また少しずつイベントがずれて発生していたりします。あとそろそろメルブラ成分も増やしたいところ。
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五感をシャットダウンされてからの再起動、再構成、再認識。
両足が床を踏みしめて此処にいるのだという感触を漸く掴む。一回戦の第二層のような確かな風景はなく、第一層へ戻ったような無機質さが溢れる空間だが、エネミ―の気配は一回戦のものよりも凶悪になっているようだった。
以前よりも気をつけなければ、と一歩踏み出した瞬間に、私とランサーはソレを感じとる。
それは予選会場の様なデジタル故の清潔さに満ちた空気ではなく、確かな意識を持って纏わりつく空気だ。
――動け。動かなければ、この空気は私を獲り殺す。
本能が生命の危機を叫ぶのに、身体まで伝わらず、硬直したまま、私の身体は何かに蝕まれていく。息苦しく、ジワジワと、生命が削られていく……!
「マスター、気をしっかりと持つんだ」
凛と響く、銀の声。静かでも心に溶け込むその声に身体の自由が取り戻された。我に返った途端に、この空気の危険性を改めて肌で感じる。
「うん、ありがとう……ランサーは平気?」
「この聖盾はあらゆる不浄を弾く秩序の具現、盾の能力は下がってしまうが私への害はない。しかし、アリーナ全体に広まっているな……どう考えても毒性のものだし、長居は無用。敵の攻撃だとしても、これほどまでの広域に及ぶものなら何処かに基点があるはずだよ」
「じゃあ、それを破壊できればこの空気はなくなる?」
「正解。エネミ―は避けつつ、まず先にそこを目指そう」
ランサーの掛け声と共に走りだす。一回戦の時よりも若干複雑化されている構造でも、ランサーの誘導のもとで上手くエネミ―を避けながら先へと向かう。そうしているなか、走りながらで構わないと前置きしながら、ランサーが話しかけてきた。
「敵側のサーヴァント、クラスはなんだと思うかい?」
「うん……毒を使うって特徴だけで判断するのは難しいけど、単純に考えるならアサシンなのかな」
「暗殺者か、有力な候補だろうね。一回戦の対戦相手は正々堂々としていたけど、今回の相手は絡め手が得意みたいだ」
「正道だろうと、外道であろうと強敵なのは変わりないから困るよ。でもこんなに大きな攻撃なら宝具の使用だろうし、相手を知ることが出来たと思えばいいのかな」
「その通り、外道相手では手の内を知った分だけ有利になる。敵の先制を許してしまったが、そう思えば割りと……待って、マスター。彼らの声がする」
奥に進むにつれて、空気の攻撃性が高まっていくなか何度目かの角を曲がろうとした時、ランサーが足を止めて私たちの進行を制止した。
半透明の壁では自分たちの位置を知られてしまわないか、不安ではあったけれど、どうも先に来ていた二人組は言い争いで周囲が見えなくなっているらしい。
静かに溶け込むランサーの声とは真逆の、静かでも奥へ響く低い声が、先程出会った時よりも苛立ちを隠さずに話し相手を糾弾していた。
「これはどういうことだ、この攻撃を許可した覚えはない」
「どういうことって、そりゃダンナの為の一手ですぜ?決勝まで待つなんて悠長なことをしないで、今ここであいつらが勝手におっちぬようにした方が楽でしょうに」
「お前は……死肉を漁る禿鷹にも一握りの矜持を持つというのに」
入り口では確認することが出来なかったブラックモア卿のサーヴァントは緑衣に身を包んだ青年だった。鳶色の髪に隠れた顔は甘いマスクの二枚目だが、その瞳には何処か諦めと卑屈を纏っている。そんな彼は呆れたように吐き捨てたブラックモアの言葉を柳に風といったように受け流した。
「はっ、矜持ねえ。矜持とか、誇りとか、そんなもんで勝てるなら楽勝最強、万々歳だ!……でも俺はそんな域の人間じゃないんでね、毒できっちり殺すリアリストなんすよ」
「……なるほどな、条約違反に奇襲、裏切り。そういった策に頼るのがお前の戦い方なのだな」
深い、深いため息をつく。そこに何が含まれているのか、侮蔑か、呆れか、あるいは自身への戒めか、遠目に見る私たちからは判断できない。
「今更、結界を解けとは言わぬ。だが分かっているな、次に信義にもとる行為をした場合は――」
「へいへい、肝に銘じておきますよ」
リターンクリスタルを使用したのか、通路の先にいた二人の気配が瞬間的に消え去った。
毒の気配は未だに残っているが、先程まで感じていたピリピリとした殺伐さは彼らと共に消えている。彼らに見つからなかったのも、会話を盗み聞きできたのも幸運だが、まずは結界の基点を見つけなければいけない。
「見つけた、あの樹が基点だね」
ブラックモア卿たちがいた場所から少し進んだ行き止まりの通路にそれは在った。毒の中心だからこそ、他の場所とは比較にならない濃い死の薫りが充満しているなかで青々と葉を茂らす特異な大樹。
「マスターは少し離れていて」
盾を構え、息を止めたランサーは、力を込めて一気に大樹を貫き抉った。
彼女の一撃に耐えられるはずもなく、大樹はボロボロと崩れていき、身体を侵す空気と共に消え去っていく。樹がなくなった途端に呼吸が楽になるのを感じたので、アレが結界の基点で間違いなかったのだろう。
「とりあえず、なんとかなったかな」
「ありがとう、ランサー……それはなに?」
「これ?攻撃した後にも残っていたものだよ。彼が結界を創るときに使用した触媒なのかもしれない」
そういって手に持った小さなものをランサーは見せてくれた。毒が残っていないか不安だったけど、彼女が平気そうなのを見てこちらもじっくりと観察する。
それは、随分と古びた鉄器だった。掌に収まる程度の大きさで、長く使い古されているのが一目でよく分かる。
「おそらく、彼の獲物は弓だろう」
ランサーの言葉に首肯する。彼女が手に持ったそれは、確かに鏃に違いない。
「でも弓使いとなると、アサシンだけでなくアーチャーも相手のクラスとして考慮するべきだよね」
「そうなるね、どちらにせよ二つとも単独行動や諜報に向いたクラスだから、今まで以上に気をつけた方がいい。下手したら、校舎内だって油断してはいけなさそうだ」
やれやれとでもいうような軽い口調で重い事実を語るランサーの胸中が理解できなかった。こんなにも平然としていられるようになるには、一体どれだけの修羅場をくぐりぬけたらいいのだろう?まだ殺し合いを一回経験しただけで精神が参ってしまった自分では、とてもじゃないけれど彼女とつりあいそうになかった。
ちらりと表情を窺うと、ランサーは自然体で遠くを見つめていた。それでも戦闘に一度入れば凛々しく盾として、矛として戦うのだ。思わず頼りにしてしまうその凛々しさに依存しすぎないよう、自分に言い聞かせてから彼女へ声をかける。
「折角だし鏃は持ち帰るとして、相手が確実にいないんだから
「了解した、マスター。君に見合う力になれるよう、私も気を引き締めるとしよう」
「いやもうランサーには充分力になってもらってるから。そんなキラキラした目がつらい」
私の提案に同案してくれたランサーの笑顔が眩しい。これ以上、頼りにしちゃったらこちらが困るというものなんです。
***
無事に
『そろそろ身体を調整したい……』
「整体は素人が手を出したら逆効果になりそう……桜ならやってくれるかも」
『それは名案だ、機会を見つけたら是非ともお願いしよう』
「支給品もまだ貰っていなかったし、早めに保健室へ行こうか」
探索を終えた者や教会へ改竄に向かう者、購買へアイテムを購入する者。多くの参加者が行き交う、校舎内で最も賑わう玄関口に霊体化したランサーと雑談を交わしながら差しかかった。
此処では少しだけ、通りすがる人数が減っただけでは説明できない殺伐さが一回戦の時よりも肌に伝わってくる。
この場にいる全員が、不戦勝もあるとはいえ人一人の命の上で成り立っている存在なのだ。願いを記憶と共に失ってしまった自分と違い、彼らは一体どんな願いを持って、其処にいるのだろう。
まともに会話したことのある顔見知りは凛を含めて数人しかいないため、それを聞いて回るのも腰が引けた。凛にそんなこと言ったら、その暇があるくらいなら鍛錬しなさいと叱られそうでもある。
「というか、絶対に怒るだろうな」
『でも気心が知れた友人に叱られるというのも慣れてくると、なかなか可愛く感じてくるものだよ?それだけこちらの事を心配してくれているのだから』
「凛の場合は、私が心配なんじゃなくて自分の信条に従っているだけだと思うけどね……それよりランサー、もしかして怒られ慣れてるの?」
意外な一面に思わず振り返ると、霊体化していて目に見えなくとも彼女が僅かでも慌てたことが感じ取れた。
『あー、私の友人がちょっとばかり几帳面というか生真面目というか計算大好きな子でね。仲良くなるまでは非効率だのなんだのって叱られていたんだ。うん、気心知れた後でもよく叱られてはいるけど』
「なにもそんなに慌てなくても。その人って、前に話してくれた?」
以前、その人と私には似ている部分があると自然な笑顔を見せてくれた事を思い出す。正確には、きっと私が似ているのではなくて私の行為がトリガーに彼女の事を思い出しただけなのだろうけど、ランサーが随分とその友人について誇らしく語っていたので鮮明に記憶は残っていた。
『ああ、そういえば話していたね。まあ、互いにあまりに違う環境で育ってきたのだから、すれ違うことは仕方ない』
それでも私は彼女と仲良くなりたかった。そう言うランサーの顔は見えず、声で感情を判断するしかない。彼女にしては随分と色々な感情が混ざった音色に、音を構成する繊維の一本ずつに感情が織り込まれているのではないかと錯覚してしまう。
「でもランサーと友人だったということは、その人もタダモノじゃない?」
『うん、中々遠慮ない言葉をどうも。私は兎も角、彼女が凄い娘だったことは事実だから否定できないな』
イレギュラーとはいえ、サーヴァントとして敵を屠る彼女は一般人代表としてタダモノではないと言いたい。それでも、今はランサーよりも彼女の友人に興味を持った。
珍しく彼女も饒舌で、どこか得意げに話すのを、姿が見えないこともあって聞くことに集中し過ぎてしまったようだ。
油断していた、そういえるかもしれない。
たとえ外は海色の空だとしても、体感時間では既に夕刻を過ぎている。それは遥か昔から東国では逢魔ヶ刻……出逢ってはいけない存在と縁を結んでしまう時刻なのだから、気をつけなければいけなかったのに。
『彼女は知り合った頃、他の誰よりも期待されていた――あの、巨人の穴倉の』
ランサーの声が不意に止まるのと、肩に軽い衝撃が与えられたのは、ほぼ同時の事だった。
前方不注意だったことに羞恥を覚えながら、何にぶつかったのだろうと視線を移す。
――ソレは、人形であり、人だった。
揺れる紫紺の髪に、褐色の肌を惜しげなく露出させた服装。その容姿はあまりに形が整い過ぎていて、なにより、表情と仕草に機械を思わせる無機質さが滲んでいて、彼女へ違和感を纏わせていた。
「ごきげんよう、この様に直接対話を試みるのは初めてですね?」
玲瓏たる鈴の音を思わせる美しい声が少女の口から紡がれた。ほんの僅かだが礼儀を心得た動作から人間らしさを見出せたことに安堵する。
本当なら、その時点で彼女の異質さに気がつくべきだった。まだ状況を把握しきれていなかった自分は、安心を得る事を優先してしまって、だからこそ、
「……シ、オン?」
鈴の音が、目の前にいる褐色の少女からだとしたら、この調律された弦楽器の音色は、聞き間違うはずもない。たとえ狼狽に満ちて震えていたとしても、自分の背後にいるランサーのものに他ならなかった。
怪訝に思いながらも彼女が居るだろう空間へ振り返ると、思わず私はありえないモノを見た反動で固まってしまう。
いつの間に霊体化を解いたのか、ランサーはまるで床を踏みしめることで現実も確かめているようだ。今まで彼女が浮かべた事もない喜怒哀楽全てが混ざった表情で、今まで聞いたことのない安心と信頼に満ちた声で、彼女は
「シオン……?いいえ、私の名前はラニ――あなた方を巡る星について、一つの提案を提示します」
ぱんつ はかせ ない。
このラニは履いてるのでしょうか。
彼女の鯖もなんか履いてなさそうな気がしないでもないです。
彼女の扱いが一番厄介な気もしますが、慎重に進めていきたいと思います