全面改稿。
煙草は依存性が高いっていうけれど、本当の話だと実感した。
徹夜で吸い続けていたからか、四六時中本当にイライラする。
手まで震える有様で……艦娘の体の限度を超えてしまった、と分かった。
慢心だった……。そして煙草の入っていた背嚢はついにぺしゃんことなり、精神も……潰れた。
気が変になった私は、シケモクを齧るようになった。今まで海に捨ててきた煙草達の扱いとは大違い。
私は縋るようにフィルターだけの煙草を必死で啜っていた。
そして前歯で噛んでいるだけじゃ飽き足らず、口の中にさえ入れてしまったのだ。
なんだそれは、子供どころか赤ん坊じゃあないか……。
馬鹿だ。フィルターの繊維が口の中で気持ち悪い。
でも、口寂しいよりはマシだった……というのが、本当に馬鹿だと思う。
私は弱っていた。誰にも気持ちの悪い夢を打ち明けられず、眠りという逃げは罠。
どうしようもなく行き詰まっていた……。
行き先だったリンガ泊地に着いたのは、気が変になった日の昼過ぎだった。
私は島が見えると全速力で航行を開始した。
当然、無線から『戻りなさい』と命令が幾度も繰り返された。しかし耳に入っても頭に届かなかった。
陸へと一直線。
……誰も私を追ってこない。
息を切らせても走り続け、私は陸に辿り着いた。そして海岸線沿いに桟橋を目指す。
着くと、そこに出迎えに出ていた人を一人見つけて、
「煙草、くだ、さい」
誰かも構わずそう言って、海面にぶっ倒れた。
●
「あ、また来たんだ”私”」
「やっぱり一緒にいようよ”私”」
「ねぇ、私達なら”私”のことが分かるんだよ、分かってよ」
やめてよ……。
……その感情で頭が再起動したことを悟った。
私は、何をしていたんだっけ……。
今は寝ている─────というか、クソ!夢通信中だな─────はずだ。
「うるさい。あっち行ってよ……」
クソ忌々しい”島風”達に向けて、そう吐き捨てる。……動く気配もないし、近づいてくる。
クソ、クソ、クソ……嫌だ……あんなのと一緒にいるのだけはゴメンだ……。
その意気で立ち上がって、スタスタと─────夢の中の足元がしっかりしているというのも変な話だ─────黒い世界の中、あの脳ミソの腐った連中から離れていく。
また裸にされてるし。酷い気分……。
そして、歩きながら考える。
私は寝ている。けれど、寝るまでの記憶が曖昧だ。
仕事は終わった?その記憶は……無い。
陸に上がってしばしの休み……というのを楽しみにしていた。それは事実。
でも、そういう思い出は頭の中に見当たらない。じゃあ、なんで私は寝ているっていうのか。
「……ああー……そうか、そうだった……」
海の上でぶっ倒れた。船団を置き去りにして、目に入った陸を目指して一目散に走った。
もしかして、そのまま溺れ死んだ?それは……大層無様な死に方だと思う。バカだ。みじめすぎる。
バカをやるやつがバカげた死に方をして、バカここに眠る……バカバカしい。
なんて迷惑なやつなんだろう、私ってやつは。別に”島風”じゃなくても普通に最低だ。嫌になる……。
……そんなことより、そもそも死んでないと思いたい。
なにせ、死んだら罰ゲーム部屋行きというのは御免こうむる。
死ぬことが覚めない眠りだと言うなら、それは永遠に夢を見ているということで……夢通信繋がりっぱなし。
いや、夢は別にオカルト的なものじゃない。脳の働きによるものだ。
まぁ他人と通信できるような”脳の働き”ってのも超能力的でオカルトの類だと思うんだけれど……。
「待ってよ“私”、一緒にいようって」
「どこまで行っても絶対に追いついて捕まえるんだから、私達足が速いもん、追いついちゃうよ」
ふと立ち止まる。
「もし、一緒になったら、寂しくないっていうの」
背中の方から喜色満面……と言った声色で、
「……そうだよ!だから、一緒がいいよ」
「やったぁ、また”私”が増えるのね!みんなで楽しく過ごそうよ!ね?」
そんなに……?
「それは……どう楽しいの」
問いかけには声を揃えて、
「みんなでね、心も体も溶け合うほど愛し合うの!もう自分が誰だかわからないくらいに!」
「じゃあ断る」
絶対に、それは嫌だ。絶対に受け入れない。
だから走る。走って遠くまで行こう。一人になれるところに。
「
足を止めて、その場で身を沈め、地面に膝と手をつく。
右膝を後ろに、左膝はそれより前に。
足元にスタートブロックがあればと思う。いや……それは別にいいか。
私はもう陸上をやるつもりはないし……。
「
とは思っていてもだ、自分で合図を唱えてみれば、体はその通りに動いてしまう。
腰と膝が上がって、スタート直前。弓で言うなら引き絞ったところ。
ただまぁ……足の裏に置き場がないし、指先だけで地面を掴んでいるからやりづらい。
けれども、体中の血液は沸騰に向かって煮えていく。
眼の前には闇しか無い。ゴールはもちろん、トラックの線すらも見えないけれど……。
走るということは、いいものだ。
いつだって噛み締めてきた無上の喜び。
全てのものを振り切っていく、振り払っていく快感。
「GO」
それとともに、頭の中でピストルが弾けた。
地面を蹴って、ひたすらに体を前へ。前へ。飛ばしていく。
「待─────」
声はもう聞こえない。
私の体は……何故だろう。いつもと違うな。
風のよう、どころか、光になったみたいだ。
気の所為か。まぁなんの目印もないわけだから、止まっていると感じるほうが自然だ。
だと言うのに確かに進んでいる。そんな気がする。
ところで。
この世界に端はあるんだろうか。
なければないで、あのいかがわしい連中から離れることが出来さえすれば良い。
でもそうだな……例えばゲームだとワールドマップをずーっと進んでいくと一周するような……。
「……うげ。また”島風”だ」
本当に一周したらしい。
予感は当たらないでほしい方に当たるものか。眼の前にまたプラチナブロンドの色が見える。
嘘だと思いたいけど、まぁそういうことなら仕方ない。
私は体を左に少し倒す感じで、カーブしてそれから離れていこうとする。
アレだ、”コーナーで差をつけろ”─────と思ったところでここがトラック上じゃないことを思い出した。
こんな……鬼ごっこみたいなものにコーナーもクソもない……。
「─────え?……あ、ちょっと待って!」
気付かれた。大きめの声で呼び止められたけれど……知るか。絶対に捕まってたまるか。
でもカーブは失策だっただろうか……?あいつはほぼ一直線に走れば良いけれど、私は曲がっている。
フルスピードから幾分落ちてしまうわけで。ああ、でも真ん前を横切るよりはマシなのか?
分からないな……。図形が特に苦手だから、この手の問題は……。
とにかく、速く走ればいいことだ。
失速したところで、それ以上に速ければ何の問題もない。
私は考えるのを止めて、ただ進むことだけを思う。
「ちょっと、待って!……速い!」
そりゃあそうでしょ。走ってるんだから。
でも、後ろからの声が……今度は消えていかない?
さっきはあっという間に聞こえなくなったんだけれど。
「止まってって!……もう!」
追ってくるらしい。さっきの”島風”達と比べれば、少しは根性がある。
けれどまぁ、骨があるランナーは振り切るのに面倒。
別に振り切れなくたって、マラソン中なら構うことはないんだけれど。
鬼ごっこじゃないんだし、何より最後に追い抜けばいい話。
でも今はそうだ。捕まえようとしてきている以上、スピードを緩めるわけにはいかない。
「なん、で、こんな……私が遅いの!?」
そういうことになる。
しかしお喋り出来る程度に余裕があるならもっと出せるだろう、スピードを。
無駄口を叩くから遅い。
自転車の……ロードレースならともかくとして、駅伝とかの長距離走を世間話しながらやれるって言うのか。
別に遅いことが悪いこととは言わない。人にはその人のスピードがある。私にもある。
私だってゆっくり走りたい時はある。皇居の周りを走るのに競ったりすることはない。
走るだけでも十分楽しいけれど、加えて風景を楽しむなら急ぐこともない。
勝負でもないなら競う意味もない。
ただし。
その”勝負”の中で無駄にギャーギャー騒いでる。
そんなやつに追いつかれるのは我慢ならない。
「え、嘘、まだ速く─────」
声が遠くなった。諦めたのか、私が突き放したのか……後ろに目は付いていないから分からない。
……しかし、”島風”というのは無類のかけっこ大好き、スピードなら無双だったんじゃないのか。
私だって”島風”だけれど、あっちだって”島風”で。差がつくなんてことがおかしいと思うのだ。
となると……原因は”私個人”ということか。
”私個人”にあって、”島風”の標準ではないこと、といえば……。
……ああ、私が元陸上部だからか。フォームが違う。
身体能力は同等だろうけれど、ずいぶん変わるものだ。
”走る技術”というものの重要性を改めて感じさせられた……。
完全に突き放したのか、声はもう聞こえなくなっていた。
にしても、足が止まらない。私は今、100mのつもりで走っている。
なのにもうとっくに1kmくらい走ってやしないか、というくらいに走りっぱなしだ。
少しくらい疲れてもいいはずだ……。
まぁ、走れるならいいか。走るのは楽しい。
「止まって!」
「!?」
向こう、”島風”がいた。まるで途中のコマを飛ばしたように……突然そこにいたのだ。
超スピードとか……そういう、やつなのか?
夢の中だと言っても時間が止まったりはしないだろうし……しつこすぎるだろう。
こうなったら最終手段だ。
私はそのスピードを保ちつつ、右足で大きく地面を踏みつけて、跳んだ。
走り幅跳びの要領で。けれど、足の動きはそうしない。
「─────オラァッ!」
ドロップキックだ。ライダーキックでもいい。
やったことはなかったけれど、意外と上手くいった。
ともかく、眼の前の島風に向けて全速力、全体重を放り出した蹴りを叩き込む。
ああでも、そうだ。
─────これ、当たったら死ぬんじゃあないか?
まぁ、夢の中だし別にいいか。それに死ぬ夢は吉兆と聞く。
心配することを止めて着弾と”島風”がブッ飛ぶのを待っていたけれど、
「!?」
今度は消えた……どこに……?
かくしてキックは対象を失い、私は地面を思いっきり滑ることとなった。
「、わっ!」
素肌のままで地面を滑っていく……擦りむいたりはしないみたいだ。
落ちた痛みも……さほどはない。
でも、どこへ行った?
もしかして、これっていわゆる”新手の─────
「やっと捕まえた!」
「げ、ぇっ!?」
スピードのなくなった私の体に覆いかぶさって、“島風”が私を捕まえた。
その姿をよく見ると……服を着ている。他の“島風”とは違うな……。
そう思って、
「あんた、何……」
「私が”島風”!久しぶり、になるのかな?それにしても……あなたって速いのね……」
「そりゃ、私も”島風”だし……不本意だけど」
もう逃走は諦めてみようか。
そう思って、のしかかって来る彼女の体を押しのけて、上体を起こす。
何故だろう……あいつらとは、ちょっと違うみたいだ。
それに……そうだな。自分がされていやなことを、無差別に他人にする。
それこそ筋が通らないってものじゃあないか。バカだな、私は……。
でもさっきの奴らには無差別にやってるわけじゃない。
確固たる事実、脳ミソがアレなのを確認しているし。
で、私の返事に少し複雑な表情をしているのが、目の前の”島風”。
……何か、気に障ったんだろうか。
「うん……まぁ、”適性”だから仕方ないの。不本意でもね」
そういう彼女は、立ち上がって、
「服、着たらどう?」
「いや、どこにもないでしょ……」
「思い込めば着れるよ」
「は?」
「深く考えずに、ほら」
思い込む。つまりは……念じろとか、そういうことか。
……私は、服を着ている……。
それを、心に念じる。
できれば、そう、普通の服……。
「ほら、着れた」
そうらしい。目を開けて、自分の体を見てみる。
「本当だ……。でも」
自分の腕を見ると、長い手袋。肘上まで覆う白い手袋。
ああ、やっぱり”島風の制服”だった。普通の服が着たいって念じたのに……。
「はぁ……」
思わず体育座りをしてしまう。
私の頭の上から、”島風”が声を降らせてくる。
「裸が嫌だったんでしょ?ちょっとはマシだと思うけど」
裸とどっちがマシか分からない服だっての。
そう思いながら見上げて、
「そもそも……なんであなたは最初から服を着てるの。ここにいる”島風”はみんな裸で、頭がパーで、まともなのは私だけだと思ってたけど。あなたもそのお仲間?あと久しぶりってのは何?」
ああクソ、なんでこういう、喧嘩を売るような言葉ばっかり言ってしまうんだ。
私だって大概で、“まとも”と言うには怪しい。前に響と会ったときだってそうだった……。
”島風”は不思議そうな顔をして、
「……結構ズバズバ物言うのね」
「あ……ごめん……性格、悪くて」
私の性格は悪い。正直、自分でも嫌になる。
おまけにウジウジ考えるクセが酷くて、その結果として勝手に落ち込んだりする。
自分のバカさに自分で勝手に嫌になる、バカな人間だ。いつだって自業自得。
頭が良いとは口が裂けても言えない。
でも、眼の前の”島風”は余裕のある笑みを浮かべて、
「そうかな?正直者って、嘘つきよりは好きかもしれないけど」
「そう正直でもないよ……」
実際、そうだ。口に出せてない言葉なんていくらでもある。
まぁ、いちいちそれを口に出してたら日が暮れる、ってのもあるけれど。
思考ばかりが饒舌になって、口は全くのド下手という……厄介な性分だ。
「まぁ、それは置いておいて。”私が島風”。あなたという、”島風”になった人の、原型……って言えば良いのかな?要は”オリジナル”なの。”久しぶり”っていうのがわからない……そうなら別に気にしなくていいから」
「え?」
「だから、狭い意味で言えば“島風”というのは私のことだけを指す、ことになるのかな?他の艦娘もそう」
「いや、その久しぶりってのは……まぁ後でいいっていうか……だけどちょっと待って」
待て。
その、艦娘というのは……改造人間だ。
人間が生み出した、狂気の産物。
でも、まずその原型があって、私達の存在はそのコピー……ってこと?
「あなたが……本物の”島風”?じゃあ私達はあなたの偽物で……」
「偽物……というのはなんだか違うかな……”レプリカ”、っていう言い回しの方がいいと思う」
レプリカ。つまり、模造。……結局は、偽物だ。本当に言い回しが違うだけで。
でも、そもそもなんでこの”島風”に似せる必要なんかあるっていうんだ。髪、顔、制服まで……。
そんなことよりは、そう、問題なのは……。
「そんなこと、全然知らなかった……」
「まぁ、”島風”ってのは結構孤独だから。知ってる人だって別に殊更声を張って言うことでもない、って思うのかもしれないね」
「でも、普通”改造”されるときに伝えられない……?」
「それは軍医の裁量かな。一応知ってはいるはず」
「……あのキチガイ軍医」
言わんで良いことは馬鹿ほど喋って、言わなきゃあいけないだろうことは馬鹿ほど喋らなかった。
最低だ。
……でも、そうなると。
”走るのが大好き”っていうのはこの”本物の島風”が持っているものなのか。
私は元々好きだから、少なくともそこについては同調すると思うけれど……。
けれども、なんで私は”島風”なんだろう?
「あなたって、走るの好き?」
「うん。好きだよ。それで、私の”レプリカ”になった人たちはみんな好きになるかな。あなたはどうだった?」
「全然。何も変わらない」
「嫌いなの?」
「いや、あの忌々しい軍医が言うには……”好きすぎてもう上がらない”だった」
「へぇ……」
私の投げやりな答えに、“島風”はどうやら納得したらしく、
「うん。やっぱりあなたは”島風”。それも私が見てきた中で、ある意味”最高”の」
「は?─────こんな、意気地の悪い……」
意気地の悪い……クソガキだ。私は。
大人なのに、大人になれてない。
それは言葉にはしなかったけれど、頭の中で私を刺した。
戒めとしての痛みだ……。
……それはそうとして、この”島風”は─────”第一号”ということになる。
最初に改造されて”島風”になった人。
そしてその量産型が……私達、ということだ。
私にとっては、いわゆる先達というべきだろう。
この”島風”は少なくとも脳ミソは大丈夫そうだし、人間関係にも折り合いをつけているはず。
孤独と自称はしていたけれど、問題のある孤独さには見えなかった。
何か、アドバイスを貰えるかもしれない。
手始めの質問として、
●
<この記憶は>
<誰かの手で抜き取られている>
●
「孤独でお悩み?」
「─────え?うん。そうだけど……」
確かにそうだけど、……なんか変だな。変って、感覚が変だ……。
夢の中に変わりないし……そんなこともあるだろう。
”島風”は続けて、
「だからね、皆ここに来るの。信じられる人がいないから、”自分”と同じものに救いを求める。……というのは、流石に予想外だったけど。まさかこんなことになるとは、って。でも私もここをなくすつもりはないよ」
「じゃあ、あなたがここを作った?」
「そういうこと。でも私は遥か遠くにいるだけだから、まさかここまで来る子がいるとは全く思ってなかったけれど……」
元凶はコイツか。迷惑な。
この際だから、顔に出してしまえ。思いっきり嫌な顔だ……。
それを見せつけてやると、彼女は苦笑いと─────何故だろう?安堵にも見える─────その表情で、
「……気に入らないのね?」
「うん。私はもう、ここには……”夢通信”には来たくない」
「そっか。良かった……じゃあ現実で頑張って、としか私は言いようがないわ。”島風”であることがあなたを孤独にしている。それは間違いないけれど、それでも”ここ”を否定するなら気合い入れてやっていってね。次からあなたはここに繋がらないようにする」
何が“良かった”だ、と言いたかったけれど、ここに来なくていいのは、まぁ良いことだし……。
でも、
「……アドバイスは”気合い入れろ”……それだけ?もうちょっと何か……」
「うん。まぁ、一つ言えることは……そうだね……理解者がいると、早く馴染めると思うかな。私はなんだろう、”そういうものなんだ”っていう感じを、一人で時間を掛けて理解してもらって、今は皆が理解者。張り合う相手もいるにはいるけど……今はなんだろう、ふわりと浮いている感じ」
「あなたも結局ぼっちみたいなもん……あ、ごめん」
思わず口に出た。……嫌味だな、私は。本当に。
謝るんなら、言わなきゃあいい話で。謝るのも嫌味だし……。
「まぁ、そうかな。でもみんな私のことを”一目置く”くらいはしてくれてるよ。フワフワしてる感じも楽しいし、自由だから……私は好きかな」
気に障ってないようで、私は安心して溜息した。
……私は、下手に口を開かないべきだろう。
人とうまくやっていくためには、会話が必要のはずだけれど。
「あなたは誰か、理解してくれる……そういう人はいる?」
「いない」
断言した。それにしても……私の根性はひん曲がっている。
……ああ、クソ。”理解などされたくない”とも思っている。頭を右手が掻きむしる……。
そんな自己嫌悪など知らずにか、彼女は続けて、
「そっか。でも、きっとそういう人がいると思うから。鎮守府にはいろんな子がいるだろうし」
……まぁ、人のるつぼだろうな、とは思う。軍っていうのは。
一兵卒として1年半程を過ごしてきて、今は艦娘の新人だけれど……やっぱり、そこは変わらないだろうと。
だからと言って、そこに都合よく理解者がいるっていうのか。
”理解されたくない”まで理解してくれる人が、いるっていうのか?
そんな都合のいい……馬鹿な話があるものか。
「分かった」
……分からないけれど、そういうことにしておこう。
私はそう言うと、立ち上がって”島風”に一礼した。
なんだか、質問を一つ忘れている気がするけれど……もういいや。どうでもいいってことだったんだろう。
「……お世話になりました」
「いいよ。それじゃ、さよなら」
彼女のその言葉で、私は闇の中に溶けていった。
目に見えるもの、聞こえるもの、肌で感じるもの……あと、私の意識も……。