島風ちゃんは考えるのをやめた   作:黒灰

4 / 26
2019/04/09
全面改稿。


じゃあ断る

 煙草は依存性が高いっていうけれど、本当の話だと実感した。

 徹夜で吸い続けていたからか、四六時中本当にイライラする。

 手まで震える有様で……艦娘の体の限度を超えてしまった、と分かった。

 慢心だった……。そして煙草の入っていた背嚢はついにぺしゃんことなり、精神も……潰れた。

 

 気が変になった私は、シケモクを齧るようになった。今まで海に捨ててきた煙草達の扱いとは大違い。

 私は縋るようにフィルターだけの煙草を必死で啜っていた。

 そして前歯で噛んでいるだけじゃ飽き足らず、口の中にさえ入れてしまったのだ。

 なんだそれは、子供どころか赤ん坊じゃあないか……。

 

 馬鹿だ。フィルターの繊維が口の中で気持ち悪い。

 でも、口寂しいよりはマシだった……というのが、本当に馬鹿だと思う。

 私は弱っていた。誰にも気持ちの悪い夢を打ち明けられず、眠りという逃げは罠。

 どうしようもなく行き詰まっていた……。

 

 行き先だったリンガ泊地に着いたのは、気が変になった日の昼過ぎだった。

 私は島が見えると全速力で航行を開始した。

 当然、無線から『戻りなさい』と命令が幾度も繰り返された。しかし耳に入っても頭に届かなかった。

 陸へと一直線。

 

 ……誰も私を追ってこない。

 

 息を切らせても走り続け、私は陸に辿り着いた。そして海岸線沿いに桟橋を目指す。

 着くと、そこに出迎えに出ていた人を一人見つけて、

 

「煙草、くだ、さい」

 

 誰かも構わずそう言って、海面にぶっ倒れた。

 

 

 ●

 

 

「あ、また来たんだ”私”」

「やっぱり一緒にいようよ”私”」

「ねぇ、私達なら”私”のことが分かるんだよ、分かってよ」

 

 やめてよ……。

 

 ……その感情で頭が再起動したことを悟った。

 私は、何をしていたんだっけ……。

 今は寝ている─────というか、クソ!夢通信中だな─────はずだ。

 

「うるさい。あっち行ってよ……」

 

 クソ忌々しい”島風”達に向けて、そう吐き捨てる。……動く気配もないし、近づいてくる。

 クソ、クソ、クソ……嫌だ……あんなのと一緒にいるのだけはゴメンだ……。

 

 その意気で立ち上がって、スタスタと─────夢の中の足元がしっかりしているというのも変な話だ─────黒い世界の中、あの脳ミソの腐った連中から離れていく。

 また裸にされてるし。酷い気分……。

 

 そして、歩きながら考える。

 私は寝ている。けれど、寝るまでの記憶が曖昧だ。

 仕事は終わった?その記憶は……無い。

 陸に上がってしばしの休み……というのを楽しみにしていた。それは事実。

 でも、そういう思い出は頭の中に見当たらない。じゃあ、なんで私は寝ているっていうのか。

 

「……ああー……そうか、そうだった……」

 

 海の上でぶっ倒れた。船団を置き去りにして、目に入った陸を目指して一目散に走った。

 もしかして、そのまま溺れ死んだ?それは……大層無様な死に方だと思う。バカだ。みじめすぎる。

 バカをやるやつがバカげた死に方をして、バカここに眠る……バカバカしい。

 なんて迷惑なやつなんだろう、私ってやつは。別に”島風”じゃなくても普通に最低だ。嫌になる……。

 

 ……そんなことより、そもそも死んでないと思いたい。

 なにせ、死んだら罰ゲーム部屋行きというのは御免こうむる。

 死ぬことが覚めない眠りだと言うなら、それは永遠に夢を見ているということで……夢通信繋がりっぱなし。

 いや、夢は別にオカルト的なものじゃない。脳の働きによるものだ。

 まぁ他人と通信できるような”脳の働き”ってのも超能力的でオカルトの類だと思うんだけれど……。

 

「待ってよ“私”、一緒にいようって」

「どこまで行っても絶対に追いついて捕まえるんだから、私達足が速いもん、追いついちゃうよ」

 

 ふと立ち止まる。

 

「もし、一緒になったら、寂しくないっていうの」

 

 背中の方から喜色満面……と言った声色で、

 

「……そうだよ!だから、一緒がいいよ」

「やったぁ、また”私”が増えるのね!みんなで楽しく過ごそうよ!ね?」

 

 そんなに……?

 

「それは……どう楽しいの」

 

 問いかけには声を揃えて、

 

「みんなでね、心も体も溶け合うほど愛し合うの!もう自分が誰だかわからないくらいに!」

「じゃあ断る」

 

 絶対に、それは嫌だ。絶対に受け入れない。

 だから走る。走って遠くまで行こう。一人になれるところに。

 

On your marks(位置について)

 

 足を止めて、その場で身を沈め、地面に膝と手をつく。

 右膝を後ろに、左膝はそれより前に。

 足元にスタートブロックがあればと思う。いや……それは別にいいか。

 私はもう陸上をやるつもりはないし……。

 

Get set(用意)

 

 とは思っていてもだ、自分で合図を唱えてみれば、体はその通りに動いてしまう。

 腰と膝が上がって、スタート直前。弓で言うなら引き絞ったところ。

 ただまぁ……足の裏に置き場がないし、指先だけで地面を掴んでいるからやりづらい。

 けれども、体中の血液は沸騰に向かって煮えていく。

 

 眼の前には闇しか無い。ゴールはもちろん、トラックの線すらも見えないけれど……。

 

 

─────それでも。

 走るということは、いいものだ。

 

 いつだって噛み締めてきた無上の喜び。

 全てのものを振り切っていく、振り払っていく快感。

 

 

「GO」

 

 それとともに、頭の中でピストルが弾けた。

 地面を蹴って、ひたすらに体を前へ。前へ。飛ばしていく。

 

「待─────」

 

 

 

 

 声はもう聞こえない。

 

 私の体は……何故だろう。いつもと違うな。

 風のよう、どころか、光になったみたいだ。

 気の所為か。まぁなんの目印もないわけだから、止まっていると感じるほうが自然だ。

 だと言うのに確かに進んでいる。そんな気がする。

 

 

 ところで。

 この世界に端はあるんだろうか。

 なければないで、あのいかがわしい連中から離れることが出来さえすれば良い。

 でもそうだな……例えばゲームだとワールドマップをずーっと進んでいくと一周するような……。

 

「……うげ。また”島風”だ」

 

 本当に一周したらしい。

 予感は当たらないでほしい方に当たるものか。眼の前にまたプラチナブロンドの色が見える。

 嘘だと思いたいけど、まぁそういうことなら仕方ない。

 

 私は体を左に少し倒す感じで、カーブしてそれから離れていこうとする。

 アレだ、”コーナーで差をつけろ”─────と思ったところでここがトラック上じゃないことを思い出した。

 こんな……鬼ごっこみたいなものにコーナーもクソもない……。

 

「─────え?……あ、ちょっと待って!」

 

 気付かれた。大きめの声で呼び止められたけれど……知るか。絶対に捕まってたまるか。

 でもカーブは失策だっただろうか……?あいつはほぼ一直線に走れば良いけれど、私は曲がっている。

 フルスピードから幾分落ちてしまうわけで。ああ、でも真ん前を横切るよりはマシなのか?

 分からないな……。図形が特に苦手だから、この手の問題は……。

 

 とにかく、速く走ればいいことだ。

 失速したところで、それ以上に速ければ何の問題もない。

 私は考えるのを止めて、ただ進むことだけを思う。

 

「ちょっと、待って!……速い!」

 

 そりゃあそうでしょ。走ってるんだから。

 でも、後ろからの声が……今度は消えていかない?

 さっきはあっという間に聞こえなくなったんだけれど。

 

「止まってって!……もう!」

 

 追ってくるらしい。さっきの”島風”達と比べれば、少しは根性がある。

 けれどまぁ、骨があるランナーは振り切るのに面倒。

 別に振り切れなくたって、マラソン中なら構うことはないんだけれど。

 鬼ごっこじゃないんだし、何より最後に追い抜けばいい話。

 でも今はそうだ。捕まえようとしてきている以上、スピードを緩めるわけにはいかない。

 

「なん、で、こんな……私が遅いの!?」

 

 そういうことになる。

 しかしお喋り出来る程度に余裕があるならもっと出せるだろう、スピードを。

 無駄口を叩くから遅い。

 自転車の……ロードレースならともかくとして、駅伝とかの長距離走を世間話しながらやれるって言うのか。

 

 別に遅いことが悪いこととは言わない。人にはその人のスピードがある。私にもある。

 私だってゆっくり走りたい時はある。皇居の周りを走るのに競ったりすることはない。

 走るだけでも十分楽しいけれど、加えて風景を楽しむなら急ぐこともない。

 勝負でもないなら競う意味もない。

 

 ただし。

 その”勝負”の中で無駄にギャーギャー騒いでる。

 そんなやつに追いつかれるのは我慢ならない。

 

「え、嘘、まだ速く─────」

 

 声が遠くなった。諦めたのか、私が突き放したのか……後ろに目は付いていないから分からない。

 ……しかし、”島風”というのは無類のかけっこ大好き、スピードなら無双だったんじゃないのか。

 私だって”島風”だけれど、あっちだって”島風”で。差がつくなんてことがおかしいと思うのだ。

 となると……原因は”私個人”ということか。

 ”私個人”にあって、”島風”の標準ではないこと、といえば……。

 

 ……ああ、私が元陸上部だからか。フォームが違う。

 身体能力は同等だろうけれど、ずいぶん変わるものだ。

 ”走る技術”というものの重要性を改めて感じさせられた……。

 

 完全に突き放したのか、声はもう聞こえなくなっていた。

 にしても、足が止まらない。私は今、100mのつもりで走っている。

 なのにもうとっくに1kmくらい走ってやしないか、というくらいに走りっぱなしだ。

 少しくらい疲れてもいいはずだ……。

 

 まぁ、走れるならいいか。走るのは楽しい。

 

「止まって!」

「!?」

 

 向こう、”島風”がいた。まるで途中のコマを飛ばしたように……突然そこにいたのだ。

 超スピードとか……そういう、やつなのか?

 夢の中だと言っても時間が止まったりはしないだろうし……しつこすぎるだろう。

 こうなったら最終手段だ。

 

 私はそのスピードを保ちつつ、右足で大きく地面を踏みつけて、跳んだ。

 走り幅跳びの要領で。けれど、足の動きはそうしない。

 

「─────オラァッ!」

 

 ドロップキックだ。ライダーキックでもいい。

 やったことはなかったけれど、意外と上手くいった。

 ともかく、眼の前の島風に向けて全速力、全体重を放り出した蹴りを叩き込む。

 ああでも、そうだ。

 

 ─────これ、当たったら死ぬんじゃあないか?

 

 まぁ、夢の中だし別にいいか。それに死ぬ夢は吉兆と聞く。

 

 心配することを止めて着弾と”島風”がブッ飛ぶのを待っていたけれど、

 

「!?」

 

 今度は消えた……どこに……?

 かくしてキックは対象を失い、私は地面を思いっきり滑ることとなった。

 

「、わっ!」

 

 素肌のままで地面を滑っていく……擦りむいたりはしないみたいだ。

 落ちた痛みも……さほどはない。

 でも、どこへ行った?

 もしかして、これっていわゆる”新手の─────

 

「やっと捕まえた!」

「げ、ぇっ!?」

 

 スピードのなくなった私の体に覆いかぶさって、“島風”が私を捕まえた。

 その姿をよく見ると……服を着ている。他の“島風”とは違うな……。

 そう思って、

 

「あんた、何……」

「私が”島風”!久しぶり、になるのかな?それにしても……あなたって速いのね……」

「そりゃ、私も”島風”だし……不本意だけど」

 

 もう逃走は諦めてみようか。

 そう思って、のしかかって来る彼女の体を押しのけて、上体を起こす。

 何故だろう……あいつらとは、ちょっと違うみたいだ。

 

 それに……そうだな。自分がされていやなことを、無差別に他人にする。

 それこそ筋が通らないってものじゃあないか。バカだな、私は……。

 でもさっきの奴らには無差別にやってるわけじゃない。

 確固たる事実、脳ミソがアレなのを確認しているし。

 

 で、私の返事に少し複雑な表情をしているのが、目の前の”島風”。

 ……何か、気に障ったんだろうか。

 

「うん……まぁ、”適性”だから仕方ないの。不本意でもね」

 

 そういう彼女は、立ち上がって、

 

「服、着たらどう?」

「いや、どこにもないでしょ……」

「思い込めば着れるよ」

「は?」

「深く考えずに、ほら」

 

 思い込む。つまりは……念じろとか、そういうことか。

 

 ……私は、服を着ている……。

 それを、心に念じる。

 できれば、そう、普通の服……。

 

 

 

「ほら、着れた」

 

 そうらしい。目を開けて、自分の体を見てみる。

 

「本当だ……。でも」

 

 自分の腕を見ると、長い手袋。肘上まで覆う白い手袋。

 ああ、やっぱり”島風の制服”だった。普通の服が着たいって念じたのに……。

 

「はぁ……」

 

 思わず体育座りをしてしまう。

 私の頭の上から、”島風”が声を降らせてくる。

 

「裸が嫌だったんでしょ?ちょっとはマシだと思うけど」

 

 裸とどっちがマシか分からない服だっての。

 そう思いながら見上げて、

 

「そもそも……なんであなたは最初から服を着てるの。ここにいる”島風”はみんな裸で、頭がパーで、まともなのは私だけだと思ってたけど。あなたもそのお仲間?あと久しぶりってのは何?」

 

 ああクソ、なんでこういう、喧嘩を売るような言葉ばっかり言ってしまうんだ。

 私だって大概で、“まとも”と言うには怪しい。前に響と会ったときだってそうだった……。

 ”島風”は不思議そうな顔をして、

 

「……結構ズバズバ物言うのね」

「あ……ごめん……性格、悪くて」

 

 私の性格は悪い。正直、自分でも嫌になる。

 おまけにウジウジ考えるクセが酷くて、その結果として勝手に落ち込んだりする。

 自分のバカさに自分で勝手に嫌になる、バカな人間だ。いつだって自業自得。

 頭が良いとは口が裂けても言えない。

 

 でも、眼の前の”島風”は余裕のある笑みを浮かべて、

 

「そうかな?正直者って、嘘つきよりは好きかもしれないけど」

「そう正直でもないよ……」

 

 実際、そうだ。口に出せてない言葉なんていくらでもある。

 まぁ、いちいちそれを口に出してたら日が暮れる、ってのもあるけれど。

 思考ばかりが饒舌になって、口は全くのド下手という……厄介な性分だ。

 

「まぁ、それは置いておいて。”私が島風”。あなたという、”島風”になった人の、原型……って言えば良いのかな?要は”オリジナル”なの。”久しぶり”っていうのがわからない……そうなら別に気にしなくていいから」

「え?」

「だから、狭い意味で言えば“島風”というのは私のことだけを指す、ことになるのかな?他の艦娘もそう」

「いや、その久しぶりってのは……まぁ後でいいっていうか……だけどちょっと待って」

 

 待て。

 その、艦娘というのは……改造人間だ。

 人間が生み出した、狂気の産物。

 でも、まずその原型があって、私達の存在はそのコピー……ってこと?

 

「あなたが……本物の”島風”?じゃあ私達はあなたの偽物で……」

「偽物……というのはなんだか違うかな……”レプリカ”、っていう言い回しの方がいいと思う」

 

 レプリカ。つまり、模造。……結局は、偽物だ。本当に言い回しが違うだけで。

 でも、そもそもなんでこの”島風”に似せる必要なんかあるっていうんだ。髪、顔、制服まで……。

 そんなことよりは、そう、問題なのは……。

 

「そんなこと、全然知らなかった……」

「まぁ、”島風”ってのは結構孤独だから。知ってる人だって別に殊更声を張って言うことでもない、って思うのかもしれないね」

「でも、普通”改造”されるときに伝えられない……?」

「それは軍医の裁量かな。一応知ってはいるはず」

「……あのキチガイ軍医」

 

 言わんで良いことは馬鹿ほど喋って、言わなきゃあいけないだろうことは馬鹿ほど喋らなかった。

 最低だ。

 ……でも、そうなると。

 ”走るのが大好き”っていうのはこの”本物の島風”が持っているものなのか。

 私は元々好きだから、少なくともそこについては同調すると思うけれど……。

 けれども、なんで私は”島風”なんだろう?

 

「あなたって、走るの好き?」

「うん。好きだよ。それで、私の”レプリカ”になった人たちはみんな好きになるかな。あなたはどうだった?」

「全然。何も変わらない」

「嫌いなの?」

「いや、あの忌々しい軍医が言うには……”好きすぎてもう上がらない”だった」

「へぇ……」

 

 私の投げやりな答えに、“島風”はどうやら納得したらしく、

 

「うん。やっぱりあなたは”島風”。それも私が見てきた中で、ある意味”最高”の」

「は?─────こんな、意気地の悪い……」

 

 意気地の悪い……クソガキだ。私は。

 大人なのに、大人になれてない。

 それは言葉にはしなかったけれど、頭の中で私を刺した。

 戒めとしての痛みだ……。

 

 ……それはそうとして、この”島風”は─────”第一号”ということになる。

 最初に改造されて”島風”になった人。

 そしてその量産型が……私達、ということだ。

 私にとっては、いわゆる先達というべきだろう。

 この”島風”は少なくとも脳ミソは大丈夫そうだし、人間関係にも折り合いをつけているはず。

 孤独と自称はしていたけれど、問題のある孤独さには見えなかった。

 何か、アドバイスを貰えるかもしれない。

 手始めの質問として、

 

 

 ●

 

 

 

 

 

 

 

 

<この記憶は>

<誰かの手で抜き取られている>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●

 

 

「孤独でお悩み?」

「─────え?うん。そうだけど……」

 

 確かにそうだけど、……なんか変だな。変って、感覚が変だ……。

 夢の中に変わりないし……そんなこともあるだろう。

 ”島風”は続けて、

 

「だからね、皆ここに来るの。信じられる人がいないから、”自分”と同じものに救いを求める。……というのは、流石に予想外だったけど。まさかこんなことになるとは、って。でも私もここをなくすつもりはないよ」

「じゃあ、あなたがここを作った?」

「そういうこと。でも私は遥か遠くにいるだけだから、まさかここまで来る子がいるとは全く思ってなかったけれど……」

 

 元凶はコイツか。迷惑な。

 この際だから、顔に出してしまえ。思いっきり嫌な顔だ……。

 それを見せつけてやると、彼女は苦笑いと─────何故だろう?安堵にも見える─────その表情で、

 

「……気に入らないのね?」

「うん。私はもう、ここには……”夢通信”には来たくない」

「そっか。良かった……じゃあ現実で頑張って、としか私は言いようがないわ。”島風”であることがあなたを孤独にしている。それは間違いないけれど、それでも”ここ”を否定するなら気合い入れてやっていってね。次からあなたはここに繋がらないようにする」

 

 何が“良かった”だ、と言いたかったけれど、ここに来なくていいのは、まぁ良いことだし……。

 でも、

 

「……アドバイスは”気合い入れろ”……それだけ?もうちょっと何か……」

「うん。まぁ、一つ言えることは……そうだね……理解者がいると、早く馴染めると思うかな。私はなんだろう、”そういうものなんだ”っていう感じを、一人で時間を掛けて理解してもらって、今は皆が理解者。張り合う相手もいるにはいるけど……今はなんだろう、ふわりと浮いている感じ」

「あなたも結局ぼっちみたいなもん……あ、ごめん」

 

 思わず口に出た。……嫌味だな、私は。本当に。

 謝るんなら、言わなきゃあいい話で。謝るのも嫌味だし……。

 

「まぁ、そうかな。でもみんな私のことを”一目置く”くらいはしてくれてるよ。フワフワしてる感じも楽しいし、自由だから……私は好きかな」

 

 気に障ってないようで、私は安心して溜息した。

 ……私は、下手に口を開かないべきだろう。

 人とうまくやっていくためには、会話が必要のはずだけれど。

 

「あなたは誰か、理解してくれる……そういう人はいる?」

「いない」

 

 断言した。それにしても……私の根性はひん曲がっている。

 ……ああ、クソ。”理解などされたくない”とも思っている。頭を右手が掻きむしる……。

 そんな自己嫌悪など知らずにか、彼女は続けて、

 

「そっか。でも、きっとそういう人がいると思うから。鎮守府にはいろんな子がいるだろうし」

 

 ……まぁ、人のるつぼだろうな、とは思う。軍っていうのは。

 一兵卒として1年半程を過ごしてきて、今は艦娘の新人だけれど……やっぱり、そこは変わらないだろうと。

 だからと言って、そこに都合よく理解者がいるっていうのか。

 ”理解されたくない”まで理解してくれる人が、いるっていうのか?

 そんな都合のいい……馬鹿な話があるものか。

 

「分かった」

 

 ……分からないけれど、そういうことにしておこう。

 私はそう言うと、立ち上がって”島風”に一礼した。

 なんだか、質問を一つ忘れている気がするけれど……もういいや。どうでもいいってことだったんだろう。

 

「……お世話になりました」

「いいよ。それじゃ、さよなら」

 

 彼女のその言葉で、私は闇の中に溶けていった。

 目に見えるもの、聞こえるもの、肌で感じるもの……あと、私の意識も……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。