リンクス&ネクスト   作:零壱

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天敵、覚醒す

「む、あれが先輩方が仰っていた“黒い鳥”ですか」

 

 空から飛来した一体の幻晶騎士。

 薄すぎる装甲ゆえに攻撃の反動で既にほとんどがボロボロの状態だった。

 だが、その姿に怯えや恐怖といったものは微塵も感じられなかった。むしろ、獲物を屠らんとする獰猛な獣を想起させる。

 

「鴉というより山猫みたいですね。それにしても……いいなぁ」

 

 エルネスティはグゥエールの中で大きなため息を漏らした。羨望の視線でストレイドを見つめている。……その真正面には怒り狂った陸皇亀がいるにも関わらず。

 

「あぁ、僕もロボットで空を飛びたい。ジェットを吹かし、ブーストしながら空中機動をして飛び回りたい。あの杖は……銃杖? 形状からライフルのようですが、まさか本当に撃てるのですか? 話では連射できると聞いていますが……是非ともお話をお聞きしたいっ!!」

「お、おいエルネスティ。今は目の前の陸皇亀に集中するんだ。こっちに向かってきているぞっ!!」

 

 エルネスティの後ろでグゥエールの本当の操縦者であるディートリヒが悲鳴交じりに指をさす。彼の言う通り、陸皇亀が顎を開いて迫ってきていた。

 

「武器はどうした?」

「捨てました。もうボロボロでしたし」

「だったらそこに落ちているのを拾うんだ!! 早く。倒すまでにはいかずとも足の一つでも傷つけておかないと逃げることはできないぞ!!」

 

 グゥエールは陸皇亀へと疾走する。狙いは腹下にある幻晶騎士の剣だ。さっきの虐殺で倒れた幻晶騎士のものだが、折角なのでありがたく使わせてもらうことにしたのだ。

 

 剣を拾い上げ、グゥエールは陸皇亀の足を狙う。しかし、やはり甲殻を砕くことはできない。

 厳重な甲殻は陸皇亀の全身を覆っている。これを突破しない限り決定打を与えることは不可能だ。

 

 決め手に欠けていた時、爆炎が上がる。

 ストレイドによる戦術級魔法の法撃だ。正確に狙い放たれた炎弾は甲殻を赤熱させていた。

 

「! なるほど、そういうことですか!!」

 

 赤熱しているのはちょうどグゥエールの目の前。ストレイドの意図を理解したエルネスティはグゥエールを駆り、剣で赤熱した部分を斬りつける。甲殻は刃を通し、中の肉に傷をつけた。

 陸皇亀が小さな悲鳴を上げる。魔獣からすればほんの小さな裂傷だが、今まで突破されることのなかった甲殻の奥の筋肉を傷つけられることは大きな衝撃だった。片目を奪われた時同様、陸皇亀は自らの命を奪いかねない紅い機体に激しい殺意を向けた。

 

「ひぃっ。く、くるぞ。回避するんだ!!」

 

 ディートリが言い終える前にグゥエールは陸皇亀から離れる。

 

 また爆炎が上がった。今度は少し先に見える場所が赤熱している。

 グゥエールは加速し、跳躍。すれ違いざまに斬撃を飛ばし、肉を裂いた。着地すると速攻で走り出し、その場から離れる。

 

 ストレイドはその後もいくつかの個所を爆撃し、甲殻を赤熱させた。それをグゥエールが続けざまに切り裂き、陸皇亀は決して少なくない傷を負った。

 動きは明らかに遅くなっている。血もとめどなく流れ、陸皇亀の死は時間の問題にも思えた。

 

 形勢はさらに動く。

 ここにきてようやくヤントゥネンの守護騎士たちが戦場に到着した。

 彼らは戦術級魔法“炎の槍”を放ち、物量で圧倒する。しかし、陸皇亀の竜巻の息吹によってすべてはじき返された。そこで彼らは一つの大型兵器を取り出す。

 『対大型魔獣用破城鎚』だ。幻晶騎士4体を使って運ばなければならないほど大型の武器。原始的な機構で、接近して巨大な杭を打ち込む兵器だが、その威力は計り知れない。

 一番槍が突撃し、鎚を打ち込む。陸皇亀の頑丈な甲殻を突き破ってわき腹に突き刺さった。陸皇亀は初めてその巨体を大きくのけぞらせた。

 

 第二、第三と続く。

 ディートリヒとヤントゥネンの騎士たちは勝利を確信した。

 しかし、この世はそこまで甘くない。上手くいったと思ったら最悪の展開が待っていた、なんてことはもはやお約束である。

 それを知っているエルネスティとリンクシィは次の展開に備えた。

 

 突如、陸皇亀は巨体を大きく持ち上げた。後ろ脚だけで立ち上がる。

 そして、地面目がけて竜巻の息吹を放った。

 

 突撃していたヤントゥネンの騎士たちは竜巻の息吹を直撃し、機体を破壊されて吹き飛ばされる。何とか生き残った者たちも降ってきた巨大な足に押し潰された。衝撃波が周囲を襲う。

 

 ヤントゥネン守護騎士団の団長とディートリヒは絶望に顔を染めた。

 エルネスティはロボットを破壊されたことに対する怒りに笑みを深める。

 

 そして、リンクシィは圧倒的な暴力を前に歓喜を露にした。

 狂気ではなく、純粋な闘志。世界を食い散らかした暴力に対して振るう平和のための暴力。

 

 ストレイドはもはやボロボロで一撃でも掠めれば機体が崩壊しかねない。

 だが、彼女は知っている。あの白い戦士は一度落とされてなお再び空を飛んで見せた。

 

 覚悟と決意は揺るぎないものとなった。

 あとは、行使するのみ。

 

 ストレイドが動き出す。背中の大型推進器を起動し、陸皇亀へと急速接近する。

 着陸装置を出して陸皇亀の背中に着地。ホバー走行で疾走しながら法撃特化杖で戦術級魔法を乱射する。

 

 出鱈目に甲殻を焼かれる陸皇亀は弱り切った体に確かな火傷を負う。

 ゆえに体を小刻みに動かし、背中の異物を振り落とそうとする。

 

 背中の各所から突き出た棘がストレイドへ迫る。QTとQBを駆使してこれを切り抜けるも、胴体に甲殻の破片が直撃し、装甲を剝がれると共に地面へ落下する。

 何とか姿勢を制御し、地面へ着陸するストレイド。しかし、着地の衝撃で着陸装置が破損し、ホバー走行は不可能となった。さらに推進器のほとんどが破損し、飛ぶことすらままならない。

 

「おっと、どうやらそちらも動けそうになさそうですね」

 

 偶然にも、ストレイドはグゥエールの傍に着地したらしい。

 だが、グゥエールの方も足に異常が見られた。声から察するにあちらも動けないらしい。

 

「その声、やっぱりエルネスティだった」

「おや、もしかしてリンクスですか? お久しぶりです。なんともまぁ、うらやまけしからん機体に乗っておられますね。後で色々聞かせてください。あわよくば乗せてください!!」

「おい、エルネスティ⁉ 今はそんなことを言っている場合ではないだろう!?」

「まぁ、考えとく」

「リンクス!? 君もか? 君は比較的まともな人物だと思っていたんだが?」

 

 ディートリヒのツッコミは無視して、リンクシィは陸皇亀を見据える。

 

「感動の再開は後。今は目の前のデカブツをどうするか」

「そうですねぇ。一つだけ策がありますけど、リスクが大きすぎます」

「私も似たようなもの」

 

 リンクシィはニヤリと笑みを浮かべる。

 おそらく、エルネスティも同じように笑みを浮かべていることだろう。

 

「だったら――」

「じゃあ――」

 

「「どっちもやりましょうか!!」」

 

「もう、勝手にしてくれ……」

「何言ってるんですか。当然、先輩にも手伝ってもらいますよ」

「……」

 

 エルネスティの言葉にディートリヒは死刑宣告された囚人の気持ちになったが、この際無視だ。

 

 陸皇亀が狂ったように迫りくる。竜巻の息吹を放たんと口腔を開き、グゥエールとストレイド目掛け突進する。

 

 先手はリンクシィもといストレイドだ。

 僅かな時間にも関わらず魔力をほぼ完全に回復したストレイドは唯一残された背中の推進器を起動し、最大魔力を注ぎ込む。瞬間的に膨大な爆発力を受けて、ストレイドが陸皇亀へと迫る。

 陸皇亀の頭部に迫る瞬間、ストレイドの各所の装甲が閉じた。そして、魔力を急速にある一点へと集中させる。ストレイドの機体が眩い閃光を放つ。

 

 白き閃光が爆ぜた。圧倒的な爆発力を伴った魔力爆発を起こし、陸皇亀だけでなく周辺一帯へ莫大な衝撃を与える。

 ストレイドの最後の切り札にして、かつての究極兵器を彷彿とされる超戦術級魔法“閃光の衝撃(アサルトアーマー)”だ。

 

 “閃光の衝撃”によって、陸皇亀は突進の勢いを大きく削がれた。しかし、その勢いはストレイドを弾き飛ばすには十分だった。

 呆気なく吹き飛ばされ、肢体を失うストレイド。黒い機体は森の奥へと消えた。

 

 残されたのはエルネスティとディートリヒ、そして、グゥエールのみ。

 グゥエールの操縦をディートリヒに任せたエルネスティはその小さな体に収まりきらない膨大な魔力を行使し、最大級の魔法を発動する。

 陸皇亀の突進の勢いを最大限殺し、衝突と同時にグゥエールは後ろに跳ぶ。

 グゥエールの右手は咄嗟に陸皇亀の左目に突き刺さった剣の柄を掴んだ。エルネスティは操縦を代わるや否や、グゥエールの腕を媒体に魔法を発動する。

 

王手(チェックメイト)です」

 

 静かに、そう宣言した。

 同時に陸皇亀の脳髄をかつてないほどの雷撃が襲う。

 脳を焼かれては流石の陸皇亀もただではすまず、ついに巨体は沈黙した。




ようやく陸皇亀撃破……4話は長すぎる……。

とにかく、次回でようやく一巻目終了です。
そして、本作も一旦終わりです。

それでは、また次回。
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