鋼の不死鳥 黎明の唄   作:生野の猫梅酒

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#56 厄祭の不死鳥狩り

 MAと思しきエイハブ・リアクターが観測された海域より、およそ北に十数キロの地点でギャラルホルンの艦船は止まっていた。甲板には既にフェニクスとレギンレイズ・ジュリアの二機が並んでおり、海底調査用の細々とした機械を片手に抱えている。

 火星でのデータから鑑みればもう少し近づいても大丈夫だろうが、MAを相手に楽観的な考えをすれば死ぬしかない。慎重になりすぎて損なことは一つもなく、臆病者と笑い飛ばす者など一人もいないのだ。

 

 久しぶりに白いパイロットスーツを着こみ、フェニクスと阿頼耶識で繋がったジゼルはかなりリラックスしていた。味覚や嗅覚もこの時ばかりは戻っているから、今がチャンスとばかりに容器に入った紅茶を嗜んでいるくらいだ。

 その様子を呆れながら見てるのは艦橋(ブリッジ)に特別に通されたオルガである。鉄華団の責任者として特例で入室を許可されている訳だが、ジゼルを見てると普段のイサリビのように錯覚してしまう。

 

「では最終確認をしますが、今回のジゼルたちの任務は海底のエイハブ・リアクターの調査と、敵性存在ならそれの排除で間違いないですね?」

『ああ。もしMSにも反応せずに何も無ければ万々歳だ、その調査用の機材とやらを投下してデータを送るだけだな。逆に戦闘となれば──』

『私たちが相手取るということですね。そう簡単に後れを取るつもりはありませんが……』

 

 通信に割って入ってきたのはジュリアに搭乗したジュリエッタである。彼女の方はジゼルに比べれば緊張した様子を隠せておらず、モニターに映る表情は曇り気味だ。MAの圧倒的な力を直に知っている者として、本物(MA)だった際の不安がどうしても抜けないのだろう。

 だがそんな調子ではジゼルに勝つなど不可能なのも分かっている。だからすぐにジュリエッタは不敵な笑みを浮かべると、大胆に言ってのけるのだ。

 

『いえ、撤回しましょう。たとえどんな相手だろうと負けはしません。ギャラルホルンの精鋭として恥じることのない戦いを見せますから』

「そうですか、ではジゼルは後方でのんびりしてるので頑張ってください。あまり機械相手は興が乗らないので」

『おいジゼル、あんま冗談はよせ』

「分かってますよ、冗談です」

 

 仲の良い者同士の軽口なのだろうが、部外者なジュリエッタからすれば堪ったものでない。

 

『それで私が撃墜とかされたら、化けて出てやりますからね……!』

「その時は責任をもってもう一度殺し直してあげるので心配しないでください」

『まったく……! ああ言えばこう言う! ジュリエッタ・ジュリス、レギンレイズ・ジュリア、出ます!』

 

 やっぱりこんな相手に負けっぱなしなど性に合わない。

 定刻となり勢いよく発艦しながら、出来ればジゼルの分まで手柄を立ててやろうと思ってしまうジュリエッタだった。

 

「さてと、ぼちぼち時間ですか」

『だな。心配いらないとは思うが、気を付けろよ。ちゃんと帰ってくるんだ』

「そんなに心配しなくとも平気ですよ──では、ジゼル・アルムフェルトです。フェニクスフルース、出ますね」

 

 少し遅れて鏖殺の不死鳥も飛び立ち、今回の調査任務はスタートした。

 

 ◇

 

「さてと、ここが問題の海域ですか……綺麗な場所ですねー」

『何を呑気なことを言ってるんですか。ここには確かにエイハブ・ウェーブが観測できます。奥底に何か潜んでいるのは間違いないでしょうから油断しないでください』

 

 太平洋の一角に位置する海域は一見すれば長閑で美しい光景だった。

 太陽に照らされた透き通るような水。海鳥たちが空を舞い、点在する緑豊かな小島たちは自然の赴くままな姿で残っている。こんな時でもなければどこかの島に降り立ち、いつまでも眺めていたくなる雄大な景色だ。

 だが、エイハブ・リアクターの反応は確かに在る。ジゼルもジュリエッタも既に心構えは出来ていた。あくまでも慎重に近づき、いつ何が起きても良いように覚悟をしながら機体を近づけて──

 

「来ましたか……ッ!」

『これはッ!?』

 

 一際エイハブ・リアクターの反応が大きくなった瞬間、海を切り裂き一条のビームが迸った。

 

 コクピット内に鳴り響く警告(アラート)音。急速に後退するフェニクスとレギンレイズ・ジュリアの眼前を光の奔流が駆け抜け、一拍遅れて膨大な熱量によって発生した水蒸気がもうもうと周辺に立ち込める。とてつもないエネルギー量、ナノラミネート装甲があろうと防げるか不安になるような一撃だ。

 背筋に冷たいものを感じるジュリエッタの一方で、ジゼルの方はこの強烈な先制攻撃にものんびりと感想を述べていた。海上に漂う白い水蒸気の先を油断なく眺めつつ、ギャラルホルンから支給された調査用の機材は放り投げている。ここに来て必要とはとても思えない。

 

「これはまた凄いですねー……周辺を動くモノに対して無差別に攻撃しているのでしょうか?」

『だったら何故これまでに同様の報告がされなかったか気になるところですがね。なにか切っ掛けがあったとでも?』

「さぁ? ジゼルに聞かれても分かりませんよ。それよりほら、聞こえてきましたよ──」

 

 彼女の言葉に呼応したのだろうか。不気味な駆動音が、静かに、海中から、ゆっくりと、響いてくる──

 

「これはッ……!」

 

 今度はジゼルにも明確な驚きがあった。さもありなん、水蒸気の帳を抜けて不意打ち気味にブレードが飛来したのである。

 紙一重でカノンブレードを盾に逸らしたフェニクスだが、ブレードは蛇のように軌道を変えるとまたも不死鳥へ迫りくる。そこでようやく、この武装がMAやフェニクスに搭載されているのと同じ『テイルブレード』だと認識したのだった。

 ブレードは執拗にフェニクスだけを狙い撃ち、その傍らのレギンレイズ・ジュリアには目もくれない。たまにブレードの軌道上にジュリアが入ってもわざわざ避けてフェニクスへ向かう始末だ。どう見ても対象を一人に絞っているようにしか思えない。

 

『なぜそちらだけを狙うのです!?』

「さて、どうしてでしょうね……? まあジゼルは適当にいなしておくので、そちらは海中の本体をお願いします。ワイヤーの長さからして、そろそろ出てくることでしょう」

 

 赤と金の機体はまるで曲芸のように宙を舞い、武器を振るい、複雑な軌道を描くテイルブレードを軽やかに避け続けている。あの攻撃はかなり厄介だとジュリエッタにも察しは付くので、ジゼルが引き付けてくれるならそれに越したことはない。

 その間にも不気味な駆動音はよりいっそう大きくなり──小さく海風が吹いた。それによって立ち消えかけていた水蒸気の靄が払われ、ついに今回の騒動の発端が姿を見せたのである。

 

「あれは……?」

『ガンダム・フレーム、ですか……?』

 

 第一印象は人型、全身はおよそ蒼く染められており無骨な印象を受ける。体躯はそこそこの大きさだろうか、海中から出てきた()()は全長二十メートルは超えているだろう。

 だが何より特徴的なのは、どうもガンダム・フレームと似通った意匠があることだ。特に頭部はガンダム・フレームのそれとかなり似ている。動力まで似ているのか、胸部周辺にはツインリアクター式なのが伺える特徴的なフレームが見え隠れしていた。

 

 どうやらテイルブレードはこの蒼い機体の腰部から射出されているらしいく、しかもそれ以外の武器は一見した限りでは存在しない。完全な徒手空拳という潔いスタイルであるが、ではあの強烈なビームは何処から発射されたものなのか。

 答えはすぐに判明した。胸部のコクピットが存在するだろう箇所の装甲が下にスライドする。普通なら構造上ありえない部分が開放された先にあったのは、コクピットシートではなく無骨な砲口。既に臨界間際の光が灯っている。

 

「これもジゼルがターゲットですか。そんなにジゼルが好きなのですか?」

『冗談を言ってる場合ではないでしょう!』

 

 狙いは当然のようにフェニクスだ。やはりジュリエッタの方など見向きもしないその態度に、さすがの彼女も頭にきた。

 元の母艦へと標的を発見した旨を簡単に連絡すると、果敢にジュリアを操り謎の機体へと肉薄していく。

 

『さっきからフェニクスばかり……! 私は眼中に無しですか!?』

 

 そう、それが気に入らないのだ。さっきから狙いは全て鏖殺の不死鳥だけであり、ジュリエッタなど空気も同然の扱いである。別に戦いが好きでたまらない訳でもないのだが、こうも露骨に無視をされればパイロットとしての矜持が黙ってはいない。

 スロットルを全開、急加速を付けてジュリアを懐へと駆け寄らせる。だがこの段階に来ても依然として謎の機体はフェニクスだけを付け狙っていた。本当におかしな挙動に首を傾げてしまうが、考察するのは後でも出来る。

 蛇腹ではなく剣のままにしたジュリアン・ソードを携え、角笛吹きのエースは果敢に攻め込む。発射直前のビーム砲へ滑らかなに剣を滑らせようと試みて──ようやく蒼いMSは反応した。

 

《邪魔をするな》

『なッ……!』

 

 唐突に届いた通信はまさか蒼い機体から来たとでもいうのか。冷たく無機質な機械音声は一切の情を感じさせず、しかも当然の権利とばかりに振るわれたソードを回避してみせる。淀みなく後方へと下がり、さらにはフェニクスへ向かって一直線に動き出した姿は阿頼耶識を搭載しているのではないかと錯覚するほど。

 いや、もしこのガンダム・フレームに似た機体が真実厄祭戦時の技術を備えているなら、阿頼耶識に類するものは確実に搭載されているだろう。

 

 至近距離で放たれたビームをスレスレで避けたフェニクスであったが、ついで飛来したテイルブレードに体勢を崩されてしまう。大きく高度と機動力を落としながらも鋼の不死鳥は健在だが、それを嘲笑うように蒼いMSは徒手空拳でフェニクスへと挑んでいく。

 

「あなた、やけにジゼルへ執着してますね? なにか因縁でもありましたか?」

《因縁だと? そんなもの、決まっている》

「へぇ……? 機械に恨みを持たれる謂れはないと思ってますけど、どうでしょう?」

 

 ジゼルからすれば青天の霹靂も良い所だ。こうして調査に赴いたのは偶然だというのに、その正体は何故か彼女に拘っている。どう見ても三百年前からの因縁に思えるが、どうして今になって行動を開始したのか。

 理由は不明だが、とにかく対応するしかない。普段通りにフェニクスを操るジゼルだが、そこで違和感を覚えた。機体の操作がおかしい訳ではない。むしろその逆、相手の方がやけに動きを先読みしてくるのだ。

 

「あなた、何者ですか……? AIなのは間違いないでしょうけども」

 

 フェニクスが逃げる先にテイルブレードが待ち構えている。

 振るったカノンブレードは待ち構えていた両手に白刃取りされた。

 機動力で上回ろうとすれば軌道を先読みされ、的確に格闘戦に持ち込まれてしまう。

 いくら何でもおかしい。確かにジゼルの専門は対人間ではあるが、蓄積された経験はたとえ相手がAIの類だろうと遅れはとらない。だが蒼いMSはあらゆるジゼルの考えを予期しているかのように先回りし、詰め将棋のように着実と彼女を追い詰め憚らない。

 

 ──そしてついに、フェニクスは群島の一つへと叩きつけられた。

 

 火星でフェニクスに為す術もなく倒されたジュリエッタからすれば信じがたい光景である。蒼いMSは決して運動性能や武装がずば抜けて凶悪な訳ではない。ただただ冷徹な計算と先読みを駆使することで、これまで誰も歯が立たなかった鏖殺の不死鳥を地へと叩き落したのである。

 まるでフェニクスを倒すためだけに存在するような……未だに相手にすらされていないジュリエッタの脳裏に過った言葉は、すぐに本人が肯定してくれた。

 

《己は、鏖殺の不死鳥を殺す者。対フェニクス用粛清兵器、ガンダム・マスティマである》

 

 天から悪魔を見降ろすは、三百年の時を超えて蘇った憎悪の天使。

 悪い冗談のような目的をただ一つ胸に抱き、こうして空へと羽ばたいていた。

 

 ◇

 

 買った恨みの数など、ジゼルは一々覚えていない。

 少し考えれば当然の話だろう。十数万もの人間を殺害してきたのだ、その親族友人など含めればどれだけの規模の恨みとなるのか。彼女はそんなものわざわざ把握しないし、気にしたことだって一度もない。あるのはただ『自分のために殺されてくれてありがとう』という歪んだ感謝の念だけだ。 

 

 だからこそ、どこかの誰かがフェニクスへの恨みを爆発させる可能性を忘れたことはない。いつか自分も報いを受ける日が来てもおかしくないのだ。その時は全力で抵抗するし簡単に死んでなどやらないが、筋を通すならば復讐もまた一つの権利だとジゼルは思っている。

 

『でも……マスティマなんて聞いたことが無いですね。よく分からないのでさっさと消えてください』

《貴様が消えるなら、その時は己も消えよう》

「お話になりませんね」

 

 はぁ、と最低最悪の殺人鬼は可愛らしく溜息を吐いた。

 明らかに互いの意思は空回りしている。ジゼルは別にマスティマなる存在に大した感慨もないのだが、相手はフェニクスを屠ることに執着しているらしい。まあ厄祭戦で大暴れしたことを考えれば、どこかの誰かが彼女への対策を残すこともあるだろう。誰なのかは見当もつかないし興味もないが、そこに疑問は抱かない。

 どちらにせよ今生のジゼルを邪魔立てするなら破壊(ころす)だけである。やっと他人を殺す以外にやりたいことが見つかって、今は充実しているのだ。そんな幸福を横入してきた旧時代の遺物に壊される道理はない。

 

 軋む音を立てながらフェニクスが立ち上がった。いつの間にか弾き飛ばされたカノンブレードに代わり、サイドスカートに懸架された小型ナイフを両手に構える。相手が動きを予測しようが関係ない、真っ向から叩き潰すと姿で語っていた。

 そして熾烈に始まった第二戦は、悲しいかな先ほどと同じ結果を呈し始めた。フェニクスがどう動いてもマスティマは先んじて対策を講じている。試しにジゼルが奇をてらった行動をしても一切動じず、どこまでも冷徹な殺戮機械として不死鳥を追い詰めていくのだ。

 

『対フェニクス用粛清兵器……というのは、あながち間違いではないようで。まさかあなたがそんなに苦戦するとは』

『呑気な、ものですね…ッ!』

『というより、理解が追い付いてないもので。たった一人のために三百年かけて蘇るなんて悪い冗談も良いとこです』

 

 珍しいジゼルの切羽詰まったような声に、同じく蚊帳の外に置かれたジュリエッタも信じられないような口調だった。

 

 ひとまず牽制の射撃をマスティマへと放ちつつ、ギャラルホルンの騎士は思考を巡らせていた。あまり頭の良い方でない自覚はあるが、それでも両者の戦いを見れば分かることは複数ある。

 まず第一に、このマスティマとやらはMAと同じ三百年前に生み出された人工知能搭載型の兵器で相違ないだろう。しばしば放たれる光学兵器や人間離れした機動性、それに動作から漂う無機質な雰囲気はとても人が操っているとは思えない。

 第二に、性能の全てが明確にフェニクスを仮想敵として調整されているらしいこと。ギャラルホルンのデータベースにもフェニクスの戦闘履歴は残っている以上、マスティマもそれらを参考にして対策を組み上げているのは想像に難くない。

 

 それが証拠に、フェニクスの”動きの癖”とでも言うべき隙をマスティマは完璧に把握している。機体の運動性能や速度の限界、ジゼルがどういう行動をするかまで完璧にシミュレーションしているのだろう。三百年前と違いフルースへと改装されたことで誤差も生じているだろうに、大した演算性能だった。

 戦闘データをかき集めて膨大な蓄積とし、さらに冷徹無比なAIによって戦闘判断させ、こうして厄祭戦で活躍した存在を的確に追い詰めている。果たしてどんな執念があればこのような事が出来るのか。きっと開発者は些細なデータまですべてを入力し、あらゆる対策を講じられるように調整したのだろう。たった一人の人間を殺すためにここまで出来るなど、大した意志力だと逆に感心までしてしまう。

 

『いえ、むしろそれだけの危機感を抱かせたフェニクスが規格外すぎるだけでしょうか。どちらにせよ、私からすれば勝手にやってろとしか言いようがないですが……』

 

 フェニクスも、このマスティマなる奇妙な敵手も、要するに三百年前から蘇っては勝手に現代で争っているだけの話である。この時代に生まれた彼女からすればはっきり言っていい迷惑でしかなく。どこか他所で思う存分に決着をつけて欲しいと思う所存である。

 なのだが、既にマスティマは無関係な人間を無差別に襲っている。対フェニクス専用のMSにしては一貫しない矛盾した行動だが、ともあれ地球の平和の一角を脅かすならここで無視を決め込むなどあってはならないことだ。

 

 それに──

 

『負けっぱなしのまま、いきなり別の奴に掻っ攫われてしまえば、つまりフェニクスの勝ち逃げじゃないですか……! それだけは絶対にイヤ!』

 

 あまりにも個人的な感情という自覚はあるが、最後はこれに行きつくのである。

 フェニクスに良い思い出なんて一つもない。恩人である髭のおじ様(ガラン・モッサ)を殺害し、火星では手玉に取られ、そして少しの間とはいえ仲間ではあったイオク・クジャンすら狩っているのだ。これで良い印象を持てという方がどうかしている。

 それでも、あの鏖殺の不死鳥に勝ちたいと願うがゆえに。この気持ちだけは本物だから、こんなところでいきなりフェニクスが負けるなど認めたくないのは本当だった。

 

《不甲斐ないな、鏖殺の不死鳥。三百年前もの間、策を練って待ち続けた甲斐がない》

『対策して嵌め殺しを狙ってる癖によく言いますね……!』

 

 加えてもう一つ、微妙に気に入らない事が有る。さっきからジュリエッタも援護くらいは積極的にしているのだが──ジゼルは一向に助けを求めようとはしてこないのだ。どう考えても不利な相手を前に、自分一人で戦いを挑んでは追い込まれている。

 別に彼女が猪突猛進しか能のない馬鹿でないのはジュリエッタも知っている。必要とあらば策を練り、他者の協力を仰ぐこともあるだろう。なのに今回は意固地なまでに単独で戦いに臨んでいた。

 

『とっくの昔に分かっていることですが、あなたではそいつに勝てません! ここは交代すべきです』

『交代したところでジゼルとフェニクスを狙いまわすだけでしょう。それよりかは現状の方がまだ戦いやすいので』

 

 その理由は? やはりジュリエッタが味方として頼りないからか? 悔しいがそれもきっとあると思いながら、別の可能性も即座に思い浮かんだ。すなわち──ジゼルは、他人と連携する戦いに慣れていないのだ。

 鏖殺の不死鳥は圧倒的な性能と才覚により対人間を相手に後れを取ったことがない。それは三百年前も現代においても変わらない。ただ一人の力、ワンマンアーミーですべて事足りてしまったのである。

 だからジゼルには強敵相手に『誰かと力を合わせて戦う』という経験が圧倒的に不足していた。強すぎるが故の弊害、常に一人で対多数の敵と戦うことに慣れ過ぎたせいで、逆に数を頼みに戦う手段が苦手なのだ。

 

 だけどそれは反対なのだ、ジュリエッタと。ジゼルほど突出して凶悪な才能はない代わりに、彼女はまだ他人に合わせての行動を可能とする。エースゆえに単独行動も多いが、それにしたって軍人として最低限度の連携を取れるように仕込まれていた。

 

『つまり、この場で取れる最適解は……』

 

 マスティマは完全にフェニクスへ対策(メタ)を張っており、ガンダム・フレームでも阿頼耶識搭載でもないレギンレイズ・ジュリア単体で相手取るのもまた不可能。であれば、フェニクスと協力して上手く互いの弱みを打ち消して協力するしかない。

 出来るか? いや、出来るかではなくやるしかないのだ。そうでないとこのMAにも匹敵する敵は倒せない。ジュリエッタにしか持ち得ない”強さ”を最大限活かしてこの憎悪の天使を破壊しなければ任務達成にはならないのだ。

 

『やるしかないならやるだけです……! 協力しますよ、鏖殺の不死鳥! 拒否は受けません!』

『え、あ、はい……』

 

 強い口調で言い切った言葉に、初めてジゼルは戸惑いながらも押し切られてしまったのだった。


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