鋼の不死鳥 黎明の唄   作:生野の猫梅酒

41 / 57
#41 対峙する二人

 ──マクギリスがヴィーンゴールヴにて公然と打って出る、実に三か月も前のことである。

 

「では、残るセブンスターズ達に我らクジャン家と、そちらのボードウィン家で働きかけると?」

「ああ、そうだ。認めたくはないが、現状ではマクギリス達と戦力差が開きすぎているからな」

 

 既に仮面を取り去ったガエリオは静かに首肯した。クジャン邸の窓の先から遠く見える地平線へと目をやりつつ、瞳に映る決意は片時もぶれてはいない。

 共に手を結ぶことを決めたガエリオとイオクは現在、宇宙から降り地球へと帰還していた。二人が合流してから既に一週間という時間が経っているが、今のところマクギリスが動き出した様子はない。イオクが気にしている鉄華団もどうやら火星でのMA騒ぎの後始末に追われているらしく、それ故に潜伏する形を取っている彼らにしてみれば好都合と言えよう。

 

 火星であまりにも下手を打ちすぎてしまったイオクと、存在自体が勢力を伸ばすマクギリスへの切り札となるガエリオにとって、誰からも注目されていない現状こそ最適なのだから。

 

「しかし火星での失敗はどう説明するのだ? 私はあまりに多くの部下と機体を失いすぎた。この失態は到底看過されるものでもないと考えるが」

「だからこそ先手を打って働きかけるのだ。下手に突かれてしまうよりも先に、失態をカバーするだけのメリットを提示する。そう、例えば──」

 

 ──”改革派であるマクギリスを押し留め、現状維持を続けるための方法を提示する”、とか。

 

 大胆不敵な言葉にイオクがゴクリと喉を鳴らした。ガエリオもこれが最善であるという自信はないが、それでも今できる最大限の行動はこれを置いて他に無い。

 

 忘れてはならないのが、マクギリスはあくまでもセブンスターズにおける少数派という点だ。残る大部分は現状維持こそ望んでおり、自分たちにもたらされるメリットを捨ててまで改革しようとは思わない。

 だからまだ勝ち目を探せる。ラスタルは既に引き込んだとはいえそれでも二家、残る五つが結託すれば彼に反旗を翻すだけの力をかき集めるのも不可能でないのだ。否、むしろ勝機を見るならここに賭けるしかない。

 勝手にMAと交戦した挙句、鉄華団の主力と思しき相手と矛を交え全滅したイオクは確かに(そし)りを逃れえないだろう。けれど逆を言えば、ヴィダール達の中で誰より相手(ふしちょう)の情報を持っているという事にも繋がるのだ。まして彼はヴィダールよりもラスタルと共に居たのだから、所持している情報量は存外馬鹿にならないものがある。

 

「残るセブンスターズがイオク・クジャンに責任を求めるのは簡単だろうが、安易にそれをすれば後に影響するのも間違いない。ましてお前には戦う意思と意欲があるのだ。この段階で切り捨てるにはデメリットが大きすぎるだろうさ」

「おお、なるほど……! そして今度こそ私がクジャン家に恥じぬ者として振舞えば、万事が上手く行くという寸法だな!」

「おそらくだがな。あまり安易な考えに走りたくは無いのだが……これを実現できなければ、俺たちがマクギリスに勝てる可能性は万に一つも消えるだろう」

 

 やる気を見せるイオクに対して一抹の不安を覚えないことも無いのだが、それを今更疑うのは不誠実にも程がある。それにこうして反旗を翻すべく行動している以上は覚悟を持って臨んでいるのも間違いないのだ。これまでのイオク・クジャンとは違うと信じるべきだった。

 だから残る不安は他のセブンスターズ達が動いてくれるか否かにかかっているのだが……こればかりはいかんともしがたい。確かにガエリオはマクギリスのアキレス腱になり得るだろうが所詮は個人に過ぎず、単騎で戦況をひっくり返せるかと言えばそれも違う。そんな男に腰の重い他家が乗ってくれるかどうかは博打にも似ていた。

 

「イシューとボードウィンは問題ないとしても、どのようにしてファルクとバクラザンをやる気にさせるか──それが唯一にして最大の問題となる。案はあるか、イオク?」

「……一つだけ、思いついたことがある」

 

 ガエリオは無言で続きを促した。神妙な顔でイオクは続ける。

 

「ラスタル様……いや、エリオン公は月外縁軌道統合艦隊を統べる司令官だが、マクギリスの策略によってその力を弱められた。これによって少なくない数の間者が艦隊内部に潜り込んだのは忌々しいことだが、それはある種のチャンスにもならないだろうか?」

「ラスタル自身の戦力をこちらに引っ張り込むという事か……しかしそう上手く行くものなのか? いくらあの男の権威が揺らいだとはいえ、依然として慕う者もまた多くいると想像できるが」

「たぶん可能だとは思う。私はこれでも貴公より長くエリオン公の薫陶を受けていたのだ、元より艦隊に他のセブンスターズに繋がる者が居るという噂くらいは聞いていた。その中にファルクとバクラザンに繋がる一派があっても不思議ではないはずだ」

 

 イオクにとってこの告白は恩師に対する裏切りにも思えたのだろうか。つい先ほどまでの溌剌さはすっかり鳴りを潜めてしまっている有様だ。

 

 一方でこれにはガエリオも唸らされた。ラスタルの下には二年在籍していたかどうか程度の彼に比べれば、イオクの方が内情に詳しいのは自明と言えよう。その言葉、確証はなくとも信憑性は強い。

 そう、セブンスターズは基本的には味方同士だが、必ずしも一枚岩でないのは現状を鑑みても明らかなのだ。故にセブンスターズ同士の対立が起こったし、有事に備えてエリオン家が支配する艦隊の中に他家の勢力が潜んでいてもおかしなことではないだろう。ボードウィン家がそういう事をしていたとは聞いていないが、なら他もやっていないなどとは口が裂けても言えはしまい。 

 

 ──マクギリスはラスタルの勢力を弱めることで自陣へと引き込んだ訳なのだが、それが逆に枷となる。最大の味方を手に入れるためにまず弱らせたという行いがイオクの言を支える柱となるのだ。

 

「自らアリアンロッドを弱らせてしまったからこそ、付け入られる隙もまた生まれたということか。これまた因果なものだな、マクギリス……」

 

 一つ嘆息してガエリオは思いを馳せる。考えてみれば随分と遠くまで来たものだ。二年前、マクギリスと共に火星へ訪れた際はこうなる事など欠片も知らなかったというのに。それがいつの間にか友は遥か遠くにまで走り去り、自分は意外な人物と手を組み戦っている。それこそ因果の不可思議な流れを想わずにはいられない。

 果たして自ら(ガエリオ)友人(マクギリス)に勝つことが出来るのか。分からない。分からないがしかし、友だと信じるからこそ足は止められない。止めてしまえば自分はもちろん()()()()()()の想いすら蔑ろにしてしまうのだから。

 

「そうだろう、アイン……!」

 

 忘れてはならない。マクギリスは友であると同時に部下の誇りを利用した仇敵でもある。友への友情や憧憬、怒りに憎悪まで、その全てをぶつけるべくガエリオはこうして虎視眈々と機会をうかがっているのだ。そのためには相応の無茶も通したし、自らが嫌悪した技術にすら手を染めた。そこまでしてようやくガエリオはマクギリスに立ち向かう資格を得たのだ。

 

 だからこうしてイオクに疑問をぶつけられるのも、半ば当然の成り行きなのかもしれなかった。

 

「それにしても、どうすれば私も貴公のような強さを得られるのだろうか。あの鏖殺の不死鳥を狩るには生半可な操縦技術ではとても及ばない。今の私が最も欲する力を持っている者に問いたいのだが……」

 

 イオク・クジャンの操縦技術はお世辞にも褒められたものではない。今のままでは不死鳥の前に出たところであっさり殺されるのが関の山だろう。故に強さについて悩むのは当然だし、これに対する一つの答えをガエリオは持っていたのだが。

 

「いいや、俺とてそう褒められたものではない。むしろ外道とすら言える技術を以って手に入れた力さ。とてもじゃないが人に誇ることなどできはしない」

「それはいったい……?」

 

 一瞬だけ答えるのに躊躇してしまう。芯の真っすぐなイオクだからこそ、ガエリオの答えには難色を示すかもしれない。だがそれでも正直に答えるのが共に戦う者への誠意だと思ったから。

 

「俺もまた阿頼耶識システムを用いている。それも他者の脳を媒介にした特殊なものをな」

「なぁッ……!? 他者の脳を、だと……!」

 

 一切隠すことなく白状した。さしものイオクも目を剥いて驚いている。そんな彼を横目に、ガエリオはあくまでも淡々と自身とその機体についての説明を行った。

 他者の脳を媒介として行う阿頼耶識Type-E、その脳はかつての部下で戦犯のもの、特異なシステムからガンダム・ヴィダールは特殊な調整を施されている等など……かいつまんではいるもののおおよそ話した。まとめてしまえばシンプルだが、実のところ常軌を逸した行いを。

 

「既に機体の調整は終わり、データ自体はヴィダールの中に納まっている。後はそれを基に装甲や武装を換装すれば本来の機体に戻るだろう」

「なるほど……まさかそのような事情があったとは。私とて今や復讐に身を焦がす者だ、貴公を責める資格はないとも。だが敢えて言ってしまう愚かさを許して欲しい」

 

 そう前置きをしてから、イオクはハッキリと告げた。

 

「それはあまりに危険な技術ではないのか? 人権は何処に行った? 悪用されない危険性は? これが悪辣な者達の下へと流出した時、一体どのような狂気が起きるというのだ?」

「……返す言葉もない。全てはお前の言う通りだよ。それらを全部わかった上で、俺はアインを”利用する”ことに決めたのだから」

 

 死んでいった部下と共に戦うと言えば聞こえは良いが、その実態は死人に鞭打つも同然の行いである。いや、それでもガエリオはまだ良い方だ。死んでいった部下の想いを確かに継承しているのだから。合意の上とは言い難いが、完全におかしいと言い切るには築いた信頼関係が強固である。

 よって恐ろしいのはそれ以外で、もしヒューマンデブリの脳を利用した同システムが開発されてしまえばどうなるか。答えは火を見るよりも明らかだろう。ただでさえ屑のように安い命が、もはや生体ユニットとしての価値にしかならなくなってしまうのだ。

 

 この程度のこと、イオクでなくとも阿頼耶識Type-Eに関わった全ての者が予見できる事態である。それでも開発に踏み切られたのはひとえに”使える技術”である事と、何よりガエリオが再び戦うために必要だったからだ。

 ガエリオは自嘲する。やはり随分と遠くに来てしまったものだ。かつての自分が今の己を見たならば、一体どんな罵倒を喰らうのだろうか。

 

「こんな技術を扱っている以上、もはや俺とてギャラルホルンの歪みの一つだ。言い訳する余地もなくマクギリスが正そうとする者たちの一人だろうさ。それでも俺は、奴と対峙するに足る力が欲しかった。力でしかアイツの顔をこちらに向けられないなら、圧倒的な力で奴を振り向かせてやりたかった」

 

 結局全てはガエリオの個人的な思惑に過ぎないのだ。そのために倫理すら紙屑のように破り捨て、今もこうしてギャラルホルンを二分する戦いを仕掛けるべく構想を練っている。そんな自分は間違いなく最低だろうし、全てが終わった暁にはあらゆる非難を受け入れる覚悟も出来ている。この忌まわしき阿頼耶識とて封印するための用意だって既にある。

 それでも、今この時だけは譲れない。何を言われようとどう思われようとも、ガエリオはマクギリスしか見ていないのだから。友すら切り捨て先へと進むあの男に、胸を張って自らという存在(とも)を刻み込んでやるために。

 

「つまりはこれがガエリオ・ボードウィンという男の真実さ。幻滅されたろうし軽蔑しただろうが、それでも俺はこう言わねばならない。どうか力を貸して欲しい、共に戦ってくれ──と」

「……思うところはある。だがどうしようもない過ちを犯したのは貴公だけでなく私も同じだし、ひたむきに前へと進まんとするその姿勢には敬意を覚えるとも。幻滅などするものか、軽蔑など以っての他だ」

 

 互いに一度は敗北した身で、そこから逆襲を誓い合ったのだ。ならばこそ、ここで仲違いするなどあり得なかった。今や両者は運命共同体であり、想いを同じくした仲間であるのだから。

 

「だから私からも改めて言わせて欲しい。どうか貴公の力を貸してくれ、共に戦ってくれと」

「無論だとも。イオク・クジャン、お前が共に戦う仲間であることを俺は誇りに思う」

 

 ◇

 

 かくしてここに、両者の邂逅は相成った。

 

「単刀直入に言おう。──喧嘩をしに来たぞ、マクギリス」

「ガエリオ、だと……! 生きていたのか──ッ!?」

 

 逃れようのないマクギリスの負い目がついにその仮面を剥ぎ捨てる。現れた傷の走る端正な顔、その視線に宿した強大な炎は真正面からマクギリスを貫き憚らない。さしもの彼でも一歩後ずさりかけて、すんでのところで踏みとどまったのだ。

 驚愕はほんの一瞬だけ。すぐに常と変わらぬ不遜な笑みを浮かべたマクギリスは、まるで揶揄するかのように口を開いた。

 

「これは驚かされたよ全く。ガエリオめ、随分と劇的な登場だな」

「その為にここまで息を潜めてきたからな。存外に大変だったよ、お前に生存を気取られないようにするのは」

 

 それからチラリとラスタルを見た。彼はあくまでポーカーフェイスを貫いていたが、マクギリスの反応を見るにガエリオについて何の情報も与えていなかったのは確かだろう。そのことに目線で短く感謝を示してから、すぐにマクギリスへと詰め寄った。

 

「何もかもがお前の思う通りに行くと思ったら大間違いだ。俺はお前の友として、その思い上がりを正してやる」

「友だと? よくぞ言ったガエリオ、まさかそんな生温い友情(モノ)で俺の前に立つとはな。お前の方こそ、その程度の軟弱さでは欠片も届かぬと思い知れ」

 

 互いに退けぬ想いを抱くからこそ、ここからは一歩だって譲りはしない。そう主張するかのように睨み合う両者だが、ここに全くの第三者の声が入る。

 

「つまり──敵ということですよね? なら殺しちゃっても良いですか?」

 

 クスクスと上品に笑いながら左手で銃を回しているのは、希代の快楽殺人鬼ことジゼルだ。その殺意は既にマクギリスへと対峙するガエリオと、彼女に対して油断なく銃を向けているイオクへと向いている。おそらくは一つ切っ掛けがあれば躊躇いなく殺すことだろう。

 

 これに答えたのは他の誰でもなく、イオクその人だった。

 

「殺せるものなら殺してみるが良い。だがその瞬間貴様の敗北が決定する。それでも良いのなら、な」

「へぇ……」

 

 金の瞳が興味深げに細められた、その瞬間だった。

 先ほどガエリオ達が入って来た扉の奥から更に物々しい音が響いてくる。やって来たのはギャラルホルンの士官たち、皆が同じクジャン家の紋章が入った制服を着用している。およそ七名ほどの彼らはすぐに懐から銃を取り出すと、迷うことなくジゼルへと向けたのだ。

 

「おやおや……これは随分と大盤振る舞いじゃないですか。まさか自分からジゼルの”ご馳走”になりに来てくれるなんて」

「……ッ、なんとでも言うがよい。ここで貴様が暴れるならば、即座に我らの誰かが貴様を殺すと心得ろ」

「はぁ、ならそういう事にしておきますよ。あんまり問題を起こしてると褒めてもらえなくなっちゃいますし、まだまだ死ぬには悔いも残りすぎますし」

 

 渋々といった形で矛を収めたジゼル。もちろんそれで安心などできるはずも無く、クジャン家の面々は誰もが油断なくジゼルへと銃を向けていた。いっそ異様な光景だが、誰もが異を唱えることはない。それは味方であるマクギリス達ですら例外でなく、それがいっそうジゼルの底知れなさを物語るのだ。

 息を吸うように狂気を撒き散らしたジゼルの影響で場が固まる。そこで最初に復帰したのは、ガエリオ登場からずっと無言を貫いていたラスタルだった。

 

「なるほど、貴公の意思はよく分かったとも、ガエリオ・ボードウィン。して、大義はあるのかな? 我らはこのギャラルホルンをより良き方へと改革せんとする身だ、それを上回る大義がその背にあるとでも?」

「無論、ある」

 

 即答だった。力強いその言葉にラスタルも満足げに頷く。元よりガエリオを焚きつけたのは彼なのだから、この問答すらある意味で茶番のようなものである。

 それでも訊いたのはひとえに彼の感傷であり──決意表明をさせるためのお膳立てであったのだろう。ある意味でこの状況を用意したのは彼であるとも言えるのだから。

 

「マクギリス、それにエリオン公。二人の意見は確かに分かる。こうして腐敗したギャラルホルンを正すために、改革という力技を良しとするのも一つの答えだろう。だがそれは、他の全てを裏切り貶めてもなおやるべき事なのか?」

 

 語るガエリオの脳裏に浮かぶのはよく知る三人の顔だ。

 

 マクギリスを想い散っていった幼馴染のカルタ・イシュー。

 上司の仇を討つという想いを利用されて弄ばれたアイン・ダルトン。

 そして彼の妹であり、マクギリスの婚約者でもあったアルミリア・ボードウィン。

 

 改革の為に少なくともこの三人を利用したのがマクギリス・ファリドであり、だからこそガエリオは彼の行いをそのまま認める訳にはいかなかった。その思考はあまりに個人的なもので、けれど人としては痛いくらいに真っ当で抑えようのない感情なのだ。

 

「俺はそのような者が行う改革を認めない。より良い善の為ならあらゆる犠牲は考慮し受け入れろ? いいや、それは違うぞふざけるな」

「語るに落ちた理想論だな。誰の犠牲もない無血の改革など不可能だ。ふざけているのはお前だガエリオ、一度死んだことでその瞳まで曇ったか」

「それは自らを慕う者まで切り捨ててするべき事なのか!? お前のやり方は歪だ、そんなものでは絶対に周囲の反発を買う! その先にあるのは血みどろの改革だぞ!」

「ならばお前がやろうとしていることは何だ!? 俺を否定し戦いを起こす事こそ血を流す行いそのものではないか! そんな程度のことでギャラルホルンを腐らせたままになどしておけるものか!」

 

 息を切らしヒートアップしていく両者。どちらとも譲る気はなく、またどれだけ言葉の応酬を重ねても相手を完全に否定できないのも確かだった。

 

 端的にまとめれば、これは平行論にしかならないのだ。

 感情論から進むガエリオに対しマクギリスは何処までも理詰めであり、どちらとも言っていることは正しいがそれが全てでもない。絶対の正義と言うべき人も心もこの場にはなく、さりとて悪と弾劾できる行いもまた無いのだから。常にない激情を迸らせているのも”冷静になってしまえば相手に呑み込まれる”という危機感の裏返しなのだ。

 

 だから、この場が一つも収束しないのは予定調和だったのだろう。

 

「分かっていたことだが、もはや言葉で語り合う段階は過ぎていたようだな、マクギリス」

「それこそ愚問だ、ガエリオよ。友情も、信頼も、愛も言葉も何もかも、俺に届かせるにはまだ(ぬる)い。こんな片手落ちの手段に訴えた時点でお前の負けだ」

「いいや、まだ負けていないとも。俺はお前を必ず止める。今のギャラルホルンを無理に破壊せずとも必ずや良い方向へと導けるのだと証明してみせる。目の前の分からず屋をぶん殴ってでもな」

「やれるものならやってみるがいいさ。お前を今度こそ打ち滅ぼし、こちらこそ正しい側なのだと証明してみせよう」

 

 言うだけ言って、マクギリスは背中を向けた。”次に会う時こそ決着をつける時だ”、そう告げるかのように威風堂々と足音を響かせながら去って行く。その後ろ姿をガエリオと残るセブンスターズ達が無言で見送り、次いでゆっくりとジゼルが歩き出す。自身に向けられた銃などお構いなし、ギョッとしたようにイオクの部下たちが一歩後ずさった。

 そして最後にラスタルもまた退場しようというところで、イオクが叫んだ。

 

「エリオン公!」

「……どうされたかな、クジャン公?」

 

 ゆっくりと口を開いたラスタルの迫力はやはり凄まじいもので、かつてのイオクなら一秒だって耐えられなかった。

 でも、今は違う。例え後ろ向きなことだろうと、やるべきことを胸に秘めた今ならば向き合える。それだけを頼りに彼はラスタルと向き合った。

 

「大変お世話になりました! 例え我らがどういう結末を迎えようと、受けた恩は忘れません!」

「……ふっ。せいぜい励め、簡単に死んではくれるなよ」

 

 そして今度こそラスタルは姿を消し──

 

 ここにギャラルホルンを二分する戦いの開幕が告げられたのだ。

 




この話の肝は、『ガエリオとマクギリスのどちらにも正義と悪がある』という点ですね。
本編で指摘されたように、どちらも思想自体は間違っていません。むしろ正しいことです。けれどそれを叶えるためのやり方に不純があるのも確かであり、だからこそガエリオは自分を最低だとも評している訳です。

つまるところ、これはどちらが良いも悪いもありません。どっちも良いしどっちも悪いのです。そんな二人だからこそ、善悪を越えた友情バトルを見せてくれると私は信じています。

ちなみに、何度か言及したオリキャラの導入ですがすっぱり諦めました。オリキャラはジゼルだけで十分、後はセブンスターズの独自解釈と設定でどうにかします。
もしオリキャラを入れるならたぶん37番目のガンダムにでも乗せて、「心から敵を斃したいなら条約なんざ無視して本気でダインスレイヴぶち込んでやれよ!」と叫ぶキャラにする予定だったのですが……37番目のガンダムはジゼルの駆るフェニクスですし、常識的に考えてとんでもないキャラになると思ったので止めました。本気と勇気で覚醒しそうですし
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。