「人間、現実逃避する時に一番筆が進むんだよね」
しかしストックはないに等しい状態です、すみません。
二回戦、開幕……しかし始まらない。
覚悟の器
***
『……君は一人で思い詰めてしまう子だった』
そんな彼女を私は放っておけなかった。
出会ってから、まだ僅かの時間だったのに。
彼女に幸せの形を教えてあげたかった。
けれどそれは傲慢で驕りに満ちた願い。
私が願わずとも、彼女なら自力で得られたはずの未来。
罰なのだろうか。傲慢にも、その「幸せ」が自分であればと望んだことの。
罪なのだろうか。確かな覚悟もなく、彼女の心へ安易に踏み込んだことは。
確かなのはただ一つ。
傲慢で、驕りに満ちた願い。愚かな私がソレを祈ってしまたばかりに、私は君をここまで追い詰めてしまったんだね。
……
………
…………
――旧い夢を見ていたようだ。
誰かの想い、悔いに満ちた想い。夢を見ていた事を忘れてしまいそうなほど、名残りは微かだというのに夢の中の人物が抱いた悔しさだけは心の隅から離れなかった。
……それは、今の自分が抱くモノと似ている感情だからだろうか。
悔恨に満ちた思考は、私を眠らせてくれなかった。意識を失えたのはただの幸運、極度の疲労からくる昏睡だ。だからこうして意識を回復してしまえば、ぐるぐると頭の中を巡る思考が私から眠りという逃避手段を奪っている。
後悔は過去へ逃避し、壊れたように言葉を再生し続ける。それは名を忘れられることを拒んだ少年の言葉であり、死ぬことを恐れて足掻いた自分の言葉であり、そんな自分が殺した八歳の少年の言葉でもあった。
(死にたくない、死にたくはない。けど、それでいいの?)
覚悟を決めろと凛は言った。覚悟はないが死にたくはないと私は言った。それも一種の覚悟だと彼女は言うが、本当にそうなのだろうか。
仮にこれが覚悟ならば、方向は過去へ向いている。前へ進まなければならない自分が、このまま後ろを向いたままでいいのだろうか。
目覚めてから囚われた、答えを見つけられない思考の監獄。その扉を開く鍵を私はまだ持ち合わせていない。
だから、ここから抜け出すには、誰かの援けが必要だった。
「マスター、大丈夫?」
凛とした銀の声に顔をあげる。
顔をあげる、その行為で漸く私は周りを認識した。まだ暗闇に満ちたマイルーム、音楽室を模したセラフで唯一の安息地だ。私はそこで作られた簡易ベッドの上で、自分で身体を抱きしめながら震えていた。
「あ……ランサー……」
窓側のこちらとは逆の位置取りとなる廊下側の壁際へ乱雑に置かれた机と椅子に囲まれて、ランサーは片膝を抱えてこちらを見つめていた。
その静かな湖畔を思わせる瞳に乱れていた心が落ち着かされる。少なくともこの空間には生死が関わる戦いはないことに安堵すると、漸く強張った身体が弛緩した。
「こういった電脳世界では夢を見ないと聞いたけど……随分うなされていたようだ、大丈夫?」
思いのほか、強く自分の身体を抱いていたらしい。傍へ寄ってくれたランサーに手伝ってもらいながら腕を解くと、ドッと疲れが出るのを感じた。
「ごめんね、五月蠅かったかな」
そんなことない、そう言って首を振るランサーは傍にあった椅子を引き寄せると簡易ベッドの横へと腰掛けた。彼女に迷惑をかけていると自覚しているのに、どうしようもなく身体は恐怖に蝕まれ、自分が情けなくなってくる。弱音を吐いてしまう自分を、抑えられない。
「死にたくはなかったけど、殺したくはなかった。都合がいい、自分勝手で、傲慢だ。誰かの遺志を持つことならできるのに、自分の意志を持つことはこんなに重いんだ……全部、投げ捨ててしまいたくなるほどに」
弱音も弱音、聖杯を望む者なら切り捨てられてもおかしくはない言葉。それでも今の自分の本音だった。
「今はそれでいいじゃないかな。マスター、自らの器を超えた覚悟と責任は必ず人を滅ぼす」
「でも現状に適した覚悟と責任がなければ、やっぱり脱落するしか」
「そうかもしれない。けれど、君はその脱落する者には含まれないだろう?」
どうして、という言葉はランサーの視線で塞がれる。彼女が選んだ自分が、何よりもその証拠なのだと。
「思い出してごらん。始まりの選定で、君は苦しくて、つらくて、もう顔を上げなくてもいいと言われた。それにも関わらず、死を拒み、叶わぬとしても抗い進むことを選択した……そんな
取りだした聖盾を掲げて、ランサーはそう宣言した。
過去に選択したものを、変えることはできない。それは後悔ともなるかもしれない、けれど自分の選択の確かな証拠にもなる。真っ白な記録しかなかった私が刻んだ最初の一歩。抗う事を選んだ私を彼女は守るに値すると言ってくれたのだ。
最初に心へ留めておくべきことを忘れていたなんて、余程私は余裕がなかったのだろう。いや、今だって余裕があるとは言い切れない現状だけど、忘れてはいけないものを思い出すことができた。もう自ら深みに嵌まることはできない。
「そう、だね。もう後戻りもできないしね」
「悲観的になるものでもないよ。マスターは白紙の状態だからね、戦いが不可避であるなら、これからの対戦者を通して学んでいけばいい。君にとって彼らは皆、先達なのだから」
確かにそうなんだけど、それをいとも簡単そうに言ってくれるのがこの聖盾の騎士だ。こうも前向きなランサーを見ていると、自分の強張っていた頬が緩んで笑みを形作るのが分かる。
「ランサーは凄いなぁ……」
「褒めてもらっても、残念ながら何も出せないよ?」
苦笑するランサーに、もう充分に勇気を貰っているなんて恥ずかしい台詞は言えなくて、起こしてごめんなさいと急いで呟くと彼女に背を向ける様に布団を被る。少しばかり戸惑った様子だったランサーも、やがて笑みを含めた声でおやすみと返してくれた。
与えてもらってばかりで、私は彼女に何も報いていない。私を守り、そして戦ってくれるランサーの為に、いつかでいい、私にできる事を見つけたかった。
けれど束の間の安息さえ滑り落ちていく手で掴めるモノは、まだ見つからない。
私たちに時を止める手段はなく、明日になれば再び殺し合いのルーチンワークが始まってしまう。
――二回戦。敗者の屍を積み上げて月の最奥を目指す、蠱毒にも似た戦争の第二幕が始まろうとしていた。
***
次からダンさん出てくる……出てくる……自分で書くと勝てる気がやはりしない。
あと一話分か二話分までのストックという
自分で設定考えておきながらそろそろこんがらがってきてパンクしそうです怖い。矛盾ないようにしたいです、ほんと……