ステファニアたちを救出した後、ストレイドもとい操縦者のリンクシィは周囲を一瞥し問題がないことを確認する。
しかし、油断はできない。ヤントゥネンの騎士団たちのもとへ駆けつけた伝令いわく、このクロケの森目掛け師団級魔獣“
クロケの森で野外演習を行っているライヒアラの生徒たちを一刻も早く避難させなければならない。しかし、勝算もないまま闇雲に陸皇亀へ攻撃を仕掛けるのはかえって危険だ。
ヤントゥネンの騎士たちが葛藤する中、情報を聞きつけたリンクシィは技術者たちに無理を押し通し、実践テストの目的でストレイドを飛ばしたのだった。
「けが人は? 全員無事?」
「は、はい! マナ切れを起こしている生徒が若干名。けが人も動けなくなるほど大きな怪我は負っていません」
ストレイドから降りたリンクシィは即席の指揮官だったステファニアに状況を報告させた。どうやら間に合ったらしい。安堵のため息を漏らしたが、すぐに表情を引き締めた。
「私は高等部のリンクシィ・カラーディア。訳あってヤントゥネン砦にいたからこちらの応援に来た。……今、ここに師団級魔獣が接近している。速やかに退避して。もうすぐヤントゥネン騎士団も駆けつけるはず。出来ることなら彼らと合流を」
「りょ、了解です。……それで、あなたは?」
早口でまくし立てたリンクシィはすぐにストレイドに戻った。
「出来る限り足止めする。さぁ、早く!」
研究用に作られた機体だが、ある程度実用化されている。ストレイドは試作型推進器を積んでいるため従来の機体よりも魔力の消費が多いが、その分とある装置を搭載することで魔力回復速度が改善されており、少しの休息ですぐに動かせる。
ステファニアたちへの説明の僅かな時間でそれなりに動けるだけの魔力を回復していたストレイドはジェットを噴射し、再び空を舞った。
*
夜の闇は先の強襲によって生じた火災のおかげでそう暗くなかった。
ゆえに、その巨体を発見するのは容易かった。
「陸皇亀……なんて巨大な」
空を飛ぶリンクシィだからこそ、その全貌が見えていた。山と見間違えるほどの巨躯は間違いなく生き物だった。流石は魔獣。人智を超えた存在と称されるだけはある。
「でも、あの手の敵なら何度も倒した。負けるもんか」
前世で相手してきた巨大兵器の数々を思い出し、不敵に笑う。
蒼色の瞳の奥には獲物を見つけた狩人の獰猛さを想起させる不気味な輝きがあった。
推進器に魔力を送り、加速する。急速接近し、手始めに両手の魔導兵装、
しかし、陸皇亀の巨躯の前には豆鉄砲に等しかった。炎上させようにもあまりにも頑丈な甲殻に歯が立たず、爆炎球はことごとく消散した。
どうやら魔法で攻撃するにあたって、それなりに高火力のものでなければならないようだ。しかし、上級魔法はおろか、戦術級魔法など使えば反動で機体が破損しかねない。それほどまでにストレイドは脆いのだ。
だが、四の五の言っている場合でもない。多少のリスクには目を瞑ることにし、ストレイドは戦術級魔法を発動する。
さっきよりも高火力の炎弾が連射され、陸皇亀を焼く。いくら頑丈な甲殻であっても流石に耐えきれなかったようで、各所が赤熱していた。
このまま攻撃を続ければある程度はダメージを与えられるだろう。
その時、森の中から陸皇亀へと突撃する数機の幻晶騎士が現れた。ヤントゥネンのかと息をつきかけたが、よく見ると違う。ライヒアラの高等部の生徒が操縦する機体だ。思わず目を見開いた。
どうやら下級生たちが逃げるまでの時間稼ぎに出たらしい。先陣を切っているのは見覚えのある白い機体、アールカンバーだった。
思いがけない援軍は、はっきり言って喜ばしくないことだった。
いくら日ごろから幻晶騎士の操縦訓練を積んでいるからと言って、師団級魔獣を相手取るのは些か無謀だ。仕留めるのではなくあくまで囮として引き付けるにしても危険は大きかった。
リンクシィは我に返るとすぐにジェットを吹かし、アールカンバーのもとを目指す。
「エドガー! 聞こえる!?」
「その声、リンクシィか! 一体どこにいるんだ!?」
ストレイドは速度を落とし、アールカンバーの隣に降りる。独自の構造により足には
「な、なんなんだその幻晶騎士は?」
「それは後。今は目の前の魔獣が最優先。……甲殻が頑丈過ぎて歯が立たない。戦術級魔法を連射してやっと赤熱させられる程度。だから、攻撃は魔力の無駄」
「しかし、囮の役目としては無駄であっても攻撃しなければ引き付けることもできない」
「……私が攻撃する。あんまり余裕はないけど、遠くから狙えばそれなりに撃てるはず。エドガーたちは近くで踊ってて」
「おど……まぁ、そうだな。最大限アプローチするとしよう」
リンクシィは割と真面目に発言したのが、彼女なりの冗談だとエドガーは判断した。
ゆえに、ストレイドが再度上昇し、後方から法撃を再開した時、彼らもまた攻撃を行った。
ほんの少し、慢心していたのかもしれない。
自分たちの力を過信していたのかもしれない。
法撃によるダメージが見られたため、さらに深く踏み込む高等部の幻晶騎士。
しかし、陸皇亀がその口腔から猛烈な竜巻の息吹を放つと、若者たちが駆る幻晶騎士のほとんどが呆気なく吹き飛ばされた。四肢が千切れ、崩壊した機体は沈黙したまま動かない。
突然のことに頭が追いつかず、一人、また一人と巨体の餌食になっていく。踏み込んだことで距離が近くなっており、そこで棒立ちなどしたものだから当然である。
予想はできていた。だが、防ぐことができなかった。
遠くの空から呆然と前線を眺めるリンクシィは、逃げ出した紅い機体に気づかなかった。
なぜ後書きで書いたことが実行できないのか……
もしかしてフラグ? まさか。
とにかく、本当に申し訳ありません。
昨日は諸事情により投稿できませんでした。
重ね重ね申し訳ありません。
それでは、また次回。