皆さんの多くの意見に流石にやりすぎたかなと思う今日この頃。
そのうち大掛かりな修正を加えるかもしれませんので、その際はよろしくお願いします。(絶対やるとは言ってない)
前任に変わり着任した早乙女が来てからというものほぼ毎日休むことなく耳にする長門の館内放送はいつにもまして早口で言葉が走り、それでいて声音に焦りが見えた。指示に従いすぐさま艦娘たちは白を基調とした大理石の玄関口に集合した。皆急な招集に皆目見当がつかないものの、真剣な面立ちで銃片手に整列する憲兵がこの場にいることにただならぬことが起きたのだと誰もが察する。早乙女が口を開く。その顔には焦りが伺えた。
「脱柵だ。逃亡者は島風と雪風の両名。守衛室から基地外に出たという報告がないことからまだ基地のどこかにいる可能性が高い。見つけ次第拘束しろ。説得できるに越したことはないが厳しいと判断した場合はテーザーガンで無力化しても構わない。以上だ」
必要最小限のことを皆に伝達すると、憲兵たちは各々散らばっていく。脱柵の二文字に多少戸惑いを見せた艦娘達も事の重大さを理解すると、お互いがお互いに声を掛け合い個々に捜索範囲を振り分け合いそして散らばる。佐世保海軍基地内が慌ただしくなる。事態は急を要した。
「早乙女提督、こちらへ」
憲兵隊長が早乙女を地図を広げたジ―プ前まで呼びよせた。ボンネットに広げられた地図には佐世保海軍基地とその周辺地域が詳細に記されている。隊長はそこへおもむろに赤いペンで大きく円を描くと円内の数か所に罰点印を入れていく。隊長が書き示したそれは雪風並びに島風の逃走想定範囲と既に捜索を開始していた守衛から報告を受けた彼女らの存在を確認できなかった箇所だった。島風の動きが速いことを考慮して想定範囲は比較的大きく想定されていた。
「これが想定される逃走範囲です。既に北門及び南門には部隊を配置しています。彼女たちも艤装をつけていなければ唯の少女たちと変わらないですし、そう遠くへはいけないことでしょう。我々もこういうことには慣れています。見つけるのは時間の問題でしょう」
「少女と変わらない………か」
「なにか目星でも?」
「いや、何でもない。忘れてくれ」
歯切れの悪い反応を示す早乙女に隊長はそれ以上追求することはなく、「そうですか」と返した。その間にも続々と届く報告。海軍基地も無限に広がりがあるわけではない。描かれた円はこの人数でやれば半刻で見て回れるほどの大きさ。彼の言う様に見つけ出すのは時間の問題だろう。そう皆が思っていた。
しかし予想時刻は優に経過したにもかかわらず発見の一報はまだ二人のもとへは入ってこない。隊長はこれはおかしいぞと思わず言葉を漏らす。彼曰くこれほどまでに地図上の円内には多くの罰印がまんべんなく記されているというのにいまだ発見できないことは普通ならあり得ないこととのこと。隊長は考えを巡らせる。そして一つの仮説を口にした。
「もしかしたら誰かが匿っている?」
「なに?」
「あくまでも仮説ですが、海路からの逃走は不可能。北門と南門には部隊が展開している。周囲には塀に囲まれているこの状態でここまで捜索して出てこないとなると誰かが匿っている可能性が濃厚かと」
早乙女にはただ一人そう言った人物が思い浮かんだ。正義感が強く早乙女を真っ向から否定する彼ならやりかねないとそう思った。ちょうどその時その人物からの着信を携帯電話が伝える。早乙女は指をスライドさせ電話に出る。そして彼はその口から早乙女の予想通り驚くべきことを口にした。
「島風と雪風は僕が保護している」
「………やはりお前だったか」
早乙女は通話をしながら指で何かを掴み描くようなジェスチャーをする。隊長はそれが何を意味するかを察するとすぐに早乙女にペンを手渡す。早乙女は地図の片隅に発見の二文字を軽い筆圧で書くと周りからは小さいながらも歓声が上がった。
「手を煩わせたな。いますぐそちらに向かう」
「二人は渡せない」
「なんだと?聞き間違えか?もう一度頼む」
「何度でも言ってやるさ。君には彼女たちを渡さない。渡すもんか!あの二人から事情は聞かせてもらった。お前が彼女たちにやったことも他の艦娘達にもしていることも全てだ。これは大本営にも報告させてもらった。その身をもって償え」
そういって受話器を叩きつける音と共に通話は切れた。
後日早乙女のもとに本部から命令書が届く。内容は短くそれでいて明確で前日の脱柵及び六条提督からの報告について日本海軍元帥じかじかの呼び出しがかかった。予想以上に大きくなった事態に内心驚きつつも早乙女は指示通りに佐世保海軍基地を後にする。その際六条優斗中将の動向が気になることから長門・龍驤・ヴェールヌイの三名を佐世保へ残し、単身で東京へとすぐさま飛んだ。
約二時間弱のフライトと公用車の移動で東京へ着くなり、その日のうちに早乙女は元帥と面会するべく大本営へと訪れた。幸か不幸か元帥もこれを了承すると早乙女は海軍で一番上の階級を保持するその人の部屋の前へと招かれた。
早乙女は緊張した面持ちで扉の前に立つと二度扉をノックし、「入れ」の一言を聞いてから部屋へと入った。そこには元帥と思しき白髪に白ひげを生やした年寄りが手を組み早乙女達を待ち構えていた。元帥の制服の至るところに様々な形をした勲章や褒章の数々がつけられていた。早乙女はここ数か月したことがないほど手の先まで力を入れて敬礼すると階級と自らの名を名乗る。習って朝潮そして叢雲も自分の名を口にした。
「早乙女くん。急な呼び出しだったがご苦労様。さて、今日呼び出された理由は分かっているかね?」
元帥の口調は非常に柔らかくそれでいて優しいものだった。
「は!理解しております」
「六条提督から報告があったが、その内容も理解しているかね?」
「い、いえそこまでは」
そうかと元帥は言うと引き出しからメガネを取り出すとファインダーに目を落とし、書かれた文字を読み上げていく。元帥が読み上げている書面には早乙女が行った雪風への暴力並びに実弾での演習や朝潮に対して行った仲間を撃つことへの強要などその場にいなければわからないことと共に島風と雪風の現在の状況について赤裸々に書かれていた。早乙女は唇をかみしめる。元帥は最後の行まで読み終えると書類を机の上へとおいた。
「これが六条優斗中将から届いた報告書だが、何か反論はあるかね?」
「いえ。事実です」
「………早乙女くん。私は君の優秀さをよく知っているつもりだ。君がこれまでに軍に対して多大な貢献をしてきたことも。君は確かに横須賀に配属されたときも厳しく暴言や時に暴力が目立ったがここまでひどくはなかった。しかし今の君は端から見れば前任の彼としていることは変わらないぞ?今の君には何か焦りが見える。一体どうしたんだ?」
「焦りですか?………そんなつもりは「ないとは言い切れんだろう?違うかい?」
「………そうかもしれません」
俯く早乙女に元帥は来客用のソファに座るように促した。元帥は執務机から立ち上がりその向かいに腰を下ろすと、早乙女に何があったのかを話すように促した。早乙女はゆっくりとその口を動かした。
「元帥。私が焦っているのはこの戦争を終結させるまでのことです。我々は一刻も早く戦争を終わらせる必要があるのです。出来る物なら今すぐにでも。このままいけば取り返しのつかないことになります。最悪国家が崩壊するに」
「国家が崩壊?」
「はい。元帥もご存知の通り我々日本は五年前の深海棲艦が現れるまでエネルギーや食糧だけにとどまらず衣類や天然資源、材料、素材といったその多くを輸入に頼り切っていました。しかし奴らが現れたことで周辺国とをつなぐ海路は封鎖され、タンカー船による輸入ができなくなった現在は国中で物資不足が問題となっています」
「うむ。だからこそ現政府は空輸という代用処置をとっているではないか」
「足りません。一度に運べる量が圧倒的差があります。実際代用処置をとった今でも物資不足は一部政令指定都市や基地まわりでは多少なりとも緩和されましたが食糧問題は以前解決してはいません」
「それと君の焦りと何が関係するんだ」
「今はまだこれといった暴動は起きていませんが、より一層飢餓やいつ終わるかもわからない恐怖に押しつぶされれば民衆の怒りが爆発し暴動がおこります。それも日本各地でです。そうなればもう取り返しがつきません。だからこそそうなる前に一刻も早く終わらせる必要があるのです」
元帥は早乙女らしからぬ必死の訴えを聞き終えると全体重をソファに預け、腕組みをすると考えを巡らせる。早乙女の言う話には元帥を納得させる確たる証拠がなかった。人によってはこれを戯言だと否定するかもしれない。しかし彼の真剣さから言ってこれを無為にはできない。元帥は答えを口にした。
「分かった。次の定例会議に議題として専門家も交えて話し合う。結果はおって君のもとへと伝えるよう配慮しよう」
「は!ありがとうございます」
「君が焦ってた理由は分かった。しかし今回の不祥事の理由とはならん。君には責任を取ってもらう。早乙女海軍中将。今回の一件により君を中将から少将へと降格させるとともに即刻長門、龍驤、ヴェールヌイの三名を所属鎮守府へと帰還させるんだ」
「元帥、お待ちを!それでは」
「早乙女君条件をのむんだ。私も君のことを見込んで十分譲歩しているんだ。君も予備役編入させられるのは嫌だろう?それにここで君に対して甘くすれば私の責任追及問題になってしまう。そうなれば君の予備役編入はゆるぎないものになるだろう」
大本営も一枚岩ではない。元帥の言うことはもっともだった。早乙女は苦虫をかみつぶしたかのような表情を浮かべ、握りこぶしを作り強く力を入れる。元帥はそんな彼の態度を気に留めることはなく流すと彼の前に一つのバインダーを置いた。そこには軍人の顔写真と共に彼ら彼女らの情報が記されていた。
「代わりに君のもとへ教官を四人送る。彼らから真の教育方法を学ぶんだ」
「………了解しました」