ハンターベース
「よし、2人とも整備はばっちりじゃ。これでいつでも出撃できるぞい。」
ケインは作業台で寝かされているエックスとゼロに声を掛ける。
「ありがとうございます、ケイン博士。」
「しっかし、少し整備にかかり過ぎじゃないのか?」
「何を言っとる。お前たちはただでさえ複雑で手入れするだけでも大変なんじゃ!これでもミスがないようにやったんじゃぞ。」
ゼロからの不服にケインは思わず言う。
「まあ、それはともかく・・・・・エックス、ゼロ。いよいよシグマと戦う時が来た。お前たちの強さは儂もよぉおく知っておるが相手はあのシグマ、今までのハンターたちとは大違いじゃ。心して行くんじゃぞ!」
ケインは、真剣な目で二人を見る。流石にいつも爺呼ばわりしているゼロも少し驚いている様子だった。
「しかし、ケイン博士。本当にいいんですか?シグマは・・・・・・」
「確かにシグマは儂にとっては一番思い入れのあるレプリロイド・・・・・・じゃが、儂一人の感情で世界を危険に晒させるようなことはしたくない。せめて・・・・・シグマがこれ以上罪を重ねぬうちに一思いにやってほしいのじゃ。」
ケインは感慨深そうな顔をしてエックスに言う。
「・・・・・わかりました。博士がそう仰るのなら・・・・・」
「・・・・ところでエックス、ゼロ。」
ケインは後ろを向きながら何やら持ってくる。
「決戦に行く無事を祈って少し菓子でも食って行かんか?」
「「はっ!?」」
ケインのニヤリとした顔と言葉にエックスとゼロは思わず叫ぶ。
「・・・・・・・・おい、爺。せっかく引き締まっていたのに今の一言で全部台無しになったぞ。」
「何を言っとるんじゃい、それとこれとは別じゃ。緊張している時こそ甘いものを取ってリラックスするのが一番。ずいぶん懐かしいものが手に入ったのでのう。」
「確かに俺たちレプリロイドには食物からエネルギーに変換する機能はありますけど・・・・・・何もこんな時に限って・・・・・・・・」
「ん?エックス?どうした?」
途中で言葉を止めたエックスを見てゼロはケインの持ってきたものを見る。
それは、昔で言う和菓子でこんがり茶色のホットケーキのようなものをハンバーガーのように二枚重ね、その間に何やら黒い粒つぶしたものが付けられている。
「どうじゃ?珍しいじゃろう?ほんの少しまでシティ・アーベルでも何件か売っとったんじゃがミサイル攻撃でやられてしまってのう・・・・・無事だった店から買ったんじゃ。」
ケインはニヤニヤしながら言うがゼロは呆れていた。
「こんな事態に態々買いに行くなんて・・・・・・爺死ぬ気か?」
「コイツのためなら命いくつやっても惜しまんわい!」
「どら・・・焼き・・・・・」
エックスの口から出た言葉にケインとゼロは思わず喧嘩をやめる。
「エックス、お前このケーキの出来損ないみたいな奴を知っているのか?」
「・・・・・えっ!?俺そんなこと言ったかな!?たまたまだと思うけど・・・・・・」
「ほうほう、エックスがどら焼きを知っていたとは意外じゃわい!」
「い、いや・・・・そんなわけじゃ・・・・・」
エックスは何とか誤魔化そうとした。
思えば最後にどら焼きを見たのはいつの頃だろうか?
自分の時代には街に行けばいろんな店に売っていたし、親友のネコ型ロボットの大好物という事もあってよく買っては食べていたものだった。
レプリロイドとして生まれ変わってからはどら焼きを見ることはもう二度とないと思っていた。
度重なる自然破壊による環境の悪化や食文化の変化もあってかつて知っている和食・洋食があまり見られなかったこともあったせいかもしれない。
まさかどら焼きをまた目にすることができるなんて夢にも思わなかった。エックスは慣れた手つきでどら焼きを受け取る。
「この黒い奴はなんだ?」
「それはどら焼きの重要な要の一つである『アンコ』じゃ。小豆という豆を砂糖などと一緒に煮詰めて作るんじゃぞい。」
「豆なのか・・・・・俺が知っているやつでも缶詰で見るケチャップと一緒に煮込んだような奴しか知らないな。」
「まあまあ、食べて見ればわかるもんじゃ!どれ、二人の健闘を祈っていただくぞい!」
ケインは満面の笑みを浮かべながらどら焼きを口に入れる。
エックスとゼロも同じようにしてどら焼きを口に運んだ。
どら焼きが口の中に入った瞬間、エックスの脳裏には懐かしい光景が次々と浮かんでは消えていった。
『ごめん、ドラえもん君の分まで食べちゃった(テヘペロ)』
『えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』
『「どら焼きはのび太の腹の中にある!」(秘密道具の音声)」』
『僕の買ってきたどら焼きまで!!!(ドラヤ菌発生時)』
『懸賞を当てるためにどら焼きを買う分のお金までつぎ込んだのに!!(とある懸賞品を間違えて知り合いにやってしまったとき)』
『儲けた暁には世界中のどら焼きを・・・・・(とあるエネルギーで話に乗って儲けようとしたとき)』
『はあぁ・・・・・・どら焼きが食べたい・・・・・(とある冒険の時)』
『のびえもんだよ(合体時)』
「・・・・・・・・・・・・・・」
「お、おい、エックス。お前どうしたんだ?いつの間にか泣いているぞ?」
ゼロに声を掛けられて気が付いた時、エックスはいつの間にか自分が泣いていたことに気が付く。
「あっ・・・・・・あ、あまりにもおいしかったから!!つい!」
「そんなものか?まあ、確かに悪くはないと思うが・・・・・」
「ホッホホッホホ!エックスもどら焼きにやられたようじゃのう!」
ケインは笑いながらエックスの肩を叩く。
シグマパレス
「この島がシグマの・・・・・・」
エックスとゼロは敵の勢力を分散させるべく、二手に別れてシグマのアジトがある島に乗り込んでいた。
「既にゼロが別ポイントから侵入しているはずだ・・・・・」
エックスは目の前のゲートをそっと覗くと警備が予想通り厳重だった。
「・・・・・・・いよいよ、シグマと戦うことになるのか。」
エックスは自分の手を見る。
既に八人の特A級ハンターは倒れ、自分はここにいる。シグマを倒せば平和が戻り、負ければシグマの思うがままになってしまう。
今更後戻りはできない。
「・・・・・・・ドラえもん。俺のことを見守っててくれ。」
右腕をバスターに変形させ、エックスは入口へと走り出す。
「イレギュラーハンター エックスだ!!」
見張りがすぐに警報を発する。
『緊急事態発生!イレギュラーハンター エックスが現れた!直ちに全部隊応戦せよ!!』
メカニロイド、レプリロイドの編隊がエックスに迫ってくる。エックスはバスターを放ちながらアジトの中へと突入する。
「行くぞシグマ!!お前の野望も罪もここで終わらせてやる!!」
『・・・・・・やっと乗り込んできたようだなエックス。』
シグマパレスの奥深くでVAVAは、専用のライドアーマーの上に腰を掛けながらエックスの侵入を察する。
『・・・・・早く来い、エックス。そして、俺と戦え。それですべてが決まる・・・・・・どちらが真に優れたレプリロイドなのかがな・・・・・クッククククク・・・・・』
どら焼きに関するエピソード結構多いんだよね(主人公の好物だという事もあって)。