喫茶ーmid nightー 作:江月
リアルが忙し過ぎまして
ま、まあ、見ている人も殆んどいないでしょう
秋の選抜、本選。A、Bの勝ち抜き戦を勝ち上がった各グループ上位四名ずつで行われるトーナメント戦。
一回戦の組み合わせは、A、Bそれぞれの勝ち抜いた者達で組まれることになる。
第一戦は、創真VSアリス。
お題は弁当であり、課題への取り組む姿勢などから創真に軍配が上がった。
第二戦は、黒木場VS田所。お題はラーメン。
どちらも真っ向勝負であったが、こちらは黒木場に軍配が上がった。しかし、田所の力も確りと発揮されており、どちらが勝ってもおかしくはない名勝負であったと言えるだろう。
ここで一日目は終了となる。残りの二戦は翌日に持ち越しだ。
第三戦は、葉山VS緋沙子。お題はハンバーガー。
スッポンバーガーという相当な変わり種を出した緋沙子だったが、葉山の本能そのものを刺激するハンバーガー。葉山へと軍配が上がった。
そして、第四戦。一回戦の最後を飾るのは、タクミ・アルディーニと夜帳昼也の二人。
お題は、デザート。それも食卓の最後にふさわしいテザートだ。
『それでは、これより第四試合。選手の入場です!』
会場アナウンスが響き、観客のボルテージは鰻登り。
観客に埋め尽くされた月天の間。その中央へと向かうための通路に面した扉が開かれる。
最初に現れたのは、タクミ。
その後を、眠たげに目を細めた昼也がのんびりとした足取りでついていく形だ。
そして互いの厨房、その前。つまりは、会場のほぼ中央で向かい合う形となった。
「漸くだ、夜帳昼也」
「…………んあ?」
「オレは全力を尽くす。だから、お前も全力を尽くしてくれ」
「……………」
メラメラと目の中に炎を燃やすタクミの熱意。アクビをしかけていた昼也も、彼の目を見て口を閉じるしかない。
昨日は、彼は寝て過ごすという暴挙に出ていたのだ。原因は、やはりスタンスの違い。
秋の選抜は、その後の自分達のアピールにもなる。故に誰しもが全力全開で事に挑み。その為の試行錯誤や相手の力量把握に努めるのが基本となる。
しかし、昼也の目的は、あくまでも自分の求める至高の一杯を完成させて味わうことにあった。それ故に、皆のように燃えたりしない。
余談だが、昨日は寝て過ごしたと記したが、途中でアリスの襲撃があったりもした。
そして今回、昼也にも感じられる何かが有ったらしい。
お題はデザート。タクミもそうだが、何より昼也の土俵でもあると言える。
『お題はデザート、制限時間は二時間!それでは、調理……開始です!』
その合図と共に二人は動き始めた。
タクミが作るのは、レモンを用いたセミフレッド。
今回は三層タイプのモノであり、試行錯誤の末に産み出された一皿だ。
対する昼也は、というと。
「お、おい、アイツ………」
「コ、コーヒー淹れてるぞ?」
「こんな状況でコーヒーブレイクかよ!?」
観客の言う通り、何故かコーヒーを淹れ始めていた。
確かに、デザートを食べる際に飲み物を出すことはある。しかし、今回に関して言えば、どれだけ飲み物が旨かろうともデザート本体が不味ければお話になら無い。
しかし、この試合を見ている彼の知り合い、特に彼の店へと足を運んだ者ならば何をしようとしているのかすぐに分かった。
同時に、戦慄する。
喫茶―Mid Night―でもレアケースの中でも更にレアアース。割合的にはアップルパイよりも出てこない。
「本当に珍しいわね……」
会場を見下ろしていたえりなは小さく呟く。
彼女含めて、アリスや黒木場、仙左衛門等は昼也が作るものに直ぐに気が付き、同時に食べてみたいと思わされている。
そんな彼女含めた者達の内心など知らない昼也はその手をさっさと進めていく。
苦いだけではダメだ。かといって今回はそこまで酸味を求めていない。
左手でコーヒーを淹れるこの状況。周りがそこに注目するなかで、右手では粉ゼラチンを小鍋に張った水に溶かしている。
そして、小鍋をコンロにかけると火を調整し、右手で念入りに、よくかき混ぜる。
全く別の動作を正中線で分かれてやっていく。
平行作業が得意であり、やるべきタイミングが体で分かる昼也にとってはこの程度の事、訳が無かった。
「………ちょうど、か」
コーヒーを完全に淹れ終えた所で、鍋も同時に沸騰する。
直ぐ様、予め用意しておいた砂糖を鍋の中へと、突っ込んだ。
ここから入れた砂糖が完全に煮とける迄、約1分と少し待つことになる。
この間、五分と掛かっていない。
当然だ、何せこの男、この場に長居するつもりが始めから無かったのだから。
砂糖が溶け終えれば、次は淹れたてのコーヒーの出番。
今回のブレンドは、かなり濃いめ。これはこのタイミングで小鍋に入れるつもりで最初から濃く作った為だ。
コーヒーを入れたら火を止めて、中身が均等に混ざるよう、細心の注意を払ってヘラを回す。
ここで失敗してしまえば、味が悪い処の話ではない。最早食うに値しないモノが出来てしまう。
完全に混ざりきった事を確認し、次は冷やす作業。
ガラスボウルに水を注いで、氷を投入。
その後、鍋を揺らさないように持ち上げて、底だけが水につくように置いた。
ここで、鍋を静かに混ぜる。だまにならないよう、更に気泡が必要以上に出来ないよう丁寧に、だ。
とろみが出てきたら、かき混ぜることを止めて型へと流し込む。
全部流し込めば、後は型を揺れないように冷凍庫へとぶっこむ。
本来は冷蔵庫でじっくりと冷ましたい所なのだが、そこはそれ。その点までも計算に組み込んで調整はとっくに終えている。
「ふぅ…………」
ここまで、10分掛かっていない。
「残りは、冷やし固まる前に作るアレで終わり、と」
指折り数えて次の行程までプランを再確認。
といってもアクシデントもまるでない為に、何も変更は無いのだが。
「…………眠ぃ」
大きなアクビがあふれでた。
■◇◇実食◇◇■
カクテルグラスに盛り付けられ、頭上から注ぐライトによって黒く煌めく宝石たち。
「…………コーヒーゼリー?」
「うっす」
それは、見た目こそ極々一般的なコーヒーゼリー。小さなキューブ状に切られたその上にバランスよくホイップクリームが盛り付けられた形だ。
特筆するべき点は、無い。
「――――いただこう」
最初に手をつけたのは、仙左衛門。
スプーンの上でぷるりと震えるゼリー。そこに、ホイップクリームをほんの少し盛り付ける。
そして、一口。
「こ、これは……!」
「旨い……!」
舌の肥えた審査員たちも止まらないスプーン。
シンプル故に作り手の技倆全てを要求するのがこのデザートだ。
何より、自称バリスタの昼也には相性が良い。
本来ならば淹れたてのコーヒーなど用いず、インスタントコーヒーで十分だった。
「このブレンドを、お主のオリジナルか?」
「……ええ、まあ。インスタントコーヒーじゃ、俺の欲しい味が出なかったもんで」
「このクリームにも何か?仄かに香りがするように思えるのだが」
「予めスパイスを幾つか。ホイップクリームそのままだと、せっかくのコーヒーの香りや味を邪魔しかねなかったっすから」
審査員の問いに答えながら、昼也は調理場の台へと半ば腰掛けていた。
やはり眠そうであり、傍らに置かれたカップには、いつの間にやらコーヒーが注がれている。
今回の料理勝負は、味以上に時間の勝負でもあったのだ。
そもそもお題は、“食卓の最後にふさわしいデザート”。つまり、それを食べれば後は何も食べなくても良い、若しくは食事を終えようとする気持ちになる、そんなデザートを作ることがお題とも言える。
つまりは、既にこの場は決した、ということ。
■◇◇◇■◇◇◇■
二回戦
第一戦、幸平創真VS葉山アキラ
第二戦、黒木場リョウVS夜帳昼也