食堂に行くと、見慣れないものを見た。というか、聞いた。
「え、なにこれ……」
「……なんか、凄い音がするな」
……エグい速度のバスドラ連打。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……と延々滅茶苦茶な速度。
私も踏めなくはないけど……ここまでのパワーは流石に出ない。無茶すればともかく、それじゃ一曲すら保たないと思う。なんというか、完全に筋力の違いを感じさせられるもの。ただ、ちょっと”鳴らしきれていない”感はある。
足が止まったから、なんとなく、食堂に入らずに立ち止まって2人で様子を伺う。
「……踏めるものだな。むしろ踏めすぎるくらいだ」
「んじゃ、次私ね」
「ああ、同じ速度でいけるだろう」
……アレ?この声は、
「瑞雲ズじゃんか、この声。あいつらドラム出来たのか……」
「うん、それもこんな─────」
と、私が言い掛けたところで、
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……って、また滅茶苦茶な速さ、やっぱりちょっと鳴りが足りない感じ。一応、自分の中でプロの面目は保った、気がする。
で、声のやり取りからして……さっきが日向さんで、今が伊勢さん─────って待った。
なんで全く同じ音がするの?
疑問の答えを確かめようとして、食堂に踏み込んだ。
……やっぱり、伊勢さんがバスドラを踏んでいた。
その脇で日向さんが腕を組んで見守っている。
でも、おかしい。
なんでこの二人、ほぼ完璧に同じ出音?
違いが分からない。本当に同一人物の、同日の、同じ時間帯の別テイク、それくらいの違いしかない。
足の動かし方や癖、サイズ、筋力、体重、タイム感や好みとか、そういうのが複雑に絡まって……一絡げにすると“音の感じ”として色々な特徴で現れる。
見た目から想像もつかない音を鳴らすドラマーだってごまんと居るし、反対に全く違う体格のドラマーが似たような出音を鳴らしていることだってある。
なのに、出音の特徴がここまで一致している。ここまで出音が似るドラマーを、私は知らない。確かに二人共同じような体格だし、パワー感にも説明はつくけれど……。
それに呆然としていると、
「那珂、何ボーッと突っ立ってんのさ」
「いや、耳を疑うっていうか……」
「そりゃ、この速度はヤベーなと思うけどさ……」
本当の異常さに気付いていない上姉ちゃんには目線もやらず、私は二人の様子をじっと見ていた。
それに気がついたのか、日向さんが微笑みながら右手を挙げる。
えーっと。
……一応、完全に私だけが叩いていい、ってつもりでもなかったけどね?
領収書的には大湊の備品なんだし、セッティングさえ致命的に変えられてなければ構わない。
ただ、一応一言断りは欲しかった気もする。そういう、ちょっとした釈然としなさ。
でもあの二人って、多分そういう分別くらいはある人間のはずだし、だったら誰かに……あ、下姉ちゃんか。
私に代わって許可出せるような、というか平然と許可しちゃうのは……そうだよなぁ。
それで下姉ちゃんを探すと、楽器スペースの近くの机で……あ、もうデザート食べてる。
その上軽く首まで振ってるし、表情と裏腹にノリノリみたいだ。動きを見るに……バスドラの……3拍で浅く首が下がって3拍で戻ってを繰り返してるから……6連?
「……あ、持ち主来た。ごめんねー、神通の許可は取ったけどー」
伊勢さんがペダルを踏むのをやめて私に手を振って笑いかけてきた。
やっぱりか、という感じで苦笑いになる。
そして下姉ちゃんと目が合って、
「……何か不満でも?」
「……いや、全然」
あるけど。ちょっとくらい。
●
今回は伊良湖さんが食堂の当番。
多分私達が最後くらいなわけで頭が下がる。……まだ坂神さんもいるにはいるけど。
「今日のメインは何かなーっと……」
「豚の生姜焼きですよ。今回、結構たっぷり目ですね」
「おおー、いいじゃん。前々から思ってたけど、伊良湖ん時はやっぱ食いでがあっていいよねぇ」
「わかります?……そのあたりは、私達も個性を出していこう、っていう試みですね。均質に作る、というのも大事なんですけれど、やっぱり個々人の好みを出せるほうが楽しいですから」
食堂では間宮さん、伊良湖さん、大鯨さんの三交代制で食事を作ってくれる。
でも伊良湖さんが楽しそうに話していたように、当番ごとに個性がちょくちょく出ているのだ。
間宮さんは味付けちょっと薄め、その代わりにお出汁重視。和洋中何でも作れる。なおかつ栄養バランスを完璧に整えた、至高の食事。それを真っ向から踏み倒すのが我らの提督……もう提督じゃなかった、今はウォースパイトさん。他の二人はわりかし粛々と特別メニューを作るんだけど、間宮さんだけが未だに抵抗を試みてる。二人の喧嘩とも言えないじゃれ合いというか、そういうやり取りは日常茶飯事。
伊良湖さんは……上姉ちゃんが言う通りにちょっと量多め。それに三人の中でも肉系の料理が一番美味しい。脂は程よく落とすように気を使ってるみたい。でも、スパムの脂は落とさない。落とさせてもらえてない。……ちなみに坂神さん一番のお気に入りと目している。伊良湖さんの牛肉料理が出てくると露骨に機嫌が良くなるから。どうせ鳳翔で更に食うし飲むんだけど。
ちなみに大鯨さんは……もう正体がバレてる。脂っこいもの大好き。フライ、天ぷら、唐揚げ、素揚げ、オイル漬け、油ものなんでもござれみたいな。その場で酒飲みたくなるメニュー目白押し。
最近のびっくり料理はあの”天一”風ラーメン。ついに〆完備。
ただ、ドロドロ感は似てるけど、ぶっちゃけ野菜ポタージュ。全然胃に来ないから朝でもイケる気がした。多分、間宮さんに口出しされたんだろうな……。二人共釈然としない顔だったし。誰かさんはそのトッピングにスパムマシマシを請求。間宮さんの口出し、台無し。
というわけでご飯の載ったお盆を持って、楽器スペースそばの机、下姉ちゃんの待つ机に。
「さ……て、と。現況聞く?」
「ええ、お願いします」
上姉ちゃんがお盆を置いて座りながら切り出し、下姉ちゃんが応える。
私も続けて隣に座る。
「……いただきます」
「いただきまーす、っと……。あ、神通。今まで控えてたけど、お父さんに電話しよう。それでナシをつける」
「……やはり、そういう方策で行きますか」
下姉ちゃんは予想済みだったみたいて、携帯をスッと取り出して机の上に。
そういえば、私携帯持ってきてなかった。あの場で電話ってなったら怒られるところだったのかも……。
「今掛けますか?」
「んー、いや。親しき仲にもってやつ。流石に飯の片手間でそういうお願いは駄目だと思うし」
「そうですね」
……とりあえず、まずは落ち着いてご飯を。
と思っていたら伊勢さんと日向さんがこちらに寄ってきて、
「那珂、ちょっといいか?」
「……え、はい」
味噌汁を一口してから返事。今までこうして話しかけられることってなかったから、ちょっと新鮮。
「あのツインペダル、すっごい軽いよね」
「DWの……9000か。当然だが、アイアンコブラとは大違いだった」
え、ペダルの話?
そう思いつつ汁のお椀をお盆に置き直して、あと箸も一応箸置きに。
「あー……はい、私も試したことあったんですけど、結局軽かったDWに……」
「まぁ、そうだろうな……今こうして軽いペダルを踏んでみると……ハハ、確かにアレはちょっと重いな」
「っても、私達昔から図体大きかったから普通に踏めたんだよね。あとメタル専門だったしほぼ一択だったっていうか」
「それに意外と安かったからな……DWも試しに踏んだが、値段を見て見送ったよ」
「えっと……確かにちょっと割高って感じですよね。TAMAとかと比べると」
確かにDW、ちょっと高い。
でもやっぱり商売道具だし、私のジャンルは手も足も忙しい。だから軽く踏めて、なおかつ安定してる必要があったから、ハイハットスタンドもDWに。あ、財布から万札がサッパリ消えた感覚を思い出して……ちょっとヒヤッとしてきた。けどまぁ、
「……でも、モノは良かったから、いい買い物だったなって」
「そうだな。その通り良いペダルだと思う。まぁ、私達がTAMA派であることは変わらんが」
「やっぱメタルはTAMAだよ、TAMA」
「あ、スネアは私もTAMAです。その……あー、ピエール中野モデルなんですけど」
……他人のシグネチャー使うって、未だにちょっと恥ずかしいから言うのを躊躇いそうになった。
その割にドラムセットはお父さんが最初に買ってくれたもの基準で選んできたし、シンバルも同様だったり。
「ふむ……ピエール中野……どこで聞いた名前だったか」
「私達洋楽のコピーばっかりやってたから、邦楽はホント疎くってね」
「えっと、凛として時雨ってバンドのドラマーなんですけど……」
「あー……それも名前は、だな」
「ジャンルは?せっかくTAMAだし、結構うるさ目のバンドだよね?」
「あ、まさにそういう感じです。ポストハードコア。私、畑はそこで」
「ほぉ、ハードコアか……那珂がか。イメージや見た目にはよらんな」
「結構ギャップ凄いねー。しかも最近は五十鈴、川内ととジャズやってるわけだし、余計に不思議だよ」
「あはは……」
それにしても結構話が通じる。
……というかドラマー同士の会話ってすっごい久しぶりだ。まだまだおっかなびっくりの距離感だけど。
「……なんか詳しい話だなー。瑞雲ズ、やっぱりドラマーだったの?」
「ああ。だが、ギタリストでもあったし、ベーシストでもあった」
「バンド楽器は鍵盤以外出来るんだよねー」
しかもマルチプレイヤー。……つまり、私達姉妹全員と話が通じる。
ここに来てそれなりになるけど、新事実が発覚して楽しくなってきた。
上姉ちゃんも同じ感想みたいで、
「へー……んじゃさ、私のベースどう思う?あの御MOON様は」
そう言って自分の愛器に視線を遣って感想を求めると、
「ああ……ロゴを見てググったんだが、随分いい楽器だな。私達では確実に持て余すし……」
「“ちょっと弾かせて”って言う度胸も出なかったよ……」
二人共、ため息モノって感じのコメント。特に伊勢さんの言葉には……下姉ちゃんが眉をピクつかせた。
……うん、何も言わずにちょっと弾こうとしてたわけだし。
それを他所に上姉ちゃんは少しだけ照れながら右手を揺らして、
「はっはっはー。でも実は私これが1本目なんだよね」
「最初から6弦でコレとは……また思い切ったな」
「最近5弦から入るって人も多いみたいだけど、6から入るのは初めて見たよ」
「まぁ一生モンだと思って買ったしね。あとギターはちょっと弾けたし」
「いやそういう問題じゃないと思うんだが……」
「弾けてるしねぇ……使いこなせてるかは私達こそ分からないけどさ……」
伊勢さんも日向さんも分かってくれてる。やっぱり上姉ちゃんはおかしい。
「しかもアレだ、コントロールが多いと逆に恐ろしいな……」
「あー、そこは私もまだビビってる。だから今はアンプちょっといじるくらいで、ベース側はほぼノータッチ」
「ふーむ……まだどう効くかも試してないのか?」
「どの辺の音域持ち上がるかとかー」
「そりゃ勿論、この子が来たときに一通り試してるって。でも所詮初心者だからさ、とりあえずこの楽器の……すっぴんの音っつーの?その旨味を理解してからって思ったんだよね。じゃないと混乱するじゃん?しかもなんか、ちょっと不思議な感じの音だしさ」
初心者と経験者の会話だけど、上姉ちゃんの貫禄がやたら凄い。初心者はこっち。言ってることはともかく。
でも初心者にありがちらしい、”とりあえずフルテン”しないのが結構驚きだった覚えがある。ちょっと気分変えるにしてもアンプを弄ってすぐ音が決まるし、なんというか……もう耳が良い。”何が良いか”の基準を標準装備、しかも”楽器のうまみ”を探ってるのもレベルが高い。
ここでちょっと口を挟んで、
「音は……私もちょっと思ってた。ちょっと例えが思いつかないんだけど……確かに不思議だよね」
「おー、那珂はやっぱ流石。なんつーか、あんまりボヨーンとしてないよね。ズゴンともべゴンとも違うし」
アンプで歪ませてない、それだけじゃ説明が付かない不思議さ。
どう言えばいいか迷っていたけれど、伊勢さんも日向さんは悩みつつ、
「あれはそうだな、クリアと言うか……」
「”みっしり”感って言えば良いのかなぁ。しかもゴチャっとしたんじゃなくて整った感じ」
伊勢さんの例えに思わず手を打って、
「あ、なるほど。凄い”目の詰まった”感じなんだ……」
「ああ、そうだ。硬いと言えば少し硬いんだが、金属の感じではない。まさに硬い木だ。……木材が気になるな。スペックシートは残っていないのか?」
「何だ何だ日向、木材オタクなの?まぁ見たけりゃ見ていいよ?ハードケースに仕舞ってあるから」
「うっわー、超見たかったー!ありがとー!」
伊勢さんが何故か大喜び。……二人共機材オタクかぁ。
上姉ちゃんは“うひょー”とか言いたそうな顔で、
「え、二人共オタクなの?」
「あまり金がなかったから最終的にギターもベースもYAMAHAになったが、色々目移りはしていたからな」
「っても『YAMAHAでいいや』ってなるのが悲しい性っていうか……YAMAHA凄いってことでもあるんだろうけど」
それには深く同意する……と同時に、
「いや……10万台、下手すると10万切ってるのにプロスペックだし、むしろ最も正解に近いんじゃないかなーって思うんですよね……」
例えば、私のバンドのベーシストなんかはYAMAHAのベースを使ってる。スーパーカーのベーシストと同じ型で、プレミアは付いてるけど定価はお安いとか。だからと言ってファンアイテムとしてだけで価値が高いんじゃなく、普通に楽器として出来が良かったりするみたい。
「確かに……GibsonとYAMAHA、同じ値段でってなったらYAMAHA取っちゃうもん」
「そうだな……というか、いきなり食事の邪魔をして悪かった。それとドラムなんだが、もう少し借りてもいいか?」
「え、いいですけど……」
「スティックまで借りるのは悪いから、もうちょっと足動くかチェックしたくってさ」
「あー……スティックもいいですよ、使ってもらっても」
「……スティックくらい良いのでは?」
下姉ちゃんが口を挟んできた。……まぁ、良いと言えば良いんだけど、
「神通、スティックは消耗品なんだ。折れなくても使えなくなる」
「だからね?下手に他人のスティックとか使えないんだよ。先っぽ……チップ欠けたらアウトだしさ」
「……なるほど」
瑞雲ズの2人が説明してくれた。ちょっとありがたい。
「一応、まだストックあるし……そこのスティックは使ってもらって大丈夫です」
「そうか、すまないな」
「ほんと、ありがとー……うわー、スティックも懐かしいなぁ。でもこれ軽いなぁ……メイプル……じゃなくてヒッコリー?こんな軽いのある?」
「だがまぁオークだったらどうしようかと思ったな、無駄に根性出してまた腱鞘炎か?」
……二人共、楽しそうで良かった。
と思ったら、伊勢さんだけ戻ってきて机についた。交代で試すし、まだちょっと話があるってことかな。
「あー、ご飯食べてていいよ?」
「言われなくてもそうするって、返事は遅れるけどさ」
口にご飯を含んでたところだったので、頷きだけで返す。
「ごめんねー、久しぶりに楽器の話できて浮かれちゃってさー。川内、エフェクターとかって興味ないの?」
「……んー、そこまでかなぁ。私のやってみたいことって、今のところはアンプでなんとかなっちゃうし」
「まぁジャズやってればそれもそっか……。神通は……ガチの揃えたね?」
「……私ですか?ええ、せっかくなので」
ここまで話に入ってなかった下姉ちゃんもようやく参加らしい。それで、一応すまし顔で応対してるけど……ちょっとテンパり気味?
「ごっついマルチに……なんか、ちょっとこだわりのありそうなペダルだしさ。ここから増やす予定は?」
「無いですね。だからこそ、”これ以上は要らない”と考えていますが」
「そう割り切れるかなぁ?……ってのは意地悪かな。まぁ、Marshallのスタックまで揃ってるのは圧巻だね」
「それは外せない要件でしたから」
「ブルジョアだねぇ……」
いつも通りと言えばいつも通りだけど、なんというか応対が硬い。やっぱり緊張してたみたいだった。
私は話題から抜け出たので、話を聞きながら食事。それと日向さんのドラミングにもちょっと興味があるので耳を傾ける。
「あ、気になってたんだけど、神通。マルチからシールド何本も刺さってるのってあれどういう意味あんの?」
「……それですか、姉さん。少し説明が難しいのですが……」
「……マルチにコンパクト、それとMarshallのプリ組み合わせてるんだよね?4ケーブルメソッド」
「え─────ああ、そういうことです」
のんびり豚肉を食みながら話を聞き流す。
あのセットアップは……私のバンド、マルチ使いが居なかったから結構面食らったり。
にしても、日向さん。普通に上手い。ブランクがある……みたいな雰囲気だったけど。今は普通の8ビートだからか、バスドラの鳴らせてない感も無くなっていい感じ。
「ふーん、それじゃさ、マルチにコンパクト繋ぐの、どうしてこう回りくどいことになるわけ?」
「それねー。実はエフェクトの順番って超重要でさ。全てが同時にかかるわけじゃないんだよね。簡単に言うと……生音を歪ませてコーラス掛けてって音と、生音にコーラス掛けてから歪ませるってのは別の音色になっちゃうわけ。場合によってはメチャクチャ。とりあえず”思ってたのと違う”ってのは確実に起きると思うよ」
「あーこう、……あれだよ、焼き肉で言うとタレ漬け込んでから焼くのと、焼いてからタレ付けるのは違うし……そういう感じ?これみたいに」
上姉ちゃんに視線をやると、生姜焼きを箸で持ち上げてピラピラと揺らしていた。
ちょっと行儀が悪いような……。
「なんで肉……?でも例えとしては割と適切っぽくて困るなぁ……ともかく、センド/リターンって仕組みがあるんだけど、例えば……というか神通の構成まんまだけど、歪みだけコンパクトやアンプ側で作れるんだよね」
「へぇ……それ、どういう理屈なの?」
「センド/リターンに繋ぐと、マルチの中のエフェクトループ……これはエフェクトの”一連の流れ”かな?神通の
場合だと、Marshallのプリアンプと歪みペダルが割り込んでる。マルチ側で”どこに割り込ませるか”って設定要るけど」
「なるほどなぁ……」
「音を途中で外に”送って”、”戻す”。センド/リターンってわけ。今回は歪みだけど、別の種類のエフェクターでも同じように出来るんだ」
「ほへー」
よくわからないなりに、色々と便利な世の中らしい。
それに比べてうちのバンド、結構時代錯誤だったりしたんだろうか……。そうかも……。
日向さんは……今はオープンハイハットでバラード調な8ビート。この人、結構グルーヴが重めな気がする。
私は鋭いところを目指していたし、実際そうなれたけど、こういう重量感のあるビートも結構聞いてて気持ちいい。
「ところで」
「おう」
「ん?」
下姉ちゃんが、ちょっと圧強めで話題を切り替えて、
「私のギターですが」
「ああー、なんか、すごい、もうね」
「うん、凄いわけよ。コイツこれに100万突っ込んだからね」
「一応聞くけど、スキャロップは何?そういうオーダー?」
「間違ってはいませんね、おそらく」
「へぇ……リッチー好きなの?」
「そうでもありますね」
なんか、ゾワゾワしてきたというか、下姉ちゃんのテンションが沸点に向かってブッ飛びそうな……。
あ、自慢したいのか。
「ですがこれは、イングヴェイ・マルムスティーン様モデ─────」
「んだよ豚野郎かよ」
え。
ちょっと、これは……
「何が貴族だよ。何がラージヘッドだよ、ラードヘット?トンカツでも挙げんの?」
向こうの日向さんも手を止めて、
「セポイの反乱だな」
「ハハハ」
「ハハハ」
──────マズいよくわかんないけどなんかマズい!
「なんだァ?てめェら……」
神通、キレた!