鋼の不死鳥 黎明の唄   作:生野の猫梅酒

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#3 生粋の

 採掘プラント襲撃事件から一夜明け、ほんの少しづつだが平穏が戻ってきた。その頃には採掘プラント復興のための段取りは全て整えられ、それに伴って鉄華団が手伝うことも殆どなくなってしまっていた。

 なのでオルガは応援に来ていたメンバー共々朝一番で鉄華団本部へと帰還し、行き場のないジゼル・アルムフェルトもまた、ひとまず本部へと案内されていたのだった。

 

「本当にフェニクスを見てくれるのですか?」

「そういうことになってるらしいな。ま、とは言っても多少のメンテくらいだけどな。それ以上は色んな意味でまだ無理だ」

 

 鉄華団の保有する格納庫にて、到着早々にジゼルと雪之丞はフェニクスの処遇について話し合っていた。

 

 いくら頑丈さが取り柄のMSといえど、三百年も地下に埋まっていれば経年劣化などが起こり本来の性能とはかけ離れてしまう。これではいざという時に動作不良が起きる可能性もぐっと高まってしまうし、取り柄である耐久性すら信用できなくなるのだ。

 そこで、オルガの提案でフェニクスの簡易的なメンテナンスが行われる事となったのである。成り行きで助けたとはいえ鉄華団の団員でもないジゼルにそこまで便宜を図ってくれるのは、ひとえに”筋”を重視するオルガの性格によるものだろう。もちろん費用も人手も嵩む以上、本格的なメンテナンスとまではいかないが。

 

「良かったね、フェニクス」

 

 囁くように鋼鉄の不死鳥へと語り掛けるジゼル。土埃が付着し、風化によって傷だらけな装甲を愛おしそうに撫でた。珍しく表情にも微笑が浮かんでいるようで、それだけ彼女がこのMSを大切にしているということがうかがえる。

 

「そんだけ大事に扱ってもらえりゃ、フェニクス(そいつ)も願ったりだろうな」

「この子は、ジゼルにとっては無くてはならないので。フェニクスと唐辛子のどっちを取るかと言われれば、苦渋の末にフェニクスを選ぶくらいには大切です」

「そこは嘘でも『迷わず選ぶ』くらい言ってやれよ……香辛料と天秤にかけられるMSなんざ聞いたことがねぇ」

 

 こりゃどうしようもないとばかりに空を仰ぐ雪之丞。採掘プラントでジゼルのマイペースぶりは知っていたが、それでも彼女の相手は荷が重すぎた。むしろオルガはよくこんな少女を鉄華団まで引っ張ってきたものだとしきりに感心してしまうほどである。

 と、フェニクスを眺めていたはずのジゼルが視線を外した。しばらく格納庫内を彷徨って、それから雪之丞へと戻ってくる。何か探し物でもあるのだろうか。

 

採掘プラント(あっち)で別のガンダム・フレームの姿を見たのですが、此処には無いのですか?」

「いや、バルバトスは──」

「バルバトスは別の格納庫にあるよ。そっちで整備中」

 

 雪之丞の言葉に割り込むように、少年の声が聞こえてきた。そちらへ目をやれば、小柄な少年が一人立っている。もごもごと口を動かしているのは、何かを食べているからだろうか。怪我でもしたのか右腕を吊っているその少年は、よくみれば非常に筋肉質な身体つきだ。

 懐から取り出した火星ヤシを食べているその少年──三日月・オーガスは、しげしげとジゼルを見つめていた。初めて見る顔だから、多少の興味をそそられたのだろう。

 

「というか、アンタ誰?」

「ジゼル・アルムフェルト、ガンダム・フェニクスのパイロットです。あなたは?」

「三日月・オーガス、ガンダム・バルバトスのパイロットをやってる」

「そうですか」

「うん」

「……」

「……」

「いや、せっかくなんだし何か話せよお前ら」

 

 静まってしまった場の気まずさに耐えかねて、雪之丞はついツッコミを入れてしまう。

 もとより三日月は口数の多い方ではないし、ジゼルは何を考えているのかはっきり言ってよく分からない。だから、そんな両者が相対すればこうなるのは半ば自明の事と言えた。

 雪之丞のツッコミにも我関せず、およそ十秒ほど経っただろうか。先に口を開いたのは三日月の方だった。

 

「アンタ、なんか変な感じだね。立ってるだけなのに、まるで銃を突き付けられてるみたいだ」

「……面白いことを言いますね」

「別に冗談ってつもりでもないんだけど……まぁ、いいか。それじゃあね、おやっさん」

 

 それだけ言ってスタスタと背を向け去っていく三日月と、その背中を視線で追うジゼル。雪之丞は結局何も言えず仕舞いだ。独特の雰囲気に気圧されてしまい、言うべき言葉が見つからなかった。

 

 例えるならそれは──狩人と獣だろうか。

 

「何しに来たんですか、彼?」

「そういやそうだな……ま、気儘な三日月の事だしあんまし気にしなくてもいいと思うぜ」

「はい」

 

 素直に頷くジゼルである。たぶんお世辞でも何でもなくて、本気でそう思っているのだろう。

 その時、格納庫と居住区を結ぶ通路から小走りに移動する足音が響いてきた。近づいてきた足音は鉄の扉を勢いよく開けて、真っすぐジゼルと雪之丞の下へとやって来る。オレンジ色のくせ毛が特徴的な少年だ。

 

「よぉ、どうしたライド。なんかあったか?」

「あ、おやっさん! 俺は団長からの連絡を預かって来たんだ! えーと、ジ、ジ……」

「ジゼル・アルムフェルトか?」

「そうそう、その人! たぶん格納庫にいるだろうから、社長室の方まで連れてきてくれって!」

「分かりました」

 

 きっとここからが彼女にとっての分水嶺なんだな、そう直感的に感じ取った雪之丞は去っていくジゼルの背中を見送るのだった。

 

 ◇

 

「さてと、待たせてすまなかったな。とはいえ、そろそろアンタの処遇もはっきりさせておきたい。それは分かるな?」

「ふぁい」

 

 テーブルを挟んでソファにちんまりと座っているのは、サンドイッチを口いっぱいに放り込んだジゼルであった。服装は今だパイロットスーツのままである。

 ひとまず鉄華団に着いてきた彼女ではあるが、まだ正式に鉄華団に加入したわけではない。それはこれから行われる面接にて決められる。普段ならこうも厳格にはしないが、相手の言動が言動だけに慎重に決めようとオルガが考えた故だ。

 しかし当のジゼルは緊張した様子もなく、むしろハムスターのように口を膨らませて気の抜ける返事をした。その上、サンドイッチはとても気が抜けるものではない。異臭が、届くのである。

 

「……おいおい、そいつってさっきハバネロソースかけまくってたやつだよな? んないっぺんに食べて舌おかしくなんねぇのか?」

「いえ、別に」

 

 ドン引きといった様子でジゼルを眺めているのは、鉄華団の副団長ユージン・セブンスターク。さらに頷いているのは二番隊隊長として抜擢された昭弘・アルトランドだ。どちらも鉄華団の最古参メンバーであり、オルガからの信頼も厚い。二人はオルガの後ろについて、それとなくジゼルの警戒を行っているのだ。

 とにかくジゼルはその激辛と思しきサンドイッチを平然と咀嚼し、満足げに飲み込んだ。これで四つ目、やはりとんだ食欲である。ゲテモノ料理をマジマジと見せつけられた三人は、とても食欲など湧かないが。

 

「ともかく、本題に入るとしよう。まずはアンタの名前と簡単なプロフィールを教えてくれ」

「了解しました。ジゼル・アルムフェルト、十八歳。左利き、身長は一五八センチ、体重は四十八キロ。他には──」

「待て、待て、俺たちが訊きたいのはそんな個人情報じゃあない。つか仮にもアンタ女だろうが。体重だのなんだのペラペラ言うなよ」

「すみません、ちょっとした冗談のつもりでした」

「あれで冗談とか、それこそ冗談キツイぜ……」

 

 どうにもつかみどころのない女だ。天然ともどこか違う、常人とは感覚がズレているのだろうか。これまでの鉄華団には縁の無かったタイプ、これは会話するだけでも難儀するだろうとこの場の誰もが理解する。

 そうして、今度こそ臨時の鉄華団面接試験が始まった。

 

「もしアンタが鉄華団に加入、ないし雇われたとして、何が出来る? 先にアンタのセールスポイントを教えて貰おうじゃないか」

「何が出来るかといえば……フェニクスに乗って邪魔な敵を皆殺しにするのは得意ですね。後はMA(モビルアーマー)と戦うのもそこそこ得意な方です。あまり楽しくはないですがね」

「MA?」

 

 物騒なアピールの中に混じるのは、誰一人として聞き覚えのない単語だ。響きはMS(モビルスーツ)にも似ているが──

 

「ご存知ないのですか? おかしいな、あれは厄祭戦の発端となった最低最悪の殺戮兵器なのに」

「……気にはなるが、長くなりそうだから後にしよう。それで、他には?」

「他には、そうですね……これでも軍人だったので一通りの事務仕事はできますよ」

「そいつは本当か!?」

「え、ええ、まあはい」

 

 思わず立ち上がって訊き返してしまう。そのせいで「まあ机仕事よりも戦場に出してもらう方がありがたいのですが」というジゼルの言葉も耳には入らなかった。

 覆しようのない事実として、現在の鉄華団は圧倒的に事務担当が不足している。そもそもからして学問に縁の無かった子供たちの立ち上げた組織だから仕方ないのだが、事業を拡大した今その不足は致命的であったのだ。団員の募集もかけているし、数少ない大人たちが支えてくれているのだが……それも、いつまで続くやら。

 

「今は一人でも多く事務仕事が出来る奴が欲しい。そういう意味では、今のでアンタの内定はほぼ決まったようなもんだ」

「あまりそっち方面で評価されても嬉しくないのですが、まあいいでしょう。ジゼルも褒められて悪い気はしませんし」

 

 パイロットとして腕が立ち、そのうえ手薄になっている事務方を埋めてくれるなら万々歳である。これは是非とも引き入れたい、能力だけ見ればオールラウンドな得難い存在だ。

 とはいえ、まだ肝心な箇所を訊いていない。オルガが”ほぼ”と述べたように、まだこれから出てくる話次第でいかようにでもジゼルの処遇は変わってくるのだから。

 

 ジゼル・アルムフェルトという少女の正体。それは避けては通れぬ問いかけであった。

 

「そんじゃ、こっからは互いに腹割って行こうじゃねぇか。改めて訊くが、アンタ何者(なにもん)だ?」

「ジゼルの生まれは、地球にあるアルムフェルト家のお屋敷です。けれど訳あって家を飛び出して、ガンダム・フェニクスのパイロットとして厄祭戦に参加していました」

「やっぱ厄祭戦絡みか……そりゃあ三百年以上前のガンダム・フレームと一緒に発掘されたならそうなるよな」

 

 よどみなく告げられたそれは半ば以上予想がついていたとはいえ、改めて聞かされると驚くばかりだ。三百年という長い時間を、ただの人間が飛び越えて蘇ってきたのだから。普通ならとても信じられるような事ではない。

 しかしそれさえ判明してしまえば、自然とあの黒い棺桶のような装置の正体にも予測は着く。

 

「となれば、あの棺桶もどきはコールドスリープの装置だったって訳か。それを俺たちが掘り起こしたせいでアンタは目覚めたと。それならさっきのMAとやらの話とも辻褄が合うはずだ」

「ご名答です、団長さん。ですがジゼルも、まさか現在が三百年後だとは思ってもみませんでした。今知ったのですが、これは驚きですね」

 

 言葉とは裏腹に、大して驚いた様子もない淡々とした口調だった。普通ならもっと取り乱すなり動揺するなりしてもいいだろうに、どこも堪えた素振りがない。たった一人未来に放り込まれた十八の少女の振る舞いにしては、違和感がありすぎる。

 最初から分かってはいたが、やはりどうにも異様だ。どうにも眼前の少女は、自分たちの価値観とは大幅にズレたものの見方をしている。それを見極めないことには、仮に鉄華団に入れたとしても問題しか起きないだろう。

 

「……お前には、残してきた家族はいないのか? いや、そもそもどうしてコールドスリープなんて道を選んだ。その若さなら幾らでも進める道はあっただろうに」

「それは違うのですよ、筋肉の人。ジゼルは、戦いの中でしか生きられません」

「そいつはどういう意味だ?」

 

 さりげない筋肉呼ばわりを無視して、昭弘はさらに話を進めた。彼にとっては、いや、鉄華団にとっては家族は何よりも大切な存在なのだ。それを捨ててまで戦争に参戦し、あまつさえいつ目が覚めるかも分からぬ道を選ぶなど正気の沙汰とは思えなかった。

 

「これは、あまり人に打ち明けるべきものではないのですが」

「構わねぇよ。つーかそれを訊かないことには俺たちはアンタを信用できない」

「なるほど、道理です」

 

 珍しく、ジゼルの表情にはっきりと色がつく。鮮やかなその色彩は、抑えきれない喜悦だろうか。

 その時オルガの頭をよぎったのは、昨日のジゼルの暴れぶりだ。嬉々としてMSとの戦いに赴く彼女を戦闘狂(バトルジャンキー)だと評したが、本当にそうなのだろうか。実はもっと恐ろしいものを隠し持っているのでは? 一度広がった疑問は、さざ波のように心を揺らして離さない。

 

 ──ジゼルの言葉は聴くべきではない。第六感がしきりに警鐘を鳴らしているが、もはや遅かった。

 

「ジゼルは、何故だか人を殺すのがとても好きなのです。他者の積み上げてきた数十年の人生を一瞬で台無しにする時の、あの感覚が堪らなく愛おしくて。だから厄祭戦が終わって治安も安定したあの時代には、もう用はありませんでした」

 

 その瞬間、可憐な容貌をしたマイペースな少女はそこにはなく。

 いるのはただ、ジゼルと同じ姿形をした生粋の殺人鬼(ナチュラルボーンキラー)であったのだ。

 




まったくもって血なまぐさい、とても女主人公らしくない嗜好を持った彼女。自分でも微妙に不安になったりします。
鉄血のオルフェンズにおける医療技術はかなり発達しているため、コールドスリープくらいなら実用化されていてもおかしくないかなと考えた次第であります。
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