やはり俺の青春ラブコメにウサギがいるのは間違っている。 作:獲る知己
雪ノ下が去ったあと疲れた体を引きずって帰ろうとしたが扉の前に腕くみしながら待ち構えていた平塚先生に捕まった。
「どこへ行く?」
「いえ、もう遅いし帰ろうと…」
「ほう、昨日の今日で部活をさぼろうとするとはいい度胸だな」
指をコキコキ鳴らしながら笑う先生は怖かった。
有無も言えず連行された空き教室で昨日の続きを再開する。まぁ、昨日は結局何もしてないので再開というか開始だけど。
「あのですね、本来部活って生徒の自主性を重んじて自由参加するものじゃないですか?」
強制されてするそれはもはや労働だ。そんな意図の抗議を上げるが平塚先生はどこ吹く風とでも言うように淡々と作業を続けていた。
意外にも先生は掃除を手伝ってくれている。
「残念だが、学校とは社会に適用できる人間を作るための訓練の場だ。社会に出れば自主性や自由なんて言葉だけの強制される毎日が待っている。今のうちに強制されることに慣れておきたまえ」
この教師言うに事欠いて夢も希望もないブラックな現実を示しやがった。夢とか希望とかへったくれぐらいにか思ってない俺でももう少し言いようがあるだろ。
こんな調子で教師として生徒の事を理解できるのか一抹の不安を感じる。
「それに、君の場合強制されなければ参加すらせずいつの間にか帰宅部になっているはずだ」
「……」
何も言い返せない。明らかな図星だ。
ちくしょうこの先生生徒の事をちゃんと理解してやがる。いい先生だなこんちくしょう。
俺と平塚先生が黙々と掃除を続けていると、先生は今思い出したように口を開く。
「そういえば授業の方はどうだ?随分苦戦してるみたいだったが」
「どうも何もレベルは高いですが普通科目はそれなりにできますよ。数学は捨ててますから心配いりません」
「初日から5教科の1つを捨てるな…」
お互い背中を向けて作業してるので顔は見えないが平塚先生はたぶんあきれ顔になっている。
そうは言われても昔から数学とだけは相性が悪いので仕方ない。最低赤点取らなきゃいいやくらいにしか思ってないし。
「俺は得意な分野を伸ばすことに重きを置いてるんですよ。1を10にするより10を100にした方が圧倒的にいいじゃないですか」
「苦手を克服し乗り越えるのが古来よりある少年漫画の習わしだ。君のそれはただの逃避だ」
なぜに少年漫画?と疑問に思うが、なんとなくニュアンスだけは伝わった。
残念ながら平塚先生と俺の教育方針には大きな隔たりがあるようだ。そういえばどことなくこの先生からは時代遅れの熱血先生に憧れてる雰囲気がある。
本人がそうとは言ってない。
「と、話がそれたな。そっちの科目は自分で頑張りたまえ。私が聞きたいのはIS関連のほうだ」
チラリと後ろを振り返ると先生と目があった。その視線はさっきまでの軽口と変わって真剣だ。
……本当にこの先生はよく見ている。
「本来ISに無関係の学校に行く予定だった君たちに与えられた時間は非常に少なかった。逆にISとは最新鋭の技術の塊で、一朝一夕で学習できるものとは思っていないよ」
どこか申し訳なさそうにそういう先生の瞳はどこまでも真摯だ。
周りが分かる事が分からない焦りや、疎外感。ぼっちに慣れ親しんだ俺でさえ無意識に感じていたそれをこの先生は気にしてくれているのだ。
「……まぁ、正直よくわからないことだらけですね」
「ふむ、具体的にはどこら辺が分からないんだ?」
「わからない所が、分からないくらいには」
「それはまた重症だな……」
誰かが気にしてくれる、気遣ってくれる。それは普通好意的な事なのだろうが、ぼっちにとってそんな気遣いや優しさは大体の場合毒になる。
接触不慮の敏感肌には薬であっても聞きすぎて毒に転ずる。
真剣に何か考え事をしてる先生を他所に我ながらめんどくさい性格をしていると自分に呆れる。
「では、私の方で要点をまとめたプリントを何枚か渡そう。寮に帰ったらそれを重点的に学習したまえ」
「それは……先生の負担になるんじゃないですか?」
驚きのあまりそう問いかけると、先生は優し気に微笑んだ。普段の釣りあがった表情のギャップに一瞬ドキリと心臓が高鳴る。
「なに、それで君が壊滅的な点数を叩きだすと他の連中からグチグチと嫌味を言われるんでね。私の心理的ストレスを少なくするためなら嫌々でも多少の面倒は仕方ないさ」
「理由が最低ですね!?」
優しさと思ったらただの保身だ。さっきまで感じてた気持ちのギャップに柄にもなく声を張り上げてしまった。
優しいには優しいが自分に優しい人だ。
「何を言うか。嫌で面倒で仕方ないが、君が更生するようにこうして付き合ってやってるんだ。これも一種の師弟愛だよ」
「これが愛かよ。これが愛なら俺は愛なんていらない。というか更生ってなんですか。いつから俺は非行に走った若者になったんですか」
確かに夜道を歩いてると警察に職質をよくされるけど。まだ犯罪は犯していない。
……まだって自分で言っちゃたよ。
「この2日君を見ていると随分性格が捻くれているだろ。捻くれ過ぎて護廷十三隊を裏切ってオールバックにしてそうじゃないか。十刃とか作るなよ」
この人どんだけ漫画好きなんだよ。
「もっと素直になった方が人生楽しいぞ。君の場合、普通の幸せとか難しそうだし今ぐらいはおもしろ可笑しく生きた方がお得だ」
「楽しいだけが人生じゃないですよ。悲劇があるから物語はおもしろいんです。魔法少女の出る作品が全部ハッピーエンドならまどマギは存在してません。あとさらっと俺のこれからの人生を悲観しないでもらえます?」
これでも将来に希望をもって生きてますから。ちなみに将来の夢は専業主夫。社会にでるのだるいし誰かに養ってもらいたい。今のところ相手はいないけどね。
「そうはいっても、君の立場上今後活躍したらそれを面白く思わない連中に誹謗中傷され、逆に何も成果を上げられないとやはり男はダメだと貶され、とばっちりを受けたほかの男から恨まれることになる」
先生の懇切丁寧な説明を聞き頭を殴られたような痛みが走る。
「べ、べべ別にそんなの気にしてませんし。そもそも、本当に何もしなかったら俺の事なんてすぐに忘れ去られますよ!」
「堂々と情けない事を言うな…」
先生は呆れてるようだが、知った事ではない。
舐めるなよこちとら自己主張しても忘れられるか無視されるぼっち道を突き進んだエリートだ。忘却の彼方へとんずらこくのは得意中の得意分野だ。
「君がいくらそのつもりでも周りがそうはさせてくれないさ。クラス代表の候補に君が推薦されたのがいい証拠だ」
「いやいやそんなこと……ん?」
先生の言葉を否定しようと口を開けるが、聞き捨てならない言葉に思考が止まった。
「え?誰が、なにですって?」
「なんださっきのホームルームを聞いていなかったのか」
雪ノ下と口論していていつの間にかホームルームは終わっていた。確かに初めの方しか聞いていなかった。
「そういえば雪ノ下と随分仲良く話していたな。周りに誰もいなくなったのに気づかないほどに……ッチ」
「どこをどう見たらあれが仲良く見えるんですか。今、舌打ちしませんでした?」
なぜかいきなり機嫌が悪くなった平塚先生だが、今はそんな事どうでもいい。
問題は俺がクラス代表の候補になったとかそういう話だ。
話の続きを促すため無言で先生を見ていると、平塚先生は懐から煙草の箱を取り出しふちを叩いた。
飛び出た煙草を口にくわえライターで火をつける。
教室でいいのかと疑問に思うが、先生の仕草があまりにも似合っていてそんな疑問はすぐに吹き飛んだ。
なぜか美人がするとどんな親父臭い仕草でも似あって見えるから不思議だ。
「君が雪ノ下と話す事に夢中になっている間、君に推薦がいくつか入った。推薦理由はせっかくの男性操縦者がいるんだから広告塔として使おうといった内容だ。クラス代表は1週間後までに決めればいいので今日は解散にしたが、あの分だと多数決になれば君で決定するだろうな」
おのれ数の暴力。俺が絶対太刀打ちできない攻撃を仕掛けてきやがる。
「そんな理由で決めていいんすか」
「いいも何も生徒の自主性を重んじてるんでな」
おいコラさっきと言ってる事違うだろ。
「本人の自主性がともなってないんですけど」
「自主性とは強制の中に芽生える思い違いだ。諦めろ」
「あんた無茶苦茶だな!」
この俺をもってしても苦言を呈する暴挙だよ。そんな遠い目で窓の外を見てもだめだぞこのクソ教師。
「もっと他にいるでしょ。実力的に強い奴がなるのが普通でしょ」
「確かにもっともだが、入学したての君たちはほとんどISに乗った事もない初心者だ。1組や4組みたいに専用機持ちがいるならともかくな」
専用機持ち。つまりは楯無さんみたいなのが他のクラスにはいるという事か。
あれ?これってすげえ不利じゃね?
「あの、その専用機持ちって自分専用の機体を使うんですか?」
学園に保管されてる数機の量産型を使いまわすのがほとんどだと説明されたが、その例外が各国から自分専用の機体を預けられた専用機持ちだ。
それは各国の技術を集めた最新機であり、量産型とは性能が大きく異なる。
俺の質問という名の確認に先生は頷くことで返事をした。
「……それってすげえ不公平なんじゃ」
「世の中とは不公平で不平等なものだよ。ちなみにクラスでこの話をしたところ立候補者はいなくなり推薦者だけが残った」
「完全な外れくじ……」
要するにあれか、どうせ負けるんだし自分じゃなければ誰でもいい。誰でもいいなら男の俺が恥をかいた方がむしろお得じゃね?みたいな思惑があるのか。
俺の高校生活がさっそく詰んでる件。
「7日後に立候補者がいないなら多数決を行う予定だ。覚悟くらいはしておきたまえ」
そういったきり平塚先生は煙草をポケット灰皿の中に入れると作業を再開した。
結局それっきり先生と話すことは無く、挨拶をして俺は寮に戻った。