黒は白には染まらない   作:RGT

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 UAがいつの間にか2000を突破していました。本当に多くの人に読んでいただけて感謝感激です。またジム3さんやカラクリヤシキさんsetyさんの感想は非常に励みになります。今後ともよろしくお願いしいます。(感想の返信が遅いのに関しては勘弁してください)


練習は本番のように本番は練習のように

 

 深海の奥底から現れた全人類共通の敵深海棲艦が初めて牙を剥いたあの災厄の日からおよそ五年の月日が経とうとしていた。現代兵器が効果を成さない敵に対し当初押され気味だった人類だったが、新兵器艦娘の登場により戦況が傾きを見せると幾つかの海域を取り戻すことに成功した。

 

 しかしそれ以降は膠着状態に突入した。勝利しては敗北し敗北して勝利を繰り返す毎日。一向に遠のかない身近に潜む脅威に民衆は怯え、内陸へ内陸へと富裕層から順に多くの人々が身の危険を案じて移住していった。大本営は不安に駆られる民衆のためにも一刻も早く平和を取り戻す必要があった。

 

 そんな最中に設営されたのがここ佐世保演習場だった。幸か不幸か今まで騒音や安全上の問題から停滞していた佐世保湾内に演習場を設営する計画は、人々が内陸に移り住むにつれ反対意見は数を減らし設営問題はおのずと解消されていき、最終的には軍は計画を押し進める形で実行した。佐世保湾内という近場に設営されたおかげもあってか演習を気軽に実施することが可能となり、それに伴って佐世保海軍基地全体の強化につながると結果的に多くの周辺海域を取り戻した。

 

 こうした何とも言い難い経緯のある佐世保演習場に提督の早乙女をはじめとした第三鎮守府の面々が顔を揃えていた。艦娘達のその手にはその背中にはその足には各々の艤装が装着されていた。

 

 早乙女は手にしたファインダーに目を落とすと一番手として演習訓練を実施するメンバーの名前を読み上げていく。赤城、羽黒、青葉、朝潮、島風と順に五人目を読み上げたところで、「以上の五名と」と言って早乙女はおもむろに振り返る。自然と皆の視線は早乙女の後を追う。そこには昨日の執務室荒らしの犯人として懲罰房に入れられていた叢雲が皆と距離を置いたところで一人ポツンと突っ立っていた。

 

「叢雲だ。この六名でヴェールヌイ相手に演習を実施する。尚今回は実弾演習だ」

 

 艦娘から驚愕の声が上がる。あまりのことに青葉は内容を復唱して聞き直した。しかし返ってくる答えは変わらない。早乙女は繰り返し実弾演習の四文字を口にした。ざわつく艦娘達。無理もない。本来演習時には演習弾という専用弾を使うからだ。大本営によって開発されたそれは被弾したところで痛みはなくダメージ量に応じて艤装の機能が停止していき、最終的には無力化されるという撃沈の心配を気にすることなく演習に励める代物だった。てっきり演習弾を使うと想定した分反動も大きかった。

 

「実弾を使うにあたって様々な可能性を考慮して医療班と高速修復材は用意してあるが実際のところ何が起こるかはわからない。最悪撃沈する可能性もある。気を引き締めていけ」

 

 早乙女は言う様に実弾にはもちろんのこと深海棲艦を撃沈にまで追いやるほどの威力が十二分に備えられている。当たれば艦娘だろうとひとたまりもない。最悪撃沈する。おのずと艤装を握る手に力が入った。

 

 しかしあまりの危険性に意見をする者がいた。朝潮だ。

 

「提督。失礼を承知で意見します。なぜ実弾を使うのでしょうか?撃沈の可能性がある中での演習では思ったような動きができないように思えるのですが」

「今回の演習で確認したいのは思う様にいかない環境下での動きを見たいのだ。仮にここで撃沈するような奴はそれまでの奴だ。いずれ戦場に出た時に足を引っ張る。ならば最初から切り捨てる。ひどいと思うかもしれんが、それが軍だ。一人の命よりも集団の命を優先する。それが理由だ、分かったな」

「な、なるほど。ありがとうございます」

「結構。では演習を開始する。それぞれ所定の位置につけ」

 

 演習組は順に堤防から海面へと降り立つ。赤城もそれに続こうとすると早乙女に呼び止められた。

 

「おっと言い忘れていた。赤城、食堂の件は覚えているな?もしこのメンバーで万が一にでもヴェールヌイ相手に勝利出来たら取り消してやろう。代わりに負ければ叢雲もろとも龍驤とヴェールヌイによるワンツーマンの実弾トレーニングを用意してやる。死ぬ気でやるんだな」

「は、はい」

 

 赤城はひきつった笑顔を浮かべると水面へと降り立った。演習組は赤城を中心に取り囲む形で輪形陣を組む。所々に点在する島々でヴェールヌイの姿を視界にとらえることはできない。艤装のセーフティが外れた。これ以降引き金を引けば弾が飛んでいく。ただ飛び出すのは演習弾ではない実弾だ。

 

「皆さん、射線と誤射に注意してください」

「「「了解」」」

「赤城。お前が旗艦だ。艦隊を指揮しろ。また状況に応じて指示を出す」

 

 耳に装着したインカムを通して早乙女の声が届いた。

 

 ライブ映像を流すために龍驤の手から飛び立った撮影班の偵察機が天高く昇っていく。しばらくして演習開始のサイレンが演習場に響く。未だヴェールヌイの姿は見えない。赤城は胸元に手を当て大きく深呼吸すると矢入れに手を伸ばし一矢手に取ると弦に矢をつがえた。弓はしなりを上げて弧を描く。空へと狙いを定めそして矢を放つ。空高く空高く放物線を描いて飛んでいく弓矢。やがて自然発火するとその形を航空機へと変え飛んでいった。

 

 赤城は周囲を警戒するよう指示を出すと思考を巡らせた。敵は駆逐艦ヴェールヌイただ一隻。対してこちらは重巡の青葉に羽黒駆逐の島風、朝潮、叢雲そして正規空母の自分の計六隻。制空権はこちらにある。それを踏まえたうえで考えに考えた。しかし今の赤城にはこの状況から負ける可能性を模索する方が難しい。結果赤城は勝てると結論付けた。その時だった。索敵していた偵察機から知らせが届く。ヴェールヌイが島の合間を縫ってこちらめがけて進んでいるというものだった。

 

「叢雲さんは私の僚艦として援護お願いします。他の皆さんは距離を詰めてこちらに近づけないようお願いします」

 

 赤城の指示を聞き輪形陣を解くと、青葉たちはヴェールヌイとの距離を詰めていく。ヴェールヌイを捕捉した赤城は艦上攻撃機を随時発艦させた。艦攻は真っ直ぐに飛んでいく。これで片が付く。そう思っていた赤城。しかし現実はそうやすやすと理想通りにはいかない。

 入ってきたのは妖精の驚愕交じりの報告。

 

 艦上攻撃機が対空砲と主砲で的確に片っ端から落とされている。

 

 赤城は自分の考えを改めた。どうやらそうやすやすとヴェールヌイは負けてはくれないらしい。このまま航空機を向かわせ続けても被害が大きくなるだけと考えた赤城は偵察機を残して艦上攻撃機を帰還させた。

 

「赤城さん、敵艦を補足しました。射程圏内まで接近します。………って、あ!」

「ど、どうしたの!?」

「ヴェールヌイさんが島陰に下がりました」

「確認します。………ダメです。こちらからも煙幕で補足できません」

「どうしましょうか?煙幕が散るまで待ちましょうか?」

「いえ、攻めましょう。迂回する形で十分注意しながら進んでください」

「了解」

 

 演習は始まったばかりだ。

 

 

 

 

 一方そのころ早乙女達は上空を旋回軌道を描いて飛んでいる偵察機から届く映像を眺めていた。

 

「夕張。お前の目から見てこの演習どちらが勝つと思う?」

「そうですね。………赤城さんたちでしょうか?」

「ほう、それはなぜだ?」

「人数的優位に制空権の確保している今、いくらヴェールヌイさんが教官だからといっても厳しいかと」

「うむ。正しい判断だ。普通ならこの勝負ヴェールヌイが勝つ可能性はないに等しい。しかしな、龍驤お前はどう思う」

「十中八九ヴェールヌイさんが勝つに決まってるやないか」

「え?」

「よーく見ときぃーや。これから見るのは演習じゃない。白狼の狩りや」




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