創造者とメイドも滅びた世界からやってくるようですよ? 作:空箱
リアルがすごい忙しくて書いてる暇がなかったのと、完全にオリジナルな部分が増えてきたこと、キャラが多いことなどが重なってやる気が減じていました。
でも、プロフェッショナル 仕事の流儀を見たらやるきが生えてきました。
ということで投稿します。
8.ゲームスタート
あくる朝、問題児一行はゲームに参加するため、“フォレス・ガロ”のコミュニティへ向かった。
途中商業区で解放された人質や傘下のコミュニティから熱烈な声援を受ける。また、ジンの名と、魔王に対抗するコミュニティを作るといううわさも広がっているようだった。
ガルドが約束を果たしたことを確認できた一行は、意気揚々とゲームの舞台である“フォレス・ガロ”の居住区にやって来たのだが・・・
「“フォレス・ガロ”の居住区はずいぶんと独特なのね」
飛鳥は皮肉げにそう言った。
飛鳥が見つめる先には、壁や柵を絡めとりながら蠢く木があった。
明らかに普通ではないその植物を不気味そうに眺める飛鳥。
明彦は逆に興味深そうに近づいて観察している。
問題はおかしな木がこれ一本ではなく、フォレス・ガロ”の居住区全域にはびこっていることだった。
見る限り襲ってくるということはなさそうだが、こんなところに住むなんてとてもまともとは思えなかった。
「ジャングル?」
「虎の住むコミュニティとはいえ、これは明らかにおかしいだろ」
「はい、僕の知る限り、先日までここは普通の木が生えていたはずです。それにこの木」
ジンは木に手を伸ばす。幹に手を触れると、表皮の下で血管のように脈動しているのが感じられる。
「これは―――やっぱり“鬼化”している? いや、まさか」
そんなことができる存知り合いが一人いるが、こんなところにいるはずもなく、またする理由もないからだ。だからジンは頭を振ってその考えを振り払った。
「にしても、迎えの一つもないのかよ。そろそろ正午になるぜ。それとももうゲームが始まってるのか?」
「いえ、そんなはずはないですよ。少なくともゲームの初めに“
「となると中に入るべきか?」
十六夜が敷地に足を踏み出そうとした時、森の中から声が響いた。
「いや、その必要はないぜ?」
奇怪な森の奥から悠然と姿を現したのはガルドだった。
ガルドは笑顔でノーネームの面々と向き合う。
その際、ガルドは鼻をひくつかせ少しだけ十六夜の方を向いたが、すぐに今回の対戦相手の方に向き直った。
「よくぞいらした御客人、今日は大いに楽しんで行ってくれ。演目の内容はよく確認してくれよ?」
芝居がかった大仰な振る舞いでガルドは“
それを飛鳥が受け取る。
受け取った“
『ギフトゲーム名 “星の根源”
プレイヤー一覧 久遠 飛鳥
春日部 耀
千宮 明彦
都
ジン=ラッセル
クリア条件 フォレス・ガロの館敷地内において世界を構成する真の要素を祭壇に捧げよ。
クリア方法 祭壇に上記を揃えること。
敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、ギフトゲームを開催します。
“フォレス・ガロ”印』
黒ウサギも“
心配していたようなこちらに明らかに不利になる要素は盛り込まれていない。
見る限りは謎を解けばクリアは容易だろう。
その事に黒ウサギはとりあえずほっと胸を撫で下ろす。
そもそもこの場にガルドが現れた時点で勝ちは決まったようなものだ。
飛鳥のギフトがあれば、ガルドにゲームの解説をさせることが可能なのは既に証明済みだ。
「見る限り問題は無いと思います」
「“箱庭の貴族”にお墨付きが貰える光栄だ。ならとっと始めるか、このコインが地面に落ちたらスタートだ」
ガルドがコインを取り出して見せる。
「いくぜ?」
それを指で弾く。
顔の高さまでとびあがったコインは落下し始め、地面に着いた。
「じゃあ“動くな”」
その瞬間、飛鳥の言葉が放たれた。
瞬時に硬直するガルド。
「これでゲームオーバーね」
飛鳥が勝ち誇った。飛鳥の持つギフト“威光”は知性のある生きものを支配するギフト。
普段使うことは嫌いだが、ゲームとなれば話は別。
のこのこと現れたのなら使わない理由はない。
しかしガルドは、口の端を持ち上げて、にやりと笑った。
そして、動かないはずの身体で一歩前へと足を踏み出した。
「えっ!?」
「あめぇよ、嬢ちゃん」
一番近くにいた飛鳥にガルドが襲いかかった。
飛鳥は強力なギフトを持つものの、単純な身体能力でいえば問題児たちでもっとも普通である。
元が虎であるガルドの一撃をくらえばひとたまりもない。
飛鳥はガルドの一撃をよけられず、ガルドの一撃は空振った。
「!」
瞬時に飛びのき距離をとるガルド。
見れば飛鳥は明彦に抱えられていた。
手を伸ばして届くほど近くはない。何らかのギフトが使われたのだろう。
空気の異常な動きから風を操る能力と推測する。
しかしガルドは心の中でいぶかしむ。ガルドの鼻は明彦から香る匂いと、風を使うギフトの匂いが食い違ったからだ。
しかしそんなことはおくびにも出さず、ガルドはうれしそうに笑った。
「やるじゃあねぇか。今の奇襲で嬢ちゃんを退場させるつもりだったんだがな」
「そんなに簡単に退場したらつまらないでしょ? それよりも飛鳥ちゃんのギフトが利かなかったのはどういう仕掛け?」
「話すとでも思うか?」
「やっぱ無理?」
「ダメだな、とはいえここはいったん引かせてもらうぜ」
させないとばかりに耀と都が前に出た。
“フォレス・ガロ”が何人参加しているかは知らないが、ガルドが最大戦力であることは間違いないだろう。ならば今、最大戦力が集まってる今ここで倒してしまえばゲーム攻略も楽になる。そう考えたのだ。
それは当然ガルドもわかっていた。
スッとガルドが手を上げる。
身構える二人。
しかし攻撃はガルドの背後、森の中から放たれた。
丸い何かが耀と都めがけて三つ投擲される。
二人は避けたが、その球は地面にぶつかると簡単に破裂し赤い煙をあたりにばらまいた。
「な、なにこれ、眼と鼻が…ゴホッ」
「う…うう」
その赤い煙は粘膜に触れると反応し、強い痛みを発した。
飛鳥と耀、ジンはその痛みに顔をかばった。
その間にガルドは遁走する。
問題がないのか都と明彦は平然としているが、遠距離攻撃の手段を持たないのと、このまま追いかけて突出するのは危険と判断し追わなかった。
被害のない十六夜は森に消えたガルドを面白そうに睨んでいた。
「あれがガルド=ガスパーね、なかなか見た目に反して小技も使ってくるじゃねぇか」
「そうですね、以前見たことがありますけど、その時はもっと…こう、別人のようでした。悪い意味で」
「ま、それはともかく。大丈夫かよおまえら」
「は、はい…大丈夫です」
「まさか、私のギフトが効かなくなってるとはね」
「予想外」
とはいえまだ飛鳥のギフトがガルドに効かなかっただけ。
まだまだできることはある。
「とにかく、ゲームは始まっているわ。先に進みましょう」
「そうだね」
十六夜と黒ウサギを残し、五人は警戒しつつ森の中へと足を踏み入れていった。
「大丈夫でしょうか、皆さん」
「さあな、あいつ等次第だ」
そのまま二人は門の外でゲームが終わるのを待ち続けるのだった。
森の中に分け入った一行は、奇襲を警戒しつつも大胆に歩を進める。
それというのも、耀の
もしも誰かが隠れていても、匂いでわかるのだ。
しかし、予想していた奇襲や罠などはひとつもなく、一行は障害に阻まれることなく“フォレス・ガロ”の本拠地にたどり着いた。
フォレス・ガロ”の本拠地はなかなか大きな屋敷だが、今は木に絡みつかれ不気味な外観に変貌していた。
「なにもなかったわね」
「外をこんなにしておいて、いったいどういうつもりなんだろうねぇ?」
明彦は肩をすくめる。館に罠を張るにしても外をこんな風にする理由はないはずなのだ。
(それとも何か別の狙いが?)
「さて、まずはここで手掛かりを探しましょうか」
「そうだね、この中に“祭壇”があるといいんだけどね」
「…あけるよ」
扉は抵抗もなく開かれた。
中を覗き込むと、木もここまでは入ってこなかったか特におかしなところはない。
いや、調度品の類が乱雑に散らばっている。
「どうしましょうか?」
「とりあえず、全部の部屋を見て回りましょう。細かく調べるのはそのあとよ」
「了解」
とりあえず館の中を調べることとなった。
なかなか広い館だが、ざっと調べるだけならそう時間はかからない。
地下一階にあるいくつかの部屋は生活感はあるものの何かが隠されている風には見えなかった。
一階のキッチンや倉庫も食料や酒などがあっただけで特に手掛かりになるようなものは見つからない。
そして、二階を調べていくと、二階の中央に位置するおそらく館の主が使用していたと思われる部屋に明らかに部屋の雰囲気にそぐわないものが置いてあった。
「これが、祭壇かしら?」
「おそらくそうだと思います」
それは丸く太った本体に小さな足が三つついた何かの台座のようなものだった。
派手な赤と輝く金に彩られており、特徴的な龍の彫刻が目を引く非常に豪奢な作りになっている。
そして一番目を引くのが天板に描かれた、それぞれの頂点に円がつながる五芒星であった。
「これが祭壇で間違いなさそうね」
「おそらくは」
「問題はこの祭壇にささげる“真の要素”が一体何なのかだね」
「うーん、というか手掛かりあっても全く役に立てそうにないんだよねぇ。僕ってこういうことにうといんだよねぇ」
「そう、なら周囲の警戒をしておいて。ガルドが何時襲ってくるかわからないわ」
「了解」
飛鳥は、それだけ言って台座に向き直った。
じっと台座を睨みつけ、ふと、思い出すことがあった。
「これって、もしかして五行説に関係してるんじゃないかしら?」
「五行説?」
「ええ、私も詳しいわけじゃないけど、世界は木・火・土・金・水の五つの要素が相互に影響しあってできている、という思想だったはずよ」
「5行、五つ。この祭壇の模様とも符合しますね」
ジンの顔が明るくなる。
「つまり、五行を集めろと」
「そう言うことだ」
全員がはっと天井を見上げた。天窓からガルドが顔をのぞかせている。
「そこまでわかったなら、そろそろこっちとも遊んでもらうぜ」
ガルドが手を上げる、それは何かの合図のようで。
次の瞬間、轟音とともに館全体が揺れた。
壁に亀裂が走り、床がぐらぐらと揺れる。
「何をしたの!?」
「なあに、館を支える支柱を全部ブッ壊したのさ」
「な!?」
「やばい、都!」
飛鳥は驚き、明彦は都の名を叫んだ。
「せいぜい生き残ってくれよ?」
そう言ってガルドは去る。
それと同時に、柱は崩れ、天井が重力に従って降って来る。
そのまま大きな土煙が上がったのだった。
館から少し離れたところで、ガルドはもうもうと立ち込める土煙を見つめていた。
そこに手下の一人がやってくる。
「やりやしたね、ボス。これなら一網打尽ってやつでさぁ」
「そうだな、そうかもな」
喜ぶ手下に、ガルドは気のない返事を返した。
あの罠は本気で作ったものだ。
内部の人間に余程の力がなければ防げはしない。
だからこそガルドは心配だった。
(まさかこれで終わりとかねぇよな?)
対戦相手が心配だった。
もはや勝ち負けがどうとかではないのだ。
全力でぶつけたい、本気を叩き付けたい、それだけなのだ。
だから、それを見たとき、ガルドは口の端を持ち上げて歯をむき出しにして笑ったのだ。
そこにあったのは、館の天井部分をまるまる片手で持ち上げる都の姿だった。
「は?」
手下はあんぐりと口を上げて茫然と眼を見開いている。
「おい」
「え!? な、なんすかボス」
「棄権しとけ、他の奴らもだ」
「で、でも」
「もうおまえらが出来るこたぁねぇ、邪魔だ」
ガルドの目にはもはや対戦相手しか見えていない。
爛々と輝くその眼に、手下は真剣な面持ちでうなずき、背を向けて走り去って行った。
「さあ、始めようぜ……本気の遊びをよ!」
そして、ガルドは大地を踏みしめ走り出した。
「あいたた、何がどうなっ・・・た、の?」
飛鳥が衝撃から立ち直ると、眼と鼻の先に天井の瓦礫があった。
驚いて見回してみると、崩落してきた天井を直立する都が片手で支えてるではないか。
「な、なんですか、これ」
ジン言葉がないようだった。あまりにもありえない光景だから当然だろう。
「これって、都さんのギフト?」
「はい、そうなります」
都は片手にのせているものが何でもないかのように答えた。
「! 来るよ!」
耀が叫んだ、指さす方を見れば、凄まじい速さで走って来るガルドの姿。
「まずい、迎撃を…」
「やろう」
答えたのは明彦だった。
明彦は、地面に手を付けている。
一瞬いぶかしげに明彦を見た耀は、次の瞬間眼を見開いた。
「地面が、波打って…」
波紋は速やかに広がって行く。
「行け…!」
明彦の言葉に、大地がたわみ、その姿を変貌させる。
まず出てきたのは無数の壁。
それらはガルドの進行を妨害するように立ち並ぶ。
「邪魔だっぁ!」
叫ぶガルドは服を破きながら変身、いや、本来の姿に戻った。
その毛並みは白く、筆で描いたような線が脈動するような模様を描く。
その金の瞳は獰猛な意思を宿す。
白い虎、ホワイトタイガーと呼ばれるその姿。
完全に変身したガルドが吼え猛り壁に突進する。
そして、そのまま水にぬれた障子紙を破るように突き進んだ。
「え、嘘」
明彦はその結果に驚く。
いくら即席の壁とはいえそんな簡単に突破されるわけがない。
そして直感する。あれは、ただの虎じゃあない。
明彦はすぐさま次の手を打つ。
明彦の意思に従って大地はあたかも地獄の針山のように変化。鋭い針が草原の草のように生え揃う。
「都!」
「はい」
さらにそこに都の追撃を掛ける。
なんと都は、見事なフォームで天井の瓦礫を構えると、そのままパイ投げのパイのようにガルドに投げつけたではないか!
瓦礫はまるで壁のように地面を削りながらガルドに迫る。
そして、真っ二つに砕け散った。
土煙が立ち込める中、その向こうに影が一つ立っているが見える。
ガルドは、全くの無傷だった。
その毛並みに一筋の傷も見えない。堪えていないのだ。まるで全身が鉄の塊であるかのように。
今はこちらを警戒しているのか足を止めているが、もう距離はほとんどない。
明彦は乾いた笑顔でこぼした。
「ははっ、冗談だろ」
「ど、どうしましょう」
明彦は後ろを振り返って思案する。
ジンはおろおろするばかりでもとより戦いで役に立つはずもない、飛鳥はそのギフトがガルドに影響を与えられなかったのは把握している。
残るは耀だが…
「耀、行けそう?」
「……行く」
耀は硬い顔でそう答える。
それを見た明彦は肩をすくめた。明らかに無理をしている。
だから明彦はこう言った。
「こっちは僕と都で抑える。そっちは謎解きをしてて」
「え!? 私も戦える」
耀は驚くが、明彦は取り合わない。
「都なら肉弾戦で負けることはほとんどない、無理ならそう言ってくれていいよ」
「無理じゃ…」
「本当に?」
「………」
耀は沈黙する。耀も実力差がわからないわけではないのだ。
「ほんの一日しかいないし、信頼なんてないと思う。頼りなく見えるかもしれない。でも今はかつために信じて」
真摯な眼で耀を見る明彦。
その眼に、耀は折れる。なんでか父親やさしげな瞳がだぶって見えたからだった。
「…わかった、任せる」
「うん、任された」
そういって、明彦は都とともにガルドに向き合った。
『もういいのか?』
「うん、いつでもいいよ」
完全に虎の姿になったガルドの口から人の言葉が出てくる。
それに明彦は答える。
はたから見たら虎にメイドと子供が立ち向かおうとしているある種のユーモアが感じられる光景だろう。だが、明彦は本気だった、ガルドも本気だった。
睨みあい、ふとどちらかともなく笑みが浮かぶ。
楽しげに、満足げに。
「さあ、」
『行くぞ!』
そして、ゲームの行方を左右する戦いが始まった。
明彦と都がはっちゃけた。
うまく描写できたかちょっと不安ですね。
感想よろしくお願いします。