リンクス&ネクスト   作:零壱

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天敵、入学す

 決意を抱いたあの日から数年後、成長した少女はライヒアラ騎操士学園への入学を果たした。

 リンクシィ・カラーディアだ。濡羽色の髪をなびかせ、透き通るような蒼い瞳に揺るぎない決意の光を宿らせていた。

 

 ここ、ライヒアラ騎操士学園に入学した目的はただ一つ。

 人類を壊死させかねない暴力を、いかにしてあの白き閃光のように何かを守る力に変えるのか。その答えを得るためだ。

 

 ライヒアラ騎操士学園には様々な学部、学科が設置されている。

 フレメヴィーラ王国を魔獣の危機から守るために活躍する幻晶騎士、その設計と開発を担う騎操鍛冶師と操縦者である騎操士の育成を主な目的としており、生徒はそれぞれの道に必要な知識と技術の徹底的な習得を目指す。

 

 リンクシィの進む道はただ一つ。幻晶騎士を駆り、人々を守る騎操士乃ち騎士の道である。

 かつての彼女は金のために世界を汚し、誰かを傷つけるただの傭兵に過ぎなかった。それどころか、最後には信じていた相棒さえ裏切って人類を虐殺する化け物と成り果てた。

 もう二度と過ちを繰り返すわけにはいかない。そのためには、真に決意するための何かを知らなければならない。だから、この学園で見つけてみせる……リンクシィの胸にはそんな希望が秘められていた。

 

 だが、リンクシィは一人だった。

 幼馴染にして親友のエルネスティはまだ入学するには年齢が足りていない。

 一足早く入学したは良いものの、これから先気の置けない友人がいない生活を送らなければならない。独りに慣れていないわけではないが、魂に染み付いた狂気がいつ蘇るか思うと恐ろしかった。

 

 不安が表情に出ていたのだろう。

 リンクシィの背に声が掛けられた。

 

「そこの君、大丈夫か? 新入生か。もしかして迷ってしまったのか?」

 

 顔を上げると、そこには体格の良い男子生徒がいた。

 上級生だろう。同じ初等部か、はたまた中等部かはわからなかった。

 

「君、名前は? 私はエドガー・C・ブランシュ。中等部騎士課の生徒だ」

 

 エドガーはできる限り温和な態度を取ろうと心掛け、名乗った。

 しかし、どうにも慣れていないらしく、笑顔はやや硬かった。

 

「……」

「あー、すまない。何分、こう、愛想笑いが苦手なんだ」

 

 ばつが悪そうに頬を掻くエドガー。

 なぜだかおかしくなったリンクシィは思わず吹き出した。

 

「ちょっと傷ついたぞ」

「ごめんなさい。でも、あなたが悪い人じゃないってわかった。……私は、リンクス。リンクシィ・カラーディア」

 

 その後、短いながらも談笑を経て二人は打ち解けあった。

 リンクシィにとっては初めて家族とエルネスティ以外でできた話し相手だった。

 

 良き相談相手を得たリンクシィはエドガーと別れ、入学式の会場へと向かった。

 

 心に掛かっていた雲は、いつの間にか晴れていた。

 

 

 ライヒアラ騎操士学園に入学し、リンクシィは多くのことを学んだ。

 生身での戦い方、公の場所での礼節、魔法の扱い、幻晶騎士の存在意義……特別なことではなく、どれも普遍的で常識的なことだったが、彼女の価値観に大きな変化を与えた。

 結果として、目的もなくただ戦い続けることに明確な疑問を抱き、魂にこびりついた狂気を抑え込む強力な抑止力を得ることができたのだった。

 

 そして、リンクシィが得たものはそれだけにとどまらない。

 

「いくわよ、リンクス!」

「今日こそ勝つ!」

 

 上級生たちの訓練に交じって剣を振るう。

 相手は同性の先輩、ヘルヴィ・オーバーリ。リンクシィと同じく騎操士を志している。

 

 これまでに何度も剣を交えてきたが、ヘルヴィが勝ち続けていた。

 上級生相手に実力は拮抗しているのは驚くべきことだ。しかし、そこで満足できるほどリンクシィの覚悟は甘くない。

 

 それを理解しているからこそ、ヘルヴィも本気で打ち合う。

 互いに譲らぬ接戦。もはや男子生徒でも耐えられるかわからない剣戟の末、リンクシィの持つ訓練用に刃の潰された剣が根元から折れた。

 

 リンクシィは剣を下ろし、負けを認めた。

 たかが剣が折れただけだ。まだ戦える。だが、時には潔く負けを認めることも必要だ。

 

「参った……また、負けた……」

「いやぁ、今のは流石に危なかった。ほんと、あなたって強いわね」

 

 落ち込むリンクシィだったが、ヘルヴィたち上級生から見れば規格外の強者(イレギュラー)だ。

 まだ伸びしろを感じさせる。一体どこまで強くなるのか、それを考えた時、彼らは震えた。

 

「二人とも、お疲れ様だ」

 

 エドガーが水筒を二人に渡した。

 

「ありがと。……まったく、いつまで落ち込んでるのよ? まさか、私に勝てて当然なんて思ってないでしょうね」

「そうだな。悔しいのはわかるが、その辺にしておけ。あんまり度が過ぎると、後が怖いぞ」

「……ちょっと、それどういう意味よ!?」

 

 ヘルヴィはエドガーに致命の一撃を叩き込んだ。

 彼は顔を真っ青にし、表情を大きく崩して端正な顔立ちを台無しにしてその場に倒れた。

 リンクシィは敬愛する先輩二人のいつもの漫才に吹き出し、顔を上げた。

 

「次は、勝つ。そのためにも、もっと勉強する。もっと訓練する」

「ん、その意気よ。でも、そう易々と勝たせてあげないからね!」

「ぐぐ……何事も挑戦あるのみだ。俺たちも協力しよう。何かあったら、いつでも相談してくれ」

 

 エドガーとヘルヴィ。二人の存在はリンクシィにとってかけがえのないものだった。

 胸の内に抑え込んだ狂気に打ち勝てるのも二人のおかげだった。だが、だからこそ、いつまでも甘えていられない。

 

 自分の力で勝たなければならない。

 もう二度と、敗北することは許されないのだから。

 

 リンクシィは水筒の中身を飲み干すと、もう一本訓練用の剣を取りに向かったのだった。

 

 ……ちなみに、彼女が剣を折った数は優に千を超えている。




次回、vs陸皇亀。
天敵種の片鱗を見せつけます。

それでは、また次回。
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