俺は真剣でダラッと生きたい   作:B-in

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文句のつけようの無い日本晴れ。降り注ぐ日の光は、まだまだ夏であると言う事も相俟って体力を奪う。

 

そんな日は、冷房の効いた部屋で横に成ってゲームでもして居れば極楽だろう。井上準はそう思った。思うだけだ

ちらりと横を見れば、疲れ果てたのか友人が薄っすらと目元に僅かな水分を残して寝息を立てて居る。

 

あの夜から二日たった。

 

いや、二日しかたって居ない。だが、その二日で自分達の世界は様変わりした。それは、親友の隣でこれまた健やかな笑顔で寝て居る少女も含めてだろう。

 

「・・・馬鹿野郎が」

 

こんな事は望んで居なかった。いや、望んでいた部分が多かった。だが、この結末は要らなかった。要らなかった!!

 

ゆっくりと、二人の友人を残し部屋をでる。部屋の扉の横に掛かっている榊原小雪と言う在り合わせの名札を確認をしただけで、込み上げてくるモノがあった。

屋上への道を進む。

 

立った一日で全てとは言わないが多くが変わった。

 

葵総合病院が九鬼の傘下に加わった事は大きな事だろう。

 

友人の父が、己の親が自宅療養に成りかけたのもそうだろう。今の二人を言い表すならば・・・

 

(憑きモノが墜ちた・・・って奴だろうな)

 

今思えば、自分達の両親は何時も気が張って居た。ギリギリの所に佇んでいたのだろう。気が滅入り半ば自棄に成りかけて居る今の自分だからこそ、思い至り納得出来てしまった。

 

(ホント、アイツの言う通りだわ。今の若じゃ耐えられねぇよこんなの)

 

立場の違いだろう、将来のと付くがソレの違いだ。明確なソレを持っていたから自分は耐えられる。ソレを持っていたから葵冬馬は耐えられない、耐えるにはもう暫くの時間と成長が必要だ。

 

ソレをたった数時間で稼いで見せた親友と呼びたい、呼びたかったアイツは此処には居ない。帰ってくるかも解らない。

 

屋上への扉を開けば、満点の星空が出迎えてくれた。

 

自分一人だろうと、そう思って居た。

 

視界の先にはベンチに座り、缶コーヒーを片手に空を見て居る男が居た。見知っている。あの時の言葉は少なくとも自分には響いた。何よりも、こんな事を言えて実際に抗える様な大人に成りたいとさえ思った。

 

「何やってんすか? 釈迦堂さん」

 

準の声かけにゆっくりと、釈迦堂刑部は返した。

 

「黄昏てんのかねぇ・・・ハハ。坊主はどうした? 夜中だぜ?」

 

そう言われ、心の内を探るも答えは出ない。だが、重い。途轍もなく重いのだ。

 

「解らないんですよ」

 

「へぇ?」

 

ピクリと釈迦堂の眉が上がる。

 

「腹も立ってる、後悔も有る、悲しいし、悔しいし・・・でも、感謝もしてるんだ。何もかもがごちゃごちゃに成っちまってて、逆に冷静に成っちまってんだ」

 

今にも泣き出しそうな顔で、だけども泣け無くて…そんな表情の少年を見た釈迦堂は、グビリと喉を鳴らしてコーヒーを一口飲むと、口を開いた。

 

「解ってるじゃねぇか。」

 

その言葉に準はカチンと来た。

 

「イラついてんだ、腹立たしいんだ、悲しくて、悔しいんだ、そんでもって感謝してんだ。全部が一遍に来てんだ。百夜でもねぇのに難しく考えるから分からなく成ってんだ」

 

その言葉は驚く程に的確に当てはまった。

 

「…百夜の奴も其処まで難しく考えてねぇーよ。」

 

だって、アイツは何だかんだで馬鹿野郎なんだから

 

「そうだ。ソレをよぉ…爺共は理解しきれてねぇんだよ。」

 

其処からは独り事だと前置きが入り続いた。

 

 

 

アイツは馬鹿なんだ。難しい事も解ってる、分かっちまう頭の良い馬鹿野郎なんだ。詰まんない様な事に面白みも見つけ出せる事だってできる。小銭を稼ぐ様な感覚で一財産築けちまう。そんな要領の良い馬鹿なんだ。武術の才は在るぜ? 氣なんて使わせてみろ、太刀打ち出来るのなんて五人居るかどうかだ。でもな、アイツはまだまだ餓鬼なんだよ。今までが巧く行き過ぎてただけの、其処ら辺で鼻垂らして駆けまわってる餓鬼どもと一緒なんだよ。

ただ、人より察せちまう。それだけなんだ。だから、臆病になったんだよ。人との距離を取るのがへったくそなんだ。俺みたいな野郎か、九鬼の坊ちゃんみたいに飛び抜けてねぇと上手くはいかねぇんだ。アイツ、友達少ねぇだろ? 十人いないだろ? 普段からつるむ奴等何てよ。

馬鹿か、天才か、それこそ懐の深い奴らじゃねぇと無理なんだ。俺でも解る程度にはアイツはオカシイんだよ。

だから、身内に甘い。そんな百夜が凹んじまう事が有ったんだ。時間を掛けてやるのが普通だろうによ・・・まぁ、ソレを知りながらも止め切れなかった負け犬の愚痴だ。さっさと寝な。俺はもう暫く夜風に当たってから降りるからよ。あっ、婦長の婆に言うなよ? 口煩ぇんだよ。

 

 

何も言えずに屋上から去る。それでも、心は幾分か軽く成り当たり前の事に気づいた。

 

「あー…そっか。俺も若も九鬼も馬鹿ばっかだなぁ。そうだよなぁ」

 

百夜も俺達とかわんねぇ子供何だよなぁ

 

「糞ったれがぁ!!!」

 

井上準は右手の指三本を骨折し、暫く不自由する事に成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、川神百夜は川神より去った。その事実は変わらない。

 

が、だ。それでも、去るまでにやった事は在る。先ずは風間翔一を中心とするメンバー。

 

包帯で眉間を隠しているその姿を見た一子は慌てたり、モロと呼ばれる少年は純粋に心配したりしたが

 

「クク、ようこそ百夜。お前も俺と同じく選ばれたか」

 

「どうしたんだよソレ? まぁ、お前が平気そうだから何も聞かんが。それよりも見てくれこの更に逞しく成ったこの腹筋!! より洗礼された後背筋を!!」

 

「よっし、全員そろったな!! 川神山に冒険に行くぞ!!」

 

拗らせている大和を筆頭に筋肉馬鹿と冒険野郎は何時も通りだったりする。

 

そんな何時も通りな5人に別れのあいさつをし、後で手紙のやり取りをする等の約束をしてその場を九鬼家の車でさった。そして、その後は葵総合病院に向かい、一悶着起こしてから九鬼家所有の船舶で島流しと言ってしまえば言い方は悪いが、まぁ、離島への転校または移住となった。

 

船での旅は短いモノだったが、その船舶の中には船を使う最小限の人数に+で二人。川神百夜とヒューム・ヘルシングだけだった。船員達には気の毒な事だがこれが最高の布陣で最小限の被害で済むと判断されたのだ。

 

甲板上でヒューム・ヘルシングは言う。

 

「必要な物は随時連絡を入れろ」

 

「あいあい。まぁ、ゆるりと過ごさせて貰うさ。あぁ、新しい学校に行くのも楽しみだけど…面倒だなぁ」

 

何時もの気だるげな声色は変わらない。

 

「フン、今更貴様に一般的な勉学は必要ないだろうし、今の貴様の目的は人を見る事だろう。貴様が気が向いた時に行けば良い。監視はするがな」

 

「愛い愛い、そうだね。それで良い。うん、真正面から向き合い越えて行く。彼方はそう在る。その在り方が美しい。輝いてるねぇ」

 

ヒュームを知る人間が居たら、顎が墜ちるのではないかと思う様な言葉を発する。それと同時にヒュームが恐ろしいくらいに川神百夜に譲歩している事にも心臓が止まるかも知れない。事実、この会話を傍受していた『星の叡智』と呼ばれる老女は一瞬だが確実に気を失った。

 

ヒュームは思う。感じる事が出来るからこそ思ってしまう。余りにも惜しい。

 

海は穏やかだ。穏やかに過ぎる。船の周りをイルカが巡り、船頭のつもりか鯨まで居る始末。異常が無いかと周りを探れば船の周り、下も含めて多すぎる命の胎動を感じる。何よりも自然と川神百夜の周りにはその恩寵とでも言うべきモノ、外氣が集っている。

 

(一撃…いや落せんか。)

 

短期決戦。それも命を掛けて難しい。確実に勝てる見込みは無いのだ。勝っても確実に何かを失うだろう。それ程までに、一皮向けてしまった天凛は性質が悪い。

周りを気にしながらも警戒するヒュームを見ることなく、潮風の心地良さを感じながらふと思い出したかのように川神百夜は言った。

 

「あぁ、そうだった。ヒューム・ヘルシング、その輝きを曇らせる様な魂胆。少しでも己の心が否定するならばスパッと止めてしまえ。輝きが曇るのは、陰るのは、潰されるのは・・・恐らく我慢できない。」

 

初めて、初めてヒューム・ヘルシングは怖れた。

 

我慢できない

 

その一言に恐怖を覚え、『魂胆』と言う発現に驚愕し、己の未熟に憤った。

 

だが、ソレを表には出さない。

 

「ふん。それこそ赤子共しだいだ。俺から言わせれば先達を少しは休ませろと、尻を蹴飛ばしたい所だ。」

 

お前がソレを知ろうが関係ない。此方には露ほどにも関係ない。そう言う様に告げる。

 

「カッカッカッ、なら、ソレで良いさ。あぁ、ソレで良い。在るが儘で良い、その時が来れば誰それの輝きも増すだろう。世は美しい、命は美しい。」

 

ソレに価値が無いとしても。言葉にしなかったその言葉ただただ、水底の様な心の内に堕ちて行った。

 

 

 

 

葵冬馬は夢を見る。衝撃的で、有難くて、だからこそ何も出来なかった自分が情けなく、悔しいと言う夢を。

 

院長室。そう呼ばれる所に僕達の友は来た。監視と言う名の護衛を伴って。包帯を巻いた顔で眉間で交差する様な×印には少し血が滲んでいるのが、心配だった。

それでも、その顔は笑って居た。僕や準を見ると嬉しそうだった。あぁ、此処からまた新たに始められるのではないかと思ってしまうくらいには…

 

「急にどうしたんだね? 九鬼家の従者たる君達とは、息子意外には接点は無いと思うのだが。」

 

老紳士と言う言葉が似合う従者に父が言う。

 

「いえいえ、今回は私共ではなく此方の少年…ご子息の友人が御用が在るそうで…」

 

私共はただの付き人でございます。

 

「冬馬の?」

 

怪訝そうな顔をする父を見る百夜の目は冷たかった。僕はそう思いました、見たくも無いモノを不意に見てしまったかのような嫌悪感すら感じまた。だからこそ、僕は察した。だからこそ、僕は百夜を止めようとした。

でもソレは止められてしまいた。付き人と名乗った従者の糸で。

 

其処からは恐ろしい程の速さでした。

 

百夜の冷たい、感情すら含まれていない機械の様な平坦な声が止めどなく紡がれ、発せられる極寒の様な気迫に父は言葉を発する事すら出来ずに失神と覚醒を否応なしに繰り返され、最後には全てを否定されたかの様に崩れ落ちました。

 

綺麗な手でピストルの形を作り自分のこめかみを挑発するかのように抑え手を動かしながら

 

「遣る事成す事が小さい小さい、小悪党ですらない。どうでも良い言い訳を並べ罪重ねてこの程度? 笑えないよ院長様? あぁ、もう医者ですらないのかな? ごめんねフリーター・・・ニートにでもなる? 蓄えはあるでしょ? 趣味人にでもなれば? うん、冬馬が立派になって養ってくれるよ? やったねニート君!!」

 

と、最初から飛ばして煽り始めた百夜には、彼を知る僕でさえ唖然としました。それと同時に、父は此処で終わるのだなと確信したのも事実です。

父も唖然としていましたが、直ぐに怒りを顕わにし口を開こうとしました。

えぇ、開こうとした。結局は開けなかったんですよ。その姿を見てずるいと思った

後、数年、遅くても十数年後には僕がそうしたかった。その罪を清算させてやりたかった。

 

裏帳簿を顔面に叩きつけられ、使途不明金の使い方を細かく説明され、その一つ一つに己がドレだけ情けなく、矮小で、救いようの無い人間なのかと懇切丁寧に子供でも解るかのように貶しながら説明され、暴力を振るおうとしても何も出来ずに気絶と覚醒を玩具を扱うかのように繰り返され・・・

 

葵総合病院は九鬼の傘下に加わる事に成りました。

 

「おい、最後に言っとくけど子供位護ってやれよ。父親だろ? お前」

 

彼が部屋から出る直前の言葉がソレでした。

 

ソレが歯止めに成ったのでしょう。父は一言言いました

 

「そうか……まだ失ってしまうモノがあるのか」

 

そう言った父の目は綺麗だったと思います。憑きモノが墜ちたかのような・・・僕は初めて見たのだと思います。在るがままの父を、僕の親という一人の人間を…

 

だからでしょう、父に対する嫌悪感は殆ど無く成って居ました。寧ろ、父に対する理解が変わったんだと思います。

それが嬉しくて…悔しくて…情けなくて…

 

そして、彼はもう此処には来ないだろう事を察してしまった。

 

 

うっすらと意識が覚醒する。

 

(今日の事を夢に見るなんて…衝撃的だったからですかね?)

 

少し、目を開ければ準が部屋から出る所でした。彼も思う事が有るでのでしょう。僕は…もう泣いてしまいましたからね。思っていた以上にスッキリとしている心に驚く。

寝がえりを打つように反対側を向くと、小雪がすやすやと寝息を立てて居た。笑顔を浮かべて。

 

(小雪の養子縁組までこなしてしまうのですから…百夜はどうしようもないですねぇ)

 

「お前、今日からこの人の娘な!!」

 

「え?」

 

「え? 急に何を?!」

 

(はい、これ小雪の前に居た状況とかを纏めたものねで、榊原さんを黙らせてしまった上に)

 

「お前、今度合う事が在ったら握り込んでないマシュマロ寄越せ。ソレが出来たら許してやろう」

 

「…いいの?」

 

(てめぇで考えろ。ですか・・・優しいんだか、厳しいんだか・・・フフ、百夜、僕は…)

 

「いってぇぇええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

「準?!」

 

僕は飛び起き声のした方へと駆けだした。

 

(百夜、僕は・・・僕達は待ってますよ? 君が帰って来るのを)

 

 

 

準が血まみれの拳を抑えて居るのを発見した僕が慌てたのは当たり前の事です。

 

小雪がコレで準を弄るのが想像できますね。

 




英雄君は今回はなし!! ブランクが酷いな!!俺!!

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