俺は真剣でダラッと生きたい   作:B-in

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辻堂さんの所為で睡眠時間がない


二十四話

それは正しく死闘だった。肉を貫かれ骨を砕かれる死の危険が伴った死闘だった。

故に、この闘いに勝者はいない。

試合では無く、死合では無く、死闘。私闘でもある。

ただの喧嘩だった。

両方が両方の我を貫こうとした。その結果、お互いの我が通ってしまった。

結局の所、川神鉄心の読み勝ちだったのかもしれない。

だが、最後に鉄心が思った事は悔しいと言う途方も無い思いだった。

そんな事を知らない川神百夜は…否、川神百夜達はその決着に漸く一息ついたと言う状況であった。

 

九鬼英雄、葵冬馬、井上準の三人は百夜に駆け寄った。

丁度、百夜の腹から鉄心の腕がズルリと抜けた瞬間だった。

 

「ク、クラウディオ!! 早く医療班を!!」

 

「百夜!! 直ぐに九鬼の医療チームが来ます、ソレまでは絶対に意識を失わないでください!!」

 

「おいおいくたばるんじゃねーぞ!! 折角イロイロと決着が付いたんだろうが!!」

 

この少年三人が焦るのは当たり前だろう。腹を貫かれた少年を見て無事とは微塵も思えない。それは当たり前のことだ。

だが、忘れてはいけない。この少年には普通なら在りえない技がる。

 

一瞬で傷が塞がる。

 

瞬間回復。これがその技の名。常識外の技術だ。そして、少年は何時も通りに言う。

 

「あ~…死ぬかと思った。もう、絶対にこの爺様級の人とは闘わねぇ」

 

「残念だが、次のステージへご案内だ。」

 

もう、闘わないって言ったじゃないですか!! ヤダー!!

 

川神院に何時も通りの覇気が無く、何処かめんどくさげな声が響いた。

 

 

 

 

 

このまま、第二ラウンドか?! そう思った瞬間、川神百夜の意識は落ちた。

 

 

変化した。

 

此処で知っていなければならない事が在る。

川神鉄心との闘いで川神百夜が使用したのは、橘幾蔵と川神鉄心に釈迦堂刑部の動きを自分に合う様に最適化した物が殆どである。

そう、殆ど。

その殆どでは無い部分に在るのは、魔法使いの知識。

つまり、反動があるモノが多々ある知識を使い戦闘を行った。像を借りる様な形で使えば良かった物を本格的な知識とその為の技術を使用して使ってしまった。

つまり、概念的な威力、効果を発揮できる様に使ってしまった。

 

故に、反動が来た。

 

「ふぅ、そんなに荒々しい心で事を行ってはいけませんよ? ヒュームさん」←百夜

 

「え?」←冬馬

 

「なんだ幻術か」←準

 

「なっ?!」←英雄

 

「ん?」←ヒューム

 

「おやおや」←クラウディオ

 

「ハハハハハ!!」←平蔵

 

(((((誰だこいつ?!)))))

 

「やはり妾…いやしかし…」

 

一名、未だに考え込んでいたのは割合する。

 

迦楼羅焔。不浄を焼き尽くす炎。浄化の炎、聖なる焔。つまりは、そんな焔を使った上に自分の体に纏ってその氣さえも吸収して闘いまくった所為で、体中に在った邪気やら欲望やらが浄化されて賢者ならぬ聖者モードに移行してしまった訳である。

 

この後、日が昇り始めるまでの間ヒューム・ヘルシング、クラウディオ、橘平蔵三名は聖人・川神百夜に釈迦堂と鉄心の治療をしながら正座で説教をされるというなんともカオスな事に成った。

次の日、井上準は語る。

 

「後光が差してたんだ…一番の被害者は九鬼のねーちゃんだよ。イロイロと考えて答えを出してたみたいだけど、聖人に何も言えねーよ。」

 

序に言えば、その時の出来事を川神百夜は一切覚えていない。性質が悪いにも程が在る。

 

 

 

 

 

 

場面を変えよう。小雪と言う少女の話だ。

 

彼女は一度殺人事件を起こしそうに成った。その為、精神不安定を理由に別の病室へと移された。トイレが室内についている個室だ。コレは周りの患者への配慮も有ったが、彼女自身の事も考慮しての事だった。

今の彼女には鎮静作用のある薬が一日に二回出ている。朝と夕にである。

病院側としてはハッキリと言って迷惑な病人だ。追い出す事も可能である。それだけの危険性を孕んでいる。だが、彼女のこれまでの経緯を知って居れば同情や憐憫が湧く。そして、だからこそ放りだす事が出来ないのだ。

この病院の医院長は。

その事を良く知る医院長の息子である葵冬馬は、幼いながらにソレを利用した。

 

「彼女は、僕の友達なんです。僕が初めて助けた友人なんです。」

 

どうにか穏便にすませてくれませんか?

 

理由を造った。相手にされない可能性が高かったが、コレは確実に自分の弱みで相手に取ってある種の取っ掛かり…餌だった。

勿論の事、冬馬の父はソレは本来はしてはいけない事だと言う。医師は公平で無ければ成らない、平等で無ければ成らないと矛盾した事言う。

歯を食いしばる。冬馬は歯を食いしばる。悔しさからでは無い。

お前が言うなと言う、怒りを堪えて居たのだ。

そして、自分の子供に恩着せがましく言う実の父に嘘の笑顔を張り付けて答えるのだ。

 

「ありがとうございます」

 

と、精神安定剤を投与される事は考えていたが。ソレが毎日の事だとは冬馬自身思って居なかった。だが、仕方がない。詰めが甘いと言われればそれまでだ。

だが、彼は未だ小学生なのだ。それも、まだギリギリ低学年と呼ばれる位置にいる少年なのだ。

彼がソレを知ったのは川神百夜の闘いを知った次の日の寝不足気味の昼の事だった。

 

頭が巧く働かない。

 

ぎりぎりで働いた自制心が父に訴えるのを抑える。

 

思考が纏まらず、眩暈がする。

 

ぐるぐると、ぐるぐると回る。

 

(甘かった!! 僕は甘かった!!)

 

少女がとろんとした眠そうにしている病室で膝を着く。隣りに立っている井上準も何処か上の空で何事かを呟く。

 

「何だよ…何で…何で…」

 

葵冬馬と井上準はこの時初めて、人の悪意…無意識の悪意に出会った。

それは、無関心から来るもので。だが、少年の言葉を裏切ってはいなかった。

一体どういう方法ですませると確約した?

この処置は暴力的では無い。が、良心的でもない。

ただ、周りに迷惑を掛けない穏便な方法の一つ(・・)では在った。

願いは違われていない。あの時頼んだ事を違えてはいない。

 

「汚ないっ…何なんだよ…こんなの在りかよ」

 

(考えが甘かった!! コレが人のやる事なんですか?!)

 

九鬼に頼ろう。そんな考えが頭に過った。だが、それも直ぐに否定された。

可能だが、否定したのだ。

病院のトップの不祥事、暴かれる不正。信頼を失う。今この病院に居る患者達はどうする? 真面目に、人の為に働いている看護士や医師達はどうなる?

 

自分達一家が路頭に迷うのは構わない。父はそうなって当たり前の事をしたし、している。自分もその利益に生かされて来た。享受してきた。

 

だが、他の人間は違う。

 

(どうすれば、どうしたら…僕達は…僕達は…)

 

泣き寝入りは嫌だ。こんな状態の少女を放って置く事なんぞ出来はしない。そんな事したら自分を許せない。許せないどころじゃない。自分を殺しても足りない。

 

「若…百夜に頼もう。アイツなら…アイツなら何か考えつくかも知れない」

 

「…ですが」

 

この時、冬馬は迷った。とても個人的な事で迷った。

 

この事で、友人に見捨てられたらどうしようと。

 

そんな事は起こりえないと確信しているのに一抹の不安が過る。

 

「若!! 俺はコイツは幸せに成るべきだと思う!! 良いじゃねぇか、百夜に何言われようがさ。自分可愛さに縮こまって嫌な事を見て見ぬふりしててさ、そんなんでアイツの…アイツの友達名乗れねぇよ。俺は!!」

 

「…そう、ですね。胸を張って友人とは言えませんよね。そうしましょう。」

 

一度背負ったのです。誰かの手を借りてでも最後までやり遂げなければ…

 

(百夜に笑われます)

 

そんな人間だからこそ、川神百夜が眩しいと言うのだと二人は知らない。

 

そんな人間だからこそ、川神百夜は羨み妬んで尊敬する。何だかんだと口で言いながらも協力はするのだ。

 

 

 

 

 

此処で時を戻す。

 

川神百夜は朝方に帰った友人達+αを見送った後、ゆっくりと自室で惰眠を貪っていた。本来ならば、壊れてしまった道場の一部や融解してしまった石段の一部を治したりとしなければいけないのだが、其処は声質を取っていたので九鬼が直ぐに治してくれた。

 

金持ち怖いが口癖に成りそうに成った一瞬でも在る。

 

まぁ、そんなこんなで惰眠を貪っているのだが…他の二人はそうもいかない。

百夜によって少しばかり異質な治療を施された釈迦堂と鉄心の二人は子供道場や、本日のバイトに向かっている。

完全に家、言い方を変えれば川神家の居住域には百夜一人しかいない。つまり、安心してクーラー変わりに冷気を使ってのびのびと休んでいたのである。

 

スパーン!!

 

「なんぞ?!」

 

障子が勢いよく開けられてビビルのも仕方が無い事なのである

 

「ハッハッハッ!! 九鬼揚羽参上!!」

 

「おはようございます。三時間ほどしかたっていませんが」

 

更に、思い人が現れたのでちょっと嬉しい気分に成っているのも秘密なのである。

 

 

 

 

 

 

Side 百夜

 

参上じゃなくて惨状っていうかご覧のあり様だよ!! と思う今日この頃、皆さまお元気でしょうか? 百夜です。

いやージジイは強敵でしたね!!

朝起きたら体の内側から違和感がしてましたが今はもう回復しました。

いや、現実逃避何だけどね~。会いたいなぁとか不意に思ってみたら思い人が来ました。これはもうこの人と結婚しないと間違い何じゃ無いのかと思ってしまうそうです。

 

 

コレは無いと思う。この人好きだけど苦手だ。好きだから苦手なんだろうか? まぁ、良いか。

取りあえず、話を振ってみる。

 

「で? 何の用?」

 

「うむ!! さ、昨晩の返答をしようとだな…その、結婚は無理だ!!」

 

(振られたーーーーーーーーー!! )

 

いや、無理も無いけどね。

 

「…………」←この世のモノとは思えないほど暗い雰囲気を身に纏って体育座りな百夜

 

「いや!? 今は無理と言う事で在って汝の事が嫌いとかそういうのではないのだ!!」

 

(青春ですなぁ)

 

はいはい、別に良いですよぉ。

 

「今は年齢的に無理なのだ!! だ、だから…その、しょ、将来的に結婚すると言う事で!! こ、こん、婚約を!!」

 

わが世の春が来た―!!

 

「はい、お二人とも其処までです。百夜様、揚羽様と婚約すると言う事は近々九鬼の当主である帝様、その伴侶である局様と会って頂く事に成ります。それでよろしいですか?」

 

「OKOK、反対されたら奪いに往くから!!」

 

「うむ!! それでこそ我が良人だ!!」

 

なんだろ? 俺って今幸せの絶頂期じゃね? 

 

「だが!! 我が良人ならば!! 我が認める妾の三人ぐらいは囲って見せよ!! 結婚はソレからだ!!」

 

「へ?」

 

その後、嵐の様に来た思い人は爆弾落して風の様に去って行きました。

無理。無理です。ムリゲーだよそれ!! ハーレムとか法律が許さんわ!!

てか、俺が嫌だ!! 無理無理むーりー!!

でも、あの人有言実行だしなぁ…ソレっぽいしなぁ…ガチ何だろうなぁ。

 

「あかん、結婚できひん。」

 

頭の中が真っ白になった。

 

そんな時である。棚から牡丹餅と言えば良いのだろうか?

 

「百夜―!! 勝手に入るぞ!!」

 

玄関からそんな声が聞こえた。

 

「来た、相談役来た!! 今行くー!!」

 

出鼻を挫かれたのはお互いさまなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q.友人が家を訪ねて来たらどうするか?

 

A.お茶で持て成す。

 

 

常識だね!! JKだね!! 女子高生とかい…そこまで良くないか。百夜です。

 

取り合えず、お互いに落ち着いてと言う事で玉露入れました。爺様のだけど別に良いよね? 文句在るなら代金出すから。

まぁ、二人が来た時の姿が汗だくの息も絶え絶えな感じだったのでビビった。

部屋に入れてお茶を飲まして、御煎餅出しました。

 

冬馬と準の話を聞く限り、あの白子…小雪の扱いが酷い。何とかしたいけど何とも出来ない。九鬼に頼るにも他の病院関係者や、今入院している患者やそのご家族の事を考えるとヘタな事はしたくないし出来ない。

医院長と副医院長不在とか、怪我とか急な病気とかに成ってもヤバい。

 

お前等、自重とか無しにブッチャケたね~…まぁ、其処まで信用してくれて頼りにしてくれるのはこう…嬉しいんだけども

 

「…つまり、助けて百えもんと言う事でOK?」

 

「恥ずかしながら」

 

「腹の黒い大人がムカつくんだよ。」

 

準って結構熱いんだよね。隠れ熱血らしい。まぁ、これ位の頃なら皆そう言うモノかな? 斜に構えた奴知ってるけど。寧ろ俺もそっちに入るけど。

 

ん~つまりは、あの白子を病院に入れっぱだと扱いが酷いのでどうにかしたい。序に幸せにも成って欲しい。

 

あっ

 

「養子縁組したらええやん」

 

「「それだ(です)!!」」

 

(思いついた事言ったら受け入れられた。コワイ)

 

「いや、前提として小雪を受け入れてくれる優しい家族が必要な訳だけども…居るの?」

 

話聞く限り、殺人未遂やらかしてるんですが…最悪家の爺様頼れば良いかもだけど。

 

「大丈夫です。いま、小雪のカウンセラー…と言うか世話をしてくれてる看護師の方が子供の居ない方だった筈です。」

 

「榊原さんだろ? 旦那さんが家の内科医で確か…精神保健福祉の資格とかも持ってたと思う。」

 

「個人情報ぇ」

 

ダダ漏れですよ? 良いの? コレで良いの?! 情報社会?!

 

「百夜、本当に優秀な人や尊敬できる人は覚えられますし、色々と話も聞けるんですよ?」

 

「評判良い人達なんだよなぁ。退院した患者さんとか結構お礼に来るし、何処か悪く成ったら榊原さんにまた診て貰いたいって言われてるしな。」

 

まぁ、ソレはソレで良いとして……変にこいつ等に動かれてもなぁ、親父共が何か嗅ぎつけたりとかしたら危ないだろうし。

 

(九鬼えもんに頼ろう。そうしよう。)

 

あそこの従者部隊とか現代に蘇ったSINOBIそのモノだから、頼んだらそれとなく意識誘導してくれるでしょ。

 

「其処は九鬼頼るべ。お前等の親父に何か嗅ぎつけられても面倒臭い。てか、縁切っちゃえよ、お前等」

 

 

 

 

Side 冬馬

 

 

縁切っちゃえよ。

 

その一言を聞いた瞬間、僕は少し軽くなりました。とても個人的で可笑しな話です。この期に及んで僕は彼との…百夜との友情を疑って居た。

恥ずかしいと同時に誇らしい。僕にも、僕を此処まで信用してくれる友人がいる。

釘をさしてくれる友がいる。

ソレは準も同じだったのでしょう。笑いが出ました。そんな僕達を不思議そうに見ながら百夜が言います。

 

「何か面白い事言ったか? 俺?」

 

「いえ、百夜は百夜だなぁと感じてしまって…そしたら可笑しくて」

 

「まぁ、そう言う事だ。やっぱ、お前凄ぇよ」

 

恥ずかしいから、準ははぐらかして凄いと表現します。僕も…少し恥ずかしくて正直な気持ちは言いませんでした。

百夜は少し憮然とした顔をして

 

「まぁ、良いけども。俺は昨日の一件で一つ学んだ。俺は俺にしか成れない。当たり前だわな。だって俺は俺の記憶しか、経験しか持ってないんだもの。だから冬馬は冬馬で準は準だべ? クローンがどうとか言うなよ? 水掛け論に成る」

 

(あぁ)

 

大きいなと思いました。素直だなと思いました。捻くれてるなと思いました。

僕達は既に全部ぶちまけました。昨日、百夜がそうしたように。汗だくに成って走って、息をするのも辛いぐらいに切らして、内側に溜めこんでいたモノを吐きだしました。

両親の事、後ろ暗い事、何も知らずにその恩恵を受けて生きて居た事。真実を知って尚、間違っていると言えなかった事。

 

あぁ、百夜が苦しんだ訳です。

 

昨日までの百夜も、さっきまでの僕達も、誰かに頼る。本当に心の底から助けを求める事をしてこなかった、出来なかった。

 

苦しかった。生きて居る事が、両親の顔を…父の顔を見る事が辛かった。

 

喋るのにも忌避感が在った。嫌悪が在った。

 

そんな自分への嫌悪が在った。憎悪と言って良い程の拒絶が在った。

 

大きいなと思いました。そんな僕達を何時も通りに受け入れてくれる彼が

素直だなと思いました。その思いに忠実な所が

捻くれてるなと思いました。その遠回しな言い方に

 

僕達は両親と言いました。僕と準の父親が汚職をしているのは確実です。しかし、母親と成ると分かりません。関わって居ないのかもしれない。でも感づいてるのかもしれない。

それなのに百夜は親父と言いました。

そして、昨日はお前等面倒臭いとも言いました。

 

(やっぱり、知って居たんですね)

 

それでも尚、僕達に対する態度は変わらない。

 

気を使ってる訳でもない、ソレが当たり前だとその態度で示していて、今言葉で表した。

 

(僕等が鈍いのか…百夜が捻くれているか…ですが)

 

どちらでも良いのでしょう。

 

僕達の関係は変わらない。今も昔も友達…いえ、僕達的には親友です。

 

故に、百夜が僕達に悩みを打ち明けた時に内心頭を抱えました。

 

 

 

 

 

Side 準

 

 

 

1. 九鬼揚羽との婚約確定

2. 我が世の春が来た

3. でも、妾は3人ぐらいは作ってね

 

 

いや、うん。ごめん。

 

(ど、どうするよ? 若)

 

俺だけの所為じゃないから!! 若も絡んでるから!! 序に九鬼の奴も絡んでるから!!

 

だから、目を逸らさないで若!! 俺を助けて!!

 

(…準)

 

(おう)

 

(諦めると言う事も、時には大切な選択ではないでしょうか?)

 

ちょっとー!! ソレはダメだって…いや、良いかもなぁ。

 

「ま、まぁ其処は時間を掛けてメロメロにしていくとかすれば良いんじゃないか? なぁ、若」

 

「そ、そうですね準。百夜、どうやら九鬼君のお姉さんは直球に弱いみたいですし…野球の試合の時みたいに攻めて行くのはどうでしょう?」

 

よし!! 繋いだ、巧い事濁せた!!

 

「そうかなぁ…行けるかなぁ」

 

「お前、なんかあの人に弱いな」

 

「うっせ、惚れた弱みだ馬鹿野郎。」

 

なんだろう? コイツはもうちょっと悩んだ方が良いんじゃなかろうか?

 

「大丈夫ですよ百夜、そこは自信を持って下さい。」

 

「そーだそーだ。お前が最初にやらかしたんだから、最後まで頑張れよ」

 

「いやぁ、その場のテンションって怖いね。ガチ惚れしてんだけど」

 

まぁ、本当に好きだから作れないって事なんだろうな…百夜の場合。

こういう奴だから好きなんだよなぁ。

俺は漠然とそう思う。

今思えば、俺が百夜に抱いたのは親近感だ。同じ学園だが違うクラス。接点なんて廊下か登下校の時くらいだ。

擦れ違いざまに挨拶くらいはする。本当にそんなモノだった。初めて会話と言う会話をしたのは、夏休みに入る前の塾の夏期講習が始まるぐらいの時期だった。

運悪く、学校で学年ごとに行っている植物の育成…まぁ、ヘチマとか朝顔とかそう言ったポピュラーなモノだ。ソレの水やりや雑草抜きとかの当番が回って来た日にそれとなく自己紹介と当たり障りのない会話をしたのが始まりだった。

 

ちょうど、夏休みの宿題が面倒だなと言う話をし始めた時だった。その時のコイツの言葉は今も覚えてる。

 

「いや、算数やら国語のドリルなら6月前に埋めてるぞ?」

 

「は?」

 

衝撃的と言えば衝撃的だった。

 

「いや、驚く事でもないべ? あんな束渡されたら長期の休みの時の宿題にされるのは当たり前だろう? 貰った日に速攻終わらしたわ」

 

凄いなと思ったし、やるなとも思った。予め予想して終わらしていた事にだ。俺はその時、どうせ答えを丸写ししたんだろうなと考えた。だからチョットした気遣いがてらに

 

「お前、答え丸写しにしても後々辛く成るぞ?」

 

と言った。返って来た言葉は

 

「? 答えって市販ので別に買わないとついてないだろ? 家の奴って。っていうか、あのレベルで答えが必要とか無いだろ?」

 

加算、乗算レベルに必要ないだろ?

 

である。

 

それで興味が湧いて、廊下で見かける時とかに話す様になった。割と気が在ったのか普通に友人になって若を紹介して今に至る。

 

(やっぱコイツ凄いし面白いし…ほっとけん…)

 

今に成って思う事も、以前と変わらない。つまり、コイツとの友人関係止めるとか無いわ。

俺は改めてそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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