俺は真剣でダラッと生きたい   作:B-in

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十二話

 

 

 

 

 

 

「それでは、これにて失礼いたします百夜様。」

 

「いや、あの…はい。」

 

九鬼パネェ…あっ、どうも百夜です。今の人は九鬼の執事さんですね。えぇ完璧な執事さんでした。住む世界が違いすぎると思う今日この頃、私は憂鬱です。

 

裏帳簿とか…冬馬ぁ

 

「潔癖症のあいつは耐えられんだろ? これ?」

 

まぁ、仕方が無いか。身内の恥を曝したくないってのも分る。

 

「それとなく突っつくかねぇ…」

 

あいつも頑固だからなぁ。カマ掛けでいけるかねぇ…こう言ったもんは一度吐き出しちまえば良いんだよ。この程度で友達辞める付き合いじゃねぇし。アレ? もしかしてそう思ってるの俺だけ?

 

「…いや、たぶんきっと大丈夫。うん、大丈夫」

 

てか九鬼財閥優秀過ぎるだろJK。二日ジャストだよ。英雄には足向けて寝られないよ。向けるけども。

 

「さて、ルーの朝練始まる前に逃げますかねぇ」

 

「そうはさせないヨ!! 今日は町内五周から行くヨ百夜!!」

 

だが、断る!!

 

百夜は逃げ出した。

 

だが、回り込まれた。

 

「そうそう逃がしはしないヨ。百夜」

 

「ちぃ、この鍛錬好きめぇ。」

 

百夜は再び逃げ出した。

 

だが、回り込まれた。

 

「おっと、今のは巧いヨ百夜!! でも、まだまだダ!!」

 

「ほい、トラップ発動」

 

「な!?」

 

嘘です。

 

「あばよぉ、ルーのとっつあぁん」

 

「あっ、こら待ちなさい百夜ー!!」

 

べちゃぁ

 

「とりもち?! 接着剤までってコレ九鬼製品のお高いやツ?!」

 

「あ? なーにやってんだぁ。ルー?」

 

「釈迦堂!! 百夜が逃げたヨ!! 手を貸してくれ!!」

 

「(あー…そういや、今日は昼に何時もの所って言ってたかねぇ)…ルーよぉ。お前もいい加減諦めろや。百夜は痛いのが嫌いだ。これほど武術に向かない奴もいねぇのは分ってんだろ?」

 

「んっ…グググ。はぁ、やっと取れた…それでも、百夜の才能は武術をする者として惜しいヨ。釈迦堂、お前も分っているだろう。基礎的な訓練は型と走り込みを何とかさせる位しかしていない。それなのにあの動きで息を切らさない。これで、百夜が真面目に武術に打ち込んでくれたら…」

 

「百代に対する対抗馬に出来るってか?」

 

「そうじゃなイ!! お前も感じるだろ一人の武人としテ!!」

 

「そりゃぁ才能はある。教えても無いのに氣を綺麗に使ってるのを見た事もあるしな。だが、辞めとけ。無理だ。アレだ、ゲームの選択肢に道具と逃げると逃走と死んだ振りしかコマンドがねぇ奴だ。戦うなんて相当な事だよ。あいつにゃ…」

 

「…罠のコマンドが抜けてるヨ。」

 

「ハハ、そうだったな。それよりも、他の奴等の朝練も有るんだ。いい加減に戻りな」

 

 

川神院の朝は週三でいつも以上に騒がしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝もはよから家を出て、自分の畑に水をやる。良いねぇ。心が落ち着くよ。農業は心が洗われる。好きって事さ。

 

「一子ぉ、それ雑草じゃないから抜くなよぉ」

 

何故か、俺より早くに畑に来ていた犬っ子に言って置く。それが無いとアレの備蓄に困るから。ホントに頼みます。良いな本体。別荘とかマジ欲しい。

 

「そうなの? お花も咲かないのに?」

 

「そう言うモノなの。食べる事も出来るけど、お前とかは腹下すからやめときなぁ」

 

「分ったー」

 

便秘とか無縁だろお前? 素直に言う事聞く辺り良い子だなぁと思う。うん、ホントに将来が心配だ。大和にも言っておこう。翔一は…自由に生きるなアイツなら。

 

そんな事を考えながら水を撒き、一つ一つ丁寧に雑草を抜く。こいつら際限なく生えてくるからなぁ…生命力強すぎだよ。

 

「あっ、ミミズだ。」

 

「触るなよ、触ったら手を洗ってきなさい。」

 

「触って無いよ!! あっ!! 百ちゃん百ちゃん、コレカブトムシの幼虫?」

 

辞めなさい、触るんじゃない持ってくるんじゃない。女の子なんだから芋虫持たない!!

 

「ちげぇよ。大きさが違うでしょ。」

 

「じゃあ、小クワガタ!!」

 

お前にはその選択しかないのか?

 

「どっちも違うから、埋め直しなさい。優しくだぞ? 土を固めすぎると死んじゃうからな」

 

「そうなんだ…はーい」

 

何だろう? 子供が出来たらこんな感じなんだろうなぁと思った。うん、思っちゃった。結婚する相手もいねぇし好きな子も居ないよ。枯れてないよ?! ただ小学生はそういう対象に見れないだけだよ!! せめて…せめて中学生位なら何とかぎりぎり…

 

「百ちゃん? 終わったけど次は何するの?」

 

「ん? 特にないな。手を洗ってから帰りなさい。俺は今日明日用事があるから、明日の水撒きお願い」

 

「りょーかい!! 今度トマト頂戴ねー!!」

 

たったか走って帰る後ろ姿を見送って、俺は定食屋に向かう。朝ごはんは何定食にしようかなぁ。

 

「決めた。塩サバ定食にしよう。」

 

来た道戻り、商店街の方へ向かう。そんで着きました定食屋。ここには結構お世話になってる。

 

「おやぁ、百ちゃん今日も逃げ出したのかい?」

 

「だって、嫌なモノは嫌なんだモノぉ。じいちゃんもしたくない事はしたくないでしょ?」

 

「ほっほっほ、てっちゃんも大変じゃのぉ。そいで? 今日は何にする?」

 

「塩サバ定食特盛り!!」

 

「はいよ、カウンターの方に座ってなさい」

 

此処の定食屋を経営しているのは老夫婦とそのお孫さん。朝はじいちゃんが必ずいる。このじいちゃんなんでも第二次世界大戦の時に家のじーさまと仲良くなって、戦争が終わった後じーさまの居るこの川神に引っ越して来たんだと。

 

時々話してくれる泥沼の戦場の話を聞くと今の時代に生まれて来て良かったと思う。

 

時々「陸の馬鹿共が」って言うけど、俺は何も言えない。

 

「ほい、塩サバお待ち。大根おろしはちょっとサービスじゃよ」

 

「やった」

 

カリッと焙られた皮を破れば焼き魚の独特な匂いがする。其処に醤油をかけて身を解すと、醤油の匂いと合わさって食欲を刺激する美味しい香りが立ち込める。

 

鯖自身にかかっている塩の塩梅もちょうど良く、大根おろしと絡める事で鯖の油で少々こってりしている味を優しく緩和してくれる。

 

つまり、食が進む。

 

食べ終わると時間はまだ八時、昼までの時間は古本屋での立ち読みや木陰で寝て過ごす。いいねぇ自堕落ライフ。コンビニで時間を確認して、目的地へと向かう。

 

「釈迦堂さーん」

 

「おう。何枚買うんだ?」

 

「十枚。丁度真中からね」

 

「はいよ」

 

いやぁ、今日も儲けですねぇ。お金を貰って二割は釈迦堂さんへ渡す。

 

「いやぁ、すみませんねぇ。」

 

「いえいえ、此方も美味しい思いをさせて頂いてますよ」

 

何だろこのやりとり。

 

「で、どうする? 帰るか?」

 

「ん~…」

 

正直な所、あの白子が気に成る。一応、家の方を確認してみた方が良いかな? 明日は野球が在るから早朝にでも様子を見に行けるけど…行ける時に行っといた方が良いか。

 

「ちょっと、遠回りで帰る。」

 

「それじゃ、俺は少し早目の昼食にしますかねぇ」

 

「今日も梅屋?」

 

「あそこはガチでうめぇんだよ。気いつけて帰れよ、百夜」

 

「はいはい」

 

さてさて、白子はどうなったかね。得からでも顔が見れりゃ解るからねぇ…此処までして駄目ならどうしようもないさね。

 

 

 

 

 

 

Side 冬馬

 

胸騒ぎがする。虫の知らせとでも言うのでしょうか?

 

昨日の帰り道に見かけたあの少女…何だか気に成ります。それは、準も同じ様でもしかしたら僕と同じ不安を抱えて居るのかも知れません。

 

今考えてみれば、なぜ見落としたのでしょうか? 普段の僕達なら気づいた筈です。

それだけ、精神的なダメージが大きかったと言えばそうなのですが…言い訳にしかなりませんかね?

 

「なぁ、若」

 

「言わなくても僕もですよ。ざわざわするんです。」

 

僕達はあの時、転校や親が気づいたと思った。結局、ソレは僕達の信じたい事で確証が在る訳ではないのです。

百夜の言った事を思い出せば、直ぐに気が付けた筈です。

 

初対面の人間に対して怯えまくり

 

彼が言った事は確かに正しいのでしょう。コレは僕達が予想するべき事だったんです。言葉の裏に気づくべきだった。

 

我が強敵(とも)は友人に甘い

 

英雄君からのヒントも在ったのです。

 

虐待を受けて居る可能性が在る。虐めは続いている可能性が在る。その両方が高く、昨日のあの嬉しそうな表情は何か望みが叶いそうだったから…その可能性を発見できたから…自分の今の状況を変える何かを見出した。

 

そう考えた方が良いでしょう。問題が出てきます。あの少女は虐待を受けて居る可能性が在り、今も虐めが続いている可能性が高い。そして、初対面の人間に怯える…それだけで済む筈が無い。

 

対人恐怖症に成って居てもおかしくはない。そんな可能性が在る少女に対人スキルを求めるのは酷な事ではないか?

 

「若、取りあえず、あの子が向かって言ってた方に行ってみようぜ。運が良ければ見つかるかも知れねぇ」

 

「急ぎましょう、準。今日見つからなくても明日にでも学校に連絡すれば…」

 

住所ぐらいは解る。僕はあの少女を助けたい、自己満足の為です。父とは違うと…そう言いたいのでしょうね。潔癖症じゃ無くなったのかも知れません。だって、僕の家族は醜い、汚ない事をしている。ソレで、得た糧で僕は貧困とは無縁な生活をしている。そんな僕が綺麗な筈は無いんです。

 

「若!!」

 

「っ…と、すみません準。行きましょう」

 

炎天下の中、これ程走ったのは初めての事です。肌に張り付いたシャツが気持ち悪い。ソレは準も同じ様で、ゼヒゼヒと荒い息を吐きながら服をパタパタとさせて居ます。

 

僕自身も頭がクラクラしますよ。しかし、名前も解らないと言う事がネックです。それさえ解れば表札を見て確認ができるのですが…

 

正直に言って、もう走る事もキツイです。足を引きずるようにして準と歩いていると、大人の女性の少々甲高い声が聞こえてきました。今ならば、そんな事に気を回している余裕は有りません。ですが、耳に聞こえた言葉で僕達は直ぐに声の聞こえた方へ行きました。

 

「アンタ気持ち悪いのよ!! 見るな!! 気持ち悪い!! アンタ何て生むんじゃ無かった!!」

 

それでも三十秒以上は経過していたでしょう。

ガラスの割れる音が聞こえたのと同時に、僕達の視界に飛び込んできたのは何処か寂れた感じのする一軒家が一瞬で炎上する場面でした。

 

「小僧共、もうちっと下がってな火傷するぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

Side out

 

 

 

昔…其処には確かに愛情が在った。

 

男と女はごくごく普通の出会いをし

 

普通に結ばれ、子供を授かった。

 

授かった子供は白髪赤目…少々普通とは違う子どもだったが、その陶磁器の様に白く穢れの無い肌も相俟って人形の様に可愛かった。

 

ごくごく普通の家庭だった。そう、普通の家庭だった。男は妻子の為に良く働き、女は夫と娘の為に働き家事を行って来た。

 

夫婦共働きでは在ったが、授かった子は賢く殆ど我儘を言わない良い子だった。夫婦が家にいる時は騒がしく少々御転婆だったが、それも愛嬌だろう。

 

何処にでも在る、普通な不幸は此処からで、不景気の為男はリストラ。女も励まし立ち直るも就職は出来ずバイトの日々。徐々に苦しくなる家計に不安に成る将来。

子供を一人育てるのにも多額の資金が居る。幾ら汗水垂らして働こうにも生活が楽に成るなんて事はない。それでも愛する妻子の為ならばと働くも何れ限界は来る。

ストレスが在った、過労が祟った。要因何てモノは其処ら辺に転がっていて男は体調を崩した。入院、ソレで掛かる治療費。それだけで男の心労は嵩み、女も少しずつ…少しずつ疲れて行った。

カツカツだった生活に、直ぐに破綻がやって来て。男は病院から追い出される様に退院するも体力は戻っておらずコレからどうするかと頭を抱えど名案はでず。

家族は娘を除いて疲れて行く。

そこで男は決断する。相続税を引いても二千万、娘が責めて義務教育を、終えれるまでならどうとでもなる額をその命を持って叩き出す。

馬鹿な男の突っ走り。

 

最愛が亡くなり残るは義務と虚無と不安。男を亡くした女には、到底耐えきる事も出来ず。ただ深く沈んでゆく。

 

娘の笑顔に怒りが募り、娘の声に憎しみが沸く。自分に良く似たその容姿。天真爛漫。元気な笑顔と声は、女の毒にしかならず。

今まで気にして居なかった、白と赤は途端に気持ち悪いモノに見え。女は逃避を繰り返し、ただ深く堕ちて行く。

堕ちた先にはあら不思議。同じような同類にソレを餌にする下劣共、股を開けば快楽が、腕を差し出し魅了の妙薬。堕ちに堕ちれば何のその、コレが普通になってまた、気持ち悪けりゃ排他する。

なんて当たり前なその行為。娘の恐れに満足し、肉を打つ感触は芯まで痺れる何かを生む。暗くくら~くなる瞳。同じ所まで堕ちて来い。そしたらソレで金が成る。

女は堕ちる何処までも、最後に残った良心は二束三文残り飯。

 

 

 

さてさて、そんな女の心の音。ソレを見れる聞ける一人。

 

巻き込むんじゃねぇよと淡々と、ただただ憐れに見つめる川神百夜です。

 

着いたら拉致られました。はい、後ろからゴンとやられて少々気を失っていました。後頭部にこぶを確認。

なんでこうなった!! 見境なしかこのジャンキー!! ちょっと、思い出してみよう。手足も縛られてたらどうもできねぇ。

いざとなったらブッ飛ばして逃げるけども。此処で逃げ出して目でも付けられたら、俺の生活がマッハだ。

 

主に社会的な問題とかストレスで。

 

 

 

~回想~

 

さ~て、到着しました白子の家。気配を探っても誰も居ない様で安心して経過を見れる。

どうやら、俺がしかけた陣は特に変質する事もなく正常稼働中な様子。術式の定着具合からこの方式ならOKと解っただけで成果は大。

いいねぇ。やっぱり、失敗するより成功した方が嬉しい。これなら直ぐに応用が聞くなぁ。

 

って考えてたら

 

「どうしたの? 坊や」

 

って声を掛けられて、振り向こうとしたら

 

~回想終了~

 

ゴンっと来た訳ですね。はい、情けないね。解ってます。良いんだよ別に!! こっちじゃマジで平和何だから、命の危険も殆ど無いんだよ!! 

 

常に周囲を警戒しなくて良かったんだよ。

 

(にしても…手足のこの結び方って縄抜けも出来ない奴じゃなかったっけか? え? 何コレ? 俺、食べられるの? カニバリズムなの? 其処まで飛んじゃってるの?)

 

猿轡までされてるんだよ。喋れねぇ

 

「あっ? 目が覚めたの? 丁度良いわぁ。小雪、この子に酷い事されたくなかったら、私の言う通りにしなさい?」

 

「わっ…げぇほっ!! 解りました。」

 

ふらっと立ち上がる白子。あっ、目が在った。

 

「っ?!」

 

「どうしたの小雪? もしかして知り合いなのかしら?」

 

うん、このおばさんはS。ドSです。

 

「ちっ、違います」

 

「そう。まぁ、いいわ。それじゃ、服脱いでこの子を跨ぎなさい」

 

「っ!!…は…い」

 

…………what? おぅ、言語が前世に帰ってた。え? 嫌な予感しかしない

 

じ~っとチャックが下ろされる。ソレを見ながらニヤリと嗤う糞女。死んだ目をしてるくせに目の端に涙が溜まり始めてる白子。

 

これは…アレですね。GOUKANと言う奴ですね最初に逆っと着くかもしれないけれども!!

 

やばいって駄目だって!! 僕まだ剥けて無い!!

 

(って、フザケテル場合でもないねぇコレ。ちゃっちゃと逃げるか…)

 

逃げる算段を立てる。取りあえず拘束されてる手足は何時でも自由に出来る。後が残るかもしれんけども、今日から英雄の家に泊まれば、一週間ぐらいで海外に高跳びだからOKでしょう。

逃げたら直ぐに九鬼えもんと警察に連絡すればOK。この二人は気絶させりゃぁ良いや。あとは知らぬ存ぜぬを貫けば良い。

 

良し白子!! バッチコイ!! 直ぐに気絶させてやる!!

 

 

 

 


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