黒は白には染まらない   作:RGT

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来週再来週はなにかと忙しいため更新がいつできるか不透明です。
ご了承ください。


裏オークション2

 上空から見る姿はまるで鶴ということから「鶴の港」との呼び名で、九州における海の玄関口として世界中から多くのタンカー船がここ長崎港に引っ切り無しに訪れ、以前の長崎港はそれはそれは活気にあふれかえっていた。

 しかし深海棲艦が現れて以降というもの今はその姿はなく、港に近寄る物好きは数少ない。

 

 人はめったなことがない限りは寄り付かず、音を立てたところで気にする者はいない。通報されたところで警察が駆け付けるまでに余裕があり、それでいて辺りには秘密の催しを開くにはちょうどよい大きさの倉庫が点在しているまさに悪事をするのなら絶好のロケーションにオークション主催者が目を付けるのは至極当然のことだった。

 

 早乙女と叢雲は招待状に記されている会場へ港の奥へと車を走らせ、オークションスタッフの指示に従い開けた場所に駐車させる。誘導員は彼らを所定の位置に導くと、すぐさま後続に控えた車両の誘導のために二人から離れていく。

 

 助手席に座っていた叢雲は窓越しに周囲に人影のないことを確認してからダッシュボードに手を伸ばすと、一円硬貨程しかない大きさの通信機が入ったケースと小型拳銃デリンジャーを取り出して通信機を早乙女に手渡し、銃弾の入った拳銃を自らの胸パットの中に潜ませた。

 

「よし、準備はいいな。いくぞ」

「は、はい」

 

 黒のスーツと同じく黒を基調とした花と蝶々柄の刺繍が施されたパーティドレスに身を包んだ二人は車から降りて会場へと歩き出す。

 当初の予定通り二人は親密な関係の男女として立ち振る舞うべく、早乙女は腕を叢雲へと差し出し叢雲は恥ずかしがりながら自らの腕と組むように手を伸ばす。叢雲は建造されてこのかた兵器として戦いに身を置いてきたために、今までこうして男性と腕を組む、引っ付いて歩くという行為の経験が浅いどころか全くない。

 

 恥ずかしさでもあり照れでもある気持ちから早乙女の腕を握る手に力が入る叢雲。そのことに早乙女が気づくと視線を移すことなく声をかけた。

 

「叢雲、力むな。動きが固いぞ。もっと堂々としろ」

「は、はい。自分でも分かってはいるのですが、こんなスパイまがいのことは初めてですし、それにこんなきれいな格好も今まで無縁だったので緊張してて。本当に私でよかったんでしょうか?私が着るとどこか浮いているような感じがしてなりません」

 

 叢雲の率直な意見に早乙女は間髪入れずに似合ってると答え、周りに気づかれない程度に他の女を見てみろと口にした。叢雲は言われたように俯き見えていた足元から視線を周囲へと向けた。確かに早乙女の言う様に叢雲の周りにいる女性たちはより豪華絢爛で胸元が見えそうでみえない際どいパーティドレスを身にまとっているというのに堂々としていた。

 

「お前よりはるかに年老いてる婦人が恥ずかしもなくあんなパーティドレスに身を包んで自分のことをこの場の誰よりもかわいいと錯覚している。年不相応の恰好をしているだけでも相当浮いてるっていうのにそれが一人だけじゃなくそこかしこにいるんだ。多少浮いてたところでまわりはどうとも思わんさ」

「そういうものなのでしょうか?」

「そういうもんだ。さぁここから一層気を引き締めろ」

 

 早乙女と叢雲は閉ざされたオークション会場の外扉を潜り抜けるとそこは倉庫の事務所でスーツ姿の男女二人の運営側の人間が早乙女達を出迎えた。二人の後ろには奥へと続く扉が見て取れた。

 

「ようこそお越しくださいました。招待状をご確認させてもらっても?」

「あぁ、おい、あれを」

 

 「うん」と叢雲は組んだ手を離すとクラッチバックから招待状を取り出した。男はそれを受け取ると、回収したのち流れ作業のごとく次にボディチェックを行うとのことを早乙女に告げた。二人とも拒むことはなく素直にこれに応じる。

 

 早乙女を男が、叢雲を女がそれぞれ腕、背中、腰、足、内股と手探りに隠し持っている物がないかと調べていく。一通り全身を隈なく触れてこれと言って不審なものを持ち合わせていない確認が取れた二人は協力への感謝を口にすると、早々に早乙女達を奥の扉へと通した。

 男に誘導されて廊下の奥へ奥へと進んでいく。廊下にはいくつもの扉が立ち並び閉ざされた先から時折小さいながら喘ぎ声とベットのきしむ音が耳にとどく。叢雲はスタッフの後ろを早乙女の腕に手を通してついてく中、不思議そうに開かれた扉の先を覗き見るとそこには大きなベットとベットを隠すように天井から薄いカーテンが張り巡らされていた。

 ふと振り返った際に叢雲の様子に気づいた男は気を利かせて口を開く。

 

「先ほどからある部屋はいわゆるお試し部屋です。プレミアモノは無理ですが、それ以外ならゴム付きでお楽しみいただけます。買われる方にはその場でゴムなしで楽しんでいただける用意もあります。それに麻薬に道具に酒に言っていただければ大抵のものはご用意できます。おっと、お二人には関係のない話でしたかね。失礼しました」

「プレミアモノ?」

「ご存じありませんか?今回目玉として艦娘がオークションに出品されるらしいんですよ。艦娘は若くて肉付きもよくそれでいて全員が処女ですから皆さん今回は競り落とそうと大金をご持参されている人もちらほらいるらしくて。てっきりお客様もそれが目当てとばかりに」

「いや、初耳だ。いくらぐらいが相場なんだ?」

「確か1000万スタートだったはずです。詳しいことは会場の他のものに聞いてください。さぁ、この先が会場です。お楽しみください」

 

 そう言って男によって開かれた扉の先では既に多くの人がランウェイの上を歩く水着姿の子供や女性に釘付けになっていた。

 今しがた出てきた少女の写真がランウェイの後ろに設置された巨大スクリーン上に表示されるとその横に即決落札価格と現在の落札価格が目まぐるしく変化していく。少女を競り落そうと男たちが躍起になっていた。

 

 早乙女と叢雲はそれには目もくれず倉庫の支えとなる柱の陰に行くと、胸元のパットから隠し持っていた拳銃を取り出し、早乙女はスーツの内ポケットにそれを潜ませたのちに二階へと続く階段を上った。

 

 周囲には何人かの客が酒を仰ぎながら談笑に花を咲かせていた。下よりは人は少なくそれでいて全体が見渡せる絶好の場所で早乙女は耳をかくふりをしてインカムの電源を入れる。

 

「各班報告しろ」

「こちら狙撃犯、配置につきました」

「こちら突入班、近くに控えています」

「こちら海上班準備よしです」

「よし、各班俺の指示があるまではその場で待機。何があっても指示を待て。タイミングが大事だ」

「「「了解」」」

 

「早乙女」

「ん?」

 

 叢雲が早乙女の袖を引いた。そちらへと視線を向けるとそこには一人のスタッフが不気味な笑みを浮かべて二人のガタイの良いガードマンを引き連れて立っていた。

 

「お客様、今宵のオークションはいかがでしょうか?」

「ん?そうだな満足しているぞ。しかしはやく艦娘をこの目に拝みたいな」

 

 そう言って早乙女は薄気味悪い笑みを浮かべるスタッフから視線をそらし、ランウェイに食らいつく客たちを見下ろした。

 

「そうですか。あれは今回の目玉なのでまだ皆さまの前にお出しするのは少々先かと」

「残念だな。軍関係者でもない限りなかなか見れないものだからな。早くこの目で拝みたいものだ」

「何をおっしゃるんですか。既に見慣れているのではないのですか?提督殿?」

 

 後ろに控えたガードマンが周りには見えないように銃を腰に構えた。早乙女は叢雲を自らの後ろに下がらせて庇う様に立つ。

 

「これは何の冗談だ?」

 

 早乙女は怒声交じりにスタッフを睨みつけるが、彼はおじけづけることはなく顔色一つ変えずに捕らえろとただ一言ガードマンに指示する。にやにやと笑みを浮かべながら徐々に距離を詰めてくるガードマン二人。

 

 ここで捕まるわけにはいかない。早乙女は隠し持っていたデリンジャーの引き金を引いた。突然の反撃にガードマンたちは反応が遅れたものの、彼らも反射的に引き金を引く。四発の銃声で放たれた鉛はガードマンたちの胸と頭を、早乙女の腹部と右腕をそれぞれに銃弾が激痛を走らせた。

 

 その場に崩れ落ちるガードマン二人。既にスタッフはその場から離れていた。

 

「て、提督!提督!」

 

 

 

 

 

 早乙女は手すりに寄っかかりながら崩れ落ちるようにその場に座り込む。叢雲は何度も彼の名を呼びかけるが、彼からの反応はない。


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