ダンジョンに間違えて宇宙海賊がやってきた   作:影のビツケンヌ

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Action

 「光学迷彩なしで出歩くなんざ久し振りだなぁ、シグノ」

「姿を隠していることには変わりないがな」

「気温は低くない。白昼からこんな恰好をしていれば、奇異の目で見られるのは当然だ」

「この視線が敵視に変わらなければいいがのう」

「ウーン…アー…」

「何だよテリジン、もう暑いの? 辛抱しろよ、俺だって…」

「……」

 

ベル・クラネルは冒険者ギルドへの道を重い足取りで歩きながら、自分の後ろをついてくる六人の『宇宙人(エイリアン)』が昨夜話した、ヘスティアへの頼み事を思い出していた。

 それは一言で言えば、「自分達をヘスティア・ファミリアの団員とし、冒険者として登録したい」というもの。彼らはこのオラリオの地下、即ち迷宮から莫大な力を感知し、それを得て自分達の生活の糧としたいのだという。この星の外から来た彼らはいわば移民に等しく、職もなければ金もない。

 

「宇宙…か」

 

そもそもの話からして、ベルの理解を超えていた。彼にとっての世界の全ては自分の生きるこの大地、この星のみであり、他の星に生き物が住んでいるなどとは考えもしなかった。それが彼らにとっての世界は、星々を跨いだ連邦国家と、単なる海賊の域を超えた巨大犯罪組織との戦いが日夜繰り広げられる広大な宇宙なのだ。何も知らずに地面を這いずり回るこの星の住民の、何と惨めで愚かなことか。幸か不幸か、この星――惑星TX149は、彼らのいた宙域から遠く離れている為、その争いが飛び火してくることはまずありえないそうだ。

 彼らは元宇宙海賊。詳細は省かれたが、各々に色々な事情があって揃って組織を離反し、この星に流れ着いたらしい。既にベル同様ヘスティアに恩恵を貰い、それぞれの名も聞いている。

 

「しかし…単一の惑星だというのに、ここまで多くの種族がいるのは珍しいな」

 

キャプテン、シグノ・レイザ。

 

「わかるのか? 俺にはさっぱりだぜ」

 

軍曹、レクタン・ギューラー。

 

「同じ惑星の知的生命体だ、似ていても不思議はないだろう」

 

伍長、グロブ・リム。

 

「オー…ベッピーン…!」

 

砲手、テリジン・サロス。

 

「急に元気になったかと思えば…ナンパなんてしてる暇ないよ。…俺もしたいけど」

 

通信担当、ジェイクス・ニコラウド。

 

「なるほど、予想はしていたが、やはり大気や土壌の組成は原地球と同じなようじゃな…」

 

科学者、カジ・ヤマノ。

 今は皆全身をすっぽりと覆い隠す分厚いローブ――ヘスティアが別ファミリアの神に「新しい団員の()()()()()()()()()()()を隠す為に一日だけ貸して欲しい」と頼み込んで手に入れたもの――を身に纏っているが、ベルも初めて彼らを目にした時には肝を潰した。別の星の住人故この星の常識が通用しないことは頭ではわかっていたが、実際に恩恵を刻みステイタスを見るまでモンスターなのではと疑っていた程だ。尤も、彼らがモンスターだとしても、知能を持ったモンスターなど聞いたこともないが。

 しかし隠せているのは見てくればかりで、彼らが人目を憚る様子もなく会話しているのもあり、その存在感は全くといっていい位に隠蔽できていない。彼らの冒険者登録が成功するか否かで重かったベルの足取りは、一刻も早くギルドに到着して周囲の視線から逃れたいという思いから速くなり始めた。

 

 

 

 

 

 「あの、ごめんなさい。それ、あと六枚貰えますか?」

 

ギルドに到着した一行は、ベルを先頭にしてとあるカウンターに並んでいた。受付を担当していた茶髪のエルフの女性は、訝しげにベルの顔を覗き込んだ。

 

「六枚?」

「ええ…後ろの人達に、代筆を頼まれまして。同じファミリアの同期なんですが、字の読み書きに不自由があるんです」

 

予め用意しておいた台詞と共に、ベルは後方に佇むシグノ達を指した。

 半分は嘘…否、今となっては全くの出鱈目である。昨夜までは「言語に関する情報収集が不十分だった」らしく、彼らの共通語には書き言葉に不自然な点が散見されたが、今朝の時点で既に改善されていた。代筆の真の理由は、少なくとも登録が完了するまでは、申請用紙に必要事項を記入する彼らの手を見せる訳にはいかなかったからである。問題は書いた後だが、今はできれば考えたくない。

 受け取った紙に、まず自分の情報を記入していく。氏名、ベル・クラネル。年齢、十四歳。種族、ヒューマン。レベル、1。所属、ヘスティア・ファミリア。

 

「…ん?」

 

そういえば、と。ベルは思い出したように振り返り、シグノに問うた。

 

「シグノさん」

「どうした?」

「あの…シグノさん達の種族って、なんて書けば…」

 

そう、ベルは個性豊かな彼らの種族が何なのかについて、昨夜聞きそびれていたのだ。登録に恐らく必要な項目だろうと考えていたが、あまりに衝撃的な体験からくる心労で、ベルは椅子に拘束されたままの姿勢で眠ってしまった(そのせいで今も若干首と尻が痛む)。

 問われた時、フードの下のシグノの灰色の顔――兜を脱いだ彼の顔が、彼ら六人の中で一番この星の住民に近い見た目だった――は虚を突かれた様子だった。そのまま腕を組み、彼はその場で考え込んでしまう。

 

「種族だ?」

「そんなものは考えたこともなかったな」

「必要もなかったからの」

「シラネ」

「書かなきゃいけないのかい、それ?」

 

シグノの後ろにいた者達の反応からして、彼らは自分の種族が何なのかについてまるで知らないようだった。種族の違いで争いにもなりうると知るベルにとって、それは考えられないことであった。その欄だけ空けたり「不明」と書く訳にもいくまい。

 

「…ゼーベス星人(ゼーベシアン)でいいだろう」

「そうだな隊長、それでいいや」

「ああ、それで事足りる」

「他に名乗ることもねえだろ」

「アグリー!」

「一緒くたで構わんよ」

 

半ば投げやりなシグノの返答。それに仲間達が次々に賛同する。本当にそれでいいものかとは思ったが、彼らもそれ以外に思いつくものがないらしい。仕方なく、ベルは彼ら全員の種族欄に「ゼーベシアン」と記した。共通する項目は先に書いたから、あとは順番に年齢を埋めていくだけだ。シグノは二十歳、レクタンは二十二歳、グロブは三十歳、テリジンは十九歳、ジェイクスは十七歳、カジは七十五歳。こうして見ると、カジだけが突出して高齢のようだが、それぞれの個性がうまく調和している。彼らがチームだというのも頷ける話だ。

 

 「ヘスティア・ファミリアにゼーベシアン…聞いたことないわね…」

「ファミリアの方は、立ち上げたばかりなんです。僕らが最初の眷属みたいでして…それと彼らの種族なんですが…」

「…出自がはっきりしなくてな。育った土地から取った仮の種族名だが、気にしないでくれ」

 

ベルの説明をシグノが引き継ぐと、そうなんですか、と女性。シグノの顔はよく見えなかったようで、ベルが危惧するような反応はなかった。せいぜい彼らのレベルが2であることに少し驚いたような顔を見せた位か――昨日恩恵を与えたヘスティアも不思議がっていた。普通レベルは1から始まるもので、それ以前に余程の偉業を成し遂げていない限りはいきなり2以上ということはないのだ。これに関してシグノは心当たりがあるようだったが、詳しくは聞けていない。

 

「…わかりました。これよりヒューマンベル・クラネル、ゼーベシアンシグノ・レイザ、レクタン・ギューラー、グロブ・リム、テリジン・サロス、ジェイクス・ニコラウド、カジ・ヤマノの七名をオラリオの冒険者として登録します。よろしいですか?」

「はい!」

「ああ」

「おう!」

「うむ」

「イエス!」

「へい!」

「よかろうとも」

 

ダンジョンに‘女の子との出会い’を求めている自分の動機が不純なものだというのは承知の上だが、こういった違う意味での‘出会い’もいいものだと、ベルはそう考えた。初めは団員が自分一人だということに寂しさを覚えていたが、宇宙人とはいえ同じファミリアの仲間(同期)が一度に六人もできたのだ。これが嬉しくない筈はない。問題があるとすれば、彼らをどうやってモンスターでないと説明するかということか――

 

「それじゃあ――」

「よーし、もうこれは必要ねえな!!」

「あ、ちょっ――」

 

 完全に不意を突かれた。レクタンの一声で、シグノ達全員がばさりとローブを脱ぎ捨てたのだ。当然それはヘスティア曰く「この世のものとは思えない」彼らの異形を衆目に晒すことになり、

 

「モンスターっ!?」

「いつの間にこんなところに?!」

「やべえ武器持ってねえぞ俺!」

 

周囲の冒険者達の敵意が一斉にこちらに向けられることとなった。至近距離でレクタンの顔を見てしまった受付の女性は卒倒し、泡を吹いて失神している。

 

「ななな何してるんですか皆さん?!」

「どうせ冒険者としてやっていくんだ、どんなに正体を隠したってバレる日が来る」

「なら始めからこの街の全ての冒険者に俺達のことを知っておいて貰おうと、そういう寸法さ」

「我ながら乱暴なやり口だが…一番確実だと、俺は判断した」

 

うろたえるベルが問えば、レクタン、ジェイクス、グロブが順に説明する。どうやら立案したのは気に食わない様子のグロブであるらしい。受付に置かれた登録用紙をひったくったシグノが前に出、それを突き出して咆えた。

 

 「聞けッ!! 俺達は『ラムダユニット』。遥かな宇宙よりこの惑星(ほし)に降り立ち、たった今ヘスティア・ファミリアに属するオラリオの冒険者となった‘宇宙人(エイリアン)’だ!!」

 

各々の武器を構えていた冒険者達の間に、どよめきが広がった。

 

「既に神ヘスティアから恩恵も賜り、数日以内には神々の間で会議が催されるだろう。よって俺達への攻撃は、ヘスティア・ファミリアへの攻撃も同義と思え!!」

 

 シグノから発せられる気迫で、ベルの思考は何とか平静に戻ることができた。

 確かに、この‘作戦’は大胆不敵だが効率的で効果的だ。彼らが幾らこの星のものとは比べ物にならない技術力を持っていたとしても、ダンジョンで活動する以上他の冒険者と鉢合わせる可能性は否めない。たとえ姿を見られずとも、どこからか妙な噂が流れ、彼らの行動範囲が狭くなってしまうだろう。かといって冒険者になる前からオープンに姿を見せていては、容姿を始め絶望的なまでにこの星の住人と共通点のない彼らの話は耳に届かず、モンスターだと断じられて迫害され続けるに違いない。正体を明かすのは今この瞬間、まさにオラリオの冒険者となった時が相応しいのだ。たとえどんな異形でも、神の後ろ盾と同じ冒険者という大義名分が、冒険者達に攻撃を躊躇わせる格好の材料になる。

 物凄いのと仲間になった、とは思っていたが、想像以上にとんでもなかった。

 

 「少し、いいか?」

 

すると、奥の席に座っていた緑髪のエルフの女性が立ち上がり、ゆったりとした歩調でシグノの前に出た。シグノは登録用紙を下ろし、レクタン達はベルを守るように左右にバラける。

 

「私はリヴェリア・リヨス・アールヴ。ロキ・ファミリアの副団長だ」

「ラムダユニットキャプテン、シグノ・レイザだ。…して、何だ?」

 

ロキ・ファミリア。ベルが門前払いを食らった大手派閥の一つだ。そこの副団長ともあろう人物が何故一人でここにいるのかはわからないが、種族的に魔法に秀でたエルフの一級冒険者ともなれば、相当に強力な魔法使いであると見える。わざわざ前に出るのは、その自信の表れか。

 

()()()、と言ったな」

「その通りだ」

「モンスター、ではないのだな?」

「…確かめてみるか?」

「何…?」

「モンスターは‘魔石’を核としているんだろう? 俺がモンスターなら、俺の腹を掻っ捌けば、それが出てくる筈だ。だがもし出てこないなら…お前は同じ‘冒険者’を殺したことになる」

 

ベルの位置からでも、大きく裂けたシグノの口角が吊り上がっているのが見えた。あの笑みは、勝ち誇った嘲りと挑発の笑みだ。リヴェリアと名乗った女性は、苦々しげに顔を顰めている。

 

 「尤も、抵抗はするぞ。俺達なら、この場にいる程度の人数位、瞬きする間に皆殺しにできる」

 

次の瞬間、シグノ達は淡い緑色の光に包まれた。光が消えて現れたのは、奇妙な鎧を纏った彼らの姿だった。

 シグノは昨夜ベルとヘスティアに見せていた、肩口から後方に張り出した大きな突起のある黒い甲冑。

 レクタンは厭にギラギラと輝く、炎のような山吹色の装甲。

 グロブはエメラルドでできた植物とでも形容すべき、精緻な碧色の装甲。

 テリジンは胸と両手足のプロテクターの他に、幾つもの砲が一際目立つ箱のようなものを背負い。

 ジェイクスは灰色の甲冑よりも、放射状の赤い模様のある透明な二つの盾の方が目立ち。

 カジは鳥のような足を持った箱型の何かに、馬に跨るような恰好で乗り込んでいる。

 

 「……っ!?」

 

リヴェリアの反応が、他の全ての冒険者達の心情を代弁していた。自分の理解の及ばないものを見せられた――全くに未知の存在を見た彼女の顔は、驚愕のあまり硬直していた。それを見ていた、ベルもまた然り。

 

「ふぉふぉふぉ、まあ驚くのも無理はあるまいて。我が発明の最高傑作『量子変換装置(クォンタム・シフター)』を見せつけられてはのお」

 

自慢げに嗤うカジ。シグノの話では、この老人がいなければこの星に辿り着くことはおろか、宇宙海賊からの離反の為の計画すら立ち行かなかったという。たった今六人が使用した、‘虚数空間に物体を出し入れする’装置――話だけは少し聞いていた――も、彼らの逃避行を強力にサポートした代物だ。

 最早誰も動く者がいないかに見えたところで、鼻を鳴らしたシグノが六人に手だけで合図を送った。それに合わせて六人が一様に背を向け、ギルドの出口に歩を進める。数拍遅れて、ベルもそれに続き、

 

「宇宙人だか何だか知らねえが!」

「化け物には違いねえ!!」

「人でもねえくせに一丁前に冒険者名乗りやがって!!」

「「「死ねヒトモドキ!!」」」

 

六人の冒険者が、彼らの背後から踊りかかった。

 

「え――」

 

 反応は早かった。早過ぎた。

 シグノの甲冑の後背部がカッと光ったかと思えば、目にも留まらぬ速さで冒険者の背後に回り、右前腕に取り付けられた箱型の何かから伸びた光の刃で冒険者を斬り裂き。

 レクタンの山吹色の装甲に、冒険者の振るった剣が鞠の如く弾かれ、振り向いたレクタンの足で空中高く打ち上げられた冒険者に怒涛の拳打が炸裂し。

 グロブはゆらりと跳躍、宙で逆さまになって背後の冒険者の真上に躍り出、冒険者の頭を手で捻りながら更に上昇、下降と同時に手に持った武器から無数の光弾を撃ち出し。

 テリジンはその豪腕で冒険者を事もなげに掴んで床に叩き付け、つんのめりながら逃げ出す冒険者に砲で容赦なく追撃して不気味な高笑いを上げ。

 ジェイクスの持つ二つの盾は高速回転しながら冒険者の槍を弾き飛ばし、片方の盾を接地して繰り出したラリアットで冒険者を錐もみ状に回転させながら吹き飛ばし。

 カジ駆る箱型のそれは華麗なステップで両手棍の重撃を回避し、冒険者の胸に豪快な浴びせ蹴りを見舞った後、下部に装備した爪のようなものから電撃を放った。

 

 「なっ…」

「一つ、言っておくぞ」

 

一瞬の殺陣にベルが圧倒され、リヴェリアが声を漏らした。放たれたシグノの言葉は、酷く冷徹なものだった。

 

「神だろうとモンスターだろうと、俺達にはこの星の原住生命体の一種に過ぎん。文句があるなら、宇宙に上がってから言うんだな」

 

 

 

 

 

 この一連の出来事の翌日、緊急に開かれた神会(デナトゥス)で、シグノ達ラムダユニットの存在が公式にオラリオの神々の元に晒された。ヘスティアが実際に彼らの魂を視たことで、嘘偽りなく彼らが宇宙からの移民であることが示され、モンスターとして討伐される最悪の展開は未然に防がれた。

 何名かの冒険者が攻撃を仕掛けたことについては、シグノ達が始めからレベル2であること、ひいては彼らが襲撃者を返り討ちにしたことに話題がすり替わり(襲撃者全員が五体満足で生存していた為か、所属ファミリアがどこかはついぞ追及されなかった)、殆どその場のノリで彼らの二つ名が決められた。

 『鬼道猟兵(コマンドー)』シグノ・レイザ。

 『警告色(オレンジレンジ)』レクタン・ギューラー。

 『碧羅(グリーンアームズ)』グロブ・リム。

 『轟砲(ギガブラスター)』テリジン・サロス。

 『双旋盾(ダブルヘリックス)』ジェイクス・ニコラウド。

 『天災(スペックノーツ)』カジ・ヤマノ。

 異物ともいえる彼らは、娯楽を求める神の性質のお陰で排斥されずに済んだ。

 今後も神を楽しませることさえできれば、彼らの生活は安泰だろう。尚、

 

「さて、派手に宣伝した後は、冒険者としての門出を祝って呑みにでも行くか!」

 

 ――ヘスティアが抱える二億ヴァリスの借金を、彼らはまだ知らない。




ラムダユニットの容姿については以下のものを想定しています。

シグノ:プライム2のコマンドパイレーツ
レクタン:重装パイレーツ
グロブ:特装パイレーツ(中身はプライム1のフライングパイレーツ)
テリジン:エリートパイレーツ
ジェイクス:プライム1の一般兵にプライム3の盾
カジ:フェデレーションフォースの一般兵


スキル等は次回以降明かしていきます。
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