小学生の朝は早い。ホントーに早い。何でだろうか?
そう思いながら川神百夜は早朝の待ちをゆっくりと歩いていた。
ヒュームに誤解だと叫びながら蹴られていた二時間ほど前に負った怪我等は既に完治しており、あのヒュームがピクリと眉を動かしたのだが、この男は自身の安全の為そんな事は見ていなかったりする。
「っ~…はぁ」
一度立ち止まって背を伸ばすと、体中からコキコキと小気味の良い音がした。
「さぁて、水やりに往くか」
目指すは秘密基地近くに野菜畑。
広さは何と縦横七メートルと言う何故バレないのかが不思議なくらいの代物だった。
まだまだ朝方六時を回った所、なのに太陽は昇り始めている。
百夜はその光景を見ながら綺麗だと思った。太陽の事では無い。その光を反射して煌めく水滴の事だ。
こんな朝早くに畑で水撒きをしている人間が居る。その姿を見ると百夜には苦笑しか出なかった。
(忠犬かアイツは…犬だったなぁ)
大きめのジョウロを両手で持って少しずつ水をやる姿は、どうも微笑ましかった。
百夜は苦笑を隠しもせずに声を掛ける
「一子、早いな」
「あっ!! 百ちゃんおはよう!!」
天真爛漫。輝かしい眩しい笑顔で岡本一子は挨拶をした。
岡本一子にとって川神百夜と言う人間はある種の家族の様な物に近い存在だった。
面倒見が良い。分からない事を教えてくれる。ちゃんと注意もしてくれる。自分の知らない事を知っている。
と言うのが有るが一番の理由は仲間だと言う事だった。
風間翔一をリーダーとし直江大和を参謀に、島津岳人、師岡卓也に自分と川神百夜を含めた仲間。
この一群が集うに当たって、最初に出会ったのが翔一と川神百夜に直江大和の三人だった。
はっきり言ってしまえば、川神百夜と風間翔一、直江大和では一子に対しての最初の扱いから違う。
邪魔者と友人
その違いが在った。一子が百夜から最初に言われた一言は今でも覚えて居る。
「あ? まぁ、俺には余り関係ないからどうでも良いけど…俺の畑に変なことするなよ? 後、荒らすな。もし荒らしたり変な事したらぼこるだけだじゃ済まさねぇかんな。」
だから、近づくな。
そう言われた。
その事に気分を害したし、自分が何か悪い事をしてしまったのだろうか? と考えもしたが、時間が経つにつれて言い方が悪いかもしれないが慣れてしまった。
そんな慣れが在ったからこそ、岡本一子は一歩踏み込んだ。知らない内に踏み込んだ。
「ね、ね、百ちゃん…私も手伝うよ!!」
正直な話、翔一や大和が時折川神百夜の手伝いをするのを見て面白そうだと思って居たと言うのも有る。
川神百夜からすれば、そう人出が要る作業でも無いので断ろうかと考えて居たのだが無駄に意気込みを感じさせるので、下手に断って変な行動を起こされるよりは良いかと考え手伝わせる事にした。
ソレが、川神百夜と岡本一子の友達付き合いの始まりだろう。
岡本一子は自分が頭が良くない事を理解している。
だからこそ、川神百夜は丁寧に教えたし、注意もする。
教え子と教師の様な関係だった。だからこそ、普通ならば気づかない事柄に気づく事が出来る位置に岡本一子は居た。
最初に気づいたのは川神百夜がこの畑…育てて居る野菜に本当に愛情を込めて居る事。
次に気づいたのは翔一や自分達が危ない事をしない様に気を付けて居る事。
最後に気づいたのは、川神百夜が風間翔一達を大切に思って居る事。
水撒き後の何気ない笑顔。雑草を抜き終わった後の充実した笑顔。収穫した野菜を口にして仄かに緩む表情。そして、ソレを配る自信に満ちた笑顔。
口でどうこう言おうとも、川神百夜は自分達の友達で仲間である。
岡本一子も含め風間ファミリーと呼ばれるメンバー達の想いだった。
岡本一子は元気に走る。
帰り際に貰った熟したトマトは美味しく、笑顔をより一層輝かせる。
今日も、良い日に成りそうだ。
何処にでも在る夏休みの一日が始まろうとしていた。
日も昇り、嫌に成るぐらい気温が上がり始めた中、川神百夜はリュックサックに着替えと筆記用具を詰め込んでいた。
簡単に言えばお泊りセットである。
「…行きますか」
主に自分の安全の為に。
それだけだった。今日は川神百代が、自分の姉が返ってくる日である。お互い久しぶりに成るのだがソレが辛い。絶対にかまってくる。
(耐えられんのじゃよぉ)
構い過ぎてどうでも良く成ってくる辺り、自分もその辺がダメなんだろうなぁと考えつつ問題の先送りを試みる。
その為のお泊りである。まぁ、直江大和宅に泊まるのだがブッチャケて言うと風間ファミリーの夏休みの宿題を終わらせてしまおうと言う試みである。
夜には依頼していた件で話しあわないといけないので丁度良かったと言うのも有る。
そんな事を考えながら川神百夜は家を出た。無論、こっそりとである。
~風間ファミリーの夏休みの宿題実行現場ダイジェスト~
「よぅし!! 人生ゲームしようぜ!!」
「んなことよりもよ、どうだ俺のこの割れそうな腹筋!! 夏休み入ってからの腹筋でまた良い男に成っちまたっぜ!!」
「はいはい、宿題終わったらなぁ」
「クク、俺は既に七割がた終わっている。」
「百ちゃーん…三角形と正三角形ってどう違うの?」
「あっ、此処分からないんだけど解る大和?」
「一子ーちゃんと教科書見直そうな。それと、風と筋肉馬鹿!! 座れ!!」
「そんな事よりあそ「座れ」ぼ…そんな「座れ」こ…「座れ」はい」
自由奔放な風も怯える修羅が居たとか居なかったとか…
一方、川神院では百代が吠えて居たりするのだがそのつけは返ってくるので割合する。
Side 百夜
おはようございます。百夜です。
夏休みの宿題は強敵でした。正確には逃げ出そうとする風を座らせるのが面倒でした。
義務教育っては受ける義務が在るという意味では無く。学ばなくてはならないと言う義務である。
まぁ、そんな事が当たり前に成っている時代だからこそ馬鹿が多いんでしょうけどねぇ。
何と言う俺が言うなだけども。
何故、そんな事を俺が考えているのかと言うと…
(猛って居らっしゃる?!)
実家の方から何だか得体の知れないと言うか…知って居るんですけども認めたくないオーラを感じると言うか…ね?
「よし!! 今日は白子もとい小雪の所で時間を潰そう」
2,3日後なら遊べるって言ってるから良いよね!!
学校関係の話? そんなもん寝る前にケリが付いてるに決まってるだろ!! 根回しで八割決まるんだから。
そんなこんなで病院へ向かい、正面玄関からキチンと入って小雪の所に来たんですが…
「ヤーダー!!」
何が在ったし
「あの駄々っ子は何が在った?」
取り合えず、準と冬馬に聞いておく。あっ、この間の女の人って看護士さんだったのね。コンチャース。
「いや、夏休みの宿題をさせようと思ってな」
「はい、流石に家が燃えたと言う事実が在るからドリルやらはしなくても良いんですが…」
「…ポスター作成か作文か」
今年は何だっけ? 自然を大切にしようとか系のヤツを一枚書けばいいんだっけ?
(俺やってないわ~)
「ね、小雪ちゃん。一応やれる宿題はしておかないとね」
「ヤーダー!! 学校なんて僕行かないもん!! あんな、あんな所に行くもんか!!」
俺だって行きたくないわ!! まぁ、気持ちは解るし、看護士さんも解ってるからこそ学校に行けって直接的な言葉は使って無いわけだし。
「小雪ー」
「あっ、ももやー!! 僕、学校行きたくない!!」
うん、ソレが普通。
「いや、行けとも行くなとも言わんよ俺は? ただなぁ、二学期からお前は俺と同じクラスだぞ? 冬馬と準もだけど」
流石に英雄は捻子込めんかった。
「ホント!!」
「ちょっとまったぁぁぁぁぁぁ!! 何が!! どうなって!! そうなった!!」
「おやおや、嬉しいサプライズですねぇ」
「うっさいハゲ。そんなもん、俺が大人げない手段を使える友人を頼って、正攻法に、仕掛けたに決まってんだろ。言わせんな恥ずかしい。」
「逆に怖いわ!! 何そのコネ?! お前はアレか世界征服でも目論んでるの!! 本当に征服出来ちゃうの?! しそうだなぁ」
いや、無理無理。こんな財政難だらけな国ばっか…っーか。人類統一とか無理無理。
「出来る訳ねぇーだろハゲ。常識で考えろよ」
「お前が言うなぁぁぁぁぁ!!」
喉が枯れるぞ?
「準。そんなに叫ぶと喉が枯れますよ?」
「若も順応しないで?! 疑問を抱いて!!」
ハハッ、コイツ。俺を非常識とか言いやがる。百夜さんは小学生ですよ?
「で、でも学校は」
「いや、お前の自由にしたらええがな。百夜さんがするのは此処までで、それ以上先はお前がしろや。俺は身内にダダ甘いけどちょっと厳しいのよ? 主に準とかに」
「や、優しさを下さいっ!!」
バファリンで良いかな?
「違うから!! アレの半分も薬剤だから!!」
「地の文に突っ込むなよ。メタ禁止だぞコラ」
「だから、ちょっとは俺にも優しさをだな!!」
シラネ。
「そんな事よりババ抜きしようぜ!!」
「するー!!」
「僕も参加しましょう」
「いや、だから…もう、良いです。」
夏休みの宿題を有耶無耶にしながら、ババ抜きを開始します。
余談だが、榊原看護士はこの少年…川神百夜に小雪が感化されやすい事に気づき自分が何とかしなければDQNに成ってしまうかもしれないと思ってしまい、小雪に対しての養子縁組を本格的に夫婦で話し合う事に成る。
そんな姿を横目で見ながら、クツクツと笑う百夜は何時も通りにババを準に押し付けて居た。