埃っぽい密室の中、僅かな隙間から見えるのは赤く白く黄色く明滅する火炎。
身動きが出来ない程の狭い空間、呼吸が出来るだけマシな物だと思うけど…頭に垂れてくる液体が物凄く臭いです。
どうも、トイレから戻って来たら爆発しました。
俺がじゃないよ? 会場の天井がだよ? 百夜です。頭に垂れてくるのはスカトロ的な物ではなくブラッティ的な物です。
凄く…鉄臭いです。いやもう、微妙に生温かいとか最悪だね。気持ちが悪い。
トイレに行く前に英雄達を誘導して護衛っぽい給士を誘導して、安全なと言うか、会場内で一番運気が良い意味で高い場所に陣取らせたのは良かったと思う。
いやね、自分も本当は其処に居たかったんだけども…尿意って我慢しすぎると出す時に痛くなるじゃん? 濃くなって。
故に放尿に行きました。他の階にも強そうなのがスタンバってました。二人ぐらい軍人っぽい感じがしたから、軍からの派遣が有ってるのかもね。
本隊は此処の会場じゃなくて、本命の方を守ってるんだと思う。
(テロねぇ…お国柄的にイ○○ム圏かな? いや…他の宗派って言う線は低いか。ん~有る意味で自分と英雄の命は保証されてるようなもんだからなぁ)
英雄に死相は見えなかった。どちらかと言えば掛け替えのないモノ得る相が出てた。詳しくは見ないようにしたからそれが者か物なのかは分らんけども…アイツの豪運なら冗談抜きで凄いモノだと思う。
「えぇい、うろたえるな!! 助かる者も助からなくなるぞ!! 身を低くして出口に向かえ!! 幸いな事に此方側の出口は瓦礫に塞がれてはいない!!」
英雄の声が聞こえる。やっぱ、アイツは凄いな。うん。子供の貫録じゃねぇよ。
そんな中で響く銃声。なんか何処の言葉かも解らん、異国の言葉を荒立てながら十人の武装した男が傾れ込んで来た。空気読めよ。いや、読んだからか? まぁ、良いや。俺の考えが正しければ…
「動かないでください。異教徒のみなさん」
出て来たよ
グラサンにスーツ。その手の中に有るのはトカレフか…あ~狂信者臭がプンプンするぜぇ
目の前に現れた武装テロ集団とその頭目? 的な胡散臭い奴が一人。
ポチっとグラサンスーツが何かのスイッチを押したのが見えた。続く爆音と瓦礫が堕ちる音。聞こえる悲鳴と怒声。続く銃声。
「静かにしろと言ってるだろうがぁ!! この異教徒共が!! チッ、同じ空気を吸うのも苦痛だと言うのに…」
いや、向こうも同じこと思ってると思うから。
「オホン…この中に九鬼のご子息が居る筈ですが…もし、素直に出てきてくれるならその勇気に免じてこの場の異教徒共の命の安全を保障します。恐れる事は有りません。我等が神の教えを聞けば、貴方方も直ぐに己の罪を自覚し我等が神に許しを求め、我等の徒と成りたがるでしょう。」
「ぐっ!! 我がそうだ!! さぁ、他の者達を安全な場所に避難させよ!!」
「まて!! まだ応急処置が!! おい、お前達もこの方にもしもが有れば唯じゃ済まないだろう!! 二分で良い、時間をくれ!!」
「ふん、良いでしょう。ですが一分で終わらしてください。我々も暇ではないんですよ」
先程の爆破の衝撃で、少し余裕が出来た様なので別の隙間から周りが見える様に成った。そっちを覗いてみる。
(…おい。はっ? マジ何やってんの? 何やってくれてんの?! 身代金目的だろ? おい? おい!!)
Side九鬼
百夜はどうなったのだろうか? 炎が揺れる会場で我はそんな事を考えた。隣りにいた霧夜は爆破の衝撃でコケて足を捻った様だ。
先程まで我の隣りにいた給士をしていた女がエプロンドレスのエプロンを破り応急手当をしている。
この給士、最初は別の場所にいた筈なのだが何時の間にか近くにいた。
我を此処に連れて来たのは百夜だ。そして、その直後には別の場所にこの給士はいた筈だ。その給士が近くいて、今は負傷者動けない者の中でも比較的に軽い怪我をしている者の手当てをしている。
つまり…
(流石は我が
そして、我自身は怪我一つ無い。埃が少々ついた位だ。我を此処に導いたのは百夜だ。この場所も百夜が見つけ出したのだろう。
(流石、流石だ!! )
ならば、我は我の出来る事をしよう。我は
「えぇい、うろたえるな!! 助かる者も助からなくなるぞ!! 身を低くして出口に向かえ!! 幸いな事に此方側の出口は瓦礫に塞がれてはいない!!」
周りを確認し、声を張り上げる。全く、庶民共はいざと言う時に何の覚悟も無いから困る!! だからこそ我の様な王が導かなくてはな!!
我の言葉で少しだが冷静さを取り戻した民達が入口を目指そうとした時、銃声が響いた。
続いて聞こえたのは、少し甲高い男の声。その男の声は耳に入るだけで不快な気分になった。その声で我等の事を一纏めに異教徒と呼んだ。
その男の信じる神が憐れに思えた。だがそれだけだった。
そんな事よりも我には優先して行わなければならない事がある。我以外の者達の避難だ。王として、迷える民達を導く者として彼等の命を体の安全を優先しなければ成らぬ。
再び恐怖でパニックになりかけて居る者達に声を掛けようとしたその時、再び爆発音が聞こえた。
このテロは長い時間を掛けて練られたモノだと言う事は直ぐに解った。会場の何処に爆発物が仕掛けて在るのか? 簡単だ鉄骨の隙間に、仕掛けられていたのだ。
このビルを立てる為の建設作業員紛れて行ったに違いない。
疑われない力量を身につけて行ったに違いない。
だからこそ恐ろしく感じた。其処までの狂気に恐れを感じた。
瓦礫が墜ちてくる。落ちた破片が他の破片にぶつかり更に跳ぶ。咄嗟に我は霧夜と給士を突き飛ばし、我の近くで泣き叫ぶ幼子を右腕掴み上げて、直ぐに体勢を整えた給士に向かって投げた。
ミチっと嫌な音が肘から聞こえた。肩が痛む。だが、未来を担う命を一つ救えた。その命を導くのも王たる我の勤め、王たる九鬼の勤め。我は死なん。この程度のテロでは死なん。
多少の怪我なら我が九鬼の優秀な医療チームが何とかする。
(グッ…暫く野球は出来そうもないか……強敵に何と言われるか)
いや、貴奴ならば何時も通りのヤル気の無い態度で心の底から言うのだろう。「馬鹿だねぇ」とな。
我等は助かる。理由は在る。既に救援の部隊が動いている筈だ。こうなる事も想定して在るはずだ。奴らの本隊が向かう場所には虎狼が率いる部隊がいるのだ。
だからこそ、我はテロリストの要求を聞き時間を稼ごうと思った。あの給士は純粋に我の心配をし応急処置の時間をくれと言った。この給士が居る事も心強い。
流石は我が強敵(とも)が見つけた者よ。あの爆破の中、怪我らしい怪我は一つもしていない。人質が多すぎるのと後、幾つ爆発物が在るか解らぬが故に動かけないのだ。
我は、この給士に声を掛けた。
「貴様、名を何と言う」
「あずみ、バレてる様だから言うがアンタ等の護衛さ。…余り動くな、出血が酷い。」
傷口が鋭すぎて余り痛みの感覚が無い、それに気分が高揚している為に痛みを抑えて居るのだろう。ソレ位我にも解る。
「成らば、あずみよ。我は囮になり時間を稼ぐ。その間に「カカカッ、ふざけてるんじゃねぇぞ!!」もも…?!」
罵声と共に恐怖が沸き上がった。その後に驚きに目を見開いた。
(百夜が涙を流しているだと)
Side out
そいつは、惰性で自分を飾る事で己を己の知る者に飾り立てていた。そうでもしなければなけなしの精神が壊れると理解出来たからだ。
そいつは、感情に蓋を…怠惰と言うモノで押し込めた。押し籠める事で感情の揺れを常人の範囲に止め、認識力を削り、その程度と見せかけて平穏の中に身を埋めた。
少しばかり刺激が強いからこそ平穏なのだ。平穏とは退屈では無い。心を腐らせるモノでは無い。少しばかり強い刺激、安らかな日常、家族、友人。
素晴らしい、実に素晴らしき小さな世界だ。ソレが常人の最大の幸せだ…とは言いはしない。
人とは欲する生物だ。考える葦等と言った者もいる。かねがね正しい。地球を木に例えれば正に人は葦だろう。好奇心は猫を殺す。成るほど、間違ってはいない。
人は好奇心…探究心でも良い。ソレに任せて核を作った。絶滅への始まりだ。否、既に始まっていた。
人とはそういうモノだ。得る為に作り消費ししっぺ返しを食らう。正に人ならではの行動だろう。
だから、惰性と怠惰で着飾った。現状で満足すると言うのは短期では容易い事だが長期では難しい。
周りは機械を使っているのに自分は人力という現状。耐えられるか? 羨まないか? 嫉妬しないか? 憤怒が沸かないか? 憎まないか?
ソレを使う人でも良い。そうでなくても良い。現状というモノに耐えられるか?
そいつは根っこの所では耐えられない性質の人間だった。
常に不満は在った。例えば意見を押し付ける両親。居なくなった事で不満は無くなった。
常に不安は在った。例えば将来の事。夢を示され共感した。悪くは無いと思った。不安は消えた。
さぁ、此処で崩壊した。現状に耐えられなかった。だからこそ罅が入った。
漏れ出た感情は憤怒、不安、憎悪。
怒りも振り切れてしまえば笑いがでる。ドロドロと煮えたぎる心に反して頭はスッキリとしていた。だからこそ、決断は速かった。もとより、他人には無関心な所が在った。
「
「ッ、殺しなさい。目ざわりです」
少年は叫んだ。逃げろと。ソレは願いにも近い響きを持っていた。
武骨な鉄が向けられる。
「
「気持ちの悪い餓鬼ですねぇ」
そいつに男も鉄を向けた。確かに今のそいつは気持ちが悪い、涙を流しながら笑みを形作る顔は醜悪にも程が在る。引き金は軽い
「
銃声が響き、血の香りが漂う。そいつは瓦礫の上から見下ろして、男達は驚きにを顔に張り付けて、一人を残して水たまりを作った。
「あっ、はっ…ぁ?」
理解不能。理解できないからこそ恐ろしく近寄りがたく。憎む。
だが、痛みは知覚出来たのだろう。拳銃を握っていた右腕の肘から先が無くなり、鼻を削がれれば嫌でも解る。
「あぁぁあああぁ悪魔め!! 悪魔め!!」
そいつはソレを白けた目でみた。同時に怒りが沸き上がった。
そいつは「神よ。我等が導き手よ!!」と叫ぶ男に向かって初めて殺意を向けた。
「地獄の劫火(ゲヘナの火)よ祖は母の涙と子の血より堕とされた偉大なる王。捌きを下せ。」
それは、一言で言えば業火であった。部屋の内部の火を集めても足りない程の炎だった。ただ、部屋の中から熱が消えた。体の芯まで凍る様な寒さが少年達を襲った。
声も出せない中、不自然に形作られ集められた炎が男に向かった。
成人男性よりも少しばかり大きい程度の人型をした牛頭の炎がゆっくりと歩き出し、音もなく忍び込んだ東洋人の男が背後からそいつに襲いかかった。
音をさせず背後に立ち、瓦礫を崩さずに踏み込む。
そいつは、川神百夜は楽しそうに言う。
「素晴らしい」
その技術、この状況下で下した冷静な思考、ソレを実行する胆力。師範代クラスだ。釈迦堂が実に喜びそうな獣であり人だ。
だが、ソレは関係ない。
「だが、無意味だ。」
貫手が空を切った。対象に触れる前に対象がふわっと前に押し出された。
東洋人は短い舌打ちの後、目にも止まらぬ速さで泣き叫ぶ男の前に立ち、連れ去った。
大方、あのテロリストが雇った護衛なのだろう。だが、それこそ無意味だ。生贄は捧げられている。何よりも強い血縁を辿り、男の母と子を殺しただろう。契約からは逃げられない。
会場の隅に炎の塊が現れ、悲鳴が聞こえた。じわじわと焼き殺されるのだろう。アレの残虐性は故事にも残っている。無言で東洋人の男が向かって来た。その目には釈迦堂と似た様な光が在った。
百夜は思う。釈迦堂の方がキレイだと。言葉を紡ぐ。
「われにふれることあたわず」
どうでも良い。それが、百夜が東洋人に対する評価だった。それよりも必要なのは九鬼英雄の治療だ。痛めた筋に罅が入っているだろう腕、確実に痛めている肩。爆弾を抱えられては堪らない。楽しい将来を他人の理由で潰されては堪らない。
Side 九鬼 英雄
何もしなかった。百夜は何もしなかった。拳を振るう事も、蹴りを放つ事もしなかった。言葉を紡いだと表現すればいいのだろうか? それともただ単に言葉を口にしたと言えば良いのか。
我にはその姿が恐ろしく見えた。あぁ、正直に言おう。恐怖はある。だがこの胸の中に渦巻くモノでは無い。心が感じているモノでもない。
畏怖だ。畏敬だ。我は場に居合わせたのだ。暴君が暴君たる力を振るう場にいたのだ。
嬉しさが無いと言えば嘘に成る。友人が親友が強敵が種別は違うが王たるモノだったのだ。
焦った顔で掛けて来た百夜が最初に紡いだのは罵声だった。
「馬鹿かお前は!! 餓鬼一人ぐらい見捨てろ!! この大馬鹿が!!」
暴君らしいと思う。基本的に百夜は自分が一番なのだ。誰に対しても自分の安全が有ってからの行動に成る。そんな所も気にいっている。対等…自分と同じ場所に語り合えるモノが居る。
それがどれ程の幸せか…
血縁等ない唯の他人同士でしか結べぬ絆。それが、嬉しい。
「そう言うな。幼子は万国共通の財産。ならばソレを護るのも王の勤めよ!!」
「馬鹿が…ほら、左腕見せろ。次の試合は無理だな…肩が外れかかってるし筋も違えてるし手首は罅、腕事態にも亀裂。筋肉も損傷、肘…手術な。リハビリ含めて一年以上だ。出血は…まぁそのこの人に礼を言っとけ。放っておいたら救助が来る前にお陀仏だ阿ぶっ?!」
「ぐあっ!! 百…やっ!!」
何が起こった? なぜ…我の左腕から感覚が消えた? 何故…百夜が胸から血を流している?
痛みと衝撃。我は其処から先の事知らない。気が付けば、九鬼の実家で点滴をされていた…