俺は真剣でダラッと生きたい   作:B-in

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釈迦堂さんはカッコイイんだよ。


十九話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、百夜です。ハイテンションお姉さんの襲来。どうしろと?

 

「家に上がるかね?」

 

「いらん、いらん。其処の木陰で話すから、階段も立派な腰かけだよ。茶は居らねぇ」

 

「うむ。我はそれでも構わん!!」

 

だから、テンション高いってアンタ。

 

そんな事を思いながら移動。いやぁ、夏の太陽ってのは病気に成りそうな位に忌々しいね。

 

「さて…と言わずとも、アレでしょ? 英雄についてで良いの?」

 

「その通りだ」

 

話を要約するとこう。

 

何故、英雄から離れる?

 

英雄と何か在ったのか?

 

と、言う事らしい。

 

どうしたもんかと思うも、答えは簡単。在ったけど無かった。多分そうだと思う。

だってさぁ、アレよ? その程度の関係だったのよ結局。最終的にはだけど。

 

 

「ん~…飽きた? 違うな。萎えた。コレも違うか……何だろう?」

 

「分からぬか?」

 

何かしたり顔で言われた。自分は知ってますよぉって顔。ドヤ顔見たいなやつ。

 

「分からないねぇ。何だろうか…まぁ、離れたいと思ったから離れたんだよ。っーか何でソレを聞きに来たの?」

 

友情と言うか、友達関係ってその程度で繋がるし、切れるもんじゃない?

 

「……分からぬのか? 本当に分からぬのか?」

 

「うん」

 

ガチで分からん。

 

「貴様は逃げて居るのだ、自分から、英雄から」

 

…何言ってんの?

 

「貴様は眩しいから英雄から目を逸らしたのだ。己から目を逸らしているのだ!!」

 

「いや、意味が分かりません」

 

「何故考えぬのだ!!」

 

分からないから。

 

「何故諦めるのだ!!」

 

メンドイから

 

「何故立ち上がろうとしないのだ!!」

 

キツイから

 

「そのままでは何も進まぬぞ!!」

 

まぁ、現状特に不満と言うかこうなりたい・したいって事無いからねぇ

 

「英雄は!! 貴様を友と信じて居るのだ!!」

 

…人それぞれだぁねぇ

 

「ん~…ソレで終わり? 終わりなら戻るけど?」

 

「っ貴様!!」

 

握りこまれた拳が振り上げられる。当たったら痛いので避ける。

 

「いやいや、暴力は駄目よ。痛いから、すっごく痛いから。百夜さんは散々殴られた後だから」

 

いや、もうほんと殴られました。ボコボコにされましたよ? 瞬間回復が無かったら確実に死んじゃってるからね?

 

「そうやってふざけて、フラフラとして!! 何故其処までして逃げる!!」

 

「いや、何でアンタはそう俺の事を一から知っているみたいな事言うのさ?」

 

ストーカー?

 

「我が以前貴様の事を知ろうとしたからだ!!」

 

「いや、個人情報と言うモノが」

 

「知った事かぁ!!」

 

ブンと風を巻き込んで振り下ろされる拳。いや、避けてますよ? でもね、この人姉さんぐらいに強いよ? 今の時点で。

 

その内避けられなく成ってきそうです。早めに帰って貰わないと!!

 

「このままでは腐れるぞ!! 一生立てなく成るぞ!! 男として生まれたのならば立ち上がる気概を見せて見よ!!」

 

「腐れて結構。腰抜けでOK。それで良いじゃない。その内、アイツもソレで納得するって。大体アンタの言う事は強者の理屈だぁね。弱っちぃ人間には出来ない生き方なの。自分の物差しで測ったらいかんよ?」

 

生まれからして違うんだから。

 

その後も、なんだか殴りかかられ続けたけど何とか被弾0。やっと諦めてくれたのか

 

「今日はコレで帰る」

 

と、言って帰って行きました。

 

あ~しんどい。

 

「百夜よ。ちょっとワシと話をしようか?」

 

「夕飯終わってからで良い? 昼もまだだし」

 

いざと成ったら形部のおっちゃん盾にして逃げる。

 

 

Side out

 

Side 鉄心

 

 

何ともまぁ…嫌な予感と言うモノは当たるモノじゃなぁと、ワシは思う。

 

まさか、百代よりも先に百夜の方に来るとはのぉ。

 

悪いとは思いつつも、話を盗み聞きしていて正解じゃった。

 

運が良い事にワシは孫に恵まれた。両方とも類稀なる才能を持って生れて来た。

 

姉の百代は正しく鬼神・武神の生まれ変わりの様な『武』の天才じゃ。

 

弟の百夜も同じく申し子。教えても居ないのに氣を操る才気、生まれた瞬間に己の氣を隠し封印した本能。此方も正しく天才じゃ。

 

じゃが、故にこそ悪い部分もある。肉体がどれだけ優れて居たとしても、技術がどれ程優れて居ても、心が歪んで居ればそれはただの害悪でしかない。

 

そう、自身も周りも巻き込んでしまう害悪でしかない。

 

「ふぅ、老骨に堪えるわい」

 

素麺を啜る。

 

夏の暑い時期にはコレが一番じゃ…飽きるがの

 

「何処で捻じくれたのか…いや、最初から捻じれていたのか…」

 

人生儘ならぬモノよ。そう考えれば百夜は不幸な子なのかも知れぬ。痛みを嫌い、苦しむ事を嫌い、辛い事を嫌う。

 

人間ならば皆そうじゃ。特殊な人間以外はの。目標が無いのは知っていた。ワシに強請る学術書はバラバラで、その時に興味を持った物。

 

子供らしいモノに夢中になった姿も見た事が無い。ゲームもするが退屈を紛らわす程度のモノなのじゃろう。読書も同じ、テレビアニメも同じ。

 

人生と言うモノに厚みが無い。ソレに口出しをすればアレはますます頑固に成ってしまうじゃろうし、家族中が悪く成るのも嫌じゃしのぉ。

 

まぁ、一番の問題は

 

「踏み出す勇気が足りない」

 

口に出してみればその程度。だが、実際にやってみればどれ程の苦行か。経験が在るからこそ、その難しさも知っている。出来ずに去っていった者達も知っている。

 

その事に文句も何も無い。ワシは踏み出せた、他の皆は踏み出せなかった。

 

それだけの違いでしかない。

 

「心を揺り動かす一手…ソレが必要じゃな」

 

さてと、一つこの老骨に鞭を打つかのぉ。

 

食べ終えた素麺の器を流しに持っていき、受話器を持つ。

 

 

 

 

 

Sideout

 

家から出て定食屋に向かう。何時もの所では無く、知り合いがバイトをしている梅屋。そこの扉を開くと

 

「ヘイ、ラッシャーイ!! って百夜か」

 

「いやいや、お客様ですよ俺?」

 

あんた、絶対に客商売向いてない。

 

「で、何時もの所じゃ無くて此処に来ったって事は…何か在ったのか?」

 

「ん。かなりメンドイ。豚丼特盛り玉つきねぇ」

 

「へいへい。豚特玉付き一丁!! で、なにが在ったんだ? こっちに帰ってくるのも随分と早い様な気もするんだが?」

 

取りあえず。色々とはしょって話す。食事処でする話じゃないしねぇ。

 

「爺に目ぇ付けられてOHANASI 決定。」

 

「…じゃぁな百夜。今日のは俺の奢りしてやる。化けて出るなよ?」

 

「酷く無い?! 死なないよ? 百夜さんまだ死にたくありませんよ!!」

 

「いや、アレだ。俺も戦うのは好きだがよ…負ける戦いは嫌いだっーの。」

 

畜生!! 店員こんななのに豚丼がマジ美味い

 

「まぁ、アレだ。本当に危なく成ったら逃がすぐらいはしてやるよ。」

 

「あら? 意外な反応。どったの? そろそろ出て行こうとか考えてる?」

 

止めてよね。姉さんの相手は誰がするのさ。

 

「…いや、そんな訳ねぇだろ。おじさん定職も持ってないのに」

 

「それでも、どっこい生きていける人間て凄いねぇ」

 

まぁ、この人の事だから裏の仕事とか傭兵とかSPでも何でもできるし…アレ? 逆にその方が生きやすいんじゃないのこの人?

 

「御馳走さん。本当に危なく成ったらお願いします」

 

「おう。おじさん嘘つかない」

 

「うさんくせー!! もう、頼まねぇよ!!」

 

笑いながら言って店を出る。やっぱあの人良い人だなぁ。

 

 

 

時計を見るとまだ一時。どうすっかね? あっ、自称風の所にでも居くか

 

ちょっと早足で移動して、何時もの場所へ。遠くから騒がしい声が聞こえて居るので居る事は確定。久しぶりにケイドロとかしてぇ。

 

 

 

 

 

 

 

Side out

 

 

 

その夜。川神院に二人の『武』が訪れた。

 

問答は既に始まっており、大気を揺るがす様な威圧感が道場から噴き出していた。

 

「ほぉ、実の孫相手に本気の様だな川神」

 

「ふぅむ。コレは一つ気合いを入れなければならない様だのぉ」

 

序列第0位、九鬼家最強の剣にして嘗て川神鉄心のライバルで在ったヒューム・ヘルシング。

 

生まれるのが遅すぎた竜、橘平蔵。

 

「ぬん!!」

 

「ぬぅぅん!!」

 

不可視の壁が川神院全体を包む。ソレが合図だった。

 

道場の門が打ち破られ、幼い体が地面に罅を残しながら数度跳ねる。

 

ゆっくりと、破れた門から姿を見せた老人は研ぎ澄まされた日本刀の様な声色で言う。

 

「ワシは今宵鬼と成ろう。お主がその重たい尻を上げるのなら、這い蹲るなら、幾らでも血の涙を飲もう。」

 

その言葉に返ってくる言葉は、何の芯も無く、厚みの無い言葉。

 

「ふざけんな、DVだろそれ。」

 

やってらんねぇ

 

そんな抜けた声が響いた。

 

結界を張ったもう一人の人間は、立つ位置が悪かったのか冷や汗を掻きながらも内で叫ぶ本音を抑え込みながらどうするか悩んでいた。

 

(いやいやいや、ジジイ一人でもムリゲーなのにヘルシングと橘って…おじさん早っまたか? なぁ、百夜よぉ。お前さん一体何しでかしたんだ?)

 

 

釈迦堂形部の中に在る闘争心と好奇心が鎌首を擡げた。

 

 

 

時を戻す。川神家の夕食は三人だけの味気ないモノだった。時期は夏、送られてくる素麺、終わらない白い食卓。

 

夏特有の地獄が続いていた。

 

「…今日も素麺」

 

「明日も素麺」

 

「………仕方がないじゃろう。どんどん送られてくるんじゃから」

 

「多分、きっと来週の今頃も!!」

 

「止めて!! おじさん深夜バイトに行くのも辛く成る!! 今日は無いけど!!」

 

まぁ、何時も通り騒がしいのは変わりないのだが…

 

そんな地獄の様な夕食を終える。勿論、昼に言った通りに道場で話が在るので鉄心は先に道場に向かった。その事に気が重く成るのは川神百夜一人だけだ。

 

「まぁ、そんなに重く考える事も無いんじゃねぇーの? ジジイも別に取って食おうって訳じゃねぇだろうし」

 

「いや、ね。それならソレでまだ違う対応が有るんだけどもさぁ…」

 

いらない善意ってーのは本当にどうしようも無いから嫌なんだよねぇ。

 

言葉には出さずにそんな事を思う。

 

百夜の頭の中で恐らくお説教だろうとコレから起こる事に検討を付ける。其処に肉体的なとも付け加える。

 

唯でさえ萎えて居る時にコレはキツイ。昼間河原で遊びまくった事で適度にリフレッシュ出来たのに、とタメ息を吐く。

 

ギシギシと歩みを進める度に成る音が余計に心を重くさせる。

 

そして、道場の扉を開けた時…

 

(あっ、今回ガチっぽい)

 

川神百夜はそんな事を思った。

 

 

どうも、百夜です。じい様に呼び出されました。来ました。お説教かと思っていましたが、それ以上に何か真剣(マジ)です。

 

何が在った…

 

「来たか。百夜よ、其処に座りなさい」

 

「胡坐?」

 

「まぁ、良いじゃろう」

 

取りあえず腰を下ろす。ハッキリ言って板張りに胡坐を掻くのも余り好きではない。日本人なら畳だべ。そのまま横に成って寝れるし。

 

「のぅ、百夜よ。今日のお嬢さんへの対応、お主はどう思っている?」

 

「紳士的だった!!」

 

暴力振るって無い!!

 

「渇!! 真面目に答えんか」

 

「ん~まぁ、話す気も無かったから結構酷いね。でも、ソレはあっちの都合だし。向こうからしたら俺の都合何だけども、どっちもどっちで良いんじゃね?」

 

俺がそう言うと一回頷く。

 

「まぁ、そう言うとは思っておったがのぉ…百夜よ、らしくないの」

 

「はぁ?」

 

何だか気に障る言い回しだなこのジジイ。

 

「普段のお主なら…そうじゃの。もっと極端だと思うんじゃが…中途半端過ぎやしないか?」

 

「そう? 結構駄目だと思うけど?」

 

あ~そう言う事ですか。そういう考えですか。

 

「いいや、中途半端じゃな。百夜よ。ワシはの、お主が逃げ続けるなら、逆に挑み続けるなら文句も何も無いし口出しもしようとは思わんのじゃよ。ぶっちゃけ言いたい事だらけじゃけども」

 

「いや、後半の本音隠そうよ。本人目の前にして」

 

やっべ~な。コレ拙い。

 

「今じゃから言うておるんじゃよ。のう、百夜。どっちかにせんか? 止まるならそれでも良い。其処には幸せが在る。勿論苦労と不幸も有る。立ちあがって進むのも良い。其処にも幸せと苦労に不幸が在る。」

 

「まぁ、生きてりゃ在るもんだしねぇ」

 

「そうじゃ。生きておれば喜怒哀楽苦辛幸が在るのが常じゃ。其処に命が在り生きて居るのならばのぉ」

 

はいはい、そうですねぇ。立ち止まっても死ぬわけじゃ無いものねぇ。

 

「じゃがのぉ、中途半端はいかん。直ぐに立ち上がれる癖して座り込み、寝転びもせずに居る。中途半端じゃ、どちらにも行かずに足踏みもせずに進もうとも立ち止まろうともせずにただそこに浸っている様に気どっているのはいかん。」

 

「人それぞれだぁねぇ…だって人間だもの」

 

「人それぞれか…良い言葉じゃよ。」

 

言い訳にも使えるからねぇ

 

「じゃがのぉ、それも人それぞれじゃよ。お主の薄っぺらい言葉では何の意味も無い」

 

「結構毛だらけ、猫灰だらけ」

 

「…のぅ、百夜よ。武術をやれとは言わんよワシはな。じゃが…真剣(マジ)に生きて見らんか? 中途半端では無く。逃げるなら逃げ続ければよい。捕まっても良いと思っていなければ。立ちあがって歩みを進めても良い。挫け、折れてしまってもソレも生きた結果じゃ。」

 

「何もしないのは駄目ってか?」

 

「その通りじゃ」

 

そりゃあ、難しいな。だって何もする気になんねぇし、考えるのも悩むのも疲れた。

 

答えなんて無い。それが答えなんじゃ無いだろうか?

 

気持ちを察する事は出来るさ、ソイツの正確な情報が有れば。でもねぇ、なーんもしたくないんだわ。

 

「無理」

 

「どうしてもか?」

 

「いや、無理なモノは無理。十年、二十年もすれば分かんないけどさぁ。そんな事より眠たい。」

 

疲れたし。

 

「…そうか」

 

「そうです。それじゃ、今日はもう寝る。おやす」

 

みの途中で肉が骨にめり込んだ。

 

殴られた。ソレは直ぐに分かった。ジジイが何をしたいかも理解出来た。だから言葉にしておく

 

「ふざけんな、DVだろそれ」

 

真剣に生きてみろ? ただ生きているだけでも儲けもんだってーの!!

 

(でもまぁ…此処でそうなるのも乙っちゃぁ乙か? カカ、詰まんねぇけども。)

 

まぁ、めんどくせぇなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

更に時を戻そう。川神鉄心がどこぞに電話を掛け終わって数十分程の事だ。

 

とある屋敷の庭の木陰ですやすやと寝息を立てる幼子を見守りながら、ヒューム・ヘルシングは待ち人を待っていた。嘗てのライバルで在った男。川神鉄心。

 

こうやって連絡を取るのも久しい…寧ろ初めてに近い。以前ならば、言葉ではなく拳を交わしていた。ソレが何時の間にか言葉を交わすように成っていた。

 

久しぶりに在ったのは…そう。川神百夜を見てからだ。その事を思い出し苛立ちが生まれる。

 

ヒュッと風が吹いた。待ち人が来た合図だ。

 

「久しいの、ヒュームよ。」

 

「フン。今更何の様だ? あの赤子にすら成れて無い餓鬼の事か?」

 

言葉強く成るのは仕方がないのかもしれない。僅かだが期待をしていたのは事実だ。

 

「まぁ、そうなるのぉ。家の孫…百夜と九鬼の御曹司は友人と聞いて居たのじゃが…その二人を繋いだのは誰か、ソレが聞きたいんじゃよ。」

 

繋いだと言う言葉に、ピクリと眉が動いた。

 

「…再び繋ぐ為に必要と言う事か? それならば」

 

「無理だと言いたいんじゃろ? まぁ、既にあしらわれてたからのぉ。じゃが、だからなのじゃよ。あの天邪鬼にはソレが必要じゃ。」

 

「……俺に喧嘩を売って居るのか? 川神?」

 

使うと言う事は、引っ張り出すと言う事だ。ソレは許容しかねる。使用人として…何より多感な時期である教え子を使うと言うのが気に入らない。

 

「何、ワシはお主がそう反応してくれるだけで結構じゃ。ふむ、どうかのぉ。放って置いても来るじゃろうしのぉ少なくとも三人は」

 

「…後手に回ったか」

 

奴等(本家の従者部隊)には再教育をせねばならんか。

 

既に手が回っており、自分が何かするよりも流れに乗って護る方が得策か…とヒュームは考える。他にも道は在るが、本人達に納得させる為にはソレが一番なのかもしれないとヒュームは思った。

 

頑固な二人だが、ハッキリと言われてしまえばそれで納得はするだろう。感情は納得出来なくとも…

 

その感情をどうにかするのも自分達の仕事である。とヒュームは思い、川神鉄心からの要求を飲んだ。

 

だが、一つ知りたい事が在った。故に口を開く。

 

「だがな、川神。肉親ならばこそ、どうにかしようと思い考え行動すると言うのは分かるが…あの餓鬼に其処までする価値は在るのか? アレはそのままでも何の問題でも無いぞ?」

 

「だからこそじゃよ。」

 

その返答にほぉっと言葉を返す。

 

「アレは幸福じゃが不幸なのじゃろう。その道を志すモノに取っては殺してでも欲しい才能と身体能力に未だ発掘されていない潜在能力。戦いに生きる者達ならば欲するじゃろうて、痛みを越えて辛さを堪えて、苦しみを味わって、命を噛みしめながら其処に向かうじゃろう。」

 

皆そうじゃった。ワシもお主もそうじゃろう?

 

その言葉に、そうだなと簡素に返す。

 

「じゃがの、あ奴はそんな事は望んどらん。偶々そんなモノを持って生まれた。生まれた場所が武を鍛える場所じゃった。周りが強要したが、結局の所あ奴は逃げ回った。当然じゃ、痛みを嫌わない生物が、辛さを味わいたくない人間が、苦しい思いをしたくない人が、な~んの目的も無くそんな事せんのは当たり前じゃろ?」

 

「アレは根本的にワシらとは違うんじゃよ。生きると言う事の意味を知らん。呼吸をし食事を行い排泄し寝る。ソレ位しか分かっとらんのじゃ。楽しむ事も知っては居るじゃろうが…アレは暴れ方を知らんのじゃよ。感情の未発達…と言えば良いか…まぁ、詰らんのじゃよ。」

 

じゃから、教えてやろうと思っての。

 

「暴れ方をか?」

 

笑いを噛み殺しながら言うヒュームに武神は答える。

 

「いーや。自分(・・)が生きていると言う事をじゃよ」

 

川神鉄心はそう良い、その場を後にした。

 

小さく笑うヒュームは「そうか、そうか…」漏らしながら自分が任された末姫の体にタオルケットをそっと掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

時を進める。

 

ヒュームはその戦いといえない光景を見ながらただその才能の深さに驚かされた。

 

川神鉄心の拳が蹴りが小さな肉体を打つ。勿論手加減はしているがその手加減も殺さない様にしているだけの手加減だ。一発貰うだけで常人成らば膝を着いて胃液を吐き周り、涎や涙でぐちゃぐちゃに成った表情をする事だろう。

 

だが、川神百夜は平然と立っていた。

 

拳が迫れば引き、蹴りが来れば避ける。唯それだけ。それだけの事がどれ程難しいか。

 

拳が迫ればその前に体が勝手にその逆に押されて、蹴りで薙ぎ払われようともふわりと風にまかれる様に回避する。

 

まるで羽や埃の様だった。

 

これ程までに酷いとは思ってもみなかった。

 

川神百夜の表情は川神鉄心とは真逆でなにもかもを諦めた様な屍の方がまだマシな顔だった。

 

後ろに控えさせている九鬼揚羽が言う。

 

「アレ程の才気が在るのに…何故…」

 

「逆だ。あの様な事が出来るから諦めた…と言う事だろう。全く詰らん。話にすら成らん、川神め、まだ血縁の情に惑わされているのか?」

 

川神鉄心ならばあの程度は簡単に殴り倒す。ソレが出来て当然なのだ。武神と呼ばれる男にはその程度は造作もない。赤子の手を捻るよりも簡単なのだ。

 

そして、川神百夜が口にした言葉、行動が川神鉄心の心の枷を外す。

 

ソレは正しく鬼の如し、振るう拳は武の極み。放たれる蹴りは阿修羅さえ屠る。

 

一切の容赦なく川神百夜の胴に減り込む。正確に川神百夜の体を蹴り飛ばす。

 

だが、全ての攻撃の後に回復してしまえばソレの意味も無い。強すぎる痛みは情報が多すぎて痛みの前に熱を、痺れを感じさせその次に来る痛みが来る前に収まってしまう。

 

瞬間回復を会得している者に勝つにはその意識を飛ばさなくては成らない。

 

ソレを理解しているからあの手加減なのだろうが

 

「ぬるい」

 

「………」

 

後ろに控えている。九鬼揚羽が息を飲むのが伝わる。揚羽の目には川神百夜が一方的で圧倒的な暴力を振るわれる少年に映っているのかもしれない。

 

だが、それは違う。

 

(生ける屍か……人間はこうも堕落出来るモノなのか)

 

生きる気力は少なく。死ぬ様な自棄も無い。ただ己が苦しむのを嫌い、自分から何かをしようとは思わない。

 

コレは怠惰とも呼べない。怠惰にすら成れないそれ以下の何かだ。

 

「おいおいおい!! 電話が在ったから来てみたら何なんだよコレ!!」

 

「ど、どう言う事なのですかコレは!!」

 

「ふん、来たか。橘、その二人は任せる。此方も来たようだ。」

 

慌てふためく少年二人をヒューム・ヘルシングは興味なさげに橘平蔵に渡し、続いてやってくる者を迎えた。

 

「コレは…コレはどういう事だヒューム!! 何故我が強敵(とも)が肉親に一方的に嬲られている!!」

 

「度し難い。アレは既にお前の友では無い。唯の屍だ。己が目で見極めろ。アレはとうに死んでいる。」

 

「姉上!! 何故止めようとして下さらなかったのですか!!」

 

「我は…」

 

 

 

Side 揚羽

 

 

先日我が弟がテロに巻き込まれた。本家に送られて来た弟の利き腕はギプスに固められていた。その他にも出血が酷かったのも手伝ってか顔色は悪く。下手をすれば死んでいるのではないかとすら思ってしまえるような姿だった。

 

弟と一緒に送られて来た友人、川神百夜は血色も良く直ぐにでも起きそうな様子だったがその事に違和感を感じられたのは私だけではなく、ヒュームも同じだった様だ。

 

ヒュームは何処からか取り寄せたモノを確認しに席を外し、私は手持無沙汰になった。弟の顔に手を近づけ息をしているのを確認し要約安心できた。

 

その事に恥ずかしく思う。

 

この様な様で世に覇を唱える事など出来るものかと己に活を入れる為外にでた。体を動かそうと思ったのだ。

 

偶々だった。その場面を除いてしまった。

 

「…英雄には酷な事だろうがな。今のアレと長く付き合っていても勝手にアレが離れて行くだろう。ドレだけの王気を身に付けようとな。だからお前は何もするな。アレが腐ったら腐ったで良し。腐らなくとも良しだ。」

 

師であるヒュームにはバレて居た様だったがな。

 

腐るとはどういう事だ?

 

弟には酷とはどういう意味だ?

 

私は従者に一言告げて川神道場へと向かう事にした。

 

うむ、以前から調べて居て良かった!!

 

行き道で弟の意識が戻ったと連絡を受け一度戻ろうかとも考えたが、ソレは後からでも出来るのでそのまま道場の方へ向かう事した。

 

しかし、徒歩だとやはり遠いな!! 丁度良い散歩道だ!!

 

弟とその友人の会話は従者を通して此方にも届いている。

 

流石は我が弟!! 友人を信じているのだな!! しかし、弟から其処までの信用と信頼を受けている川神百夜…やはり、気に成る存在だ。あの時目を付けた我の目に狂いは無かったと言う事だ。

 

「合うのが楽しみに成って来た!!」

 

だが、実際に合ってみれば…以前で在った時とはまるで変わっていた。

 

何も無く成ってしまった様な、ただ其処に居るだけでしかない様な川神百夜に成っていた。以前在った時は芯が在ったのだ。それがどんなモノでも良い。だが、確かにソレが在った様に思える。

 

(…何が)

 

何が弟の友を、川神百夜を変えてしまったのだろうか?

 

また来るとは言ったが行って何をすれば良いのだろうか?

 

思いつかない。言葉ではダメだ、行動しなくては…だが、我が行動しても

 

(のらり、くらりと…そう言えば)

 

我は川神百夜の本気と言うモノを見た事が無い。本気を出したと言うことを聞いた事も無い。

 

「本気の姿…本気…そうか!! フハハハハハハハハハハ!! 思いついた、流石我よな!! アハハハハハハハ!!」

 

本気を見せてやれば良いのだ。少しでも良い、他者の心を揺り動かす程度で良い。それ程の本気を見せてやれば良いのだ。

 

「そうだな、先ずは英雄に…」

 

自分の考えを纏めながら家路に着き、自室に戻ってみれば師からの誘いだ。

 

我は思った。この方もまだ何かを期待していると。我はそう思った。だが、だが………これはただの暴力では無いのか?

 

打ちのめされる、傷一つ無い少年と無言で力を振るう武神。

 

何故だ? 何故こう成った? 何が原因だったのだ? 何故、我は動けないのだ?

 

何故、何故、何故…思考が巡る。そして、ふっと思い至った。肉親があの様な行為に至る経緯。恐らくその原因に成ったのは

 

(我だ…昼のアレが)

 

ならば何故…我があの場に居ない。

 

当事者である自分が何故あの場に居ない。何故、そのような結果に成るのだ? 何故時間を掛けない。何故だ、何故…

 

(あそこに我が居ない!!)

 

川神百夜を正しく打つ権利は我に在る。なのに、何故川神鉄心が拳を振るっている? それは駄目だ。己の事は己でしなくては成らない。我は九鬼。九鬼揚羽だ。

 

王たる九鬼の、我のする事だ!!

 

「…っ!! ハァァァァァァァァァ!!」

 

全身全霊、決死の一撃を…

 

我は振り絞って迫る拳を横から殴り飛ばした。

 

 

 

 

Side out

 

 

 

 

Side 川神百夜

 

 

 

押される。

 

巻き上げられる。

 

拳圧に蹴りに、体が押され、巻き上げられる。身を任せよう。考えるのは面倒だ。どうせ、死にはしない。死んだら死んだで何も感じる暇もないだろうし。

 

(めんどくせぇ)

 

何でこうも、するのだろうか?

 

何でこうもするのだろうか?

 

なんでこうもするのだろうか?

 

理解は出来る。まぁ、この人の血縁で孫で、生まれてから殆どをこの人の庇護の元に過ごしてきた。情が在るのは当たり前、期待もまぁ、されているさ。俺だって出来ればこの人に長生きして欲しいと思うし、姉ちゃんも幸せに生きて欲しい。

 

だから、何とかしようとか思う気持ちは理解できる。将来を健やかに過ごす為にアレコレしておけって言うのも分かるさ。

 

でも、放って置いてくれないかなぁ

 

アレだ、今の自分の状態はアレ。燃え尽き症候群って奴だ。な~んにも興味が持てない。何もする気が無いし、しようとも思わない。

 

何時か、ヤル気は出るさ。何かを見つけたら。そんで後悔して悔やむんだろうさ、何であの時ってな具合で。

 

それで良いじゃない?

 

それじゃダメなの?

 

そんな思いを言葉にしてみた。

 

「いやもう勘弁して下さい。疲れたんです。面倒臭いんです。時間を下さい。何時かは分からないけど決着は着けますから、もう休ませて下さい」

 

ダメでした。なんか余計本気に成りました。

 

(ははは…はぁ)

 

まぁ、こうなるのは分かってたけどもね~。殴られても痛くないのよ、痛すぎて。痛みを感じる前に治してるし、治っちゃうし。

 

いっその事回復無しにしちゃえばいいかなぁ何て思うんだけども、痛いじゃない?

 

それは嫌なんだよね。

 

(持久戦後に追放かなぁ? お弟子さんが居る福岡の方か…また別の伝手か)

 

どっちでも良いか。あっ、でも福岡の方が良いかなぁ。白身の魚が美味そうだし、ラーメンも食いたいし、中州も良いかなぁ…精通が来たらだけども。

 

拳にも蹴りにも目が慣れて、どう体に当たるのかも解る。下手に避けても痛みを感じるだけなので避けないけど、受け流しても絶対に痛いし痺れるもんこの威力。

 

つーかさぁ、何であいつ等呼ぶかねぇ。自然消滅を狙ってたんだけども。ていうか来ちゃダメでしょ? 冬馬も準も英雄もさぁ、何かお姉さんまで居るし。

 

(このジジイ本気でどっちか決めさせる気なのね。)

 

こう、宙ぶらりんでさ。自然に無くなるって言う方法を取ろうとしていたので結構痛いわぁ。仮に俺が冬馬達と友人続けるとしても今まで通りは無理。

 

だってさぁ、白子の事あいつ等に丸投げたし。英雄に至ってはこれからどう付き合えと?

 

財布?

 

仲直りしてはいお終いって訳にもいかないんだっつーの。

 

(自業自得なんだけどもねぇ…なーんであの白子に要らぬチョッカイ掛けたんだっけか?)

 

思い出してみると完全に自業自得だった。うわぁ、好奇心って怖いねぇ。それに付随して病院での一件も思い出してしまう。

 

(はぁ…そう言えばあの白子、どうしてるのかねぇ)

 

絶対に壊れてるのは確定だけど。まぁ、後は周り次第かなぁ。冬馬と準が傍に居るなら依存するだろうけど、本人は幸せにやって行けると思う。

 

ん~心配するべきは姉ちゃんか。瞬間回復とかはまだ覚えて無いみたいだから、今の内かな。修正するのは…何か言葉が違うなぁ。間違って無いけど。

 

(それにしても、今何時かねぇ。やっぱこのご時世だし殺す事は出来ないんだろうけど…力の封印とかぐらいでまから無いだろうか? この処置は)

 

そんな事を考えていると横槍が入った。

 

正直に言う。凄いと思った。純粋に驚いた。

 

だって武神の一撃を逸らしたんだ。こいつは化け物扱いされても仕方がないね。

 

横槍を入れた人物は俺の胸倉を掴んで鼻と鼻がくっつきそうなくらいの位置で怒鳴った。

 

「拳を握れ!! 歩みを進めよ!! それでも男か!!」

 

理不尽である。

 

「いや、唐突過ぎるし。っーか関係無いでしょ?」

 

「在る!! この発端、我と汝の昼の一件だ!! ソレが切欠だ!!」

 

あぁー…確かに

 

「そうかもだけど、何故に乱入? まさか、自分が発端なのにその現場ってかジジイの位置に自分が居ないのか? とでも思っての横槍?」

 

「正にその通り!!」

 

「我儘ってレベルじゃねーぞ?!」

 

ってジジイ!! 殴るモーションに入るなや!! 九鬼と川神で対立したらガチで洒落になんねーぞ!!

 

ガッ!! と肉と肉、骨と骨がぶつかる音がした。九鬼の姉ちゃん越しに見えるのはチョット汚れ気味のシャツにジーパンの後ろ姿。前から見たら不敵な笑みを浮かべて居るんだろうさ。で、内心は「やっべー、どうするよ俺?」とか冷や汗ダラダラ何だろうけど。

 

かっこいいねー。釈迦堂さん。

 

「どけ、釈迦堂。百夜には必要な事じゃ」

 

「いや~、俺もどきたいのはやまやま何ですがね? 其処のお嬢さんの保護者の方が凄い殺気で隣に居ずらくて。それに…」

 

短髪、三白眼の不良親父。嘗ては井の中の蛙。猿山の大将。誰も自分に勝てなくて、誰も自分を必要とはせず、故に縛られる事無く一人で生き、独りで闘いに明け暮れた男。

 

武神に降され、その教えを受けた元は無頼。

 

故に。見つけた、認めた、過ごした、世話した者への情は深い。

 

「ヤバい時は逃がすって約束してるんですわ。百夜に。まぁ、そう言う訳でして…久しぶりに、一手御教授願おうか!! 川神鉄心!!」

 

あっ、ヤバい。かなり嬉しい。

 

 

 

 


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