島風ちゃんは考えるのをやめた   作:黒灰

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2019/02/20
全面改稿。


A面「おひとりですか島風ちゃん(仮称)」
なぜかマイナスからの始まり


 2016年、2月。

 冬の冷たい風が、切れるような音を鳴らしている。

 まるで電動ノコみたいだ、と思うときすらある。

 

「寒っ……」

 

 今は早朝。今日は非番だし、同居人が起きて仕事へ向かうまでをやり過ごそうとここにいる。

 けれど、灰色の厚手のスウェット越し、鋭い寒さに切られて思わず身震い。声まで出てしまう。

 でも気にしない。どうせ私がいるところに人なんて来ないし。

 

 そうして、私は煙草を一本取り出すと火を着けた。

 ……プレハブの喫煙所の外、吸い殻入れの前で。

 

「外、やっぱ辛いな……」

 

 私が呟いた言葉は、きっと誰にも届かないだろう。

 一口吸った煙と一緒に、舞鶴の空へと溶けていく。

 

 メンソールのせいで口元が寒くなって、唇を思わず口の中に引っ込めた。

 長くなってしまって後ろに纏めた髪が、背中をつつくように揺れている。

 

 ……孤独だ。

 

 

 ●

 

 

 煙草を吸えば大人になれる、と思ったわけではない。

 子供が吸ったところでただ”悪い子”で終わるだけだ。

 でも事実、煙草を吸う人というのは大人びて見える。

 

 喫煙所に屯し、同僚達と友誼を交わし、上司と砕けた会話に興じる。

 知らない人にだって話しかけて仲良くなる。

 そうすると、次の日も顔を合わせるわけで、友人が増える。

 これが大人の友達作りというものか、と喫煙所という概念を知ったときに得心したものだ。

 

 喫煙所というのは、気取った言い方をすると一種の社交場なわけで、確かにそれへの参加は子供にとって憧れになりうる。

 喫煙所デビュー、即ち大人の世界への仲間入り。

 実にわかりやすいと思う。……ただし、私はそういうつもりはない。

 

 要は、単に人と知り合う場を持つべきだと思ったのだ。

 この新しい職場で。

 

 ここは舞鶴鎮守府。

 私は海軍軍人にして、─────その特殊な兵科の一つである、艦娘である。新人だ。

 

 今の私の名は、”島風”である。

 

 

 ●

 

 

 そもそも煙草を覚えたきっかけは、この”身体”が享楽に耽るのに最適だ、という話から始まる。

 

 私を艦娘に”改造”─────つまり艦娘はサイボーグ兵士だ。格好いい─────した女性軍医曰く、

 

「艦娘はだねぇ、ぶっちゃけると進化した人類とも呼ぶべきものなのだねぇ。エヴォリューション人類!エヴォリュエヴォエヴォリューション!……まぁとにかく面白いですぞぉ、酒にも強いし煙草だって吸い放題、レントゲンも血液検査も怖いものなしッ!まぁ今の所取れてるエビデンスでは、ですがねぇ……個人差もアリアリ……でもそうだ試しに目一杯酒を飲んでから採血を受けてみるといいよぉ。一応定期的に健康診断はあるんですぞぉ。でもホント嫌がらせにもならないくらい数値正常なんだよぉ、酔ってるのにぃ、凄いねぇええええええ!ホヒヒヒッヒヒウゲェッホ」

 

 一体何が嬉しいのかさっぱり分からないのだけれど、彼女は相当楽しそうだった。咽るほど笑うのだから。しかし、20代─────多分だけれど─────の女性が出していい声ではなかった。

 はっきり言って気持ち悪い。

 

 そしてその後、”改造”期間中に私が二十歳を迎えたので、そのハイテンション軍医は私に酒を勧めてきた。

 病室─────とは違うな。私は病人ではなかった─────でベッドに寝かされ、色々な機械に繋がれている私の体を起こし、ベッドテーブルに一つのコップを乗せた。褐色の液体がなみなみ、いわゆるすりきり一杯まで満たされていた。

 これは何か、と問うてみたところ、

 

「ホヒ、火の着く烏龍茶だよぉ」

 

 火の着く?というところに変だなぁ、と思ったわけなのだけれど、

 

「ささどうぞ、一気ぃ一気ぃ、ですぞぉ」

 

 まぁ祝いの酒というからには不味いこともあるまい、烏龍茶割りってやつだろう、と思って飲んでみたのだ。

 

 飲んだ瞬間、喉に火が着いたかと思った。悶絶した。

 焼けた喉を通りすがった酒が、口に舞い戻り、そして吹っ飛ぶ。

 ……平たく言うと吹き出した。

 

「おほほほう、ホホヒヒ、粗相ですねぇ二等兵殿ぉ。それにちょい残しとはけしからんですぞぉ」

 

 軍医はその褐色の燃料をなおも私に勧め続ける。

 ……嫌な予感しかしなかったけれど、私はまたその液体を口に含んだ。口から吹き出してはならない。我慢した。

 ……今度は鼻から出た。またも悶絶した。涙があふれる。

 というか気化したアルコールが目に染みて、痛くて仕方がなかった。

 胃も火力発電所のように燃え上がった。体も火が放たれたようだ。

 

 とにかく、なんとか全てを飲み干すと……急に頭を殴られたように─────けれど痛くは無かった。揺れた感覚がそうだというだけで─────気が遠くなって、私は体を起こしていられなくなった。

 

 そして私が目を覚ますと、軍医が”プレゼント”と言って採血の結果を見せてきた。……どうやら私がアレを飲んで失神したところで血を採ったらしい。

 それにしてはどこから採ったのか分からない。一晩寝た程度の時間経過だったけれど。

 なので軍医に検査の読み方とどこから血を採ったのかを聞いてみた。すると、やけにご機嫌で、

 

「ホヒッヒヒ正常値ですぞぉ─────!まぁ基準値とか人間とかなり変わってしまうのですけどねぇ、小生が艦娘用の基準値を導き出しましたのですよぉ。いやぁチョロい仕事でやりがい無かったぞぉ……しかし二等兵殿コレ見事ッ正常値ッ!特に二等兵殿ッ体がホント優秀ッ!本名も死ぬほど面白いけどッ!しかし急性アル中様症状から無処置で復帰とは素晴らぁしいッ!……ハッピーバースデー……ぜかましん、カッコ予定……あと採血の箇所は実のところわからないのが理想なんですなぁ。傷がパ─────フェクトに塞がっているということですからねぇホヒヒヒ」

 

 テンションのジェットコースターで酔いがぶり返したかと思った。気の所為だったけれど。

 それにしても”あのクソ映画”のノリで誕生を祝福される、というのは屈辱だ。絶対に許さない。

 裏切り者の名っぽく変な名前を授けやがって、許さない。

 

 

 ……まぁ、この話で分かればいいのは、艦娘に改造されると体が非常に丈夫になる、ということである。

 実際、焼けたと思った喉、鼻、目のいずれも、目覚めたときには何の違和感も感じなかったのだ。

 

 ちなみに”火の着く烏龍茶”というのは、

 

「98%エタノールで烏龍茶を抽出したものですぞぉ、度数まさにスピリタスッ!燃える烏龍茶、ドラゴン!アァチョォーウ!あ、ライターは持ち込み禁止ですので実際にファイヤーすることは出来ませんよぉ」

 

 スピリタス……というのがどういう酒なのか分からなかったけれど、非常によくわかった。わからされた。

 そんな酒とは縁のない人生を送ろうと決意したものだ。

 ……ついでにこういう人種とは縁を切りたい。

 

 

 ●

 

 

「うぅ……寒い……」

 

 焼けるような酒の味─────味じゃあない、あれは痛みだ─────を思い出しても、体が温まるはずもなかった。

 嫌な思い出に過ぎないし、心だって暖まらない。

 いくら体が丈夫とは言っても、寒いものは寒い。感性までは変化しない。

 寒いと感じる心に嘘をつこうとしても無駄だ。つけるものならつきたい。

 

 指に挟んで煙草を保持する、というのももう耐えられない。

 手足指先に至るまで凍りそうだ。多分そうならないだろうけれど。

 なのでくわえ煙草にして両手で身を抱き、脇に手を挟んだ。

 煙が少し、目に染みる。ただしあの時のアルコールよりはだいぶマシ。

 

 ……とにかく艦娘というのは、古の仮面ライダーよろしく改造人間だ。

 そこにオカルトやファンタジーの手業も含まれている、というあたり平成っぽくもあるか。

 ただし、それは一般市民には厳重に伏せられている。かくいう私も、”改造”へのお声が掛かるまで正体を知らなかった。

 

 ……海の女神はどこからともなく現れ、人類に仇為す深海棲艦を討ち滅ぼす。

 まさにヒロイックサーガの登場人物。湧いて出たような救世者。

 ご都合の宜しいタイミングで、まさしくカウンターのように現れた艦娘様。

 ……しかし、結局のところは人類の手業によって作り出された最終兵器だったと。

 それも人権・倫理ガン無視の。

 私も”改造”前に、『人権を放棄する』なんて恐ろしい書類にサインしてしまった。

 その存在に正気を疑う代物だ。

 

 まぁ、そこまでしてでも生き残りに賭けた人類、その執念の産物が艦娘……だなんて事を私は考えている。

 そしてその栄えある一員が、私。――――――――”島風”、というわけだ。

 この”島風”と言うのは、私の通称。通称にして個体名だ。

 改造の最終工程の後は、なんだか自分の名前として馴染んでしまった。

 

 艦娘の名前だけれど、同姓同名の人間が意外とこの世にはポツポツと見つけられるように、同じ名前のがそれなりに居たりするらしい。

 ただし、世にありふれたその類の偶然とは違って、私達はそのように作り変えられて出来ている。

 同じ名前。だいぶ似通った顔立ち。大方同じ性能傾向。いかにもな量産品。

 

 そんな量産品の数あるタイプの中、そこそこレアなのが”島風”、なんだそうだ。

 ただし、そんなレア物として生まれ変わった私なのだけれど、

 

「─────ハブにされる、ってのは堪えるなぁ……あぁ寒」

 

 そう。私は実のところ、喫煙所デビューの意義をとうに失っている。

 多分、”私個人”が原因じゃあない。今は……もしや”島風”にあるのではないか、と疑っている。

 とにかく私が喫煙所に来ると艦娘達は皆帰っていく。

 ここに通うようになって一週間と少し経ったけれど、今や決まって来る時間が把握されてしまったのか、一人も寄り付かない。皆、時間をズラしているらしい。

 

 ……まぁ煙草は好きになったけれど。

 疲れを癒やすのにはとてもいい。戦闘でささくれだった神経も休まる。

 それに孤独の添え物としても様になるのだ、煙草というものは。

 肺に気を使わなくていいからいくらでも吸えるし。

 

 閑話休題。 

 ……そもそも着任してすぐから違和感を感じていた。

 寮に入ったときには一応挨拶回り─────蕎麦は持ち合わせが無かったけれど─────をした。

 その時の反応が既に微妙だった。ほぼ皆揃ってぞんざいな対応。

 部屋は結構あったから、違和感を覚えたあたりから挨拶をより丁寧に改善してみたつもり、だったのだけれど、やっぱり反応に大差は無かった。

 あの視線は多分……値踏みのそれだったと思う。

 しかもかなり安く見られていた……と今は感じている。真剣に値をつけようとしていた人も居た気がするけれど、名前は覚えていない。自分だって仲間に薄情だ。人の事は言えない。

 

 そして寮は二人部屋だったから同居人がいる。

 が、その同居人からもかなり訝る視線で見られた。

 ……関係性は即、没交渉気味となった。

 

 それから一応、鎮守府の”旅行”─────各施設を見て回ることだ─────を、この鎮守府の提督直々の付き添いの下でしたんだけれど、その時にこの喫煙所を通りがかった。プレハブの中が煙で霞んでいて、けれど吹き晒す風にも負けない声でガヤガヤ賑わっているのが分かった。あれは楽しいところだ、と確信した。

 そこで、その日の晩に酒保で適当に安い煙草を一つ買って、乗り込んでみた。

 

 私の喫煙所デビュー当初、喫煙者の面々は物珍しそうな顔で私を眺めていたんだけれど、こっちから視線を合わせようとしても……おかしい、合わない。

 人並みに機微の分かるほうだと自認している私は、『あれ?』と思ったのだけれど、一旦気の所為にした。

 しかし、会話が続かないともなるともうそういうわけにも行かない。

 

 かくして数日後、私と煙草をともに吸う人はいなくなった。

 こうして私の喫煙所デビューは失敗したのである。

 ついでにいつの間にか同居人の不興も買ったようで、関係は完全に溝越しのものとなった。

 踏んだり蹴ったりだ。

 

 ……で、どうせ誰も来ないにも関わらず、なんでプレハブの中に居ないかと言うと、

 

「……私がいるせいで入れない、ってなったら忍びないし……寒いし」

 

 私は私なりに気を遣っているつもりでいる。

 私がいると入れない、って言うなら私が外に居ればいいわけだ。

 そうすれば、私を放ってプレハブの中でワイワイやれるだろうし、それすら嫌だとしても、外に出ていれば”島風がいる”と分かりやすい。

 この髪の色だから、遠目でも分かるだろう。

 わざわざ歩み寄って確認するまでもなく、”今は時間が悪い”と分かって引き返してくれる、はず。

 

 それに……今更誰かが来たところで、私の方が他人を苦手になってしまっている、気がする。

 正直会話が怖い。続かない会話が。だから始まらないほうがまだいいとすら思っている。

 私が人を嫌いなのか、人が私を嫌いなのか、もうどっちでもいいか、という感じだ。

 既に、この孤独に心底諦めがついていた。

 

 それに、ここは仕事場だ。

 別に仲良しこよしをやりに来たわけじゃあないんだ。

 出来るなら越したことはないかもしれないけれど。

 関係はビジネスライクで……と言えばいいんだろうか。私は高卒で入隊したからビジネスが分からない。

 とにかく、どんなにドライでも実害さえなければ構わないわけで、私はそういうことに拘ろうとすべきではない、はずだ。

 何より、私はもう成人したのだ。それらしく生きるべき、当然の義務だ。

 

 ……そう思いつつ、風に煽られて不味くなった煙草を啜っていると、

 

「……何故プレハブに入らないんだい?」

「え?」

 

 いきなり話しかけられて、くわえた煙草がこぼれ落ちた。そのまま地面に落ちていく。

 それを拾うより先に、声に向かって振り返ると、白髪に青眼。白い海軍帽。白いセーラーを着た艦娘がいた。この人は確か……。

 

「えっと……………響……さん、でしたっけ」

「そうだね。正式には”ヴェールヌイ”だけれど、私は”響”の方が好ましい。それと”さん”は必要ない」

「あ……ごめん、なさい」

 

 会話が久しぶりすぎて、口を開くと謝罪が出てくるようになってしまった。

 私は病気になってしまったんだろうか。そういう、いわゆる……対人恐怖というか。

 そう思って俯いていると、

 

「謝ることはない。”タメ口をきけ”と言っているだけの話さ。”わかった”とでも言うのが利口だよ」

「あ、分かり……」

 

 思わず敬語になりそうだったのを噛み潰して、

 

「わ、かっ、た」

 

 タメ口に直してみたけれど、様にならない。まるでロボットだ。サイボーグじゃあなくて。

 ここまで会話が苦手になっていたのか、と自分が嫌になる。

 確かに、元々口が上手い方ではなかった。頭の中でウジウジと考えるばかりで、なかなか言葉にならない。

 けど、ここまでおかしくはなかったはずだ。それを咎めるのか、

 

「どうして君は─────そうだな。怯えているんだい」

「え、そ、の」

 

 予想外の問いかけに、私はにわかに動転した。

 怯えている?私が?

 混乱したまま私は、

 

「─────ひ、とが……苦手、で」

 

 口に出した瞬間、失言だと悟った。

 これはバカ正直というか、喧嘩を売っていると言われても仕方がないと思う。

 その”ひと”が聞いてきたのに”ひと”が苦手、はないだろう。普通。

 私はおかしい。冷静に考えて、間違いなく、おかしい……。

 だから、怒ったふうには見えなかったけれど彼女は、

 

「そうか。私にはよくわからないね。苦手になる理由が思いつかない」

 

 それだけ言うと、去っていった。行く先は駆逐艦の寮だ。

 ……多分、夜戦明けか何かだったんだろう。背中が少し煤けている。実際に。

 

 彼女くらい、タフな精神を持ちたい。

 そう思うのは、弱い心の私にとっては当然の憧れだった。

 

 落とした煙草を拾って、吸い殻入れに入れて、けれどやっぱり今の私には。

 プレハブに入る勇気すらなかった……。

 

 

 ●

 

 

 それからまた数日、私は近海の掃海任務にしばらく従事。

 それで実戦訓練もそれなりと判断されたのか、私は”遠征”へと出された。

 世間で言うところの出張というやつに近いだろう。

 

 私含めて六人の艦娘によって組まれた艦隊で鎮守府を出て、舞鶴港を出る輸送船団と合流。

 そうして始まる、船団と速度を揃えさせられる”遠征”任務。

 正直、結構憂鬱に感じる。

 

 私は、速さこそ絶対の正義……なんてことは思っていない。

 足並みを他人と合わせるなんて当然だ。

 ”遅いほうが悪い”なんて腐った価値観のつもりはない。

 でもそんなのは戦闘速度、またはそれに準ずる速度域での話。

 

 ”遠征”は違った。

 その鈍さはひたすら”遅い”と言う言葉で頭を埋め尽くしてしまうくらいだ。

 

 今回私達に与えられた任務というのは、輸送船団の護衛。

 この輸送船団というのは、公社化された─────深海棲艦出現後にだ─────海運会社の船。

 いくら公社とは言っても、企業は企業である。

 当然輸送船は経済速度で進む。つまり、燃費と速度のバランスを取った速度だ。

 そんなのだから、戦闘と同じような速度なんて望むべくもない。

 

 私達は船団を取り囲むように方陣を組んで、どの方向からも一応の対応は出来るようにしている。そうして鈍亀─────この言葉は本来潜水艦を指すけれど─────と足並みを揃えていると、どうしても22,3ノットが限度だ。遅くなると更に下がって15ノット。全速の半分すら出ていない。私にとってはそれ以下。

 

 あまつさえ、海が時化れば護衛の陣すら崩して、水夫さん達に協力して積荷の保護を手伝うという始末。

 艦娘が本領を発揮できる場面なんて、それこそその時だけだった。船に全速で近づいて甲板に上がる時だ。私達は荒れた海でも身軽に動き、そういう芸当が出来る。

 不謹慎だけれど、ちょっとでも全力で航行できるかもしれない時、つまり時化を楽しみにしている自分がいることにも気付いてしまった……。

 

 

 

 

 そんな航海の中、ある日の昼。

 私達は航路をほぼ同じくする輸送船団と出会った。

 航海というのはルートや予定が決まってから行われているので、出会うことに驚きはなかった。”ああ、そろそろか”というだけで。

 

 船団はすれ違うにあたり、事故対策を図って動きを一度止めた。

 その船団も当然、艦娘による護衛を受けていた。

 私を含め、艦娘らは駆け寄るように海を滑り、そして出会った仲間達との束の間の交流。

 船の中で寝ていた艦娘も、足の艤装だけ装着すると飛び出すように海に降りてきた。

 

 そこにはなんと、私ではない”島風”がいた。

 私は自然、自分と同じ姿をした彼女に近づいていく。

 

 他の艦娘の様子を伺うと……どうやらこうか。

 どこの鎮守府から来ているか。

 鎮守府の雰囲気はどうか。

 他には……顔見知り同士もいるようだ。近況についても話し合っているらしい。

 

 一方で、”島風”は私に接近してくる。他の艦娘と話すつもりはないらしい。

 でも、私の今の気持ちにはちょうどいい。

 他の”島風”のことも知ってみたかったところだったから。

 それに、もしかすると同じ気持ちを共有できたり、あるいは……ぼっち問題を解決済みだったりするかもしれないのだ。私はここに期待をかけた。

 

「やぁ、私」

 

 ……そんな言葉で始まる挨拶があるものか?

 けれど気安く言うそれは、多分”島風”に留まらず他のタイプの艦娘にも付き物のジョーク……と思った。

 

 でも─────これは本当になんとなく、何となくだ─────居心地が変で、思わず辺りを見回した。眼の前の”島風”には失礼をするけど。

 

 よく見ると、同タイプで談笑する姿があった。

 なのに彼女達は”艦娘としての名前”ではなく、もっと別の呼び名で話している……と思う。もしかすると、本名なのかもしれない。

 艦娘の耳は良い。少なくとも”やぁ私”……なんて話をしていない程度は分かった。

 

 となると……もしかすると、”他の島風”を”私”と呼ぶことは”島風”の間だけのジョーク?

 眼の前の”島風”を、無礼ながらも訝るような目で見ていると、

 

「夢通信、しようよ」

 

 なんだそれ、と思った。夢と通信……?考える。

 ……ダメだ、分からない。意味不明だ。

 悩み始めた私に、彼女は続けた。

 両手を打って、ヘラヘラと笑いながら、

 

「私達は繋がってるんだよ、同じ”島風”だから」

 

 初耳の概念だった。繋がっている?どういうことだろう。

 私は素直に疑問を吐き出して、

 

「……ちょっと、意味が分からない」

 

 すると、”島風”は……少し呆けた顔になったかと思うと、すぐにまた笑い始めて、

 

「新人さんなんだね。でも今晩にも分かるよ、私が見つけたから、これであなたも”私”」

 

 本当に言っている意味は分からなかった。

 まるでたちの悪い宗教みたいな感じで、言葉の端々から電波が飛んでいる……。

 

「ね、今晩会おうね」

「よく分かんないけど」

「よろしく、私」

 

 そう言った私の手を両手で握った彼女。

 その手はなんだか湿っぽくて、けれど熱くて。

 私はそれを……なんだか嫌だなぁ、と思っていた。




突っ込んだパロディの元ネタと作品中の時間軸が合っていないものがありますが、あまり気にしないでくださいぞん
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