変に長くなったので一日目は二つに分けます。
2014/04/30……遅まきながらこの後の話と多少の矛盾になりそうな部分を訂正しました。
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『二回戦 対戦者:ダン・ブラックモア 決戦場所:二の月想海』
掲示板に張られた対戦者の名前を見上げることで、二回戦が始まってしまった事を改めて実感した。対戦者の名前からして男性、レオのような外国人なのかと周りを見てみると、一人の男性と視線が絡み合う。
第一印象は、森の大樹。彼は幾多もの経験を重ねただろう老齢の外見でありながら、老いも衰えも感じさせず聳え立つ大樹のようだった。
『……彼が、ダン・ブラックモアなのだろう』
ランサーの言葉に私は小さく頷く。彼が次の対戦者なのは目があった瞬間から、彼から大きなプレッシャーを感じて動けなくなっている自分の身体も明らかと語っている。
「その様子からして実践もこなさず此処へ来たとみた……そのうえ、迷っているな?残念だが、迷いを抱いたまま立てるほど、この戦争は甘くないぞ」
自分の弱さを指摘されても、言い返す言葉を思いつくことができない。
「その弱さ、どのように成長させるかは君次第だ……それでは、戦場でまた遭おう」
揺らぐことない瞳でこちらを一瞥すると老齢の戦士は踵を返す。その姿が完全に見えなくなってから、後ろにいたランサーが霊体化したままで話しかけてきた。
『彼は、掻い潜ってきた戦場の数が他の参加者とは違うね……本物の戦士だ。今回は一回戦と同じだと思わない方がいいだろう』
「うん……それに一回戦は運に恵まれ過ぎていたから。ここから再スタートだと思って臨むよ」
『しかし相手が歴戦の戦士であるというのなら、逆に言えば君は彼から多くの事を学べるともいえる。学ぶことさえやめなければ、なんとかなるだろう』
相変わらずの全てを受け入れたように達観した彼女の思考回路には憧れる。
それでも彼女の言う通り、学ぶことをやめてしまったら自分はこの戦場から取り残されてしまう。そんな進み続けるのをやめてしまうことだけはしたくなかった。
「まず、相手のサーヴァントより相手自身のことを調べてみてもいいかもしれない」
『それは名案だ。しかしどうやって?』
「ええと……それは」
さてどうしようかと頭を傾げてみると、視界に赤い影が横切った。
「あ、凛!」
つい反射で呼びかけてしまうと、階段へ向かいかけていた彼女は見るからに不機嫌そうな表情を浮かべながらも振り向いた。そう言えば自分、思いっきり彼女に啖呵をきってましたね、どうしよう。
「これはこれは、いかがいたしましたか?私はとっても忙しいのでご用がなければ呼び留めないで頂けます?」
御嬢様口調で青筋を浮かべられるととても怖いです、遠坂さん。けれど彼女はちらりと掲示板を見やると、私の対戦者名に片眉を上げた。
「次の対戦相手はブラックモア卿って、貴女とことんツイてないわね」
「凛は彼のことを知ってるの?」
「知ってるも何も、サー・ブラックモアといったら有名人よ?寧ろ知らない方がおかしい……そうか、貴女はまだ記憶喪失だったんだっけ」
ご愁傷様、その言葉を別れに片手を上げて再び階段を上ろうとした凛の手を慌てて掴む。
「同情するなら情報ください!」
『そこは確か金をくれ!じゃなかったけ?』
「何言ってるの、このサーヴァント。びた一文だってあげるもんですか!」
「そこに過剰反応しなくても……それで、凛。少しでも皆との差を埋めたいんだ。基本的なものでいいから教えてくれないかな」
教えてくれるまで絶対に放すもんかと必死に彼女の手を掴んでいると、凛は観念したかのように嘆息した。
「……ブラックモア卿は現役を退いたとはいえ、名のある軍人よ。それこそ、とある王国の女王が信頼する程のね」
凛曰く、彼は狙撃手として他の軍人とは一線を画す存在だったらしい。下手したら私も彼に狙われてたかも、なんて物騒なことを言いながら凛は彼の実力が本物であることを説明する。聞いただけで胃に穴が開きそうな対戦相手と自分を比べてどうしようもない無力さを感じてしまう。
「まあ、ざっとこんなものかしら。貴女のサーヴァントがいかに強力な宝具を持っていたとしても、マスターとの差で確実に殺されるでしょうね」
「自分が無力だってことぐらい判ってるつもりだけど、これはきついなあ……って、宝具?」
なんですか、それと言いかけて慌てて口を噤む。ありえないものを見たような顔の凛に、一回戦が始まる前に桜が説明してくれたものをなんとか思い出したのだ。
――宝具。それはサーヴァントである英霊が英雄たる所以、彼らの伝説が象られたモノ。あの
しかし正直な話、ランサーの基礎値を取り戻すことに必死でその存在は記憶の隅に追いやられていた。
「ありえない……貴女、宝具を使わずにあのエル・ドラゴに勝ったというの?」
絶句した表情からなんとか顔を動かしてつぶやいた彼女の言葉に、その通りだと頷き返す。
「つまりサーヴァントの力を完全に使わず?魔術回路は未熟もいいところなうえに基礎知識零で、なんでマスターになれたか不思議でしょうがない一回戦敗退が当たり前の貴女が、あのシンジに勝った?」
「酷い言われ様だけど、私が此処にいることが勝ったって証拠にはなるでしょ」
というか、勝ってから凛には色々と手ひどく言われた記憶しかないのですが、何故に今更確認しますか。
「え、いや、私はてっきり貴女のサーヴァント……ランサーだっけ?彼女の宝具が桁違いに強力なものだから、それを頼りに無理矢理シンジに勝ったのかと思っていたわ」
宝具どころかスキルさえも使いこなせていないなんて言ったら、凛は卒倒するだろうか。少し試したくなったけれど、後が怖いし色々と教えてもらった手前、今は彼女をからかうタイミングではないだろう。
「ふーん、ちょっと見直したかも。いえ、まだまだ甘いし覚悟もないみたいだし酷い状態なことには変わりないけどね。それでもあのブラックモア卿を貴女が倒してくれる可能性にほんの少しは賭けてみてもいい気分にはなったわ」
「凛は相手の心を折りにくるのが得意だね……まあ、ご期待に添えるようにはしたいよ。私だって、何も持たないままじゃいけないってことぐらいは分かっているから」
問題は、その持つべき覚悟をどうやって掴むべきか。今回の対戦で、ランサーの言う通り、ブラックモア卿から学ぶことが出来ればいいのだけれど。
「それじゃ、私はもう行くわ。貴女の事ばかりにかまけていられるほど、私にも余裕はないの」
その言葉に彼女をこれ以上この場に留めておくわけにもいかず、ありがとうと感謝だけ伝えると、凛は後ろ向きのままヒラヒラと手を振ってこたえてくれた。
そうして残された私とランサー。二人きりの状態であることを確認すると、私は小さく彼女へ質問を投げかける。
「ランサー、そういえばあなたの宝具って何なの?」
『ようやくその質問をしてくれて嬉しい限りだけど、残念ながら私に宝具はないよ』
「………え?」
今のは聞き間違いだろうか。ギギギ、と壊れたブリキのおもちゃのように不自然な動きで後ろを振り返ると、実体化したランサーがとてもいい笑顔で答えてくれた。
「残念ながら聞き間違いではない。宝具に該当するものといえば、私が使っているこの聖盾がそうなのだろうけど、知っての通り、今はほとんどの機能を扱えない状態だからね」
思わず、頭を抱えてうめきたくなる。
彼女が万全ではないことは、重々承知のはずだったのに、やはり切り札があると思った矢先に否定されるのはかなりこたえた。
「聞き間違いだったらよかった……そういえば忘れてたけどランサーはイレギュラーなんだっけ……」
『サーヴァントの私が例外だからマスターもそうなのか、あるいはその逆か。どちらにしろ、仮にこの聖盾の力をすべて使える状態だとしても、今のマスターでは使いこなせないだろう?』
再び霊体化したランサーの言葉が正論すぎて、肩を落として頷くしかなかった。
『だったら現状は変わらない、私たちはやるべきことを一つずつこなしていこう。約束するよ、力を取り戻したあかつきには持てるもの全てを余さず、君の為に披露しよう』
一つずつ、一つずつ。進む先に何があるかは分からない。それでも進むしかなくて、まずはポケットから鳴り響く暗号鍵生成の連絡を受けたなら、アリーナへ向かうことにしよう。
……宝具云々はさておいて、まずは彼女の能力を十全にしなければならないのは確かなのだから。
***
少しでも早く、そう思ってアリーナの入り口である一階の廊下へ向かった私の足を止めたのは廊下の奥から聞こえる話声だった。誰かがアリーナへ向かう途中なら、間を置いたほうがいいのだろうかと角で立ち止まってみると意外にも話声のうちの一つは聞き覚えのあるものだった。
「……いいか、油断するな。独断も予断も許される状況ではない」
声の主は二回戦の対戦相手、ダン・ブラックモアだ。
そうなると、話し相手は彼のサーヴァントなのだろうか。声の質からすると随分と若く、姿は見えないがブラックモア卿とは親と子供ほど年齢が違うかもしれない。
「わぁってますよ、そんなに言わなくても。どんな相手であろうと、手加減なしでいつも通りシンプルにぶっ殺せばいいんでしょ」
「いつも通り、が何を指すのかによるな。この戦争では連携が重要となってくるのだ、前回のように独断による行動はするな。指示に従え……これは勝つだけでは許されないのだ」
「単独行動スキルがあるサーヴァントに対して、それ言いますかね。ま、いいんですけど?さっさと行きましょうぜ、耳にタコができちまう」
言い争いは彼らがアリーナへ入る直前まで続いていた。気配が消えてからようやく私たちも隠れていた廊下の角から出てアリーナの入り口前に立つ。
『うーん……もしかしなくても、あちら側は意見の食い違いという壁があるみたいだね?』
「うん、声を聞くだけでも判るぐらいって相当だよなぁ」
こちらが宝具を使用できないという問題を抱えているように、あちら側の陣営も順風満帆というわけではなさそうだ。それでハンデがなくなったと思えるほど楽観的になる余裕はないが、完璧な存在と立ち向かうわけではないと判っただけでも進歩だろう。
「せめて、連携だけでも私たちは勝とうか」
『その意気だ、マスター』
いや、他人行儀じゃなくてランサーも頑張って欲しい。そう言おうか迷ったけれど、ランサーは自然体が常なのだから今更なにか意気込まれても逆に違和感を覚える。
変に気負わずいつも通りが一番だと自分にも言い聞かせて、ブラックモア卿が先に消えたアリーナへと私たちも踏み入れた。
***
宝具は使えず、パラメーターもD~E程度のサーヴァント……と書くと勝ち残れる気が全くしないけどザビーズはやり通したと思うと尊敬の念を抱く。
彼らに負けないよう頑張らなきゃ、と現実逃避です。
次回には、はかせないあのひとを登場させてそろそろ物語を動かしたいです