華もいいところ。多人数でつるむって感じの人間が少ないから持ち腐れ感はすごい。ちょっと昔、瑞鶴さんの快気祝いはここでやったんだけど。
そんなところで筋肉少女帯の曲を鳴らしてみることになった。……しかも初期も初期のやつを。
テレビはと言うとやけに高性能で、スマホから映像を飛ばせるというすっごいやつ。これで映像も見せられるのは、いいのか悪いのか……このバンドの場合。
テレビと画面を同期させながら、私がスマホをいじくり回す。
その隣でテレビ画面を指差しながら、
「で、那珂。どれがオススメなのさ」
「……私、ロックバンドってあなたのバンドくらいしか知らないわね。初体験かも」
なんだか楽しそうにしている五十鈴さんだけど、今回はイヤホン付きだ。音楽を鳴らしながら、その向こうで聞こえる私達の話を聞いている。よく聞こえるなぁ、と感心しきりだ。
一方で下姉ちゃんは、
「変なバンド名の変なバンドですから、あまり期待しないほうがいいでしょう」
候補に残しておいて何を言うのか。
ともかく、私も知ったきっかけはまぁ近年のソロ活動からなんだけど、確かにファースト・アルバムが衝撃的だった。しかも今でも収録曲がライブで演奏されてるという、普通に考えれば名盤中の名盤だろう。
選ぶのは筋肉少女帯『仏陀L』の収録曲から。
私の携帯の中にはデータの持ち合わせが無かったから、動画投稿サイトから見つけるしかなかったんだけど……、まぁ、探したら見つかった。オリジナルじゃなくて、ライブ映像がおあつらえ向きに。
画面にずらりと並ぶ『仏陀L』関連の動画を眺めながら、上姉ちゃんが、
「で、まずは何て曲から行くのさ」
「うーん、まず私としては、これかな。メジャー一枚目、その一発目からコレってタダのバンドじゃないって明らかに分かるやつ」
そう、筋肉少女帯はただのバンドではない。
どうしてあんな人材が集まってしまったのか、それが未だに私にはわからない。
そして、
「んで、それが『モーレツア太郎』」
「……漫画のタイトルだっけ」
「やはり変なバンドではないですか……」
「ロックバンドって、もう少しかっこいいタイトル付けると思ってたけど……」
三者三様、さっそく候補に挙げたことを後悔しつつあるらしい。まぁ、聞いたとして見直すのか首の角度がさらに急になるのかは、わからないけど。
とりあえず、再生開始。
すると映ったのは……、
「……何この人。ヤクザ?マタギ?」
なんか、ピアニストらしからぬピアニスト。しかも弾いているのが、
「……コレ、ロックのイントロじゃないでしょ」
「完全にクラシックだわ……」
全くそのとおりで、ここからどう展開してもロックに持ち込むなんてことは出来ないだろう。
「この姿でこの音色……?」
「……驚いたわ、素晴らしい表現だわ」
疑問もまっとうだし、感動もなるほどプロから見ても上手いのか、納得。
それで、固唾を飲んでピアノ独奏を見ていて、それが終わった途端。
Eコードでドジャァーンと爆音。
ロックに展開できないからブチ切って再スタートなのだった。
「どぉわっ!?」
「きゃっ!」
「うぇ!?」
音量差がやたら激しいから驚いて、当然だけど大体同じリアクション。
まぁ、普通そうなるだろうなぁ。私はある程度覚悟してたからノーリアクションだけど。
そしてボーカルがタイトルコールして曲が始まり、
『モォォレェ――――――――ツア太郎!』
……そしてしばらく聞いて、
「なんじゃこりゃあ……」
「何なんです、この下手なボーカルは……」
「クラシックとロックを混ぜたら混ざってなかった感じがするわ……」
良くも悪くも度肝を抜かれている。まぁ、私もアルバムを聞いた時は本当に言葉がなかった。意味不明な歌詞、技巧ガン無視のボーカル、そして無駄に高い、高すぎるバック陣のレベル。最後に何より、これをデビューアルバムの一発目に持ってくるというクソ度胸だ。間違いなく伝説の幕開けだったんだろう。私は当時生まれても居なかったんだけど、当時の人にとってはそうだったんだと思っている。
曲の内容はメタメタだ。
やたらパンキッシュ、負け犬根性を隠せない歌詞。
これぞ初期衝動丸ごと、原石にして完成形。
……ここから進化していくにつれて、よりプログレ寄りへアプローチしたり、ちゃんとHR/HMっぽくなったりもした。けれどそこにはきっちり文学的な面、近代日本的な”おぞましさ”をプラスしていて……。そうして彼らは決して換えのきかないバンドになっていった。
プログレ、パンク、ニューウェーブ、ハードロック、ヘヴィメタル……彼ら、たかがいちバンドを語るのに、ジャンルがやたらたくさん必要になる。音楽性が変化していっただけじゃなくて、一曲とは言わないものの、一アルバムを語るのに今挙がったワードを全部使い切るような時もあったと思う。
彼らは革新的だった。そしてそれが行き過ぎて、言っちゃあ悪いけどロックの極北だったと思う。それを更に先鋭化していくようなバンドはいなかった……少なくとも、私の知る限りでは。だから最終的に彼らが行き着いたところは、ロックという音楽における終端の一つだと、私は考えている。
そして、実は私。
このバンドがちょっと苦手なのである。
何故かと言うと、彼らはあまりに鬱屈としすぎてる。全体が死の哲学で満ちているというか。
明るい曲だって聞いたけど、やっぱり”死”という大きなテーマが背後に見え隠れしている。精神が不安定な時に一番刺さるけど、私の場合、癒やされるどころかどんどん沈んでいった。色んな意味でハマってしまったバンドだ。
……で、そんなバンドの一発目を聞いてみんなの感想は、
「変っつーか、気持ち悪いバンドだけど……なんか、他も聞きたいかもしんない。やりたいわけじゃないんだけど」
「それより、ギターソロを聞ける曲はないのですか」
「私はピアニストの人が気になるわ……なんでロックバンドに?」
もうお決まりだけど、またそれぞれ違う感想。
そんなわけで、まだ他の曲を聞くことになった。
●
例えば、
『サンフランシスコぉ!』
だと上姉ちゃんの感想は、
「変な歌詞だし何言ってるか分かんないから調べたんだけどさ……ずっと思い違いしてんのね」
「ハマってた頃にライブ映像よく見てたけど一回も綱渡りしてないね」
「作詞者誰さ」
「……作詞、大槻ケンヂ。多分」
「自分で書いたのに忘れるかぁ……?」
下姉ちゃん、五十鈴さんのクラシカル組は、
「イングヴェイ様とは違いますけれど、凄まじく鬱屈したものを感じるギターソロでした……」
「ピアノソロがすっごくドラマチックだけど……ギターソロの方は強烈さが足りない気がするわ」
「確かに、物足りないものがありますね」
「ピアノソロは書き直したらしいけど、ギターソロはそのまま、んで合体させちゃったみたいなんだよね」
で、最終的には、
「やりたくはないけどもっと聞きたくなってきた。次」
上姉ちゃんの決定に2人が頷いて、私は更に動画、音源を探すことに。
●
『ダァメダメダメダメ人間!ダァメ!にんげーん!にんげーん!』
「コミックソングだったね」
「特に何も気になるところはありませんね」
「ピアニストの人はもう居ないのかしら……」
散々である。
……多分ダメ人間を見ても心が痛くならない人達だからだろう。
私?ハートがズキズキと痛い。むしろズビズバと切られてる感じ。
それはともかく、では次行ってみよう。
●
『ばあさんとボウリング!』
「まーたコミックソングかと思ったけど何だこれ、いい曲じゃん……やべ、泣けてきた」
「何故フライングVであんなフレーズを……逆に寒気がします」
「……コレ、バンドっていうかただのカラオケじゃない?」
なんだか上姉ちゃんには刺さったらしい。他2人の感想は芳しくないけど。
私も年寄りになったらこうして人を慰められるようになるんだろうか。なれそうにないな。まず私、ばあさんになるまで生きられるんだろうか。というか、誰かのばあさんになれるのかって話。結婚のこと。
もう良いや、また次行ってみよう。
●
『なぁがぁれゆけよぉおぉおおおおおお』
「……酔ってるねー」
「……そう、ですね。酔っぱらいです、これは」
「私、初期の方が好きだと思うわ」
リアルに薬を数種類常備していた中学生一、二年生の私にとっては、死ぬほどこの曲が刺さったんだけど、やっぱりアレだ。
筋肉少女帯は私のような、いわば少数派と多数派のはざまにいるような、そういう”弱者”に刺さるけど、
「なんつーか、女々しいなぁ。ナヨっとしてるよね、大槻ケンヂ」
「負け組根性の染み付いた歌詞が気に食いません」
「私はピアノの三柴氏の関わった曲が聞きたいのよね」
こういうなんだか”強い人”達……どこか病んでるし、決して弱さがないわけじゃないんだけど、そういう人とっては、『音楽性に見るところはあるし、曲は面白いのもあるけれど……』って感じ。
つまり、嫌いじゃないけど好きでもないという。
こう、聞かせていて居心地が悪かったって、あったよね、そういう経験。
筋肉少女帯は、”ドグラ・マグラ”の呪いにかかって手首を切った私が、その後また手首に刃を当てた、そんな時にまるで引き摺り込まれるようにはまり込んだバンドだ。
私はある種正気じゃなかったわけで、つまり人と会話にならないってやつ。そんな人間の嗜好が元気な人間のそれと噛み合うはずもなかったわけだ。仕方ないか。
例えば……夜中に襲ってきたパニックの中、”死ぬ”という言葉と概念が頭の中を支配して、それでどうせ死ぬならサンフランシスコに旅に出たいと思って、でもとっくにヒッピームーブメントが終わっていることに気がついて、結局また塞ぎ込んだ。そんなこともあった。そんな思い出もある。
――――――――でも、そのうち私は別のバンドと出会って、その圧倒的すぎる”生”のエネルギーに当てられて、音楽にようやく熱中し始めた。
あんなにも一七歳が待ち遠しくなった。
言葉にはならなかったけれど、その時に”生きたい”と感じていたんだと思う。
両親は私が元気になったこと、それと『目に火が着いていた』っていうことに感嘆して、私が『欲しい』とぽつんと言った、ドラムセットを与えてくれた。とりあえず私は元気になって、はい、めでたし。
それが私というロッカーの始まり。
そうか。多分、私が今皆に聞かせたいのって、そういうバンドなんだ。
意を決して私は口を開いて、
「あのさ、こんなバンド知ってる?」
「ん?なんだ妹。……珍しく目に火が着いてるじゃん」
上姉ちゃんがニンマリと笑って、私は少し安心した。
確かに編成は違うし、音楽性だって、メタルでもUKでも、ましてやプログレッシブでもない。私が出会った別のバンドっていうのは、そう。
福岡市博多区からやってきた傾奇者。
生への、性への飽くなき執着、架空の青春を与えてくれる教祖。
”一七歳”を聖なる言葉に一層押し上げた扇動者。
やたらと登場する”少女”というワードから推し量れる、あまりの青臭さ。
……中身は、目のヤバいお兄さん、ボーカルギター。
誘い文句の意味がわからなかったベーシスト。
”おとなしい子”のギタリスト。
暇になったところを誘われたドラマー。
多分、普通のバンドだ。それだけを取ってみれば。
でも私はそんな彼らの……”伝説のバンド”の系譜に名を連ねている。
このことを誇りに思っている。
そのバンドは、
「ナンバーガール」
と、発します。