ダンジョンに間違えて宇宙海賊がやってきた   作:影のビツケンヌ

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Exodus

 廃協会の地下室で目を覚ましたヘスティアは、自分が奇妙な金属製の枷のようなもので椅子に固定されていることに気付いた。右隣には、つい先程このねぐらに連れてきた(と認識している)少年ベル・クラネルが、自分とほぼ同じ恰好で拘束されている。冒険者になろうとこの迷宮都市オラリオにやってきた彼は、行く先々のファミリアで門前払いを食らっていた。恐らくはその頼りなさげな――自分は「庇護欲をそそる」と好意的に解釈している――容姿のせいだろう。行き場をなくした彼を、ヘスティアは自らのファミリアに記念すべき一人目の団員として引き入れ、恩恵(ファルナ)を刻むべくここにやってきた、筈だった。

 

 「ん、お目覚めみたいだな」

 

廃協会に着いてからこの状況に至るまでの間の空白の時間にあったことを思い出そうとした時、聞き慣れない声がヘスティアの耳朶を打った。

 

「拘束する必要なんてあったのか?」

「暴れられても困るからの」

「爺さんの趣味かと思った」

「馬鹿を言うな」

 

最初に聞こえた男の声以外にも、会話する三人の男――内一人は老人――の声、それを聞いてくつくつ笑っている声が、自分の背後、正確には左後方から聞こえる。ヘスティアは振り向いて確認しようとしたが、

 

「おっと無視は困るぜ」

 

左にきっかり九十度首を回したタイミングで、先の男の声と共にがしりと頭を捕まれ、元の位置に戻された。

 ここでヘスティアは、自身が直面している状況が想像以上に拙いものであると認識した。

 

「ひっ?!」

 

正対したその顔は、およそ彼女の知る人間(ヒューマン)のものでも、亜人(デミ・ヒューマン)のものでもなかった。鱗をひん剥いたトカゲのような赤い頭部はグロテスクに側扁しつつも、小さく黄色い両眼を立体視ができるよう正面に向け、唇のない顎に恐ろしげな鋭い歯がずらりと並んでいる。身体は青みを帯びた鱗状の皮膚に覆われ、鳥に似た脚には頑丈そうな鉤爪が備わっている。自分の頭を掴んでいる手も、感触をよく確かめれば指が三本しかないとわかった。

 この人ならざる異形を形容する言葉を、ヘスティアは一つしか知らなかった。

 

「モン…スター…?!」

 

しかし目前の異形は、彼女の口から漏れた言葉に、目の上の隆起を眉の如く下げて訝しげな表情を醸し、

 

「は? 怪物(モンスター)だあ?」

 

その上言葉まで発したのだ。

 

「まあ大気圏突破もできないような文明レベルじゃ、儂らが化け物に見えても仕方なかろうて」

「下手したら宇宙人なんて言葉すら出て来ないかもね」

「レーダーらしき反応がなかったのも頷ける」

ムボウビ(無防備)! ギャハハハハハ!!」

 

異形が手を離し後ろに下がって開けたヘスティアの視界に、別の異形達が続々と現れてくる。灰色と黄色の甲殻に身を包んだ、真っ赤な目をした一体は、その口調と僅かに曲がった腰から老人を思わせる。小さな頭から黄色い鶏冠のような角を一対後方に伸ばした、紫色の皮膚の一体は、軽薄な若者の雰囲気がある。炯々とした眼光のハゲタカに似た頭部を持つ一体は、どこか理知的で堅物そうな印象を受ける。そしてその後ろで笑う、見上げるような体躯の一体は、見た目から想像するより横に潰れたような高めな声をしている。

 ヘスティアは困惑した。

 先程まで感じていたのは、下界に降り神としての力を失って知ることになる死に直結する痛みへの恐怖、二億ヴァリスの莫大な借金を返せないまま天界に還ることになる失意、そして最初のファミリア団員ベルに恩恵を刻んであげることもできず、彼の夢も命と共に潰えるであろうことへの無念。しかし異形達は、自分が知るモンスターの知識に沿わず、攻撃の意思も敵意も見られない。考えてみれば、殺害が目的ならばわざわざ身動きを封じる必要などない筈なのだ。恩恵もない冒険者の卵は勿論、普通の人間と同程度の身体能力しかない自分の首を刎ねるのは訳もないことだろう。

 …否、それ以前の問題だ。オラリオは冒険者の街、外からのものだろうと中からのものだろうと、街にモンスターがいるなら冒険者達は見逃さない。冒険者だらけのこの街を、この異形達はどうやって潜り抜けてきたというのか。

 

「君達は、一体…?」

「まあ待ちなよ、シグノが話すからさ」

「シグノ?」

「俺達の隊長(キャプテン)だ」

「隊長だって?」

 

ヘスティアが異形達に問うた時、奥の扉が開き、更にもう一体の異形が現れた。肩口から後方に張り出した大きな突起のある黒い甲冑を身に纏ったそれは、上半身に比して腰回りが異様に細く、鋭角的なフォルムを形作っていた。頭部をすっぽりと包み込んだ兜のスリットから、まだ目を覚まさないベルを一瞥した後、それは口を(見えなかったが)開いた。

 

「…話はできそうだな」

「シグノや、首尾はどうじゃ?」

「探査ポッドの打ち上げは完了した。セキュリティ状況は追撃警告のないコードブルーのまま、無事逃げ果せたようだ」

「うむ、計算通りじゃったな」

「銀河連邦の勢力圏からも外れてる。こんな辺境じゃ奴さんも気付くめえよ」

「ようやく、か。安心できるのは」

「フリーダム!! フリーダァーーーーームッ!!」

「やったな隊長! 不味い飯からも臭いトイレからもオサラバだ!」

 

 よくわからないが、何か嬉しいことがあったらしい。つられて笑いそうになったヘスティアに、シグノと呼ばれた異形はゆっくりと歩を進め、しゃがんで彼女に目線を合わせた。水色の瞳が、真摯な輝きを持ってヘスティアを射抜く。

 

「手荒な真似をしてすまなかった。俺はシグノ・レイザだ。神ヘスティア、どうしても頼みたいことがある」

「…へ?」

 

 

 

 

 

 惑星SR388の軌道上に浮かぶ大型宇宙船、スペースパイレーツの研究フリゲート艦ポルパラゴムは、ある任務に当たっていた。銀河連邦がバウンティハンターサムス・アランにメトロイドの殲滅を依頼したことを諜報班が突き止め、それを受けた上層部から生きたメトロイドのサンプルを回収してくることを下達されたのだ。

 浮遊生命体『メトロイド』――あらゆる生物に取り付き、生体エネルギーを吸い尽くす。β線を照射するだけで爆発的に増殖するそれは、生体兵器としての素質に富む、恐るべき生物だ。コスモ暦20X5年、惑星SR388で銀河連邦の調査隊が発見したメトロイドをスペースパイレーツは奪取、拠点の一つである要塞惑星ゼーベスに持ち帰り、生体兵器としての利用を目論んだ。しかしその後の銀河連邦の総攻撃こそ退けたものの、ゼーベスに単身潜入してきたサムス・アランの攻撃によって地下要塞は崩落、軌道上で戦火を逃れていた三隻の研究フリゲート艦『オルフェオン』『シラクス』『ポルパラゴム』以外の戦力が全滅した。積載したメトロイドは無事だったが、その後発見した未知の放射性物質『フェイゾン』を巡る事件や、バミューダ星系の惑星タルバニアに設置した研究所を銀河連邦の新兵器『メック』に破壊されたことにより多くのサンプルを紛失、残るメトロイドの遺伝的多様性が損なわれ、研究に支障をきたし始めていた。

 そんな折に、SR388に残った純粋なメトロイドが絶滅させられようとしている――司令部は一体でも多くのメトロイドを回収しようとポルパラゴムを飛ばし、ゼーベス陥落直前に辛くも逃げ延びていた最高司令官リドリーもそれに同行した。だがメトロイドは既に到着していたサムス・アランに悉く殺されて一体たりとも生きたサンプルを回収できず、痺れを切らしたリドリーが直接出向くも、サムス・アランとの交戦に入った旨を伝えて以降連絡が途絶えている。軌道上で降下部隊の帰還を待つポルパラゴム艦内には、焦りと不安が充満していた。

 その時、ポルパラゴムを轟音と強い揺れが襲った。

 

「ッ!? 敵襲か?!」

「いえ、排気シャフトで爆発です! 原因は不明!!」

「すぐに消火に当たれ!! 工作隊を…」

「動力炉に異常発生! エネルギーレベル減少、尚も低下中!」

「セキュリティシステムに侵入者を検知! 隔壁及びエアロックが誤作動しています、解除できません!」

「…ええい糞ッ!! 一体全体何が起きているんだッ!?」

 

ブリッジで艦長が機材に当たり散らすのも無理はない。これらは全て秘密裏に進められた周到な計画によるものだった。たった今起こったトラブルに加え、スペースパイレーツ最高司令官にして最強の個人戦力たるリドリーの不在、ポルパラゴムの遅れで無駄足を踏んだ降下部隊、更に諜報班からの伝達の遅延までもが、たった六人の「裏切り者」に仕組まれたことであるなど、誰が予想できようか。

 その裏切り者達こそ、今まさにこのどさくさに紛れて、ポルパラゴムに搭載された小型宇宙船を奪取しようとしている一団、シグノ・レイザ率いるラムダユニットであった。ラムダユニットは、実力はあるが扱い難いパイレーツの余計者をシグノ一人に押し付けた、言うなれば窓際族だ。しかしこの地位こそ、彼らが計画を実行に移す上で最も慎重に動いて手に入れた隠れ蓑なのだ。彼らの目的は唯一つ、パイレーツから離反し、銀河連邦の目も届かない場所で自由に生きること。

 警報音が鳴り響く中、シグノはドックに侵入してくる者がいないことを確認すると、脱走に使う小型宇宙船に乗り込んだ。船内には既に、自分と志を共にする五人の仲間達が待っていた。

 

「待たせたな」

「遅えぞシグノ! さっさとブースター噴かして出そうかと思ったぜ」

 

赤い頭部のトカゲのようなエイリアンが、シグノに真っ先に声をかけた。レクタン・ギューラー――ラムダユニット所属の軍曹で、ポルパラゴムの到着を遅らせるべく、銀河連邦のパトロール部隊との戦闘を長引かせた下手人だ。

 

「隔壁が降りているとはいえ、単独で長居は禁物だぞ。自らの危険を計算せずに作戦成功に拘り過ぎる…お前の悪い癖だ」

 

ハゲタカのようなエイリアンが、シグノに説教を垂れる。グロブ・リム――ラムダユニット所属の伍長で、彼は連邦のメトロイド殲滅指令の情報を遅らせるべく、諜報班のメンバーを暗殺し、通信を妨害していた。

 

「ドッカーン! ドッカーン!! フゥーーーーーッ!!」

「はいはい、楽しいのはわかったから…こっちの仕事は上手くいったよ。奴らてんてこ舞いさ」

 

大小対照的な体格の、紫色の皮膚をした二人のエイリアンが、シグノに戦果を自慢する。雄叫びを上げているのがテリジン・サロス、それを宥めているのがジェイクス・ニコラウド――それぞれ砲手と通信担当であり、排気シャフトの爆発と動力炉の異常を引き起こした張本人である。

 

「ふぉふぉふぉ、若いのの無茶に付き合うのも、この老いぼれの楽しみじゃて。長生きはするもんじゃな」

 

灰色と黄色の甲殻を持つエイリアンが、真っ赤な目を細めて笑う。カジ・ヤマノ――ラムダユニットお抱えの科学者で、セキュリティシステムをクラックし隔壁とエアロックを誤作動させ、彼らの脱走の安全を確保、時間を稼いだ立役者。

 ちなみにシグノは、リドリーを()()()()()()()為に一芝居打った。サムス・アランとリドリーとの因縁は、その真相を知る者は最早パイレーツにはリドリーしかいないが、先のゼーベスでの戦いで瀕死の重傷を負わされたリドリーが復讐に燃えている――事実嫌っていた筈のサイボーグ化を自身に施してまで戦線復帰している――ことから、様々な憶測が飛び交っていた。ラムダユニットに配属される以前はコマンド部隊の一員だったシグノはリドリーに接近する機会もそれなりに多く、「サムス・アランを放置していていいのか」と、リドリーを焚きつけたのだ。

 

 「ここまで俺についてきてくれたこと、心から感謝する」

「おいおい、それはまだ言わない約束だぜ?」

「そうそう、その言葉は安全圏に逃げ延びてからだよ隊長!」

「まだ油断はできん。乗ったなら急ぐべきだぞ、シグノ」

「お前さん本当に心配しいじゃのう…」

「エスケープ…ナウ!!」

 

閑職であるラムダユニットにチームでの実戦経験は少ない。そしてこれ以降司令部から命令を受けて動くこともなくなる。計画が最終段階に入り、シグノは不可思議な高揚感を覚えていた。

 

「…総員配置に着くんだ。ハッチを破壊して脱出する。発砲と同時にエンジン全開!!」

 

 コスモ暦20X7年。スペースパイレーツの一部隊『ラムダユニット』が反旗を翻し、研究フリゲート艦ポルパラゴムから脱走した。脱走と同時に多数の武器兵器、研究用機材、資材を奪取していった彼らを捕らえるべく追跡隊が組織されたが、盗品の一つである改造ワープデバイスを使われて捜索網から外れ、追跡は打ち切られた。メトロイドの回収が第一の目的であったポルパラゴムは、出世に無縁なラムダユニットよりも満身創痍の最高司令官リドリーを回収することを優先したのだ。

 この奇妙な事件は、銀河社会の歴史の中では一瞬の星の瞬きに過ぎず、人々の記憶に埋もれていくこととなる。ラムダユニットが、銀河連邦の勢力圏外に存在する辺境の惑星『TX149』に不時着する0.1サイクル前の出来事であった。




歯車の咆哮第一章が完結した後、次の話を書き始めたのですが、ダンまちに興味を持ったビツケンヌの中にむくむくと書きたい欲が沸き起こって、思わず書いてしまいました。

半年程前のヒロアカ二次同様wikiと二次創作の知識だけで大好きなメトロイドとクロスさせています。可能であれば原作を買って読んでみたいですね。
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