超次元ゲイムネプテューヌ ~殺し屋の異世界見聞録~ 作:鉄の字
──────汚染
それはこのゲイムギョウ界のモンスターに数パーセントの確率で起こる謎の現象。
瀕死のモンスターが突然光に包まれると肌が黒くなり、汚染される前の数倍は強くなる。
極めて稀なケースの上、厄介な事この上ないので遭遇した場合は逃げるのが良いとされている。
「エルボー……………」
だがしかし─────
「ロケットォォォォォオオオ!!!!」
─────そんな事、この男にはどうでもいい…………と言うか、知らない。
肘から魔法で炎をエンジンの様に噴射して推進力を得た拳が汚染して黒くなったエンシェントドラゴンの頬を捉えた。
ここで普通のエンシェントドラゴンだったら吹き飛ばされる筈だが汚染化され強化されたエンシェントドラゴンはたたらを踏むだけで留まった。
「テメェ!このスーツとシャツ高ぇんだぞ!?いくらしたんだと思ってんだゴラァ!!しかも何か黒くなりやがって、発情期かコノヤロー!!プラズマキャノンかエアミサイル喰らわせるぞオラァ!!」
傷を負わされた事よりもシャツが破かれた事を怒る進。
負わされた傷は浅く、今では血も止まり塞がりかけで、本人にとっては紙で指を切ったぐらいの傷なのだろう。
「あーあ、縫えば直るかな………コンパちゃん、手芸が趣味って言ってたから直せると思うけど、最悪買い直さないといけねぇよな………」
シャツの切られた部分を摘みながらブツブツと言う進。
そこに立て直したエンシェントドラゴンの黒く鋭い爪が迫る。
「ちょっとは待てと言う芸くらい覚えろや!」
上から空気を切り裂いて迫ってくる爪にタイミングを合わせアッパーを放つ。
鉄の塊と鉄の塊がぶつかり合う音が鳴り響き、エンシェントドラゴンの爪は僅かに逸らされて進の頭スレスレを通った。
直ぐに相手の懐に入ろうと脚に力を入れるが、左の方からまたもやエンシェントドラゴンの尻尾が襲って来る。
攻撃が入る直前に瞬時に腕を上げてそれを防いだ。
鈍い音と共に衝撃が左腕を走り、体が僅かに傾く。
吹き飛ばされそうになるが右脚でしっかりと地面を踏み、何とか勢いを殺した。
尻尾が離れると同時にその尻尾を掴み、脇にガッチリとホールドして抱え込む。
エンシェントドラゴンが何かをする前にそれを力任せに振り回した。
「うぉぉぉらぁぁぁあああ!!!!」
尻尾に連れられエンシェントドラゴンの体が宙に浮く。
半円を描き一本背負いの様にエンシェントドラゴンを地面に叩きつけた。
「もう一丁ぉぉぉおお!!!!」
そこから体を反転。
先程と同じようにエンシェントドラゴンをもう一度叩きつける。
更に次に進は軸に横に回転。
赤い配管工ばりのジャイアントスイングでエンシェントドラゴンを振り回し、途中にある壁を巻き込みながら更に加速する。
「そらそらそらそらぁぁぁぁああ!!!」
一人と一匹の姿がぶれだした時、進は両手で掴んでいた尻尾を離す。
遠心力でエンシェントドラゴンは飛んでいき地面を何度もバウンドして転がった。
「おいおいおい、強くなったのは見た目だけか?もっと熱くなれよ!!」
挑発と呆れが混じりの言葉を吐く。
それに対しエンシェントドラゴンは少し呻き声を絞り出すと立ち上がり行動を開始する。
姿勢を低くしてその巨体に似合わない速度で走り出し、勢いを殺さず手を突き出した。
あまりの速さにとっさに腕を広げ防ぐ。
「おおおおおお!?」
必死に止めようとするが足は地面を削るだけで勢いは全く衰えない。
別の手で横腹を殴られ、壁に激突する。
また壁かよ、と心の中で愚痴るが眼目には人を覆う程の巨大な手が迫っていた。
恐ろしい勢いで進は壁に叩きつけられた。
体が壁に沈み込み、至る所の筋肉が悲鳴を上げる。
「ッ………!?」
直ぐに拘束から逃れ態勢を整えようとする。
進の怪力を持ってすればこの程度の拘束はセロハンテープに巻かれたぐらい脆い。
しかし、エンシェントドラゴンの方が行動が早かった。
エンシェントドラゴンは進を掴んだまま壁際を走り出す。
手の中の進は壁にめり込んだまま引っ張られ壁を削り、その勢いに抵抗することが出来ず赤ん坊が遊ぶ車の玩具の如く弄ばれる。
数十秒、5メートルを超える巨体は全体重をかけてひたすら洞窟内を走り回り、次に掴んでいた進を地面へと投げ捨てた。
バウンドして跳ね上がる進を押さえつけるかのように足裏で進を踏み潰す。
すり潰すみたいに足を動かし、もう一度脚を上げて、また勢いよく下ろした。
それを素早く繰り返す。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける。
理性無き暴力が地面に埋もれた進に降り注いだ。
辺りの地面の形が平からクレーターの形に変わりだした時、やっとエンシェントドラゴンは進を踏みつけるのをやめる。
地形が変わるまで暴れたせいで息切れが激しい。
だが、この息切れこそがエンシェントドラゴンが勝者である証なのだ。
大気を揺らす咆哮を放ち勝利に酔う。
その足元で一人の人間が立っている事を知らずに。
「いってぇな、オイ………」
その言葉にエンシェントドラゴンは反射的に視線を下へと向ける。
おかしい。
普通の人間ならば死ぬどころか体をミンチにされてもおかしくない程の猛攻である。
確かに眼目の男は至る所に血が出ているが…………それだけだ。
それ以外は殆ど無傷なのだ。
「そうかそうか。そんなに戯れたいかトカゲ…………」
纏わりつく様な殺気がエンシェントドラゴンの体を固くする。
生まれてからここまで感じた事のない謎の気配にエンシェントドラゴンは脳裏で警報を鳴らす。
「このドグサレがぁぁぁあああ!!!」
直立不動の状態から一瞬。
エンシェントドラゴンの目の前には拳。
エンシェントドラゴンの手と比べると極めて小さい。
しかし、その拳は敵の意識を刈る勢いで振り抜かれる。
先程のパンチと比べたら思わず笑ってしまう程、強烈な一撃。
ゆっくりと仰け反る敵に進は地面にワイヤーを撃ち、素早く地面に降りる。
まずは右正拳突き。
次に左ボディーブロー。
次に体を右に回転させて側転肘。
次にハイキック。
次に足刀蹴り。
息付く暇もない連撃に反撃する事すら許さない。
進は更に左正拳突きを腹部にめり込ませる。
怯む敵に拳をそっと腹部に置き全体重を手に移動させ寸勁を放った。
内蔵をシェイクする衝撃に思わず意識を手放しそうになるが敵は何とか繋ぎ止め、苦し紛れに進に噛み付いた。
一口噛まれたら確実に絶命する黒い牙がコート、スーツ、シャツ、タンクトップ、そして、薄皮を突き破り傷口から血が滲み出る。
しかし、エンシェントドラゴンの表情は優れない。
エンシェントドラゴンは必死に顎の筋肉を使い、進の右腕を含む右肩から右腰の部分を喰いちぎろうと首を左右に乱暴に振りまくる。
だが、進の体は地面から離れる所か体さえ数ミリも動かず、その進の顔は普段のヌボーっとした顔から変わらない。
「おら、噛めよ。しっかり噛めよ。」
───ヤバい。
エンシェントドラゴンはゆっくりと上がる進の左腕を見て本能で感じた。
直ぐに離れようと後ろに下がりながら顎を開こうとする。
しかし、筋肉に力を入れることで起こる膨張に牙が挟まり身動きが取れない。
「昇○拳!!」
首を狙ったアッパーカットは見事に敵の長い首に入った。
勢いで進から牙が離れ、エンシェントドラゴンの体は少しだけふわっと浮く。
そして、ゆっくりと落下を始める。
人間など容易く下敷きにできる程の巨体が落ちてくる真下、進は不適に笑いながら拳を構える。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!」
右の拳と左の拳でマシンガンから放たれる弾丸の如きラッシュを撃つ。
落ちる力と進の力が拮抗し、エンシェントドラゴンの落下スピードが止まった。
片や人間を超越した怪力。
片や5メートル越えの巨体。
やがて鍔迫り合っていた二つの均衡が崩れだした。
エンシェントドラゴンの腹部の筋肉が破壊され大きく陥没する。
それを見た進は拳の連打を止め、足を踏み直し次の一手を放った。
「おんどらぁぁぁぁああ!!!」
天を貫かんとするアッパーカットの衝撃が破壊された筋肉を突き破り内蔵にまで達する。
エンシェントドラゴンの体は弾き出された蝿の様に垂直に吹き飛び岩を砕きながら天井にぶち当たり陥没させる。
瞬時にワイヤーを発射し、勢いよく天井へ登る。
体を反転させ天井を蹴り落ちるエンシェントドラゴンに向けて急接近。
体を回転させながら中空で右脚をピンと伸ばしたまま180°近く開脚する。
神速の勢いで眼下の敵を捕捉。
狙うは無防備な頭。
「墜ちろやぁぁぁぁぁああ!!!!」
何もできないエンシェントドラゴンはその軌跡を見つめる。
そして、体を回転させて加速させた右脚の踵はエンシェントドラゴンの脳天に突き刺さった。
めり込む進の踵。
凶器と化した踵は頭蓋骨を貫き脳に深刻なダメージを与えた。
体を走る衝撃は黒い牙は折り、宙を舞わせる。
一瞬その状態で静止。
そして、進は右脚を振り抜いた。
エンシェントドラゴンの体は轟音と共に下へと打ち付けられ地面を破壊する。
地面は薄氷のように砕け散った。
しぶとくまだ生きているエンシェントドラゴンが痙攣する体を動かしながら上を見る。
敵に向かい落ちてくる進。
その表情は猛獣の如き鋭いながら嬉々としている笑みである。
「二つあるのに一つしか使えないって道理はねぇよな!?」
更に天に向かって伸びているのは左の踵。
理性無き獣はそれが何なのか分かった。
それは己を今、狩ろうとする死神の鎌。
空気を、大気を、空間を切り裂きながら眼目に迫るそれを見たエンシェントドラゴンは静かに、そして確実に己の死を悟った。
そして、大きな衝撃と共に意識が途絶えた。
「ふぅー…………」
口元の煙草を手に取り、溜息と共に煙を吐く。
煙草を吸うことで幾らか気分が和らいだ。
いくら殆ど無傷でも痛いものは痛い。
進とてちゃんとした痛覚は持っている。
弾丸を撃たれても筋肉で止まり、内蔵には達しないが、ちゃんと痛みは襲って来るし、何より出血による貧血と弾丸から来る鉛アレルギーが一番の心配なのである。
「あー、久々に体動かした気分だわー」
本当にいつ以来だろうか、自分がこれだけ本気を出したのは?
まだまだ本気を出してはないが地球だとこんなに熱くなる事はなかった。
しかも、その相手がドラゴンなのだ。
「やっぱ異世界ってすげぇな………」
右手を開いて閉じたりして、今、自分が異世界にいる事を再確認する進。
まぁ、自分が想像していた異世界とは何となく………いや、大分違うが。
脳裏に猫耳美女を思い浮かべながら目の前にあるエンシェントドラゴンを見る。
「これ、もう動かねぇよな?後二回変身残してるとかねぇよな?」
エンシェントドラゴンの頭は地面に2メートル程深く埋まっており、普通に見たら頭を確認することはできない。
進の拳、蹴りを全て受け止めたエンシェントドラゴンは二度と動くことはなかった。
それを確認した進は口から煙を吐きながら────
「………服…………どうしよう………」
────ボロボロになった己の服を見て悲しそうに呟いた。
やべ、物語進まねぇ………
次回オリキャラ出す予定です!