やぁ。百夜だ。
季節は夏、道場は男臭いむわぁっとした臭いで充満している。ごめん、生理的に無理。
いや、皆真面目に鍛錬に取り組んでるからちょっと浮いてるのよね。俺って。
でも仕方が無いんだ。自分勝手で悪いけどやる気が無いんだよ。まだ、小学生にも成っていないから毎日が日曜日状態なんだ。
幼稚園? 保育園? 行ってる分けないだろ。どんな拷問だよ、お遊戯とか出来ません。おままごともちょっと遠慮したい。自尊心って言うモノがあるんだ。
嬉しい事に今日は夕方からスレイヤ○ズの再放送が在るからそれまでやる事が無い。武術? それはなしの方向でお願いします。
因みに今は午後2時。日が高いのよ本当に…熱中症になったらどうしようかと思うよホント。
まぁ、外氣を吸収して冷氣に変換しているから特に不便は無いんだけど。調節ミスったら気づかれるから気の鍛錬には成っているよ?
周囲にも気を付けてるし、いざとなったら隠れるから良いんだけども。
案外、人とは成れるモノで俺のサボリは何時もの事と成っている。だからこそ俺を探し出そうとする人間が居る訳だけど…身近な所に居るとバレないみたい。
今は道場の裏手にある木の木陰で本読んでるよ。
(ん? 誰か来たっぽいなぁ)
冷氣を弱めて、気づかない振りをする。まぁ、小言位なら構わないよ。そう言う事を言われる生き方してるんだから。
「ん? おめぇ、爺さんの孫か。なんでぇ、俺のとっておきの避暑地を見つけるたっぁやるじゃねぇか。」
えっ? 何、この若本ボイス。憧れるよ? 憧れちゃうよ? マジで
顔をあげると、其処には何故か記憶に情報として在る人間の顔に似ている顔をした…
(って?! 総理ぃぃぃぃぃ!! ちょっとぉ!! これ良いの?! 家って政界にもコネが強いの?!)
「どうした? 何か驚いてる様だがぁ……おじさんに話して見ねぇか? こう見えても俺ぁ、首相を目指してる人間だぁ。悩みを聞くのには慣れてるぜぇ?」
「……………成れるよ」
「ん? 何にだ?」
「首相。でも、内政にも力を入れた方が良いよ。」
ちょっと?! 何言っちゃってんの、俺の御口!!
なんとも言えない、奇妙な空間がその場に下りる。
(やべぇ、どうしよう。本当にどうしよう。いや、まんま本心だけど関係無さ過ぎだしねぇ。どうやって誤魔化すか…)
あっ、占いという事にしておこう。こう見えても中々の的中率だ。今の所九勝一敗。主にスクラッチで。現金で結構な額を持ってるのよ?四歳にしては。釈迦堂のおっちゃんに二割程払ってるけど。
「嬉しい事言ってくれるじゃないのぉ。まさか、おじさんの方がアドバイスを貰うとは思っても見なかったぁ。所で坊主、どうして内政にも力を入れないといけないのか…分るかい?」
どうって…
「国民に分りやすいからだよ。税金が下がるだけで一般人は大喜びでしょ? 碌に政治に関心が無いのが国民の特徴でもあるのに…この間TVでも言ってたよ? 今の若者は政治に関心が無さ過ぎるって」
side 麻生公太郎
こいつぁ、驚いた。爺さんから様子を見てくれと話されたから、探して見れば…俺の内側を見透かしやがった。更にだ。坊主は言った
「国民に分りやすいからだよ。税金が下がるだけで一般人は大喜びでしょ? 碌に政治に関心が無いのが国民の特徴でもあるのに…この間TVでも言ってたよ? 今の若者は政治に関心が無さ過ぎるって」
と。これは、自分の言った事の意味も理解してるのか知れねぇ。
(TV…TVねぇ)
俺はぁ、ちょっとの好奇心と悪戯心で言ってみる。
「それじゃぁ、消費税や他の税金が下がったら国民は支持すると思うかい? 坊主」
坊主は言った。「それは無い」となぁ。
当たり前だ、今の状況でそんな事しても支持を得られるのは最初だけだ。国民は直ぐに離れて行っちまう。
税金安くして、シワ寄せが来るのは今の若者と老人達だ。この国は他国と比べたら色々と遅れてる所がある。教育、介護、保険。将来に希望が持てなくてはぁ、若い芽、種。どれもこれもが、腐っちまう。
「その通りだ。じゃあ、どうすればいいと思う?」
俺の問いに坊主は答えた。
「議員減らして風通し良くして法律作り直して、沢山の仕事を紹介してやれば良いんじゃない? 無理がありすぎるけど。議員にも定年作ったら?」
やる気の無い返答で、俺は面食らった。
「確かにそいつぁ今は無理だ。無理だが何時かは出来るだろうさ。ハッハッハ!! こいつぁ、腹が痛くなるなぁ、無理が多すぎて笑いが出ちまう。」
俺は笑った。でも、希望が持てた。四歳の小僧っ子が無理無茶をしなきゃいけないと分ってるんだ。これでもっと先が読めるようになったら、是非とも秘書にでも成って貰いたいもんだ。
side out
なんか、おっさんが馬鹿笑いしてる。ついていけない。
「それで? 何しに来たのさ。」
「なぁに。ちょいと恩の有る爺さんに孫を見てほしいって頼まれただけだぁ。それだけだぁ、おじさんはもう行くぜ。これから会合が有るんでなぁ。坊主も来るかい?」
「なにそれこわい。」
「ハッハッハッ!! 怖いかぁ。坊主、その気持ち忘れんなよ? 人間は怖いもんだぁ。だが、時には立ち向かわなきゃなんねぇ。無茶で無謀で無理でもな。怖さを知ったら立ち向かえるように頑張れよぉ。」
おっさんはそう言って去って行った。
余りの事に茫然とするしかない。其処で気づく、サインを貰うのを忘れてた…
まぁ、良いか。
再び本に目を落とそうと視線を下げる
「百夜ー!! 出てきなさーい!!」
やっべ、ルーだ。俺は素早く立ち上がり、気配を消して逃げる事にした。
その後、なんだかあのおっさんがちょくちょく来るようになった。お土産に珍しい本や、論文とか、食べ物をもってきてくれるから。ちょくちょく占ってあげる事にした。
中々に面白い話が聞けた。隣町の七浜には天才が居るとか、九鬼と言う財閥は近年稀に見る大躍進をしているとか。
その話を聞いていると、やっぱり俺の知ってる所とは全然違うんだなぁと思う。
俺の名前は川神百夜、その前はアギ・スプリングフィールドの器に生まれた何か
俺は、何なんだろうか? 俺自身のモノではない知識と記憶。今の生で得ている知識と記憶。圧倒的に多いのは前者だ。
俺は本当に川神百夜なんだろうか?
side麻生公太郎
川神院を出る時に、爺さんにあいさつをする。
「で…家の孫はどうかの?」
案の定聞かれた
「爺さんの孫娘、ありゃぁ反則と思うしかねぇな。鬼神かなんかの生まれ変わりじゃないのか?」
俺の言葉に爺さんは笑いながら答える
「ホッホッホ、百代は正に武術の申し子じゃよ。将来はワシを超えるじゃろうな。それ故に危うい面も多い。まぁ、ワシらで上手い事やって行く予定じゃ。して、百夜の方はどうかの?」
百夜、あの坊主か…
「なぁ、爺さん。あの坊主、俺の所に養子にださねぇか? 最年少の大臣にしてやるぜ?」
爺さんは一瞬だけ目を開いて笑う。
「そいつは無理じゃな。アレも正しくワシの孫じゃよ。本人がどうやったのかは知らんがその身の内にとんでもない量の氣を封印しておる。生まれた瞬間に感じた膨大な氣が一瞬で消えたんじゃ。それに、あの子も百代と同じくとんでもない才能を持っているとワシは見ておる。ひ孫が楽しみじゃのぉ」
ちぇ、ダメかぁ。まぁ、気長に繋がりを作って行くか。
「仕方ねぇな。坊主も嬢ちゃんも大事に育てるんだな。両方とも大物になるぜ?」
「なぁに。お主に言われんでも溢れんばかりの愛情を注いでおる」
そう言う爺さんに頭を下げてから、車に乗る。
(月一位で、会いに行くかぁ。本とか持っていけば機嫌はとれそうだなぁ。)
俺ぁその時は、そう考えてたんだぁ。まさか、坊主の占いに何度も命を救われるとは思っても見なかったぜ。