超次元ゲイムネプテューヌ ~殺し屋の異世界見聞録~ 作:鉄の字
「俺、参上!!!(ビシッ!」
俺こと漆谷進はネプちゃん達と合流する為に壁を粉砕、玉砕、大喝采しながら突き進み見事合流したんだが………………
「「「「………………」」」」
「…………………」
何ぞ、この湿気た空気。
「「「「……………………」」」」
「…………………」
「「「「……………………」」」」
「分かった。変な空気になったのは謝るからそんなゴミ溜めに集まるカラスを見る目をやめてね」
ちょっと壁壊しが楽しかったから気分がハイになっただけじゃないっすか!
23歳でもはしゃぎたい時だってあるんですよっ!!
俺の謝罪が効いたか、それとも哀れんだか目の前の少女はコホン!とわざとらしく咳をする。
「あなた、本当に規格外ね。まさか壁を破ってくるなんて……………」
「言っとくが人外なんて呼ばないでくれよ?これでもれっきとした人間だから。じゃないとガチで傷つく」
「どう見ても百人中百人はあなたの行動を見て人外と呼ぶと思うけど。それよりもそこをどいてくれないかしら?」
「ククク、折角昨日逃がした獲物が目の前にいるのに逃がす猟師がいるのか?」
「それも………………確かにそうねっ!」
少女は一気に俺に詰め、剣を振り下ろす。
だが、俺は刀も銃も抜かず、避けようともしない。
いや、“避けなくて”いい。
「…………………っ」
剣は俺の頭に当たる数センチの所で止まった。
「おい、ガキ」
「ーーーー!?」
殺気を体から滲み出して少女を睨みつける。
こいつには闘気を感じない。
何だ、こいつ。
昨日はボコボコにやられた癖に俺を格下と見てんのか?
腸が煮えくり返り、こめかみから青筋が浮かぶ。
気づけば無意識に拳を握っていた。
「テメェ、舐めてんのか、オラァ!!!」
足を一歩引いてそこから鞭のようにしなった蹴り足で少女の脇腹にめり込ませる。
「カハッ………………!」
空気を吐き出しながら体を曲がらせ、少女は壁に叩きつけられた。
「どうしたよぉ?前の気合いは?前みたいな殺る気を俺に見せてみろよ。じゃねぇと、流石にフェミニストの俺でも四肢ブッた斬って芋虫にすんぞ、アァ?」
刀を相手の首スレスレに壁に刺し、殺気をぶつけながら挑発。
ここでこの少女の性格だと睨みつけてくるはずだ。
だが、少女は怯えるように俺から視線を逸らした。
まるで元々、戦う気がないというか、戦う意志がないみたいだ。
視線を横にスライドするといつの間にか変身を解いたネプちゃんがこっちを心配そうに見ていた。
何も言ってこないのは昨日約束した俺を信じているからだろう。
「チッ……………面倒くせぇ……………」
俺はそう吐き捨て、頭を掻きながら地面に刀を突き刺す。
「失せろ。俺が殺意を抑えられる前にな」
「……………………」
何もしてこない俺に驚いたのか暫く目驚きの表情をしていたが、直ぐに飛んで出口へと向かって行った。
少女が去って行くのを見送ると、ポケットから煙草を取り出して唇で挟む。
「進…………………」
俺の名前を呟きながら近づいてくるネプちゃん。
その顔はどこか嬉しそうだった。
殺したいのは山々だが、約束は約束だ。
それは守らないといけない。
「ネプちゃん、あの速度だ。今から走れば直ぐに追いつくだろうし、戦う力も持っちゃいねぇだろ。大事な情報を持っている女だ。逃がさないでくれよ?」
「うん!」
少女の後を追うネプちゃんを見届けながら煙草に火を点けて煙を吸う。
気づけばあいちゃんとコンパちゃんが俺の隣に来ていた。
「優しいわね」
「これを優しさとは言わん。ネプちゃんとの約束に従ったまでだ。あいつが情報を持ってなかったら直ぐに頚を落とす」
「でも、ねぷねぷの為にやったのです」
「…………………」
「やっぱり、進さんはいい人です!」
何で皆、俺のことを優しいって言うのかね?
俺は殺し屋。
それに変わりはない筈なのにな。
「………………………まぁ、いい。そろそろネプちゃんが追いついていい頃だろ。行こうか」
「素直じゃないわね」
うっせ。
心の中で悪態を付きながらネプちゃんと少女の元へと歩いていった。
「ーーーー!」
「ーーーーー!?」
何やら言い争っている声が聞こえる。
片方はネプちゃんで、もう片方はどこかで聞いた声だな。
遠目にネプちゃんの姿が見えてきた。
なんか、誰かに抱きついているみたいだが……………………………って
「あっ!」
「………………………」
何でこんな所にいるんだ…………………?
ネプちゃんが抱きついている少女、黒いドレス調の服を着て、紅い瞳に赤いフレームのメガネをかけた、長い黒のツインテール。
昨日、偶然出会い、一緒にお茶をしながら談笑した少女ーーー
ーーーノワールことノワちゃんがいた。
もう一度言おう。
何でこんな所にいるんだ…………………?
「(アワアワアワアワ!!!!)」
うわぁ、ノワちゃん、声にならない悲鳴あげてめっさ慌ててる~~。
もうこの様子を見て、あの少女の正体はノワちゃんだと見て間違いないだろう。
うわぁ~、だとしたら俺、ノワちゃんに殴ったり蹴ったり殺そうとしたってことじゃん…………………
そりゃあ、襲って来たノワちゃんも悪いが……………
うーむ、ネプちゃん達とかノワちゃんの様子に怪訝そうな顔をしてるしなぁ。
少し詫びのつもりで助けてやるか。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「はいっ!?え、えーと………………」
恐らく偽名かなんかを考えているのだろうが、俺はそれを遮った。
「ふむ、自分の名前が分からないとなると、こりゃぁ、記憶喪失か?」
「え?」
俺はネプちゃん達が見えない角度でノワちゃんに向かって片目を閉じる。
俺の意図を読んだノワちゃんは小さく頷いた。
「そ、そうなんです!記憶喪失!!あー、思い出せない!きっとモンスターに襲われたせいだわ、どうしよう!?」
ひ、酷い……………
目はバタフライの如く泳いでいるし、口調は早口だし。
ノワちゃん、演技力ねぇな…………
これで引っかかる人は………………
「え!?それってもしかして記憶喪失仲間!?」
「そ、それは大変ですぅ!あ、それに体中怪我してるです!直ぐにシアンさんの所に帰るです!」
あー、うん、ここにいたわ。
パーティーの純粋さに頭が痛くなるが、あいちゃんはどうやら俺とノワちゃんのやり取りに疑いを持っているようだ。
「………………進」
「悪い、あいちゃん。いつか必ず話す」
「分かったわ。ここはあんたを信じる」
「ああ、ありがとう」
シアンちゃんの家に帰るとコンパちゃんは直ぐにノワちゃんの傷口の手当をした。
その後、シアンちゃんから頼まれていた発注した部品を取りに行っている。
記憶喪失の女の子を一人にするわけにはいかない、という名目の元、俺が残る事にした。
ノワちゃんは椅子に座っており、俺は向かい合うようにベッドに座っている。
ネプちゃん達が出かけた後、暫しの静寂の後に俺が話を切り出す。
「ノワちゃん、教えてくれるか?君の正体を」
「もう、ここまでバレてるもの。全部話すわ」
ノワちゃんは椅子から立ち上がり胸に手を置く。
「私の名はノワール。またの名をブラックハート……………この大陸、ラステイションを治める女神よ」
「……………………………………………は?」
ノワちゃんが………………女神!?
表情に出なかったものの、心の中ではノワちゃんの言葉に年甲斐もなく驚いてしまった。
只の人ではない。
そう思っていたが、まさか、この大陸のトップとは思わなかった。
「そうか………………いえ、そうでしたか」
「へ?」
俺は彼女の前に膝をついて頭を垂れる。
「え、ちょ、何やって………………」
「例え、貴方様の正体が知らなかったとはいえ、貴方様に傷を負わせた事は許されざる行為。そして、今までの軽卒で無礼な発言。どうか、平らにご容赦を」
「や、やめてよっ!そんな変に恭しくしなくていいわよ!」
急な態度の変わりに彼女の慌てるような声が耳に入る。
「しかし………………」
「しかしも何もない!早く立って!」
「御意」
「敬語も!」
「これは上下関係を明確するためです。ましてや、女神様と対等に話すなど、恐ろしくて出来ません」
俺がそう言うと彼女は眼鏡の奥の赤い瞳を潤ませて、口をへの字に歪ませる。
「私が…………私が、女神だからそんな態度をとるの………………?」
「いえ、そういうわけでは……………………」
「…………………じゃあ、敬語やめてよ……………」
「…………それは………」
「……………………」
「……………………」
「………………グス…………」
「ハァ〜、分かった分かった!これでいいか、ノワちゃん?」
「えぇ…………!」
全く、忙しい女の子だな。
泣いたと思ったら次は喜んだり。
まぁ、俺も泣き顔よりも笑顔の方がいいけどな。
例え女神だとしても女の子だ。
身分と女の涙だったら迷わず後者を選ぶ。
「驚いた。あなたが敬語を話せるなんて思わなかったわ」
「こんな俺でも立派な社会人だ。ま、肩が凝るからあんまりしたくねぇけどな」
「だったら最初からそうすればいいのに……………」
「悪いな。一応これはしとかないとな」
「私は気にしないわよ」
「へいへい。じゃあ、次はネプちゃんのことを教えてくれるか?」
「えぇ、勿論よ」
一息入れ、ノワちゃんは言葉を紡ぐ。
「あの子のもう一つの名前はパープルハート。プラネテューヌの女神よ」
「……………………そう、か」
ノワちゃんが女神だと知った時に粗方予測はできていた。
元から只の子じゃないのは分かってたし、似たような姿をしたノワちゃんに会ったときは同じ存在だと分かった。
ハァ〜、いよいよこの依頼も只事では済まなくなってきてるな。
「どうして神界にいるはずのネプちゃんがプラネテューヌに落ちてたんだ?」
「そうね、話せば長くなるけど……………」
ノワちゃん曰く、このゲイムギョウ界ではシェアを争って女神同士が戦い、真の女神を決める守護女神戦争が起こっている。
それぞれの女神の力は互角、戦争は終わることがなかった。
しかし、長く続いた戦争も劇的な変化が訪れた。
ネプちゃんを除く三人の女神が手を組み、ネプちゃんを下界へと叩き落としたのだ。
ネプちゃんが消え、戦いは終盤に近づくと思われた。
だが、自分達の力が急速に衰えていくのを感じた。
それは彼女達の力の源であるシェアエナジーが失くなってきているのだ。
戦争は一時中断。
女神はシェアの回復の為にそれぞれの国に戻って行った。
そして、ノワちゃんが下界へと降りてくると、協会はアヴニールの息がかかった国政院が政治を行い、教院はどこかへ追放され、ラステイションは殆どアヴニールに乗っ取られかけていたのだ。
ノワちゃんはシェア回復の為にモンスターの討伐を行いながら、追放された教院を探しているとネプちゃんの名前を聞いたので直ぐに現場に行ってみるとネプちゃんがいたと。
「馬鹿な話よね………………目先の事に囚われて自分の国を放ってたら乗っ取られそうになってるもの……………」
「………………………」
話を終え、自虐的に笑うノワちゃん。
俺は何も言わない。
「ねぇ、進、あなたは金を払えば何でもやってくれるのよね?」
「ん、まぁ、そうだな……………………」
「私は知っての通り軟禁状態。至る所にアヴニールの監視がいて、行動を制限されている。協会の皆も助けることもできないの。だからーーー」
「ーーーお願い………………この国を、ラステイションを助けて…………………!」
端麗な顔から涙を流して俺に懇願するノワちゃん。
それは国を想い、民草を愛している女神が自分の責任を他人に押しつけてしまうことに己の無力を感じる悔しさ。
女神という立場故に頼む人がいない一人の少女の姿だった。
「勝手に襲ってきて、勝手にこんな事を頼むなんて酷い女よね…………………でも、あなたしかいないのよ……………………!お金だったら幾らでも払う………………だから…………………!」
「…………………ノワちゃん、俺は依頼の重複なんてできない。今はある人にネプちゃんの護衛を頼まれている。だから君の依頼はできない」
依頼の重複は矛盾を生むことになり、自らの身を滅ぼす。
かの大英雄クー・フーリンは自分のゲッシュ、『犬の肉を食べない』『自分より身分の低いものからの食事の誘いを断らない』により身分の低い者から犬の肉を食べないかと誘われ、ゲッシュを破り最期を迎えたと言われている。
つまり、例えば俺が『あいつを殺せ』と言う依頼を受けたとする。
すると、その数分後にその抹殺対象である人物に『あいつを殺せ』と先程受けた依頼主を殺せとの依頼が来る。
こうなるとどうする事もできない。
本当ならいーすんちゃんの依頼がなかったら真っ先にノワちゃんの依頼を受けていただろう。
だが、悲しいかな、今は依頼を受けている身だ。
本当に、こういう時に融通が聞かない職業だよ、殺し屋は。
「…………………」
「だけどな」
キツく握ったシミ一つない白く小さく綺麗な手を取り、壊れ物を扱うようにゆっくりと解して俺の手で包む。
「友達としての頼みだったら俺は迷わず引き受けよう」
俺の言葉にノワちゃんは俺の目を見つめる。
「私が………………友達?」
「おう。一緒にカフェに行って楽しく話して。立派な友達だろ、俺達」
俺はノワちゃんの艶のある黒髪をゆっくりと優しく撫でてやる。
こんな血と硝煙の中を生きてきた俺が今できる最大限の笑顔をノワちゃんに向ける。
「す……………す………む………」
「一人で頑張ったな。ここからは俺に任せろや。国の一つや二つ、余裕で救ってやらぁ。だから…………………………泣いていいんだぜ?」
「ーーーー!!」
ノワちゃんは顔を隠すように俺の胸に顔を埋め、静かに声を殺して泣いた。
シャツが涙で濡れるが構わない。
俺の胸の中でシャツに皺ができるまで強く握り締め、ひたすら嗚咽混じりの声で感謝の言葉を繰り返した。
そんな彼女が泣き止むまで俺は頭を撫でながら空いた手で背中を優しく摩り続けた。
「あぁ、そうだ。泣いて泣いて泣いて泣いて、そして、次に思いっきり笑ばいい。それで、上等だ」
「ごめんなさい、はしたない所見せちゃって。それに、シャツ濡らしちゃったし」
「いいのいいの、こんぐらい直ぐに乾くって」
ケラケラ笑う俺にノワちゃんもクスッと笑顔が浮かぶ。
「やっぱり、ノワちゃんは笑った方が綺麗で可愛いぜ?」
「ば、バカ!お、お世辞なんていらないわよ!」
「ククク、俺はお世辞が苦手なんだよ」
「うっ………………何でそんな恥ずかしいこと堂々と言えるのよ…………」
恥ずかしさ故か真っ赤にした顔を隠すように俯くノワちゃん。
まぁ、その仕草も中々可愛いけどな。
「で、どうするんだ?このまま記憶喪失を装って俺達のパーティーに入るのか?」
「いいえ、流石に私と一緒にいるといつアヴニールや国政院の手が伸びてくるか分からないもの。この工場にも被害がおよぶかもしれないから、もう戻るわ」
「そっか。じゃあ、出口まで送るわ」
ノワちゃんと一緒に部屋を出た。
シアンちゃんは工場で働いているから誰にも見つからず外へと出れた。
「本当に今日はありがとうね」
「気にすんな。 女は涙なんか似合わない。どんな時も笑顔でいないとな」
「…………………っ!」
俺がそう言うとノワちゃんは仄かに頬を赤く染めだした。
ん?風邪か?
「ノワちゃん?」
「な、何もないわよっ!じゃ、じゃあ、もう行くから!」
心配して顔を近づけてみるとノワちゃんは大慌てで離れる。
そんな反応にほんの少し心に傷を負ったのは内緒です。
「ノワちゃん」
離れていくノワちゃんの背中に声をかける。
俺の声に反応してノワちゃんは顔をこっちに向けた。
「次は必ずコーヒーを奢ってやるからよ」
「えぇ、是非お願いね!」
そう言って微笑むノワちゃん。
女神としてではなく、一人の女の子としてのその笑顔は綺麗だった。
「向こうの政治家もノワちゃんみたいに心が綺麗だったらいいんだけどな。いや、“アイツ”だけは違うか」
頭の奥にある懐かしい記憶。
だが、今はその事は置いておく。
今頭に思い浮かぶのは記憶にも新しい、泣いたノワちゃんの顔。
俺の体は動いてもないのに温かく、こめかみに青筋が浮かぶ。
いつの間にか握った拳がギリギリと音を立てる。
「………………………アヴニール」
あんな綺麗な子を泣かしたんだ。
ただ潰すだけで俺が満足すると思うなよ。