鋼の不死鳥 黎明の唄   作:生野の猫梅酒

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#22 蘇りし厄祭

 かつての厄祭戦にて作成された数多の兵器たち。そのうちの一つに、ダインスレイヴと呼ばれる兵器があった。

 持ち主を破滅させる魔剣の名を冠したこれは、MSのフレームや武装にも用いられる『高硬度レアアロイ』合金で作成された弾頭を、レールガンよろしく超高速で射出する兵器である。その威力は目を見張るものがあり、実弾兵器に対して強力な防護能力を持つMSや艦船すらも容易く貫けるほどだ。

 しかしこの過剰ともいえる破壊力が問題視され、現在はダインスレイヴは禁止兵器とされている。故に軽々しく使えば責任問題などが発生する、文字通りに自身も敵も破滅させてしまう超兵器なのだ。

 

 では、この過剰火力を誰に対して向けていたのか。答えは至ってシンプル。

 天使の名を冠した殺戮の化身たちを殲滅するために生み出されたのが、ダインスレイヴなのだから。

 

 ◇

 

 かつてのギャラルホルンはMAと人間を相手取り、厄祭戦を収束に導いてみせた組織である。

 それ故にMAの討伐はむしろ望むところ、十八番ともいえる部類だろう。

 

「イオク様、降下準備全て整いました」

「ご苦労。すぐに私も行くとしよう」

 

 ──ただしそれは、MAの脅威を正しく知っていればの話となるのだが。

 

 火星の上空、静止軌道上には五隻もの艦隊が浮かんでいた。地球からはるばるやって来たこの艦隊はクジャン家が保有する独自の戦力だ。指揮官はクジャン家当主たるイオク、部下は当然クジャン家に従う忠義に厚い部下たちである。

 五隻並んだ艦隊の中央には旗艦が存在しており、そこの艦橋(ブリッジ)にイオク・クジャンの姿はあった。

 

「しかしイオク様、よろしかったのですか? これはファリド公が請け負った任務のはず、いくらセブンスターズと言えども勝手な介入など……」

「いいや、心配する事など何一つないとも。かつてギャラルホルンの本分はMAの破壊、および殲滅にあった。であれば我らギャラルホルンがMAを代わりに討伐することに何の異論があるだろうか?」

 

 「否、無いであろう!」と胸を張って宣言するイオクに、周囲の部下たちはこっそり頭を抱えた。確かにイオクの言っていることも間違いではない。例え獲物を横取りする事態になっても、討伐したという実績があれば糾弾を黙らせることは可能だ。仮にもセブンスターズ、それができるだけの権利はある。

 だが、もし自らがMAの討伐を果たせなかった時のことをイオクは忘れてしまっている。MAにちょっかいだけかけて敗走、その尻拭いをマクギリス陣営に任せたとあっては心証は最悪だ。少なくともイオクの責任が問われてしまうのは確かなはず。

 

 だからイオクに思いとどまって欲しかったのが部下たちの総意だ。けれど彼は聞く耳持たなかったし、あくまでも部下である彼らには反論などできるはずもない。出来るのはせめてイオクがMAとの戦いで戦死しないように気を配ることくらいだ。

 そんな部下たちの不安の色を察したのだろうか。イオクはフッと頬を緩めると、その場にいる全員を見渡してから勇ましく宣言したのである。

 

「皆の気持ちも理解できる。これが失敗すれば私の立場も危うくなるし、ラスタル様の復権も時間をかける羽目になってしまう。しかしだ! 私はラスタル様に恩がある。幾度となく導いてもらい、助けてもらった。ならば、この大恩に報いる時があるとすればそれは今なのだ!」

「イオク様……!」

「不安に思う事はない。MAといえどもたかが旧世代の遺物、我らクジャン家の手にかかれば恐れるに足らず。この私と、そして皆の尽力を持って見事大義を成し遂げてみせるのだ!」

 

 熱く震える言葉だった。無意識のうちに敬愛を籠めてイオクの名を呟く。際限なく戦意が昂揚するのを心と肌で感じ取る。

 イオク・クジャンは確かに足りないところが多いかもしれない。けれど、その心に抱く正義感は紛れもなく本物なのだ。であれば強い想いを胸に抱いた彼を、いったい誰が止められようか。付き従う部下たちだって、そんな彼の姿にこそ先代クジャン公の姿を見るのだから。

 

 どれだけMAが強かろうと、此処に集った者たちならばあるいは──

 艦橋が次第に熱気に包まれる中、ふと冷や水を浴びせ掛けるようなコールがあった。どうやら何者かからの通信らしい。

 

「どうした、誰からの通信だ?」

「それが……ファリド公からのものです!」

「なんだと? どうしてあの男が……!?」

 

 マクギリス・ファリド。その男はイオクにとって苦々しい存在だ。裏でこそこそと暗躍し、火星の民間組織などと手を結び、挙句の果てにラスタルの権威を失墜させた怨敵。好きになれるはずもない。

 とはいえ、同じセブンスターズが相手となれば無視を決め込むわけにもいかない。それにここで通信を取れば焦ったマクギリスの姿が見れるかも知れないのだ。無視する必要性は感じられなかった。

 

「いいだろう、繋げ」

 

 イオクの言葉と共に、艦橋のメインモニターにマクギリスの姿が映し出された。予想に反していつも通りのすまし顔。背景から察するに、彼も艦船に乗っているのだろう。

 

「何用だ、マクギリス・ファリド。貴殿の出番はないはずだが?」

『それはこちらの台詞だ、イオク・クジャンよ。MA破壊の任は我らファリド家に関連する者が請け負うと、あの会議で決定されたはず。君の行いはそれに反しているが?』

 

 やはりそのことだったかと、イオクは内心で嘲笑った。これまで常に一歩先をリードしてきたマクギリスだが、ついにイオクがその先を行ったのだ。それが証拠にマクギリスはイオクに連絡を入れてきた。きっとMA討伐を思い留まれとでも言ってくるのだろう。

 もちろん、イオクにそんな気はさらさら無かったのだが。

 

「反しているもなにも、MAの破壊はギャラルホルンの任務の一環だろう。むしろそちらが無駄な被害を出さずに済むのだから、感謝されても良いくらいではないかね? ああ、それとも──貴様は七星勲章が惜しいのかな?」

『……さて、なんの事やら』

 

 はぐらかしこそしたが、瞑目したマクギリスの態度は何より雄弁な答えだった。その姿を見てイオクの溜飲もようやく下がる。

 

「くっ、ハハハハハッ! とうとう馬脚を露わしたなマクギリス! 全てが貴様の思い通りになると考えているなら、それは大きな間違いだ。この私、イオク・クジャンがそれを証明してみせよう!」

『ならば、観念して私から一つ忠告をさせてもらおう。MAを侮るなよ、イオク・クジャン。もし君があの禁止兵器を持ち出しているのなら、決してアテにはしないことだ』

「ふんっ、負け惜しみを……! 貴様は遠くから、指を咥えて見ているがいい。七星勲章が我らクジャン家の手中に収まるところをな!」

『そうか。では、せいぜい高みから見物させてもらおう』

 

 その言葉を最後にマクギリスとの通信が切れた。最後の最後までマクギリスは余裕そうな表情を崩さなかった、それがイオクには腹立たしい。ようやく一矢報いれると思ったのに、マクギリスからすれば些事に過ぎないと言うのだろうか。

 ──だからイオクは気が付けない。マクギリスはとっくにイオクの性格を把握している事に。彼はマクギリスの言葉など信用するはずもないのだから、正直な忠告こそ彼を陥れるための最適解だと知っているのだ。

 

「いいや、そんなはずがない。あの男にとっても我らの動きは手痛い打撃となるはずだ。MAの評価とて所詮は誇張、私を脅すための吹聴に過ぎん……!」

 

 湧き上がる疑念を圧し潰して自らを納得させたイオクは、今の不愉快なやり取りをすっかり忘れる事にした。これからMA討伐を控えているのだ、余計なしがらみなど持たない方が良いに決まっている。

 そうしていよいよ艦橋を出ようという時、またしてもイオクは呼び止められた。

 

「イオク様、一つ確認しておきたいことが」

「今度はなんだ? 時間がない、手短にしろ」

「はっ! ではお聞きしますが、MAの存在位置は火星の民間企業が保有する採掘場だったはず。こちらにはあまり被害を出さない方がよろしいと考えますが、どうお考えでしょうか?」

「確かにその通りだろう。しかし、世の中には大儀という言葉がある。MAの破壊などその最たるもの、何より優先すべきことを前にしては多少の被害もやむを得まい」

「……分かりました、ではその通りに」

 

 不承不承といった部下だが、彼らとて軍人だ。上がやると言うならどのような事でもやる。例えそれが人情に反するような、可能な限りやりたくない行いでもだ。

 かくして方針は決定された。自信満々に艦橋を出ていくイオクと、彼に従う部下たち。そんな彼らを無言で見送ったのは、これまで一度も喋らなかった女性だ。彼女は呆れたような溜息を一つ吐くと、短い金髪をかき上げた。

 

 イオクのお守ではなくラスタルの命を受けて着いてきた、ジュリエッタ・ジュリスである。

 

「イオク様、あんまり無茶なことはしないで欲しいのですがね……もし鏖殺の不死鳥とやらが出てきたら、真っ先にカモにされそうですし」

 

 ラスタルからは戦うなとは言われたが、もし鏖殺の不死鳥が出てくれば交戦は避けられないだろう。だからできればそうなる前に片を付けて欲しいのだが……たぶんそれは、期待するだけ無駄なのだろうと。ジュリエッタは再度重い溜息を吐いたのだった。

 

 ◇

 

 火星の空高くに太陽が輝く頃。

 

 降下用の専用装備をパージしながらクジャン家のMSが火星の荒野に降り立った。レギンレイズが十体、グレイズが四十体からなる総数五十もの大戦力である。クジャン家が誇る最大戦力が惜しみもなくMA討伐へ投入されたのだ。

 セブンスターズの本気が垣間見える一大戦力は採掘場より距離を取りつつ、着実に作戦実施の為の布陣を整えていく。その中でも目を引くのは、十機ほどのMSが持つ巨大な武装だろう。彼らが肩越しにそれを構えると、後方でもう十機のMSが細長い弾頭を装填していく。

 

 禁止兵器ことダインスレイヴ。それがこの兵器の名であり、イオクがMA討伐に際して最も信頼している兵器でもあった。

 

「では手筈通りに行こう。ダインスレイヴ隊は砲弾の装填を、囮役は私と共に着いてこい!」

『ダインスレイヴ隊、承知しました!』

 

 クジャン家によるMA討伐の作戦は非常に簡潔である。採掘場で休眠状態のMAを囮役が起動させてから、持ってきたダインスレイヴで一気に仕留めてしまうのだ。

 休眠状態のMAに直接ダインスレイヴを叩きこまないのは、ひとえに粗を潰すためだ。もし埋まったままのMAに向けてダインスレイヴを放てば、採掘場がどうなるかは想像に難くない。むしろ分かった上で禁止兵器(ダインスレイヴ)を私有地に打ち込んだとして、世論からの弾圧は免れないだろう。なにせ彼らはMAの脅威など知らないのだから。

 けれどMAが目覚め明確な脅威を発揮すれば、世論もそんなことは言えなくなる。今のイオクは独断で動いている以上、万が一にも非難される事態は避けたかったのである。

 

 リスクは大きい。けれど後顧の憂いなくMAを討ち取るには、これが最も堅実な方法だとイオクは確信している。だからこそ、その先駆けは自らが行うのも彼にとっては当然の事だった。

 

『イオク様、囮役は我らがやります。どうかイオク様は後方での援護を……』

「それはならん! 最も模範になるべき私がお前たちの後ろに隠れてなんとするのだ。任せておけ、そう簡単にやられはしないさ」

『分かりました……どうかご武運を、イオク様』

「ああ、お前たちもな」

 

 囮役はイオクを含め十名、ちょうどレギンレイズ隊が全員囮を務める計算となる。彼らでMAを起動させ、足止めを果たしている内にダインスレイヴ隊が仕留めるのだ。

 いよいよレギンレイズ隊がMAへと向かい進みだした。武器を構えながら一歩、また一歩とMAと距離を詰める。どの段階でMAが起動するかは不明だが、とにかく変化が見えるまで進むだけだ。

 

「一向に目覚める気配がないな……もしや休眠状態ではなく壊れていたのか?」

『可能性としてはあり得ますが……あまり期待するのもどうかと』

「それもそうだな。あくまでも油断せず、迅速に対処しなければ」

 

 緊張で息がつまる。囮役の十名も、それを背後で見守る四十人もの部下たちも、口数は少なかった。これから自分たちが目覚めさせ、仕留めなければならない災厄に想いを馳せる。恐ろしいが、ここまで来たら立ち向かう他に道は無い。

 

 そして、ついにその時が訪れる。もはや肉眼でもその威容が確認できるほどの近さ。採掘場の淵にイオク機が足を踏み出した時だった。

 

 ──恐るべき厄祭が息を吹き返したのだ。

 

「……! 来たかッ! 全員後退せよッ!」

 

 イオクの言葉に反応したかのように、MAの頭部らしき部位に光が灯る。ついで爆発、白い爆炎が地中を駆け抜けた。その原因は大地を抉りながら上空へと逸れると、天を焦がすかのごとく一筋の光となって貫いた。今は失われたビーム兵器である。

 素早く機体を後退させたイオクたちを追うように姿を現したのは、赤と白を基調とした殺戮の天使。まるで鳥のような見た目をしたそいつは流動性のワイヤーを揺らしながら、悠然と目標を見定めた。MAのAIはイオクたち囮組と、その背後に控えているダインスレイヴ隊を敵として認識したのだ。

 

「今だ! ダインスレイヴ隊、放てーッ!!」

『一番から五番、発射!!』

 

 足を止めているMAはまさに格好の標的、この機を逃さず即座にダインスレイヴ隊による掃射が成された。まずは装填済みの半分だけ、仕留め切れなかった時のことを考えてもう半分を温存した部下たちの判断は見事なものだろう。

 けれど彼らは知らなかった。考慮に入れていなかった。例え三百年前の遺物であろうとも、禁止兵器を持ち出そうとも。MAはなお最強最悪の兵器であるという事を。

 放たれた五発ものダインスレイヴ、常人ならば避けられるはずもない。だがMAは常人ではない。脆弱なAIを抱えてもいない。人を滅ぼすためのAIは、人を遥かに凌駕した頭脳で効率的に人を狩るのだから。

 ダインスレイヴの脅威を即座に認識したMAは即座に跳躍した。機械とは思えない滑らかな挙動、本当に鳥のように淀みない動きだった。宙を飛んだMAの真下、土煙のあがるそこをダインスレイヴは空しく通過するだけ。

 

 ──ダインスレイヴの致命的な弱点。それは高機動力を持つ相手には命中率が落ちてしまうことだ。どうしても一点集中になるダインスレイヴではMAを捉えきれない。故にダインスレイヴではなくガンダム・フレームが開発される結果となったのだが……それを知らないイオクたちでは、もはやどうしようもなかった。

 

「なん、だと……!」

『馬鹿な、今のを躱すのか!』

『MA、なんて化け物なんだ……』

 

 あまりにも呆気なく必殺の兵器を躱されてしまい、しばし誰もが呆然とする。目の前で起こった不条理を認められない。

 そして、その隙を見逃すMAでもない。合理的にして容赦の無いAIは。先の一撃が自分にとって十分な脅威となることを理解していた。だからまずは、目の前の羽虫ではなくそちらから殺戮することに決めたのだ。

 

 跳躍したMAはブースターに火を点けた。巨大に見合わぬ急激な加速をつけると、瞬く間にダインスレイヴ隊との距離を詰める。まさか宙をこれほどまでに速く飛ぶとは思っていなかったから、誰もがこの動きに対応できなかったのだ。

 次に起きたのは予定調和のごとき蹂躙劇。巨体に見合わぬ速度と変幻自在のテイルブレードを勢いよく振るう。MSの腕が飛んだ。足がひしゃげた。頭がねじれ飛び、鉤爪のような足でコクピットを踏みつぶされた。ダインスレイヴを保有するMSは特に念入りに破壊され、パイロットの生存など期待するべくもない。

 

「そんな、馬鹿な……」

『生存者は、生存者はいないのか!?』

『返事をしろ! おい、なんとか言ってくれ!』

 

 一方的。的確な言葉はそれしかない。あまりにも無慈悲で残虐で、予定調和のごとき殺戮だ。

 

 たったの一分。それが形成逆転の為に必要な時間だった。MAに反撃する者もいたのだが、頑強な装甲を持つMAには決定打にならない。MAもそれを理解しているから、些細な抵抗になど構うことなく蹂躙を続けていく。

 

 さらに採掘場からは無数の黒い子機たちが登場し、MAが見過ごしたイオクたちへと襲い掛かり始めた。一機、十機、三十機、まだ増えて五十は越えたか──もはや絶望的な戦力差だ。

 十機のMSだけでは、最新鋭機のレギンレイズだけでは、とても話にならない。ライフルを放ちアックスで迎撃するがそんなものは多勢に無勢だ。死をほんの数秒先延ばしているだけに過ぎない。

 

「なんだ、なんなのだこれは……!? MAとはこれほどの強さなのか!?」

『イオク様ッ! ここは撤退を! 今の我らではもはや太刀打ちできません!』

「しかし……ッ! お前たちを見捨てるわけには!」

 

 言い訳ならば幾らでも出来る。

 MAの力を侮っていた。

 即座にダインスレイヴ隊の脅威を認識して対処するとは思えなかった。

 自分たちの方が物量で負ける羽目になるとは想像すらしなかった。

 

 ──全ては結果論でしかない。イオクたちはMAの脅威を正確に知らなかったからこうなった。これはただ、それだけの話だ。

 五十機いたはずのMS隊は今や十数機が残るのみ、勝敗は誰の目にも明らかだった。

 

『行ってくださいイオク様! ここは我らが凌ぎます!』

『あなたの命は、あなた一人の命ではありません……! クジャン家の未来をどうかお考え下さい……!』

「ぐうっ……すまない、お前たち! この恩は忘れない……ッ! 絶対にお前たちの仇は取ってみせるぞ! クジャン家の名に誓って!」

 

 部下たちの決死の覚悟、伝わらないイオクではなかった。この事態を引き起こした責が自分にあるとしても、いや、だからこそ生きねばならない。そうでなければ死に行く部下たちに申し開きが立たないのだから。

 イオクが戦線離脱の為に背を向き、部下たちがMAと子機の群れに決死の特攻をかけようとした──その時だった。

 

「なんだ?」

 

 唐突にコクピット内に警告音が鳴り響いた。レーダーに感あり、急速に接近してきている。MSの反応だ。そいつはイオクたちの頭上を越えて躊躇うことなくMAに突撃すると、手に持った大剣でMAをぶっ飛ばしたのだ。

 まるで時間が止まったかのように、誰もが動きを停止した。MSも、MAも、子機も、誰もかもだ。ただやって来た乱入者だけが、赤と金の機体を操り大剣を構えなおす。

 

 データベース照合──機体名、ASW-G-37 GUNDAM PHOENIX。

 いつかの会議でマクギリスが口にしていた鏖殺の不死鳥。それが乱入者の名前だった。

 

『困るのですよ、勝手に死なれたら』

 

 正体不明のMS──フェニクスから通信が来た。平坦な少女の声、どこか不機嫌そうな色を帯びている。

 吹き飛ばされたMAの方は即座に受け身を取ると、滑らかな挙動で体勢を立て直した。しかしもはや、MAはイオクたちを標的にはしていない。先ほどまでの蹂躙劇は嘘のように静まり、MAは殺すべき標的を眼前のフェニクスただ一機に定めたのだ。

 

「助けに来て、くれたのか……?」

『助けに来た? ……まあ、ある意味ではそうかもしれませんね』

 

 どろりとした熱量を含んだ肯定。何かが違うとイオクは感じた。けれどそれを考える暇はない。

 ちょうどイオクたちを庇うようにMAの前に立ったフェニクス。そのツインアイは鮮血に塗れたかのように赤く染まっていて──どこまでも不吉を連想させるものだった。

 

『ここであなた達が死んでしまったら、ジゼルの殺害数(とりぶん)が少なくなってしまいますからね。ええ、だからあなたは邪魔なんですよMA。すぐにでもジゼルの前から消えてくださいな』

 

 一言で表せば同族嫌悪。明確な敵意をもってジゼルはMAを破壊すると誓い。

 MAもまたフェニクスと、なによりジゼルの存在が不快で堪らないとばかりにその身体を震わせたのである。

 

 ──互いに不倶戴天の存在同士、遭遇してしまえば殺し合うより他に道は無く。

 

 こうして、過去より羽ばたいた鏖殺の不死鳥(あくま)は、ついに蘇りし厄祭(どうるい)と相見えたのだ。




おまけ:ジゼルのちょっとした裏設定
【名前】ジゼル・アルムフェルト
【年齢】(#22時点では)20歳?
【身長/体重】158センチ/48キロ
【概要】…人殺しを何より楽しむ破綻者。MS操縦技術は高く頭脳もそれなりのものがあるが、その全てが最終的には誰かを殺すことに繋がっている。ある意味では人類種の天敵。
性格はマイペース&天然。超辛党。髪の毛が長すぎるせいで洗う際はシャンプーを丸々一本使うときもあるとかないとか。
実は密かに胸が小さいのを気にしている。しかしそんなことより殺人を優先するため、やっぱり気にしていないのかもしれない。
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