黒は白には染まらない   作:RGT

9 / 16
 いつの間にか低評価を四つも頂くことになりました。非常に悲しいことですがまぁ取り上げてる内容も内容なので当然でしょう。幸いにも文章の構成などでのダメ出しは未だ頂いてないですし、内容に関しても変えるつもりはありませんしこのまま執筆を続けていく予定ですので、読みたい方だけどうぞ。


一雨

 

 すがすがしい青空のもと始まった実弾演習は島風の暴走から始まり艦娘の練度の低さの露見、埋もれていた才能の発見、六条優斗との対立といった早乙女を一喜一憂させるとともに艦娘達は撃沈するかもしれないという極限の緊張下の中、無事一隻の損失もないまま終了した。

 早乙女は負傷者の運搬や仮設テントの撤去作業などの後始末を赤城に一任すると、長門、龍驤、ヴェールヌイの以下三名の教官を連れて一足先に執務室へと戻った。部屋に入るなり卓上にバインダーを放り投げて椅子に腰を下ろすと、頬杖をついてその溜まりにたまった溜息を吐きだす。その表情からは呆れが見て取れる。

 

「………酷いな、これは。想像以上だ」

「まぁまぁ、提督。そう幻滅するにはあまりに早すぎるんじゃないのか?私が手合わせをした限りでは彼女たちの中にも案外いい動きをする者がちらほらいたぞ?」

「おそらく前任は戦力を一点に集中させて鍛えていたんだろう。確かに何人かの動きには感心させられるものがあったが、個々の能力差にバラつきがあるせいでひとたび動ける者が無力化されればすぐ総崩れだ。特に目に余るのは連携だ。不慣れなチームワークのせいでボロボロ。連携なんてあったものじゃない。俺はいつからブートキャンプの責任者になったんだ?」

「ふふ、ブートキャンプか。あながち悪いことだらけじゃないぞ?」

「何?それはなんだ?教えてくれ」

 

 怪訝そうな顔を浮かべる早乙女。早乙女が最悪と思い込んでいた現状から良い点を見出すことのできる長門が不思議でしょうがなかった。一体何があるのかとこの際藁にもすがる気持ちで長門に次の言葉を促した。

 

「分からないかい?そうだな………提督の言う様にここは新兵いや新兵モドキが多い。これは変えようのない事実だ。しかしこう捉えるとどうだろう?新兵モドキが多いということは未だ戦場を知らず戦い方を知らず何者にも染まっていないということだ。前知識がないということは与えた知識をそのまま吸収するとともに場合によっては化ける可能性があるってことだ。いわば鉱山に埋まった原石の数々だ。今は誰の目からも埋もれてた石ころにしか見えなくたって磨きに磨き上げてあげれば宝石店で並ぶような光り輝くイヤリングやネックレスに指輪にだってなれる可能性を秘めているということ。提督は既に何十個何百個もの原石を磨き上げて世には逸出してきたじゃないか。そんな早乙女太一中将にとっては今更朝飯前だろう、違うかい?」

 

 長門は前向きに捉えてそう言っては見たもののバインダーから顔を覗かせる書類を一枚手に取り苦笑いを浮かべ「これは厄介な」と思わず口にした。書類一枚一枚には艦娘の顔写真と共に提督の評価がチェックされているがどれもこれも判定は最低評価の一歩手前のD評価。最高のA評価を与えられているのが両手で数えられる数いるかどうかの人数だった。龍驤もヴェールヌイも書類をそれぞれ手に取ると一様に苦笑いを浮かべていた。

 

「そうだな。確かにそう考えれば。いくら悲観したところで始まらないしな。さて、始めるとしよう。まずは第一から第三まで人数に制限なく振り分ける。お前たちが戦ってみたところの評価も聞かせてくれ」

 

 それからというもの長門、龍驤そしてヴェールヌイの意見を踏まえて佐世保第三鎮守府の艦娘達を第一艦隊から第三艦隊まで振り分けていく。振り分けの配属部隊によっては厳しい戦闘が予想される。一人のミスがメンバー全員の死につながる実践において、その場で議論する全員が第一艦隊の配属艦を決めかねていた。「彼女はどうだろうか?」「厳しくないかい?」「大丈夫。いけるはずや」「待て待て、筈だで物を言うな」と議論しあえばしあうほど深みにはまっていき、話し合いは一向に進まず後日またその次の日と日を跨ぐ。結局議論に議論を重ね納得のいく振り分けが完成したのは三日後の朝だった。

 

 

 

 後日、早乙女は一部所属艦をひとりひとり執務室に呼び出した。呼び出された彼女達には配属予定が第一艦隊もしくは第二艦隊ということの通達が早乙女の口から直接本人に向かって告げられるとともに早乙女による気勢の確認が執り行われた。艦娘達には配属を辞退する権利が認められていた。

 それには早乙女自身の考えがあったからだ。彼曰く、やる気や度胸がない奴が戦場に出ればいくら力量があったところで足を引っ張るのは明白とのこと。彼独自の持論から早乙女は辞退を認め、認めたことにより既に一名の艦娘が今までのことを踏まえた上で辞退していた。そしてこの空いた穴を埋めるようにして第二艦隊配属予定だった朝潮が急遽執務室へと呼び出されたのだった。

 

 朝潮は館内放送を聞き執務室前まで赴くとドアノブを捻らず暫し立ちすくむ。彼女はなぜ自分が呼ばれたのかを理解していない。大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、朝潮は力強く扉を開くと「朝潮入ります!」と言って部屋へと入った。

 執務室には早乙女と長門両名が奥の執務机ではなく手前の来客用ソファに腰を下ろし待ち構えていた。早乙女は「来たか」と一言いうと向かい合う早乙女の座る反対側に座るように指示する。

 

「………何か飲むか?茶に紅茶にコーヒーにジュース各種とあるがどれにする?」

「!?」

 

 早乙女と出会って日の浅い朝潮だったがここ二、三日と明らかに何かが違う優しさを見せた彼に事の重大さを察した朝潮は身構えた。朝潮に緊張が走る。朝潮は一言一句に細心の注意を払いながら言葉を選ぶように「お茶を」と答えた。早乙女は視線で長門に合図を送る。彼女は立ち上がり執務室と隣接された給水室へと消えた。

 

「今日呼んだのは先日の結果を踏まえ、お前の配属を通達するためだ。朝潮、お前を第一艦隊に配属する」

「だ、第一艦隊にですか!?私が!?」

 

 朝潮は今までで一番の驚きを見せた。命令違反すれすれの行為に提督への反逆と今この場にいることでも奇跡だというのにそんな私が第一艦隊に選ばれるなどありえないと当然の反応を示した。そんな彼女に動じることなく朝潮は言葉を続ける。

 

「確かに一部問題があるものの、戦闘でのヴェールヌイ戦に続き行った長門戦での動きに関してはいい動きをしていたし、ヴェールヌイ戦でのヴェールヌイ島風両者に向けてトリガーを引いたことは多い評価できる」

「しかしあれは提督に言われるがままでしたし、結局当たりませんでした」

「それは練度の問題だ。俺が評価したのはトリガーを引いたことだ。あそこで引き金を引いたからこそヴェールヌイから島風を引きはがせた。お前がやらなければあのまま一方的にやられていただろう。そういった時に仲間にさえも銃口を向け状況を打開できるような朝潮お前みたいな奴が第一艦隊には必要だ。だからお前を呼び出した。しかし第一艦隊になった以上は今後の訓練は倍近く厳しさも磨きをかけていく。お前には拒否権もある。この話を断ってくれてもよい。その場合解体はせず第二、演習組に再配属されることを約束しよう」

 

 長門がお盆に湯呑を二つ抱えて持ってきた。早乙女は「しばらく考えてくれて構わない」というと湯呑に手を伸ばし口へと運んだ。朝潮は考えを巡らせる。先日の演習で泣いていた今の私が果たしてついていけるのだろうか?ろくに戦闘経験のない私が仲間の足を引っ張らないだろうか?果たして私が私が私がと考えれば考えるほど悪い考えが浮かびに浮かぶ。そして悩むこと五分。朝潮は答えを出した。

 

「やります。私やらせてもらいます」

「そうか。本当にやるんだな。もう後戻りはできないぞ?」

「それでもやります!みんなを人々を守るために私は強くなりたい。この戦争を終わらせるために!!!」

「………いい答えだ。なら今からお前を第一艦隊へ配属する」

「はい!」

「最後に何か聞きたいことはあるか?」

 

 朝潮は早乙女と六条が言い争っているときに言いかけそしてやめた彼の言葉を聞き出したかったが、自然と朝潮の口から出た答えは「いえ特には」だった。そういった手前今更聞きたいことがありますとは言い出せず、朝潮は執務室を後にした。

 

 館内放送から早乙女が朝潮を呼び出す声が聞こえた。朝潮は両頬を思いっきり両手で挟み込むように叩き気を引き締めると手始めにヴェールヌイに教授してもらおうと彼女のもとへと向かった。

 

 彼女が白狼の名を継ぐようになるのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

「遅い。遅すぎる」

 

 早乙女は腕時計に目を落とした。朝潮が部屋から退室するのを見送り次に別件で島風を呼び出してから、もうかれこれ十分が経過していた。早乙女は再び館内マイクに手を伸ばすと島風に大至急来るようにと放送した。しかし来ない。

 十分待とうがニ十分待とうがいくら待っても来る気配はなかった。業を煮やした早乙女は仕方ないと同じく別件で呼び出すつもりの雪風を呼ぶ。しかし来ない。

 何かがおかしいと異常を感じた早乙女は雪風と島風の寮室へと直接足を運んだ。そして事件は起きた。

 

「島風、雪風いるか?入るぞ」

 

 早乙女はドアノブに手を伸ばし回す。もし鍵がかかっているのなら回らない筈のそれは何の抵抗もなく回った。早乙女は入るぞの一言と共に部屋の中に入ると目を疑った。そこには何もなかったのだ。備え付けのベット、机、椅子があるだけで生活感を醸し出す物は何一つなくなっていた。

 

 早乙女は部屋の外に取り付けられて内線用の子機を手に取ると執務室へと繋いだ。

 

「こちら執務し「長門、俺だ。緊急事態だ。全艦を至急集めろ!」

「りょ、了解した」

 

 すぐさま館内放送が流れた。

 残された早乙女は行き場のない怒りを壁へと叩きつけた。

 

「糞が!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。