鋼の不死鳥 黎明の唄   作:生野の猫梅酒

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#37 落とし前

 ジャスレイ・ドノミコルスは焦っていた。

 

 自身がオルガ・イツカの暗殺を依頼した贔屓の組織、ハウリングとの連絡が付かなくなったのだ。五日前、ジャスレイとの通信を最後にパッタリである。それ以降は誰がどう手を尽くそうともうんともすんとも言わないせいで、果たして彼らの状況がどうなっているのか全く知る余地も無かったのである。

 それに加えて唐突なマクマードの下への呼び出し、焦らない訳がない。もしや自分の企てが全部バレたのか。『そんなことあり得ないと』心の中で笑いながらも、完全に否定しきれない自分も居た。

 

 もうマクマードの部屋のすぐ手前まで来ている。いい加減に覚悟を決めるべきだろうと自らを鼓舞し、ゆっくりと扉を開けた。

 

「失礼しますぜ、親父」

「おう、来たかジャスレイ。ちょいとお前さんに用があってな、呼び出させてもらったぜ」

 

 マクマードはいつも通り、和装のまま窓際の盆栽を弄っている。鋏をパチパチと閉じる音だけが嫌に大きく聞こえるのは、らしくもなくジャスレイが緊張しているからだろうか。

 一分程度も盆栽を弄っていたのだろうか。黙って次の言葉を待つジャスレイの前で、ようやくマクマードは盆栽から目を離した。どっしりと椅子に座ると加えた葉巻に火を点ける。

 

「待たせてすまねぇな、ちょうどいい塩梅だったからやり切っちまいたかった」

「いえ、別に気にしてなんか……」

「そうか、そりゃなにより。んじゃ本題に入るが──鉄華団団長オルガ・イツカが襲撃を喰らったって話は聞いたか?」

 

 やはりその話か。現在の歳星では、鉄華団団長の乗った艦が航路中に襲撃を受け撃墜、団長含め乗員三名は現場に急行した鉄華団のメンバーが死に物狂いで探しても見つからなかったと噂が広がっている。不安や疑惑が広がる中、当然ジャスレイが雇ったハウリングについての話は全くない。

 ジャスレイの脳裏にすぐさま打算や焦りといった感情が渦巻くが、彼はそれをおくびにも出さず平静に言葉を続けた。

 

「ええ、ぼちぼちは。連中、馬鹿な奴らですよ。せっかく俺が好意で護衛でも紹介してやろうと思ってたのに、下らない見栄張っておっ()んじまったんですから」

「ま、本当に死んじまったんならその点はあんま否定できんがな。実は一人、あのジゼルって嬢ちゃんだけ生き残ってんだよ。そいつが面白い情報を持ってきてくれてな」

「そいつぁ……良かったじゃねぇっすか」

 

 咄嗟にそう答えられたのは半ば奇跡のようなものだった。内心は逆も逆、いっそ呪ってやりたいほどの焦燥感に包まれていた。

 五日前の最後の通信の状況からして、ジゼルとやらはほぼ確実にハウリングに攻め込んだはず。普通なら単機で一組織を相手取るなど狂った所業でしかないのだが、生きているということはつまり勝ったという事実に他ならない。馬鹿馬鹿しい、夢なら寝て見ろと文句の一つも付けたくなる。

 あのときの不安が現実のものになり始めている──ジワジワと背筋を嫌な汗が噴き出しては落ちていく。その渦巻く胸中を見透かしたかのように、マクマードの視線が鋭くなった。

 

「でだよ、その嬢ちゃんが面白いモン引っ提げて鉄華団のイサリビと一緒に帰ってきたのがつい昨日だ。こいつを聞いた時は俺もたまげたぜ、お前さんも是非耳に入れてくれよ」

 

 駄目だ、駄目だ、駄目だ。直感で理解した、聞いてはならない。それを聞いたが最後、ジャスレイの全てが終わることになる。

 心臓が早鐘を打つ。反射的に足が後ろへと半歩下がった。だけどここから逃げたところで、何が変わる訳でもない。もはや常の余裕を漂わせた姿はそこになく、今の彼は袋の鼠も同然の有様だったのだ。

 

「鉄華団団長殺しに一枚噛んだ傭兵組織ハウリングってのは、テメェのお得意先でしかもテメェの依頼を受けて殺したって聞いたんだが。そこんとこどうなんだ、ジャスレイさんよぉ?」

「う、嘘だ……そんなん出鱈目だ。鉄華団の奴らが俺のこと気に食わないからって腹いせに嵌めようってしてるだけでしょう?」

「確かに、普通なら俺もそう思うわな。だが言ったろ、面白いモン引っ提げて帰って来たって。おい、連れてこい」

 

 最後の言葉は扉際の黒服に向けた言葉だった。黒服がどこかに手早く連絡を入れてから一分も経たないうちに、今度は扉が開いた。そこから現れたのは、

 

「ナ、ナムレス……」

「よぉ、すまねぇなジャスレイの旦那……」

 

 ハウリングの団長、ナムレス・リングに相違なかった。

 記憶にある鍛え抜かれた巨躯はそのまま、暴行を受けた様子もほとんどない。唯一頬に出来た平手の痣だけが痛々しいが、とりあえず五体満足と評して良い。

 彼が捕まったのかと呆気にとられるジャスレイの前で、続けて三日月の座る車椅子を押すジゼルが続き、更には信じられない人物が顔を出した。白髪に褐色の肌、それに射貫くような金の瞳を持ったスーツの男。それは誰がどう見ても鉄華団団長、オルガ・イツカでしかありえなかったのだ。

 

「どういうこった、どうしてナムレスが……いや、それ以前にどうしてオルガ・イツカが生きてここに……」

「よぉ、ジャスレイ。俺もそう簡単にくたばれねぇんだよ、死んでなくて悪かったな」

 

 死んだと思っていた相手が生きていた。その事実に呆然としてしまうジャスレイの前で、黒服に抑えられたナムレスが小さく項垂れた。

 

「すまねぇな、ジャスレイの旦那。アンタには悪いと思うが、俺たちも命が惜しい。今回の件に関わって仲間が二十人は死んだんだ、これ以上の被害は出せねぇよ」

「テメェ、だからってこいつは……!」

「好きに罵ってくれ。アンタにはその権利がある。だが俺にはしなきゃならねぇ取引があるんだ」

 

 彼がちらりと見たのはジゼルだろうか。彼女は相変わらず表情の読めない無表情、けれど瞳だけは脅すかのように剣呑な光を放っている。その光に一瞬だけナムレスが身体を震わせてから、絞り出すような声音で自白した。

 

「俺ら傭兵団ハウリングは、確かにそこのジャスレイ・ドノミコルスから依頼を受けた。内容は鉄華団団長の殺害依頼、証拠は映像で既に渡したやつだ」

「そいつぁもう見せてもらったぜ。もしや鉄華団に脅されたんじゃねぇかとも思っちまったが、あんな映像まで見せられりゃ疑いようもない。今回の一件、裏で手を引いていたのがジャスレイだってのはまず確実らしい」

「……ッ!? 待ってくれ、親父──!」

「言い分があるなら聞いてやってもいいが、俺もそう気が長い性分じゃねぇんでな。あんまつまんねぇことペラペラ並べ立てんなら、どうなるか分かってんだろうな?」

 

 もはや大勢は決してしまった。証言一つでジャスレイはどうしようもなく追い詰められてしまったのだ。この状況を覆すなど不可能だ。既にして膝から崩れ落ちそうになるのを堪えるだけで限界という精神状態だった。

 

 そこまで行ってからマクマードは「連れていけ」と命じると、ナムレスを部屋から退出させた。彼の役目は既に済んでいた。用がなければ丁重に歳星からお帰りいただくしかないだろう。

 後に残ったのはかつてこの部屋に集ったのと同じ面子だけ。マクマード、ジャスレイ、オルガ、ジゼルに三日月。沈黙の降りるこの場に、ジャスレイの味方は一人として存在しなかった。

 

 まず口火を切ったのはマクマードだった。

 

「とはいえ、ちぃっとばかり驚いたってのはあるがな。まさかこうまで早くジャスレイが追い詰められるとは思ってもみなかった」

「俺たちも最初からこうなると分かってた訳じゃありません。本当にただ無事に火星に戻る為に一芝居打つだけの予定でしたから」

 

 オルガの言う通り、彼らの目標はあくまでオルガが無事に火星に戻れるようにすることだった。そのためにわざわざオルガ抜きの艦だけ先行させて、途中で襲撃があればその余波で死んだことにしようと画策したのだ。死者を精力的に探す者はいないだろうし、後は身を潜めてイサリビが到着するのを待てば安全に火星まで帰れるという寸法だ。

 ただ鉄華団にとって運が良かったのは、囮役が良くも悪くも気狂い(ジゼル)だったことだろうか。快楽殺人者の彼女が刺客を返り討ちにするのは想定通りだが、まさか大元まで叩きに行くとは予想外だった。フルースと化して高まった継戦能力と、追い詰めた敵に思わぬ証拠が存在したのが上手くマッチングした形となるか。

 

 つまり、今回の件はほとんど偶然が重なった幸運なのだ。何もジゼルとて万能ではない、彼女が飛びぬけて優れているのはあくまで人殺しに関する事象だけである。こうまで事態が動くなど考えもしなかったし、可能な範囲で趣味に走った結果だから始末に負えないとも言えるだろう。 

 

「そんでまぁ、今回親父んとこまで来た理由は一つだけです」

 

 ギロリ。そんな擬音が聞こえてきそうなほどに鋭くオルガがジャスレイを睨む。ジャスレイもプライドをかき集めて精一杯に睨み返すが、肝心の言葉が何一つ出てこない。

 今や彼我の力関係は完全に逆転してしまっており、ジャスレイは蛇に睨まれた蛙も同然だった。

 

「コイツに落とし前を付けに来ました。どうあれ殺されかかったんだ、帳尻合わせてもらわなきゃ筋が通らねぇんですよ」

「ま、そうだわな。裁量はお前に全部任せる、コイツのことは好きにしな」

 

 ゆったりと葉巻を口から離し、マクマードが頷いた時だった。

 

「……さっきから黙って聞いてりゃ、おかしいと思わないんですかい親父ィ!?」

 

 我慢しきれないとばかりにジャスレイが叫んだ。追い詰められた者に特有の自棄、と言い切るには理性と感情の籠もった叫びである。マクマードも敢えて無下にすることなく、無言で続きを促した。

 

「親父は鉄華団に目を掛けすぎてる。いつかの夜明けの地平線団討伐、アイツは確かに大手柄だったかもしんねぇ。だけど所詮は海賊退治、下っ端の仕事だって言ったのは親父だろう!? なのに順序も無視して採掘場なんてデカいシノギを渡すなんざ、俺たち幹部からすりゃそれこそ筋が通んねぇ話なんすよ!」

「ほう、つまりテメェは俺の采配が間違ってたと言いたいわけか」

「……ッ、ええ、この際だから言わせてもらいますがね。親父、アンタの采配はちょいとおかしい。新入りに目を掛けんのは良いが、先にこのテイワズにシノギ持ってきた俺らを蔑ろにしすぎてんだ。言っておくがコイツは俺だけの想いじゃねぇ、他にも上の奴らに同じ思想を持ってるのはわんさか居んだ。親父もそいつを忘れないでほしい」

「なるほど、な……テメェの言い分は良くわかった」

 

 短く呟き、マクマードが立ち上がる。ジャスレイに比べれば決して大きくないはずの体躯だが、それでもこの場の誰より存在感を発していた。

 彼は威圧感を発しながら、けれどその瞳はどこか自嘲を含んでいるようにも見えた。

 

「一理はあるか。テメェの言い分、確かに全部が間違ってもねぇだろうな。そこは素直に認めてやるさ」

「なら──」

「だがよ、それに関して俺の判断が裏目に出たことが一度でもあったか? 鉄華団が何かテメェらの足を引っ張ったか? ねぇだろうよ、そんなもん。結果を出してる奴がたまさか新入りなら殺して良いとでも言うつもりか、テメェはよお?」

 

 テイワズのボスが発する圧力、凄みに場が完全に支配される。ジャスレイは元より、あまり動じない三日月やジゼルでも微かに表情に緊張感を漂わせている。これこそが、圏外圏で一番恐ろしい男の素顔なのだ。

 だがふっとマクマードが息を吐くと、途端に場の圧力が霧散した。先ほどのようにゆったりと座椅子に腰を落ち着けたマクマードは、鋭い瞳でオルガへと向く。

 

「本当なら俺が今すぐにでもケジメ付けさせてやるところだが、今回は鉄華団とジャスレイの揉め事だからな。俺は手を出さねぇ、さっきも言ったがそっちで好きにケリを付けな」

「──ええ、分かってますよ」

 

 答えたのはオルガではない。懐から拳銃を引き抜きつつジャスレイに迫るのは、これまで黙ったままのジゼルだった。彼女は一切の躊躇なく銃のセーフティを解除すると、ジャスレイへと銃を突きつける。

 

「この人の言い分は理解しました。ですがええ、それが何か? この人は団長さんを殺そうとしたんです、許せる訳ないじゃないですか」

 

 薄っすらと滲んだ怒りの声に気圧され、ジャスレイが堪らず一歩下がった。ジゼルが更に一歩前に出る。金の瞳は完全にジャスレイを殺害対象としか見ていない。

 だがそこで、ジゼルの腕を掴む者が居た。止めに入ったのはオルガ・イツカである。

 

「待ってくれ。この一件はアンタじゃなく、俺にケリを付けさせてほしい」

「……団長さんがそう言うなら、まあ良いですけど」

「ありがとよ」

 

 不承不承ながらジゼルが拳銃をオルガへと渡した。彼はそれを受け取ると、ツカツカとジャスレイの下へと向かい──

 

「まずは一つ、こいつを受け取ってくれや!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()と同時、思い切りジャスレイの頬を殴ったのだった。

 拳のめり込む鈍い音、それからドッとジャスレイが床へと倒れ込む。突然の行動に誰も反応できなかった。てっきりオルガはジャスレイを射殺するものだと思っていたから、予想外としか言いようの無い行動である。

 

「オルガ? そいつ殺さなくていいの?」

「大丈夫だミカ、これで良い」

 

 倒れ込んだジャスレイを見下ろしながらオルガが言う。その口調にも瞳にも迷いなど微塵もない。酔狂でも何でもなく、オルガの中で意思は固いようだった。

 一方で殴られた方のジャスレイは頬を抑えながら、やはり信じられないといった風にオルガを見上げていた。

 

「どういうつもりだ、オルガ・イツカ……!?」

「もしアンタが俺じゃなくて鉄華団の誰かを狙ったなら、あるいはこの一件で一人でも死人が出てたなら。俺は間違いなくアンタを殺してた」

 

 淡々と語られる言葉に嘘はなかった。人一倍仲間意識が強く、筋を通すことに拘るオルガだ。鉄華団から被害が出ていたなら絶対に怒り狂い、死を以って償わせていたことだろう。

 だけどそう、実のところ今回は誰一人として鉄華団から犠牲者は出ていないのだ。確かにオルガは殺されかけたがそれは未然に防がれ、その後も大した危険もなくここまで漕ぎ着けた。被害でいえばせいぜいが破壊された小型艦艇と、フェニクスフルースの弾薬代程度のものだろう。

 

「俺がアンタに要求すんのは(タマ)じゃねぇ、謝罪と賠償だ。殺されかけた恨みとウチの団員を危険に曝す羽目になったのはさっきので勘弁してやる。後は払うべきもんキッチリ払うんなら、命まで要求する気はねぇよ」

「でも団長さん、その人はあなたの命を狙ったんですよ? なのに生かしておいたらまた危険が──」

「そんときゃ徹底的に潰してやるさ。だがそいつはまだ起こってない未来の話だ、そいつまで勘定に入れて話すのも違うんじゃねぇのか?」

 

 諭されたジゼルが押し黙る。それからムッと頬を膨らませて怒っているとアピールしているが、オルガは特段気にしてすらいない。

 

「……確かに、俺は今回の件に関与しないと言った。だけどよ、本当に良いのか? お前さんのそれは甘さと取られても仕方ねぇ決断かもしんねぇぞ」

「いいんです親父。認めたくはありませんが、さっきジャスレイが言っていたことは俺も納得できた。新参者の俺たちがまだ信用を得られていないのは仕方のないことですし、親父に特に贔屓してもらってるのも事実なんすよ」

 

 もちろん、これまでのマクマードによる鉄華団への計らいには感謝しても仕切れない。だけどそれはオルガが恩恵を受ける当事者だからであって、第三者からみればまた違う感想を抱くというのも理解できたのだ。

 

「俺たちが信用できないっていうなら、後からでも信用に足る実績を積み立てればいい。幹部だろうと無視できないくらいの功績ぶっ立てて黙らせれば、こんなこと二度と起きませんから」

「それでジャスレイも殺さないってか? お優しいこったが、時には力で黙らせるのも大事だぜ」

「それでもです。気に入らないから殺すなんざそれこそジャスレイと同じですし、そんなこと続けてればいつか必ず跳ね返りがやって来る。それじゃあ鉄華団が成長できたところで意味がないんです」

 

 鉄華団の力は強い。不遜かもしれないが、テイワズの中でも頭一つ抜けた実力を持っているのは確実なのだ。喧嘩になれば敵う相手などまずいない。

 でも、だからこそ力を奮う相手を見誤ってはいけないのだ。自分たちの邪魔者を排除するのは仕方のない事だし、オルガだって否定しない。しかし殺す必要がない相手までわざわざ殺して回るのなら、強大な力で強引に押さえつけるというのなら、それはただ力に溺れた愚か者でしかないだろう。そんな者の末路など考えるまでもなく明らかだ。

 

 かつて地球でオルガは決めたのだ、”遠回りでも進み続ける”と。

 故にこうする。邪魔者は殺して排除するのではなく、出来るだけ穏便に自分たちを認めさせれば波風を立てずに終わらせられると気付けたから。

 

「ここでコイツを殺せば、きっと俺たちを害そうとする第二第三のジャスレイが現れるでしょう。それじゃ駄目なんです。だから俺はここでコイツを殺しませんし、絶対に俺たちの力を認めさせる。たった一人も認めさせられないようじゃ、とてもじゃないが俺たちを認めさせるなんざできないでしょう」

「ふっ……まったく。初めて会った時のお前さんはギラギラした目付きの、飢えた狼みたいな奴だったのにな。今じゃすっかり余裕ってモンを手に入れやがって。これだから若い衆ってのはいつ見ても飽きないモンだ」

 

 苦笑するマクマードに、オルガもまた苦笑を返した。

 

「俺も俺なりに色々考えさせられることがありましたから。それに今は、一人だけで考えこむ必要も無いんです。こんな俺と一緒に考えてくれるなんて物好きが居てくれたおかげで、少しだけ余裕を持って周囲を見れるようになっただけっすよ」

「そうかい。そいつは結構なこった」

 

 ふてぶてしく笑うマクマードの視線の先には、ムスッと頬を膨らませたままのジゼルの姿がある。

 あれを宥めすかせるのは大変そうだ、なんて他人事のような感想が出てしまうマクマードであった。いや、今のオルガの言葉でちょっとだけ頬が緩んだから、あんがい簡単かもしれない。

 

 ともかく、この一件はここらでまとめてしまうべきだろう。

 

「あい分かった、この件は俺が引き継ごう。謝罪やら賠償やらをどうするかは俺が仲介に立った方が早いだろうからな? 異存はあるかい?」

「いえ、ありません」

「……ねえっすよ、親父」

 

 ハキハキと答えるオルガと対照に、ジャスレイはこの世の終わりに辛うじて希望を見つけたかのような有様だ。

 むべなるかな、どうにか命だけは助かったものの、彼を待っている未来はそう明るくない。謝罪という名のケジメを付ける羽目になるのはまず間違いないだろう。

 

「そんじゃ、この件はいったん終了だ。ひとまず遺恨はこの場にすっぱり置いていくこったな」

 

 それでもこの場はマクマードの一言により、とりあえずの幕引きとなったのである。

 




賛否両論あるかもしれませんが、まさかのジャスレイ生存ルートへ。私としても非常に悩む決断となりました。

そもそもの話ですが、私は意外とジャスレイを嫌いになりきれないんですよね。確かにオルフェンズ本編の彼は憎むべき非道の敵ではありますが、一方でマクマードに語る言葉は正鵠を射たものばかりです。今回の話で彼がマクマードへと叫んだ言葉も、全て本編中の言葉を引用していますし。
そんなジャスレイだからこそ、ただ敵として無残に死んでもらうだけでは勿体ないと思いました。彼の放つ正論も理解した上で敵として描かないと悪役として不足だと感じ、故に本作のオルガは余裕ができたおかげもあってジャスレイに一定の理解を示し殺さずに殴るだけに留めたという訳です。ある意味では本作オルガの成長に不可欠な存在になってもらったとも言えますね。

にしてもクジャン家の賠償うんぬんもまだ消化できてないのに、まだ賠償が重なってくとは……

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