鋼の不死鳥 黎明の唄   作:生野の猫梅酒

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#24 邂逅

 ──MAへカノンブレードを叩きつける。勢いとガンダム特有の出力に押され殺戮の天使の巨体が一歩後退した。

 フェニクスの機動力を活かして背後へと一息に跳躍。狙い通り即座にMAは追撃し、目的地へとさらに近づいた。

 厄介なMAの子機(プルーマ)たちはフラウロスを中心とした援護射撃により、少しづつだが数を減らしてきている。数の暴力という武器は失われ始めた。

 

 ここまで全てジゼルとフェニクス、そして鉄華団の掌の上だ。まもなくMAは作戦通りに目的地である谷間へと誘導され、そこで本格的にプルーマの数を減らされることだろう。その後は単機となったMAをフェニクスと鉄華団のMS部隊で破壊すれば片がつく。あくびが出るほどシンプルな作戦で、それ故に穴がない。

 

「まったく、手間ばかりかかって面白みが一つもありませんね」

 

 だからつまらなそうにぼやいたジゼルの文句は、戦闘という状況のわりに暢気だった。

 

 ジゼルからすれば、まずMAと矛を交えること自体が不本意である。確かにMAとの戦闘経験はあるし、今もそれなりに対応できている自信がある。だが彼女の本領は何といっても対人特化、殺戮こそ最も望むところなのだ。人が乗ってるわけでもないMAが相手ではやや調子が落ちるのは否めない。ありていにいって”ノれない”と表現すべきか。

 とはいえ仕事は仕事であり、破壊すべきMAをほったらかしにしてまで目の前のご馳走(にんげん)に飛びつくわけにもいかない。狂人にしては意外なくらい強い理性だが、ことジゼルに関しては特筆に値しない。それだけの分別を備えているからこそ、彼女は有能にして悪辣な殺人鬼となり得るのだから。

 

 あたかも機械のように面白みも高揚感も感じられず、平坦な心のままにMAを追い詰めていくジゼル。その中でふと、自嘲の形に唇が歪んでいたことに気づいた。

 

「この程度、同じ条件なら三日月さんだって出来るでしょうに。つくづくジゼルは度し難い人間ですね」

 

 MAの誇る機動力も、攻撃力も、全て三百年前から知っている。しかも今回は頼れる味方からの援護だって存在する。だから無傷でMAを手玉に取ることが出来るのであって、この程度のことはジゼルにとってなんら自慢にならないのだ。あるいは三日月の方が、MS操縦の総合力を問うなら確実に自分(ジゼル)より上だろう。

 やはり自分は殺人特化、人間を相手にしている方がよほど力を発揮できる──などと考え直したところで、先ほどまで散々に利用させてもらったクジャン家の者たちを思い出した。そういえば数人ほど逃がしてしまったが、彼らについてはどうしようか? それこそ三日月といった腕の立つ人間に頼んで鹵獲してもらおうか、うん、そうしよう。

 

 ふと気がつけば、目的地である谷間入り口は既に間近だ。

 

「すみません、誰か手の空いている人は先ほどのMS数機を追っていただければ──」

『自分で追えばいいんじゃない?』

 

 あくまで己の役割に徹した発言を否定したのは、ジゼルに負けず劣らず淡々とした少年の声。

 それと同時に、MAの目の前に一機のMSが躍り出た。白と青の二色が特徴的なその機体は、鉄華団を象徴するガンダム・フレームに相違ない。不調によって消極的な参戦に留められていたはずなのに、いかなる理由かバルバトスが前線に飛び込んできたのだ。

 もちろんジゼルは聞いていない。それどころか鉄華団の誰もが予想だにしない状況だろう。だが現にバルバトスはMAを相手取り始め、それが証拠にツインアイもフェニクス同様に赤く輝いている。対MA用にリミッターの外れた証だ。

 

 バルバトスは巨大なメイスを振りかぶると、MAを相手に一歩も譲らず渡り合い始めた。軽やかに動き、重い一撃を叩きつける。その動き、先のジゼルにも劣らない。むしろ初見の相手ということを鑑みれば、彼のほうがより良い動きをしていると言えるほどだ。

 

『こっちは俺たちで抑えとくから、アンタは向こうの逃げたのを追えば? そっちの方が適任でしょ』

 

 そんな最中だというのに、三日月・オーガスはあくまで普段どおりの調子を保っていた。

 

「一理ありますね。ですが、MAってけっこう強いですよ?」

『ん……まあなんとかしてみるよ。どうせアンタがいなけりゃ、俺が先陣切ってただろうし』

「そうですか。ならお言葉に甘えましょう」

 

 お互いに言葉数は少ないが、それで意思疎通は完了した。既にMAの誘導というジゼル最大の役目は終わっている。後はMAを破壊さえ出来れば、誰が相手をしても良いのだ。結果としてどのような代償が阿頼耶識システムからもたらされようともそればかりは自己責任、ジゼルが気にする事ではなかった。

 即座に機体を元来た方向へと転換させる。フェニクスの機動力ならすぐにでも追いつけるだろう。スロットルを全開にしてバーニアを吹かせながらレーダーに目をやれば、一分もしないで追いつける程度の距離しかない。

 

 これなら取り逃がす心配は無い──そう確信したところで、ジゼルは通信機のスイッチを入れた。

 

「そういうわけですので団長さん、ジゼルは先ほどの方たちを追いかけます。MAは三日月さんが相手をしてくれるようです」

『……ったく、ミカは調子悪い機体で待機も聞かずに突っ込んじまうし、アンタはアンタで勝手に戦線を離脱するしで指揮するこっちとしちゃいい迷惑だ』

 

 不満げに嘯いてから、オルガは『とはいえ』と続けた。

 

『今回の一件、鉄華団にも土地的な意味では被害が出てんだ。たとえ向こうにどんな事情があったにせよ、この落とし前は付けさせなきゃなんねぇ』

「どのような形であろうとも?」

『そうだ』

 

 一連の事態はそもそも鉄華団が預かっていた事案に、別勢力が我が物顔で乱入してきたことに起因する。今のところ採掘場以外目立った被害は出ていないが、それでも少なくない被害を鉄華団が被ったのは事実だろう。

 そして鉄華団は──いや、こう言い換えよう。鉄華団団長オルガ・イツカは、筋を通さないことを何より嫌う。恩があるなら絶対に報いるし、仇があるなら必ず落とし前を付けさせる。それが彼にとっての信念なのだ。

 ……まあ、だからといってまだ死人も出てないような被害状況で、相手を殺す必要まであるかといえば疑問は残るが。オルガは敢えてその先の思考にまで手を伸ばしてはいなかった。これ以上を考えてしまうのは、それこそジゼルに対して不義理であると言えよう。

 

 だからオルガは、躊躇うことなくジゼルに指示を出したのだ。

 

『生死は問わねぇ、アンタが納得いく形で終わらせろ。ただし、あんまり時間をかけないでくれよ。下手をすればミカがMAにやられちまう可能性だってあるんだからな』

「重々承知していますとも。では、五分で終わらせてきましょう」

『任せた』

 

 短い信頼の言葉を最後に通信が切れた。その言葉のくすぐったさをほんの一瞬ジゼルは楽しんでから、即座に思考を狩人のそれに切り替える。悪辣にして破綻した狩人の獲物はもう目の前だ。

 どこまで見渡しても赤い火星の荒野を駆けているのは、四機のレギンレイズである。正確に言えば地上を駆ける青緑色の三機が、黄色にカラーリングされたレギンレイズを運んでいる状態だ。お荷物なのか動けないのかは知らないが、これでは確かにフェニクスから逃れることは難しいだろう。

 

 と、ちょうどフェニクスが接敵する直前だった。その黄色のレギンレイズが三機を振り払ったのである。地に足をつけて長大な砲身をフェニクスに向けたそいつから、何度か通信に乗って聞こえてきた声が聞こえてきた。

 

「貴様が無慈悲にも摘んでいった部下たちの仇! このイオク・クジャンが刺し違えてでも取ってみせる!」

 

 もう黄色のレギンレイズはすぐ目の前だった。カノンブレードを振りかぶり、一息に叩き潰そうと思っていたジゼルなのだが、不意に聞こえてきたこの口上で咄嗟に攻撃を止めてしまう。看過するには少しばかり()()()()()内容だったからだ。

 

『へぇ、あなたが噂のイオク・クジャンでしたか……これはまたどうしたものか。少々困りましたね』

 

 念のために距離を取りつつ、素早く思考を巡らせる。

 今回の一件がこのイオク・クジャンが中心となって起きた事態だというのは知っていた。そして彼はセブンスターズ、政敵であるマクギリスがMAを討伐すると宣したことを知らないはずも無い。

 ならばどういうことか。決まっている、手柄を横取りしてマクギリスがこれ以上進出するのを抑えたかったのだろう。理屈は納得できるがしかし、アプローチの仕方が致命的だったのは否めない。

 

 今の口上を鑑みれば、このイオクという人物に人並み以上の正義感があることは推し量れる。だがその影響でやや感情的になりすぎてしまい、今回のような大騒動の引き金を引いてしまったと考えるのが自然だろう。

 

「使えますね、この人……」

 

 誰にも聞こえないほど小さな声でジゼルは笑った。

 上の立場に居て、正義感が強く、けれどその感情に素直すぎて結果が伴わない。ついでに言えばMSの操縦技術も良いとはいえないだろう。なのにMAの討伐に乗り出す向こう見ずさも良い塩梅だ。

 端的に言おう。素晴らしい。ここで一息に殺してしまうのはあまりに惜しいくらいカモである。きっと彼はこれからも大いに迷走して、戦いと死を振りまいてくれることだろう。

 元々は皆殺しの予定だったが、一の殺人を我慢する代わりに後で十も百も殺せるのなら選択肢は一つしかない。この機を利用しない法は無かった。

 

 そうと決まれば結論は早い。イオク機を守るように前に出た三機のレギンレイズを殲滅し、彼だけ捕虜という形で鹵獲してしまえば良いのである。

 

 ──だけどその前に、だ。

 

「先にあなたから殺してしまいましょう。ね、乱入者さん?」

 

 センサーに感有り。確認のために空を仰ぎ見る。そこにいたのは、抜けるように青い空から降りてきた新手のレギンレイズだ。他とは違う専用カスタムが見られるそれは、腕の立つパイロットが搭乗している何よりの証左。油断できる相手ではない。

 だからまずはそちらに対応すべく、ジゼルは降り注ぐ銃撃を避けるためにフェニクスを後方へと下がらせたのだった。

 

 ◇

 

 今回の行動が命令を離れた独断に基づくと指摘されてしまえば、それを否定できるだけの根拠が無かったのはジュリエッタも認めるところである。

 火星の静止軌道上に陣取ったクジャン家の艦隊で待機していたジュリエッタだが、当初はラスタルの命令通りに鏖殺の不死鳥とやらを監視するだけに留めていた。イオクたちがMAに追い詰められても、件の不死鳥に命を狙われても、命令に背いてまで介入するつもりは微塵も無かったのだ。

 

 ただ、一つ誤算があったとするならば──

 

「あれだけ頼まれてしまえば、さすがに無為に突っぱねるわけにもいきませんし……」

 

 素早く愛機に乗って艦から飛び出したジュリエッタは、火星大気圏への降下シークエンスを開始しつつもぼやいた。その内容が示すところは、先ほど艦橋で行われたクジャン家お付の部下たちとの会話である。

 

「どうか、イオク様をお救いください!」

「私からもお願いします!」

「わ、私もです!」

「は、はあ……」

 

 艦橋で逐一イオクと、それにガンダム・フェニクスの行動を知らせてもらっていたジュリエッタに向けられたのはそんな言葉だった。思わず戸惑いの言葉が漏れたのも仕方ないと言えよう。

 状況は悪い方向へと傾いている。クジャン家がMAの討伐に失敗し、すさまじいしっぺ返しを食らっていること。鉄華団が戦闘に介入していること。そして何より、鏖殺の不死鳥がクジャン家の部下たちを間接的にでも殺害して回っていること。詳細な部分はともかく、火星でそんな一方的な状況が起きていることは掴んでいたのだ。

 ジュリエッタに介入するつもりが無いのは事実だが、かといってこうも頼み込まれてしまえば断るのも難しかった。イオクの部下たちは皆、心から彼のことを案じてジュリエッタに頼み込んできている。元よりイオクのお守りをしていた彼女だから、部下たちの苦労には共感できてしまったのだ。それを無下にしてしまうのは良心が痛んでしまうのも無理はない。

 

 だが、それだけならまだ軍人として断っていただろう。それでも彼らの頼みに頷いてしまったのは、ジュリエッタの個人的な思惑によるところが非常に大きい。

 

「七星勲章に鏖殺の不死鳥……どちらをとっても得るものは大きい。なら、少しでもラスタル様の力になりたい」

 

 レギンレイズのメインモニターは大気圏突入時特有の赤い光に覆われている。その最中、ジュリエッタは自らの思いを無意識に吐露していた。

 

 仮にイオクの言うとおりに七星勲章が手に入れば、ラスタルの復権はかなり楽になるのは間違いない。短絡的な意見ではあるが、成功した際のメリットも考えれば一蹴することも難しい。現状ではもはや不可能ともいえる行いだが、全てが間違っていたわけでもないのだ。

 そしてもう一つ、鏖殺の不死鳥。これについては純粋な興味が勝った。ラスタルほどの人物が交戦を禁じる相手で、もっと言えば”髭のおじ様”を殺害した張本人でもある。いまさらそのことについて私怨を燃やすつもりは無いが、どれほどの手練なのか興味があるのは事実だ。

 

 ジュリエッタから見て、ガラン・モッサは素晴らしいMS乗りだった。傭兵としても優れていたし、性格的にもあらゆる意味で非の打ち所が無い。まさに完璧で模範的な人物という印象だ。

 そんな彼を打ち破った者と戦えれば、未だ力不足な自分もさらなる高みへと手をかけられるかもしれない。それにラスタルの命令を破ってしまうのは心苦しいが、ここでセブンスターズのイオクに死なれては困るのも本心だ。きっとラスタルもそれを承知していたからこそ、”戦うな”と言いながらジュリエッタをイオクに付いていかせたのだろう。

 

『何をしているかと思えば、やはり鏖殺の不死鳥に目を付けられていましたか。先ほどの啖呵はともかく、イオク様では相手にならないと思うので引っ込んでいてください』

「ジュリエッタ……」

 

 このような諸々の理由から、ジュリエッタはイオク救出作戦に手を貸すことを承諾した。いまさら七星勲章を狙おうとまでは思わない。だが、イオクを適当に救出がてらガンダム・フェニクスと交戦できるのなら文句は無いのだ。

 火星の空から舞い降りたジュリエッタは、イオクたちを庇うようにして前に立った。眼前には事も無げに銃撃を回避した鏖殺の不死鳥の姿がある。挨拶代わりの一撃だったが、掠り傷一つとて負わせられなかったらしい。

 

「イオク様、ご無事ですか?」

『あ、ああ……まさかお前が来てくれるとはな、ジュリエッタ』

「変なお礼はいいので、部下の皆さんと一緒にさっさとここから離脱してください。少しですがコイツは私が足止めしますので」

『なっ──! しかしそいつは──』

 

 それ以上イオクの言葉に構っている暇は無かった。何の予兆も無く、鏖殺の不死鳥の姿がゆらりとぶれたからである。気がつけば懐すぐ近くまでフェニクスは迫っていた。MSの巨体とはとても信じられない滑らかさでだ。

 

「このっ……!」

 

 咄嗟にレギンレイズのガントレットで防ごうとしたジュリエッタは、これまた直前で思い直した。ほとんど反射的にレギンレイズを後退させると同時、フェニクスの持つ巨大兵装が叩きつけられる。豪快な音と共に大地が割れた。背筋を冷や汗が伝う。考えるだに恐ろしい破壊力だ。

 大剣と大砲が一体化したようなそれは、まともに食らえばガントレットごと腕部がへし折られると見て間違いない。ジュリエッタが持ちうる武装では受け止めるのは至難の技、回避し続ける他に手が無い。

 

『我らも援護いたします!』

「な、待ちなさい!」

 

 フェニクスの武器は巨大すぎるが故に取り回しは難しい。その隙を突くようにイオクの部下たち三名がフェニクスへと一斉攻撃を仕掛けた。通常のレギンレイズに配備されている一三〇ミリライフルの応酬だ。

 戦術的に見れば間違いではないだろう。けれどジュリエッタは嫌な予感が止まらなかった。それはフェニクスの悪評を聞いていたからかもしれないし、あるいは今このときも垂れ流されている濃密すぎる殺気が影響しているのかも知れなかった。

 

『そんなに死にたいのですかぁ? もちろんジゼルは大歓迎ですけども』

 

 嘲笑うような、歓喜に浸るような、美しくも不快な声が聞こえてきたその時である。フェニクスが飛び上がった。地に叩き付けた大剣を軸にして、あたかも棒高飛びでもするかのように宙を舞ったのである。

 阿頼耶識により人と遜色ない動きが出来るからこその芸当。スポーツ選手か何かのように鮮やかに宙を跳んだフェニクスは、腰部ブレードを射出した。ワイヤーで本体と繋がったそれは自由自在に空中を走ると、部下たち三機のレギンレイズの武装を事も無げにはたき落としてみせる。

 さらには宙を浮くフェニクスを追って巨大兵装が浮かび上がる。鏖殺の不死鳥が向かう先には離脱を果たそうとしていたイオクの姿、彼女の狙いは最初からそれだった。

 

「行かせるものですか!」

 

 目的が割れれば妨害も容易い。即座にジュリエッタは武装のツインパイル、その一つの柄をフェニクスに向けた。次の瞬間、柄の先端が射出される。ワイヤーと繋がったアンカーは敵を拘束するにも、自身が取り付き接近するにも優れた兵装だ。

 しかしフェニクスは器用だった。空中でスラスターを微調整、機体に急速な加速を加えることで逃れてみせる。さらにお返しとばかりに巨大兵装をジュリエッタに投げつけてくる始末、突拍子もない曲芸じみた攻撃にさしものジュリエッタも防戦に徹するほか無い。

 その間にもフェニクスは鮮やかに地へ着地すると、瞬く間にイオクへと迫った。イオクも観念したのか足を止めて迎撃を敢行するが、彼の技量ではとてもじゃないが鏖殺の不死鳥は止められない。予想に違わずフェニクスは苦も無くイオクに肉薄すると、振り絞った右の拳で思い切り殴りつけたのだ。

 

『な、ぐあッ! なにを、こんな……ッ!』

 

 機体を揺さぶられた衝撃か、イオクの呻き声がジュリエッタまで届く。体勢を崩したイオク機が火星の大地に倒れると同時、フェニクスは右足の鉤爪(パワード・クロー)でイオク機の左足をがっちりとホールドした。そして──レギンレイズのフレームごと、力任せに捻じ切ったのである。

 いくら力自慢のガンダム・フレームとはいえ、あまりにも力技すぎる。しかし効果的ではあった。イオクの技量では片足だけのMSでフェニクスから逃げ切るのは不可能だろうし、鏖殺の不死鳥としての残虐性をアピールするにはこれ以上ないデモンストレーションだ。すぐにでも殺さなかったのは囮だからなのか、鹵獲する気なのか。その狙いは分からない。どうせ碌でもないことなのは確かだろうが。

 

 ついでとばかりにフェニクスはイオク機のレールガンを踏み砕く。小規模な爆発が起こり、爆焔と共に禍々しく鋼鉄の不死鳥が照らし出される。

 まるで悪魔のよう。ガンダム・フレームにとっては当たり前の言葉が、このとき何よりもフェニクスには相応しかった。

 

『さて、あと三分しか残ってないので、急いで殺させてもらいましょう。団長さんとの約束を破るわけにもいかないので』

「あんまり──格下だと舐めないで欲しいものですねッ!!」

 

 強い。間違いなく目の前の敵はジュリエッタの中で過去最強だ。ともすれば、撤退することすらかなわないかもしれない。

 それでもジュリエッタは萎えそうな自身を奮い立たせて、威勢よくフェニクスへと向かったのである。

 

 ──全ては勝利と、ラスタル様の為に。彼女の原動力はただそれのみなのだから。

 




今話でも書いた通りここではイオク様は死にません。ジゼルは明確にイオクを鹵獲する方針で動き始めています。それ以外の面々についてはまた次回以降ということで。
ただまあ、イオク様もイオク様ですので、そう簡単に良い目を見たりはしませんが。どこまでもジゼルは悪辣ですとだけ言っておきましょう。

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