島風ちゃんは考えるのをやめた   作:黒灰

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真・いままでのあらすじ

 ……それから、私を放置して坂神さんと上姉ちゃんは、『手続き全スキップはやべえよやべえよ』という具合で震え上がったけど、

 

「……でも、こいつ悪くないよね。今回ばかりは。私もそれは聞いてなかったし」

「まぁ、艦娘になることに同意して艦娘になったわけでもない……のよね、この経緯だと。心神喪失でしょ実際。てなると……本当に倫理的にヤバくない?ていうか”署名してない”って特記事項なかったわよ?」

「えぇ、マジで……?にしても、現状実害は出てないけどルール、後はまさに倫理的、人道的にヤバいね。普通の艦娘は一年務めるだけで”任務中行方不明”から”死亡扱い”に出来るでしょ?」

「そうね、それが最悪の場合の抜け道というか言い訳だし」

「だよね。だから”解体”を受けて人間に戻ったとしても、”艦娘だったこと”自体を”行方不明”でカバーして問題を強引に踏み倒せる……はずなんだけど、那珂は被告人って立場だった以上そうも出来なかったよなぁ……」

「そりゃあ、そうだけど……そうよね……被告人が行方不明になったら事件が更に拗れるわけだから……その裁判が決着したのはいいけど、それで本人の生存が全国区レベルで確認されちゃってて……下手に状況を変化させるほうがヤバそうね。ともかく、こっちでどうこうする判断は不可能だわ……」

 

 えーっと、……私、藪蛇だった?というか私が蛇だったとか?

 どうしよう。私、どうすればいいんだろう、これから。

 なのでちょっと右手を上げて、

 

「えーっと……しつもーん」

「どした?」

「何?」

「私、もうここにいちゃいけないのかなーって……」

 

 そう問うてみると、

 

「いや、そこまでは……あ、そっか。そもそもこのままシャバに戻ればいいのか!」

「……そう、だよね」

 

 私、結構今の仕事もちゃんとしたいと思ってたんだけど。ミュージシャンと艦娘の二重生活になるとしても。

 何より、願ってもない二つ目の天職だし、ちゃんと恩返しもしていきたいと思うわけで。

 ただ、このまま私に居着かれたほうがもっとマズいって言うのも分かるけど……。

 

「……言われてみると”解体”受けて一般人に戻るのがベストね。今の所は”措置入院”で隠蔽出来てるし、あの手続きがスキップされてたなら……逆に”解体”もすんなり通るかも。そもそもの発端の裁判も無罪判決で終わったから、もう匿う必要もない……って─────」

 

 坂神さんが私に向き直りながらそう言って、言葉が詰まって……首をかしげながら目を見開いた。

 

「敢えて言わなかった、というか忘れてて今思い出したんだけど……アンタがいつまでたっても”お世話になりました”って言ってこなかったの、なんで?」

「あっ」

「……妹、“あっ”ってなんだよ」

 

 思わず声が出て自分でもちょっと驚いたけど、よくよく考えるまでもなくて、確かにその流れになっても全くおかしくなかった。なのに、全く“艦娘をやめたい”とは考えなかった。……理由は、わかっているけれど。

 上姉ちゃん、坂神さんにも悪いと思いつつ、なんとか笑ってみながら言葉にして、

 

「それは……えーっと、やっぱり匿ってもらってハイさよなら、ってのは考えたこともなくって、あと正直この生活に馴染んじゃったと言うか……」

「は、いや、ごめん、笑うけど……っ、真面目かよ……かははははは」

「えぇ……アンタ、メンタル弱いくせになんでドンパチに順応してんの……?」

 

 坂神さんのツッコミ、本当にご尤もだと思う。他人に言われて気付いたけど、これは引かれても仕方ない。

 けど上姉ちゃんは少し苦笑いっぽく、けれど楽しそうな声色で、

 

「んふふ、いやーこりゃ……血かな?」

「物騒な血筋もあったもんね……」

 

 ……なんというか、同じ血が流れているわけだから。

 上姉ちゃんとしては、やっぱり”姉妹”を実感できて嬉しいんだと思う。その実感の理由がヤバいけど。

 それをさておき、坂神さんは遠い目で、

 

「まぁここを出るって言っても止めやしないけど……うちの戦力的にちょっとキツいかしらーって言っとくわ」

「ああ、うん。それもそうだけどねぇ……」

「一応、誤解招かないように言っとくけど川内。一人抜けた程度でどうこうなるような方針じゃないつもりよ。実際、一人死んだし。……前提督の時もそうだけど、しばらく昼戦に出した後は事務方に回してたってのもあるんだけどね」

 

 ……“彼女”のこと。

 私達が”さよなら”をした、死出の旅に送り出した彼女。

 どうやら彼女の仕事はウォースパイトさん、金剛さんで引き取って回しているみたいで、問題は出てないみたい。だって坂神さんいっつも暇そうだし。

 

「でもね、那珂。アンタ強すぎ。大湊の最高戦力だし。アンタら三姉妹でトップ3独占よ。だからぶっちゃけると、ミュージシャン引退して艦娘に専念してくれればってのが提督としての本音」

「それは、そう……なんですよね……うん」

 

 艦娘としての私が、”那珂”が高く買われているのはまぁ、嬉しいと思う。役に立ってるってことなんだし。

 でもそれが私の将来まで完全に変えてしまうってのは、ちょっと想定外。

 第二の天職とは言っても……失礼ながら副業みたいなもので、やっぱり私はドラマーでありたい。気持ちは複雑。

 

 坂神さんが首を回してコリを解しながら、

 

「さて、まぁ……本ッ当に今更の話になるけど……だからこそ、認識は今度こそ合わせておきたいわね。”艦娘”というものについて」

 

 なんとなく心の準備が出来てたから、すぐにちょっと背筋を正した。

 となりで上姉ちゃんは深呼吸から大きなため息、

 

「はー……坂神さん、ホントごめん。その辺の認識確かめるタイミング見失っちゃってさ……。んで、情緒面と神通との関係が一気に解決して浮かれたと言うか……なんかまぁ、ガチで忘れてた。ごめん」

 

 プラチナの髪を一度掻いてからすぐ整えて、坂神さんへ一礼。

 坂神さんはすぐにそれを手で制して、頭を上げさせながら、

 

「……それは理解できるわよ。”外様”とは言え秘書艦もやってたんだから。随分長引いてて落ち着いて話すとか無理だったんでしょ」

「うーん、そういう感じ。気ぃ遣わせてごめん」

「ま、そもそも那珂が来た当時の提督、金剛の対応にも問題アリだし……でもそれは置いといて」

 

 坂神さんも一度深呼吸して、顎に右手指を添えながら、

 

「じゃあまず、そもそもよ。”艦娘の正体”を知っているのって、どういう人間なのか……いや、そうね……”どのあたりの人間までが知っているか”、分かる?」

「えっと……それが、軍の上層部、国防省に……法務省、内閣、それと……あー、公、安……でしたっけ?」

「国家公安委員会。いわゆる”公安”、公安警察とは別よ。ただ絶対”あっち”も噛んでると思うけどね」

「あ、違うんだ……すみません」

「正直普段意識しない役所なんだから、別に仕方ないわよ……ともかく、軍では基本的に将官以上、官僚は最上層部と実務上知る必要があるごく一部、内閣では大臣クラス。そんなところよ。あとは……”任務のために知る必要がある”となれば、軍でも階級問わず知らされることになる。艦娘の改造候補とか、提督とか、それに一部の軍医ね」

 

 思ったよりは多いけど、多分これが艦娘を……”使う”ための最低限必要な人間、ってことだと思う。

 それに……これはちょっと的外れかもしれないけど、

 

「えっと……つまりその、いわゆる”行政”しか知らない、ってことですよね。三権分立……の」

「……ああ、言われてみればそうね。そりゃ当然なんだけど。”普通の政治家”って言えばアレだけど、野党議員は当然、与党議員すらほとんど知らないのよ、艦娘の実態ってものを」

「まー、この辺最初から公開しておいて、腹から痛いものは取っ払っちゃった方が良かったんじゃないかなーとも思うけどね。……おおっと、今のナシで」

「別にいいわよ。その辺、私も思うところがないでもないし」

 

 ああ……行政の下に居る国家公務員としては、確かに反感の表明は良くない。

 建前というものは崩さないからこそだし。

 それより、

 

「”司法”……も知らないんですね」

「あー、そうそう。そうね、そこが今回痛いところだったわけ」

「やっぱり……あの、父からは……その、”判決受けろ”って感じの手紙が届いてたんですけど」

「それは知ってるけど、ってそこまで来ても具体的な説明無かったの……?」

「うぁー、ほんとごめん坂神さん。私も手紙は見たけど、その時点でも認識合わせ吹っ飛んでたし」

「……はいやめやめ、終わった話。何度も謝らなくていいわよ。んでー、そこがちょっとややこしい部分だったのよ」

 

 気怠げな溜息と共に、坂神さんが一度目を伏せる。そして見開くと、ちょっと違和感があるくらい穏やかな表情で、

 

「ここからはちょっと違う立場同士として……それじゃあ、”水川晴子”さん。今度こそ丁寧に説明したげる」

「は、はい……」

 

 ─────“お客さん”。それに対するものだった。

 ただ、すぐにいつもの少し不機嫌なものに戻してくれて、

 

「あのさ、前回の裁判の時はね、司法の力って圧力……コレ、逆に言うと”人前に出なきゃいけない”っていう……ある意味では”後ろ盾”があったのよ」

 

 雰囲気が戻って少し安心したけど、話題は穏やかじゃない。

 圧力、と言うと……聞き慣れた言葉だけど、受ける側になるというのはやっぱり慣れない。というか、特に感じたことがない気がする。私が受けた身柄拘束ってのは、そういう”圧力”って言うには物理的だし……。

 ともかく、ない頭……考えて情けなくなるけどそれでポンと回答を捻り出してみる。

 

「圧力に負けたのは……お父さん達……軍ですよね?司法が軍を説得する材料になった……で良いですか?」

 

 私が答えると、坂神さんは難しい顔で、

 

「そうだけど違う……というか、”関係ない”のよ。説明がややこしいけど」

「え?あの、どういう」

「まぁ……”表面上は”、が頭に付くかしらね」

「うーん……」

「あのさ、別に考え込まなくていいから。これ別にクイズじゃないわよ」

「そそ、下手に考えるより話聞く方に集中しな」

「すみません……」

「はいじゃ続き行くわよー。……まず、水川晴子被疑者、職業ミュージシャン。親が軍人というだけの”一般人”。これで軍とどう関わりがあるのって話よ。高官の子女だからって”いいとこの子”以上のことはないわよね」

「へー、じゃあ坂神さん、私のことも”いいとこの子”に見えるわけ?」

「あのね……今アンタの身の上は関係ないんだけど?……でもまぁそう見えるわよ。どっか頭おかしいのは事実だけど全然荒んでないから」

 

 真剣な話の途中だと思ったら、結局坂神さんがタバコに火を着けた。上姉ちゃんは腕組んでカラカラ笑ってるだけ。

 ちょっと物々しい話題だけど、雰囲気軽めだから少し安心していられる。

 

「それで、圧力の……力点でいいかしら、それはアンタ本人。んで、アンタの親族である中将閣下がそれを代わりに受ける。この場合水川氏、と言ったほうが良いかしら。私人という意味で」

「矢面に立ってくれてたのは、お父さん……なのはよく考えなくても、そうですよね」

 

 思い出すと罪悪感で滅入りそうになる。それも分かってはいた。

 けど、そのお父さんからの手紙だと、かなり大雑把な説明で……確か、

 

『そろそろ判決受けないと、軍がちょっとマズいかもしれない』

 

 そんなこと書いてたような……随分短い手紙で、スケジュールと、後は”領収書を切ること”って。

 よく考えると、高速バスの領収書を貰い損ねなかったのは奇跡的だった。一番忘れそうなものなのに。

 それに思いを馳せ……てもいられない。一度頭を振って坂神さんに向き直る。

 坂神さんは灰皿でジリジリ燃え続けてる煙草を右手でつまみ、一回蒸すとネジ消す。

 頬杖の体勢は変わらず、

 

「そうよ。ここで問題が発生」

「え?」

「司法からの要請もあったし、水川氏は大人しく裁判を決着させるべきと判断したみたいね。……水川晴子さん、あなたの精神疾患を理由に蹴るにも、療養期間がそれなりにあったから難しかっただろうし。んー、下手すると勾引もあり得たのかしらねぇ……勾引って分かる?司法が被告を“強制的に”召喚出来る権限よ」

「それ……直に私をとっ捕まえに来る、ってことですよね……」

「正解」

 

 坂神さんが頷いて、一瞬、時間の空白が入り込んだ感覚。

 もう終わった話なのに、背筋がひりつく。首元がなんだか、落ち着かなくて、

 

「ハルコ、落ち着け」

「んえっ、……あ?」

 

 左肩に右手を乗せられて、振り向いたら人差し指が頬にブスッと。

 えっと…………、

 

「いや、落ち着けって、なんでいきなり……」

「んー、いきなり呼吸速くなったから」

「あ……」

 

 その言葉に少し寒気がして、思わず右手が額に。……冷たい汗が手のひらに滲んだ。

 

「うーん……もう治ったと思ったのに」

「自分で分かってるとは思うけどさ、ヤバい状況を脱しただけでヤバくなりやすいのは覚えと……いや、却って覚えてないほうがいいまであるのか?まぁ頭の片隅には、とっくに置いてあるよね」

「うん……」

 

 今現在は居眠りから覚めたようにスッキリのような、悪夢から覚めて安心したような。

 それで坂神さんが置いてけぼり、かつ居所の悪い表情だったから、

 

「坂神さん、すみません」

「……まぁ、ちょっとこの話振るの不用意だったわ。こっちが悪かったから」

「あ、いや、気にしなくても」

「アンタに”私が気にするかどうか”口出す道理はないわよ。”気にしなくていい”って言われても、私が必要と感じたら配慮する、それだけ」

「……」

 

 ……なんというか、坂神さん、メチャクチャ器が大きくなったなぁ。

 ”叢雲”だったころは”有能だけどキツい人”だったのに。

 

「さて、何がマズいのかボチボチ分かってきたとは思うけど……司法は水川晴子が”父の計らいで軍保有の療養施設に入れられてる”と思ってた。ちなみに書類上、その施設はむつ市の山奥、立入禁止区域に存在する……ということになってる。まぁ、実はここのことなんだけど……それはいいとして」

 

 それはいいとして……って、ここってそういう場所だったんだ……と思っていると、

 

「ほへー、それは私も初耳だなぁ。ここ、サナトリウムだったわけ?」

 

 サナトリウムって……文学だなぁ。むしろ文学でしか知らないし。

 でも、今やフリーキーな面々がドンチャンやるようなところが……?

 と思っていると、坂神さんは椅子にふんぞり返って、

 

「結構長くここで暮らしてんだからそれモドキなのは分かってんでしょうが。アンタは昼夜逆転どころか昼に何もできないし、神通も精神の問題で流されたんだから。今やすっかりバカ天国だけどスターティングの面子にしたって……あ」

 

 “あ”ってなんだろう。

 今の、坂神さん的には失言?……ちょっと気になるけど。

 と思ったら上姉ちゃんが軽く宙を見て口を半開きにしながら、

 

「あー……ここの発足は鎮守府に遅れてだったねぇ。私もとっくに古株だけど……それより前に居たのってなると……」

「そこまで。後は本人にでも聞きなさい。この話ヤメ。話を戻すわ」

 

 上姉ちゃんが”極秘任務”で一度連絡がつかなくなったのも……私が”ああなる”より結構前の話で。

 というか、むしろ坂神さんこそがこの中で最新参。なんで事情通なんだろう。提督特典、なのかなぁ。

 一息ついた坂神さんがまた口を開いて、

 

「んで現在の居所は“実態がない”。何も知らない警察が、山奥の”立入禁止”に強制的に踏み入ったら……何もない。なんじゃこりゃ、となるわけ。痛い腹探られるどころか大当たりよ。超ヤバ、大スキャンダル」

「そうなったら……とりあえず青森県警がブチ切れ?」

「それで、被告を預かってるはずの軍に抗議ね」

「そりゃ”被告どこやった”ってね。次に青森地方裁判所もキレるよね」

「それと、それに勾引の執行を代行させた群馬地方裁判所もブチ切れ」

「あ、そっか。そこも軍に抗議……まぁ当然最高裁判所も……か。私も今まで考えないようにしてたけど、割とオオゴトというか。まぁそうなるのと天秤にかければ、当然一日かそこら誤魔化してコトを丸めるに決まってるよね」

 

 ”艦娘の正体が露見しないか”、それについて敏感になっているお偉方からすれば、万が一にも探られるわけにはいかない。それがどういうきっかけであるとしても。

 つまり、点と点が結ばれて真相発覚、なんてのも最悪。仮に私が引きこもっていたなら、一つ大きな点が打たれてしまっただろう。あまりにも大きな点が。

 

 そして同時に、私は……私自身がとんでもない“不発弾”だった、ということに気付いた。

 私の一挙一動で、政治が混乱しかねないほどの。

 

「……いい?那珂。もう済んだ話だから」

「……あ……すみません」

 

 坂神さんの声で、また自分が俯いていたことに気付いた。

 そして私が口を開こうとしたら、

 

「私がアンタに付けた評価は掛け値なし。文字通り、大湊の最高戦力。ここは確かにアレな基地ではあるけれど……実は条件さえ整っていれば超がつく”少数精鋭”なの。雪風を勘定に入れなくても、水雷戦隊であれば全基地でも恐らく最強」

「ハッハー、フカすねぇ坂神さん。でもまぁ言われてみりゃそうかもなー」

「実際、艦娘の平均練度トップはここなのよ。……まぁ、他の鎮守府の最精鋭、その落伍者の受け皿になってるからってのもかなりあるけどね」

「あー、確かに大体そんな感じだっけねー」

 

 坂神さん、大言を吐いたというか、身内を持ち上げたと思ったらあんまりノリノリではない。

 自分で言ってて情けないけど、無理もないと言うか……。

 

「えっと……夕張さんは島流しだっけ?」

「そうそう。初日の顔合わせでバリの罪状教えたっけ、確か」

「あー……うん」

「実はあいつ、元は佐世保の最古参で教導役なんだよね。言ったっけ?」

「えぇ……初耳……」

「最古参は……私達の間では”第1ロット“とも言われてる。それが瑞雲ズと鳳翔さん、あとバリ」

「うーん……”第1”ってことは、一番最初ってことだよね」

 

 坂神さんが浅く頷いて補足、

 

「そうよ。この戦争、その本当に最初期、そして”最初”に改造を受けた人間達、つまり艦娘としての最古参」

「あと、随時適性があるのを工廠に送ってるわけだから、第2とか第3とかはないんだよね」

「最古参でも島流しって……しかもなんか”ロット”って、モノみたいな言い方だね……」

「言っちゃ悪いけど、実際そうよ。横須賀で艦娘やってたころ……会計やってたけど、それ絡みでゲロ吐いたし」

「えっ……と」

「あー……そりゃ私も見たくないなぁ……”左側”に載るんでしょ?」

「右よ。……貸借と損益間違えてるでしょ」

「ん?あ、そっかぁ……しかも左は載るっていうか消える?」

「そうね」

 

 私が絶句してる間、二人であっさり目のトーンで何か……世間話。

 当然会計の話だとは思うけど……お父さんの簿記の本は私の枕になってた時期がある。

 つまり読めずに寝ちゃっていた。

 

「それに私より先にここに居た奴ってなると……あいつも?ってことは、そういうことか……」

「まぁそういうことよ。……また話脱線したから、戻すわよ?戻れる?」

「あ、その、はい……」

 

 途中から話題が分からなかったから、むしろ戻りやすくて助かるというか。

 ……本題は、

 

「まとめると……”私が裁判で判決を受けられた理由”……から、でいいです?」

「OK、戻れてる。川内の言った通り、アンタの、そして水川氏の裏にいる軍が折れてコトを丸めに掛かった。じゃあそこからよ。軍とアンタの関係は、実態はともかく、表面的にはだけど……家主と居候?かしらね。アンタはあくまで一般人。しかも表向きには軍籍すらも無いわけだから……アンタの実際の状態って”ほぼ行方不明”なのよ。軍が『患者として預かってますよー』って言ってるだけ。ここにだって”水川晴子”は居ないし。で、本人がどこにも見当たらないのに電話とかで連絡はつく、妙な状況」

「確かに……」

 

 自分自身、鏡を見て”水川晴子”って気付くかって言われると……結構怪しいと思う。

 身長とか、体型とかは変わってないとは思うけど……問題はまさに顔。

 なのに、掛かってきた仕事の電話も普通に出ちゃってるし……。

 

「もう色々ややこしいけど、なんやかんやってやつよ。異例も異例、現役艦娘が元の人間として表舞台に出られたわけ。上層部は最大限妥協した。アンタの”現在の顔”が残らなければいい、として。で、判決の日には厳重な規制をマスコミに掛けた。この規制を行うために水川氏個人が司法に”お願い”してね。これは言ったっけ。……まぁ、世間的というかゴシップ的には中将閣下の親バカ、で済まされたんじゃない?ともかくこれで、”那珂”とアンタの繋がりは見えないままに事件は終わったのよ。一件落着」

 

 私が”自分の顔が変わってる”って泡を食ってメイクしてたのに別に必要なかったとか、そういうのはさておき。

 坂神さんは説明が終わって一息ついてる……というか、あと一言言いたそうな顔。

 その予感通り、

 

「……だったのにねぇ……はぁ─────」

 

 どデカイため息。

 そりゃそうなるか、と他人事みたいな言葉が思いついたけど、私という不発弾がまた起爆の恐れアリみたいなことになってるんだから、すっごい迷惑掛けてるなぁと……。

 

「……私はもう別に、アンタがライブ出る出ないで口出ししないわよ。上がダメって言ったらダメって言うだけなんだから。こんなの、個人的な気苦労よ」

「すみません……」

 

 頭を下げると、言葉もなく右手をゆらゆらさせてまた制してきた。

 

「それで……やっと認識合ったけど、ここで伺うべきは中将閣下の思惑よ。”署名してない”っていう。……なのに、それがてんで分からないわけ。ここで最初に引き取った金剛も……医者としての所感が主で、アンタのこの特殊性については書き残してないし。だからって今から聞きに行こうにもアレがブロックしそうで今日は無理。……何かしら考えがあって署名させなかったんじゃないかとは思うんだけど」

「……まさかなぁ」

 

 上姉ちゃんが何故か首を傾げ始めた。しかもかなり急角度。冷や汗もセット。

 

「……川内?また何かあんの?」

「……いや、思う当たるところというか、その思い当たり自体がアテにならないってことというか……」

「いや、何なの?その思い当たるって」

 

 坂神さんが更に問うと、上姉ちゃんは……うっわ、見たこと無いくらい見事な苦虫噛み潰し、

 

「その─────ロクに考えてなかった可能性がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………は?」

「えっ」

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