リンクス&ネクスト   作:零壱

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天敵、強襲す 上

 季節は巡り、リンクシィは中等部を卒業した。

 騎士学科での成績を認められ、エドガーやヘルヴィ同様高等部への進学を果たした。

 

 しかし、彼女の才能はより上層の者たちにも認められた。

 普通であれば引き続きライヒアラ騎操士学園の生徒としてさらに修学するところ、王国上層部からの推薦でとある極秘プロジェクトへ参画することになった。

 

『プロジェクト次世代機(ネクスト)

 それは、現存する幻晶騎士を大きく超える戦力になりうる新たな幻晶騎士の設計及び開発を目的とするもので、フレメヴィーラ王国は新たな時代を迎えようとしていたのだった。

 

 前世の記憶から次世代機(ネクスト)に何かと思うところのあったリンクシィはこれを快諾。よって、彼女には研究用の機体が与えられることになり、さっそく受け渡し場所兼訓練場所であるヤントゥネンへと赴いた。

 

「これが……」

 

 感嘆の声を漏らすリンクシィ。彼女の目の前には一体の幻晶騎士が()()()()()()()

 従来の幻晶騎士であれば整備台の上に座った状態で待機しているものだが、その機体は特殊な体型をしているために仕方なく天井から吊るすことで整備を行っていた。

 

 まず目についたのはそのシルエット。従来のものと比べると貧弱な体つきをしていた。装甲も申し訳程度にしか装備されておらず、魔法どころか魔獣の体当たり程度で大破してしまいそうな印象を受けた。

 しかし、この機体が格闘戦を想定していないことは従来の機体には備わっていないあるパーツによって理解することができた。機体の各所にはこの世界の住民であれば見たことのない吸盤のようなものが備えられていた。

 リンクシィは一目でそれの正体に気づいた。――ブースターだ。短時間または長時間ジェットを噴射することで爆発的な加速を得ることができる補助推進装置。

 軽量化されたボディに加速用のブースター。

 次世代機(ネクスト)のコンセプトは乃ち、“高速機動”である。

 

 なんという偶然か。はたまた、必然だったのか。

 数奇な運命のめぐりあわせに魂が震える。リンクシィは湧き上がる興奮を抑え込んだ。

 この世界はまだ、悲劇を回避することができる。穢れるにはまだ早い。

 

「君がリンクシィ・カラーディアか。話は聞いているな? 到着したばかりで申し訳ないのだが、さっそく試験を始める。搭乗の準備をしてくれ」

 

 次世代機とはいえ、基本的には従来の機体との相違は極端な軽量化とブースター――試作型推進器の装備だけで、それ以外はまったく同じだった。

 ゆえに嫌というほど繰り返した搭乗手順を踏み、機体への搭乗を完了する。

 

「これより次世代機(ネクスト)幻晶騎士(シルエットナイト)“ストレイド”の動作試験を開始する。ストレイド、推進器起動!」

 

 言われた通りに試作型推進器を起動する。起動方法は単純な話、足を使う必要がないのでその分浮いた魔力量で炎と風の複合魔法“炎疾風”を発動するだけ。成功すると、試作型推進器からジェットが噴き出し、ストレイドの体を持ち上げる。

 

「固定鎖外せ!」

 

 次に、ストレイドの体を吊るし上げていた鎖が解かれた。

 重力に引っ張られるも試作型推進器のジェットの噴出によってゆるやかに降下する。いくら機体が軽量で常時炎疾風による上方への推進力を得ているとはいえ、ストレイドを宙に留めることはできなかった。

 技術者たちにとっては課題であるが、リンクシィには十分すぎる結果だった。

 

「……よし、ストレイド発進!」

 

 主任の許可が下りた。

 リンクシィは背中に装備された一際巨大な推進器から高出力の炎疾風噴射し、瞬間的に爆発的な加速を生み出す。

 

――幻晶騎士が空を飛んだ。

 技術者たちは技術の革命に歓喜の声を上げた。

 そして、リンクシィはかつての愛機の感覚を思い出し、無意識に口角を上げていた。

 

 

 何が起こったのか?

 夜の闇の中、クロケの森をライヒアラの生徒たちは逃げ惑っていた。

 

 上級生はステファニアに指揮のもと迫りくる魔獣の群れを迎え撃っていた。しかし、突然のことに理解が追いついておらず、何匹かを仕留め損なう。

 後方にはまだ1年生が残っている。いくら中等部の騎士学科とはいえ、彼らのほとんどはまだまだ未熟だ。たとえ一匹でも大混乱を引き起こしかねない。実際、1年生たちはパニックに陥っていた。

 

 だが、ステファニアはその場から動けずにいた。伝令を出そうにも魔獣の数が多すぎる。下手に今ある陣形を崩せば1年生を逃がすどころか自分たちが先に全滅することになりかねない。

 

(せめて、幻晶騎士がいてくれれば!)

 

 しかし、現在今回の野外演習に同行した幻晶騎士たちは後方の1年生たちの援護に向かっていた。ステファニアたちのもとへ駆けつけるのはもうしばらく先になるだろう。

 

 魔獣は待ってくれない。やがて、また一人とマナ切れを起こしては法撃が追いつかなくなり、百を超える魔獣の群れがまるで雪崩のように迫りくる。

 

 誰もがもう駄目だと諦めを抱いた。

 冷静に振る舞い指示を出し続けたステファニアさえ絶望を顔に浮かべていた。

 

 そんな時だった。

 彼らの耳が聞きなれない轟音が迫ることに気づいたのは。

 

 瞬間、魔獣の群れが爆ぜた。連続して爆撃音が鳴り響く。

 魔獣の群れを見やると、爆炎が上がっていた。法撃による攻撃だ。

 

 しかし、この場に、いや、たとえ幻晶騎士であってもこれほどの爆撃はそう易々と行えるものではなない。法撃をこれほどまで早く撃ち続けることはどのような手段を以てしても不可能だった。

 

 なら、一体何が起きたというのだろうか。

 その答えは()()()()()()()()

 

「!? 空から幻晶騎士が……!?」

 

 常識からは考えられない。幻晶騎士ほどの巨体が空を飛ぶなど誰が想像できただろうか? いや、誰もできなかっただろう。少なくともステファニアたち、この世界の住民には。

 

 空からやってきた幻晶騎士――ストレイドはゆっくりと降下する中、両手に握りしめた奇妙な形をした杖を構え法撃を続けた。爆炎球が連射され、魔獣の群れを瓦解させていく。

 

 やがてストレイドが地面に降り立った時、魔獣の群れは炎の海に呑まれていた。

 

 その黒色のボディをもつ幻晶騎士は空から現れ、瞬く間に魔獣の群れを撃滅した。

 助けられたステファニアが抱いた感情は恐怖だった。祈りを捧げたのは認めるが、これほどの破滅は望んでいなかった。

 

 この時、誰もがストレイドのことを心の中でこう呼んだ。

 

――黒い鳥(レイヴン)。全てを焼き尽くす、死を告げる鳥、と。




遅れました。申し訳ございません。
それと、陸皇亀までたどり着けませんでした。重ね重ね申し訳ございません。

ようやくネクストを出せました。
いきなり空飛びますが、本来は無茶苦茶なやり方で飛行を可能にしたので、どうかご容赦を。

次回こそvs陸皇亀。
グゥエールのエルネスティとストレイドのリンクシィの二人による共同戦です。
頑張ります。

それでは、また次回。
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