本当は協会のシーンまでの予定でしたが、状況説明シーンがやたら長くなるのでここで切りました。
今回はすごくつまらない回です。
「ブレ…イド…?」
驚くしかない俺を見て、現れた少女はなお凛として言った。
「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。問おう、あなたが私のマスターか」
セイバー?マスター?なんなんだ?
俺が状況を飲み込めずにいると、ズキッ、と右手の甲が痛んだ。見ると血のように赤い紋章が浮かび上がっていた。
これは、俺(ジョーカー)の紋章?
それは、かつてデータで見た、俺(ジョーカー)のラウズカードの絵柄そのものだった。
なぜこんなものが…と考える余裕もなく、目の前の少女が口を開く。
「これより私の剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。ここに契約は完了した」
セイバーと名乗る少女は一方的にそう告げると、蔵の入り口で呆然としている男に飛び掛かっていった。そして男も外まで飛びずさり、戦いが始まった。
ガキッ!ガジャン!
少女は、男の繰り出す槍を見えない剣のような武器でさばいていた。遠目に見ても分かる、どちらもすさまじい戦闘技術だ。
「は、始!大丈夫?」
駆け寄ってきた虎太郎に肩を貸され、俺は立ち上がり蔵の入り口まで歩いた。
「始、あれは…」
「俺にも分からん…」
戦闘は徐々にヒートアップしていく。
「テメェ…!卑怯者め!自らの武器を隠すとは何事だ!」
「………」
男が怒気を孕んだ声で叫ぶが、少女は答えない。
バキッ!…バッ!
唐突に男が飛びずさり、少女と距離を取る。
「どうしたランサー。止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらが来ないのなら私が行く」
少女は、挑発するように言った。
「一つ聞く。お前のその武器は何だ?」
ランサーと言われた男はあくまで冷静に返す。
「さぁ、剣か槍剣か戦斧か…もしかすると弓かもしれんぞ。ランサー」
少女はとぼけるように答える。
「へっ、ぬかせ…なぁ、お互いに初見だ。ここらで分けといかねーか?」
「断る!あなたはここで倒れろ。ランサー」
男の誘いを断り、少女は剣を構えなおした。
「そうかよ…こっちの目的は元々様子見だったんだがな…」
そう言うと、男は槍を深く構えた。
「その心臓もらい受ける!」
その言葉とともに男の視線が一層鋭くなる。そして紅い槍が鈍く光りだした。
先ほどまでとは比べ物にならないほどのエネルギーを感じ、俺も思わず身構える。
「宝具っ…⁉」
少女も危険性を感知し、身構える。
「受けろ!『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』!」
その言葉に反応し、槍の鈍い光は閃光となり、夜の闇を切り裂いた。
少女は身を翻すも、その槍の先端はその白銀の鎧を貫き、中の肉を抉った。それでも何とか致命傷を避け、少女は飛び退いた。
「…躱したな…わが必殺の一撃を…!」
男は、渾身の一撃を躱され、強烈な怒気を放つ。
「ゲイ・ボルグ…御身はアイルランドの光の御子か!」
少女には男の正体が分かったようだ。
「…フッ、ドジったぜ。これを出すからには必殺でなけりゃならねーのに…」
正体を言い当てられたせいなのか、怒気を解く男。
「チッ、悪いがクライアントから撤退命令が出た。この勝負は預けるぜ」
そう言ったかと思うと男は近くの屋根まで飛び、姿を消した。
「クッ、逃げたか…」
その後も少女は警戒を解かず、屋敷の外を見つめる。
「お前はいったい…?」
俺は、貫かれた肩を庇いながら虎太郎の前へ出て問う。少女はすぐに視線を向け、肩の血を一瞬凝視して、それから今は気にしないというような表情で、
「だからセイバーのサーヴァントです。なので私のことはセイバーと」
少女は再び自分はセイバーだと名乗る。その真っ直ぐに見つめてきた瞳に俺も、
「…俺は…相川始だ…」
反射的に答えてしまった。似ているのか?あいつに…
「アイカワハジメ…では、あなたのことはハジメと…」
セイバーは一人納得してうなずく。
しかし、俺の疑問はほとんど解消されない。
「おい、俺が知りたいのはそんなことじゃ…」
と言いかけたところで、
「警戒せずとも大丈夫です。契約した以上、私は貴方の僕です。貴方を裏切ることはありません」
そのセイバーはきっぱりと言い切った。
とりあえず、さっきは助けてくれたから敵ではないのか…
そう思い、俺は彼女への警戒を緩めた。
「敵でないことは分かった。だが説明しろ、俺はマスターだのサーヴァントだののことは全く分からない」
俺に顔を見て少しは事情を悟ったのか、彼女は圧迫感を弱めて答えた。
「分かっています。貴方は正規のマスターでは無いのでしょう。ですが今は先に敵を迎撃しなければ」
敵、という言葉を聞き俺の神経が再び強張る。確かに塀の外に気配を感じる。
塀の外に二つ…
バッ!
有無を言わせず、彼女は外に駆け出した。
「おい!待て!」
俺も追いかける。
すでに戦いは始まっていた。外には先ほどの赤い男と少女がいて、驚いたような顔をした。セイバーは、その勢いのまま赤い男に切りかかる。男も反応して双剣を出現させ受け止めようとするが、見えない刃は双剣をたやすく砕き男を切り付ける。
「消えなさい!アーチャー!」
男の後方にいる少女がそう叫ぶと、赤い男はセイバーをすり抜けるように消えた。しかしなおセイバーは止まらない。
「なめるな!」
赤い少女は飛びずさりながら、宝石を投げる。投げられた宝石は光りを放ちスパークする。しかし、セイバーには全く効果が無いようで意にも介さず近づき、腕を振り上げる。
「ウソ…」
振り下ろされた武器を少女は横倒れして何とか躱す。そして尻餅をつき、その鼻先にセイバーの武器が突き付けられた。
「今のは見事だった魔術師(メイガス)。だが最期だ、アーチャーのマスター」
そう言い放ち武器を振り上げる。
「おい、やめろ!」
その言葉は自然に出てきた。
どんな人間でも死なせたくない。俺はもう、直感的にそう思えるようになっていた。
「ですがマスター。敵のマスターは排除しておかなくては」
セイバーは苛立ちの混ざった視線を向けてくる。
「俺は、お前たちの事情など知らん。だが人間が殺されていい理由などそうないだろう…それにその娘にはさっき助けてもらった。そんな人間をそう簡単に死なせてたまるか」
人間として一つの命でも失いたくないと思う。あいつが教えてくれたその気持ちはすでに俺の中で確かなものになっていた。
「あなたのマスターはああ言ってるけど、この剣は下げてくれないのかしら」
少女はどこか落ち着きを孕んだ声で聞いた。
「クッ…分かりました」
そんな俺の意思を感じ取ってくれたのか、セイバーはしぶしぶ引いた。
「大丈夫か?」
俺は倒れた少女に歩み寄る。
「え、ええ、何とか…」
立ち上がろうとした少女の視線が俺の方の傷の方に向くのが分かった。
「この血のことは今は気にしないでくれ、話すと長くなる」
そう弁解しながら、刺されていない右腕を彼女に差し出した。
「そ、そうなの…」
少女は戸惑いながらも俺の手をつかみ立ち上がる。そして一歩下がって言った。
「とにかく自己紹介からかしら。私は遠坂凛、魔術師よ。名前は好きに呼んでいいわ」
魔術師だと?まぁ、吸血鬼の化け物や妖怪がいるんだ魔法ぐらいあってもおかしくないが…ん?この子見たことがある気がする…ああ、そうか時々ハカランダに来る娘だ。
「なぁ、君、ハカランダという店に来たことはないか?」
「ハカランダってあの喫茶店の…あ!あの店の従業員!」
なんだ、俺の事覚えてるのか。俺は印象に残りにくいタイプだと思うのだが。
俺のそんな疑問をよそに
「ともかくあなた名前は?」
と遠坂凛は続けた。
相手が名乗ってくれたんだ。こちらも名乗って問題ないだろう。
「…俺は相川始だ。後ろのこいつは白井虎太郎」
危険が去ったと分かり、虎太郎も塀の外に出ていた。
「そう、相川始ね。いろいろ聞きたいことはあるけど、まずは礼を言うわ。助けてくれてありがとう」
遠坂は落ち着いた声で言った。
「礼を言われるようなことはしていない。それに君には借りがある」
「………」
彼女は少し考えるようなしぐさをしてから口を開いた。
「ねぇ、こっちの事情を知らないって言ってたけど、まさかあなた、魔術師じゃないの?」
魔術師、よくおとぎ話に出てくるあれか?じゃあ、さっきの宝石は魔法なのか?
「えっ⁉君、魔術師なの⁉じゃあ、さっきのあれが魔法なの⁉やっぱり呪文とか唱えたりするかな?」
俺のすぐ後ろまで近づいていた虎太郎が未知への好奇心を押さえられず口をはさんできた。
「………」
当の彼女は、少し引いているようだ。
「ね?ね?どうな「お前は黙ってろ」…ハイ…」
切りがないのでとりあえず黙らせる。
俺の方は、自分自身それこそ冗談みたいな存在なので、そんな突拍子もないものも冷静に受け入れることができた。
「君の言う魔術師というものがどういうものを指すのかは知らんが、俺はそんなものではない」
言った瞬間遠坂の顔から余裕というものが一気に消える。
「ほ、ホントなの⁉まさか聖杯戦争自体を知らないとか言わないわよね…」
聖杯、引っかかる言葉だがそんなものは知らんな。
「いや、やはり分からない」
「で、でも礼呪があるってことはサーヴァントと契約したってことよね、魔術師でないのにそんなこと…」
呆然とした顔で彼女はそう言うと、俺の横で何も言わず佇んでいたセイバーに視線を向けた。そしてその視線の意図に気づきセイバーも口を開く。
「はい、私は確かにハジメをマスターとして召喚されています。それはそうとハジメ、肩の傷は大丈夫なのですか?」
心から心配しているようなそんな声音だった。
「こんな傷、数時間あれば治る」
引き寄せる夜の風は冷たかったが気にはならない。血が足りないのは少し問題だが…
「え、大丈夫なの?」
遠坂はさらに困惑した表情を浮かべる。
「俺の傷は気にするな。俺は今何より状況が知りたい」
…召喚…契約…マスターとは主の事か?
今まで出てきた単語と、人間をより知るために今までに多少読んだフィクション小説で得た単語を照らし合わせ俺はその結論に至った。
「ねぇ、あなた、せめてある程度特殊な人間ではあるのよね。その血といい、その落ち着きようといい…」
遠坂は、もはやすがるような声で聞いてきた。
俺も一瞬戸惑ったが、血を見られてしまったからにはある程度説明は必要だと思い、認めることにした。
「ああ、特殊ではあるな…」
人間ではないが…
「そう、なら、まだ対応の余地はあるわね…」
そう言って遠坂は、やっと元の余裕のある顔に戻った。
「ねぇ、一度私の家に来ない?」
少し間をあけて彼女は言った。
「何故だ?」
「いろいろ事情を話すにしても外じゃあれでしょ。それにその傷もなんとかしなきゃだし」
なるほど、悪い話ではないな。しかし…
「それはいいが少し待ってくれ。さっき一人仲間を呼んだ。先に合流したい」
そう言うと彼女は警戒するに目を細め、
「その人、あなたの特殊な事情の関係者?」
と聞いてきた。
「ああ、そうだ」
そう答えると彼女はまた少し考え…
「どうして?家で合流すればいいじゃない」
「それは俺が君やそこにいる彼女をまだ完全に信用しきっていないからだ」
横にいるセイバーに目線を向けつつ、俺は正直に答えた。
二人とも少し目を鋭くした。
「信用できないのは分かるけどすぐに屋敷に向かった方が安全じゃない?」
こう遠坂が答えると、
「信用していただけていないのは心外ですが待ってくださいマスター。魔術師の工房はその者の城、敵の胎の中に入っていくようなものです。危険すぎます」
と反論したのはセイバーだった。
そういうものなのか?魔術師について何も知らないので何とも言えん。
「はぁ、ま、一般の魔術師にとってそういう場所であることは否定しないけど、少なくとも今敵対するつもりはないわ」
遠坂は筋の通った受け答えをしてくる。
まぁ、こちらから似ても敵対する意思は感じられんが不確定要素が多すぎるな…
「そうか…分かった。仲間はもう少しでここへ来る。そいつと合流してから君の家へ向かう」
総合的に考えてやはりそれが一番妥当だと思った。
「ハジメ、やはり魔術師の工房へ向かうのは危険です。話し合いをするにしても、別の場所で試みるべきかと」
セイバーは重ねて反対してくる。
「俺の仲間は武器を持ってきている。それを早く受け取りたい。それがあれば行動の自由度は上がるからな」
武器という表現を聞いたことで遠坂の顔が一層強張る。
「それどういうもの?それも特殊な事情に関係あるの?」
「ああ、落ち着けば逐一話していい、だが今は待て…」
虎太郎のせいでライダーのことは世間に知れわたっている。隠す意味がない。
「ま、分かったわ。言っとくけどサーヴァントというものは拳銃程度で倒せる相手ではないわよ?それでも合流が先?」
「その男が持ってくるのは強力な武器だ。だが無論君が敵意を持たない限り使う気はない」
遠坂は動じない俺を見てついに折れた。
「その武器の事を含めて教えてくれるの?」
俺は静かにうなずいた。
「なら、少し待ちましょう」
彼女もうなずき返す。
「で、お前はどうする?」
また俺はセイバーを見やる。
「武器を確保するのは賛成です。ですから拒否はしません」
と淡々と言ったので、話はまとまったようだ。
状況がほとんど動いてませんね。
次の話はバトルファイトと聖杯戦争への長たらしい説明回になる予定なので期待しないでください。
ああ、ライダーの戦闘を早く書きたい…
キャラがブレブレです。そこらへん含め感想を頂けると幸いです。