俺は真剣でダラッと生きたい   作:B-in

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先に書いておきます。

後半、気分が悪くなる可能性が高い為…ヒドイ所業に耐性が無い方や精神的な凌辱やらまぁ、そう言った方面の事が例え文章や、妄想でもダメ、苦手、嫌いな方は

(オワタ)

でバックしてください。

最後のは読まんで大丈夫なので。

責任は一切持ちませんし、文句も受け付けません。

グロ表記ありのタグを新たに追加しました。


二十九話

同時刻、九鬼英雄は川神百夜の言ったけじめと言う言葉について考えて居た。

 

今では強敵、親友、心友とも呼べる間柄だが、最初の印象は失礼な人間というモノだった。その事を思いだすと笑みが出る。

まさか、そんな人間に打ち負かされ、バッテリー組むようになり友になり…互いが互いを羨ましいと思うような関係だ。笑いが出てくるのも当然だろう。

 

今夜、九鬼英雄の傍にはヒューム・ヘルシングが居た。正確には姉である揚羽の傍だが、今は隣の部屋で寝てしまっている。

 

「ヒュームよ…百夜が言うけじめとは何だと思う?」

 

「さぁ、私には見当もつきませんが…武人に対しけじめを着けると言うのなら」

 

武を捨てさせる事でしょう。

 

ヒュームの言葉に英雄は納得し、少しだけ危機感を感じた。

 

「…百夜は」

 

英雄の言葉を言わせぬようにヒュームは言葉を被せる。

 

「武人…裏に関わるならばその覚悟は互いに在って当然です。ですが…ソレは最悪の場合、川神百夜がどうするかは他人である私共には分からぬ事です」

 

「それもそうだな…奴なら、もっと違う方法で何かをしでかすだろう。ソレに、我も百夜も命を失っておらぬ。ならば…そう言った事には成らぬであろう。 ヒューム、百夜達が帰還したら起こせ。我はソレまで寝る」

 

「了解しました。それでは、お休みなさいませ。」

 

英雄がベッドに入るのを見届けてからヒュームは廊下に出た。

 

(あの餓鬼がけじめを着けるか…ソレが自分のなのか、英雄様に対してのモノなのか…まぁ、後者なのだろうがな)

 

川神鉄心との一件にて、ヒュームも川神百夜の評価を改めて居た。

 

顕現の一撃を生身でくらい、再び立ち上がるタフネスと意地。学習速度に勝利に対する執念。

 

(アレは運が良かった)

 

ヒュームはその勝利に運の要素が高かった事を理解している。ソレは川神鉄心も同じだろう。だが、それでも

 

(今なら3割…その確率で俺も負ける可能性が存在する)

 

脅威には変わりない。これから伸びる少年が、既に3割の確率で自分に勝てるかも知れない。脅威である。そして、この上なく楽しみでも在った。

 

「ふむ…血に酔い、力に酔うのならば…ソレを屈服させるのもまた一興か」

 

ニヤリと口角が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、梁山泊入りする前の最後の仕事だったんだ~」

 

ベキ

 

「っーー!! ~~?!!!?!?!?!!」

 

軽快な音を立てて指を折る。

 

あっ、どうも、百夜です。気分は超!! エキサイティン!!! いやぁ、俺もね一応は頭冷やしてコイツに武を捨てさせようと思ってたのよ。言魂重ねがけしても良いし、もっと穏便な方法を考えてたんだけどもね。

 

こいつ、俺を探し出して殺す事とか英雄を拉致して居場所を吐かせようとか考えて居た訳で…今日ほど相が読める事に感謝した事は無いですよ?

何て言ったて九鬼の御曹司で俺の友人に害をなそうってんだ。潰すしかないわぁ。更にコイツ揚羽さんも拉致する標的に加えてやがった。

どの道、ヒュームの爺さんやクラウディオさんが傍に居るから手だし出来んだろうけども。あずみさんも時間稼ぎは出来ると思うし。

 

取り合えずで両膝と肘は折りました。今さっき、最後の指を折りました。

 

「こんだけされて未だに復讐を諦めないのは凄いと思うんだけどもさぁ」

 

太腿に足を乗っけて思いっきり踏みつける。

 

「お前、自分が回復するまで生きてられると思ってんの?」

 

痛みに耐えながらも、何かに支えられてるから復讐なんて考える。だから…

 

精神的に殺しながら、物理的に武を振るえなくしましょうかね

 

 

 

 

 

Sideout

 

 

激痛が断続的に襲ってくる中、李招功は川神百夜の言葉に少々の不安を覚えた。

だが、ソレを否定する。

 

自分が回復後の稼ぎの略全てが梁山泊に入るからだ。そのまま数年、イヤ、三年もすれば今の赤字も黒字に変わる。

 

その確信が在るから梁山泊は自分を匿い、自分もソレで体を回復させる事が出来るからこの梁山泊に来たのだ。

 

「まぁ、お互いにメリットが在った昨日までならソレで良いんじゃないかな?」

 

その言葉に、不安が掻き立てられる。

 

「おいおい、目線が揺れてるよ~? なぁに、少し考えれば分かるべ? 俺が…俺達がお前目当てに侵入しちゃってるじゃない?」

 

それは、デメリットだ。

 

「梁山泊は安全じゃない。俺達が侵入しちゃったし? 今頃残ってる達人も喰われてる頃だろうし? 弟子っぽい女の子三人には…悪い事して来ちゃった。」

 

笑顔でそう告げる。そう告げられる。

 

まさか、と考えが過る。そして、その可能性が高い。いや、寧ろ確定的なモノだと考えてしまう。

 

「そんな事を続けられちゃぁ、放りだすしかないでしょ? 今なら損害も少ないんだからさぁ」

 

そんな筈は無い、そんなはずはない、そんな…そんな

 

「よ~く考えてみなよ? 今ならアンタを町の裏路地に放って置くだけで…アンタに怨みを持つ誰かが群がって来てくれるんだよ? 情報を流せばねぇ」

 

……まさか

 

「はい、正解!! 李招功さん正解です!! すでにこの国の裏側には李招功が大怪我を負い梁山泊に匿われていると、情報が出回っています!! やったね!!」

 

 

あぁ、

 

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

「まぁ、俺も鬼じゃないから傷の治療はしてあげるよ?」

 

ヒタリと、小さな冷えた手が胸板に押しつけられた。

 

「あらよっと」

 

パキ

 

「もいっちょ」

 

ミヂ

 

(止めろ、止めてくれ?!!?!)

 

声も出せず、折られた手足も動かせず、軽い声と共に助骨を折られる。

 

トンと両肩に乗られた。

 

「セイ!!」

 

メキ

 

「~~っ?!! っー!!!!」

 

(アギッィ!! ガァァァァァァ!!!)

 

「大体からさぁ、最後の一稼ぎで」

 

顎を掴まれる。

 

(止めっ!?)

 

上着を巻いた拳が、固定された口に打ち下ろされた。

 

「アイツと俺の夢を台無しにしてくれてんじゃねぇよ!!」

 

いっその事、殺してくれ

 

そう考えながら、李招功は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、身内に殺される可能性の方が高いんだけどねぇ…カカカカカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面を変える。あずみは何の苦労も無く、書庫であろう倉庫に辿り着いていた。

梁山泊内では闘いが続いているが、小物やザコの類は川神百夜の|鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)で泡を吹いているか悪夢にうなされ呻いている。例え悪夢から覚めても苛まれるのだから達が悪い。

そう思いながらあずみは持ち込んだバックや大きな布に書物等を詰め込み、一纏めにしていた。

 

「っ…見つかったか」

 

「天哭星」

 

(よりにも因って達人か!! 糞)

 

室内と言う閉鎖空間内での邂逅。あずみは悪態を吐きながらも、自分の運に感謝した。

 

飛び引く様にして、天井の梁に乗る。

 

達人の動きは早く、既に自分目掛けて飛んでいた。

 

直ぐに違う梁に跳び移りクナイを投擲する。

 

キンと鉄と鉄を打ち合わせた様な音と小さい火花を散らして防がれた。

 

(昆…いや、鎖?)

 

小さな火花で見えた敵の得物。

 

「邪ァ!!」

 

「チッ」

 

ヒュンと断続した風切り音がした。

 

(三節昆?! )

 

使い手に因るが闘い難い相手だ。だがそれだけだった。

 

突出され、分かたれ、軌道を自由に変える昆の先端に隠し玉をぶつける。

煙玉が勢い良く破裂した。

 

「?!」

 

ただの煙幕では無く、眼つぶし様の特別製の煙玉に驚き声が上がった。

 

その隙に荷物に手を掛け、入り口に向かってクナイを投擲する。

 

「ぐっ?!」

 

「ばーか。出入り口が一つしかないんだから先回りされる事くらい予測済みだっつーの」

 

あずみは自分が投げたクナイを回収し、天哭星と名乗った達人から二本のクナイを引き抜き、天哭星の服で拭う。

 

「特製の痺れ薬だ。一時間もすれば少しは動ける様になるだろっ!!」

 

振り上げた足で思いっきり顔面を踏みつける。ソレを技と気絶するまで続ける。

 

「さてと、さっさと逃げさせて貰うか」

 

そう言い、あずみは音も無く駆けだす。

 

窓から出た丁度その時、撤退合図の閃光弾が上がった。

 

 

 

 

釈迦堂刑部はその閃光弾を確認すると軽く息を吐いた。

 

衝動に任せながら、ソレに呑み込まれぬ様に相手を見つめ学習し己の糧とする。

釈迦堂刑部が今回闘った内容だ。

 

「っ…はぁ~、あーしんど。百夜の野郎、メチャクチャ疲れるじゃねぇかこのやり方はよぉ」

 

そう吐いた釈迦堂の足元には、武器を砕かれ、倒れ伏した達人が二人。まるで獣に喰われたかのような傷を携えて、気を失って居た。

 

「だが、まぁ…楽しいなぁおい、楽しいぜ。」

 

俺はまだ強く成れる。その実感を確かめながら、意識を集中し壁に向かって腕を振り下ろした。

 

ガオンと鈍い破砕音を響かせて、壁が崩れる。まるで獣がマーキングしたかのような痕を壁に残し釈迦堂刑部はその場を後にした。

 

 

 

 

 

Side out

 

 

Side 百夜

 

 

 

 

どーもー。閃光弾を打ちあげて現在逃亡中の百夜です。李招功はちゃんと、完全に骨折を完治させてから来ました。

完治させただけですがね?

 

「あずみさんブツは?」

 

「取り合えず詰め込んできた。用心しろ、追いかけて来ては無いが何が在るか分かんないからな」

 

「ハハッ、そうだったら楽しんだがねぇ…梁山泊の連中それなりの歯ごたえしか無かったわ」

 

なにそれこわい。

 

それなりに掠り傷は出来てる辺り、何時もとは違う闘い方をしたみたいだけども…何かに開眼したのかな? 釈迦堂さんは。

 

まぁ、何でも良いか。釈迦堂さんは強い。コレは当たり前。俺のヒーローだもの。

 

「それじゃぁ、迎えのヘリが来る所までさっさと行こう。あ、あずみさん荷物ちょっと持つわ」

 

「あぁ、適当に頼む。」

 

「それじゃあ、俺も持つかねぇ」

 

帰りはヘリの中で寝ました。案外寝れるモノだね!!

 

 

 

「おはようだ!! 強敵よ!!」

 

テンション高いのに起こされたけどな!!

 

「おはようだけど、今何時?」

 

「午前四時だ!!」

 

わーい、夜中じゃねぇか!!

 

「眠い」

 

「我もだ…寝る前に風呂にでも入れ、食事の支度をさせる」

 

「うーい、あっ、釈迦堂さんは?」

 

「あの男ならばヒュームとすこし話してから帰ったぞ?」

 

…逃げたね。釈迦堂さん

 

「あの、英雄さ「では、風呂へ案内しようか」知ってるよ?! 百夜さん常連だからね!!」

 

お願い、助けて!! あぁ、首を持って担ぐなぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

ヒューム・ヘルシングが主も居ないのにゆっくりと歩く。

 

(まぁ、何かしらのお話しが有るんでしょうねぇ)

 

川神百夜は直ぐに何が目的化を割り出し、暴れるのを止める。

 

「小僧、けじめをどう付けて来た」

 

「ん? そんだけ?」

 

なんか、もう…こう、揚羽さん関連の事じゃないの?

思わずそう顔に出して聞く。だってそうした方が話が早いじゃない?

 

「揚羽様に関しては俺は何も言わん。人を見る目は在る。貴様が例外だった…それだけだ。」

 

なんだろう、この人が物凄くおかしい。アレ? バグった?

 

「貴様、今、俺に対して失礼な事を考えなかったか?」

 

「NO,Sir!! 」

 

イエスって答えられる訳ねぇ…絶対殺しに来てた。この人大人げなさすぎるだろ?!

 

「ならばいい。…殺したか?」

 

「うん。武人としては殺して来た」

 

後の事は知らんがね

 

「そうか」

 

その一言には落胆が少し含まれてた様に感じる。この人、もしかして俺と闘う気でいた?

 

危ねぇ、迂闊な事は出来ない。主に俺の為に。

 

あっ、九鬼家の風呂はやっぱり大きくて気持ち良かったです。

 

「百夜よ!! 我が背中を流してやろう!!」

 

「うわーい!! もう洗っちゃったよ?! てか、出るよ!! 揚羽さん?!」

 

バスタオル一枚の乱入は正直嬉しくて、精通来てたら押し倒しに行ってたんだけども百夜さんは小学生だからね!!

 

「ぬぅ…否!! 改めて我が洗ってやろう!! さぁ、座るのだ!!」

 

「いや、流石にのぼせちゃうんで…ソレに洗い過ぎて背中痛く成ったら嫌だし」

 

「さぁ、座るのだ!!」

 

「ループって怖いよ!!」

 

咄嗟に腰にタオルを巻いてガードしたけど、俺のまだまだ未熟な息子を晒す訳にはいかんのだ!!

 

「座るのだ!!」

 

畜生、ちょっと不安が混じり始めた目で見ないで?! 背筋がぞくぞくしちゃうから。

えぇい、好きな人と婚前に一緒にお風呂とかして堪るか!! 俺は部屋に帰らせて貰う!!

 

「また、次回と言う事でぇ」

 

華麗にスルーして出ようとしたんです。

 

腰のタオルに手を掛けられてしまったんです。

 

焦って強引に引っ張ってしまったんです。

 

因みですが、この浴場ではつい先程まで豪快にシャンプー・リンス・ボディソープを使っていました。

はい、若干ですが床が統べるんです。

 

お互い焦ってたんです。私は羞恥心、揚羽さんは不安とかで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですから、その殺意とか物騒なモノをしまって下さいヒュームさん」

 

「答えはNOだ」

 

…oh

 

転びそうになる揚羽さん、咄嗟に支えて自分が下に成る様にしたのがいけなかったのでしょう。

 

俺の上に揚羽さんが乗る様な形に成ってしまい、衝撃で落ちてしまったバスタオルが落ちてしまって…

互いがモロ出しの状態。

 

俺は下から見上げる形で、揚羽さんはチョット前傾気味に除く様な形でした。お互いが顔を赤くして見つめ合っていて、転ぶ直前に揚羽さんが「きゃっ」と可愛い声を上げた事を余りの衝撃に忘れて居たのがいけなかったのでしょう。

 

|殺戮執事(ヒューム)は見た状態。

 

傍から見たら、コレ完全に|挿入(はいっ)てるでしょと言う状態。

 

(オワタ)

 

一つだけ言って置く。

 

とぅるっとぅるっだった。

 

電撃付加の蹴りはとても痛かったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

在る朝、大陸にある国家にある山々に囲まれた小さな里とも呼べる山村に声に成らない悲鳴が響いた。

喉が裂けるのではないか? 口角が裂けてしまうのではないか?

悲鳴とも嗚咽とも取れる声を上げながら、痩せ細った男が子供の様にメチャクチャに暴れて居た。

その悲鳴を聞き駆けつけた数人の物はその有様を見て絶句した。

その男は、此処に…梁山泊に来る前はそれは、見惚れる様な鍛え上げられた肉体を持つ美人で在った。

姿勢は正しく伸びて居て、其処に立っているだけで強いと分かるほどの武人で在り、闇社会では知らぬモノは居ないと思われる忌名を持ち、ある種、傭兵などをしている碌でなしなその人間達からすれば一種の憧れの様な存在だった。

痩せ細ったとは言え、その相貌には覇気が在り、何が何でも…と言う様な生気が在った。

 

だが、これは何だ?

 

泡を吹きながら、涙を、鼻汁を垂れ流しながら暴れるその姿はなんなのだ?

 

立って居る事に驚いた。アレほど痩せて居たのに立って暴れている。

 

だが、それよりもその姿が異常だった。

 

人とは左より、右寄りと個人差が在るも基本は真っ直ぐ立って居る様に見える。

 

だが、その男の李招功の立ち姿は歪に歪んでいた。

 

足が、ずれて居る様に見えた。腕が在る所から曲がらなく成って居た。指が一定の場所から先に進めなく成って居た。

 

矮小な力で暴れる李招功を抑えたのは、まだ血の滲んだ包帯を巻いている男だった。天暗星と呼ばれている男は李招功を床に抑えつけた時に気づいてしまった。

 

理解してしまった。

 

骨がズレて居る。少しづつ折って少しづつズラしてくっつけた様に。

 

レゴブロックを全てズラさずに組み上げて居た物が、全て、少しずつそうミリ以下のズレが出る様にくっつけられている。

 

恐怖した。

 

李招功は、もう拳を形作れない。ハンドルに手を添える事は出来るだろう。スプーンやフォーク・蓮華は持てるだろう。だが、箸は持てない。

 

李招功はもう踏み込む事が出来ないだろう。歩く事は出来る。リハビリを続け筋肉が在る程度戻れば一般人程度に走る事は出来るだろう。踏ん張りだって聞く。だが、武術を使う為の力は入らない。

 

李招功は今まで通りの呼吸など出来ないだろう。呼吸する事は出来る。だが、武に関する呼吸は壊滅的に出来なくなってしまっている。

 

李招功は自殺さえ出来ないだろう。噛み合わない顎では、下すら噛み切れない。物を食べる事は出来る。

 

鍛えられた肉を削がれ、骨さえも歪に堅く元に戻らぬ様に組み直され…普通より少し不便な生活しか送れないだろう。

 

恐怖した。

 

滂沱の涙を流しながら、言葉に成らない声を上げて、絶望しか見えず、だが、もしかしたらと言う希望は微かに残されている。

 

その所業にに恐怖した。

 

武人から武を強制的に取り上げるその所業に、力を奪い取るその技に、その結果に至るまでの苦痛に怖気が掻き立てられた。

 

首を絞めようとしても、丁度指の関節一つ分足りない距離が開く。

 

伸びた爪で喉を抉ろうとしても、自分の肉を抉る力が入らない。

 

舌を指で引っ張り、噛み千切ろうとしてもその指が口に届かない。腕は肩より上に上がらない。

 

歩く姿は、内股気味の様な…だが内股では無い。問題無く歩いていた以前の姿は見られないほどに、ヒョコヒョコと歩く様は憐れを通り越して恐怖を呼び起こす。

 

言葉に成らない言葉の中に理解できる言葉が混ざる。

 

「こひょふぃへ…こひょりふぇ」

 

断続的に聞こえる、ようやく理解できる言葉がソレだ。

 

瞳に生気無く。恐怖と絶望しか写していない。

 

他の達人や門弟が仕事から帰って来た時、その姿を見た者達は残らず顔を碧くした。吐き気さえ催した。

人を殺す事も有る在る者たちが、女子供を犯す事も有る人間達が「うぅ」と呻いてその場を後にする。

 

悪人の所業では無い。

 

人の所業では無い。

 

外道の所業だ。

 

身体を歪に歪めながら治し、心に穴を開け、精神に鑢を掛けて壊す。

 

小さな物音にすら発狂するほどの恐怖を感じ、人の気配に怯える元達人の姿はそれだけ悲惨なモノだった。

 

いっそ幽鬼の類ならばすぐさま殺せたのだ。

 

精神は時間を掛ければ再構築出来る。心は時間が癒す事が出来る。

 

身体は…金と秘術とされるモノを使えば治るかも知れない。

 

そんな希望を外部に残しているから達が悪い。

 

嘗ては自分達と同じか少し上に居た人間の、その果ての姿を見せつけられた。

同情や憐憫も有った。だからこそ、手に掛ける事が出来なかった。人間を弱いと奴と言えるモノは居なかった。

 

李招功の今まで稼いできた大量の金銭を使い、窓のない病院と言う牢獄に入れる事で達人達は蓋をした。

 

同時に、襲撃者の捜索に当たった。

 

だが、何も出て来ず。

 

恐れを振舞いた鬼の様な子供と言う得体のしれない何処に居るとも知れない恐怖を認識するだけだった。

 






吐き気を催す邪悪とは!! まぁ、個人的にはそう思いませんが。

葛葉の方はもちっと厳しい? 感じに成ります。後々ですが。

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