俺は真剣でダラッと生きたい   作:B-in

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二十五話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カァカァと鴉が鳴く大分前に川神院の居住区…まぁ、本家と言ってしまって良い個所の人口は一人に成った。

男子にしては長めの髪に、シャツと半ズボン。大きく寝そべった大の字格好で、少年は気だるげに息を吐く。

少年的には一難去ってまた一難と言う心境だったが、友人の事と成ればそうは言っていられない。

ゆっくりと視線を這わす。部屋には何もない。

少し隙間の空いた障子の向こうに見える空は憎たらしい程に青く、日の強さを感じさせた。

しばし目をつむり、何かを考えながらゴロゴロと布団の上を行ったり来たりとして数分。

パチっと目を開けた少年は

 

「……まぁ、こんな感じで進めりゃ良いか」

 

結構テキトーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、熱い日差しの中自前の冷暖房完備で快適に過ごしています。百夜です。

 

揚羽さんに関しては心に決めました。

 

教えないよ? 誰にも教えないよ? 言う時が来たら言うよ。多分。

 

で、まぁ友人の親父達関連なんですけども…黒だね!! てか、帳簿持ってるからね? 俺。

九鬼と言うかあの完璧執事なクラウディオさんも知ってるからね。それ以上上には行っていないと良いなぁ。英雄パパとかは知ってても良いけど。

まぁ、アレですよ。

 

「ってな訳だから穏便に宜しくねぇ」

 

九鬼に丸投げします。いや、百夜さんじゃ穏便になんて出来ないからね? 俺、まだ小学三年生だから。

いやぁ、揚羽さんマジ天使です。クラウディオさんが主人に対して気遣い出来る忠臣でマジ良かった。ワイヤーどんくらい長いの? これ?

家の爺様が返って来たら直ぐにバレるだろうから今の内に斬っておこう。うん。

九鬼VS川神とか…怖くて寝れないからね? 極楽院とか参入してくるから。家の爺様の友人らしいけどあのおばあさん…見た目通りの年齢何だろうか?

…止めよう。考えないでおこう。

まぁ、あの執事さんならこっちの意も組んでくれると思う。

 

「さてさて、揚羽さんOK、冬馬達OK、残りは…」

 

姉ちゃんだ。

 

今は夏恒例の修行に行ってるけども、三日後には帰ってくる。絶対に構ってくる。お婿に行けなくなるような事される。

お風呂に乱入は許そう。姉弟だし家族だし。

布団に入ってくるのも許そう。俺も快眠出来るし、直ぐ隣に家族が居るのはとても落ち着く。

 

でも、あの姉風呂では俺の未熟な息子を集中的に洗おうとしたり、布団の中だとしがみ付いてくるんだよ!!

何でその年でたわわに実り始めてんだよ!! アザッス!! 

 

過保護…いや、スキンシップ過剰な姉が可愛くて強すぎるから困る。

 

でも反抗できない不思議。 

 

「…明後日の朝から中国に行こう。そうしよう」

 

丁度良いからケジメでもつけに行こう。

 

「もうひと眠りしとこ。」

 

明日は朝から病院だ。

 

 

 

 

略同時刻、クラウディオを軽く肩を竦めた。何の事は無い、自分が密かに張った網をいとも容易く見つけられた上に此方にメッセージを送られた。

それだけで在る。

 

(いやはや、何とも)

 

将来が楽しみで成らない。そう思う。

 

クラウディオが思う将来とは九鬼家の将来の事だ。今の九鬼財閥は九鬼帝と局夫妻によって支えられている。

確かに優秀な人員も多く居るし、自分達従者部隊も優秀だと自負できる。先が楽しみな若者も居るし、ヒューム・ヘルシングの様に年をとっても血気盛んな者も多い。

40年、50年と九鬼は栄華を誇るだろう。

だが、其処まででしかないと考える思考が在る。

 

九鬼揚羽・英雄を含め今、クラウディオ自身が仕えて居る紋白も幼いながらに優秀であると誇れる。

が、その三人を合わせて両親に匹敵出来るかと言われれば言葉に詰まるしかない。

今はまだ分からないとしか言いようがなく、絶対に越えられる、越えられないとは言い切れない。

自分を含めた古株の従者達は、その三人の教育に並々ならぬ努力をしている。勿論過度なストレスを与えぬ様に気も使っている。何よりも、九鬼の跡継ぎ達は両親を尊敬しその背中に追いつこうと、追い抜こうと努力を欠かさない。

 

(私達は恵まれている。)

 

とても…とても恵まれている。自分の命を差し出しても構わないと思える主に仕えられる。ソレは従者の幸福だ。

だからこそ、この栄華が長く続いて欲しいと言うのは我儘だろうか?

 

(我儘なのでしょう。自分の死後の事を望むのは)

 

しかし、不確定な未来に不安を抱くからこそその先を妄想するのは楽しい。コレは万人に言える事だろう。

もし、明日にでも……という考えは考えれば考えれるほど楽しいモノだ。出鱈目と分かっているからこそ楽しみが在る。

 

そう言う意味で川神百夜と言う存在は、その空想を加速させる存在だった。

 

クラウディオの川神百夜に対する評価は『出鱈目』と言う事に尽きる。

 

彼からすればあのヒューム・ヘルシングが危険と言う程の人物、警戒するに越した事は無い。が、ソレまでの川神百夜の九鬼に対する反応は友好的な物しかないと言って良いほどだ。

何よりも、あの虎狼に単身で挑み九鬼英雄を護り続けたと言う行動は畏敬の念すら抱ける程の事であり、あの場で川神百夜の誓いを聞き取った者からすれば頭が下がる。

 

人は自分より優れたモノに憧れる。だが、嫉妬する。優れ過ぎたモノに恐怖し倦厭し排他しようとする。

世の中がそうである様に、強いモノは強い者成りの傲慢さと寛容さが無ければ潰されてしまう。ソレは小さな社会と言って良い学校と言う箱庭でも同じことである。

九鬼として、九鬼英雄が川神百夜と野球をし始めた時より九鬼家従者隊は川神百夜の身辺調査を行って居た。

その時に出て居た調査結果は校内に友達と呼べる存在が限りなく少ないと言うモノであり、人を避ける事が非常に巧く、敵を作らずに漂う様に過していると言うモノだった。

校外に目を向ければ、友人が多数居り秘密基地の様な物を作っている。勝手に土地を耕して野菜を作っている。その野菜が無駄に美味しい。

釈迦堂刑部と共に宝くじを買って居る。小学生が持てる筈も無い現金を隠している等、今一その真芯に何が在るのかが分からない少年で在った。

 

だが、今回の一件で分かった。クラウディオは書き加える。

 

己が我を通す為に武神すらをも降す意地と友の為にその生涯を護ると誓いを立てる程の情を近しいモノに向ける破天荒な人間。

 

故に天衣無縫

 

川神百夜は自由に生きる、何者にも縛られない、縛ろうとしてはいけない自由人である。

 

(フフフ…百夜様と揚羽様のお二人が婚姻して…いえ、九鬼家に百夜様が協力して下されば…)

 

世界はとても面白く成るだろう。自分も友も、部下達も退屈を感じぬままにその生を生きる事だろう。

 

そう思えてならない。

 

(百夜様、コレはこの老い耄れがする投資にございます。揚羽様を…)

 

幸せにしてくださいませ。

 

ある種の魅力が川神百夜には在る。

 

ソレはその生き方だったり、敵に容赦しない苛烈さであったり、意外とロマンチストで在ったりと人によって感じる所は様々だが、その何かの魅力は確実にクラウディオをの目に入った。

 

(それに…あの自由さは帝様ととても合そうですしなぁ)

 

仕事が出来過ぎる男、九鬼帝。

 

彼は一代で財閥を起こし、その財閥を成長させ続ける出来る男であると同時に、内助の功と持ち合わせた生来の豪運と何者にも囚われない自由さで事業拡大をし続ける、百夜とは違うがある種似ている自由人だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を少し戻す。

 

川神院からの帰り道を歩く二人の少年は、行きとは違い晴れ晴れとした雰囲気で歩いて居た。まだまだ炎天下の青空の下、電柱の陰に佇むように置いてある自販機で飲み物を購入すると、木陰に入り蓋を開けた。

 

「百夜に話して良かったよな、若。」

 

「えぇ…もっと早くに話していたらと思います。僕達も、昨日の彼の事とやかく言う事が出来ません。」

 

そう言い、お互いに微笑む。

 

冬馬と準は本当の意味で、人に頼ると言う事をしてこなかった。だからこそ苦しかった。

川神百夜もしてこなかった。だが、昨日本当の意味で自分達を頼った。ソレが嬉しかった。そして、自分達にも本当に頼って良い友人が居る事が嬉しかった。

 

「なぁ、若」

 

「どうしました、準?」

 

「俺達ってさ…結構馬鹿だよな」

 

「フフ、えぇ、そうですね。『頼る』と言う事を本当の意味でしてこなかった。こんなにも簡単な事なのに出来なかった。僕達はきっとどこかで…」

 

線引きをしていたんです

 

葵冬馬の言葉に井上準は頷いた。

 

父親が偉大な人物だった。黒い事をしていると知らなかったからそう思っていた。冷静に成れた今も偉大だとは思っている。

ソレを許せないのは、自分の性がそうさせているだけなのだ。不況と呼ばれる今の時代、金融、産業、衛生、その全てに置いて当てはまる。

医師の世界では人材が不足しているのが当たり前で、それはどの業界にも言える事だ。

そんな中で、超過勤務をさせず、規定通りの休暇を消費させ路頭に迷わせることなく病院を運営し、少しずつだが拡大もしている自分達の父親は優秀なのだろう。偉大なのだろう。

 

汚ない事が其処まで嫌いと言うのではない。後ろ暗く醜い事が嫌いなのだ。

 

川神百夜は、自分達の友人はどうだろうか?

 

卑怯である。卑屈にも成る。脅しもする。素直でも在る。だが、醜いとは思った事は無い。寧ろ、自分のルールを護り好きに生きているあの生き方は美しくも見えてしまう。

 

我を通す。それだけだ。だが、ソレが難しいのだろう。

 

友人が、頼れる友人がそう生きている。捻子が飛んでるんじゃないかと疑う事も有る出鱈目な友人がそう生きている。

 

なら、ソレに親しい人間が影響されても良いじゃないですか

 

(僕は僕の我を通したい)

 

ソレは何時か変わってしまうのかもしれない。そんな出来事が在るのかもしれない。

もしかしたらソレが大人に成ると言う事なのかもしれない。

 

『ムカつくんだよなぁ。俺も人の事言えないし、理解しちまったからよ。』

 

昨晩、耳に入った言葉が思い出される。

 

『大人の理由で!! 餓鬼を無理矢理どうこうしようってのがよ!!』

 

あの男はそう吠えた。

 

その言葉通りなのだろう。彼が理解してしまった様に、僕達も何時か理解してしまう日が来るのだろう。

だから、ソレまで…大人に成ってしまうまで子供が意地を張っても良いんじゃなですか。

 

「余り、父の事を言えた事じゃないのかもしれませんが…」

 

「まぁな。でもさ、俺は今の俺なら胸張って百夜と友達だって言える。」

 

返って来た言葉に準はそう言い。思う。

 

自分達は甘えて居たのだ。生まれに、自分の父の肩書きに甘えて線を引いて

自分の事を分かって居てくれてると思い込んで、知って貰おうと努力しないで

 

親父たちのやり方は嫌いだ。許される事じゃない。

でも、俺達にも何時か立場ってのが出来て肩書きが付いて大人に成ったら、今とは違う事を考えて、今とは違うやり方をするのかもしれない。

でも、俺達はまだまだ子供で、親の庇護が無ければ満足に生きていけない。それに、違った見方をすれば親父達が間違っているが正しいのかもしれない。

 

だったら、そう思う様に成る日が来るまで今のままの考えを持ってアイツみたいに我を貫いても良いだろ?

 

井上準はそう思い、短く笑う。

 

「若」

 

「何でしょう」

 

少年達は笑顔だ。何処か誇らしい、何処か成長した雰囲気を纏って口を開く。

 

「やっぱ、アイツスゲェな」

 

「ですねぇ。僕達は僕達成りのやり方でゆっくりとやって行きましょう」

 

二人は、ゆっくりと病院に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早く教えてあげよう。あの白い少女に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君を壊した悪魔で、最強の味方が来ると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人はその事を告げた時の少女の表情に見惚れた。

 

苦悩が入り混じった、どうしたら良いのか分からない迷子の様な表情の後に現れた

 

処女雪の様な淡い笑顔を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何時から…大人になるのかなぁ

今に成ってそう思う。

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