黒は白には染まらない   作:RGT

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今回全く話が進みません。ご了承くださいませ。


武器商人

 

 佐世保の地から航空機と公用車を経由して約二時間弱という時間をかけここ東京まできたというのに元帥との会談はものの数十分で終え、早乙女は再敬礼すると部屋を後にした。大本営の長い廊下を歩きながら早乙女中将改め少将は考えを巡らせる。元帥から言い渡されたのは三点。

 一つに今回の島風及び雪風両名の脱柵及び度重なる艦娘に対する過度な指導への罰則として中将から少将への降級。これにより六条優斗の軍における階級が一つ上になるという事態が発生した。軍では建前上上官に無理難題な命令された場合、それを拒否する権利はあるが結局のところ拒否権を行使できる場合は非常に少なく上が絶対傾向にある。このことからこの件に関しては早期に対策を打つ必要があった。二つに同じく罰則として以前に指揮していた鎮守府から無理言って借り入れていたヴェールヌイ・龍驤・長門の三名の強制帰還。三つに早乙女自身の教育係として派遣される艦娘と軍人の計四名の教官。

 この中で最も厄介なのは三つ目だった。これから来る四名の教官の教育方針が早乙女よりの考え方ならいざ知らず、場合によっては今までの考え方が全否定され六条優斗中将のような甘っちょろい鎮守府にされかない。しかしだからといって今の早乙女にはどれもこれも拒むことも抗うこともできない。ただ今はこの事実を受け入れ、どうか予想通りにならないようにと祈ることしかできない。そんな自分自身に無性に腹が立つ。もっとうまく立ち回ればと今になって思えば反省しか出てこない。

 

 これでは駄目だ、一度落ち着こうと早乙女は廊下の一角にある全面ガラス張りの喫煙室に入ると内ポケットに入れていた煙草箱を取り出し一本口にくわえる。すると早乙女の動きに合わせて視界の端から艶のあるか細い若い女性の手が伸びてきた。手にはその若さに反して随分と年季の入ったオイルライターが握られている。指が甲高い金属音を鳴らして蓋をはじきオイルライターに火を灯すと早乙女を促した。

 早乙女はこの好意を無下に扱うつもりはなく、ありがたくライターに顔を近づけ煙草に火をつけて吹かせる。礼を言おうと彼女へと向き直る。そこには早乙女の顔見知りの人物が満面の笑みを浮かべながらライターを手にしていた。早乙女は彼女の名前を知らない。だから彼はいつもこう呼んでいた。

 

「武器商人。なぜお前がここにいる?」

「何度言えば覚えてもらえるんですか?私の名前は武器商人ではなくアリス。アリス・ヘーゼルダインですよ早乙女中将」

 

 彼女ことアリス・アーゼルダインは火の灯していないタバコを加えながら溜息を吐きつつ、そう口にした。

 

「今しがた中将から少将になったばかりだ」

「おっとそれはそれは。理由をお聞きになっても?」

 

 アリスの追及に早乙女は煙草を吹かせて今しがた沸き上がっていた怒りや動揺といった感覚を麻痺させ自身を半ば強制的に落ち着かせると間を開けて「言うと思うか?」と質問に質問で返す。アリスもアリスで答えてもらえるなどさらさら思っていなかったようで、予想通りの答えに「ですよねー」と口にした。

 

「で、なんでお前はここにいるんだ?」

「あ、結局そこに戻りますか?まぁいいです答えましょう。今回は我がヘーゼルダイン社武器開発部門が総力を決し、開発した対深海棲艦兵器のご紹介とご案内をしに来ました!」

「対深海棲艦兵器だと?」

 

 早乙女の食いつきにアイスは意気揚々と話を続ける。

 

「そうです。これを用いれば今や軍の肥やし状態になっている軍人の多くも………ごほん、言葉が過ぎました。えっとですね。私が言いたいのはですね、あの、あれですよ、そう!力を持て余した彼らにもチャンスが来るということです」

「それでそれはどういった物なんだ?」

「それはですね「こんなところにいたんですねアリス・ヘーゼルダインさん!」

 

 二人を遮るようにして声が喫煙室に響く。振り向くとそこには息を切らした女性軍人が立っていた。その表情には安堵の色が伺える。対して当のアリスはというとまるで悪戯がバレた子供のように「見つかっちゃった」と言うと頭を掻いてみせた。女性軍人は何階級も上の早乙女に気づくと慌てて敬礼してみせた。

 早乙女はそれを下ろさせるとこれまでの経緯を女性軍人に問いただす。彼女曰くアリスの傍付きとして来日してからこれまでアリスと行動を共にしてきたが、突然「ちょっと寄り道」と言ってその姿を暗ませたとのこと。

 

「おい、武器商人」

「いや、これはですね、ふと横道を見たら早乙女ちゅ、少将が歩いていたものですから、ご挨拶をしておかなければと思いまして。決して面白半分でやったことでは………はい」

「どうだかな。まぁ、いい。彼女も待っているんだ。早くいけ」

「せめてこの一本だけでも吸わせて。そしたら行きますから」

 

 早乙女は溜息を吐き、女性軍人へと視線を移すと彼女は「分かりました」とただ一言いうと、喫煙室の扉を閉め、部屋の外へと出た。アリスは女性軍人が出ていったのを横目で確認すると、持っていたビジネスバックから一枚の封書を取り出して早乙女に手渡した。早乙女はそれを受け取ると宛名を確認する。しかしどこにもそれといったものは確認できなかった。

 

「これは?」

「私もよく知らないんですが、バックに大きなジャパニーズマフィアがついた大規模裏オークションの招待チケットらしいですよ。話に聞く限り、武器や女・子供に加えて目玉として艦娘も出品されるそうです。もしよろしければどうぞ」

「なんでそんなものを俺に?」

「私に届いたものですが、私自身こんなところ行くつもりもありませんし、もしよろしければ昇級の足しにでもなるように摘発されればいかがでしょうか?幸い招待状には名前らしいものも書いていなかったのでこれを使えば簡単に潜り込めますよ。会社の正装もお貸しいたしますけどどうします?」

「ありがたいがお前にここまでしてもらう理由が思い浮かばない。何が目的だ?」

 

 当然の疑問を早乙女は口にする。いくらアリスとの関係が普通以上あるとはいえ、ここまでしてもらうほどの義理を彼は思いつくことができなかった。

 

「目的って人聞きの悪い。私ってそんなに信用なかったんですか?これはいうなれば一種の先行投資ですよ。私の勘が早乙女少将は今後関りを持っていくべき良物件だと訴えかけてきているような気がしたからです。それに裏オークションで艦娘なんて買ったらすぐに後がついてしまうじゃないですか。そうなればお得意さんである日本とわが社との信用に関わってきますからね」

「腑に落ちないな」

「用心深いですね。本当に少将を貶める気は毛頭ありませんから。ほら受け取って」

 

 そういってアリスは半ば強引に早乙女に封書を押し付けるとまだ残っている煙草を灰皿に押し付けて喫煙室を出ていく。早乙女は受け取った封書を内ポケットに潜ませると、時間差を置いて喫煙室を後にした。早乙女は携帯電話を取り出すと電話をかけた。二、三度呼び出し音を待った後、相手は電話に出た。

 

「お久しぶりです、先輩!どうしましたか?」

「あぁ、いろいろと分け合ってお前に借りていたヴェールヌイに長門と龍驤を明日には帰還させることになった」

「え!?急ですね。どうしたんですか?」

「いろいろあったんだよ。いろいろとな」

「大丈夫なんですか?私にできることならなんでも手を貸しますよ」

「いや、大丈夫だ。どうやらまだまだいけるようだ。とにかくそういうことだからよろしくな」

 

 早乙女は通話を切るとすぐさま佐世保の地にへととんぼ返りするのだった。

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