戦姫絶唱シンフォギアー想いが貫くその先にー   作:saver

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大変遅くなりましたが、好きな作家さんからお気に入りいただいて死ぬほど嬉しかったので続けてみようと思います。

時系列的には、1話がアニメ9話にあったデートの直後くらいです。


第2話「I for all」

「ーー知らない天井だ、とでも言えばいいんですかね」

「起きた第一声がそれなら、案外大丈夫そうだな」

 

目が醒める。

真っ先に視界へ飛び込んできたのは真っ白な天井とシーツ、次いで文庫本を読む筋骨隆々な男性だった。

ゴリラめいた見た目に反し、読んでいる本は古典純文学であるからしてインテリなのだろうか。

場所は鼻をくすぐる消毒液や薬っぽい臭いからして、病院だろう。

 

「……ところで、どなたです?」

「俺は風鳴弦十郎……君の上司になる男だ」

「上司……?よく分かりませんが、久瀬・ヒンデミット・唱です」

「うむ、突然だが唱君、君は何故自分がここにいるのか理解しているかな」

「なぜ、ですか……?」

 

確か学校が終わって、ヒビキとミクと分かれて本屋に行って、その帰りにノイズが出てきて、逃げ遅れてた女の人を連れて逃げて、追い詰められて、何からかっこいい格好したヒビキが出てきて、それでーー

 

「……あっ」

「思い出したようだな」

 

病衣をちょっと捲くって胸元を見る。

鉄骨だか鉄パイプだかが刺さって、感情に任せて無理やり引っこ抜いた傷は跡形もなかったが、なにやら痣のようなものが胸元にあった。

 

「……色々質問したいんですが?」

「分かっているさ、君のシンフォギアーーゲイボルグの事だろう?」

「それと、ヒビキについても」

「ああ、説明しよう、先ずはーー」

 

そこからは、アニメ好きなユミが聞いたら喜びのあまり卒倒しそうな内容だった。

シンフォギアとは、歌をエネルギーに変換して戦う力とする兵器の総称で、現時点で効果的且つ効率的にノイズへ対抗できる唯一の手段であること。

そしてフォニックゲイン式回天特機装束(シンフォギアシステム)は聖遺物と呼ばれる先史文明時代の異端技術(ブラックアート)を櫻井理論なる理屈を以って加工したもので、現時点で存在するシンフォギアは私のゲイボルグ、ヒビキのガングニール、そしてなんとアイドル歌手の風鳴翼が有するアメノハバキリ、そして現在行方不明のイチイバルとネフシュタインの鎧、この施設の地下に保存されているデュランダル、その6つだという。

厳密に言えばもっとあるらしいが、それらはシンフォギアシステムへの加工をせず、日本のどこかに保存してあるのだという。

 

そしてそれら聖遺物を極秘裏に研究、収集しノイズへ対抗すべく行動する政府直轄の秘密機関ーー認定特異災害対策機動部二課の存在。

 

私とヒビキは融合症例という極めて稀な存在であるーーというかそもそもシンフォギア装者が私と敵の未確認含めて4人という少ない状況で稀も何もないのだが。

 

「で、なんか国家機密っぽい事を沢山聞かされたんですけど、大丈夫なんですか?」

「勿論だ、君は他ならぬ二課に所属してもらうことになるのだからな」

「……Was ist das?(なんですって?)

Du hast das gesagt?(言っただろう) Ich bin ein Mann, der dein Chef sein wird.(私は君の上司になる男だと)

 

思わず、最近は使わなくなって久しいドイツ語が飛び出す程度には驚いた。

今思えば、遭遇率こそ低いとはいえ世界的な脅威に対抗できる手段を有しているのだから、当然と言えば当然であるのだが。

 

「その通りだ、急な話ですまないが今は猫の手でも借りたいほどなでな……だが、ただ君を戦わせるわけじゃない、我々二課は全人類守護の防人であり、装者を全力でバックアップするために存在する」

「考える時間はーーなさそうですね」

「常々不甲斐ないと感じている、子供を矢面に立たせるなど……」

 

風鳴さんは、本当に申し訳ない、と告げて頭を下げる。

最近では見なくなって久しい、誠心誠意の謝罪の言葉と態度だった。

 

「仕方がないと思います、こんな世の中ですから」

 

それなら、私もその誠意に答えるとしよう。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「仕方ないと思います、こんな世の中ですから」

 

そう呟いた唱君の顔はどこか悲しげで、高校一年生とは思えない程達観した感情、諦観が見て取れた。

 

子供がそんな顔をしてはいけない。

翼にも思う事だが、子供とは大人びていて尚、子供らしくあるべきだ。

未来を夢見て、明日は向かって元気に駆け出すのが子供だ。

そんな子供が駆ける道を整えて、転んだら助けてやるのが大人なのだと、風鳴弦十郎は思う。

 

「それはーー」

「でも」

「……でも?」

 

だから、それは違うぞと反論しようとした瞬間、その言葉ですら否定する言葉が他ならぬ彼女から紡がれる。

 

「でも、だからこそ、諦めちゃいけないんです

仕方がないって諦めちゃう人がいる、どうしようもないって嘆く人がいる……そんな人達のために、力を持つ人が立ち上がらなきゃいけないんです、こんな世の中だからこそ、戦わなくちゃいけないんです

だから私は戦いますーー私に、その力があるのなら」

 

その表情は先程とは打って変わって明るく、決意と力強い意思に満ちた瞳が爛々と輝いていた。

そして、昨日オペレーションルームで聞いた彼女の言葉を思い出す。

 

ーー私は今、ヒビキと同じ戦う力があるんだと思う

 

ーーこれは、きっと私が運命に立ち向かう為の力

 

ーー世の中全部の不条理に、私の信念をーー想いを貫き通す為の力、それがある!

 

「……なるほど、君にゲイボルグを手にし、適合したのは必然なのかもしれんな」

「え?」

「いや、ただの独り言だ……まったく、響君といい唱君といい、最近の若者は捨てたもんじゃないな」

 

暇つぶしに読んでいた文庫本をポケットにしまい、椅子を片付けると二課専用の通信端末を取り出す。

繋がる先はオペレーションルームだ。

 

「唱君が目を覚ました、例の準備を始めろ」

『了解しました』

「……例の準備、とは?」

「それは行ってからのお楽しみだ、君が着替え終わり次第、我々の本部へ向かってもらう

案内は友里君がやってくれるから、ここで少し待っていてくれ」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

その後、ものすごく早く急降下するエレベーターで腰を抜かしたり、如何にもな感じの廊下を歩いたり、プシューとかって音が鳴るSFな扉を幾つか潜った先にそれはあった。

 

ーー認定特異災害対策機動部二課本部。

 

これから私がお世話になって、自身に宿った力を振るうために必要な事を学び、戦う為のサポートをしてくれる場所。

 

風鳴司令を見る限りでは悪い人たちではないのは分かるし、類は友を呼ぶなんて言葉もあるからには優しい人たちがいるんだろう。

だが、人類守護の防人などと大仰な事を言われた手前、緊張するなというのは土台無理な話である。

案内役の友里さんはニコニコした表情を崩さず、多くを語ろうとしない。

 

「……(ゴクリ)」

 

様々な不安や疑問、憶測と猜疑が渦となって極大の緊張を生み出す。

心臓の鼓動が聞こえてきそうなくらいだ。

 

だが、緊張してばっかりではいられない。

虎穴に入らずば虎児を得ず、ええいままよと自動ドアを潜ったその瞬間ーー

 

「ようこそ!人類守護の砦、認定特異災害対策機動部二課へ!」

「……は?」

 

パパパーーーン、と破裂音が鳴り響く。

その音がたくさんのクラッカーによるものであると気がついたのは、顔にカラフルな紙テープが降り注いでからだ。

 

ご丁寧なことに、『ようこそ二課へ!』とか『熱烈歓迎!久瀬・ヒンデミット・唱さま!』と描かれた横断幕まで用意してあるし、それ以外にも花輪やらダルマやら紅白幕やら、取り敢えずなんか置いとけみたいなヤケクソ気味なテンションをひしひしと感じる。

 

「いやあ、まさか一ヶ月もしないウチに歓迎会を二回もやるとはな!」

「いぇーい!唱ちゃんホラ笑ってー!」

「い、いぇーい」

 

なんだこのフレンドリーさは、MI6とかCIAとか公安みたいな憮然とした組織を想像していたのに……ハッ。

 

「これが私の知らない日本流の歓迎……?OMOTENASHIの精神だとでも……!?」

「違う、決して違うからな久瀬」

 

そう言って、声をかけてきたのは件の防人アイドル風鳴翼である。

なにやら少々無理をしたようでリハビリをしていたが、最近になって復帰したと聞いている。

 

様子を察するに、彼女も周囲の空気に溶け込めないようである……溶け込める方が珍しいとは思うが。

 

「初めまして、久瀬・ヒンデミット・唱と言います

色々あってゲイボルグに適合しまして、二課で働くことになりました……まさかこんな形でお会いできるとは、光栄です」

「風鳴翼だ、話は聞いている……同じ無辜の人々を守る防人として、期待しているぞ」

 

やはりというか、ツバサさんは歌手として歌っていたりインタビューを受けている時とは違う印象を受ける。

言葉遣いが厨二病っぽーーいや、時代がかっているのはそのままだが、幾許か雰囲気が柔らかい気がした。

 

「はい、よろしくお願いしますね、先輩!」

「先輩……先輩か……ほんとうに、もう無様は晒せんな」

「と、言いますと?」

「なに、些細なすれ違いや思い込みで勝手に事態を拗らせていた、それだけの話だ」

「はあ」

 

そういえばと、ツバサさんとヒビキがなにやら関係を拗らせていたと、先ほど司令から聞いたのを思い出す。

 

「ーーと、噂をすればか」

「遅れましたァー!」

「すいません!」

「って、ヒビキ!ミクも!?」

 

肩で息をしながら扉を潜ってきたのはヒビキとミク、私の親友だった。

ヒビキは兎も角、なぜミクまで……?

 

「私は外部協力者として二課に登録されてるの

装者同士の戦闘に巻き込まれちゃって、それからね」

「立花は私と違って、仕事だからと言い訳が効かないからな」

 

ツバサさん曰く、装者の身近な人間が協力者になる事で、緊急の自体が発生した際の連絡手段の確保や、情報が錯綜したり不備が発生するのを防ぐ役割があるんだそうだ。

 

「でも、まさか唱までシンフォギアを使うことになるなんて……」

「心配しないでって言うのは無理だろうけど……私は私に出来る事をやりたい、それだけだから」

 

傲慢かもしれない、自惚れかもしれない。

でも、思いを形にする力が私にあるのなら、私は止まることはできない。

 

「……ほんと、唱と響ってソックリだよね、顔が違うだけで姉妹みたい」

「それなら私がお姉ちゃんかな」

「えぇー!?なんで!?」

「私の方が身長高いし」

「唱はドイツと日本のハーフだしね、顔立ちも大人っぽいし、憧れちゃうなあ」

「ぐぬぬ、ヨーロッパの血は強い……!」

 

ドイツ系の血を多く引き継いだ私は、同い年の日本人と比べて高身長である。

年上のツバサさんと同じか、少し高いくらいだろう。

 

……響から溢れ出す小動物オーラが凄まじいのも大きいが。

 

ぐぬぬと悔しがるヒビキを横目に渡されたジュースを飲む。

うん、こんな日常を守る為にも、この力をキチンと使いこなして頑張ろう、そんな風に考えた時、響がとんでもない事を言い放った。

 

「でも、おっぱいなら私の方がおっきいもん!」

 

ーーざわ、と空気が揺れる。

 

「な、なにを!?」

「ひ、響?」

「了子さん!私の方がおっぱい大きいですよね!」

「そうねえ、響ちゃんの方がサイズ一つ分は大きいわねえ」

「ほら!」

「わ、私はほら、着痩せするタイプだひ」

「ふふふ、思わぬ反撃に動揺してるよ唱……!」

 

自分の胸は確かに大きくない、大きくないが無いわけでは無い、ものすごく丁度良いサイズだと自負している

しかし、響がこれ見よがしに持ち上げる胸は、平均的な日本人女性のソレを大きく凌駕しており、私よりも大きい。

 

……なんだ、なんだこの敗北感は。

 

「案ずるな久瀬」

「つ、ツバサさん……?」

「まだ我々には未来がある!成長することを諦めるな!」

「まさかの慰め!?」

「ははは……話は変わるが唱君、君は武術の心得はあるかね?」

 

意味の分からぬ敗北感に打ち拉がれていると、司令が唐突にそんな事を聞いてきた。

 

「いえ、ありませんね……両親の仕事に着いていく事が多かった事もあって、基礎体力にはそこそこ自信がありますが」

 

考古学における発掘作業とは某ジョーンズ博士やミイラと運動会をする某オコーネルさん程ではないが、体力勝負である。

遺跡が山にあらば登り、海にあらば潜る、砂漠にあらば砂嵐をかき分けてでも進む、車やヘリも使うが貴重な先史文明の遺跡というものは何故か険しい環境にこそあり、結局は自分の足が頼りとなるものだ。

その上、見つけた後も発掘は手作業によるところが大きいので、非常に体力を使う。

 

「そうかそうか……それともう一つ、アクション映画は嗜む方かね?」

「へ?」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「……ふむ、融合症例としてある程度は予想していたが、確かに体力はあるようだな」

「ハァッーーハァッーーそれは、どうも」

 

翌日、一昨日に大怪我をしたとは思えない程の快調ぶりに驚きつつも、二課のトレーニングルームである。

 

アクション映画は好きか?と聞かれたので何事かと思ったが、要は映画に限らずアクション系の作品を観てその動きを真似してみろ、という事だそうだ。

本来ならば映画故の脚色を含んだアクションであったり、実現可能なものであっても気の遠くなるような修練が必要であるが、装者ーー特に私と響のような融合症例は身体能力の劇的な向上があるらしく、やろうと思えばどんな技でも習得出来るのだと司令は言う。

 

だが、そういった特殊な状況であろうとも現在どの程度まで動けるのかをチェックする為にちょっとした運動をするーーという話だったのだが、アレの何処が"ちょっとした運動"なのだろうか。

 

「流石に、腕立て腹筋その他諸々を"出来なくなるまで"に加えて、距離無制限耐久マラソンは応えますね……」

「456ゥ!ーー大丈夫だよ唱!457ァ!ーー私もやったから!458ァ!」

「それなんの慰めにもならないよヒビキ……」

 

そんなヒビキは司令特製の特訓メニュー真っ只中である。

やっている事はごく単純、頭に括り付けたお猪口に注がれた水を溢さないように正拳突き500回、溢したら最初からやり直し。

 

私と同じメニューをこなした後に響と同様のメニューをやっている司令はなんだか輝いているように見える。

 

……師弟揃いも揃って頭がおかしいのではなかろうか。

 

「さて、この体力を鑑みた上でのトレーニングメニューだが、君のアームドギアが槍な事を考えれば、短距離の走り込みや筋トレを中心に棒術と槍術を収めるべきだろうな」

「シンフォギアがゲイボルグですし、槍投げとかも覚えておきたい所ですね」

「うむ、勿論だ……では、ギアを展開してくれ」

「了解です」

「了子君、そちらの準備もいいな?」

『問題なし、いつでもいいわよ』

 

分厚い対衝撃ガラスの向こうには櫻井了子女史と何人かのオペレーターが端末を前にして座っている。

フォニックゲインとやらの計測を行うようである。

 

「それじゃ、いきます」

 

目を閉じ、胸に手を当て、大きく息を吸って、聖唱を口にする。

唱えるのは、心に響く歌。

紡ぐ詞は、己の心象風景。

 

「ーーPenetrate Gae Bolg Grint torn(信念は閃光となりて全てを貫く)ーー」

 

聖唱が終わるのと同時に、胸の内から力が溢れる。

インナースーツが体に張り付き、その上から肘、腰、膝、つま先に刺々しいアーマーが展開、腰部のアーマーからは大きな尻尾が生え、フード付きのコートが体を覆う、それらの色は鮮血のような赤と黒のツートンカラー。

最後に全長2m程の槍が現れ、ギアの展開を終えた。

 

「……」

「……どうしました?」

「ああ、いや、翼と響君のギアに見慣れたせいか、相変わらず凄い見た目だと思ってな……」

「ああ、どう見てもヴィランですよねこれ」

 

赤黒いカラーリング、デッカくてトゲトゲした槍、似たような見た目の尻尾、顔を覆うフード。

爪先も四足動物ーーそれもネコ科かイヌ科の猛獣を思わせるもので、同様に両手の指先も鉤爪のようである、どっからどう見ても人類の希望というよりは悪役だ

 

……そういえば、ギアを展開すると服はどっかに行っちゃうのに、眼鏡はそのままなの、なんでだろう。

そもそも、例の一件から0.2程度だった裸眼の視力が1.5くらいまで回復したので眼鏡とかいらないのだが、長年に渡って慣れ親しんだ黒いノンフレームの相棒を手放す事など出来なかった故、レンズの度を抜いた伊達眼鏡なのだが。

 

「まあ持ち主であるクー・フーリンは兎も角、ゲイボルグ逸話的にも正義ってよりは悪役寄りなんじゃないですかね、影の国とかありますし」

「ギアの見た目には装者のイメージや心が強く反映される

君のそういったゲイボルグ対するイメージか形で現れているのだろうな」

 

私はそんなにゲイボルグに対するイメージが悪かっただろうかーーいや、あの槍にカッコいいといったイメージは抱いても正義っぽいイメージを抱けと言うのが無茶ではなかろうか。

担い手であるクー・フーリンやスカサハならまだしも、ゲイボルグそのものに関しては材料がそもそも魔獣の骨だし、その性能に関しては後世における脚色である部分を含むとされるが、その殆どが血生臭い逸話ばかりである為、どうやっても良いイメージを抱けと言うのが無理な話である。

 

「……まあギアの見た目はさておき、これからこのトレーニングルームで対ノイズ戦闘シミュレーションをやってもらう……準備はいいな?」

「はい!」

 

それからややあって、トレーニングルームの風景が市街地へ切り替わる。

異端技術を用いた空間投影が云々と櫻井女史が説明してくれたが、何から何までチンプンカンプンなので殆ど聞き流した。

要は「異端技術スゴーイ、それを理解して応用した私スゴーイ」である。

 

「相手はあくまでもノイズを模したハリボテだが、実戦だと思って頑張ってくれ!」

『仮想空間だから何やっても大丈夫、今の全力を見せてちょうだい』

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「どう思う?了子君」

「どうって、数字が示してる通りよ

アルスター伝説の勇者クー・フーリンが振るった魔槍ゲイボルグ……その名に違わぬ性能ね」

 

本格的な戦闘訓練を受けていない上に病みあがりの身、だというのにゲイボルグは非常に強力なシンフォギアだと、仮想空間を縦横無尽に駆け抜ける唱は十二分に示してくれた。

 

「言うならば、最速のシンフォギアってところかしらね

古代ケルトの戦士が有した"鮭とびの秘術"、その一端を垣間見れるとは思わなかったわ」

「同感だ、とても参考になる」

「(これ以上強くなってどうする気だ……?)」

 

隣のゴリラは兎も角、ガングニールの立花響、アメノハバキリの風鳴翼は近接戦闘を主に扱う装者であるからして、移動速度はそれなりに速いが、それでも車両の最高速度や航空機に勝てるものではない。

 

「(ゲイボルグに染み付いたクー・フーリンの戦闘経験を降ろして(ダウンロードして)いるのか……?なるほど、ならば合点が行く)」

 

別にありえない話ではない。

霊魂や残留思念と呼ばれるものが存在しているのは己自身の存在が証明しているからして、あのゲイボルグに使用者の思念が宿っていないなどと言い切ることは出来ない。

そして、なにより唱のポテンシャルがそれの証左でもある。

融合症例と化した結果、身体能力が常人を遥かに超えるものであるとはいえ縮地法に代表される体術による高速移動術を覚束ないながらも再現しているのだから。

古代ケルトの戦士が厳しい修練の果てに得る鮭とびの秘術、それを手中に収めるのもそう遠くはないだろう、あの子にはそれが出来るだけの"センス"がある。

 

「(生まれる時代を間違えているのかもしれないな)」

 

クー・フーリン、フェルグス・マックロイ、フィン・マックール、ディルムッド・オディナ……名だたるフィアナ達が彼女を見たらなんと言うだろうか……あの豪傑達のことだ、大喜びで新たな戦士として迎え入れるに違いない。

 

「(問題はいつ"フィーネ"として接触するかだ……早い方が良いのは確かだが)」

 

完全聖遺物であるネフシュタン、クリスのイチイバル……現状ではまだ手駒が足りない。

私がネフシュタンを使って出向けば良い話ではあるがそれはあくまでも最終手段として取っておきたい……しかしクリスは不安定だ。今こそ私の命令を聞いてはいるがそれがいつ綻ぶか、それも時間の問題だろう……ならば、行動を起こすタイミングはーー

 

「ーー1週間、だな」

「なにか言ったかね?」

「ううん……何でもないわよ、ただの独り言」

 

フィーネは己が悲願を叶えるその時を夢見て、笑った。




唱の胸は防人よりは大きく、ビッキーより小さく、きねクリ先輩には絶対に勝てません、貧乳ではないが巨乳でもない。

そういや、シンフォギアシステムの和名であるFG式回天特機装束の回天ってなんぞやと思ったら、字は廻天とも書き、「天下の形成を逆転、一変させる」「衰えた勢いを取り戻す」等の意味があるそうです。
漠然と特攻機の名前としか認識していなかったので今回初めて知りました。
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